p.1131 疾病トハ、身體ニ異状ヲ生ズルノ名ニシテ、主トシテ疼痛苦惱ヲ感ズルヲ謂フ、故ニ亦イタミトモ、ナヤミトモ云フ、而シテツヽガト云フハ、疾病ノ愼ムベキヨリ出デシトモ云ヒ、或ハツヽガト云ヘル蟲アリテ、人ノ心ヲ食フト云フ傳説ニ基ケリトモ云ヘリ、又中世以來、疾病ヲ歡樂ト云フ事アルハ、死ヲナホルト云フノ類ニテ、原ト忌諱ニ出デタリト云フ、
疾病ノ數ハ甚ダ多クシテ、古來四百四病ナドヽ稱スレドモ、一箇ノ疾病ニ對シテ、其病症ノ經過ニヨリテ、一々別病名ヲ附シタルモノモ甚ダ多シ、大寶令ニハ、疾病ノ甚シキモノヲ擧ゲテ、殘疾、廢疾、篤疾ノ三種トナセリ、是レ口分田、及ビ兵役、調庸等ノ關係上ヨリ分類セシモノニシテ、古代ノ戸籍ニハ、詳ニ之ヲ載スルヲ見ル、
凡ソ人疾病ニ罹レバ、古來親戚知人之ヲ訪問シ、官吏ハ暇ヲ賜ヒ、醫藥ヲ給スル等ノ制モアリキ、而シテ又看病ハ、朝廷ニ在リテハ、舊クハ多ク僧尼ヲ以テ之ニ充テタリ、〈看病ノ事ハ、醫術篇ニ詳ナリ、〉サテ身體各部ノ病症ニ就キテ考フルニ、頭部ノ病ニハ頭風、頭痛等ノ名アリ、又胸ノ病ト云フコト多ク古書ニ見ユ、蓋シ肺病心臟病ノ類ナラン、而シテ肺病ハ、古來頗ル多カリシト見エテ、之ヲ古書ニ見ルコト甚ダ多ク、其種類ニ傳屍ナド云フモノアリテ、其病ノ遺傳ト傳染トニ出ヅルモノアルコトヲ示セリ、又腹ノ病、腰ノ病ト云フコトアリ、腹ノ病トハ、蓋シ疝癪、
癥瘕( カメハラ) 、其他胃腸ニ於ケル諸病ノ名ニシテ、今ノ謂ユル消化器病ノ事ナラン、又脚病ト云フコトアリ、是レ脚氣脚痛等ノ總稱ナルベシ、
又皮膚ニ發生スル疾病アリ、通常之ヲカサト云フ、又癰疽ノ如キ腫物類ヲモ、廣クカサト云ヘリ、其類甚ダ多シ、癰疽、丹毒瘡ノ如キハ、頗ル難治ノ病ニ屬シ、人面瘡ノ如キハ、奇疾ヲ以テ著ハル、又ニキミノ名ハ、後世ハ、單ニ面皰瘡ノミヲ稱スレドモ、中世ノ書史ニ見ル所ノニキミ即チ二禁ト書スルモノハ、多ク難治ニ屬スル瘡類ヲ指セルモノニシテ、之ニ因リテ死亡セシモノ、往々之レアルヲ見ル、
黴毒ノ起原及ビ傳來ニ就キテハ、古來未ダ確説ヲ得ズ丹波庸賴ノ醫心方ニハ、陰部ノ病ニ陰瘡、妬精瘡ナド稱スルモノ見ユレド、之ヲ黴毒トハ認ムベカラズ、梶原性全ノ頓醫抄ニ玉莖疾病、玉門疫病ナル病名ヲ載ス、蓋シ疫病トハ、傳染病ノ義ニシテ、或ハ黴毒ナラントノ説アリ、而シテ永正年間流行セシ所ノ唐瘡、琉球瘡ナルモノ、其症候稍黴毒ノ一種ト認ムルコトヲ得ベシ、德川幕府時代ニ至リテハ、通常黴毒ヲ 唐瘡( トウガサ) トモ單ニカサトモ云ヘリ、但シ當時ノ醫書ニハ、黴毒ヲ三別シテ楊梅瘡、下疳、便毒ト稱シタルモノヽ如シ、淋病ハ、古今其名ヲ同ジクシテ其實ヲ異ニスルモノアリ、即チ古ノ淋病ハ、シバユバリト稱シテ、小便ノ出ヅルコト數多ク、若シクハ快ク小便ヲ通ジ得ザル病症ノ總稱ナリ、而シテ後世ハ專ラ黴毒性ヨリ來ル濃淋ヲ淋病ト稱ス、又古ク石淋ト稱スルハ、小便ノ膀胱中ニ結石シタルモノニシテ、即チ今ノ膀胱結石ヲ謂フ、又痟
ハ渇シテ水ヲ思ヒ、而シテ快ク小便シ得ザル病ヲ云ヒシガ、後世ニハ、專ラ婦人ノ黴毒性淋病ヲ痟 ト稱スルニ至レリ、蓋シ痟 ニハ、三痟ト云ヒテ、三種ノ痟 アリ、而シテ其内ノ腎痟ハ、其徴候頗ル濃淋ニ類スル所アルニ因ルナラント云フ、又一時ノ流行ニ出ヅル疾病モ甚ダ多シ、而シテ古昔ハ醫術未ダ開ケズ、隨テ流行病ノ如キ、
其性質ヲ詳ニスルヲ得ズ、之ヲ疫病即チエヤミト稱シ、或ハ時疫即チトキノケトモ稱シ、其病原ヲ惡神ノ祟ト爲シ、之ヲ攘フヲ以テ、預防免疫ノ主ナル方法ト爲セリ、流行病ノ内、傷寒、痢病等ハ、其流行甚ダ舊シ、痘瘡ハ古クハモガサ、又ハイモガサ等ト稱シ、或ハ其形状ニヨリテ、豌豆瘡トモ呼ブ、 赤斑瘡( アカモガサ) ハ、後世ノ麻疹即チハシカニシテ、其病状略ボ痘瘡ニ似タルヨリ此名アリ、而シテ後世ノ流行傳染病ニシテ、其病毒ノ劇甚ナルモノヲ 虎烈刺( コレラ) 病トス、虎烈刺病ハ、文政五年ニ流行セシモノヲ以テ始トシ、次ニ安政五年ニ非常ノ流行ヲ極メ、死者十數萬人ニ及ブ、而シテ文政度ニ在リテハ、醫師未ダ全ク其病性ヲ詳ニセズ、安政度ニ至リテハ、既ニ其病性ヲ知リシモ、豫防、消毒、治療ノ方法等、未ダ大ニ悉サヾル所アリテ、甚ダ慘状ヲ極メタリ、而シテ第三回ノ流行ハ、文久二年ナリ、又、 百斯杜( ペスト) ハ、安政中、蝦夷ノ地方ニ流行セシコトヲ傳フルモノアレドモ、實否ハ未ダ詳ナラズ、
又人身ニハ之ニ寄生スル蟲アリト云ヒ、其種類ヲ九蟲又ハ三蟲ニ分チ、殊ニスバク蟲ノ事ニ就キテハ、古書之ヲ傳フルモノ甚ダ多シ、又人體ノ九竅ヨリ出血スルハ、皆一種ノ疾病ニシテ吐血、下血、衂血等其名甚ダ多シ、
癩病ハ古クヨリ遺傳ト傳染トヲ兼ヌル不治ノ難症ト稱セラレ、尤モ人ニ嫌惡セラル、故ニカタイ又ハ天刑病ナドノ名アリ、又白癩ハ世ニ白山カタイト稱ス、亦癩病ノ一種ト思意セラレ、大寶令ニハ之ヲ篤疾ト爲セリ、
又風病ト云フモノアリ、是レ單ニ感冒ノコトノミニ非ラズシテ、其他種々ノ慢性病ヲ包含セルモノヽ如シ、風病ノ類ニ、咳病、 瘧病( ワラハヤミ) 等アリ、瘧病ハ、即チ後世ノオコリナリ、又古代ニハ風病ヲ一ニ中風ト云ヘリ、而シテ中風ニハ、別ニ身體不仁、若シクハ半身不隨、四支不屈伸等ノ徴候ヲ呈スルモノアリテ、後世 中風( チユウブ) ト云フモノ是レナリ、此他寒暑濕氣等ノ毒ニ中リ、若シ
クハ飮食ノ毒、及ビ狗、鼠、其他動物ノ毒ニ中リテ疾病ト爲ルモノアリ、此他婦人ニハ、殊ニ長血、白血、乳癰、乳岩等ノ疾病アリ、小兒ニハ痞病、疳、驚風、百日咳等ノ疾病アリ、
〔伊呂波字類抄〕
〈也病瘡〉
p.1134 病〈ヤマヒ、憂也、苦也、〉 
レ〈亦作痾〉 痊 疾 疽 疚 懼 瘁 痛 瘏 瘴 痱
疧 
悼 癲 患 痡 瘉 
レ〈亦作
〉 
瘼 痗 瘵 屠 
挭 閔 
毒〈已上同〉
〔續後拾遺和歌集〕
〈十七雜〉
p.1134 やまふ( ○○○) にわづらひけるが、すこしおこたりて侍ければ、〈○中略〉
仁和寺二品法親王守覺
まよふべきやみをばしらではかなくもきりのたえまと思ひけるかな
〔倭訓栞〕
〈前編三十四也〉
p.1134 やまひ 倭名鈔に疾病をいふ、止の義也といへり、齋宮忌詞にも、病をやすむといふと見えたり、續後拾遺集に、やまふにわづらひけるとも見え、今も西偏にやまふともいふ、まひ反み、まふ反む也、後撰集に、足びきのやまひはすともとよめり、
〔伊呂波字類抄〕
〈伊病瘡〉
p.1134 㾨〈イキタハシ〉
〔古事記〕
〈中神武〉
p.1134 故天神御子、問下獲二其横刀一之所由上、高倉下答曰、已夢云、天照大神、高木神二柱神之命以、召二建御雷神一而詔、葦原中國者、伊多玖佐夜藝帝阿理祁理、〈此十一字以レ音〉我之御子等 不平( ○○) 坐良志、〈此二字以レ音〉其葦原中國者、專汝所二言向一之國、故建御雷神可レ降、爾答曰、僕雖レ不レ降、專有下平二其國一之横刀上可レ降、 W 古事記傳
〈十八〉
p.1134 不平は 夜久佐美( ヤクサミ/○○○○) と訓べし、此言の意は未よくも得ざれども古言なるべし、書紀 神代上卷に、須佐之男命の荒び坐る處に、日神擧體不平と見え、〈私記には耶須加良須と訓り〉天武卷に、朕身 不和( ヤクサム) と見ゆ、〈是天皇の御病したまふを詔へる御言なり〉今も荒神の氣に遠延腦坐ことを詔へるなれば、事の趣同じ、
〔日本書紀〕
〈二十九天武〉
p.1134 朱鳥元年六月甲申、遣二伊勢王及官人等於飛鳥寺一、勅二衆僧一曰、近者朕身 不和( ヤクサム/○○) 、願賴二三寶之威一、以二身體一欲レ得二安和一、是以僧正僧都及衆僧應二誓願一、則奉二珍寶於三寶一、
〔續日本紀〕
〈十二聖武〉
p.1135 天平九年七月乙未、大二赦天下一、詔曰、比來綠レ有二疫氣多發一、祈二祭神祇一獨未レ得レ可、而今右大臣、〈○藤原武智麿〉 身體有レ勞寢膳不レ穩( ○○○○○○○○) 、朕以惻
、可下大二赦天下一救中此病苦上、自二天平九年七月二十二日昧爽一、以前大辟罪已下咸赦二除之一、其犯二八虐一、私鑄錢及強竊二盜、常赦所レ不レ免者、並不レ在二赦限一、
〔續日本紀〕
〈十八孝謙〉
p.1135 天平勝寶三年十月壬申、詔曰、頃者太上天皇〈○聖武〉枕席 不レ穩( ○○) 、由レ是七ケ日間、屈二請四十九賢僧於新藥師寺一、依二續命之法一、設レ齋行レ之、仰願二聖體平復寶壽長久一、經云、救二濟受苦一、雜類衆生各免レ病延レ年、是以依レ敎大二赦天下一、但犯二八虐故殺人一、私鑄錢、強竊二盜、常赦所レ不レ免者、不レ在二赦限一、
〔續日本紀〕
〈二十二淳仁〉
p.1135 天平寶字四年四月丁亥、仁正皇太后遣二使五大寺一、毎寺施二雜藥二櫃蜜缶一口一、以二皇太后〈○孝謙〉 寢膳乖一レ和( ○○○○) 也、
〔上宮聖德法王帝説〕
p.1135 法興元世一年、歳次辛巳十二月、鬼前大后崩、明年正月廿二日、上宮法王枕病、 弗レ悆二于食一( ○○○○) 、王后仍以勞疾並著二於床一、〈○中略〉
右法隆寺金堂坐釋迦佛光後銘文如レ件〈今私云、是正面中臺佛云云、〉
〔古京遺文〕
p.1135 藥師寺東塔檫銘
維淸原宮馭宇天皇即位八年、庚辰之歳、建子之月、以二中宮 不悆一( ○○) 、創二此伽藍一、而鋪金未レ遂、龍駕騰仙、〈○中略〉
右刻在二藥師寺東塔刹柱上一、隅東奈佐先生有二檫銘釋一、精核可レ喜、按淸原即淸御原、當時文人厭二冗長一、删二御字一者、
〔續日本紀〕
〈十八孝謙〉
p.1135 天平勝寶四年正月己丑、地動、是日度二僧九百五十人、尼五十人一、爲二太上天皇〈○聖武〉 不悆一( ○○)也、
〔續日本紀〕
〈三十四光仁〉
p.1135 寶龜八年十二月壬寅、皇太子〈○桓武〉 不悆( ○○) 、遣レ使奉二幣於五畿内諸社一、
〔三代實録〕
〈三十二陽成〉
p.1135 元慶元年八月己巳、天皇聖體 不豫( ○○) 、十一日己卯、延二屈名僧一、於二淸凉殿一始二修法一、限二七日一訖、以二天皇聖體 乖豫一( ○○) 、未レ就二平善一也、
〔皇大神宮儀式帳〕
p.1136 亦種々〈乃〉事忌定給〈支、○中略〉病〈乎〉慰〈止〉云、
〔延喜式〕
〈五齋宮〉
p.1136 凡忌詞、内七言、佛稱二 中子一( ナカコ) 、〈○中略〉外七言、死稱二 奈保留一( ナホル) 、病稱二 夜須美一( ヤスミ/○○○) 、〈○下略〉
〔運歩色葉集〕
〈久〉
p.1136 歡樂( クワンラク/○○)
〔年々隨筆〕
〈二〉
p.1136 やまひを歡樂といふは、死喪を吉事といふごとく、凶をさけていへる也、五六百年こなたの記録どもに、常にみゆ、去年の秋、萩の花さかりに咲みちて、池水にうつろふがをかしきに、月さへをかしき比なりければ、稻山行敎、淸水良治などにせうそこしてまどゐしたり、酒いたうすゝみて、むらいもさりあへず、歌よむもあり、すゞろなる朗詠などしてもて興ずるほどに、亥の時もはやう過にけり、良治はかへりぬ、行敎も正明も醉ふしぬ、又の日はかしらいたくおきあがるべうもあらずくるしければ、昨宵歡樂生二歡樂一とかきて、良治がりやりつれば、昔日聖賢昧二聖賢一とかきそへて、やがておこせつ、聖賢とは酒の事也とぞ、
〔玉勝間〕
〈一〉
p.1136 年始に病を歡樂といふ事
東鑑云、承元二年正月十一日云々、依二將軍家 御歡樂一( ○○○) 、延及二今日一、今の世にも、年のはじめには、病といふことをいみて、御歡樂といふならはしのこれり、
〔玉勝間〕
〈十二〉
p.1136 としの始に病を歡樂といふ事
園大暦に、貞和二年正月八日の所に、予風氣相侵、仍 歡樂( ○○) 之間、不レ及二出座一、と見えたり、病を歡樂といへること、これよりさきの物にも見えしやうにおぼゆ、
〔蔭凉軒日録〕
p.1136 寛正四年十二月五日、當寺〈○相國寺〉都聞依二 歡樂一( ○○) 而退之事、自二方丈一被二申分一披二露之一、
〔二水記〕
p.1136 永正十七年十一月十九日、早旦參二當番一、初雪、御盃如レ例、伯三位依二 歡樂一( ○○) 不レ候、各沈醉、不可説也、
〔蜷川弓馬故實〕
p.1136 松本ハ生害させず、 歡樂( ○○) ニテ死去也、
○按ズルニ、此等ノ文ニ據レバ、病ヲ歡樂ト云フ事、必シモ年始ニ限ラザルガ如シ、
〔運歩色葉集〕
〈二奈〉
p.1137 惱( ナヤム)
〔倭訓栞〕
〈前編十九那〉
p.1137 なやむ 日本紀に懊惱、又痛、又難、又擧力を訓ぜり、萎病の義なるべし、新撰字鏡に謬もよめり、なやますともいふ、人にいふ也、ます〈ノ〉反む也、神代紀に逼惱、又危困をよめり、
〔古今和歌集〕
〈序〉
p.1137 をのゝ小町は、いにしへのそとをりひめの流なり、あはれなるやうにてつよからず、いはゞよきをうなの なやめる( ○○○○) 所あるににたり、
〔源氏物語〕
〈十榊〉
p.1137 御 なやみ( ○○○) におどろきて、人々ちかうまゐりてしげうまがへば、われにもあらで、ぬりごめにおしいれられておはす、御ぞどもかくしもたる人のこゝちなども、いとむつかし、宮〈○藤壺〉はものをいとわびしとおぼしけるに御氣あがりて、なほなやましうせさせ給、
〔吾妻鏡〕
〈二十七〉
p.1137 寛喜二年六月十八日、戌刻修理亮平朝臣時氏逝去、〈二十八〉去四月自二京都一下向、不レ經二幾日月一 病惱( ○○) 、被レ致二内外祈請一、雖レ加二數箇醫療一、皆以失二其驗一、去嘉祿三年六月十八日次男〈○北條時實〉卒、隔二四箇年一、今日又有二此事一、已兄弟御早世、愁傷之至無レ取レ喩、及二寅刻一、葬二于大慈寺傍山麓一云云、
〔倭名類聚抄〕
〈三瘡〉
p.1137 痛 釋名云、痛〈音洞、和名伊太之、〉通也、通在二膚脈中一也、 W 箋注倭名類聚抄
〈二瘡〉
p.1137 昌平本、下總本無二訓字一、醫心方同訓、〈○中略〉所レ引文原書同、説文、痛病也、
〔倭訓栞〕
〈前編三伊〉
p.1137 いたむ 疼痛をいふ、息をたむるの義成べし、神代紀に傷、又哀傷、又悽然をよみ、靈異記に軫をよみ、新撰字鏡に怏又挹をよめり、
〔先代舊事本紀〕
〈三天神〉
p.1137 天神御祖、詔授二天璽瑞寶十種一、謂羸都鏡一、邊都鏡一、八握劒一、生玉一、死反玉一、足玉一、道反玉一、蛇比禮一、蜂比禮一、品物比禮一是也、天神御祖敎詔曰、 若有二痛處一者( ○○○○○) 、令二
十寶一謂二一二三四五六七八九十一、而布瑠部由良由良止布瑠部、如レ此爲レ之者、死人反生矣、是則所レ謂布瑠之言本矣、
〔拾遺和歌集〕
〈七物名〉
p.1137 つくみ 大伴黑主
さく花におもひつくみのあぢきなさ身に いたつき( ○○○○) のいるもしらずて
〔倭訓栞〕
〈前編三伊〉
p.1138 いたづき 物にいたづき聞えさせたまふなどいへり、煩勞の義也、痛竭の訓意成べし、よて日本紀に勞竭の文字を用ゐ、又不レ煩をいたづかずとよめり、
〔古京遺文〕
p.1138 藥師佛造像記
池邊大宮治二天下一天皇、大 御身勞( ○○○) 賜時、歳次丙午年、〈○中略〉然當時崩賜造不レ堪者、小治田大宮治二天下一大王天皇、及東宮聖王、大命受賜、而歳次丁卯年仕奉、
右藥師佛像在二法隆寺金堂一、天平廿年法隆寺資財帳載レ之、記在二光焔背一、
〔倭名類聚抄〕
〈三瘡〉
p.1138 疼 説文云、疼、〈徒冬反、訓比々良久、〉 動痛( ○○) 也、 W 箋注倭名類聚抄
〈二瘡〉
p.1138 昌平本、下總本無二訓字一、按、新撰字鏡同訓、醫心方、疼痺酸並亦同訓、古事記神武 天皇御歌、久知比々久即是、今云二宇豆久一、契冲曰、疼與レ響同語、〈○中略〉原書無二疼字一、按、玄應音義云、疼又 作二
痋一、引二説文一云、痋動痛也、則知疼俗痋字、今本説文痋字注作二動病也一、非レ是、釋名、疼、痺也、氣疼々然 煩也、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1138 疼( ヒヽラク)
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1138 臥 日本紀私記云、瘼臥、〈和名宇江不世利、瘼音莫、〉 W 箋注倭名類聚抄
〈二病〉
p.1138 臥見二景行四十年紀一、按説文、瘼( ○) 、 病( ○) 也、瘼臥猶レ言二病臥一、 非二病名一也( ○○○○) 、下總本乎作レ宇、 那波本同、按、日本紀旁訓、釋日本紀、並作レ乎、伊呂波字類抄、亦瘼臥在二乎部一、則作レ宇者、字形近似而誤 也、古事記
忽爲二遠延一、神武紀、瘁訓二乎江奴一、仁德紀被二蛇毒一、傍注私記云、乎呂千二乎也左禮天、並可二 以證一也、
〔伊呂波字類抄〕
〈於病瘡〉
p.1138 臥〈オエフセリ〉
〔古事記〕
〈中神武〉
p.1138 故神倭伊波禮毗古命、從二其地一廻幸、到二熊野村一之時、大熊髣髴出入即失、爾神倭伊波禮毗
古命、 忽爲二 遠延一( ○○) 、及御軍皆遠延而伏、〈遠延二字以レ音〉
〔古事記傳〕
〈十八〉
p.1139 遠延は、書紀に 瘁( ○) と書り、〈瘁は、字書に病也とあり、〉又景行卷に、度二信濃坂一者多得二神氣一、以瘼臥( ヲエフシキ) 、〈是を引て和名抄に、瘼臥、和名宇江不世利とある、宇は乎の誤寫なるべし、〉仁德卷に、被二蛇毒一而多死亡、欽明卷に、 毒害( ヲヤシソコナヒ) などあり、又景行卷に、吉備穴濟神、及難波柏濟神、皆害心以放二毒氣一、令レ苦二路人一と見え、倭建命の伊服岐山神に惑され賜ひしなど、皆同類の事なり、
〔日本書紀〕
〈三神武〉
p.1139 戊午年六月丁巳、至二熊野荒坂津一、〈○中略〉時神吐二毒氣一、人物咸 瘁( ヲエヌ/○) 、
〔日本書紀〕
〈七景行〉
p.1139 四十年、是歳〈○中略〉於レ是日本武尊曰、蝦夷凶首咸伏二其事一、唯信濃國越國頗未レ從レ化、〈○中略〉度二信濃坂一者、多得二神氣一以瘼臥( オエフセリ) 、
〔倭名類聚抄〕
〈三瘡〉
p.1139 癢 釋名云、癢、〈餘兩反、和名加由之、〉揚也、其氣在二皮中一、欲二發揚一、使二人掻發而揚出一也、 W 箋注倭名類聚抄
〈二瘡〉
p.1139 那波本脱二與レ養同三字一、〈○中略〉原書發揚上有二得字一、按、説文無レ癢有レ蛘、云掻蛘、禮記 内則、癢不二敢掻一、玄應音義引、作三蛘不二敢掻一、知蛘癢古今字、蓋蛘字俗變レ虫从レ疒作レ痒、或諧二養聲一作レ癢、與下 説文訓二瘍也一痒字上不レ同、玉篇、痒痛痒也、癢同上、又作レ養、見二醫心方引小品方一、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1139 癢( カユシ)
〔伊呂波字類抄〕
〈都病瘡〉
p.1139 恙〈ツヽカ〉 
〈同〉 瘂痾〈同〉
〔萬葉集〕
〈六雜歌〉
p.1139 繋卷裳、湯湯石恐石、住吉乃、荒人神、船舳爾、牛吐賜、付賜將、島之埼前、依賜將、礒乃埼前、荒浪、風爾不令遇、( カケマクモユユシカシコシスミノエノアラヒトカミノフナノヘニウシハキタマヒツキタマハムシマノサキサキヨリタマハムイソノサキサキアラナミノカゼニアハセズ) 草菅見、( クサツヽミ/○○○) 身疾不有、急、令變賜根、本國部爾( ヤマヒアラセズスミヤカニカハリタマハネモトノクニヘニ) 、
〔萬葉集〕
〈十三〉
p.1139 柿本人麿歌集歌曰
葦原、水穗國者、神在隨、事擧不爲國、雖然、辭擧叙吾爲、言幸、眞福座跡、( アシハラノミヅホノクニハカミノマニコトアケﾞセヌクニシカレドモコトアゲゾワガスルコトサキクマサキクマセト) 恙無、( ツヽガナク/○○) 福座者、荒礒浪、有毛見登、百重波、千重浪爾敷、言上爲吾( サキクイマサバアライソナミアリテモミムトモヽヘナミチヘナミニシキコトアゲスルワレ) 、〈○反歌略〉
〔倭訓栞〕
〈前編十六都〉
p.1139 つゝか 恙字をよめり、萬葉集には多くつゝみとよめり、又つゝまはずともは
たらけり、集又光仁紀にもつゝむ事なくと見えたり、恙は憂也とも病也ともいへば病憂のつゝましげなるよりいふ詞成べし、萬葉集に草づゝみ身疾あらずといへるは、上古の時草居露宿す、恙といふ虫ありて、よく人の心を食ふといへる説によれる成べし、
〔玉勝間〕
〈十二〉
p.1140 つゝみなく又つゝがなくといふ言
萬葉に、つゝみなくといふ詞あるを、後世俗には、つゝがなくといへり、此言、から書に無恙といへると、こゝろばへ同じき故に、いにしへより、此字をあてたりと見えて、萬葉十三にも、恙無と書たり、これを今本には、つゝがなくと訓たれど後の言なり、かの集には、此言皆、つゝみなくといへれば、これも然訓べき也、さてから書に無恙といふ言は、憂也病也と注し、又風俗通に、恙噬蟲、能食二人心一、古者草居、多被二此毒一、故相問勞曰二無恙一、といへるに依て、つゝがといふをも、虫名とこゝろえて、此言を件の説によりて解くは、いみじきひがことなり、漢籍の恙も、憂也病也といへるは、こともなく聞えたるを、虫の名とせる件の説は、いと信がたきを、まして皇國にて、つゝがなくといふは、かのつゝみなくの轉れる言にて、つゝがは、さらに虫の名にはあらず、たとひから書の恙は、まことに虫名にもあれ、それにはかゝはらぬこと也、無恙の字をあてたるは、たゞ相問ていふ心ばへの、よく似たる故のみにこそあれ、萬葉には、つゝむことなくとも、つゝまはずともいへるを以ても、虫の名にあらざるほどをしるべし、同集六に、 草管見( クサツヽミ/ツヽナク) 身疾不有( ミヤマヒアラズ) とよめる、草といへるは、かのから書の草居云々の説によれるかと思ふ人もあめれど、然にはあらず、此草字は、莫を誤れるにて、これもつゝみなくなるをや、さてつゝみといふ言の意は、大祓後釋にいへれば、こゝにはもらしつ、
〔時還讀我書〕
〈上〉
p.1140 越後新潟ノ邊ニ一種ノ病アリ、土人海ニ近キ河畔ニテ草茅ヲ刈トキ、身中忽ニ蟲ニ螫ルヽコトアリ、其蟲至テ細ク毛髮ノ如シ、螫ルヽ時ハ寒熱ヲ發シ、恰モ傷寒ノ如シ、土俗レヲ呼テ ツヽガ( ○○○) ト云フ、前年ハ不治ニ就モノ多カリシガ、近來ハ治方ヲ覺エテ死ヲ免ルヽ者
多シ、其藥ハ套劑中ヘ蛇蛻ヲ加ヘ用ルコトナリト、菊池退藏ノ話ナリ、軒村世緝云フ、此沙蝨ノ類ナラン、其螫處ヲ潟血シテ愈ト聞クトゾ、又弟子速水草玄云フ、近頃ハ白砂糖ヲ嚼テ傳ケ、又内服セシメテ必驗アリト、
〔小右記〕
p.1141 長和五年四月十二日乙酉、又云、攝政相府頗有二 恙氣一( ○○) 、
〔書言字考節用集〕
〈五肢體〉
p.1141 癁( ハミカヘス) 〈字
、病重發也、〉
〔源氏物語〕
〈四夕顔〉
p.1141 めのと〈○大貳〉にて侍るものゝ、この五月のころほひより、おもくわづらひ侍しが、かしらそりいむことうけなどして、そのしるしにやよみがへりたりしを、このごろ 又をこりて( ○○○○○) 、よはくなん成にたる、
〔令義解〕
〈二戸〉
p.1141 凡一目盲、兩耳聾、手无二二指一、足无二三指一、手足无二大拇指一〈謂、拇大指也、或手或足、無二大拇指一者是也、若手足共无者、自須レ從二癈疾一也、〉、禿瘡无レ髮〈謂、頭上生レ瘡、有二白虫痂一、其痂甚癢、故其上髮禿落不レ生也、〉、久漏〈謂身成二孔穴一、濃汁潰漏、久而不止、故曰二久漏一也、漏或作レ瘻也、〉、下重〈謂、陰頺也、陰核脹腫、得レ陰即發、其大如レ升、沈重難レ行、故曰二下重一也、〉、大癭瘇〈謂、癭者、頸腫也、瘇者、足腫也、嫌三其小者亦入二此限一、故加二大字一以別也、〉、如レ此之類皆爲二 殘疾一( ○○) 、癡瘂〈謂、不レ慧爲レ癡、不レ語爲レ瘂也、〉、侏儒〈謂、短人也、〉、腰脊折〈謂、腰脊不二相須一也、若共折者、自合二篤疾一也、〉、一支癈、如レ此之類、皆爲二癈疾一〈謂、痼疾也、廢二於人事一、故曰二癈疾一也、〉、惡疾〈謂、白癩也、此病有レ虫食二人五藏一、或眉睫墮落、或鼻柱崩壞、或語聲嘶變、或支節解落也、亦能注二染於傍人一、故不レ可二與レ人同一レ床也、癩或作レ癘也、〉、 癲狂( ○○) 〈謂、癲者、發時仆レ地、吐二涎沫一、無レ所レ覺也、狂者、或妄觸欲レ走、或自高賢稱二聖神一也、〉、二支癈、兩目盲、如レ此類皆爲二 篤疾一( ○○) 、
〔日本書紀〕
〈十三允恭〉
p.1141 六年〈○反正〉正月、雄朝津間稚子宿禰皇子謝曰、我不天、 久離二篤疾一( ○○○○) 、不レ能二歩行一、且我既欲レ除レ病、獨非二奏言一、而密破レ身治レ病猶勿レ差、由レ是先皇責レ之曰、汝患レ病縱破レ身、不孝孰甚二於 一矣、其長生之、遂不レ得二繼業一、亦我兄二天皇、愚レ我而輕レ之、群卿共所レ知、夫天下者大器也、帝位者鴻業也、且民之父母、斯則聖賢之職、豈下愚之任乎、更選二賢王一宜レ立矣、寡人弗二敢當一、群臣再拜言、夫帝位不レ可二以久曠一、天命不レ可二以謙距一、今大王留レ時逆レ衆、不レ正二號位一、臣等恐二百姓望絶一也、願大王雖レ勞、猶即二天皇位一、雄朝津間稚子宿禰皇子曰、奉二宗廟社稷一重事也、寡人篤疾不レ足二以稱一、猶辭而不レ聽、於レ是群臣皆固請曰、臣伏計レ之、大王奉二皇祖宗
廟一最宜レ稱、雖二天下万民一皆以爲レ宜、願大王聽レ之、
〔續修東大寺正倉院文書〕
〈四〉
p.1142 御野國味蜂間郡春部里太寶貳年戸籍
中政戸漢人意比止戸口廿〈○中略〉
安倍弟古安〈年廿七、 下重( ○○) 、 殘疾( ○○) 、○中略〉
上政戸六人部加利戸口卅〈○中略〉
戸主孫石作部咋〈年十七、 癲狂( ○○) 、 癈疾( ○○) 、〉
〔日本書紀〕
〈三十持統〉
p.1142 四年正月壬辰、大二赦天下一、〈○中略〉鰥寡孤獨 篤癃( アツエヒト) 不レ能二自存一者、賜レ稻蠲二服調役一、
〔延喜式〕
〈四十二左右京〉
p.1142 凡辨官及省臺下二諸國一符、及癃疾( ○○) 仕丁歸二向本郷一等、各受取遞送、 W 段注説文解字
〈七下疒〉
p.1142 、罷病也〈病當レ作レ癃、罷者廢置之意、凡廢置不レ能レ事レ事曰二罷癃一、(中略)凡廢疾皆得レ謂二之罷癃一也、〉、从レ
隆聲、
○按ズルニ、古クハ痳病ヲモ癃ト云ヘリ、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1142 重病( ヂウビヤウ) W 一話一言
〈十七〉
p.1142 疾病
疾病( ヒナリ) トハヨホドワルキ也、疾革トハ所レ謂トリツメタルナリ、大病トハ所レ謂サシオモリタルニ テ、死ヲイフ也、禮記檀弓ニ、成子高寢レ疾、慶遺請曰、子之病革矣、如至二乎大病一則如二之何一、新注ニ、大病 死也、諱レ之之辭、
〔源氏物語〕
〈一桐壺〉
p.1142 いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひ給けるなかに、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれてときめき給ふありけり、〈○中略〉いと あつしく( ○○○○) なりゆき、もの心ぼそげにさとがちなるを、いよくあかずあはれなるものにおぼゝして、人のそしりをも、えはゞからせたまはず、〈○下略〉
〔日本書紀〕
〈十四雄略〉
p.1142 二十三年八月丙子、天皇 病彌甚( ○○○) 、與二百寮一辭訣、握レ手欷歔、
〔三代實録〕
〈四十一陽成〉
p.1143 元慶六年正月七日庚戌、宣制曰、〈○中略〉老人年百歳已上賜二穀五石一、九十已上三石、八十以上一石、孝子順孫、義夫節婦、表二其門閭一、終レ身勿レ事、鰥寡孤獨、 篤疾重病( ○○○○) 、不レ能二自存一者〈爾波〉宜レ量二賜物一、
〔日本書紀〕
〈十四雄略〉
p.1143 二十三年八月丙子、臣連、伴造、毎日朝參、國司、郡司、隨レ時朝集、何不下罄二竭心府一、誡勅慇懃上、義乃君臣、情兼二父子一、庶藉二臣連智力、内外歡心一、欲レ令三普天之下永保二安樂一、不レ謂 遘レ疾彌留( ○○○○) 、至二於大漸一、此乃人生常分、何足二言及一、
〔日本紀略〕
〈嵯峨〉
p.1143 弘仁十四年四月庚子、帝御二前殿一、引二今上一〈○淳和〉曰、朕本諸公子也、始望不レ及レ於〈○於下恐有二此字一〉太上天皇〈○平城〉曲垂二褒飭一、超登二儲貳一、遂遜二位于朕躬一、辭不レ獲レ免、曰愼二一日一、未レ幾而身嬰二疹疾一、 彌留不レ瘳( ○○○○) 、爲二萬機擁滯一、令三右大臣藤原朝臣園人奉二還神璽一、朕始有二歸閑之志一、太上天皇不レ允レ所レ請、
〔本朝世紀〕
p.1143 天慶元年九月十四日戊午、又齋王御禊陪從、參議源是茂朝臣申送云、依レ煩二 頓病一( ○○) 、不レ可レ奉二仕陪從職一者、
〔台記〕
p.1143 久安四年正月七日丙寅、此間擧レ燭、左大將〈坊家別當〉云、舊例奏二女樂一、奏不三必待二三獻一、臣有二 危急疾一( ○○○) 者、是故可二早奏一者、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1143 持病( ヂビヤウ)
〔日本書紀〕
〈三十持統〉
p.1143 九年六月壬辰、賞二賜諸臣年八十以上及 痼疾一( ○○) 、各有レ差、
〔三代實録〕
〈十三淸和〉
p.1143 貞觀八年十二月十一日壬午、右大臣藤原朝臣良相重抗レ表言、臣不レ任二 沈痼一( ○○) 、陳レ表謝レ盈、天感未レ降、更賜二敦
一、心影相疚、精爽震越、
〔三代實録〕
〈二十二淸和〉
p.1143 貞觀十四年八月二日庚子、參議正四位下源朝臣生〈○嵯峨皇子、母大原全子、〉先レ是 沈痾( ○○) 累レ月、落髮爲レ僧、是日卒云々、
〔三代實録〕
〈四十一陽成〉
p.1143 元慶六年正月廿八日辛未、太政大臣抗レ表曰、云々、伏願職封職田資人雜俸、並憑二先般之定一給、物必斷二此廻之新一如二前示一、恩賜内舍人二人、左右近衞各四人爲二隨身一、先臣 宿疾中發( ○○○○) 、醫療外
隨、難レ侍二紫垣於直廬一、何分二霜仗於御巷一、今各依レ初歸二付官府一、
〔玉海〕
p.1144 治承四年八月七日丁亥、今日湯治之後、 持病( ○○) 更發、殆及二獲麟一、忽請レ僧〈智詮〉加持之間、頗落居、佛法効驗也、
〔明月記〕
p.1144 文暦二年正月四日戊戌、實基卿辭二納言一、尾張國等全非二僞申之詞一、年來籠居、去秋出仕所レ存已顯歟、其上 持病( ○○) 相發、常如二絶入一、非二出仕之身一、
〔柳營諸舊例的〕
〈八〉
p.1144 同勤引込屆
文化二丑年十二月十一日
御屆
近藤登助( 寄合肝煎)
私儀、 持病( ○○) 之疝積差發、腹痛水瀉仕候ニ付、引込養生仕候、此段御屆申上候、以上、
十二月十一日 近藤登助( 寄合肝煎)
〔源氏物語〕
〈五十四手習〉
p.1144 中やどりをぞまうくべかりけるなどいひて、夜ふけておはしつきぬ、僧都はおやをあつかひ、むすめのあま君はこのしらぬ人〈○浮舟〉をはぐゝみて、みないだきおろしつゝやすむ、 おいの病( ○○○○) のいつともなきが、くるしと思給べし、とほ道のなごりこそしばしわづらひ給ひけれ、やうくよろしうなり給にければ、僧都はのぼり給ぬ、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1144 虚病( キヨビヤウ)
〔書言字考節用集〕
〈五肢體〉
p.1144 作病( サクビヤウ) 〈又云二虚病一〉
〔日本書紀〕
〈十四雄略〉
p.1144 八年二月、遣二身狹村主靑、檜隈民使博德一、使二於呉國一、自二天皇即位一至二于是歳一、新羅國背誕、苞苴不レ入於レ今八年、而大懼二中國之心一、修二好於高麗一、由レ是高麗王遣二精兵一百人一、守二新羅一、有レ頃高麗軍士一人取レ假歸レ國、時以二新羅人一爲二典馬一、〈典馬此云二于麻柯毗一〉而顧謂レ之曰、汝國爲二吾國一所レ破非レ久矣、〈一本云、汝國果成二吾土一非レ久矣、〉其
典馬聞レ之 陽患二其腹一( ○○○○) 、退而在レ後、遂逃二入國一、説二其所一レ語、
〔日本書紀〕
〈二十四皇極〉
p.1145 三年正月乙亥、以二中臣鎌子連一、拜二神祇伯一、再三固辭不レ就 稱レ疾( ○○) 、退居二三島一、
〔台記〕
p.1145 久安六年十二月七日己酉、還來、復二命承由一、余 稱レ疾( ○○) 不レ謁二資長一、使二皇后宮亮顯憲朝臣〈衣冠〉傳一云々、
〔太平記〕
〈七〉
p.1145 新田義貞賜二綸旨一事
此中ニ一人暫ノ暇ヲ給候ヘ、令旨〈○護良〉ヲ申出テ、進セ候ハント申テ、殘リ十人ヲバ留置、一人宮ノ御方ヘトテゾ參ケル、今ヤくト相待處ニ、一日有テ令旨ヲ捧テ來レリ、開テ是ヲ見ニ、令旨ニハアラデ綸旨ノ文章ニ書レタリ、〈○中略〉綸旨ノ文章、家ノ眉目ニ備ツベキ綸言ナレバ、義貞不レ斜悦テ、其翌日ヨリ 虚病( ○○) シテ、急ギ本國ヘゾ被レ下ケル、
〔源氏物語〕
〈四夕顔〉
p.1145 この五六日こゝにはべれど、 ばうざ( ○○○) のことを思たまへ、あつかひはべるほどに、となりのことはえ聞侍らずなど、はしたなげにきこゆれば、にくしとこそおもひたれな、
〔日本書紀〕
〈二十九天武〉
p.1145 八年十月、是月勅曰、凡諸僧尼者常住二寺内一以護二三寶一、然或及レ老或患レ病、其永臥二陝房一、久苦二老病一者、進止不便、淨地亦穢、是以自今以後、各就二親族及篤信者一、而立二一二舍屋于間處一、老者養レ身、 病者( ○○) 服レ藥、
〔古事談〕
〈三僧行〉
p.1145 此御室〈○三條皇子師明親王〉世間ニ疾病蜂起之時者、私出二御在所一、只一人御棚菓子ナドヲ御懷中ニ令二取入一給テ、大垣邊之 病者( ○○) ニ次第給レ之、眞言ヲ誦掛テ令レ過給ケレバ、病者立得レ減、皆以尋常云云、令レ還二入御所一之時ハ、駕二玉輿一天童等多御共ニテ令レ入給之由、有二奉レ見之人一云々、
〔太平記〕
〈五〉
p.1145 大塔宮熊野落事
宮、〈○護良〉病者ノ伏タル所ヘ、御入在テ御加持アリ、千手陀羅尼ヲ二三反、高ラカニ被レ遊テ、御念珠ヲ押揉セ給ケレバ、病者自口走テ、樣々ノ事ヲ云ケル、誠ニ明王ノ縛ニ被レ掛タル體ニテ、足手ヲ縮テ戰キ、五體ニ汗ヲ流シテ、物怪則立去ヌレバ、病者忽ニ平癒ス、
〔敎令類纂〕
〈二集九十六〉
p.1146 享保十一丙午年二月二十四日
一倒死、 病人( ○○) 、水死、其外異死、迷子等有レ之節、其所より訴出次第、年頃并衣服等之品認メ、自今芝口町河岸ニ七日之内札ヲ建置候條、心あたり有レ之もの者、右札場〈江〉罷越、文言を見候而、親類由緒之者にて、病人或者死骸引取度と存候もの、又者怪敷儀も有レ之、吟味願度存候もの者、札建置候奉行所〈江〉可二訴出一候、
札文言
去ル幾日何方ニ、年頃何歳計、衣服者何を著し、
倒死
病人
水死有レ之候、心あたりのものは、誰方〈江〉早々可二申出一候、
異死
迷子
月日
二月二十四日
〔本朝世紀〕
p.1146 天慶八年十二月七日己巳、權大輔藤原有聲朝臣申云、俄依レ煩二身病一不レ可レ參、大輔大江維時朝臣、自二昨日一依レ治レ病、 奉二三箇日假文一( ○○○○○○) 、少輔紀朝臣在昌申云、自二議奏日一後、痢病發動、不レ能二參入一、
〔台記〕
p.1146 久安三年五月十七日己卯、獻二治病暇文一〈使レ下二家司、藏人所、外記局等一也、藏人所者付二出納一、出納付二藏人一云々、外記局無レ人、仍向二大外記師安家一也云々、〉、雖レ無レ疾、爲二最勝講間休息一、所レ獻也、美濃、備前、周防、阿波不レ可レ宛二封國之内一也〈具二民部式上一〉、件等國、有二余封一、仍請レ改二他國一、其請文載二依レ違レ式請改之由一、今日滿二一百万一了、
請假三箇日
右爲レ治二身病一、所レ請如レ件、
久安三年五月十七日 内大臣正二位藤原朝臣賴長
出二蔵人所一如レ此
請假三箇日
牒、爲レ治二身病一、所レ請如レ件、以牒、
久安三年五月十七日 内大臣正二位藤原朝臣賴長牒
出二外記一如レ此
〔德川禁令考〕
〈十九疾病忌服〉
p.1147 文久元辛酉年三月廿八日
病氣引込期限ノ達
諸向ヨリ申立候、小普請ニ入候儀、御番方之面々ハ、別而十三ケ月を限り相願候、十三ケ月之分、一兩月も病氣保養候ハヾ、罷出相勤候儀罷成候病氣ニ而も、其程ニ定有レ之候樣ニ而者、無二是非一願之儀、申出候輩も可レ有レ之候間、頭支配方心得ニ而、十三ケ月之外、五六ケ月も保養候而、出勤罷成候樣子ニ候ハヾ、見合願差出候樣ニ、向後可レ被二心得一候事、
右之通、享保三年、被二仰出一候處、近年右之月數より、多く引込罷在候ものも有レ之、并内實者死候而小普請入相願病死屆延引いたし候類有レ之哉にも粗相聞、如何之事ニ候、享保之度被二仰出一候者、實ニ病氣ニ而不レ得レ止事節之儀ニ有レ之、且又死去を押隱し、御宛行頂戴罷在候者、御後闇儀ニ而、先年御仕置被二仰付一候儀も有レ之、旁向後心得違無レ之樣可レ被レ致候、
右之趣、天保十二丑年相達置候處、兎角心得違之ものも有レ之哉ニ相聞、以之外之事ニ候、此以後布衣以上以下御役人御番方等、前々定之月數より多く引込罷在、又者病死屆等延引及び候もの有レ之ニ於てハ、急度御沙汰之品も可レ有レ之候條、遺失無レ之樣可レ被二心得一候、
右之通、向々〈江〉可レ被レ達候、
三月
御書付留ヲ按ズルニ、前文ノ趣、慶應二年二月廿八日尚又再達アリ、今之ヲ略ス、
○按ズルニ、官吏請假ノ事ハ、政事部休假篇ニ在リ、
〔令義解〕
〈八醫疾〉
p.1148 五位以上病患者、並奏聞、遣レ醫爲レ療、仍量レ病給レ藥〈謂、疾病之家、申二牒宮内省一、事少則省直處分、事重者申二太政官一、官奏聞給、故公式令云、奏給二醫藥一、即畿内亦准二在京一、〉、致仕者亦准レ此、
〔續日本紀〕
〈十九稱德〉
p.1148 天平勝寶八歳四月壬子、遣一醫師禪師官人各一人於左右京四畿内一、救二療 疹疾( ○○) 徒一、
○按ズルニ、救療ノ事ハ、政治部賑給篇救恤篇等ニ詳ナリ、
〔令義解〕
〈十獄〉
p.1148 凡獄囚有二疾病者一、主守申牒〈謂、主守者、主二當獄囚一之物部也、〉、判官以下親驗二知實一、給二醫藥一救療、病重者、脱二去枷
一、仍聽二家内一人入レ禁看侍一、其有レ死者、亦即同撿、若有二他故一者〈謂、非レ法窮死、及令二自死一之類、〉、隨レ状推料、
○按ズルニ、病囚取扱ノ事ハ、法律部禁囚篇ニ詳ナリ、
〔日本後紀〕
〈十三桓武〉
p.1148 延暦二十四年七月壬辰、勅、如聞疫癘之時、民庶相憚、不レ通二水火一、存二心救療一、何有二死亡一、父子至親、畏忌無レ近、隣里疎族、更復何言、亡者衆多、事在二於此一、宜下喩二所司一、務存中匍匐上、若不二遵改一隨即科處、
〔類聚三代格〕
〈十二〉
p.1148 太政官符
應レ禁三斷京畿百性出二棄病人一事
右右大臣奏
、念レ舊酬レ勞、賢哲遺訓、重レ生愛レ命、貴賤無レ殊、今天下之人各有二僕隷一、平生之日既役二其身一、病患之時即出二路邊一、無二人看養一、遂致二餓死一、此之爲レ弊、不レ可二勝言一、伏望仰二告京畿一、早從二停止一、庶令下路傍無二夭枉之鬼一、天下多中修命之人上者、被二中納言從三位藤原朝臣繩主宣一 、奉レ勅、宜二早下知令一レ加二禁制一、如不二遵改一、猶致二違犯一者、五位以上注レ名申送、六位已下不レ論二蔭贖一決二杖一百一、臺及職國、知而不レ糺、及條令坊長、郡司隣保、相隱不レ告、並與同罪、自今以後、永加二禁斷一、仍牓二示要路一、分明告知、
弘仁四年六月一日〈○又見二類聚國史一〉
〔類聚三代格〕
〈七〉
p.1149 太政官符
應レ收下養在レ路飢病無レ由レ達レ郷〈并〉不レ能二自存一百姓等上事
右存恤之事、載在二令條一、國郡官司、理須二遵行一、而收養醫療、未レ聞二其事一、大納言正三位兼行左近衞大將陸奧出羽按察使藤原朝臣冬嗣宣、奉レ勅、呴育之道、理不レ可レ然、違法之吏、深合二科責一、宜下更下知勤使二醫養一、勿上レ令丙彼黎民徒致乙非命甲、其科量二用正税一者、其年中所レ用正税、大國五百束以下、上國四百束已下、中國二百束以下、下國一百束以下、即國郡官司親加二訪察一、若乖二符旨一、存活失レ所、爲レ他見レ告、依レ法科レ罪、夫專當國郡司名、及所二存濟一之人數、附二朝集使一、所レ用正税附二税帳使一、並作二別卷一、毎レ年言上、但不レ能二自存一之輩、一依二令條一行レ之、不レ得三違レ法輙用二正税一、
弘仁十一年五月四日
〔享祿本類聚三代格〕
〈十七〉
p.1149 太政官符
應下養二活疫病百姓一者賜二出身一叙中位階上事
右得二大宰府解一 、管九國三島、疫病氣方發、或擧レ家病臥、無レ人二看養一、或合レ門死絶、無二葬歛者一、被二右大臣宣一 、奉レ勅、如聞閭閻之間疫病發、則稱二謂移染一、曾不二往來一、近親之間、猶有二斯忌一、因レ 水漿之資、不レ得レ適レ口、滋味之願、不レ能レ從レ情、百姓夭折、無レ不レ由レ此、言念二於此一、深以矜歎、夫死生有レ命、修短定焉、仁靡レ不レ酬、德必有レ報、豈行二仁德一、還罹二其咎一、黎民之愚、遂致二斯惑一、於レ事商量、理不レ合レ然、宜仰二府官一、重加二約束一、勤令二醫療一、酬二彼勞効一、其法養二活病者一三十人以上、白丁入二於内考一、自二入色一至二初位一、毎二十人一加二一階一、初位至二八位以上一、毎二二十人一加二一階一、外考入二内考一者減レ半、若養越二此法一者、録レ名言上、量二其形迹一、授以二五位一、但養二二等以上親一者不レ在二此限一者、仍須下委二專當官一、精加二採訪一、療養訖則具録言上上、至二于仲秋一、總從二停止一、
弘仁十三年三月二十六日
〔政事要略〕
〈七十糺彈雜事〉
p.1150 出二棄病人及小兒一事、〈○中略〉
貞觀九年三月七日、右少史大春日安永仰云、右少辨藤原朝臣千乘傳宣、右大臣宣、京中諸人、捨二男兒於道路頭一、遂爲二犬烏一見二害斃一、是即職吏之不治、人民之不仁、宜撿非違使毎レ見二此事一、召二當條領并町長等一、重加二勘當一、俾レ送二居施藥院一、准二其状一必申レ官者、
〔延喜式〕
〈二十三民部〉
p.1150 凡諸國往還百姓、在レ路困飢、病患無レ由レ達レ郷者、專當國司一人巡看、附二隨近村里一、以二正税一收養、得レ療之日、依レ法送達、若有二死去者一、斂二埋便處一、具顯二貫屬姓名一牓二示其上一、有二漏怠一者、國郡司等隨レ事科處、其專當國司者、録レ名申レ官、
〔延喜式〕
〈四十一彈正〉
p.1150 凡部内百姓、出二弃病人一者、五位已上取レ名奏聞、六位以下不レ論二蔭贖一決杖一百、其職司知而不レ糺、及條令、坊長、隣保、相隱不レ告、並與同罪、
〔延喜式〕
〈四十二左右京〉
p.1150 凡京中路邊病者弧子、仰二九箇條令一、其所レ見所レ遇、隨レ便必令レ取二送施藥院及東西悲田院一、
〔政事要略〕
〈七十糺彈雜事〉
p.1150 應レ收二養路頭爲レ病者一事
右左大臣宣、奉レ勅、如聞頃者京中病者多臥二路頭一、無二人收養一、誰救二其命一、宜下仰二左右京職官人一分預、率二坊令等一、毎條巡撿、取置二便所一、及隨二撿非違使看督等一取送同共收養上者、兩職承知依レ宣行之、其食法、大男大女、日各米一升、鹽一勺、滓醤一合、小男小女、日各米六合、鹽五最、滓醤五勺、但米用以二義倉料一、鹽滓醤請二大膳職一、鋪設自二掃部寮一、衣服古幔請レ自二大藏省一、事縁二濟民一、不レ得二疎略一、
左中辨紀朝臣
延長八年二月十三日 左大史錦部宿禰
〔吾妻鏡〕
〈五十〉
p.1150 文應二年〈○弘長元年〉二月廿九日辛酉、此外嚴制數箇條也、〈○中略〉
一可レ禁三制棄二病者弧子死屍於路邊一事
〔隨意録〕
〈一〉
p.1150 謝肇淛云、韃靼之種類、生無二痘疹一、不レ食二鹽醋一故也、近聞、●與二中國一互市、間亦學二中國飮食一、遂時
一有レ之、彼人即舁置二深谷中一、任二其生死一、絶レ跡不二敢省視一矣、我方五島及熊野、亦無二痘疹一、偶有二疾レ之者一、則舁置二山中一、倩二他郷人一、使二以養一レ之、兄弟親戚亦不二省視一云、是非二飮食之故一也、蓋風土之所レ致也已、
〔東遊記〕
〈上〉
p.1151 蝦夷人、多くは病なし、たまく病者あれば、家にすて置て、外に避く、醫藥なければ、病いよいよ重りて、必死す、よりて病を恐るゝ事甚しく、疱瘡といふもの、昔しはなかりしが、近頃はたまたまにあり、是もすて避て、養生を加へず、必死す、疫癘も左の如し、これらはあしき風なるべし、死を恐るゝ事甚しいといへ共、死するまふけは常にわすれず、
〔捨芥抄〕
〈下末觸穢〉
p.1151 一弔レ喪、問レ病、到二山作一、所レ遭二三七日法事一者、當日不レ參二入内裏一、
〔永正記〕
〈上〉
p.1151 一神氣所勞禁忌事
疫病禁忌七十五日過明也〈是殺二鬼神一之所爲也、故甲疫之内爲レ穢而已、〉、弔レ喪 問レ病( ○○) 者、上古者、三ケ日忌レ之、延喜式以後當日之憚云々、
〔造伊勢二所大神宮寶基本記〕
p.1151 伊勢太神宮神主、大小内人、祝部等、諸祭之日、僧尼、重服、奪情從公之輩、〈并〉輕服人、與同宿往反、齋日犯二弔喪、 問疾( ○○) 等、六色禁忌一者、宜レ科二上秡一云々、
〔日本書紀〕
〈二十三舒明〉
p.1151 息長足日廣額天皇、渟中倉太珠敷天皇〈○敏達〉孫、彦人大兄皇子之子也、〈○中略〉即天皇起臨レ之、詔曰、朕以二寡薄一久勞二大業一、今暦運將レ終、以レ病、不レ可レ諱、故汝本爲二朕之心腹一、愛寵之情不レ可レ爲レ比、其國家大基是非二朕世一、自レ本務レ之、汝雖二肝稚一愼以言、乃當時侍之近習者悉知焉、〈○中略〉當二是時一思三欲語二叔父及群卿等一、然未レ有二可レ
之時一、於レ今非レ言耳、吾曾將レ訊二叔父之病一、向レ京而居二豐浦寺一、
〔日本書紀〕
〈二十七天智〉
p.1151 八年十月乙卯、天皇 幸( ○) 二藤原内大臣家一〈○鎌足〉、親問二所患一、而憂悴極甚、乃詔曰、天道輔レ仁、何乃虚説、積善餘慶、猶是無レ徴、若有レ所レ須、便可二以聞一、對曰、臣既不敏、當復何言、但其葬事、宜レ用二輕易一、生則無レ務二於軍國一、死則何敢重難云云、時賢聞而歎曰、此之一言、竊比二於往哲之善言一矣、大樹將軍之辭レ賞詎可二同年而語一哉、
〔日本書紀〕
〈二十九天武〉
p.1152 十一年七月庚子、小錦中膳臣摩漏病、遣二草壁皇子尊、高市皇子一而訊レ病、
〔三代實録〕
〈十三清和〉
p.1152 貞觀八年十二月八日己卯、右大臣正二位兼行左近衞大將藤原朝臣良相抗表、請レ解レ職言、〈○中略〉日月上天降レ責、
病常添、去春殊劇、還レ第醫療、經レ旬渉レ月、未レ及二能痊一、中使頻臨、辭弗レ獲レ命、遂乃力レ疾拂レ巾、強入二禁省一、朝謁未レ幾、病更發動、彌留綿篤、命危如二薤露一、
〔小右記〕
p.1152 萬壽四年十一月廿四日庚申、無二臨時祭試樂一、依二禪閤〈○藤原道長〉重惱給一云々、 行幸( ○○) 日御輿可レ供二葱花輿車一、注二送左中辨許一、中將依レ給二宮素服一著二吉服一扈從行幸可レ難二自由一、仍參二謁關白一取二氣色一、被レ命云々、此事難レ示二左右一、若有レ隟可レ申二案内一、〈○中略〉行幸日功德事、左右難レ申、赦令早被レ行事、更有二何事一乎、以レ早可レ爲レ善、抑後日被レ行二万僧供一、又被レ行二賑給一如何、不比等大臣病時臨幸、只給二度者九十人一、被レ行二非常赦令一、鎌足大臣病時行幸給二大職冠一任二内大臣一、其外無二所見一、且東三條院御病、又有二行幸一、只外師伊周被レ復二本位一之宣旨下レ之、大略此由等也、
〔台記〕
p.1152 久安三年八月三十日辛酉、傳聞、外祖母疾病、入レ夜向二彼家一問レ之、不レ能二詳言一、哀而有レ餘、 九月六日丁卯、入レ夜、向二外祖母尼公家一、問二疾之病一、余大哭、祖母亦哭、涙不レ落〈俗人以レ之爲二死相一、未レ知レ所レ出、〉、頃之歸宅、 六年十二月十八日庚申、昨日奉レ書申二禪閤一〈○藤原忠實〉曰、成佐疾病、將下明日就二彼家一問上レ疾〈弔二師之疾一、不レ可二必請一レ親、而先日禪閤仰曰、近日非二我許一者、不レ可二輙他行一、仍去十四日、可レ詣二木寺一事、亦請レ之、不レ許レ是、以レ此即亦請、〉、禪閤大怒不レ許、因レ之不レ行、
〔多聞院日記〕
p.1152 永祿十年七月五日、爲二 見舞一( ○○) 宗五郎上了、明日下候由申、春辰腹氣減、珍重々々、宗介瘧減、見舞ニ來了、
〔義演准后日記〕
p.1152 慶長十三年三月九日、雨、大坂へ爲二御見舞一發足、〈○秀賴病〉伏見ヨリ乘船〈三艘〉十日卯刻ニ著了、
〔備前老人物語〕
p.1152 一蒲生氏郷の病にふし給ひしに、利休 とぶらひ( ○○○○) たりけり、此人茶の湯の師なりしかば、ねどこへむかひ入れて對面あり、利休病のありさまをみて、御煩御養生半と見え候、第一に
は御年もわかく、文武の二道の御大將にて、日本におゐて、一人二人の御大名なれば、かれにつけこれにつけ、大切なる事どもに候、慮外ながら御保養おろかなるやふにぞんず、御油斷あるまじきに候といひしかば、氏郷、
かぎりあればふかねど花はちる物を心みじかき春の山風、とあり、利休涙をながし、殊勝千萬の御事かなといひて、しばしは物をもいはずして、さやうには候へどもといひながら、涙をおさへて、
ふるとみばつもらぬさきにはらへかし雪にはおれぬ青柳の枝、といひて、後物語一つ二つしてたち歸りけり、
〔大猷院殿御實紀〕
〈三十一〉
p.1153 寛永十三年五月二十一日、仙臺中納言政宗卿のもとによぎらせらる、これ黄門兼日大病によてなり、政宗卿も世にありがたく、かたじけなきことゝかしこみ、身のくるしさをもわすれ、肩衣袴を著し右の手を、土井大炊頭利勝、左の手を、柳生但馬守宗矩にひかれ、酒井讃岐守忠勝は、後ろより腰を抱きて、御前にまいりければ、側近く立よらせ給ひて、中納言よ、病氣聞しよりは、一段よくて滿足せり、只今は、養生第一の時分ぞ、努々、油斷すべからずと仰あり、さて家司等めせ、小十はなきかとの御諚により、片倉小十郎、石母田大膳、中島監物、佐々若狹はるかの次よりすゝみ出て、拜し奉れば、黄門の病、今こそ肝要なれ、汝等看侍怠るべからずとの玉音をたまはり、各拜謝して退く、その後は、政宗卿にむかはせ給ひ、しばし御密旨あり、政宗卿もくるしげなる息の下にて、何ごとをか聞え上しかど、外に聞傳ふるものなし、さて返々自愛怠るまじ、頓て快復すべければ、その時は、城にまねき、目出度一ふくまいらせなん、何にもせよ用あらば、遠慮なく承はるべしと仰ありて、其座をたゝせ給ひ、はるか縁をへだて給ひて、越前々々とめしければ、越前守忠宗御前にかしこまる、時に中納言の病體、聞しよりも、見て肝を消したり、中納言には
よき樣に言て力を添けれど、實はかゝる病體にて、とても本復の賴みあるべからず、汝が心中察し入たり、しかし中納言卒せられたりとも、家光かくてあれば、こゝろ安かるべしと宣せたまひて、還御なれば、忠宗感涙を流して拜送し、政宗は合掌して聲さへたてず、ふしおがみつるとぞ、
〔嚴有院殿御實紀附録〕
〈上〉
p.1154 松平式部大輔忠次が病あつきよしきかせたまひ、醫官奈須玄竹恒正をつかはされ、療養せしめられ、日ごとに玄竹めして、その病體を問せたまふに、忠次いさゝかも粥などすゝるよし聞せらるれば、公にも御心ちよげに見えさせたまひ、ひたぶるに箸も下さずなど申す時は、殊の外御けしきよからぬ樣に見奉れば、忠次もこのよし承り、かしこさの餘り、強て飮膳をすゝめしとぞ、忠次閥閲の名門なるのみならず、公のいまだ儲副におはしませし時より、附そひ奉りしかば、諸老臣の中にも、とりわき親しみ思しめされし故、かく御憂念ありしものなるべし、〈史館日録〉
〔文昭院殿御實紀〕
〈一〉
p.1154 寶永六年二月四日、西城に高家、鴈間詰、奏者番出て伺ふ、けふ本城の奧に渡り給ひ、淨光院殿〈○家繼母〉 御病( ○○) をとはせ給ふ、
〔柳營秘鑑〕
〈二〉
p.1154 病氣御尋并御悔之上使奉書御香奠之次第
一御三家〈并〉國持衆病氣大切之節、爲二 御尋一( ○○) 上使被レ遣レ之、御三家ヘハ老中、國持ヘハ御奏者番被二相越一、老中病氣之節ハ、御小姓衆被レ遣レ之、何も品ニゟ賜物等有レ之、但國持之面々在國之時病氣大切之節御尋之奉書、宿次を以被レ下レ之、國持之外も、御三家之庶流抔も品ニゟ被レ下レ之事も有レ之、
〔文昭院殿御實紀〕
〈七〉
p.1154 寶永七年閏八月二日、尾張黄門の病をとはせたまひ、御側水野肥前守忠位もて鯛をおくらせたまふ、
〔嘉永明治年間録〕
〈五〉
p.1154 安政三年七月廿二日、下田奉行、物ヲ贈テ亞人コモトールノ病ヲ問フ、
此日御小人目付堀井鐵藏一人罷越、此方昨夕歸リ後、コモトール不快の儀、奉行へ申聞候處、奉行
においても深く心配被レ致樣子、訊問として、今朝拙者被二差越一候、定て順快には有レ之べく候へども、樣子如何に候哉、亞人、態々御尋被レ下難レ有存候、少々快候へども、未だ全快にも參兼候、此方、左候ハバ今日上陸相成間敷、折角療養差加、早々快復被レ致候樣存候、藥用其外手當十分にも可レ有レ之候得ども、自然藥種等差支候儀も候ハヾ、可レ被二申聞一候、醫師なり共差遣し可レ申候、亞人、御懇篤の思召難レ有奉レ存候、醫師ハ勿論藥種等、夫々船中に有レ之候間、先づ御斷申上候、此方、病態の訊問の驗迄に、乍一輕少一有合の魚類一臺、奉行差贈候間、受納可レ致候、亞人、段々御配慮感佩仕候、宜く申上候樣、提督申聞候間、可レ然御報復可レ被レ下候、此方奉行にも、此程より不快に候得ども、要用之儀有レ之、遙々渡來に付可レ致二面會一旨、昨日申入候得ども、昨夜より別て病體不出來に候間、今日の面會相斷、得と療養を加へ、提督にも夫々手當全快の上、猶折合他日面會可レ致候、〈○下略〉
〔嘉永明治年間録〕
〈九〉
p.1155 萬延元年三月四日、幕府使ヲ以テ井伊掃部頭ノ病ヲ問フ、
井伊掃部頭へ人參十五匁 右ハ痛所爲二御尋一、上使を以て被レ遣レ之、
〔今昔物語〕
〈二十四〉
p.1155 大江匡衡妻赤染讀二和歌一語第五十一
今昔、大江匡衡ガ妻ハ、赤染ノ時望ト云ケル人ノ娘也、其ノ腹ニ擧周ヲバ産マセタル也、其ノ擧周勢長シテ文章ノ道ニ止事无カリケレバ、公ニ仕リテ遂ニ和泉守ニ成ニケリ、其國ニ下ケルニ、母ノ赤染ヲモ具シテ行タリケルニ、擧周不二思懸一身ニ病ヲ受テ、日來煩ケルニ、重ク成ニケレバ、母ノ赤染歎キ悲テ思ヒ遣ル方无カリケレバ、住吉明神ニ御幣ヲ令レ奉テ擧周ガ病ヲ祈ケルニ、其ノ御幣ノ串ニ書付テ奉タリケル、
カハラムトヲモフ命ハヲシカラデサテモワカレンホドゾカナシキ
ト、其ノ夜遂ニ愈ニケリ、
〔台記〕
p.1155 康治三年五月九日己未、召二阿闍梨隆賢一、爲レ愈二少納言通憲疾一、令レ修二千手供一、〈於二本房一修レ之〉是且爲二易筮師一、
且爲二當世才士一、余深傷レ之故也、但不レ可レ令二人知一レ之、不レ可レ告二通憲一之由、仰二含闍梨一了、余又滿二千手陀羅尼二十一反一、通憲、自二能野路一受二此病一、此闍梨、年來熊野入功、仍殊所レ仰也、陰陽師安部泰親來、曰二通憲疾病一、余問曰、筮吉否、對曰、遇二兌
之一レ坤 余占曰、不レ死、病必愈矣、非二唯病之愈而已一、又逢二君之恩一、而勿レ憂已、今所レ動四爻、仍以二兌坤兩卦大意一占レ之、就レ中逢二君之恩一、偏據二坤卦之意一、 十五日乙丑、通憲病愈、〈昨日愈〉千手供結願、七日滿レ之止、通憲愈之故也、召二隆賢一示二感悦之由一、
〔時慶卿記〕
p.1156 慶長十年五月十一日、時直ハ親王〈○政仁〉御方へ被レ召テ參、今度御煩中、御伽衆御振廻在レ之而、艮子一枚ヅヽ給由也、女御殿ノ御里ニテノ儀也、予ハ後ニ女御殿見廻申候、龍山モ御出京ニテ、懸二御目一、藤咲出御詠アリ、予ニモ可レ申由候間申入、龍山、軒近き花橘の香をそへて五月にかヽる庭の藤なみ、トアリシニ、夏かけて軒ばの松に咲そふはむべなりけりな北の藤なみ、ト申候、
〔義演准后日記〕
p.1156 慶長十三年三月廿六日、一昨日大坂へ笋進上、彌秀賴公御本服云々、珍重々々、使侍從、 四月十日、昨日秀賴公ヨリ小袖二重拜領、禁裏并諸家、諸門、今度御不例ニ大坂へ見參、其御返禮也、
〔御湯殿の上の日記〕
p.1156 慶長十三年四月八日、ひでより、こんどのわづらひ、みかぐらなど色々御きも入ゆへ、ほんぶくにてかたじけなきとて、御禮にいちのかみのぼせらるヽ、ひでより、大たか十でう、志ろかね百まいしん上、御ふくろより、ちやうし百きん、ぢん百兩しん上、いちのかみ、もろはく三か、はくてう一折、みつかん一折しん上、女院の御所へも、女御の御かたへも、ひでより御ふくろより參らる、女院の御所へ御すそわけ、ちやうし十きん、ぢん、大たかまいらせらるヽ、八でう殿をはじめ、御所々々へも、大たか、ちやうしまいらせらるヽ、
〔憲敎類典〕
〈一ノ十八御不例〉
p.1156 延享四丁卯年二月晦日
加賀守殿御渡
一大御所樣御床揚に付、爲二御祝儀一、松平加賀守溜詰、鷹之間詰、明朔日御禮廻、居殘り御祝儀申上、夫ゟ西丸〈江〉出仕、大御所樣、大納言樣〈江〉御祝儀可二申上一候、
一鴈間詰嫡子ハ、不レ及二其儀一候、
一右之内在邑病氣幼少之面々ハ、使者等不レ及二差越一候、
一御三家紀伊宰相殿、尾張中將殿にも被二居殘一、御祝儀被二申上一候事、
右之通、大目付〈江〉申渡候間、爲二心得一相達候、
二月
〔柳營諸舊例的〕
〈一〉
p.1157 一〈年始八朔御太刀〉獻上〈願伺〉之部
一文化五戊辰年十二月
年始御太刀獻上伺 〈寄合〉水上織部
私儀病氣罷在、御目見未レ仕候得共、來年始御太刀目録以二使者一獻上仕度、大納言樣〈江〉も同樣獻上仕度奉レ存候、家督後初而之儀ニ付、此段奉レ願候、以上、
十二月
〈寄合〉水上織部
〔官中秘策〕
〈二十三〉
p.1157 病後御禮( ○○○○) 之事
一快氣之節、御年寄〈江〉御案内申、自身罷越懸二御目一、御内意伺レ之、御用番〈江〉罷越懸二御目一、御禮之儀奉レ願候、或者心易御旗本衆ヲ以、年寄〈江〉御内意伺レ之、任二御差圖ニ一嫡子ハ病後御禮之並承合、其通申上、其後御用番〈江〉申上ル、明幾日何時登城、病氣後之御禮可二申上一旨、御連名之御切紙來ル、御請使者を以申上ル、當日刻限より已前登城、〈月代ヲ剃、常服半袴、〉獻上箱肴先〈而〉留守居持參、御玄關より上ル、目録無レ之、御禮相濟退出、御老中初如レ例爲二御禮一參上、
〔德川禁令考〕
〈十九疾病忌服〉
p.1158 文化五戊辰年六月
病後出勤之節御禮有無ノ儀ニ付達
一病氣百日内ニ而、其後忌中ニ相成、煩日數とも百日ニ及び候共、忌明出勤致し候ハヾ、御禮申上ニ不レ及候事、
一忌中前後共、病氣ニ而百日ニ及び候者、御禮可二申上一事、
一忌中ニ相成、忌明出勤無レ之病氣候ハヾ、忌明より之煩日數を以、御禮可二申上一事、
右之趣、爲二心得一相達置候事、
其二
病後御禮之儀、向後者煩百日内ニ而出勤致し候ハヾ、御目通者無レ之候共、御禮ニ不レ及候、煩百日ニ及候ハヾ、御禮可二申上一事、
右之通、寄々可レ被二達置一候事、
六月
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1158 頭風 魏志云、大祖苦二頭風一、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1158 三國志六十五卷、晉陳壽撰、宋裴松之注、原書王粲傳注、引二典略一云、大祖先苦二頭風一、此所レ引蓋是、按、病源候論頭面風候引二養生方一云、飽食仰臥、久成二氣病頭風一、又云、飽食沐レ髮作二頭風一、注文十三字、舊及山田本、昌平本、曲直瀨本、廣本皆無、獨下總本有レ之、今附存、按、類聚名義抄、伊呂波字類抄、亦有二是二訓一、
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1158 頭 風( フウ)
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1158 頭風( ツフウ)
〔覆載萬安方〕
〈四〉
p.1158 首風〈頭風也〉
論曰、内經云、新沐中風則爲二首風一、首風之状、頭面多レ汗、惡風當先レ風一日則病甚、頭痛、不レ可二以出一レ内、至二其風日一則病少愈、夫諸陽之脈皆會二於頭一、平居安静、則邪無二自而入一、新沐之人、皮腠既疎、膚髪濡漬、不レ愼二於風一、風邪得レ乘レ之、故客二於首一而爲レ病、其證、頭面多レ汗、惡風頭痛不レ可二以出一レ内者、以二邪氣之客一也、當先レ風一日則病甚、至二其風日一則少愈者、陽之氣、以二天地之疾風一名二之風行陽化一、頭者諸陽之會、與レ之相應也、
〔五體身分集〕
〈上〉
p.1159 頭病分
頭風治方云、頭風トハ、頭痛、目クルメキ、面フルイ、風吹、天クモル時ハ、彌頭鼻痛トミヘタリ、
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1159 頭 痛( ツウ)
〔瘍科秘録〕
〈八〉
p.1159 頭痛
頭痛、左カ右カ一方ニ限リテ痛ムヲ 偏頭痛( ○○○) ト爲シ、百會天庭及ビ鼻梁骨ノ痛ムヲ 正頭痛( ○○○) ト云フ、至テ治シ難キモノナリ、多クハ宿疾ニナリ、氣候ノ寒暄ニ移リ、或ハ風雨ノ催ス前ニ發スルモノナリ、發スルコト瘧ノ如ク、時ヲ 期( カギリ) テ痛ミ、時ヲ期テ止ム、多ハ平旦ニ發シ、午後ニ至レバ止ムモノナリ、
〔大猷院殿御實紀附録〕
〈一〉
p.1159 廿に一二あまらせ給ふ頃、眩暈をやませられ、名ある藥師ども日夜伺公して、御藥奉りけるに、少しさはやがせ給ひ、御食進ませられしかば、老臣等みな悦あへり、そのとき岡本玄冶、諸品をめして、食の進むは如何にと御尋なり、玄冶、命は食に在と申せば、何の病にも食すヽみ候へば、自然と愈るものにて、君の御病も日をへて御平快有べしと申す、公の仰に、そは汝が心得違なり、おほよそ人食足らざれば、形状おとろへ、飽過れば脾胃をそこなふゆへに、足らず過ず程よく用ゆれば、一身を養ふゆへ、命は食に在とはいふなり、しかるをたヾおほくのみくらふをもてよしとおもふは、いとひが事なりとのたまひければ、玄冶感服して、只今の台命により、はじめて古語の深長なる理をわきまへ侍りぬとて、御前を退きしとなり、〈名將名言記、〉
〔柳營諸舊例的〕
〈三〉
p.1160 文化三寅年三月廿五日
月代願 屋代阿波守
私儀、持病之積氣ニ而、塞強、相勝不レ申候ニ付、中川専庵療治請申候處、此節逆上、 眩暈強( ○○○) 御座候間、月代仕候て可レ然旨、專庵申聞候、依レ之爲二養生一月代仕度奉レ願候、以上、
三月廿五日 〈寄合〉屋代阿波守
〈御附札〉願之通、月代可レ被レ致候、
〔柳營諸舊例的〕
〈二〉
p.1160 文化三丙寅年九月十三日
隱居家督願 〈寄合〉藤堂駒五郎
隱居家督奉レ願候覺〈○中略〉
私儀、年來持病之疳積ニ而、難儀仕候處、近來度々差發、其上差塞 逆上仕( ○○○) 、 眩暈強( ○○○) 、別而相勝不レ申、此上全快仕、出仕可レ仕體無二御座一候、依レ之私儀隱居被二仰付一、養子揔領主馬〈江〉家督無二相違一被二下置一候樣奉レ願候、以上、
文化三寅年九月十三日 〈寄合〉藤堂駒五郎印判
松平能登守殿〈○以下人名略〉
〔柳營諸舊例的〕
〈三〉
p.1160 文化二丑年二月三日
月代願 〈寄合〉長田三右衞門
私儀中症今以相勝不レ申候ニ付、御番醫師成田宗筑藥服用仕罷在候處、此節 逆上強( ○○○) 御座候ニ付、月代仕候て可レ然旨、宗筑申聞候間、依レ之爲二養生一、月代仕度奉レ願候、以上、
二月三日 〈寄合〉長田三右衞門
〈御附札〉願之通、月代可レ被レ致候、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1161 失意 日木紀私記云、失意、〈古々路萬止比〉
〔日本書紀〕
〈七景行〉
p.1161 四十年、是歳、日本武尊、更還二於尾張一、〈○中略〉於レ是聞三近江膽吹山有二荒神一、即解レ劒置二於宮簀媛家一、而徒行之、〈○中略〉時山神之、興レ雲零レ水、〈○中略〉然凌レ霧強行、方僅得レ出、猶 失意( オロケ/コヽロマドヒ) 如レ醉、
〔三代實録〕
〈五十光孝〉
p.1161 仁和三年七月卅日辛丑、申時地大震動、〈○中略〉諸司舍屋、及東西京廬舍、往々顛覆、壓殺者衆、或有二 失神( ○○) 頓死者一、亥時亦震三度、五畿内七道諸國同日大震、官舍多損、海潮漲レ陸、溺死者不レ可二勝計一、
〔下學集〕
〈上支體〉
p.1161 眼膜( マケ) 〈目病云也〉
〔源氏物語〕
〈十三明石〉
p.1161 御めのなやみ( ○○○○○○) さへ、この比おもくならせ給て、ものごヽろぼそくおぼされければ、七月廿よ日のほどに、又かさねて京へかへり給べき宣旨くだる、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1161 治二目不明一方第十三
病源論云、夫目者五藏六府陰陽精氣皆上注二於目一、若爲二風耶所一レ侵、則令二目暗不一レ明也、養生方云、恣樂傷魂、魂通二於目一、損レ肝則目暗、
〔大鏡〕
〈一三條〉
p.1161 つぎのみかど三條院のみかどと申き、〈○中略〉院にならせ給ひて、御目を御らんぜざりしこそいといみじかりし、ことに人の見たてまつるには、いさヽかかはらせ給ふ事おはしまさヾりければ、そらごとのやうにぞおはしましける、御まなこなどもいときよらにおはしますばかり、いかなるをりにか、とき〴〵は御らんずる時もありけり、みすのあみをの見ゆるなどもおほせられて、一品宮〈○三條皇女禎子内親王〉ののぼらせ給へりけるに、辨のめのとの御ともに候が、さしぐしを左にさヽれたりければ、あこよ、などくしはあしくさしたるぞとこそおほせられけれ、この宮を、ことのほかにかなしうしたでまつらせ給ひて、御ぐしのいとおかしげにおはしますを、さぐり申させ給ひては、かくうつくしうおはするみぐしをえ見奉らぬこそ心うけれ、くちおしけれと
て、ほろ〳〵となかせ給ひけるこそ、あはれに侍れ、わたらせ給ふたびごとには、さるべき物を、かならず奉らせ給ふ、〈○中略〉この御めのためにも、よろづにつくろひおはしましけれど、そのしるしある事もなきいといみじき事にて、もとより御風をもくおはしますに、くすしどもの、大小寒の水を御ぐしにいさせ給へと申ければ、こほりふたがりたる水をおほくかけさせ給ひけるに、いといみじくふるひわなヽかせ給ひて、御いろもたがひおはし給ひたりけるなん、いとあはれにかなしく、人々見まいらせ給けるとぞうけたまはりし、御やまひにより金液丹といふ藥をめしたりけるを、その藥くひたる人は、かく目をなんやむなど人は申しかど、まことには桓算供奉の御ものヽけにあらはれて申けるは、御くびにのりゐて、左右のはねを打おほひ申たるに、うちはぶきうごかすおりに、すこし御らんずるなりとこそいひ侍りけれ、
〔大鏡〕
〈六内大臣道隆〉
p.1162 御目〈○隆家〉のそこなはれ給ひにしこそ、いと〳〵あたらしかりしか、よろづにつくろはせ給ひしかども、やませ給ひて、御まじらひたえ給へるころ、大貳の闕いできて、人々のぞみのヽしりしに、唐人の目つくろふがあるなるに、見せんとおぼして、こヽろみにならばやと申給ひければ、三條院の御時にて、又いとをしくもやおぼしめしけん、ふたことヽなくならせ給ひてしぞかし、
〔榮花物語〕
〈十二玉村菊〉
p.1162 この隆家の中なごん、月ごろ めをいみじうわづらひ( ○○○○○○○○○○) 給て、よろづ治しつくさせ給へど、なをいとみぐるしうて、いまはことに御まじらひなどもし給はず、
〔台記〕
p.1162 仁平三年九月廿一日丁未、上卿左衞門督〈重通、齋宮上也、〉又曰、上〈○近衞〉 目疾( ○○) 、近日殊增云々、 廿三日己酉、入レ夜參二鳥羽宿所一、〈禪閤猶御〉依二下痢一不レ能二參院一、禪閤仰曰、御惱無二增減一、昨日參入、法皇語曰、天子僞疾歟、去比關白申曰、上疾病 將レ失レ明( ○○○) 、志在二遜讓一、將レ禪二雅仁親王之息童一、〈件童時出家、爲二仁和寺法親王〈覺法〉之弟子一、〉朕不レ許之、關白奏請再三、朕答曰、既爲二重事一、不レ能二獨決一、將與二入道一議定焉、其後關白不レ奏二此事一、美福門院入内時、上稱レ疾在二暗
室一謁之、仍女院不レ見二御體一云々、朕所レ疑者、關白欲下以二己力一立二幼主一、攝政以專中威權上、是以勸二進天子一以二遜讓一恐二朕不一レ許、令二上稱一レ疾歟、關白結構如レ此、朕子即世天下將レ亂、鳴呼哀哉、〈已上法皇仰〉案此事關白狂歟、彼童即信者、又雅仁親王猶在二親王一、如專政豈令二關白執權一乎、關白所レ案至愚々々、〈已上禪閤仰〉
〔今物語〕
p.1163 念佛者の中に、つちゆいふけつと云僧有けり、或所に板ぶろと云物をして、人々入けるに、此僧 目をやむ( ○○○○) よしいひければ、目をひさぎて入はくるしかるまじきよしを、人々いひければ、さらばとて目をゆひて、板ぶろのありさまもしらぬものヽ、目は見えざりければ、風呂の前にわき戸のうちのありけるに、ふろと心えて、はだかにてかヽへたる所もうちとけてゐにけり、
〔塵塚談〕
〈上〉
p.1163 僧に眼病ある事まれなり、禪宗などはわけてなきやう也、魚鳥の肉膩厚味の物を多く喰ざるがゆゑと見へたり、不如法の僧、一向宗の僧にはそこなふ者往々これあり、又力つよき者、己が分量に過て力業を事とし、大石などの重きを擧るもの、或は過分の重荷をつねに持ものは、盲となるもの多し、乘馬には盲馬になる事たへてなし、小荷駄馬は重荷を附る故歟、盲馬多し、是等にて推量るべし、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1163 目翳 病源論云、目翳、〈於麗反、和名比、〉目膚眼精之上有レ物、如二蠅翅一是也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1163 醫心方同訓、按今俗亦有二 宇波比( ○○○) 、 曾古比( ○○○) 之稱一、比隔レ物之名、氷訓レ比、孫訓二比古一、亦與レ此同、新撰字鏡、眚目生レ翳也、万介、醫心方膚亦訓二末計一、〈○中略〉原書目膚翳候、作下膚翳者明眼睛上有レ物如二蠅翅一者上即是、醫心方引睛作レ精、即是作二是也一、與レ此同、按説文、醫訓二華蓋一、轉爲二凡蔽之稱一、山田本精下有二之字一、那波本同、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1163 治二目膚翳一方第十六
病源論云、陰陽之氣、皆注二於目一、若風耶淡氣垂二於府藏一、府藏之氣虚實不レ調、故氣衝二於目一、久不レ散、變生二膚翳一、膚翳者、明眼精上有レ物、如二蠅翅一者是也、眼論云、若因レ時病後眼痛生二白鄣一、此爲レ翳也、若因二病後一生二赤宍一
者、此爲二膚鄣一也、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1164 httpss://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/if0000r11641.gif 文選風賦云、得レ目爲レ 、〈亡結反、師説多々良女、〉
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1164 按釋名、目皆傷赤曰レ 、 末也、創在二目兩末一也、是 f可レ訓一多々良女一、説文
兜、目眵也、又云、眵、目傷レ眥也、一曰 兜也、又云
、目蔽レ垢也、讀若レ兜、是 兜即 、依レ之 兜可レ訓二米久曾一、不レ得レ訓二多々良女一、眵乃有二米久曾多々良女兩義一、不下與二釋名所一レ云同上、病源候論、有二目赤爛眥候一、千金方有下治二風眼爛眥一方上、皆可レ訓二多々良女一、按醫心方訓二多々禮女一、今本文選同、新撰字鏡、眵訓二太々禮目一、謂二目爛傷一也、
〔倭訓栞〕
〈中編十三多〉
p.1164 たヽらめ 和名抄に をよめり、今いふたヾれめのことなり、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1164 雀盲 病源論云、人至レ暮不レ見レ物、世謂二之雀盲一、〈俗云度利女〉謂下如二鳥雀一瞑則無上レ所レ見也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1164 原書雀目候、暮作二瞑則二字一、醫心方引作二暮則一、昌平本雀盲作二雀目一、標目同、下總本標目作二雀盲一、正文作二雀目一、雀目與二原書一合、然本草雀條、千金方及醫心方所レ引葛氏方新録方耆婆方録驗方、皆有二雀盲一、原書謂如作二言其如三字一、醫心方引作二言如一、原書則無作二便無一、
〔伊呂波字類抄〕
〈止病瘡〉
p.1164 雀盲〈トリメ〉 雀目〈同〉
〔醫心方〕
〈五〉
p.1164 治二 雀盲一( トリメ) 方第十五
病源論云、人有二晝而精明、至レ暮則不一レ見レ物、世謂レ之爲二雀目一、言如二鳥雀无一レ所レ見也、千金方治二雀目一術、至二黄昏時一、看二雀宿處一打二驚之一、雀起飛、乃呪曰、柴公我還、汝盲汝還、我明、如レ此三日、瞑三過爲レ之明レ眼也、葛氏方治二雀盲一方、以二生雀頭血一傅レ目、可二比夕作一レ之、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1164 雀目( シヤクモク) 俗ニ云トリ 目( メ) ナリ、酉刻ノ前ヨリ見ザルナリ、病源論ニ云、人晝ハ晴明ニシテ、暝ニ至テ便チ物ヲ見ザル、コレヲ雀目ト云、言心ハ、鳥雀ノ瞑ニシテ、便見トコロナキガ如シ、
〔松屋筆記〕
〈六十一〉
p.1164 雪燒并鷄目の病
高麗陣日記中卷〈卅丁才〉吉州より飛脚到來の條に、人夫雪燒ニアヒテ、手足不レ叶、或ハ鳥目ニナリ、役ニタヽズと見ゆ、今俗に霜燒といふも有、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1165 眩 釋名云、眩〈音懸、和名女久流女久夜萬比、〉懸也、目所レ視動亂如レ懸レ物、搖々然不レ定也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1165 曲直瀨本、下總本作二音縣一、並與二廣韻一合、按醫心方訓二女久流女久一、空物語、新撰字鏡、眩訓二目女久留一、〈○中略〉所レ引釋疾病文、今本作二遙々一、太平御覽引與レ此同、按説文、有レ搖無レ遙、知搖遙古今字、又按説文、眩目無二常主一也、
〔異疾草紙〕
p.1165 ちかごろ男ありけり、風病によりて、 ひとみ( ○○○) つねに ゆるぎ( ○○○) けり、嚴寒にはだかにてゐたる人の、ふるひわなヽくやうになむありける、
〔伊呂波字類抄〕
〈志病瘡〉
p.1165 珠管〈シノツキ、目病也、〉
〔醫心方〕
〈五〉
p.1165 治二目珠管一方第十九
病源論云、目珠管者、風熱淡飮積二於藏府一、使三肝藏血氣薀積衝二發於眼一、津液變生二結聚一、状如二珠管一也、
〔醫名彙解〕
〈六〉
p.1165 珠管( シユクハン) 又目珠管ト云リ、病源ニ云、目是五藏ノ精華、宗脈ノ聚ル所ナリ、モシ風熱痰飮臓腑ヲ漬セバ、肝ノ藏ヲシテ血氣蘊積シ、衝テ眼ニ發シ、津液變ジテ結聚ヲナシ、状、珠管ノ如ナラシム、按ルニ、目中へ珠ノ管ノ如ナル肬肉ノ生ズル義ナルベシ、
〔諸病源候總論〕
〈二十八〉
p.1165 目珠管候
目是五臓六腑之精華、宗脈之所レ聚、肝之外候也、肝藏レ血、若府藏氣血調和、則目精彩明淨、若風熱痰飮漬二於臓腑一、使下肝藏血氣蘊積、衝發二於眼一、津液變生二結聚一、状如中珠管上、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1165 聤耳 病源論云、聤耳、〈上音亭、和名美々太利、〉風熱耳生二膿汁一也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1165 醫心方同訓、按美々太利、耳垂之義、醫心方又亭耳、訓二美々久曾一、與二耵聹一混誤、〈○中略〉諸病源候論五十卷、隋巣元方等撰、新唐書亦云、巣氏諸病源候論、現在書目録載云二病源論一、與レ此
同、原書聤耳候、作下熱乘レ虚而入二於其經一、邪隨二血氣一至レ耳、熱氣聚則生二膿汁一、故謂中之聤耳上、醫心方引、作二風熱乘レ虚入一レ經、此所レ引字句少異、按説文、無二聤字一、古蓋用二停字一、風熱停滯、耳中生レ膿也、
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1166 聤耳( ミヽタレ) 耵聹( ミヽダリ)
〔醫心方〕
〈五〉
p.1166 治二 聤耳一( ミヽタリ) 方第四
病源論云、耳者宗脈之所レ聚、腎氣之所レ通、足少陰腎之經也、勞傷血氣風熱、乘レ虚入レ經、其血氣至レ耳、熱氣聚則生二膿汁一、謂二之聤耳一也、葛氏方聤耳中痛膿血出方、 釜月下灰( カマツチ/カマノシタノハヒ) 吹滿レ( フキアツ/ミチヨ) 耳令二深入无一レ苦、即自丸出、
〔瘍科秘録〕
〈八〉
p.1166 聤耳
聤耳ハ、俗ニ云フミヽダレノコトナリ、幼少ノ者ニ多ク、老大ノ者ニ少シ、病因ハ耳中ノ潰瘍ナリ、痘瘡麻疹等ヲ患ヘテ後、餘毒耳中ヘ入リテ聤耳ニナル者アリ、初發ハ耳中ノ痛ミ甚シク、惡發熱、頭痛等アリテ飮食モ進マズ、或ハ耳ノ前後マデモ微シク腫レ、頤ノ下ニ 累々( グリ〳〵) トシテ核ヲ結ヒﾞ、四五日ヲ經レバ、耳中ヨリ膿自ラ出デヽ痛ミ減ズルナリ、甚臭氣アリ、久フシテ臭水トナリ、常ニ淋瀝トシテ止マズ、遂ニ聾トナル者多シ、或ハ耳中 卒( ニハカ) ニ疼痛スルコト刺ガ如ク、其人痛ミニ堪ガタク反覆顛倒シ、然ドモ膿水一滴モ出デズ、一兩日ニシテ自ラ愈ルモノアリ、俗ニカラミヽト云フ、此症ハ但腫レタルノミニテ膿ニナラズ、消散シタルナルベシ、聤耳ハ小患ナレドモ至テ治シ難キモノナリ、一旦治スルモ再發シテ長ク愈ザルモノ多シ、聤耳ニハ限ラズ、九竅ノ瘡瘍ハ、總テ治シ難キモノナリ、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1166 治二耳鳴一方第二
病源論云、耳者宗脈之所レ聚、宗脈虚則風耶乘レ虚、隨レ脈入レ耳、與レ氣相撃、故爲二耳鳴一、千金方治、耳鳴如二流水聲一、不治久成レ聾、方生 烏( オウ) 頭 蒸( ムシ/附子一名也) 、削如二棗核大一、塞レ耳日一夜一 易( カフ) 、不レ過二三日一愈、亦治二癢及風聾一、
〔塵塚物語〕
〈五〉
p.1166 赤松律師兵書之事
一耳俄に鳴る事あり、子寅辰巳午申の時ならば吉事なり、丑卯未酉戌亥の時はあしヽ、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1167 寒耳( カンニ) 〈耳病〉
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1167 塞鼻 釋名云、鼻塞曰レ齆、〈音一共反、和名波奈比世、〉洟久不レ通、遂久不レ通、遂至二窒塞一也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1167 山田本注首有二音字一、那波本同、新撰字鏡、齆訓二波奈志戸一、醫心方齆訓二波奈布佐加留一、〈○中略〉原書齆作レ鼽、太平御覽引與レ此同、按玉篇、齆烏貢切、鼻病也、廣韻、鼻塞曰レ齆、玉篇、鼽渠牛切、月令人多二鼽
一、廣韻同、二字其音異、然説文無レ齆有レ鼽云、病レ寒鼻塞也、知齆即俗鼽字、有二二音一者、後世轉訛也、原書洟上有二久也二字一、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1167 塞鼻( ハナヒセ/ハナフサガル)
〔伊呂波字類抄〕
〈波病瘡〉
p.1167 〈ハナフタカル〉
〔醫心方〕
〈五〉
p.1167 治二鼻塞涕出一方第卅一
病源論云、夫津液涕唾、得レ熱則乾燥、得レ冷則流逸、不レ能二自收一、肺氣通二於鼻一、其藏有レ冷、冷隨レ氣垂二於鼻一、故津液涕不レ能レ息二收之一、
〔醫心方〕
〈二十五〉
p.1167 治二小兒鼻塞一方第五十八
病源論云、小兒風冷氣入二於頭腦一、停二滯鼻間一則氣不二宣和一、結聚不レ通、故鼻塞也、
〔今昔物語〕
〈二十八〉
p.1167 池尾禪珍内供鼻語第二十
今昔、池ノ尾ト云フ所ニ、禪珍内供ト云フ僧住キ、〈○中略〉然テ此ノ内供ハ鼻ノ長カリケル五六寸許也ケレバ頷ヨリモ下テナム見エケル、色ハ赤ク紫色ニシテ、大柑子ノ皮ノ樣ニシテツブ立テゾ㿺タリケル、其レガ極ク痒カリケル事无レ限シ、然レバ提ニ湯ヲ熱ク涌シテ、折敷ヲ其ノ鼻通ル許ニ
テ、火ノ氣ニ面ノ熱ク炮ラルレバ、其ノ折敷ノ穴ニ鼻ヲ指シ通シテ、其ノ提ニ指入レテ茹、吉ク茹テ引出タレバ、色ハ紫色ニ成タルヲ、
樣ニ臥シテ鼻ノ下ニ物ヲカヒテ、人ヲ以テ踏スレバ、
黑クツブ立タル穴毎ニ煙ノ樣ナル物出ヅ、其レヲ責テ踏メバ白キ小虫ノ穴毎ニ指出タルヲ、鑷子ヲ以テ拔ケバ、四分許ノ白キ虫ヲ穴毎ヨリゾ拔出ケル、其ノ跡ハ穴ニテ開テナム見エケル、其レヲ亦同ジ湯ニ指入レテサラメキ、湯ニ初ノ如ク茄レバ、鼻糸小サク萎ミ暖テ例ノ人ノ小キ鼻ニ成ス、亦二三日ニ成ヌレバ、痒クテ㿺延テ本ノ如クニ腫テ大キニ成ヌ、如此クニシツヽ腫タル日員ハ多クゾ有ケル、然レバ、物食ヒ粥ナド食フ時ニハ、弟子ノ法師ヲ以テ平ナル板ノ一尺許ナルガ、廣一寸許ナルヲ鼻ノ下二指入レテ向ヒ居テ、上樣ニ指上サセテ物食畢マデ居テ、食ヒ畢ツレバ打下シテ去ヌ、其レニ異人ヲ以テ持上サスル時ニハ、惡ク指上ケレバ六惜クテ物モ不レ食成ヌ、然レバ此ノ法師ヲナム定メテ持上サセケル、其レニ其ノ法師心地惡クシテ不二出來一時ニ、内供朝粥食ケルニ、鼻持上ル人ノ无カリケレバ何カセム爲ルナト繚フ程ニ、〈○中略〉童召將來ヌ、童鼻持上ノ木ヲ取テ直シク向ヒテ、吉キ程ニ高ク持上テ粥ヲ飮スレバ、内供此ノ童ハ極キ上手ニコソ有ケレ、例ノ法師ニハ增タリケリト云テ粥ヲ飮ル程ニ、童顔ヲ 樣ニ向テ鼻ヲ高ク簸ル、其ノ時ニ童ノ手篩テ鼻持上ノ木動ヌレバ、鼻ヲ粥ノ鋺ニフタト打入ツレバ、粥ヲ内供ノ顔ニモ童ノ顔ニモ多ク懸ヌ、内供大キニ嗔テ紙ヲ取テ頭面ニ懸タル粥ヲ巾ツヽ、己ハ極カリケル心无シノ乞匄カナ、我ニ非ヌ止事无キ人ノ御鼻ヲモ持上ムニハ、此ヤセムト爲ル不覺ノ白者カナ、立ネ己ト云テ追立ケレバ、童立テ隱レニ行テ、世ニ人ノ此ル鼻ツキ有ル人ノ御バコソハ外ニテハ鼻モ持上メ、鳴呼ノ事被レ仰ルヽ御房カナト云ケレバ、弟子共此レヲ聞テ外ニ迯去テゾ咲ケル、此レヲ思フニ實ニ何カナリケル鼻ニカ有ケム、糸奇異カリケル鼻也、〈○下略〉
〔徒然草〕
〈上〉
p.1168 唐橋中將といふ人の子に、行雅僧都とて、教相の人の師する僧ありけり、氣の上る病ありて、年のやう〳〵たくる程に、 鼻の中ふたがり( ○○○○○○○) て、息も出がたかりければ、さま〴〵につくろひけれど、煩はしく成て、目眉額なども腫まどひて、打おほひければ、物も見えず、二の舞の面のやう
に見えけるが、只おそろしく鬼の顔になりて、目は頂のかたにつき、顔の程鼻になりなどして、後は坊の内の人にも見えず、こもり居て、年久しく有て、猶わづらはしく成て死にけり、かヽる病もある事にこそありけれ、
〔倭名類聚抄〕
〈三瘡〉
p.1169 鼻 野王案皶、〈音砂、和名邇岐美波奈、〉鼻上皰也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二瘡〉
p.1169 按玉篇皻荘加切、齇壯加切、並屬二照母一、砂色加切、屬二審母一、其音不レ同、此以レ砂音レ皶恐誤、醫心方云、鼻皶和名 案加波奈( ○○○○) 、今俗呼二石榴鼻一、〈○中略〉今本玉篇皮部云、皻皰也、今作レ齇、鼻部云、齇鼻上皰也、與二此所一レ引合、按龍龕手鑑、皻皶同、
〔伊呂波字類抄〕
〈仁病瘡〉
p.1169 鼻〈ニキミハナ、鼻上皰也、〉 皶鼻〈同〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1169 皶鼻( ニキミハナ) 〈鼻上皰也〉
〔倭訓栞〕
〈中編九佐〉
p.1169 ざくろばな 酒齄鼻をいふ、石榴鼻の義、形色をもてよべり、
〔醫心方〕
〈四〉
p.1169 治二鼻皶一方弟十六
病源論云、此由二飮酒一熱勢衝レ面、而遇二風冷之氣相摶一所レ生也、故令二鼻面間生一レ皶、赤皰䢌々然者是也、〈和名安加波奈〉
〔病名彙解〕
〈七〉
p.1169 鼻齄( ビサ) 俗ニ云ザクロバナ、酒ヲ飮人ニ多クハ生ズル故ニ、又酒齄鼻ト云リ、入門ニ云、鼻齄ハ準頭紅ナリ、甚シキトキハ紫黑、飮酒ニ因テ血熱肺ニ入、風寒ヲ被リ、鬱スルコト久シキトキハ、血凝濁シテ色赤ク、或ハ飮ザルモノハ、肺風血熱ナリ、
〔瘍科秘録〕
〈五〉
p.1169 酒皶鼻
酒皶鼻、酒客ニ多キ病ユエ名ヅク、又單ニ酒皶トモ云ヒ、又皶鼻トモ云フ、本邦ニテハザクロハナト稱ス、治シ難キモノナリ、初ハ準頭小疹ヲ生ジテ赤ク、甚シキモノハ、疙
トシテ兩顴マデモ蔓延シテ紫黑色ニ變ズ、鼻モ腫レテ一倍長大ニナリ、顔色ヲ變ズ、 粉刺( ニキビ) ヲ合病スルモノニテ、鼻ヲ強
ク撮ムトキハ、毛竅ヨリ粉ノ如キモノ出ルナリ、
〔伊呂波字類抄〕
〈波病瘡〉
p.1170 〈ハナシヒ〉
〔下學集〕
〈上支體〉
p.1170 齆鼻( ハナタケ)
〔倭訓栞〕
〈中編二十波〉
p.1170 はなしべ 新撰字鏡に鼽齆などをよめり、鼻病と見えたり、鼽は鼻流二清涕一なり、鼻淵ともいへり、齆は 鼻痔( ○○) なり、 はなたけ( ○○○○) ともいへり、
〔病名彙解〕
〈七〉
p.1170 鼻齆( ヒヲウ) 病源ニ云、邪氣太陰ノ經ニ乘ジ、其氣鼻ニ蘊積スルトキハ、津液擁塞シ、鼻宣調ナラズ、故ニ香臭ヲ知ラズシテ、齆トナルナリ、齆齆ハ、字書ニ、音甕、鼻塞ルヲ齆ト云ナリ、
〔病名彙解〕
〈七〉
p.1170 鼻痔( ビシ/○○) 入門ニ云、肺氣熱極日久シテ凝結濁結シテ瘜肉ヲナシ、棗ノ如ク鼻瓮ヲ滯塞スルコト、甚シキモノハ又鼻齆ト名ク、按ズルニ、是俗ニ云ハナタケナルベシ、瘜肉ノコトニハアラジ、
〔病名彙解〕
〈三〉
p.1170 瘜肉( ソクニク/○○) 俗ニ云 ハナタケ( ○○○○) 也、入門ニ云、鼻痔日久シフシテ凝濁シテ瘜肉ヲナス、棗ノ如クニシテ鼻瓮ヲ滯塞ス、甚シキモノハ又鼻齆ト名ヅク、
〔日本書紀〕
〈二神代〉
p.1170 海神乃集二大小之魚一逼問之、僉曰、不レ識、唯赤女〈赤女鯛魚名也〉比有二 口( /○) 疾一( ヤマヒ/○) 而不レ來、固召之、探二其口一者果得二失鉤一、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1170 喎僻 説文云、〈咼口蛙反、或作レ喎、和名久知由賀無、〉口戻也、病源論云、喎噼則言語不レ正也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1170 玉篇、咼喎同上、醫心方噼同訓、新撰字鏡、喎訓二由加牟一、靈異記喎斜同訓、 所レ引口部文、原書戻下有二不正二字一、慧琳音義三引、並無二不正二字一、與レ此同、 原書風口喎候云、風邪入二於足陽明手太陽之經一、遇レ寒則筋急引レ頬、故使二口喎僻言語不一レ正、曲直瀨本、喎上有二口字一、似レ是、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1170 齞脣 説文云、齞〈牛善反、文選云、齞脣、師説阿比久知、〉口張齒見也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1170 齞脣見二好色賦一、曲直瀨本作二阿比久知一、那波本同、山田本、昌平本與レ舊同、按、阿以
久知、蓋開レ口之義、作二阿比一恐非、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1171 httpss://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/if0000030329.gif 張揖云、 〈灘天二音、之多都岐、〉舌不レ正也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1171 按、之多都岐、見二源氏物語朝顔卷、今昔物語一、所レ引文、未レ知二出典一、按玉篇、 言不レ正、廣韻同、此舌蓋言字之譌、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1171 重舌 病源論云、舌本血脈脹然、變生如二舌之状一、謂二之重舌一也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1171 原書作下心脾有レ熱、熱氣隨レ脈、衝二於舌本一、血脈脹起變生如二舌之状一、在二舌本之下一、謂中之重舌上、下總本無二也字一、醫心方同訓、按、古之太、又見二奇疾畫卷一、蓋小舌之義、注文五字、舊及山田本、昌平本、曲直瀨本皆無、那波本同、獨下總本有レ之、今附存、按伊呂波字類抄亦有二是訓一、
〔異疾草紙〕
p.1171 こじた( ○○○) といひて、したのねに、ちゐさきしたのやうなるものかさなりて、おいいづることあり、やまひおもくなりぬれば、はらにはうゑたりといへらん、のむと飮食をうけず、おもくなりぬれば、しぬるものなり、
〔醫心方〕
〈二十五〉
p.1171 治二小兒重舌一方第五十一
病源論云、小兒重舌者、心脾熱故也、其状附二舌下一、如レ舌而短、故謂二之重舌一也、
〔瘍科秘録〕
〈八〉
p.1171 重舌
重舌ハ、俗ニ云フ、コジタナリ、大人ニ少ク小兒ニ多シ、舌下へ息肉ヲ生ジ、尖起シテ舌端ノ如シ、長サ七八分ニ至ルモアリ、左右へ二片ニナリテ生ズルモアリ、或ハ數片ニナリ、舌本ヲ圍テ、蓮花ノ形ニ出ルモノヲ蓮花舌ト云フ、何レモ一病ナリ、腫痛シテ舌モ木強ニナリ、言語飮食等モ不自由ニテ、多ク涎ヲ流シ、頷下ニ核ヲ結ビ、大サ梅子ノ如クニシテ痛ミ、或ハ色ヲ變ジ、或ハ膿ヲ成スモアリ、幼少ニテ未ダ言ズ、痛所ヲ告ルコトノナラヌモノ、卒ニ乳ヲ 哺( ノマ) スﾞ、但氣ムツカシク、涎ヲ多ク流シ、頷下ノ漫腫スルモノハ必重舌ナリ、
〔倭訓栞〕
〈中編十志〉
p.1172 したとぎ 鵝口瘡をいふ、舌に 粢( シトギ) の如き物のいづるなり、小兒の疾也、
〔瘍科秘録〕
〈八〉
p.1172 鵝口瘡
鵝口瘡ハ、俗ニ シラシタ( ○○○○) ト云フ、小兒初生ノ病ナリ、初發ハ舌上及ビ 上腭( ウハアゴ) ニ班々ト白點ヲ發シ、 乳渣( チヽカス) ニテモ付タルヤウニ見ユルモノナリ、二三日ノ内ニ、口舌及唇マデモ一圓ニ白ク、米粉ヲ敷タルヤウニナルモノナリ、舌腫痛シテ、不自由ニナルト見ヘテ、乳ヲ吸カネ、或ハ一向飮マヌモアリ、久シク愈ザルトキハ、啼叫シテ止マズ、遂ニ驚癇ヲ發スルコトモアレバ、 忽略( ユルカセ) ニセズシテ、早ク愈スヲ専務トス、大人ノ鵝口瘡ハ、微ク因ヲ異ニス、癰疽、温疫、痢病久シク愈ズ、及産後等ニテ虚脱シタル者ニ有リ、口舌腫痛シテ白點ヲ生ジ、眞白ニナリテ、米粉ヲ敷ガ如シ、飯食モ一向ニナラヌ樣ニナリ、至極ノ虚候ニテ治シ難シ、白砂胎ト云フモ、此證ヲ指スナルベシ、但鵝口瘡ノミ惡候トナスニ非ズ、一體本病ガ大病ユヘ、治シ兼ルナリ、
〔病名彙解〕
〈二〉
p.1172 鵝口瘡( ガコウサウ) 俗ニ云小兒ノ シタシトギ( ○○○○○) ナリ、又 雪口( ○○) トモ云リ、丹臺玉案ニ云、何ヲ以テカコレヲ名ヅケテ鵝ロト云、鵝ロトハ、滿口皆白シテ、鵝ノ口中ニ似タルコトアリ、俗ニコレヲ雪口ト云、病源云、小兒初生、口裏ニ白屑起リ、スナハチ舌上ニ至テ瘡ヲ生ズ、鵝ノロノ裏ノ如シ、此胎アルトキ、穀氣ヲ受ルコト盛ニ、心脾ノ熱氣口ニ薫發スルニ因故ナリ、
〔蒹葭堂雜録〕
〈三〉
p.1172 小兒鵞口瘡をわづらひ、乳を飮かぬる時は、死に及ぶこと少からず、是には天南星を末にし、粘にねりて紙にのばし、足のうらの土ふまずに張べし、二時或は三時ばかりして乳を吸ふなり、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1172 治二口 臭( クサキ) 一方第五十二
病源論云、口臭者、由三五藏六府不レ調、氣上二胸鬲一、然府藏之氣
腐、因蘊二積胸鬲之間一、而生二於熱一、衝二發於口一、故含二口臭一也、
〔異疾草紙〕
p.1173 宮こに女あり、みめかたちかみすがた、あるべかしかりければ、人ざうじにつかひけり、よそに見るおとここヽろをつくしけれども、 いきのかあまりくさくて( ○○○○○○○○○○○) 、ちかづきよりぬれば、はなをふさぎてにげぬ、たヾうちゐたるにも、かたわらによる人は、くさくたえがたかりけり、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1173 治二牙齒痛一方第六十六
病源論云、齒牙痛者、是牙齒相引痛、牙齒是骨之所レ終、髓之所レ養、若髓氣不レ足、陽明脈虚不レ能レ榮二於牙齒一、爲二風冷所一レ傷、故疼痛也、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1173 治二風齒痛一方第五十七
病源論云、手陽明之支入二於齒一、齒是骨之所レ終、髓之所レ養、若風冷客二於經絡一、傷二於骨髓一、冷氣入二齒根一、則痛レ齒、
〔異疾草紙〕
p.1173 おとこありけり、もとよりくちのうちの は( ○) 、 みなゆるぎて( ○○○○○○) 、すこしもこわきものなどはかみわるにおよばず、なまじゐにおちぬくることはなくて、ものくふ時にさはりて、たえがたかりけり、
〔多聞院日記〕
p.1173 天文三年八月十日、本坊云、齒ヲ痛ニハ、毎朝念佛十返申、テヲウチ、堂ノ阿彌陀ニ回向スレバ、堅ク能ク成也、
〔大猷院殿御實紀〕
〈三十一〉
p.1173 寛永十三年六月十六日、嘉定御祝舊規のごとし、御牙痛によて、その所にのぞみ給はず、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1173 齒音離( シヲンリ/○○○) 病源ニ云、齒音離ハ、是風冷 齒齗( シキン/ハクキ) ノ間ニ客トシテ、齒齗ヲシテ落サシメテ膿出、其齒則疎ス、語トキ風過ルノ聲アリ、世ニ齒音離ト云、此レ齒ノ間ヨリ語聲ノモルヽコトナリ、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1173 齒衂( シヂク/○○) 牙宣( ゲセン) ノコトナリ、牙齒宣露シテ血ノ出ルコトナリ、風壅、腎虚ノ二證アリ、
〔牛山方考〕
〈中〉
p.1173 一 齒齦( ハグキ) 黑ク腐爛シ、血ヲ出ス症アリ、或ハ熱病ノ後、或ハ消渇ノ病、寒冷ノ血藥ヲ服ス
ルコト大過シ、虚陽上リ攻メ、濁氣不レ下者、舌齒齦ヨリ血ヲ出スニ、川芎黄連ヲ加テ奇効アリ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1174 齲齒 釋名云齲、〈倶禹反、齲齒、無之加女波、〉虫齧之齒缺朽也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1174 醫心方同訓、又訓二牟之波一、新撰字鏡、齲波也牟、又齒乃虫、按、无之加女波、虫齧齒也、今俗省呼二无之婆一、〈○中略〉所レ引文原書同、説文、
齒蠹也、齲、 或从レ齒、
〔伊呂波字類抄〕
〈无病瘡〉
p.1174 齲〈ムシカメハ〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1174 齲齒( ムシカメハ/ムシクヒハ)
〔源氏物語〕
〈十榊〉
p.1174 御はのすこしくちて( ○○○○○○○○○) 、くちのうちくろみて、ゑみ給へるかをりうつくしきは、女にてみたてまつらまほしうきよらなり、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1174 治二 齲齒( ムシカメハ) 痛一方第五十八
病源論云、手陽明之脈入二於齒一、足太陽脈有レ入二於頰一、遍二於齒一者、其經虚風氣客レ之、結三搏齒間與二血氣一相蒸則齗腫熱氣加レ之、膿汁出而臰、侵二食齒齗一、謂二齲齒一也、
〔金雞醫談〕
〈一〉
p.1174 古今稱二 齲齒( ○○) 一爲二蟲齒一者大誤、是非二蟲齒一、蒸〈蟲蒸和訓相通〉齒也、熱蒸而爲レ痛也、決非二蟲喰一レ之、以二其或齒有一レ穴、誤爲二蟲齒一乎、未レ盡也、其有二無レ穴而自レ外缺者一、可四以知三其非二蟲喰一矣、余〈○畑秀龍〉近日發二一奇術一、其術、新製下如二小鎌一者上、鉤下去齒肉間之惡血如二綿絮一者上去レ之、則齒痛立治、而不二再發一、試二之病者一、百有餘人、無二一不レ治者一、實以レ余爲二此術之權輿一矣、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1174 齒( シ)<ruby><rb>
チク/トク</rt></ruby> 俗ニ云ムシクヒバナリ、病源ニ云、齒 ハ、是蟲齒ヲクラヒ、 齗( ハグキ) ニ至テ膿爛シ、汁臭シ、コレヲ齒 ト云、
〔病名彙解〕
〈五〉
p.1174 風齲( フウク) ムシクヒバナリ、又 齲齒( クシ) トモイヘリ、 牙臼( ヲクバ) ノ如クニクイヌキタルヲ齲脱ト云リ、病源ニ云、膿汁出テ臭ク、齒齗ヲ侵食ス、コレヲ齲齒ト云、亦風齲ト云リ、齲ハ説文ニ齒蠹ナリ、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1174 齒蟲( シチウ) 是モムシクヒバナリ、其内前齒ヲ食フ虫トミヘタリ、病源ニ云、齒蟲ハ是齒ヲ
食フ、齒根ニ孔アリ、蟲ハ其間ニアツテ、亦齒ヲシテ疼痛セシム、一齒ヲ食ヒツクシテ、又度テ餘ノ齒ヲ食フナリ、
〔砂石集〕
〈七上〉
p.1175 齒取人之事
一南都ニ齒取唐人有リキ、或在家人ノ慳貧ニシテ利潤ヲ先トシ、事ニ觸テ商ヒ心ノミ有テ、得モ有ケルガ、 虫ノ食タルハ( ○○○○○○) ヲ取セントテ、唐人ガ許へ行ヌ、齒一ツトルニハ錢二文ニ定タルヲ、一文ニテ取リテ給ヘト云、少分ノ事ナレバ、唯モトルベケレドモ、心ザマノニクサニ、フツト一文ニテハ取ジト云、良久ク論ズル程ニ、大方取ザリケレバ、去バ三文ニテ二ツ取玉ヘトテ、虫モクハヌ、ヨニ好キハヲ取添テ、二ツ取セテ、三文トラセツ、心ニハ利潤トコソ思ケメ、サレドモ疵ナキ齒ヲ失ヒヌル大ナル損也、是ハ申ニヲヨバヌ大ニ愚ナル事、鳴呼ガマシキシワザナリ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1175 齭 説文云、齭、〈音所、此間云波井留、〉齒傷レ酢也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1175 醫心方同訓、〈○中略〉所レ引齒部文、
〔醫心方〕
〈五〉
p.1175 治二齒齭一方第六十八
病源論云、齒者骨之所レ終、髓之所レ養、髓弱骨虚、風氣客レ之、則齒齭〈玉初旅反、齒傷レ酢也、〉
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1175 齵齒 蒼頡篇云、齵、〈五溝反、又音隅、齵齒、於會波、〉齒重生也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1175 五溝與二玉篇一合、昌平本作二五溝反一、字異音同、昌平本隅作レ偶、按音隅與二廣韻一合、在二平聲十虞一、偶在二去聲五十候一、作レ隅似レ勝、按於曾婆、蓋襲齒之義、古事記、謂二市邊王齒一爲下如二三枝一押齒坐上、押齒即襲重之義也、今俗呼二彌重齒一、〈○中略〉慧琳音義引、作下重二生齒一前却不二端直一也上、玄應音義再引與レ此同、説文、齵、齒不レ正也、
〔伊呂波字類抄〕
〈於病瘡〉
p.1175 齵齒〈オソハ、齒重生也、〉
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1175 齵齒( ヲソイハ) 〈オソハ和名――〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1176 齵齒( ヲソハ)
〔古事記〕
〈上顯宗〉
p.1176 此天皇、求二其父王市邊王之御骨一時、在二淡海國一、賤老
參出白、〈○中略〉亦以二其御齒一可レ知、〈御齒者、如二三枝一押齒坐也、〉
〔古事記傳〕
〈四十三〉
p.1176 押齒は、和名抄に、蒼頡篇云、齵齒重生也、齵齒於曾波とある是なり、冠辭考〈おしてるの條〉に此を引て、襲重なれる齒のおはせるを云とあり、如二三枝一とは、彼草の三莖の相對へる状に重なれる御齒にぞありけむ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1176 哽咽 唐韻云、哽咽、〈綆悅二音咽又作レ噎、和名無須、〉食塞也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1176 曲直瀨本綆作レ更、按綆與二廣韻一合、在二上聲三十八梗一、更在二去聲四十三映及平聲十二庚一、其韻不レ同、作レ更非、又按廣韻、噎烏結切在二十六屑一、悅戈雪切、在二十七薜一、此以レ悦音レ噎恐誤、説文、噎飯窒也、咽嗌也、二字不レ同、按詩王風、中心如レ噎、毛傳、謂二噎憂不一レ能レ息也、説文、欭
也、 語未レ定レ貌、則知詩借レ噎爲レ欭、欭字後人變レ欠從レ口作レ咽、故廣韻云、噎又作レ咽、與二咽喉字一不レ同也、醫心方噎同訓、新撰字鏡
亦同訓、〈○中略〉廣韻云、哽々咽、又云、噎食塞、又作レ咽、疑源君合二二字注一引レ之、非二唐韻原文一、那波本正文作レ咽、注文作レ噎、恐非レ是、按説文、
語爲レ舌所レ介也、以爲二哽噎一者轉注也、説文又云、噎飮窒也、孫氏蓋本レ之、
〔伊呂波字類抄〕
〈伊人體〉
p.1176 氣
〈イキムツル、子腹之中
事也、〉 V 同
〈无人體〉
p.1176 哽咽〈ムス、亦作レ噎、〉 嗑〈同〉 噦〈ムカツク〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1176 哽咽( ムス/ムセル) 〈食塞也〉
〔和漢三才圖會〕
〈十二口之用〉
p.1176 噎( むせる) 〈音謁〉 和名無須、俗云無世留、哽咽、訓二無世不一嗌、〈伊昔反○中略〉
按、因二内傷一有下生二膈噎病一者上、凡噎二于飯一者本病也、噎二于飮一者毎亦有レ之、或吃二臛汁及茶湯一時、傍有レ人、若發二欲念一相感則噎焉、乃祝曰、無二嘗惜者一則噎止、蓋此祝噎之遺風乎、又若噎二胡椒山椒煙草等辣味一者、急啜二未醤汁一則止、
〔萬葉集〕
〈二十〉
p.1177 爲二防人情一陳レ思作歌一首并短歌 若草乃( ワカクサノ) 、 都麻波等里都吉( ツマハトリツキ) 、 平久( タヒラケク) 、 和禮波伊波波牟( ワレハイハハム) 、 好去而( ヨシユキテ) 、 早還來等( ハヤカヘリコト) 、 麻蘇埿毛知( マソデモチ) 、 奈美太乎能其比( ナミダヲノゴヒ) 、 牟世比( ムセビ/○○○) 都々( ツヽ) 、 言語須禮婆( カタラヒスレバ) 、〈○下略〉
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1177 失聲 食療經云、食二熱膩物一、勿レ飮二酢漿一、失聲嘶咽、〈師説失聲、比古惠、嘶咽、古路々久、〉
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1177 各本脱二冷字一、今依二飮食部漿條重引一增、醫心方引二養生要集一、其文與レ此全同、亦有二冷字一、養生要集失聲上有二喜字一、按千金方云、諸熱食鹹物後、不レ得レ飮二冷酢漿水一、喜失聲成二尸咽一、即是事、則此似レ脱二喜字一、又膩鹹字形相似、必有二一誤一、又按病源候論、尸咽者、謂腹内尸蟲上食二人喉咽一生レ瘡、其状或痒、或痛、如二甘 之状一、千金方所レ云、尸烟蓋是、諸方書亦不レ見二嘶咽熟用者一、此作二嘶咽一者誤、然養生要集亦作二嘶咽一、則源君所レ見食療經、必不レ作二尸咽一、説文、
散聲也、作レ嘶俗字、方言、 噎也、楚曰レ嘶、又云、 散也、東齊聲散曰レ 、秦晉聲變曰レ 、按嘶訓二聲散一、則宜レ訓二志波賀留一、其古路々久、謂二咽喉有一レ聲、則訓二嘶咽一爲二古路々久一非、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1177 失聲( ヒコヘ)
〔源平盛衰記〕
〈十六〉
p.1177 滿仲讒二西宮殿一〈○源高明〉事
西宮殿ハ、聊モ不二知召一ケルヲ、敏延失ン爲ニ、讒訴ノ次ニ、式部卿宮ノ御舅ナレバトテ、讒申ケルヲ、一條左大臣師尹、殊ニ申沙汰シテ、西宮左大臣ヲ流シテ、其所ニ成替給タリケルガ、幾程モナク、 聲ノ失ル病( ○○○○○) ヲシ、一月餘リ惱テ失給ニケリ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1177 喉痺 病源論云、喉痺、〈侯婢二音、俗訛云古比、〉喉裏腫塞痺痛、水漿不レ得レ入是也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1177 按痹從二畀與之畀一、必至切、在二去聲六至一、屬二幫母一、婢從二尊卑之卑一、便俾切、在二上聲四紙一、屬二並母一、其字所レ從、音韻皆不レ同、不レ得二以レ婢音一レ痹、然諸書多譌レ痹作レ痺、源君從レ之、遂以レ婢音二痹字一也、按醫心方亦讀二喉痹爲二己比一、〈○中略〉下總本無二是字一、與二原書一合、説文、痹、溼病也、
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1178 喉痺( コウヒ)
〔醫心方〕
〈五〉
p.1178 治二喉痺一方第七十病源論云、喉痺者、喉裏腫塞痺痛、水漿不レ得レ入也、風毒客二於喉間一、氣結蘊積而生レ熱、故喉腫塞而痺痛、亦令二人壯熱而寒一、七八日不レ治則死、
〔瘍科秘録〕
〈八〉
p.1178 喉痺
喉痺ハ咽喉ノ癰ニテ、又喉癰ト云フ、痺ハ麻痺スルノ義ニ非ズ、中藏經ニ痺者閉也トアリテ、咽喉閉塞スルノ謂ナリ、焦氏筆乘ニ、已ニ喉閉ト見ヘタリ、又 乳鵞風( ○○○) トモ名ク、兩傍ノ腫ルヽヲ雙乳鵞風ト爲シ、一邊ノ腫ルヽヲ單乳鵞風ト云、和蘭陀ノ説ニ、懸壅ノ左右ニ 巴旦杏腺( アマンテレンキリイル) ト云フモノ有リ、喉痺ハ此ノ處ノ腫ルヽナリト謂へリ、咽喉ハ飮食ノ道、呼吸ノ門ニテ、至極ノ要地ナリ、故ニ早ク救ハザレバ危篤ニ至ルコトアリ、此病ハ 刺縫( ヌイモノ) 、 臨摹( カキモノ) 、 剖劂( ホリモノ) 等ニテ、極メテ肩ヲ使ヒ、強テ腕ヲ勞スルモノニ多シ、
〔看聞日記〕
p.1178 應永廿五年九月六日、禁裏〈○稱光〉俄喉痺御惱、以外云々、面々仰天、然而體御取直云々、
〔妙法寺記〕
p.1178 永正八年、此年正月、浮世ニ 口痺( ○○) 流行、人民死コト無レ限、然間、彼口痺ノ鳥ヲ作リ送ル、一日病デ頓死ス、
〔醫心方〕
〈六〉
p.1178 治二胸痛一方第一
病源論云、胸脇痛者、由二 膽與レ( 都敢反) 肝及 腎之( 時忍反) 支賑虚一、爲二寒氣所一レ乘故也、此三經之支脈、並脩行、胸脇耶氣乘二於胸脇一、故傷二其經脈一、耶氣之與二正氣一交撃、故令二胸脇相引而急痛一也、
〔落窪物語〕
〈三〉
p.1178 北の方は、かの典藥の事により、起まして部屋の戸引き開けて見たまふに、うつぶしふして、いみじく泣く、いといたしや、などかくはの給ふぞといへは、 胸のいたく侍れば( ○○○○○○○○) と息の下にいふ、あないとをし、物の積かとも典藥のぬしくすしなり、かいさぐらせ給へといふに、類なく
にくし、何か風にこそ侍らめ、くすし入るべき心地しはべらずといへば、さりとも胸はいとおそろしきものをといふ程に、典藥さわたれば、こちいませと呼び給へば、ふとよりたり、ことに 胸やみ給ふ( ○○○○○) あり、物のつみかともかいさぐり、藥などもまいらせ給へとて、やがて預けて立ちぬれば、くすしなり、御病もふとやめ奉りて、今宵よりはいかうにあい賴み給へとて、胸かいさぐりて手ふるれば、女おどろ〳〵しう泣きまどヘど、言ひ制すべき人もなし、〈○下略〉
〔小右記〕
p.1179 長和五年三月六日庚戌、明日明後日可レ行二手結之事一、仰二將曹正方一、其節件日に行レ之、今依二日面宜一也、便不レ差二兩中將許一、雅通依二 胸病( ○○) 發動一、不レ可二參朝一、任二如今一無二故障一者、
寛仁二年五月廿七日戊子、曉更堀河東油小道西四條大路以南南行一町餘燒亡、未刻許、義光從二大殿一來云、 御胸重發給( ○○○○○) 、攝政及家子近習卿相等馳參、殿中不レ靜、少時頗復二尋常一、
〔台記〕
p.1179 久安二年十二月三日、今夜亥刻患二俄胸一、一時而愈、
〔内科秘録〕
〈七〉
p.1179 心痛
心痛ハ、後世ニ至リ、胸膈諸藏急痛スルノ總名ニナリ、脾ノ痛ムヲ脾心痛ト云ヒ、胃ノ痛ムヲ胃心痛ト云ヒ腎ノ痛ムヲ腎心痛ト云フ、茫乎トシテ從フ所ヲ知ラズ、畢竟内景ヲ明辨セズ、外ヨリ臆想スルユエ名ノミ多クナリテ、却テ人ヲ眩惑スルノミ、金匱ノ胸痺心痛篇ヲ熟讀玩味シ、且ツ隋唐諸家ノ説ヲ參考スルニ、心痛ハ心藏病ニシテ、即チ眞ノ心痛ナリ、胃脘痛ハ胃病ニシテ即チ胃心痛、蓋シ痺疼ノ尤モ甚シキ者ナリ、胸痺ハ胸脇病ニシテ、即チ諸筋諸膜ノ急痛スルナリ、此三證ヲ分別シテ療治スルトキハ、大ナル過ナカルベシ、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1179 痃癖( ケンヘキ)
〔病名彙解〕
〈五〉
p.1179 痃癖( ケンヘキ) 俗ニ ウチカタ( ○○○○) ト云リ、頂肩ノ強急スル也、或ノ曰、拳ヲ以テ肩ヲウツトキハ、ココロヨキ故ニ打肩ト云リ、又其病肩ノ内ニ發スル故内肩ト云リ、世俗ニ肩ノミアルヤウニ思ハ
アヤマレリ、癖疾ノ發スル定ル所ナシ、多クハ是脇腹ノ中ナリ、
〔辨症救急〕
p.1180 速打肩( ○○○/ハヤウチカタ) 、本邦尤多、但高貴家無レ有、負レ量勞力、腦動鬱結不レ散、令二氣促迫一、則一時氣逆血止、瘀血與二結氣一併、上攻刺二於心肺一、卒倒氣絶至レ不レ救者多、惟急針二膏盲一、出血泄レ氣、即活者間有レ之也、此證會不レ灸二膏盲一、覺二氣寒肩背重一者、卒致二此患一、以レ此爲レ候、按速急也、打、打破也、膏盲乃近レ肩處、故世俗以二速打肩一名レ之哉、
〔諢話浮世風呂〕
〈前編上〉
p.1180 朝湯の光景
ヲイ番頭、目を廻した人があるぜエ、湯氣に上つた〳〵、〈ばんとう〉ナニ湯氣に上つた、夫は大變大變〈ト、ゆばん大ぜいにて、ふろの中よりかつぎいだせば、いぜんのよい〳〵病人、ゆ氣にあがつてたはひなし、〉誰だ〳〵、よい〳〵のぶた七だ、病人のくせに長湯をするからだ、水を吹かけろ、草履を顔へ載ろエ、ナニそりや〈ア〉顛癇だ〈ア〉、刀豆と肩へ書が能い、それこそ 早打肩( ○○○) だ〈ア〉、ぶた七〈ヤア引、〉ぶた七ヤ、アヽイドドドンチヤン〳〵、じやうだんじや〈ア〉ねへ、呼生ろ〳〵〈ト、かほへ水をふいて、大さはぎになる、やう〳〵にぶた七はいきをかへす、〉どうだ、ぶた七〳〵氣がついたか氣がついたか、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1180 喘息 唐韻云、欭、〈昌苑反、字亦作レ喘、阿倍岐、〉口氣引貌也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1180 山田本作二昌兗反一、那波本同、按昌兗反、與二廣韻喘字音一合、在二上聲二十八獮一、苑在二二十阮一、其韻不レ同、作レ苑非レ是、昌平本、曲直瀨本作二昌充反一亦譌、醫心方喘同訓、萬葉集笠朝臣金村角鹿津乘レ船歌云、海路爾出而阿倍寸管我搒行者即是、新撰字鏡古本訓二阿波支一、今俗呼二以岐岐禮一、〈○中略〉所レ引文廣韻同、釋名、喘湍也、湍疾也、氣出入湍疾也、按説文、欭口氣引也、徐音市縁切、喘疾息也、徐音昌沇切、二字音義皆不レ同、廣韻、欭口氣引貌、市縁切、又昌兗切、喘喘息、説文曰、疾息也、昌兗切、雖二其音或同一、然義則異、阿倍岐者謂二疾息一、則宜レ用二喘字一、而集韻擧二喘欭二字一云、喘息、説文曰、疾息也、昌兗切、遂以レ欭爲二疾息字一、然則阿倍岐用二欭字一、非レ無レ據、然宜レ引二疾息之訓一、引二口氣引貌訓一非レ是、
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1181 喘息( アエキ)
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1181 喘息( アヘギ) 〈口氣引貌也〉
〔日本書紀〕
〈二十四皇極〉
p.1181 二年十一月丙子朔、于レ時古人大兄皇子 喘息( ○○) 而來問、向二何處一、入鹿具説二所由一、
〔しりうこと〕
p.1181 祐天大僧正小山田與清を呵す
さて京傳ある會席上にて、その方が盜説を咎めて、かの説は予が發明なるを、足下自説として唱へらるヽこと、はなはだ遺憾なりといひしとき、その方まざ〳〵しく大音に、予いかでか足下の説を奪はん、何ぞ證據ありやと、居丈高になつて説破したりしかば、京傳はなはだ逆上せて、論議するうちに、 持病の喘息( ○○○○○) 大に發して、痰血を吐し、籃輿にたすけられて家に歸りしが、これより病みて起つことあたはず、つひに病床に憤死したりき、これ其方が氣死せしめたるなる事、人あまた知れることなり、京傳のことを予に訴へて、寃罪をあかしくれよと歎きし故、〈○下略〉
〔牛山活套〕
〈上〉
p.1181 痰飮
痰飮ノ病ハ明メ難シ、何ノ病ニモ痰ヲ俠マヌハ稀ナリ、其脈多ハ滑也、多ハ沈弦細ヲ兼ルナリ、
〔諸病源候總論〕
〈二十〉
p.1181 痰飮候
痰飮者、由三氣脈閉塞、津液不レ通、水飮氣停在二胷府一、結而成レ痰、又其人素盛、今痩水走二腸間一、漉々有レ聲、謂二之痰飮一、其病也、胷脇脹滿、水穀不レ消、結在二腹内兩肋一、水入二腸胃一、動作有レ聲、體重多唾、短氣好眠、胷背痛、甚則上氣欬逆、倚息短氣不レ能レ臥、其形如レ腫是也、脈偏弦爲レ痰、浮而滑爲レ飮、其湯熨針石、別有二正方一、補養宣導、今附二于後一、
養生方導引法云、左右側臥、不レ息十二通、治二痰飮不一レ消、右有二飮病一、右側臥、左有二飮病一左側臥、又有二不消氣一、排二之左右一、各十有二息、治二痰飮一也、
〔療治夜話〕
〈初編上〉
p.1181 治驗
仙府一貴人ノ内相、四十一歳ナルガ、風邪ニ感冒シ、宿疾ノ痰飮ト、心氣病ト共ニ發動シ、時々寒熱往來シ、熱來レバ、汗出、咳嗽、連頻吐痰ス、常ニ惡風シテ衣被ヲ重ヌ、時アツテ氣淪ミ、地中へ陷ルガ如キヲ覺エ、或ハ怔忡驚悸シ、又時アツテ悲哀落涙シ、又時アツテ夜中眠ラズ、偶眠レバ魘ス、又時アツテ手足顫振シ、時アツテ煩悶シ、時アツテ大汗シ、小便時ニ赤濁シ、時ニ清利ス、大便時ニ秘結シ、時ニ快通シ、食相應ナレドモ、〈少キ時ハ常ノ半食ナリ、多キ時ハ常食ナリ、鹽味苦カラズ、〉病證時々不同アツテ定マラズ、舌上〈時ニ白胎トナリ、又ハ淺黑胎トナリ、又ハ淺黄胎トナリ、又ハ胎ナシ、〉モ亦不同アリ、脈モ〈熱來ル時ハ數脈トナル、又熱解スル時ハ遲脈トナル、〉亦不同アツテ一定セズ、腹中右ノ中脘ノ邊ニ一塊アリ、大サ小判ノ如クニシテ輭ナリ、時々出没ス、諸名家虚勞トナシテ是ヲ治療スレドモ寸効ナク、荏苒トシテ痊ズ、褥床ニ平臥スルコト半年餘、予〈○今村玄祐〉ニ治ヲ求ム、予診察スルニ、身體稍痩セ、腹中輭弱、虚里ノ動穩カニシテ肌熱ナク脈緩ナリ、是亦 心氣病( ○○○)ナリ、一旬ニシテ治スベシ、即チ移精變氣ノ法ヲ施シ、甘麥大棗湯ヲ呈シ、油煙丸ヲ副用ス、日ニ三分、三次ニ分テ白湯ニテ服サシメタルニ、爾後日々快活ヲ報ジ、一旬ニシテ全愈ス、沐浴シ、去爪シ、束髮シ、化裝シ出テ庭前ヲ歩行ス、衆其奇功ヲ稱ス、此人臥床スルコトノ久シキ、汗スルコトノ多キニヤ、褥床ヲ去ルノ時ニ至テハ、畳及椽ノ板モ皆朽タリ、
〔柳營諸舊例的〕
〈三〉
p.1182 文化四卯年十一月三日
歩行願 〈寄合〉安部織部
私儀、久々 痰積( ○○) ニ而氣分差塞相勝不レ申候ニ付、栗本瑞見藥服用仕、少々宛快方ニ御座候得共、今以出來不出來御座候間、爲二養生一歩行仕候て可レ然旨、瑞見申聞候、依レ之一類共方〈江〉歩行仕度奉レ願候、
十一月三日 〈寄合〉安部織部
〔醫心方〕
〈六〉
p.1182 治二 肺( 音廢) 病( /フクフク也) 一方第十三
病源論云、肺氣盛爲レ氣、有レ餘則病、喘欬上氣、 髆( カタ) 背痛汗出、尻陰股膝 踹脛( 都館反足跟也/コムラハキ) 足皆痛、是爲二肺氣之實一也、則宜レ
レ寫レ之、肺氣不レ足、則少氣不レ能二報息一、耳聾
乾( ノムドカハク) 、是爲二肺氣之虚一也、則宜レ補レ之、
〔醫心方〕
〈十五〉
p.1183 治二肺㿈一方第十三
病源論云、肺㿈者由二風寒一傷二於肺一、其氣結聚所レ成也、肺㿈之状、其
胷内滿隱々痛而戰寒、又肺㿈有レ膿而 嘔者( ムカツク) 、不レ須レ治二其嘔一也、膿止自愈、
〔醫心方〕
〈十三〉
p.1183 治二肺痿一方第十五
病源論云、肺主レ氣爲二五藏土蓋一、風邪傷二於府藏一而血氣虚弱、又因二勞役一大汗出、或經二大下一而亡二津液一、津液竭絶、肺氣擁塞、不レ能レ宣二通諸藏之氣一、因成二肺痿一也、其病欬唾而嘔、乾 沫( /アハ) 而小便不利者難レ治、勞瘵
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1183 勞瘵( ラウサイ) 虚勞( キヨラウ)
〔鹽尻〕
〈十三〉
p.1183 一 勞嗽( ○○) 、勞瘵といふ病は、醫書に往々あり、 勞咳( ○○) と呼は、何の書に出しと問に、分明に答る醫師なきにや、甄權が本草の欵冬の條下に、療二肺氣急熱、勞咳連々不一レ絶とあるよし、丹水子が書に記るせり、
〔時還讀我書〕
〈下〉
p.1183 勞欬ノ名、行餘醫言ニ甄權ヲ引タリ、先君子〈○多紀元堅父〉ノ言ニ、證類本草ニ藥性論云、欵冬花君主レ療二肺氣一心促急熱乏勞欬連連不レ絶トアリテ、勞ノ字上ニ接シテ欬連連トイヘルナリ、李時珍コレヲ引テ乏ノ字ヲ刪タルヲ、太冲ノ誤取タルナリ、勞欬ノ稱ハ嚴氏濟生方ヲ以テ始トナスベシトノ玉ヘリ、又外臺ニ治欬ノ哈法トアルヲ、太冲ハ欬哈トイヘル病名トナセリ、其陋亦甚シ、〈元明ノ書ニマヽ欬嗽哈々トイヘルコトアリ、疑ベキコトナリ、〉
〔雜病記聞〕
〈三〉
p.1183 勞咳
勞咳ハ、本名勞瘵ト云ヒ、唯瘵( ○) トモ云ヒ、或ハ虚勞トモ云ヒ、 鬱症( ○○) トモ云フ、勞咳トハ、俗ニ云ヒ習ハシ來ル名也、是勞トハ、此病段々勞レテ出ル病ナル故ニ勞ト云フ、又咳トハ、此病トナレバ、必咳嗽出ル故ニ、咳ト云フナリ、瘵トハ、此病ニカヽレバ、必死シテ祭ラルヽト云フ意ナリ、此病雜病中第
一ノ大病ニテ、和漢古今醫者ノ治シ難シトスル所ナリ、就レ中此病ハ、老人愚人下賤ノ人等ニハ稀ニテ、年若キ人、富貴ノ人、才力智アル人ニ多シ、國ニ代へ家ニ代へ數百人ノ命ニ代へテモ救ヒタキト云人昔ヨリオホク、天下ノ父母ヲシテ歎カシムル第一ノ病ナリ、余此ニ理ヲ明メンコトヲ志シ、數年ノ間コレヲ思ヒ、コレヲ思フテ、纔ニ其道理ヲ得タルニ似タリ、然レドモ其理ヲ解スル程、猶更ニ治スベキノ藥ニ乏キヲ憂ルコト故ニ、別シテ其ノ病理ヲ詳ニ物語リテ、後世是ヲ治スベキノ方術アランコトヲ希而已、 勞瘵ニ七種ノ別( ○○○○○○○) アリ、先コレヲ知ルベシ、七種トハ、一ニハ傳尸、二ツニ遺毒勞、三ツニ傳染勞、四ツニ蓐勞、五ツニ風勞、六ツニ鬱勞、七ツニ腎虚勞也、其中ニ傳尸勞、遺毒勞ノ二勞ハ其脈症見ルレバ輕シト云ヘドモ必死ナリ、傳染勞ハ遠ク避ケテ免ルベシ、蓐勞、風勞、鬱勞、腎虚勞、其ノ脈症見ルレドモ、輕ケレバ治スベシ、重ケレバ不治也、
〔内科秘録〕
〈六〉
p.1184 虚勞 勞瘵〈○中略〉
勞ハ傳染毒ナレドモ、瘟疫、痢疾、
瘡、疥癬ノ如ク、速ニ傳染スルモノニ非ズ、假令傳染スルモ、其毒内ニ伏シテ速ニ發セズ、按摩、鍼醫等ハ日夜病床ニ親炙スルユへ、傳染スル者亦尠カラズ、醫者ノ診察スル間ハ須叟ノコトユへ、決シテ傳染スルコトナシ、
〔陰德太平記〕
〈三十二〉
p.1184 杉原忠興死去附妾貞順事
忠興其比ヨリ、 癆氣( ○○) ノ樣ニ、フラ〳〵ト煩ケルガ、同三年〈○元龜〉ノ春ニ至テ、中風發シテ、竟ニ卒去セラレニケリ、
〔伊呂波字類抄〕
〈天病瘡〉
p.1184 傳屍病( テンシヒヤウ) 〈老少男女皆有二此病一、漸瘦、子死之後、替付二親一人一、故云二傳屍一、〉
〔醫心方〕
〈十三〉
p.1184 治二傳屍病一方第十三
玄感傳屍方云、夫傳屍之病、爲レ蠹寔深大、較男夫多以二絃癖及勞損一爲レ根、女人乃因二血氣一或注爲レ本、然比見二患者百有餘人一、得レ状不レ同、爲レ療亦異、形候既衆、名號又殊、所二以然一者、中華通曰二 傳屍( ○○) 一、蜀土都名二 痩病一( ○○) 、江
左稱爲二 轉注一( ○○) 、野俗謂二之伏練下里一、名爲二 殗
一( ○○) 、小兒乃曰二無辜一、因二虚損一得レ名、爲レ勞極レ骨中レ熱者號爲二 骨蒸一( ○○) 、微嗽者稱曰二肺痿一、神鬼爲レ祟名二之 復連一( ○○) 云々、
又云、論曰、 大都( オホムネ) 男女傳屍之候、心胷滿悶、背髆煩疼、兩目精明、四支無レ力、雖レ知欲二臥睡一、恒不レ嗜、 脊膂( セホネ) 急痛、
胵酸疼、多臥小起、状似二佯病一、毎至二旦起一、即精神好、欲レ似二无病一、從二日午一以後、即四體微熱、面好顔色不レ喜、見二人過一常懷二忿恚一、纔不レ稱レ意、即欲二嗔怒行立一、脚弱夜臥盜汗、夢與レ鬼 交( ツルム) 、或見二先亡一、或多驚悸、有二時氣氣急一、有二時咳嗽一、雖レ思二想飮食一而不レ能二多飡一、死在二須叟一、而精神尚好、兩肋虚脹、或時微痢、鼻口乾
垣多黏唾、有レ時脣赤、有レ時欲レ睡、漸就二沈羸一、猶如二水涸魚不一レ覺二其死一矣、
〔傳屍病二十五方〕
p.1185 我寶
傳屍病二十五樣各別注レ之
第一、總名 天屍病( ○○○) ハ、身ヌルミテ、頭ラ痛ク胸脇ヲドリタヘガタクテ、人ニ追立ラレタル樣ニテ不レ愈、日々ニイタク衰テ死スル也、〈○中略〉
第十二、卯七草ト云傳屍病アリ、病樣ハ膝又胷ヲドル事走馬ノ如シ、極ヌレバヲドルヲト、傍ノ人ノ聞ツクル程ニヲドルナリ、サキシハブキシ、ヤセカルヽ病也、小兒ハ七歳マデ付テ、十三歳ニ極メ死ズバ廿五年ハ一定死ル病也、灸所ハ十所アリ、前ニハ
中穴ノ下骨サキヲ灸ケ、又 中ノ穴乳ノフタ中左右二寸ヲ灸ケ、背ノ一骨左右一寸五分灸ケ、一骨ノ下三寸下テ左右一寸五分ヲ灸ケ、又一骨ヨリ下カメノヲトクラベテフタツニ折テ宛ル中ヨリ左右一寸五分ヲヤケ、是ハ定業草穴ト云也、一骨ト龜尾トヲクラベテ中ヲ折テ下四寸マシニ下リテ左右一寸五分灸ケ、不二平愈一タビ〳〵灸ケ、急ニウチスベシ常臀沙ニハコノ病ハシルサズ、
第十三、育水風ト云傳屍病ハ腹ヲ宗トスルナリ、此ノ病樣ハムネサワギヲドリ、腹常ニイタク、サムケ立テ常ニ心チ惡ク、腹脹シテヒト身ハレ、足脚ハレテ、死期ニハ脚ニ紫ノ色ニ成テスヽケノ
チシル出ヅル、長病シテ死ナリ、定業也、
〔時還讀我書〕
〈上〉
p.1186 一儒生語リシニ、嚮ニ京師ニ遊シトキ、一商家ノ子アリ、 骨蒸( ○○) ヲ病テ死セル翌日荼毗セントテ、鳥邊山ニ託セシニ、中夜彼處ノ者來テ、彼屍ハ其體日ヲ經タルトミヘタリ、如何ナル子細ゾトイヘリ、主人答ルニ實ヲ以テスレドモウケガハズ、仍テ醫師及親族ナド證ニタテヽコレヲ燒シメシニ、骨悉碎テ灰トナレリ、歸途勢州ニ過テ一醫ニ此事ヲ告シニ、渠モ亦イフ、某モ嘗テ骨蒸病人ヲ荼毗シテ其骨碎屑トナリシヲ見タリトイヘリ、骨蒸ハ釀
ノ骨ヲ焚ヲ以テカクナルコトニヤト、
〔醫心方〕
〈六〉
p.1186 治二腹痛一方第四
病源論云、腹痛者、由二府藏虚一、冷熱之氣、容二於腸胃一、募原之間、結聚不レ散、正氣與二邪氣一交爭相撃、故痛、其有二冷氣一、 搏二( アツマル) 於陰經一者、則腹痛而腸鳴、謂二之 塞中一( ○○) 、葛氏方、治二 卒( ニハカ) 腹痛一方書、舌上作二風字一、又方、㨶桂下蒒服三方寸匕 苦參( クラキ/クラヽ) 亦佳、干薑亦佳、又方食鹽一大握多飮水送レ之當吐即差、又方堀レ土作二小坎一以レ水滿二坎中一、
攪( コクカイ)取レ汁飮レ之、又方令レ人騎二其腹一 溺齊中( ユバリマリカケヨ) 之、
〔小右記〕
p.1186 長和五年正月十二日丁巳、去夕主上〈○三條〉俄重惱御坐、従二大納言御許一被二告送一也、仍召驚取二案内於資平一、資平報云、非二重惱一、御勞御腹、今朝殊事不二御坐一、參内、未刻先參二上殿上一、
〔源氏物語〕
〈三空蝉〉
p.1186 おもとは、こよひはうへにやさぶらひ給つる、をとヽひより はらをやみて( ○○○○○○) 、いとわりなければ、しもに侍つるを、ひとずくなヽりとてめしヽかば、よべまうのぼりしかど、なをえたふまじくなんとうれふ、
〔落窪物語〕
〈三〉
p.1186 今や〳〵と夜更くるまで板のうへに居て、冬の夜なれば身もすくむ心ちす、そのころ 腹そこなひたるうへに( ○○○○○○○○○○) 衣いとうすし、板のひえのぼりて、腹こぼ〳〵となれば、翁あなさかな、ひえこそ過ぎにけれといふに、しひてごぼめきてひち〳〵となる、こはいかになるにかあらん
とうたがはし、
〔明月記〕
p.1187 天福二年八月廿八日甲午、咳病殊惱、腹病又不快、兩事相兼、殊辛苦、今日晝著二錦衣一、入レ夜腹病殊增、 如二痢病一( ○○○) 、今日十餘度、服二高郎香一聊落居、
〔醫心方〕
〈二十五〉
p.1187 治二小兒痞病一方第七十二
病源論云、小兒胷鬲熱實、 腹内有二留飮一( ○○○○○) 、致レ令三榮衞痞塞、府藏之氣不二宣通一、其病腹内結脹滿、或時發熱是也、
〔諸病源候總論〕
〈二十〉
p.1187 留飮候
留飮者、由下飮酒後飮レ水多、水氣停二留於胷鬲之間一而不中宣散上、乃令二人脅下痛一、短氣而渇、皆其候也、
留飮宿食候
留飮宿食者、由下飮酒宿後飮レ水多、水氣停中留於脾胃之間上、脾得二濕氣一則不レ能レ消レ食、令二人噫氣酸臭一、腹脹滿呑酸、所以謂二之留飮宿食一也、
〔病名彙解〕
〈二〉
p.1187 留飮( リウイン) 六飮ノ一ツナリ、入門ニ云、水、心下ニ停テ、背冷ルコト、手掌ノ大サノゴトク、或ハ短氣ニシテ渇シ、四支歴節疼痛シ、脇痛テ缺盆ニ引、咳嗽ウタヽ甚シト云リ、
〔内科秘録〕
〈七〉
p.1187 脾疼( ○○)
脾痛ハ古へ心痛ニ混淆シ、胃心痛或ハ胃脘痛ト云テ明辮無シ、聖惠方ニ初テ脾疼ト稱ス、香川太仲、此證ヲ 留飮( ○○) ト唱テヨリ、醫俗共ニ雷同シテ賣藥ノ招牌ニモ留飮ト題シテ、今ハ通名ニナレリ、素問ニ食痺ト云ヒ、本事方ニ癖嚢ト云フモ皆此病ノコトナリ、然レドモ脾疼ト云フヲ正名ト爲ス、古人ノ所レ謂脾胃ハ胃ノ一臓ヲ指斥シテ未ダ必シモ二臓ニ拘泥セズ、脾疼ハ即胃疼ナリ、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1187 心痛( シンツウ) ムネノイタムコトナリ、或ハ脾疼トモ、又胃脘痛トモ云リ、正傳ニ云、夫胃ハ脾ノ府タリ、陽ハ陰ニ先ダツ、故ニ臓イマダ病ズシテ府先病ナリ、甚シフシテ脇下ニ至リ、刀
ノ痛ノ如キモノ、已ニ連テ臓ニ及ブナリ、古方ニ脾疼トナスモノ是ナリ、胃ノ上口ヲ名テ賁門ト云、心ト相連ル故ニ、經ニ所レ謂胃脘心ニ當テ痛ムト、今ノ俗呼テ心痛トスルモノハ、イマダ此義ニ達セザルノミ、纂要ニ云、眞心痛ハ其痛甚シ、手足青シテ節ニ至リ、旦ニ發シテ夕ニ死ス、醫書大全ニ云、其種九アリ、一ニ曰蟲痛、二ニ曰疰痛、三ニ曰風痛、四ニ曰悸痛、五ニ曰食痛、六ニ曰飮痛、七ニ曰寒痛、八ニ曰熱痛、九ニ曰來去痛、名同カラズトイヘドモ、其實ハ皆外邪氣ニ感ジ、内生冷ニ傷ルヽニ由テ、痰飮ヲ結聚シテ、心胞ニ停テ經絡ヲ傷ル、重キトキハ心膈引痛ミ、輕キトキハ 怔忡( ムナサワギ) スルノミ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1188 癥瘕 著頡篇云、癥瘕、〈徴嫁二音、今案醫家書有二魚瘕虵瘕等一、師傳云、加女波良此類也、〉腹中病也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1188 曲直瀨本嫁作レ家、按音嫁與二廣韻一合、在二去聲四十禡一、家在二平聲九麻一、作レ家似レ非、按魚瘕蛇瘕、並見二病源候論一、云有レ人胃氣虚弱者、食二生魚一、因爲二冷氣一所レ搏、不レ能レ消レ之、結成二魚瘕一、揣レ之有二形状如一レ魚是也、人有二食レ蛇不一レ消、因二腹内一生二蛇瘕一也、其病在レ腹、摸揣亦有二蛇状一、謂二蛇瘕一也、又見二醫心方所レ引新録方一、按、加女波良、龜腹之義、病源候論有二鼈瘕一云、鼈瘕者謂三腹中瘕結如二鼈状一是也、〈○中略〉慧琳音義引云、瘕、腹中病也、按玉篇、癥、腹結病也、瘕、腹中病也、二字不二連文一、與二慧琳所一レ引同、源君連引恐誤、又按説交無レ癥有レ瘕、云女病也、病源候論癥候云、癥者由二寒温失一レ節、致二府藏之氣虚弱一、而食飮不レ消、聚結在レ内、染漸生二長塊段一、盤牢不二移動一者是癥也、言其形状可二徴驗一也、又瘕病候云、瘕病者由二寒温不一レ適、飮食不レ消、與二藏氣一相搏、積在二腹内一、結塊瘕痛、隨レ氣移動是也、言其虚假不レ牢、故謂レ之爲レ瘕也、又癥瘕候云、癥瘕者、此由二寒温不一レ調、飮食不レ化、與二藏氣一相搏結所レ生也、其病不レ動者直名爲レ癥、若病雖レ有二結瘕一、而可二推移一者、名爲二癥瘕一、是癥與レ瘕雖下以二動不一レ動爲上レ別、然是本一病、故古有二瘕名一、無二癥名一也、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1188 癥瘕( カメハラ) 〈腹中病也〉
〔醫心方〕
〈十〉
p.1188 治二 癥瘕( チヨウカ/カメハラ) 一方第六
病源論云、癥瘕者、皆由二寒温不調一、飮食不レ化、與二藏氣一相搏結所レ生也、其不二動移一者、其名爲レ癥、若病雖レ有二結瘕一、而可二推移一者名爲レ瘕也、葛氏方云、癥瘕病衝レ心不二移動一、飮食痛者死、新録方云、治二一切病一温白丸方、南州刺史巨陰鏗言、巨蒙慈澤視レ事三年、自レ到二任官一以來、巨妻不レ便二水土一、有二地下濕一、遂得二腹脹病一、頃年已來、垣遣二醫師一療治、於レ今不レ差、有二一蒼美道士一、名二杜勝一、到二巨州堺一、採レ藥、巨遂呼二道士一至レ舍、説二巨妻病状一、于レ時道士即與二巨藥方一用治、万病無レ不レ得レ差、
〔一本堂行餘醫言〕
〈二〉
p.1189 癥瘕
始見二金匱方論一、次出二神農本草一、〈大黄、若參、卷栢、海藻、白頭翁、桃核仁、葶藶、禹餘糧、蕘花、鳶尾、紫葳、龍骨、陽起石、龜甲等二十餘處、又見二名醫別録一、〉病源候論、千金方已下皆同、
〔一本堂行餘醫言〕
〈二〉
p.1189 癥〈知陵反音徴〉癥即積〈附〉癖 痞
癥者、謂下腹裏塊物、可二以レ手徴一者上也、即所レ謂積也、夫腹裏塊物之積以生也、固非二一朝一夕之故一也、日復一日、月復一月、年復一年、稍稍而累、漸漸而積、雖二其初至微一、而至二積累之久一、則可二摸索輙直徴知一也、今詳論レ之、蓋癥之所レ結、不レ在二臓腑腸胃之内一、而悉在二臓腑腸胃之外一、〈○中略〉
方今、泰平百有餘歳、四海乂安、万民豐饒、人々遊惰、過二于飽暖一、形耽二逸樂一、心多二勞苦一、抖二擻精神於百年之蓄積一、困二擾思慮於一生之活計一、加レ之貧二婪于酒食一、沈二溺于房闈一、元氣何得レ不レ疲二乎奔命一哉、氣已疲、則運輸自不レ得レ不二遲緩一、而滯結乃生焉、是故今時之人、不レ問二貴賤貧富一、莫下不レ結二癥與一レ疝者上、職此之由也、吾門諄々專唱二癥疝一者、直驗二今日之人一而然也、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈三〉
p.1189 積聚 奔豚 伏梁 虫積〈○中略〉
癥ハ塊ヲ結ビテ爰ニアルト云ホドニ徴ノ見ユル積也、瘕ハ形アリト見ユレドモ、假ノ形ニテ、散ズル時モアルノ名也、塊ハ手ニアタリ、或ハ稜角有モノモアリ、按ジテ痛ムモ有、如何ニ按ジテモ不レ痛モアリ、土ノカタマリテアルヲツチクレト云ノ形ニ似タルニテ、塊トハ云、即癥ト同ジモノ
ナリ、元來ノ字ヲ設タル如レ此ナレドモ、中世以來ノ醫書ニハ混雜シテ有、
〔瘍科秘録〕
〈十〉
p.1190 石瘕
石瘕ハ靈樞ニ出ヅ、婦人癥癖ノ一證ナリ、初發ハ大サ茄瓜ノ如ク、漸大ニナルニ及テハ、 懷子( ミモチ) ノ如ク、石硬ニシテ爪モ立ズ、微ク凹凸磊落アリ、日久キトキハ虚勞ニ變ジテ死ス、又鼓脹ニ變ジテ死ス、
〔醫心方〕
〈十〉
p.1190 治二 積聚一( シヤクシユ) 方第一
病源論云、積聚者、由二陰陽不和、府藏虚弱一、受二於風邪一、搏二於府藏之氣所一レ爲也、府者陽也、藏者陰也、陽浮而動、陰沈而伏、積者陰氣五藏所レ生、始發不レ離二其部一、故上下有レ窮也、聚者陽氣六府所レ成、故無二根本上下一、無レ所二留止一、其痛無レ有二常處一、 肝之積( ○○○) 名曰二 肥氣一( ○○) 、在二左脇下一、如二䨱坏一、有二頭足一、令三人發二㾬瘧一、 心之積( ○○○) 名曰二 伏梁一( ○○) 、起二臍上一、如三臂上至二心下一、 脾之積( ○○○) 名曰二 痞氣一( ○○) 、在二胃管一䨱、䨱大如レ盤、令二人四支不一レ收、發二黄疸一、飮食不レ爲二肌膚一、 肺之積( ○○○)名曰二 息賁一( ○○) 、在二右脇下一、䨱々大如レ坏、令三人洒二浙寒熱一、 腎之積( ○○○) 、名曰二 賁
一( ○○) 、發二於少腹上一、至二心下一、若二 賁之状一、上下無レ時令二人喘逆、骨萎少氣一、醫門方云、辨曰肥氣者、肥盛也、言肥氣如二䨱坏一
出、如二肥盛之状一、伏梁者、言其大如二臂状一、似二屋舍梁棟一也、故名二伏梁一、痞者滿也、言其氣滿痞結二成積一也、息者長也、奔者鬲也、言其氣漸長而逼二於鬲一、故曰二息奔病一、似二伏豚一、而上二衝心一者也、又有二奔豚之氣一、非二積病一也、名同而病異焉、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈三〉
p.1190 積聚 奔豚 伏梁 虫積
五積六聚ト云ヨリ、病目種々ノ字ヲ冠セシメテ通用ス、疝積、氣積、食積、血積、肝積ノ如キハ、醫俗トナク唱ルヲ見ルニ、酒ヲ飮テ後腹痛スレバ酒積ト云ノ類ニテ、一向ニ心得アリテ云ニ非ズ、痰ヲ吐ズ、咳嗽スル人、胸下ナドヲ痛ムハ痰積ト云、又腰腹股脚ノ痛ヲ疝積ト云ヘドモ、是ニモ痰嗽ナドスレバ、ヤハリ痰積ト云、何ワケモナク何積ト云ヘバ、病者モ合點シテ、治療ヲ任ス、積ノ字ヲバ病ノ字ノ如クニ見ナシ、上ノ字ヲ要ニ取扱フ、可レ笑ノ甚キナレドモ、此病ニ限ラザレバ、今責ムル
ニ不レ足、積ハ物ノツモリタルヲ云ナレバ、自然ト出來ルヲ云、即音モ姿ニナリテヨケレドモ、セキニ取サバク、又形ノアル積ノ名ナリ、聚ハ氣ノ聚リタルニテ、形ノアルニ非ズ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1191 疝 釋名云、疝、〈音山、 阿太波良( ○○○○) 、一云 之良太美( ○○○○) 〉、腹急痛也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1191 阿太波良、童蒙頌韻醫心方同訓、又見二酒飮論一、〈○中略〉原書心痛曰レ疝、疝詵也、氣詵詵然上而痛也、又云、陰腫曰レ隤、氣下隤也、又曰レ疝、亦言詵也、詵々引二小腹一急痛也、説文疝、腹痛也、
〔昆陽漫録〕
p.1191 疝
釋名に云く、心痛曰レ疝と、これにて病名も古とたがへることをみるべし、
〔伊呂波字類抄〕
〈志病瘡〉
p.1191 疝〈シラタミ、亦アタハラ、〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1191 疝( アタハラ/シラタミ) 〈腹急痛也〉 疝氣( センキ/○○)
〔病名彙解〕
〈七〉
p.1191 疝氣( センキ) 俗ニ 下風( ○○) ト云リ、
〔一本堂行餘醫言〕
〈三〉
p.1191 疝〈所晏切音訕〉疝即聚又即瘕〈附〉陰㿗 腯腳
疝者、鬱氣之凝滯、而爲レ痛者也、多在二少腹一、或上逆而奔突急痛、或四方走注爲レ痛、或自二臍下一升奔、衝レ心而痛、或下控二陰嚢一爲レ痛、或引二背脊一、或牽二脇肋一、或縮二小便一、或秘二大便一、或不レ得二前後一、或大便忽瀉忽秘、或爲二久泄一、或爲二久秘一、或控二引睾丸一入レ腹、則痛不レ可レ忍、或腹皮急、或腹筋急、或脈張筋怒、如レ有レ形、或腹中雷鳴、裡急非二必瀉一、或腹中有レ聲如レ蛙、或腰痛不レ可二俯仰一、
〔陰德太平記〕
〈四十八〉
p.1191 羽倉元陰戰死之事
三月〈○元龜二年〉十八日、已ニ打立ントスル折シモ、伊織助俄ニ 疝氣( ○○) 發シテ、前後不覺ニ譫語ノミ也ケレバ、夜討ヲヤ延引スルト云ケレ共、カク迄催シタル事、今更非レ可二遲引一トテ、羽倉孫兵衞元陰ヲ物頭トシテ、目加田采女允、同彈右衞門、高尾右馬允等五百餘人、小船十餘艘ニ取乘、米子ノ町へ打入ケリ、
〔鹽尻〕
〈一〉
p.1192 一細川三齋、疝身を苦しみてよめる歌とて、人の語りし、
いかにして我住里をあらすらん消ての後は同じ枯野に
〔柳營諸舊例的〕
〈八〉
p.1192 同勤引込屆
文化乙丑年正月朔日
御屆 松平孫大夫
私儀、今曉ゟ、持病之 疝積( ○○) 、其上風氣罷在候ニ付、年始登城難レ仕御座候、依レ之引込養生仕候、此段御屆申上候、以上、
正月朔日 〈寄合肝煎〉松平孫大夫
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1192 痮 字書云、痮、〈音悵、字亦作レ脹、波良不久流、〉腹滿也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1192 曲直瀨本悵作レ長、按廣韻、痮知亮切、屬二知母一、悵丑亮切、屬二徹母一、雖三並在二去聲四十一漾一、其音不レ同、長直良切、屬二定母一、在二平聲十陽一、音韻皆不レ同、疑悵是帳字之譌、痮帳同音、按玉篇、脹、字書亦作レ痮、醫心方脹同訓、〈○中略〉按成十年左傳、張如レ厠、注、張腹滿也、玉篇引二左傳一作二脹如一レ厠、然痮脹並説文所レ無、皆俗張字、字書訓レ痮爲二腹滿一者、蓋依二左傳注一也、又按左傳張如レ厠者、謂二飽食腹滿一、非二病名一、此宜乙引下病源候論云腹脹者由二陽氣外虚陰氣内積一也上證甲レ之、下總本正文作レ脹、注作レ痮、按玉篇云、字書作レ痮、則知正文作レ脹非レ是、
〔伊呂波字類抄〕
〈波病瘡〉
p.1192 痮〈ハラフクル、亦作レ脹、〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1192 痮( ハラフクル) 〈腹滿也〉 脹滿( チヤウマン)
〔醫心方〕
〈六〉
p.1192 治二心 腹脹滿( ハラノフクルヽ) 一方第六
病源論云、心腹脹者、脾虚而耶氣容レ之、乘二於心脾一故也、葛氏方治二卒苦心腹煩滿一、又胷脅痛欲レ死方、〈○下略〉
〔三代實録〕
〈三十陽成〉
p.1192 天皇諱貞明、先太上天皇之第一子也、母皇太后〈○高子〉贈太政大臣正一位藤原朝臣長
良之女也、后兄右大臣藤原朝臣基經初夢、后露二臥庭中一、苦二 腹脹滿( ○○○) 一、頃之腹潰、氣昇屬レ天、即便成レ日、其後后以レ選入二掖庭一、遂有レ身、
〔榮花物語〕
〈五浦々の別〉
p.1193 かの承香殿の女御うみのつきもすぎ給て、いとあやしくをとなければ、よろづにせさせ給へとおぼしあまりて、六月ばかりにうづまさにまいりて、御修法藥師經の不斷經などよませさせ給、よろづにせさせ給て七日もすぎぬれば、又のべて萬にいのらせ給へばにや、御けしきありてくるしうせさせ給へば、殿しづ心なく覺しさはぎてまつ内に、右近の内侍のもとに、御消息つかはしなどせさせ給へば、御まへにそうしなどして、いかに〳〵など御つかひ參り、女院よりいかに〳〵とおぼつかなくなどきこえさせ給ふに、この御てらのうちにては、いとふびんなる事にてこそあらめ、さりとて里にいでさせ給はんも、いとうしろめたき事など、この寺の別當なども申給ふ程に、たヾごとなりぬべき御けしきなれば、さはれつみは後に申おもはんとおぼして、まかせたてまつり給ふほどに、たヾ物もおぼえぬ水のみ、さヽとながれいづれば、いとあやしうよつかぬことに、人々みたてまつり思へど、さりともあるやうあらんとのみさはがせたまふに、水つきもせずいできて、御腹たヾしゐれにしゐれて、れいの人のはらよりも、むげにならせ給ぬ、こヽらの月比のちのけはひだにいてこで、水のかぎりにて御はらのへりぬれば、てらの僧どもあさましういひ思、ちヽおとヾはなぬかやむと云らんやうに、あさましういみじきに、かひきなといふことをせさせ給て、そらをあふぎて、ゆめさめたらん心ちしてゐさせ給へり、
〔言繼卿記〕
p.1193 天文十九年五月三日丁卯、一昨夕、右大將殿〈○足利義晴〉於二坂本穴太一被レ薨云々、但慥無二注進一、從二舊冬一水腫脹滿也、
〔漫遊雜記〕
〈上〉
p.1193 鼓脹多得二之於天一、蓋受體之初、胎穢結爲レ癖、潜在二腹裏一、壯年後、勞二動心志一、修養失二其宜一、則因
發爲二鼓脹一、故父子兄弟連發、亦往往有レ之、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1194 
病( カクノヤマヒ)
〔一本堂行餘醫言〕
〈十二〉
p.1194 噎〈烏結切、音謁、又益悉切、音一、〉
噎者、食飮窒二塞于咽
胸膈之間一之謂也、説文云、飯窒也、是也、凡人有二食入レ咽至レ膈之時、窒塞而不一レ得二前却一、總稱曰レ噎、但在二常人一、則偶有レ之事、而非レ疾耳、若至二五十以上一、毎レ飡多噎者、此乃爲レ病、即古今醫家 所レ謂膈證是已( ○○○○○○) 、膈雖二古名一、
靈樞云、膈〈出二上膈篇、根結篇、本藏篇、邪氣藏府病形篇等一、〉素問、謂二之隔一、〈出二陰陽別論、氣厥論、六元正紀大論等一、〉又作レ鬲、〈見二大奇論、氣厥論、六元正紀大論等一、〉
而推レ之則不レ通矣、何者、膈者、胸下腹上、前當二鳩尾一、後當二八椎一、横著二左右肋邊一、有二一層之張膜一、胸與レ腹、猶下樓上與中樓下上、以三其遮二隔胸腹之間一、故謂二之膈膜一、其上際之地位、謂二之膈一、膈即隔也、故唯云レ膈、猶二單云レ胸云レ腹及云レ頭云レ脚之類一也、皆指二形體地位一而言レ之、今指二形體地位一爲二病名一、則所レ不レ解也、故非レ謂二膈噎一、則不レ可レ爲二病名一、亦猶下非レ謂二胸痺、腹痛、頭痛、脚痺一、則不上レ可レ爲二病名一也、可レ見所二以膈之一字而不レ通甚明一也、弊習千載、訛以傳レ訛、無下一人辨二其非一者上、醫家之蒙昧無レ眼、此類毎多、故今掲レ噎爲二本條一、在レ咽曰二咽噎一、在レ胸曰二胸噎一、在レ膈曰二膈噎一、以下其證在二膈之部位一而噎者、十居中八九上、故以二膈噎一爲二專稱一也、自二巣元方一以來、又以二噎與一レ膈爲二二證一、立二五膈五噎等名目一、後世由レ是、益以派別支離、徒費二懸空之臆辨一、以レ噎爲二咽 之事一、膈爲二胸膈之事一、皆由レ不レ知二名實字義之當否一也、殊不レ知膈是形體、即胸膈膈膜地位之名、噎是病状、即食飮窒塞之義、元自判然明白、非レ有二可レ惑者一、何致二若レ斯蒙昧一乎、此無レ他也、其源起下於素靈、以二膈之一字一爲中病名上矣、况爲二咽膈上下陰陽氣血之論一、區々以二寒熱一爭辨乎、古今醫家之陋習、大槩皆同、不レ足二深責一焉、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈四〉
p.1194 噎膈 反胃
噎膈ハ食ヲ下スコトナラヌ病ニテ噎トバカリモ膈卜計モ云、噎ハムセルコトニテ、戰國策ニ噎而後穿レ井、何及二於急一ト有、水ニテモ不レ飮バ不レ通也、抑老人ハ食物噎スルガ故ニ、杖端ニ鳩ノ飾ヲ作
ス、鳩ハ不レ噎ノ鳥也、是ヲ鳩杖ト云、〈漢書禮儀志〉膈ハ胷膈ノ膈ナレドモ隔ト云意ナンメリ、又素問ニ、隔中否隔、霊柩ニ上膈膈洞、下膈、脾膈ナドヽ見、噎ハ素靈ニハ不レ見、五噎五膈ト云ハ病源候論ニ出、〈氣噎憂―食―勞―思―憂膈氣―恚―寒―熱―〉又羅天益衞生寶鑑ニ、十膈ヲ出セリ、此外食噎酒膈ノ類其名繁シ、膈隔鬲
ニ作ル、異義ナシ、又關格ト云アリ、格ハ吐逆シ、關ハ小便不利ノコト也ト雖ドモ、膈噎反胃關格ト并稱ス、サテ噎膈ハ古昔ヨリ難治トス、故ニ幾ノ奇法良法ト雖治スルコト無シ、病因ノ論多端ナレドモ、胎毒瘀血ニ屬ス、痩テ氣勝タル性急如二烈火一人ニ多、一體智巧人ニ勝レ、機會ヲ以テ世ニ居ル人ノ病也、愚癡温厚ノ人ハ病ズ、又猪首ノ人ニ少、鶴首ノ人ニ多、其病状食物咽喉ニツカヘ、飮ドモ不レ下、其時ハ白沫ジハ〳〵ト聚出、冷水ヲ飮テ通時モアレドモ、是ハ初起ノコト也、後ニハ強テ湯水ヲ飮バ鼻孔ヨリ出テ、終ニハ攴タル食物ヲ吐出ス、偖粥モ通リ難ハ、糯米ノ粥又麺類ニトロロヲカケ、又餠團子喉ニテ散ゼザル物ヲ食スベシ、夫モ通ズバ、キナコヲカケテ飯ヲ食スレバ、奇妙ニ通ル、此症下レバ必吐スルコト無、心神不レ變、外ニ苦惱ナシ、壯年ニテ病バ大半治スル也、丹水子ノ利膈湯或半夏瀉心湯及急湯ナド、又菴羅果一味煎服スルモヨシ、何故ニ喉ニツカヘタルカ、偶ニ下レバ又吐スルコト無ト云ヲ尋ルニ、喉ノ食道ノ左右ニ大絡有、其絡中ニ瘀血凝結シテ癤瘤ノ如クニナル故ニ、食道ヲセバメテ通用ヲ塞ギ、其所ヲ通過レバ胃中ニ納ル故、吐スルコトハ無也、通ルコトナラヌ故ニ、上ヘカヘルヨリ外無シ、是ハ吐ニハ非ズ、不レ下也、往時西京ニ橋本鍼源トカ云人、刺絡ヲ以行ル、膈ヲ治スルニ人迎ノ邊ニテ絡ノ怒脹シ、食遭ヲ俠モノヲ索得テ、鋒鍼ヲ上ヘムケテ刺ス、黑血ヲ流ス、絶粒ノ人、立地ニ食スルコトヲ得タリ、經レ日又前症ヲ發ス、時ニ偏ノ絡ヲ刺ト、又得レ食、其癤瘤ノ所至テ知難シ、一二度刺セバ鍼痕邪魔ニナリテ刺不レ能、終ニハ又不通ニナリ死トモ、其通時生ヲ萬一ニモ望ベシ、門人モ多見タレバ、其術ヲ傳タル人今尚有ンカ、或曰膈ヲ病ム人、一日面部ヲ撫ルニ覺レ快、日々ニ按摩シテ全快シタリト、是ハ喉咽ヲ侠孫絡ノ面部ニ
浮タルヲ按摩シテ結滯通暢シタルナラン、病因考ニ思慮ヲハブキテ治タルコトヲ記、是モ絡脈順流シタルナラン、サテ其機アラバ早ク思慮ヲ省キ、日々灌水スベシ、庶幾クハ可レ治也、
〔時還讀我書〕
〈下〉
p.1196 長安又話ス、本郷元町ニ一人アリ、膈ヲ患テ諸醫束レ手タリシニ、一日フト家人ノ、蝦ヲ燒ク臭ヲ聞テ、意コレヲ欲シ、取食セシニ、能納テ吐出セズ、仍テ飯ニ和シ喫スレバ、飯ヲ吐テ蝦ヲ吐セズ、然レドモ爾來消息シテ、蝦飯相和シテ遂ニ飯食ヲ吐セザルニ至リテ、漸々ニ快了セシヲ、横田宗春トイヘル醫ノ親ク見タリトゾ、始ハ伊勢蝦ニテアリケルヲ、後ハ車蝦モ納リシト、蝦ノ膈ヲ治スルニハアラザルベシ、其人ノ偶嗜トコロニ適セシニヤ、
〔陰德太平記〕
〈四十八〉
p.1196 毛利元就朝臣逝去并鹿助被レ擒事
毛利陸奧守大江元就朝臣、 膈疾( ○○) ノ兆御坐ケルヲ、種々針石ノ術ヲ盡サレシカバ、漸ク快氣ヲ得サセ給フ、サレ共弱年ノ昔ヨリ、攻戰ヲ茶飯トシ給シ故、轅門ノ霜雪、馬背ノ風雨ニ身骸ヲ痛シメ、帷幄ノ計謀ニ心意ヲ安クセズ、飮食ヲ忘レ給シ事ナレバ、カヽル勞レノツモリニヤ、殊ノ外ニ老衰シ給ケルガ、元龜二年六月十二日ヨリ、聊心地惡クナラセ給、同十四日易レ簀テ、黄壚山ノ旅ニ赴キ給フ、誠ニ七十五歳也、
〔松隣夜話〕
〈下〉
p.1196 同年〈○天正四年〉冬ノ半ヨリ、謙信公御肉日追テ脱シ、 鐵丸ノ如クナル物御胸ニ支ヘ( ○○○○○○○○○○○○○) 、 御食( ○○) ヲ吐玉フ事多日也、其後ハ冷水ノ外飮食不レ被レ遊、雖レ然御疲ノ色露モ不二見給一、晝ハ巳ノ下刻ヨリ、遠侍ニ御出、諸士ニ御對面、申ノ刻ヲ終テ被レ爲レ入、夜ハ戌ノ上刻ヨリ、子ノ刻マデ御出有テ、酒宴ヲ設ケサセ、諸士ヲ會シ、談笑自如トシテ御愁ノ色ナシ、就レ中十一月一日ヨリ、七組衆ヲ被レ召、越前口ヨリ江州濃州ヘ人數ヲ被レ出、都ヘ御進發有ベキコトノ御手配リ、晝夜十餘日ニ事畢リ、明年三月十五日、春日山ヲ御進發、五萬餘兵ノ著到也、
○按ズルニ、右ノ膈ノ病ナラン、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1197 噦噎( ○○) 唐韻云、噦噎〈上於越反、下乙劣反、楊氏漢語抄云、噦噎佐久利、〉 逆氣( ○○) 也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1197 按噦、噎、二字其義不レ同、下文詳證レ之、漢語抄噦噎連文者誤、下總本無二上於越之上字一、昌平本作二下於越反一、山田本作二上於越反下乙劣反八字一、皆在二注首一、那波本同、按廣韻、噦於月切、又乙劣切、於越於月、字異音同、蓋源君依二唐韻一擧二乙劣一、從二漢語抄一載二於越一也、則乙劣於越、並音二噦字一、非レ音二噎字一、傅寫者不レ知二復出之故一、或刪二上字一或作二下於越一、或作二下乙劣一皆誤、昌平本、曲直瀨本注噎作レ咽、噎咽同、見二上條一、醫心方噦同訓、新撰字鏡歔欷亦同訓、佐久利又見二源氏物語總角卷一、〈○中略〉按廣韻、噦逆氣也、又云、噎食塞、二字其義不レ同、説文亦云、噦气牾也、噎飯窒也、玉篇略同、則噦可レ訓二佐久利一、噎可レ訓二无須一、自是二事、唐韻亦必不二噦噎連文一、疑傳寫者渉二注所レ引漢語抄一而衍二噎字一、遂增二注首上字一也、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1197 噦噎( サクリ) 〈逆氣也〉
〔倭訓栞〕
〈前編十佐〉
p.1197 さくり 倭名抄に噦噎をよめり、小繰の義成べし、嘔吐をたくりといふにむかへ看べし、俗にしやくりといふ、しや反さ也、新撰字鏡に歔欷をよめり、泣餘の聲也と注せり、源氏、狹衣、蜻蛉日記などに、さくりもよヽとなくといへり、撰集抄にしやくりもあへずなくといひ、今もしやくりあげてなくともいふめり、
〔内科秘録〕
〈七〉
p.1197 吃逆 噦 噦逆 呃逆 
吃逆ハ古ヨリ胃ノ虚冷ヨリ起ルト論ジタル通リ、胃口ノ病ナリ、凡ソ諸病疲勞スルトキハ、吃逆ヲ發スルモノナリ、就レ中疫及痢病ノ危篤ニ至ルトキハ、吃逆ノ出ルモノナリ、虚候ト爲ス、死期ニ近クナリタリト知ルベシ、
〔病名彙解〕
〈二〉
p.1197 嘔噦( オウエツ) 乾嘔ノ甚シキヲイヘリ、噦ノ條下考ベシ、
嘔逆( ヲウギヤク) カラエヅキシコミ上ル也、嘔吐ノ類也、此ノゴトキノ類一病ニアラズ、嘔吐ノ中少ヅヽノ異ニヨリテ詞ノカハル也、
〔玉海〕
p.1198 治承四年九月七日丙辰、早旦女院渡二御御堂一、爲下訪二余所惱一給上也、余依二行歩不通一、不レ能二出仕一、仍所二渡御一也、女院還御之後、余歸宅、主税頭定長來、余疾疑二 逆氣之病一( ○○○○) 、持二來病患論一、其説二余病作一、仍注二進其藥方等一、 八日丁巳、請二佛嚴聖人一受レ戒、自二今日夕一始二念佛一之故也、是恒例所作也、雖二所勞殊重一、此願不レ可レ退、仍枉所レ始也、凡今般之疾勝二於先々一、内心極弱非レ無二其恐一、入レ夜始所作、股膝不レ叶レ心、行歩如二不通一、左右手健冷、又快難レ動、仍不レ能レ用二念珠一、只焚レ香知二數遍一、依二聖人敎一也、又曰威儀之中、行往坐皆以不レ可レ叶、仍偏以臥也、是又依二疾重一、聖人許レ之故也、凡今度念誦須二延引一、萬人制レ之、然而多年之病疾、餘命在二旦暮一、若不レ遂二此行一終レ命者、奈二後悔一何、仍強所二始終一也、自二邦綱卿之許一、已賜レ地了、可二請取一之由、示送者也、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1198 歐吐 病源論云、胃氣逆則歐吐、〈上於后反、字亦作レ嘔、倍止都久、又太萬比、〉
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1198 原書婦人雜病嘔吐候云、胃氣逆則嘔吐、按説文、歐吐也、吐寫也、是渾二言歐吐一、又説文哯字注、不レ歐而吐也、段玉裁曰、匈喉作レ惡而吐者爲レ歐、不レ作レ惡爲レ哯、吐乃總稱、釋名、嘔傴也、將レ有レ所レ吐、脊曲傴也、曲直瀨本后作レ口、字異音同、廣韻、歐或作レ嘔、倍止都久、見二竹取物語一、類聚符宣抄載二天平九年官符一云、嘔逆多麻比、皇極紀反吐訓同、神代紀爲吐訓二多久利須一、醫心方嘔訓二牟加豆久一、又訓二多万比一、嘔吐訓二毛奈波須留一、物走之義、
〔伊呂波字類抄〕
〈都病瘡〉
p.1198 歐吐〈ヘトツク〉
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1198 歐吐〈歐嘔同字〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1198 歐吐( ヘドツク/タマヒ)
〔倭訓栞〕
〈前編二十七倍〉
p.1198 へど 反吐の意なり、日本紀には反吐をたまひと訓ぜり、竹取物語に靑へどをつきて、袖中抄に貫簀たまはりて、へどつかんといふと見え、和名抄に歐吐をへどつくとよめり、つくは衝の義也、平家物語に、黄水つくといふ語も見えたり、
〔和漢三才圖會〕
〈十二支體〉
p.1198 嘔吐( へどつく) 〈歐吐〉和名倍止都久、又云太萬比、 哯吐、和名豆々太美、俗云知阿末須、〈○中略〉
按、心惡未レ至二於歐一、因
出レ之曰レ 、〈音學〉既歐有レ聲無レ物名二乾嘔一、〈加良江豆木〉有レ聲有レ物名二嘔吐一、凡嘔吐大痛色如二靑菜葉一者死、
〔病名彙解〕
〈二〉
p.1199 嘔吐( オウト) 凡嘔吐ハ胃虚ニ屬ス、物ヲクヒ脾ニ入トソノマヽ吐カヘス也、其内物アルヲ吐トイヒ、物ナキヲ嘔ト云、又聲モアリ物モアルヲ嘔ト云説モアリ、
〔日本書紀〕
〈一神代〉
p.1199 一書曰、伊弉冊尊且レ生二火神軻遇突智一之時、 悶熱懊惱因為レ吐( ○○○○○○○) 、此化二爲神一、名曰二金山彦一、次小便化二爲神一、名曰二罔象女一、次大便化二爲神一、名曰二埴山媛一、
〔今昔物語〕
〈三十一〉
p.1199 人見二醉レ酒販婦所行一語第三十二
今昔、京ニ在ケル人、知タル人ノ許ニ行ケルニ、馬ヨリ下テ、其門ニ入ケル時ニ、其門ノ向也ケル舊キ門ノ閉テ人モ不レ通ヌニ、其門ノ下ニ販婦ノ女傍ニ賣ル物共入レタル平ナル桶ヲ置テ臥セリ、何ニシテ臥タルゾト思テ、打寄テ見レバ、此女酒ニ吉ク醉タル也ケリ、此ク見置テ、其家ニ入テ、暫ク有テ出テ亦馬ニ乘ラムト爲ル時ニ、此販婦ノ女驚キ覺テ見レバ、驚クマヽニ物ヲ突ニ、其物共入レタル桶ニ突キ入レテケリ、穴穢ナト思テ見ル程ニ、其桶ニ鮨鮎ノ有ケルニ突懸ケリ、販婦錯シツト思テ、忩テ手ヲ以テ其突懸タル物ヲ鮨鮎ニコソ韲タリケレ、此ヲ見ルニ、穢シト云ヘバ愚也ヤ、肝モ違ヒ心モ迷フ許思エケレバ、馬ニ忩ギ乘テ其所ヲ逃去ニケリ、此ヲ思フニ、鮨鮎本ヨリ然樣タチタル物ナレバ、何ニトモ不レ見ジ、定テ其鮨鮎賣ニケムニ、人不レ食ヌ樣不レ有ジ、彼見ケル人、其後永ク鮨鮎ヲ不レ食ザリケリ、然樣ニ賣ラム鮨鮎ヲコソ不レ食ザラメ、我ガ許ニテ慥ニ見テ、鮨調セタルヲサヘニテナム不レ食ザリケル、其レノミニモ非ズ、知ト知タル人ニモ此ノ事ヲ語テ、鮨鮎ナ不レ食ソトナム制シケル、亦物ナド食フ所ニテモ、鮨鮎ヲ見テハ物狂ハシキマデ、唾ヲ吐テナム立テ逃ケル、然レバ市町ニ賣ル物モ、販婦ノ賣ル物モ、極テ穢キ也、此ニ依テ少モ叶タラム人ハ、万ノ物ヲバ目ノ前ニシテ、慥ニ調セタラムヲ可レ食キ也トナム語リ
傳ヘタルトヤ、
〔内科秘録〕
〈七〉
p.1200 食傷
食傷ハ又傷食トモ云フ、飮食ノ大害ヲ爲スコト特食傷ノ一證ノミナラズ、凡ソ鳥獸ノ肉、或ハ脂多キ魚、或ハ油製ノ食物等ヲ放食スル時ハ、廱疽疔瘡ヲ發シ、生冷ノ物ヲ食スル時ハ、疝癥積聚ヲ發動シ、痛飮スル時ハ、痰飮或ハ卒中風ヲ發スルノ類枚擧ニ遑アラズ、金匱ニ䅽飥之邪、從レ口入者宿食也ト云ヒ、古ヨリ病從レ口入、禍從レ口出ト云フノ類ハ此謂ナリ、
〔病名彙解〕
〈六〉
p.1200 傷食( シヤウシヨク) 〈又食傷トモ云リ〉俗ニ云ルシヨクダヽリ也、其症、胸膈痞塞、吐逆嚥酸敗、卵臭ヲ噫シ、食ヲ畏レ、頭痛發熱、惡寒シテ、病、傷寒ニ似タリ、但身痛マザルノミ、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1200 霍亂 漢書云、南越多二霍亂之病一矣、〈霍亂、俗云之利與利久智與利古久夜萬比、〉
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1200 原書嚴助傳云、閩越復興レ兵撃二南越一、南越守二天子約一、不二敢擅發一レ兵、而上書以聞、上多二其義一、大爲二發興一、遣二兩將軍一將レ兵誅二閩越一、淮南王安上書諫曰、今發レ兵行二數千里一、資二衣糧一入二越地一、輿轎而隃レ領、拕レ舟而入レ水、行二數百千里一、夾以二深林叢竹一、水道上下撃レ石、林中多二蝮蛇猛獸一、夏月暑時、歐泄霍亂之病、相隨屬也、曾未二施レ兵按一レ刃、死傷者必衆矣、此所レ引蓋節二是文一、然上書謂下越地廻遠、所レ經險惡、加以二暑月一、暑月多二歐泄霍亂一、故死者必多上非レ謂三南越之地多二霍亂病一也、而太平御覽引亦云、淮南王上書云、南越多二霍亂之疾一、與レ此同、疑修文殿御覽、謬二節漢書文一、源君李昉等襲二其誤一也、按病源候論云、霍亂者由二人温凉不一レ調、陰陽淸濁二氣、有二相干亂一之時、其亂在二於腸胃之間一者、因遇二飮食一而變、發則心腹絞痛、其先心痛者先吐、先腹痛者先利、心腹並痛者則吐利、倶發、挾レ風而實者、身發熱頭痛、體疼而復吐利、虚者但吐利、而心腹刺痛而已、又云、言三其病揮霍之間、便致二繚亂一也、山田本霍作レ癨、按玉篇、癨、癨亂也、廣韻、癨、吐病、然伊呂波字類抄亦作レ霍、與二諸本一同、又與二原書一合、諸醫書亦不レ從レ疒、山田本病下有二矣字一、那波本同、下總本無二注霍亂二字一、按、古久謂二吐下一也、今有下鄙人謂レ尿爲二波利古久一、放屁呼二倍古久一者上、
〔伊呂波字類抄〕
〈志病瘡〉
p.1201 霍亂〈シリヨリクチヨリコクヤマヒ〉 V 同
〈久病瘡〉
p.1201 霍亂〈クワクラン、如レ字、〉
〔二中歴〕
〈十三十列〉
p.1201 危物 路頭霍亂人
〔類聚名物考〕
〈病痾二〉
p.1201 霍亂 しりよりくちよりこくやまひ〈和名抄〉
是はもと病名にあらず、病者の状態によりて名付しものにて、用を體とせしなり、揮霍撩亂とて、身を悶て手足を振まはすやうなる病態をいへる詞なり、
〔異疾草紙〕
p.1201 霍亂( ○○) といふ病あり、はらのうち苦痛さすがごとし、口より水をはき、尻より痢をもらす、悶絶顛倒して、まことにたえがたし、
〔醫心方〕
〈十一〉
p.1201 治二霍亂一方第一
病源論云、霍亂者由二人温凉不調一、陰陽清濁二氣有二相干亂一之時、其亂在二於腸胃之間一者、因遇二飮食一而變發、則心腹絞痛、其有二先心痛一者則先吐、先腹痛者則先下利、心腹並痛者吐利倶發、挾レ風而實者身熱頭痛體疼而復吐利、虚者、但吐利、心腹
痛而已、亦有三飮酒食二肉腥鱠生冷一過レ度、因三居處不レ節、或露二臥濕地一、或當レ風取レ凉而風冷之氣歸二於三噍一、傳二於脾胃一、脾胃得レ冷則不レ磨、不レ磨則水穀不二消化一、亦命二淸濁二氣相干一、腸胃虚弱、便致二吐利一、水穀不レ消、則令二心腹脹滿一、皆成二霍亂一、霍亂有二三名一、一名二胃反一、言其胃氣虚逆返二吐飮食一也、二名二霍亂一、言其病揮霍之間、便致二繚亂一也、三名二走哺一、言其哺食變逆者也、養生方云、七月食レ蜜、令三人暴下發二霍亂一也、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈三〉
p.1201 霍亂 中暑
霍亂ハ暍也ト雖、暍ハ傷暑也、是ハ耕夫旅客ナド、炎天金モ鑠スホドノ大暑ニ力行シテ、眩暈暴熱シテ倒レナドスルノコトニテ、史記ニ禹扇レ暍ト見ユ、又淮南子ニ、武王蔭二暍人于越下一、左擁而右扇レ之トアリ、皆傷暑ノコトナリ、霍亂ハ素問ニ出、病形ノ有樣ヲ以名付タリト諸書ニ見ユ、其形ハ腹痛甚ク、手足逆冷、大汗出、煩渇乾嘔、轉筋六脈細伏ス、是ハ老壯ノ別ナク、一晝夜ホドニ死生ノ有コ
トニテ、俗ニ 大霍亂( ○○○) ト云、數刻苦メバ顔色瘠、目上陷リ、半眼直視シテ速ニ死ス、
〔小右記〕
p.1202 長德五年〈○長保元年〉十一月十七日丙申、左府〈○藤原道長〉自二曉更一俄惱給由、面々云々、午後參詣、依二御物忌一、以二伊與守朝臣一申二入事由一、今間頗宜、初惱體如二 霍亂一( ○○) 云々、續參レ宮、御惱尚不快、女房云、此五六夜御寢如レ例者、秉燭退出、
〔醫心方〕
〈六〉
p.1202 治二卒腰痛一方第七
病源論云、腎主レ腰、腎經虚損、風冷乘レ之、故腰痛也、又耶容二於足大陰之絡一令二人腰痛一、引二小腹一不レ可二以仰息一、凡腰痛有レ五、一曰少陰、小陰腎也、十月萬物陽氣皆傷、是以腰痛、二曰風痺、風寒著レ腰、是以腰痛、三曰腎虚役用傷レ腎、是以腰痛、四曰槩腰、墮墜傷レ腰、是以腰痛、五曰寢臥、濕地是以腰痛、
〔今昔物語〕
〈十五〉
p.1202 小松天皇御孫尼往生語第卅六
今昔、小松ノ天皇ノ御孫ニテ尼有ケリ、若クシテト云フ人ニ嫁テ三人ノ子ヲ産セリ、其子共幼クシテ皆打次ギ失ニケリ、母此ヲ歎キ悲ムト云ヘドモ、甲斐无クシテ過ル間ニ、其ノ後幾ノ程ヲ不レ經ズシテ、亦其ノ夫失ニケリ、世ノ無常ナル事ヲ厭テ過ルニ、寡ニシテ人ニ近付ク事无カリケリ、而ル間念佛ニ道心發ニケレバ、遂ニ出家シテ尼ト成ヌ、其ノ後偏ニ彌陀ノ念佛ヲ唱ヘテ更ニ餘思モ无シ、而ル間尼 腰ニ病有テ( ○○○○○) 起居ニ不レ叶ズ、然レバ醫師ニ問ニ、醫師ノ云ク、此レ身ノ痩セ疲レタルニ依テ至ス所ノ病也、速ニ肉食ヲ可レ用シ、其ノ外ニ療治ニ不レ可レ叶ズト、尼醫師ノ言ヲ聞クト云ヘドモ、肉食ヲ用テ身ヲ助テ病ヲ愈サムト思フ心无クシテ、肉食スル事不レ能ズシテ、彌ヨ念佛ヲ唱ヘテ、極樂ニ往生セムト願フヨリ外ノ思ヒ无シ、而ルニ不二療治一ズト云ヘドモ、腰ノ病自然ニ愈テ、起居本ノ如クナリ、尼本ヨリ心柔懦ニシテ慈悲有リ、然レバ人ヲ哀ビ生類ヲ悲ブ事無レ限シ、而ル間尼年五十餘ニ成ル程ニ、忽身ニ少シノ病有テ惱ミ煩フ間、空中ニ微妙ノ音樂ノ音有リ、隣リ里ノ人此レヲ聞テ驚キ怪ブ間、尼傍ニ有ル人ニ告テ云ク、阿彌陀如來今來リ給テ、我
レヲ迎へ給フ、我レ只今永ク此ノ土ヲ去テ、極樂ニ往生シナムトスト云テ、西ニ向テ失ニケリ、此レヲ見ル人涙ヲ流シテ悲ビ貴ビケリ、此ヲ聞ク人亦不レ貴ザルハ無カリケリ、此レ奇異ノ事也トテ、語リ傳フルヲ聞キ繼テ、此ク語リ傳ヘタルトヤ、
〔小右記〕
p.1203 長和五年正月六日辛亥、召使申、今日叙位議由、申刻許參内、陣座有レ饗、仍不レ著、詣二左相府直廬一、〈中宮御在所、假為二直廬一、〉諸卿會座出會云、兩府不レ可レ被レ參云々、早可レ始二叙位議一者、仍余率二諸卿一著二陣座一、大納言道綱卿稱二 腰病一( ○○) 留二相府直廬陣一〈○下略〉
〔台記〕
p.1203 久安三年五月廿五日丁亥、禪閤、〈○藤原忠實〉賜二文書九合一、〈陰陽書二合、醫書二合、日本書五合、〉差二置二帖一、〈一帖御即位、一帖大内、〉御語次、被レ仰曰、 腰疾( ○○) 、自二一昨日一大漸、入レ夜見二寛平遺誡一、
〔增鏡〕
〈六烟の末々〉
p.1203 明くる年は建長五年なり、正月十三日、御門〈○後深草〉かうぶりし給ふ、御年十一、御諱久仁と申す、いとあてにおはしませど、あまりさヽやかにて、又 御腰などのあやしく渡らせ給ふ( ○○○○○○○○○○○○○○) ぞ、口をしかりける、いはけなかりし御程は、なをいとあさましうおはしましけるを、閑院の内裏燒けけるまぎれより、うるはしくたヽせ給ひたりければ、内の燒けたるあさましさは何ならず、この御腰のなをりたるよろこびをのみぞ、上下おぼしける、
〔看聞日記〕
p.1203 應永廿三年八月十九日、昌耆法眼參、自二十四五日一御所樣 御腰痛( ○○○) 、起居不レ叶、自二夏比一御不食之間、御憔悴無レ極、舊冬御脚氣再發之由昌耆申、夏以來同阿療治申無二効驗一、此間高間良藥勾當局進レ之、是も無二其驗一、此藥共不相應之由昌耆申、御療治事被二仰付一了、
〔倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1203 陰頽 針灸經云、治二陰頽一方、〈頽音杜回反、一名下重、俗云曾比、〉令三莖頭下向二陰嚢縫一、當二頭所レ著處一、灸二其縫上一七壯、即有レ驗矣、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1203 戸令、下重爲二殘疾一、義解、
二陰頽一也、陰極脹腫、得レ陰即發、即大如レ升、沈重難レ行、故曰二下重一也、新撰字鏡𤺄同訓、谷川氏曰、疑是添之義、万安方訓二曾比布具利一、今俗呼或爾、〈○中略〉按千金方
㿗病門、令下雀頭下向著二嚢縫一當中陰頭上、灸二縫上一七壯、即消已驗、與レ此略同、山田本無二陰嚢之陰字一、與二千金方一合、似レ是、然陰嚢條引二針灸經一出二是名一、原書有二陰字一明矣、此無二陰字一非レ是、那波本七下有二壯字一、與二千金方一合、似レ是、按釋名、陰腫曰レ隤、氣下隤也、説文隤、下隊也、又云、穨禿貌、非二此義一、則
隤爲二正字一、作二陰頽一、假借字也、
〔伊呂波字類抄〕
〈所人體〉
p.1204 陰頽〈ソヒ〉 脢
下重〈已上同〉
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1204 陰頽( ソヒ)
〔令義解〕
〈二戸〉
p.1204 凡〈○中略〉 下重( ○○) 〈謂陰頽也、陰核脹腫、得レ陰即發、其大如レ升、沈重難レ行、故曰二下重一也、○中略〉如レ此之類皆爲二殘疾一、
〔覆載萬安方〕
〈一〉
p.1204 一陰疝膀胱陰㿗〈日本世俗曰二筑紫病( ○○○)一、書曰二㿗病一有二四種一、㿗男子病也、疝氣即通二于男女一、有二七疝八疝一也、〉此四㿗、或云本藏氣、或云疝氣、或云腎氣、
〔瘍科秘録〕
〈四〉
p.1204 腸㿗( ○○) モ、㿗疝ノ一證ナリ、金匱ニハ陰狐疝ト云テ、蜘蛛散ヲ用フ、後世ノ方書ニハ、單ニ狐疝ト云リ、疝ト云ヒ傳フレドモ、實ハ疝ニ非ズ、千金方ニハ已ニ氣ガ附テ腸㿗ノ名ヲ立テタリ、和蘭ニテハ、ブレウクト稱シテ、尤能ク其因ヲ詳ニセリ、世醫ハ偏ニ疝ト心得、妄ニ鍼灸藥餌ヲ用フルコト捧腹スべキコトナリ、一體睾丸ハ腹ヨリ筋ノ出デヽ釣リ置クモノナリ、其筋ノ通ル孔大ニナルトキハ、腹墜下シテ、陰嚢ニ入リ、一度墜下スルト、癖ニナリテ、常ニ出ルヤウニナルナリ、、小兒ノ夜啼、又百日咳ニテ努スルトキハ、必ズ腹㿗ニナルモノナリ、初テ出タル時ハ、痛小腹ニ引キ忍ブベカラザルホドノモノナリ、日ヲ經レバ孔モ熟路ニナルユエ、格別ニ堪ヤスシ、然レドモ邪魔ニナリテ、遠方ノ歩行ハナリ難シ、腸㿗輕クシテ常ニハ出ヌモノモ、遠方へ歩行スルカ、重キ物ヲ擔バ必ズ出ルナリ、患者ヲ仰臥ニシテ、陰嚢ヲ腹へ推込ムヤウニ揉ムトキハ、一時ニ聲ヲ成シテ入ルモノナリ、腸㿗ハ陰嚢ニ限ラズ、 腿夾縫( イヌコトコロ) ヘモ出ルナリ、若シ入兼ルトキハ、焮熱腫痛ヲ發シ、遂ニ膿潰シテ糞汁ノ瘡口ヨリ出ルヤウニナルモノアリ、恐ルベキコトナリ、一兒聲ヲ極メテ
人ヲ呼ブニ、腿夾縫突起シテ、大サ鷄卵ノ如クニナリ、痛ミ、觸レ近クベカラズ、醫者兩三輩集リテ、急發ノ腫瘍ナラントテ、狐疑決スルコト能ハズ、予診スルニ腸㿗ユエ、強テ揉ミ込ムニ、乍入テ常ニ復セリ、婦人ノ陰門ニ 茄子( ナス) ノ下ルト云フコトアリ、壽世保元ニ茄病ト名ク、大サ茄子ノ如ク、紫色ニテ茄子ニ彷彿タルモノナリ、是モ腸㿗ト同病ニテ、産難ニテ努力セシ後ニ發ス、仰臥スルトキハ腹中へ入リテ、少シモ陰事等ヲ妨ゲズ、
〔病名彙解〕
〈二〉
p.1205 膓㿗 陰㿗ノ一症ナリ、房勞過度シ、腎ノ臓虚冷シテ、男根ハレ、カユキ證ナリ、
〔瘍科秘録〕
〈四〉
p.1205 水㿗( ○○) 〈大陰莖、腸㿗、〉
㿗疝ハ、素問ニ出デヽ、凡陰嚢ノ大ニナル病ノ總名ナリ、水㿗モ、其中ノ一證ニテ、瘀水陰嚢ノ内ヘ聚リ、日ヲ積ミ月ヲ累ヌルニ從ヒ、 漸( ヤヽ) 大ニシテ、 瓜( ウリ) ノ如ク 瓢( フクベ) ノ如クニナルモノナリ、全嚢大ニナルモ、偏嚢大ニナルモアリ、大害モナケレドモ、起居歩行ニ便ナラズ、陰莖モ嚢中ニ藏レテ、小便ヲスルニ不自由ナルモノナリ、甚大ナルモノニ至テハ、斗ノ如クニシテ、衣ニ餘リ、皮モ㿔瘣( ブツブツ) トシテ 堅硬頑痺( カタクシビレ) 、重クシテ引釣、其儘ニ置キ難ク、袋ニ入レ紐ヲ附ケ頭ニ掛テ置クモノアリ、母多足ト云フテ、 偏脚( カタアシ) 或ハ兩脚腫テ色ヲ變ゼスﾞ、痛痒モナク、格別ニ歩行ヲモ妨ゲズ、鍼灸藥餌寸驗ナク、生涯愈ザルモノアリ、是ハ水㿗ト同因ナリ、香川太仲已ニ此説アリ、卓見ト謂フベシ、
〔病名彙解〕
〈三〉
p.1205 㿗疝( タイセン) 疝氣ニテ陰丸ガ腫大ニナルコト也、俗ニ ソヘフクリ( ○○○○○) ト云リ、濕氣アル地ニ坐シ、或ハ石ノ上ニ坐シ冷ニアタリテ生ジ、又ハ胎病ニテ父ノ疝氣ヲ病子ハ、必ズ生ナガラ陰丸ガ大ナルモノ也、
〔理齋隨筆〕
〈一〉
p.1205 むかし七八十年以前に、東海道戸塚大陰嚢とて、名だかかりし乞食ありける、其後引績て予が長崎におもむきし寛政のころにも、同じ驛にまた大なる陰嚢の乞食ありて、旅人通行せる路傍に出て、陰嚢の上にたヽき鉦を置て、念佛申て錢をもらひ、世を渡るいとなみとせる者
あり、日暮て家にかへるには、彼のきんに紐をからげて結びあげ、肩に掛て戻ると、むかしの二代目なれと申たる有り、一とせ紅毛人江戸へ拜禮に來れる時、これを見て不便の事なり、水を取て愈しあたへんと、通事を以て申ければ、彼の乞食答へて、其の志の程は忝けれど、我は此陰嚢の故を以て、今日錢を得て樂に暮す也、今此陰嚢人並になりては、却て飢渇に及べければ、此陰嚢こそ我命の親なりとて、療治を受けずとかや、をかしき話也、
〔瘍科秘録〕
〈四〉
p.1206 水㿗〈大陰莖 腸㿗〉
陰董太ク腫レテ瓜ノ如クニナリ、〈包莖ノ者多ク之ヲ患フ〉痛痒モセスﾞ、但㿔瘣( ブツ〳〵) トシテ 堅硬頑痺( カタクシビレ) ルモノヲ春林軒ニテ 大陰莖( ○○○) ト名ク、是モ水㿗ト同病ナリ、先年大陰莖ノ長サ尺許リノ者ノ 觀物( ミセモノ) 場ニ出シコトアリ、
〔日本書紀〕
〈二十四皇極〉
p.1206 三年正月乙亥朔、以二中臣鎌子連一、拜二神祇伯一、再三固辭不レ就、稱レ疾退居二三島一、于レ時輕皇子 患レ脚不レ朝( ○○○○) 、中臣鎌子連曾善二於輕皇子一、故詣二彼宮一而將レ侍レ宿、
〔萬葉集〕
〈二〉
p.1206 同石川女郎更贈二大伴田主中郎一歌一首
吾聞之( ワガキヽシ) 、 耳爾好似( ミヽニヨクニハ) 、 葦若未乃( アシカビノ) 、 足痛(アナヤム/○○) 吾勢( アナヤムワガセ) 、 勤多扶倍思( ツトメタフベシ) 、
右依二中郎 足疾一( ○○) 贈二此歌一問訊也
〔日本後紀〕
〈二十二嵯峨〉
p.1206 弘仁三年九月丙子、况復時屬二昇平一、世返二淳朴一、感レ恩勵レ力、竊二斯懸車一、頃來渇病彌積、兼暗二眼精一、 兩脚強疹( ○○○○) 、行歩失レ便、内自省量、既知二不可一、在二於物議一、更亦何疑、若猶事二惷愚一、都迷二止足一、恐鼎不レ堪レ任、遂致二覆餗一、伏願辭二罷官職一、養二疾私第一、遙同二葵藿一、朝夕傾レ心、
〔空穗物語〕
〈菊の宴〉
p.1206 御かへりなし、大將のぬしいたくなげきて、はせにもうで給て、こほす事をかたうおほいなるぐはんをたて給て、七日ばかりこもり給て、ひごとにじゆきやうしつヽ、おもふ事なし給へらば、こがねのだうたてん、こむじきの御かたあらはしたてまつらむ、月に一どさうの
みあかし、いのちのあらんかぎりたてまつらんなど申給ていで給て、りうもむ、ひそ、たかまつほさるみたけまうでしのびてまうで給ふ、さるまヽに、さヽしきみちをあゆみもしり給はず、あゆみたまへば、 御あしはれぬ( ○○○○○○) 、かくてもおぼす事のかたかるべきを心ぼそうおぼしつヽまうで給を、ひぢかさあめふりかみなりひらめきて、おちかヽりなんとする時に、右大將のぬし三條の北方頭中將よりも、あて宮にきこえさしてやみなんずる事とおぼすに、なみだとヾまらず、おもほさる、それよりもかくきこえ給へり、
おもふことなすてふ神もいろふかきなみだながせばわたりとぞなる、ときこえ給へり、あて宮み給て、物もの給はず、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1207 脚氣 醫家書有二脚氣論一〈脚氣、 一云脚病( ○○○○) 、俗云阿之乃介、〉
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1207 新唐書云、脚病論三卷、脚氣論一卷、蘇鑒徐王等編集、現在書目録云、脚氣論一卷周禮撰集、醫心方引二蘇敬脚氣論一、今皆無二傳本一、未レ知二此所レ引何氏書一、曲直瀨本醫家書有二脚氣論一七字、作下病源論云、脚氣爲二病本一、因二腎虚一十二字上、疑後人所レ改、河海抄所レ引與レ舊同、病源候論、凡脚氣病、其状自レ膝至レ脚、有二不仁一、或若レ痺、或淫々如二蟲所一レ縁、或脚指及膝脛洒々爾、或脚屈弱不レ能レ行、或微腫、或酷冷、或㾓疼或緩縦不隨、或攣急、或至困能飮食者、或有二不レ能者一、或見二飮食一而嘔吐、惡レ聞二食臭一、或有レ物如レ指、發二於踹腸一、逕上衝レ心氣上者、或擧體轉筋、或壯熱頭痛、或胷心衝悸、寢處不レ欲レ見レ明、或腹内苦痛而兼レ下者、或言語錯亂、有二善忘誤一者、或眼濁精昏憒者、此皆病之證也、按脚病、見二續日本紀、室物語藏開下卷樓上卷、源氏物語若菜上卷、及本書廣本藥名類犀角湯條一、阿之乃介、見二空物語國讓下卷藏開下卷、源氏物語夕霧卷、枕冊子一、
〔伊呂波字類抄〕
〈安人體〉
p.1207 脚氣( キヤクケ) 〈アシノケ、有二 脚氣論一( ○○○) 、〉 脚病〈同〉 V 同
〈加人體〉
p.1207 脚病( ○○) 〈カクビヤウ、俗音、〉
〔撮壤集〕
〈下病疾〉
p.1207 脚氣( カツケ) 〈アシ〉
〔倭訓栞〕
〈前編二阿〉
p.1208 あしのけ 和名鈔に、脚病脚氣と見ゆ、あしのけのぼるといへるは、今の脚病衝逆をいふ、源氏物語、うつぼ物語などに、かくびやうといへるも、亦脚病の音なり、〈○中略〉きや反かなり、よてかくびやうとも、かつけともよめり、後撰集に、
あしびきのやまひはすとも踏かよふ跡をば見ぬは苦しきものを
〔醫心方〕
〈八〉
p.1208 脚氣所由第一
病源論云、凡脚氣病、皆由レ感二風毒一所レ致也、初得二此病一多不二即覺一、或先無二他疾一而忽得レ之、或因二衆病一後得レ之、蘇敬論云、夫脚氣爲レ病本因二腎虚一、多中二肥溢肌膚虚者一無レ問二男女一、若痩而勞苦、肌膚薄實、皮臚厚緊者、縦患亦無二死憂一、一差已後又惡、久立二冷濕地一、多飮レ酒食レ麺、心情憂憤亦使二發動一、晉宋已前名爲二緩風一、古來無二脚氣名一、後人以二病從レ脚起初因腫滿一、故名二脚氣一耳、
〔覆載萬安方〕
〈一〉
p.1208 二十五卷
一 脚氣門 病源論十三卷出二八證一 二 風毒脚氣
三 脚病腫滿〈左右脚或隻足脚、謂二之腫滿一、〉 四 脚氣心腹脹滿
五 脚氣衝心〈是頓死之大病、有二脚氣之人一預愼レ之、又急須レ治レ之、〉 六 脚氣語言謇澀〈無二快辨流言一、謂二之謇澀一、〉
七 脚氣驚悸〈世俗云二腎氣一此類也〉 八 乾濕脚氣〈乾脚氣、痛而不レ腫也、四肢腫謂二之濕脚氣一也、〉
九 脚氣變成水腫 十 脚氣大小便不通
十一 江東嶺南瘴毒脚氣 十二 論二脚氣冷熱不同一
十三 論下因二脚氣一續中生諸病上〈并灸法〉
〔喫茶養生記〕
〈下〉
p.1208 脚氣病
此病發二於夕之食飽滿一、入レ夜而飽二酒食一爲二厄、午後不レ飽レ食爲二治方一、是又服二桑粥桑湯高良薑茶一、奇特養生妙治也、新渡醫書云、患二脚氣一人晨飽食、午後勿二飽食等一云云、長齋人無二脚氣一是此謂也、近頃人萬病稱二脚
氣一、尤愚也、可レ笑哉、呼二病名一而不レ識二病治一、爲レ奇云云、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈三〉
p.1209 脚氣
江戸ニ松井材庵ナル者、脚氣論ヲ著シ、諸書ノ論ヲ輯メ評注シタルモノアリ、又源養德ナル者、脚氣類方ヲ著シ、廣ク脚氣ノ方ヲ輯メタリ、二書ニテ療治ノスムト云ニハ非ズ、此二人本邦ニテ脚氣ヲ唱へ始タルニ非ズ、脚氣ノ世ニ唱ル人ノ多キ故ニ、思付テ著述シタルナラン、脚氣ヲ説キ、初テ其治ニ妙ヲ得タリト云シハ、東洋先生ナリトゾ、サテ又脚氣ハ、公侯富貴人、常ニ膏梁ヲ食シテ身ヲ勞セヌニ作ルト云、是モ一因ニハアレドモ、又貧賤ノ人ニモアリ、必膏梁ノミデ作ルトカギルベカラズ、傷寒ノ後、或ハ瘧疾、又ハ痢ノ後、産後ニモ作ル、又下疳ヲ患テ後ニ多ク作ル、骨疼ナリトテ治ヲ誤ルコトアリ、意ヲ付テ見ルベシ、
〔雜病記聞〕
〈二〉
p.1209 脚氣
脚氣ノ理ヲ考フルニ、七個條ノ他病ニ異ナルコトアリ、此異ナル所ニヨリテ、其理ヲ考へ明ラムベシ、七個條ト云フハ、脚氣ハ四五月ノ頃ヨリ發リテ、梅雨ノ頃最モ多ク、八九月迄ノ病ナリ、寒氣ノ時ハ發スルコトナク、秋九月頃ニ至レバ、自ラ愈ユルモノナリ、是一ツナリ、脚氣ハ京都江戸ニ多クシテ、他國ニ病ムモノ甚稀ナリ、是二ツナリ、脚氣ハ足ノミ先微腫麻痺シテ、手臂面部腹背ニ異ナシ、是三ツナリ、脚氣ハ飮食モ常ノ如クニシテ減ズルコトナシ、是四ツナリ、脚氣ハ寒熱ナシ、是五ツナリ、脚氣ハ王公貴人ニ稀ニ、又雇夫下賤勞動ノ者ニ多ク、唯江戸ニテハ侯國ノ武士勤役ニ來リ居ルモノニ最多、格別身ヲ勞セザル商賈ニ在リ、京ニテモ商賈ノ手代或ハ終日坐シテ動カザル職人、又ハ他邦ヨリ來リ居ル書生等ニ甚多シ、是六ツナリ、脚氣ハ病ムトイヘドモ惱ム所ナク、無病ノ者ノ如クナルニ、一旦頓ニ衝心スルニ至テハ、必死ノ病ニシテ、鍼灸藥劑絶ヘテ効ナシ、是七ツナリ、〈○中略〉
脚氣ノ京江戸ニ限リテ多キコトハ、是大都會ノ地ハ、人民甚ダ多ク、大小便ノ不凈ナルヨリ、厨下ノ腐穢ノ滴リニ至ルマデ甚ダ多ク、土中ニシユミ透リ居ルニ、人家モ甚多ク、土藏ナド相ナラビ、少シノ空地モ稀ニシテ、風ノ通リ日ノ照ラシ惡シキ故ニ、濕氣多キナリ、大坂ハ大都會ナリトイヘドモ、海濱ニテ、砂地ユヘニ、濕ヲ含ミ蓄ルコトナク、川筋モ多ク、汚濁日夜ニ流レ去テ海ニ入ル故ニ、土地ニ濕氣ナシ、雨後ナドニテモ、雨サヘ止ムトキハ、即時ニ道路乾クニテモ知ルベシ、京ナドノ水サバケ惡シク、土地小石交リノ黑土ニテ、濕氣甚含ミ、蓄ヘ易ク、雨後ナドニテモ、急ニハ道路ノ乾キ難キニテモ知ルベシ、江戸モ全體ノ土地海泥ニテ、井ナドモ僅ニ數尺掘レバ水甚近ク、殊ニ水道蜘蛛網ノ如ク、人家ノ下ニ縦横シテ、常ニ水ヲ蓄ヘ、大川アリトイヘドモ、大坂ナドノ川ニハ異ナリテ、海潮往來シテ、汚濁流レ去リ難シ、大小便ナドモ、軒下ノ溝ニ流シ捨ニテ、他邦ノ如ク、田畑近カラザレバ、農民是ヲ取ルコトナクシテ、皆人家ノ地中ニシユミ付居ル故ニ、其土其水皆甚肥テ、膏膄氣ノ多キ故ニ、下流ノ海中、淺草海苔ナドノ如キ、美味ノ海苔ヲモ生ズルナリ、京ナドモ土地ニ膏膄ノ氣多キコトハ、下流ノ東寺村九條村等ノ畑ヲ見ルニ、溝ノ水ヲ濺ギカケルノミニテモ、黑土ニ靑黴ヲ生ジテ、芋、水菜、葱ノ類肥フトリテ、味ノ美ナルコト天下ニ冠タリ、
〔牛山活套〕
〈上〉
p.1210 中濕
今時仕官ノ人、或商人モ東武ニ至リテ鬱氣シ、足膝痿輭ニシテ、面目虚浮シ、飮食不レ進者ヲ、俗ニ江戸煩ト云、是皆水土ニ服セザルノ類也、故郷ニ歸ルトテ箱根山ヲ越レバ、多ハ其病不レ治シテ自ラ平服ス、牛山、嚮ニ官ニアル時、江戸ニテ西國ノ諸侯ノ屋敷ヲ見聞スルニ、何ノ所ニモ此病アラズト云コトナシ、多ハ不換金正氣散ヲ用テ宜、虚鬱ヲ侠ム者ハ必ズ死ス、濕ヲ治シテ不レ愈者ハ、必速ニ故郷ニ歸ラシムベシ、箱根ヲ越レバ自ラ愈ル也、一奇事ノ病也、國牧ノ傅醫タラン者知ラズンバアルベカラズ、
〔時還讀我書〕
〈上〉
p.1211 脚氣ハ六七十年以前ハ至テ少ク、偶患ル者アリト聽ハ篤志ノ生徒ナド執匕ノ醫へ紹介ヲ乞テ往診セシホドノコトナリシト老醫ノ話ナリ、シカルニ三四十年來ハ上王公ヨリ下小民ニ至ルマデ、夏秋ノ際ハ殊ニ夥ク衝心スルモノ亦少カラズ、風會ノ移遷スルユエナラン、但近年ハマタ前年ニ比セバ甚多カラザルニ似タリ、
〔脚氣提要〕
〈上〉
p.1211 總論
文化甲子ノ夏天、恒歳ヨリモ大ニ熱ス、然ニ中暑ノ病稀ニシテ、更ニ秋ニ至リテモ、瘧痢ノ病亦少シ、八月ヨリ冬ニ至ルニ及ンデ、 脚氣ノ病( ○○○○) 大ニ流行ス、是レ全ク暑濕ノ邪、既ニ脚ニ客トナリタルガ、寒冷ノ氣ニ觸ルヽニ至テ發スル者ニアラズヤ、是レ近來衆人親シク見知ル所ヲ以テ證スルノミ、然レドモ亦同病アツテ同症ナシ、發スルニ四時ノ不同アリ、初學ノ徒偶一方ヲ處シテ、一病ヲ治スレバ、イツニテモ此方ニテ治スルト心得ルハ、所レ謂株ヲ守テ兎ヲ待ツノ謗ヲマヌカレズ、兎角古人ノ規矩ヲトリテ、其ノ年々氣運ニ隨ヒ折衷シ、手段ノ工夫ヲナス時ハ、自ラ發明スルコト多ク、吾ガ言ノ誣ザルヲ知ルベシ、今世千金外臺ヲ唱フルモノアレドモ、實ニ的中ノ治ヲ施ス者ヲミズ、滔々トシテ皆偶中ノミ、而シテ自ラコレヲ以テ得タリトシテ、漫ニ千金外臺ノ名ヲ汚ス、豈カナシマザランヤ、
〔東門隨筆〕
p.1211 一脚氣ノ病ハ、唐王燾ガ外臺秘要ニ精ク見ヘタリ、二十五六年已前マデハ、此書モ甚稀ニ醫人モ不二心付一、故ニ脚氣病ヲ知タル者ナシ、予〈○山脇東門〉ガ父此書ヲ翻刻シテ、脚氣ト云コトヲ説初シヨリ、世上ニ脚氣アルコトヲ知タリ、故ニ世俗ハ新病ノ出來タルト心得タル者多シ、醫人モ其理療ニ疎カリシガ、年ヲ經タルユヘ、今時ハ少シハ療法モ覺ヘタレドモ、ハカ〴〵シクモナシ、但此病俗間ニ、膝脚氣、濕脚氣ナド云トハ、大ニ相違シタリ、サレド膝脚氣ナドハ脚氣ノ一證ニテ、甚輕キ時アルコトニテ、筋攣ヨリヲコレルコトナリ、全體脚氣卒慢ノ二腫アリ、卒ハ十ニ九ハ救
得ガタシ、此病初夏ノ比ヨリ初冬ノ頃マデ有モノニテ、其餘ハナシ、外臺秘要蘇長史論曰、凡脚氣病多以二春末夏初一發動、得レ之皆因二熱蒸、情地憂憒一、春發如レ輕、夏發更重、入レ秋小輕、至レ冬自歇、大約如レ此、亦此時有下異二於此候一者上ト云ヘリ、此格論ナリ、醫此病ニ疎キユヘ、晩冬初春ニモ衝心ノ病ニテ、浮腫サヘアレバ脚氣トオボヘ、療スルコトナリ、不穿鑿ナルコトナリ、金匱要略脚氣冲心ト云ニ、礬石散ヲ湯中ニ投ジ浸脚ノ法アリ、其他外臺ナドニモ、杉木湯ニテ將脚ノ方アリ、甚快キモノナリ、千金方ニモ、脚氣論有テ竹瀝ヲ多用ヒタリ、サレド脚氣ハ外臺ニテ盡シタリ、其他古書ニモ、左傳成公六年、獻子曰、民愁則墊隘、於レ是乎有二沈溺重膇之疾一、ト云ルコトアリ、此土薄水淺ヨリ出タル病ナリト、此脚氣ニ類シタル者ナランカ、又呂子重己篇ニ、室大則多レ陰、室高則多レ陽、多レ陰則蹷、多レ陽則痿比蹷、ト云タルモ亦脚氣ナラン、又源氏物語、枕草子ナドニ、脚氣ノボルト云、又ウツボ物語カクビヤフナド云タルモ皆此病ナリ、此等ノ言ニテ見レバ、本邦ニモ古人ハ明辨シテ、療スルコトモ覺ヘ居タランニ、世ノ變遷ニツレ、カヤウノコトモ廢シタルト見ヘタリ、
〔脚氣鉤要〕
〈序〉
p.1212 脚氣、晉宋以前名爲二緩風一、晉宋呼爲二脚中一、見二王羲之及羊欣書一、至二脚氣之稱一、蓋始見二梁武帝書一、曰數朝脚氣轉動不レ得是也、唐人或謂二之軟脚病一、論二其病因一、孫王二家之言爲二至備一、而其最古而盡者、唯左氏爲レ然、曰沃饒而近鹽、土薄水淺、於レ是乎有二沈溺重膇之疫一、蓋此疾不レ於二山岡起伏水泉湍急之境一、而必於二、濱海衍沃水泉重濁之際一、不レ於二攻苦食淡之徒一、而必於二、安坐至食之人一、唐人稱爲二江南之疾一、韓昌黎曰、是疾也江南之人常々有レ之、柳子厚之貶二永州一也、亦曰昏眊重膇意以爲レ常、孫子論二脚氣一曰、魏周之代無二此疾一、魏周皆在二江北一故也、太史公稱、楚越之地烹レ海爲レ鹽、
稻羮レ魚、地勢饒レ食、不レ待レ賈而足、以レ故呰
説者曰、呰弱也、 病也、羸弱而足病也、則江南之多二脚氣一、秦漢既然、而左氏之言於レ是乎蓋驗矣、其在レ我也、唯 江戸稱三最多二此疾( ○○○○○○○) 一、而京攝次レ之、意者江戸地勢、大較與二江南一相類、而士民之衆、魚鹽之饒、百貨之富、蓋有レ過無レ不レ及也、此則地勢之偶相類、乃情状之所二以相同一也歟、夫江戸既稱二脚氣最多一、則我輩爲二人
之司命一者、不レ宜レ不レ講二明之於平日一也、是今村祗卿之所三以有二鉤要之選一也耶、〈○中略〉
文久紀元龍集重光作噩夏五月朔 江戸侍醫法眼棠邊丹波元佶撰
〔日本後紀〕
〈十七平城〉
p.1213 大同三年十二月甲子、東山道觀察使正四位下兼行右衞士督陸奥出羽按察使藤原朝臣緒嗣言、〈○中略〉又狂賊無レ病、強勇如レ常、〈○中略〉因レ茲奥郡庶民、出走數度、儻乘レ隙作レ梗、何以支擬、臣生年未レ幾、眼精稍暗、復患二 脚氣一( ○○) 、發動無レ期、此病歳積、兼乏二韜略一、若不レ許二賤臣一、猶任二其事一、〈○下略〉
〔源順集〕
p.1213 抑順、梨壺には奈良の都のふる歌よみときえらび奉りし時には、すこしくれ竹のよこもりて、行末をたのむおりも侍りき、今は草の庵に難波の浦の あしのけ( ○○○○) にのみわづらひてこもり侍れば、すべてわれ舟の引人もなぎさにすてられおかれたらん心ちなんしける、かヽるうちにもこのとしごろは、
しらけゆくかみには霜やおきな草ことのはもみなかれはてにけり
〔源氏物語〕
〈三十九夕霧〉
p.1213 わたり給はんとて、〈○落葉君〉御ひたひがみのぬれまろがれたるひきつくろひ、〈○中略〉心ちのいみじうなやましきかな、やがてなをらぬさまにもなりなば、いとめやすかりぬべくこそ、 あしのけののぼりたる( ○○○○○○○○○○) 心ちすとをしくださせ給ふ、
〔源氏物語〕
〈三十五若菜〉
p.1213 春の比ほひより、例もわづらひ侍る、 みだりかくびやう( ○○○○○○○○) といふもの、所せくおこりわづらひ侍て、はか〴〵しくふみたつることも侍らす、月比にそへてしづみ侍りてなん、内などにも參らす、
〔落窪物語〕
〈五〉
p.1213 日のふるまヽに、たふとさまされば、末ざまには人々も上達部も參りこん中に、五の卷の捧物の日は、よろしき入より始め、消息を聞え給へりければ、所いとせばげなり、捧物の事も充て給ひりれば、袈裟や珠數やうの物は多くもて集りたるに、取りて奉らんとするほどに、右の大臣の御文大納言殿にあり、見たまへば、今日だにとむらひに物せんと思ひつれども、 脚の氣( ○○○) お
こりて、裝束する事の苦しければなん、これはしるしばかり捧げさせ給へとてなん、とあり、靑き瑠璃の壺に黄金の橘入れて、靑き袋に入れて五葉の枝につけたり、
〔吾妻鏡〕
〈三十一〉
p.1214 嘉禎二年四月六日壬辰、巳剋、前駿河守從五位下藤原朝臣季時法師〈法名行阿〉卒、去月廿七日以後病惱、時行與二 脚氣( ○○) 一計會云云、
〔昆陽漫録〕
p.1214 脚氣腫滿( ○○○○)
近年流行する脚氣腫滿、我國の古にもありしにや、東鑑にあり、其文左の如し、
入道從四位下行遠江守平朝臣朝時卒、〈法名生西〉五十三、數月惱二脚氣痮病等一云々、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1214 尰 毛詩注云、腫足曰レ尰、〈唐韻時種反、足病也、辨色立成云、於賣阿志、此間云古比、〉又云畀濕之地、其人多レ尰、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1214 所レ引小雅巧言篇毛傳文、原書曰作レ爲、爾雅釋訓腫足爲レ尰、毛氏蓋本レ之、山田本穴作レ種、那波本同、按時穴與二廣韻一合、時種與二玉篇一合、字異昔同、然此引二唐韻一作レ穴爲レ是、廣韻、足病也、作二足腫病一、按謂二人怍退一爲二於米留一、尰足人不レ能二疾進一、故名二於米阿之一、或曰、重足之轉、古比見二蜻蛉日記一、今駿河俗呼二古比婆知一、蓋古比阿之之譌、〈○中略〉所レ引巧言篇鄭箋文、原書作下此人居二下溼之地一、故生中微腫之疾上、按説文、
、脛氣足腫、
籕文从レ尣、病源候論、尰病者自レ膝已下至二踝及跟一、倶腫直是也、
〔春秋左傳〕
〈二十六成公〉
p.1214 六年、謂二獻子一曰、如何、對曰、不可、郇瑕氏土薄水淺、其惡易レ覯、易レ覯則民愁、民愁則墊隘、於レ是乎 有二沈溺重膇之疾一( ○○○○○○○) 、不レ如二新田土厚水深、居レ之不一レ疾、有二汾澮一以流二其惡一、且民從レ教、十世之利也、
〔醫心方〕
〈八〉
p.1214 治二足尰一方第十六
病源論云、尰病者、自レ膝已下至二踝及指一倶腫直是也、皆由二血氣虚弱一而耶傷レ之、經絡否澀而成、亦言、江東諸山
人多病レ尰云、彼土有レ草名二尰草一、人行誤践觸レ之、則令レ病レ尰也、
〔倭名類聚抄〕
〈三病〉
p.1214 轉筋 脚氣論云、轉筋、〈俗云古無良加倍利、一云加良須奈倍利、〉由二脚弱一所レ生也、
〔箋注倭名類聚抄〕
〈二病〉
p.1214 山田本注首有二俗云二字一、那波本同、按古无良加倍利、見二簾中抄一、腓轉之義、那波
本米作レ倍、按疑渉二上文一偶誤、類聚名義抄、伊呂波字類抄皆作レ女、曲直瀨本脱二米字一亦非、今信濃俗呼二加良須加倍利一、或読乾筋轉之義、〈○中略〉按病源候論、凡脚氣病由レ感二風毒一所レ致、其状或脚屈弱不レ能レ行、或擧體轉筋、又轉筋候云、轉筋者、由三榮衞氣虚風冷氣搏二於筋一故也、轉者謂一其轉動一也、又霍亂轉筋候云、霍亂而轉筋者、由二冷氣入二於筋一故也、此引三脚病論云、由二脚弱所一レ生可レ疑、
〔增補下學集〕
〈上二支體〉
p.1215 轉筋( コムラカヘリ/カラスナヘリ) 〈由二脚弱一所レ生也〉
〔二中歴〕
〈九呪術〉
p.1215 轉筋時呪 木瓜々々
今案、无レ實木瓜者灸レ手、只呼二木瓜一灸摩レ之即差、
〔喫茶養生記〕
〈上〉
p.1215 五脚氣病〈○中略〉
近頃人萬病稱二脚氣一、尤愚也、可レ笑哉、呼二病名一而不レ識二病治一、爲レ奇云云、
已上五種病皆末世鬼魅之所レ致也、〈○中略〉近年以來、五體身分病、皆冷氣也其上他疾相加、得二其意一治之皆有レ驗、今 脚痛非二脚氣一( ○○○○○) 、是又冷氣也、
〔類聚名物考〕
〈病痾一〉
p.1215 鶴膝 くわくしつ 鶴膝風は足のやせ肉落て、鶴のはぎの如くなる病なり、
〔楊子方言〕
〈九〉
p.1215 凡矛骹細如二鴈脛一者、謂二之 鶴
一( ○○) 、〈今江東呼為二鈐釘一〉
〔諸病源候總論〕
〈四十八〉
p.1215 鶴節候
小兒禀生血氣不レ足、即肌肉不レ充、肢體柴痩、骨節皆露、如二鶴之脚節一也、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈四〉
p.1215 鶴膝風〈○中略〉
鶴膝風ハ至テ治シ惡シ、廢人ニナルモノ多シ、早ク鍼シテ惡汁ヲ去ルベシ、又燒酒ニテ蒸ス、針ハ外科ノ上手ニ任スベシ、膝頭ヲ按ズレハﾞ、惡汁ノ有ハ指下ニヒヾキテ自然ニ水勢アリ、鍼ハ膝内邊ヨリ入ルヽナリ、惡汁ヲ取リテモ歩行ナリカヌルモノ有レドモ、惡汁ヲ取ラズニ廢人ニナル故、惡汁ヲ取ヲ正法トス、萬一ニ全快ヲ望ムベシ、燒酒ニテ日々蒸ス、又濁酒未レ漉モロミヘ生午漆
根ヲ加へ、煮テ布ニ包ミテ日々蒸且服スべシ、
〔瘍科秘録〕
〈三〉
p.1216 附骨疽〈○中略〉
又鶴膝風ト云フモノアリ、膝腫ヲ疼ミ、色ハ攣ゼズ、寒熱交作、久シキ時ハ腿ト脚ト肉脱シテ細クナリ、膝ノミ愈大ニナリテ、鶴脚ノ如クナルナリ、腫タル處ヲ押テ見ルニ、軟ニシテ、何カアル樣ニ、手對ノアルモノナリ、鍼ヲ両膝眼ヨリ刺ス時ハ、瘀水ノ出ルモアリ、稀膿ノ出ルモアリ、出テ後ハ腫消スレドモ、又漏ト成テ、朽骨ノ出ルコトアリ、此等ノ證ハ、各名ハ異ナレドモ、皆附骨疽ニ屬ス、流注ハ深ク膿モノ故、治シソコネル時ハ、附骨疽ニ成ルモノ多シ、鼻淵ヲ長ク患ヒテ、朽骨ノ大サ豆ノ如キモノヽ出シコトアリ、何腫瘍ニテモ、久シク愈ザル時ハ、皆附骨疽ニ變ズルナリ、
〔牛山活套〕
〈中〉
p.1216 鶴膝風
脚氣ノ變ジテ、必鶴膝風トナル多シ、或ハ傷寒暑濕ノ邪氣脚膝ニ滯リ、或ハ大病ノ後氣血虚弱足膝ノ氣虚弱ナルニ、風濕ノ邪虚ニ乘ジテ此症トナル者多シ、或ハ痛風久ク不レ愈、足膝力ラナク膝節腫痛シ、胻痩テ鶴膝トナル類ノ者多シ、或ハ大人小兒共ニ、痢病ノ後ニ此症ヲ發スル者多シ、或ハ小兒癖疳久ク不レ愈、疲極テ此症トナル者多シ、ヨク〳〵其病因ヲ考テ治ヲ施スベシ、
鶴膝風ト見ヘテ、膝ノ 曲腫( メグリ) 痛、脛胻痩テ柴ノ如ナルニ至テハ、先ヅ大防風湯ヲ用テ加減スベシ、方考大防風湯ノ條下ニ、加減委ク註スル也、多ハ効ヲ取ナリ、
〔病名彙解〕
〈四〉
p.1216 鶴節( カクセツ) 病源ニ云、小兒禀生血氣不足シ、即チ肌肉肢體柴ノ如クニ痩、骨節皆露レテ鶴ノ脚節ノ如クナルト也、
〔神皇正統記〕
〈後醍醐〉
p.1216 後二條の一の御子邦良の親王居給ふべきかと聞えしに、おぼしめす故ありて、此親王を太子にたて給ふ、彼一の御子おさなくましませば、御子の儀にて傳へさせ給べし、若邦良の親王早世の御事あらば、此御すゑ繼體たるべしとぞしるしをかせまし〳〵ける、彼親王、
鶴膝の御病( ○○○○○) ありて、あやうくおぼしめしける故なるべし、
〔塵塚談〕
〈下〉
p.1217 養生所へ甲戌〈○文化十一年〉十一月十日來病人之事
本郷春木町三丁目嘉右衞門店
安五郎〈戌四十一歳〉
右之者、戌七月便毒を煩ひ、平愈の後に陰毛中へ、大豆程なる腫物出來、膏藥にて早速に愈たり、其後、 骨痛( ○○) を發し、養生所へ願出、逗留罷在の所、十一月十五日、湯風呂屋の縁側にて、尻餅をつよくつきけるが、いさヽかのさはりもなく、入湯いたし、部屋へ歸りふせりけり、其夜小便に起立しに、頭骨がた〳〵から〳〵みし〳〵とつよき音いたし、痛つよく眩暈し、それより起臥出來かね、おきあがると、頭がまへにたれ下るにより、頰杖を兩手にてつき、頭を抱へ起坐す、食事の時は横にふし、左を下にし喰なり、頭骨三つの内、中の節くじけし樣に覺ゆるよしを申聞る、十二月中旬に至り、痛心よく兩便常の如く、食事よく氣力もよし、頭の前へたれ下るの病ひのみになれり、醫經に、大椎骨の上の三節を頭骨とし、大椎より下を背骨とす、顯然たる理なり、此病人全く頭骨の離れしもの也、
〔覆載萬安方〕
〈二〉
p.1217 歴節風( ○○○)
論曰、歴節風者、由二血氣衰弱一爲二風寒所一レ侵、血氣凝澀、不レ得二流通一、關節諸筋、無二以滋養一、眞邪相薄、所レ歴之節、悉皆痛疹、故謂二歴節風一也、痛甚則使二人短氣汗出一、肢節不レ可二屈伸一、
〔内科秘録〕
〈四〉
p.1217 歴節風 白虎歴節風 痛風
<ruby><rb> 歴節風〈○○○〉ハ古名ニテ金匱要略ニ載ス、後世ニ至リ 痛風( ○○) ト通稱ス、丹渓ノ格致餘論ニ痛風ノ論アリ、然レバ痛風ハ元以降ノ名ナルベシ、素問痺論ニ、所レ謂 痛痺( ○○) 、行痺( ○○) ハ蓋シ痛風ノ類ナリ、 白虎歴節( ○○○○) ハ外臺及三因方直指方等ニ出ヅ、其病状白虎ニ咬ルヽヤウニ疼ムニ因テ名ヅケタルナリ、
其因、古ヨリ風寒濕ノ三氣ニ中リテ發スルヤウニ説キ來レドモ、凡ソ外感ノ諸病ハ、獵漁耕牧或ハ商旅等ニテ、風雨寒冷ヲ冒シテ後ニ病ムモノ故、臆度シテ三氣ニ屬シタル者ナルベシ、此邪必ラズ關節ニ著キ、又遊走スル所ニ由テ考ルニ、是モ亦一種ノ雜氣ニシテ、瘟黄ノ肝膽ニ入リ、脚氣ノ筋ニ著ト同ジナルベシ、
〔牛山活套〕
〈上〉
p.1218 痛風
痛風ハ、遍身骨節走注疼痛スル也、痛風ノ脈、多ハ浮濇ニシテ緊ヲ見シ、又ハ沈弦也、
〔病名彙解〕
〈三〉
p.1218 痛風( ツウフウ) 遍身骨節走リ注テ疼痛スルナリ、皆氣血風濕痰火ノナス所ナリ、其ハナハダシキモノヲ白虎歴節風ト云リ、
〔叢桂亭醫事小言〕
〈四〉
p.1218 痛風 鶴膝風
痛ムモノハ 風濕( ○○) ニ屬スコト古來ノ説也、故ニ痛風ハ治療ニ發散ノ意ヲ帶テ方組アル也、金匱ニ歴節トアリ、此病濕ニハ屬スレドモ、瘀血ノアル人ノ疾也、手足共ニ痛アリ、
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