椿/名稱

〔新撰字鏡〕

〈木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0537 椿 杶 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e7ac.gif 〈三同、勅屯反、豆波木(○○○)、〉

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0537 椿 唐韻云、椿〈勅倫反、和名豆波木、〉木名也、楊氏漢語抄云、海石榴(○○○)、〈和名上同、本朝式等用之、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0537 按唐韵所謂椿、即本草所載椿木也、證類本草椿木樗木並載、引唐本注云、二樹形相似、樗、木疎椿、木實、爲別、是也、椿或作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e7ac.gif 、尚書云杶榦栝柏、正義引陸璣毛詩義疏云、杶樗、栲漆、相似如一、中山經云、成候之山其上多https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e7ac.gif、郭璞注云https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e7ac.gif 木似樗、樹材中車轅、是椿者樗木之類、非豆波歧、其豆波歧用椿字、皇國所製會意字、蓋是木、以初春華、故其字從木從春、與草類萩字從草從秋同意、非椿https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d6dd.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4d.gif 之也、新撰字鏡以其字偶同、誤云椿杶https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e7ac.gif 三同勅屯反、豆波木、輔仁亦誤以都波歧本草椿木、源君襲其誤、引唐韵皆非是、〈◯中略〉按酉陽雜俎云、山茶(○○)似海石榴(○○○)、山茶即茶梅、今俗呼左々无花者、則海石榴爲豆波歧爲允今人以山茶即豆波歧恐非、〈◯中略〉海石榴見内藏寮、民部省、主計寮、主殿寮、大藏省等式

〔伊呂波字類抄〕

〈都殖物附殖物具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0537 椿〈ツハキ〉 海石榴〈同〉 椿木葉 樗木〈蘇敬注云、二樹相似、樗木疏、椿木實也、已上二名ツハキ、見本草、〉

〔萬葉集〕

〈一雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0537 大寶元年辛丑秋九月太上天皇幸于紀伊國時歌 巨勢山乃(コセヤマノ)、列列椿都良都良爾(ツラ〳〵ツバキツラツラニ)、見乍思奈(ミツヽオモフナ)、許湍乃春野乎(コセノハルヌヲ)、

〔萬葉集略解〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0538 つら〳〵椿は、多く生つらなりたるをいふ、卷廿、〈◯萬葉〉やつをの椿つら〳〵にともよめり、つら〳〵はつらね〳〵、ねもごろなるをいふ、〈◯中略〉紀に此木の油をとりて、から國へ贈られし事も見ゆれば、多く植おかれしなるべし、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0538 海石榴 椿〈倭字◯中略〉 按、海石榴即山茶花(さゝんくわ)之一類也、樹葉花實似山茶花而大、其實状圓似無花果(イチジユク)、而老枯則殼四裂、中子如海松(カラマツ)子、剥皮取仁搾取油謂木實油、塗刀劒則不鏽、以拭漆器則出艷、塗髮亦艷美、然髮不https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001c654.gif麻油髮油佳、但千瓣者不實、其葩厚大艷美、亞于牡丹芍藥、惟恨其萎甚醜、其落亦脆耳、單瓣赤者名山椿、此乃本源也、白紅粉紅絞紅、或白相半、八重千瓣之數種不枚擧、自秋生莟春開花、冬開者名早開、人以賞之、凡伐椿直木火則皮能剥肌滑也、僧家以爲柱杖

〔秉燭譚〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0538 海石榴ノコト 椿ヲツバキト訓ズルハ、本ヨリアヤマレリ、莊子ニ大椿ノコトアレドモ、後世ソノ花ヲ稱スルコトヲキカズ、近年平井徳建氏ナド本草ヲ撿シテ云、山茶花ト云モノ即チ日本ノツバキナリト、ソノ後物産ノ説詳ニシテ、山茶花タルコト愈明ナリ、又日本ニテイフサヾン花ハ、唐ニテハ茶梅ト云、海紅トモ云、唐ノ時分ニハツバキヲ海石榴ト云皮日休ナド詩アリ、天武帝ノ十三年ニ、吉野人宇閉直弓ト云人、白海石榴ヲ貢スト云コト、日本紀ニアラハレリ、シロツハキト點アリ、又古海石榴市ト云所アリ、ツバキ市ト訓ズ、シカレバ日本ニテ古ハ唐ノ時ノ名ヲウケテツバキヲ海石榴トイヘルニヤ、宋以來ノ書、並ニ當代ノ人ハ曾テコノ沙汰ナシ、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0538 つばき 〈海石榴〉 つばきは、漢名を海石榴といひ、或は石字を省きて海榴ともいへり、この二名は蓋し唐人の命ぜしところにして、明人に至りては其種を誤りて、專ら山茶と稱へたり、凡つばきは本邦固有のも のなりといへども、其名の慥に物にあらはれたるは、人皇十二代景行天皇の十二年に、天皇豐後國速見邑の土蜘蛛を討たまひし時、此樹を採て椎に作らせ給ひしを始とす、〈日本書紀、豐後風土記、◯中略〉本草綱目灌木部に山茶を載たり、我國のものもおほかたは灌木なれど、日向國諸縣郡野尻郷に生るものは皆喬木にして、その幹抱を合するもの多し、是その地勢のしからしむるところ也と〈國史草木昆蟲考〉みえたり、扨西土の人物の名を命ずるに、海字を冠するものは、その種必ず海外より傳ふるものをさしていへば、海石榴もそのもとは、本邦或は朝鮮よりして彼土に傳へしものなるによりて、遂に海字を冠せし也、 按に、本草綱目海紅の釋名に、李徳裕が花木記を引て、凡花木名海者、皆從海外來、如海棠之類是也、又李白詩注云、海紅乃花名出新羅國甚多、則海棠之自海外據矣、と見えたるにて、その義おのづから明かなり、 さて海石榴に椿字をあてしは、莊子に上古有大椿者、以八千歳秋といへる寓言あるによりて、此海石榴樹もその樹數百年を經るといへども、さらに枯凋の患なく、その壽の久延なる事頗る大椿のたぐひなるによりて、遂にその名を假借せし也、しかのみならず此實の油は、西土にいはゆる不老不死の藥廿一種のうちの一種なれば、〈本草和名引崔禹錫食經〉光仁天皇の寶龜八年に、渤海使史都蒙の請へるによりて、海石榴油一缶ををくられしも、〈續日本紀〉故ある事なるべし、この油の不老不死の藥なるも、其もとは其樹のよはひ久延なるによりて、其説の起りし者なるべければ、歌に八千代の椿、或は八千年の椿、或は葉替ぬ、或は色變ぬなど讀るも、強に莊子の寓言にのみ縋りて、しかよみしにはあるべからず、

〔本草一家言〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 山茶 和名津波幾、形色不一、品類至百餘種、其單瓣重瓣十瓣各色、名稱各有花鏡花史等書、分其名題疏、其色状可併考、具列于左、一種茶梅花見于花史等書、和俗以之呼山茶者非也、倭 邦俗醫掘採山茶根以充椿根皮用甚誤、殊無寸功、與椿樗條參考

〔日本書紀〕

〈七景行〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 十二年十月、與群臣之曰、今多動兵衆、以討土蜘蛛、若其畏我兵勢、將山野必爲後愁、則採海石榴(ツバキノ)樹、作椎爲兵、因簡猛卒、授兵椎以穿山、排草襲石室土蜘蛛、而破于稻葉川上、悉殺其黨、血流至踝、故時人其作海石榴椎之處海石榴市、亦血流之處曰血田也、

〔萬葉集〕

〈一雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 長皇子御歌 吾妹子乎(ワギモコヲ)、早見濱風(ハヤミハマカゼ)、倭有(ヤマトナル)、吾松椿(アヲマツツバキ)、不吹有勿勤(フカザルナユメ)、

〔萬葉集〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 三日〈◯天平勝寶二年三月〉守大伴宿禰家持之館宴歌三首 奧山之(オクヤマノ)、八峯乃海石榴(ヤツヲノツバキ)、都婆良可爾(ツバラカニ)、今日者久良佐禰(ケフハクラサネ)、大夫之徒(マスラヲノトモ)、

椿種類

〔花壇綱目〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 椿珍花異名の事 しら雲〈白き八重に赤飛入〉 雨が下〈白八重の大輪赤飛入〉 いづも椿〈白き八重に赤飛入〉 人丸〈白の八重大輪なり〉 つるがしぼり〈地白く紫のしぼり也〉 本因坊〈千よの赤大輪なり〉 まつかさ〈しぼりの大輪なり〉 そこつ〈白の八重にあか飛入〉 國しらず〈地薄色の八重に赤飛入〉 松かぜ〈しぼりの大輪なり〉 むら雨〈白き八重に赤飛入〉 と宮〈白き八重に赤飛入〉 八幡しぼり〈赤き八重の大輪〉 舟井待〈赤き八重のすじ椿なり〉 國づくし〈白き八重に赤飛入、大輪〉 竹生島〈白き八重に赤飛入〉 ひのした〈白き八重の大輪なり〉 あさ日〈白き八重に赤飛入〉 八幡飛入〈赤き八重に白の飛入〉 大はく〈白のうへ重なり大輪〉 青こしみの〈白の八重咲の大輪〉 大白玉〈白き壹重の大輪也〉 ほうくわ〈白き八重に赤飛入〉 うぐひす〈赤の八重咲大輪なり〉 ほとヽぎす〈白き八重に赤飛入〉 きぶね〈白き八重に赤飛入なり〉 大いさはや〈赤き一重の大輪飛入〉 いわた〈白の八重大輪なり〉 なぎのみや〈白き八重に赤飛入〉 妙義院〈赤き千重白き飛入〉 奈良の都〈白き八重に赤飛入〉 しら菊〈白き八重の大輪也〉 清がんじ〈白き八重に赤飛入〉 參國〈紫の八重赤飛入はた白〉 壬生万よ〈白に赤の飛入〉 玉じろ〈大輪なり〉 光とく寺〈赤き千よに白飛入〉 めい山〈白き八重の大輪なり〉 せいわうぼう〈薄いろの八重也〉 ちんくわ〈白き八重に赤飛入〉 大つま白〈地薄色の八重に赤飛入〉 京飛入〈花こしみの大輪也〉 千本飛入〈赤き八重に白飛入〉 をぐら〈白き八重に赤飛入〉 初のみ山木〈白き八重に赤飛入〉 與一椿〈赤の万よ咲大輪也〉 じて椿〈千よ赤に白の飛入〉 高尾〈白き八重に薄色飛入〉 あられ〈八重の大輪なり〉 一せき〈赤き千重に白飛入〉 名月〈白き八重に赤飛入〉 金杉〈白き八重に赤飛入〉 いだてん〈白き八重也早咲〉 ほの椿〈白き八重に赤飛入也〉 八重しぼり〈大輪なり〉 だるま〈赤き八重の大輪なり〉 清水しぼり〈白き八重に赤しぼり〉 みやこ〈白き八重に赤飛入〉 かうらい〈白の大輪なり〉 さひふ〈赤き千重に白飛入〉 八坂飛入〈白き八重に赤飛入〉 ぬき白〈八重咲の大輪なり〉 しゆしやか〈白き八重に赤飛入〉 とつ〈白き八重に赤飛入〉 初夜のはた〈白地うす色の壹早咲〉 藪椿〈赤白壹重八重色々有取輪也〉 右は椿の名なり、此外にも品々あるべし、

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 山茶(ツバキ)〈◯中略〉 本草綱目ニ、山茶ニ海榴茶(○○○)、石榴茶(○○○)アリ、是ツバキノ品類ナリ、日本ノ古書ニツバキヲ海石榴トカケルモ由アル事ナリ、酉陽雜俎續集曰、山茶似海石榴、然ラバ山茶ト海石榴ハ別ナリ、凡山茶ハ花ノ盛久シ、葉モ花モ美シ、多クウヘテ愛玩スベシ、ツヽジヲ植レバ枯ヤスシ、山茶ハ枯ヤスカラズ、昔ハ本邦ニ紅ノ單花ノミアリテ、白ツバキモマレナリ、寛永ノ初ヨリヤウヤクツバキノ數多ク出來シニヤ、烏丸光廣卿ノ百椿圖序ニ、此比世ニモテハヤシ品多クイデキタル事ヲカケリ天武ノ御時ハ古代ナレバ草木ノ奇花マレナルベシ、白ツバキヲメヅラシキ物ニセシハムベナリ、今ハツバキ紅、白、單葉、重葉、千葉、其品多クシテ數ヲシラズ、玉島山茶(○○○○)ハ無蕊多葩、一花ニ凡七十餘片バカリアリ、白アリ、紅アリ、山茶ノ奇品ナリ、又南京山茶(○○○○)アリ、葉長ク葉ノ色常ノツバキニカハレリ、花モ葉モ異ナリ、是亦奇品ナリ、十輪山茶(○○○○)アリ、一樹ノ中紅白數種異品多ク開ク、山茶ハ春植ルニ、不宜、五月中旬ニ可植五六月枝ヲサス、又春モサスベシ、小枝ヲ切テ葉ノウラノ枝ノ末ヲ一寸半許、馬ノ耳ノ如クソギ、切口ヲ二ニワル、ワリタル處根生ズ、冷水ニ浸シ置テ挾ベシ、枝ヲ切テ後暫時モ乾カシムル事ナカレ、赤土ヲ泥トシ、雞卵ヨリ大ニ丸シ、枝ヲ赤土ノ丸ニテ包ミ土ニウフ、挾ムハアシヽ、シバ〳〵水ヲソヽギテ土ヲ乾カシムベカラズ、能活シ テ後移シ植フ、四五年ヲヘテ花サク、サシツギモヨシ、ツバキハ山茶ト云ヲ、日本ニイツノ時ヨリカアヤマリテ、椿ノ字ヲバツバキトヨメリ、順和名抄ニモアヤマツテ椿ヲツバキト訓ズ、ツバキハ椿ニアラズ、椿ハ近年寛文年中カラヨリワタル、香椿ナリ、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0542 山茶 ツバキ 一名曼陀羅〈群芳譜〉 鶴丹〈輟耕録〉 本邦ニテ古ヨリ椿ノ字ヲツバキト訓ズルハ、タマツバキノ古訓ヲ誤リタルナリ、其タマツバキト云ハ、今俗ニキヤンチント呼ブモノニシテ、ツバキノ類ニ非ズ、藥方雜記ニモ、日本山茶花、其國名爲椿不名、以山茶也ト云、其下文ニ山茶ノ名ヲ載スルニ、白玉、唐笠、白妙、高根、白菊、六角、加賀牡丹、渡守、春日、有川、朝露、亂拍子、薄衣、大江山、三國、玉簾、浦山開、荒浪、鳴戸、關戸、金水引等ノ號アリ、朝鮮ニテハ冬花ヲ開ク者ヲ冬柏ト云、春花ヲ開ク者ヲ春柏ト云フコト、養花小録ニ出ヅ、山茶略シテ單ニ茶ト云、其品甚多シ、花史左編、群芳譜、秘傳花鏡等ニ詳ナリ、和産殊ニ多シテ數百種ニ至ル、此條下ニ數種ヲ出ス、寶珠茶(○○○)ハ俗名タマテバコ(○○○○○)、大和本草ニハ、タマシマツバキ(○○○○○○○)ト云、千葉ニシテ蘂ナシ、中心ノ瓣開カズシテ、寶珠ノ形ノ如シ、凡七十餘瓣アリト、大和本草ニ云リ、紅白ノ二色アリ、海榴茶(○○○)ハ俗名ワビスケ(○○○○)、又コチヤウ(○○○○)トモ云、石榴花(○○○)ハ俗名イセツバキ(○○○○○)、又レンゲツバキ(○○○○○○)トモ云、下ニアル五瓣大ニシテ、中ニ細瓣多ク簇テ千葉ノ御米(ケシ)ノ花ノ如シ、躑躅茶(○○○)ハ俗名ヤブツバキ(○○○○○)、山中自生ノツバキ、單瓣ニシテ躑躅花ノ形ニ似タルヲ云、山茶中ノ下品ナリ、宮粉茶串珠茶(○○○○○○)ノ二名、共ニ只粉紅色トノミ云ヒ、形状ヲ説ズ、故ニ詳ナラズ、一捻紅(○○○)ハ俗名アメガシタトビイリ(○○○○○○○○○)、白色ニシテ、指ニテ押タル如キ紅點アルヲ云フ、牡丹ニモ一捻紅アリ、千葉紅(○○○)ハ俗名ヒグルマ(○○○○)、千葉白ハ俗名シラタマ(○○○○)、南山茶(○○○)ハ俗名カラツバキ(○○○○○)、大和本草ニ南京ツバキ(○○○○○)ト云、葉ノ形尋常ノ山茶葉ヨリ狹長ニシテ厚ク色淺シ、花大サ四五寸、白アリ、紅アリ、間色アリ、一名滇茶、〈漳州府志〉蜀茶、〈同上〉鶴頂茶、〈群芳譜〉別ニ一種チリツバキ(○○○○○)ト呼ブ者アリ、花瓣一片ゴトニ分レ落チ、尋常ノ山茶ノ形全クシテ落ルニ異 ナリ、春ニ至テ花ヲ開ク、故ニ晩山茶ト名ク、秘傳花鏡及ビ洛陽花木記ニ出ヅ、京師紙屋川地藏院ニアリ、因テ此等ヲツバキ寺ト云、凡ソ山茶ノ實ヲ搾テ油ヲ採ルヲ木ノ實ノ油ト云、一名カタシアブラ、〈防州〉カタアシ、〈長州〉カタイシノアブラ、〈肥前〉髮子バリテ梳ノ通ラザルニ少シ灌ケバ、サバケテ梳リ易シ、土ニ灌ゲバ能ク蟲ヲ殺ス、 増、草木藥方雜記曰、日本山茶花、其國名爲椿不山茶也、白者以白玉最、白玉一種花大色白而香、香如我里白百合花之香、開放于二三月、次則唐笠也、白妙也、在高根、則又其次也、至于白菊六角之類、花朶小不取焉、紅者以中爲最、花大而香、加賀牡丹甚佳、花色大紅如牡丹、花瓣邊、或有吐露白邊者、次則大紅牡丹、與渡守春日倶妙、雜色最佳者莫有川、其白上有紅色雲、朝露其色紅有白點者、亂拍子亦然、有薄衣色、如酔楊妃者有大江山、一本有三四色者三國、一本乃三色者有玉簾、一本四五色者尚有浦山開荒浪鳴戸關戸金水引皆爲上種、有加平牡丹唐絲鏡山唐椿山海牡丹諸種皆其下者、共有五百種、有一種天下奇、開花朶色百様、其國内亦少不得者有一種、名五寸ト云、桃桐遺筆曰、日本紀天武天皇十三年三月癸未朔庚寅、吉野人宇閉直弓貢白海石榴トアリ、是ヲ白ツバキト訓ジ、又和名抄ニ、海石榴ヲ豆波(ツバ)木ト訓ズ、共ニ誤ナリ、海石榴ハ朝鮮ザクロナリ、海石榴ヲツバキニ充ルハ、即山茶花ノ一種、花小ニシテ大サ海石榴ノ花ノ如ク、蒂ハ青クシテ筒瓣ヲナス、是ヲ俗ニワビスケト名ク、即海榴茶ナリ、一名海紅花〈楊升庵文集〉コノ海榴茶ト海石榴ヲ混ジ誤ルナリト云フ、

〔地錦抄附録〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 延寶年中渡品々〈◯中略〉 唐椿(タウツバキ) 朝鮮椿(テウセンツバキ) 柊椿(ヒイラギツバキ) 今植るいろ〳〵の花椿は、和朝にて出來たる物か、大和本草に、天武の御時白花の椿を貢す、寛永の初めより紅白ひとへやゑ品々出來す、烏丸光廣卿の百椿圖序に、此比世に品多く出來たりと書りとあり、唐椿は延寶に來る、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 蜀茶 今云加良豆波木 蜀今四川之地、出於此者皆佳、如蜀椒蜀葵皆佳種也、 按、倭有唐海石榴(ツバキ)者、樹相似而葉狹長、色淡不澤、葉紋縱横細似甃状、其花重瓣大而正紅如牡丹、所謂蜀茶是也、但枝朶柔https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001c654.gif 、葉亦不多而大木希也、

〔地錦抄附録〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 朝鮮椿(てうせんつばき) 花大輪也、葩厚くしまり、本紅の色よく、唐椿(からつばき)のごとくなり、ひとへにて蘂(しべ)さヾんくわのごとく、花の内一はいにあり、葉も大く手づよし、花おそ咲、つねの椿落花の後ひらく、花形色あひ極上上、

〔地錦抄附録〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 阿蘭陀白(おらんだはく)椿 花小りん、白やゑなり、はなの中ほどひくヽ、かさねてひらく、

〔日本書紀〕

〈二十九天武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 十三年三月庚寅、吉野人宇閉直弓貢白(シラ)海石榴

〔義演准后日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 慶長八年二月二十一日、白椿ホリテ將軍ヘ令之了、

椿觀賞

〔清水物語〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 此比〈◯寛永十五年〉椿の花のはやるやうに付ても、聞もをよばぬ見事なる花あまたあなたこなたより出たり、このむ人ありてはやり候はヾおもしろき物もありなんかし、

〔羅山文集〕

〈四十九序〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 百椿圖序〈寛永十二年作〉 夫椿之有名也、稱于莊子、載於本草、倭名謂之都婆岐、或號海石榴、本朝先輩賦白椿云、靈根保壽託南華、花發金仙玉府家、素質宛糚氷雪面、不紅艷山花、山茶花有數種、或花簇如珠、或青蒂或粉紅、或淡白、所謂寶珠茶花、海石榴茶花、躑躅茶花、一捻紅、千葉紅、千葉白之類、不勝數也、椿花亦然、倭歌家有玉椿、有白玉椿、有紅椿、有青椿、有濱椿、有山椿、兵部少輔大伴家持植八峯之椿、發其花於詞林、其後諷人韻士歴代吟賞焉、故賀紫宸則鏡山之玉椿、明照四海之天、祝緑洞、則姑射之靈椿、永待千世之春、巨勢春野之霞色見之不飽、音羽山岩之雲根生而有常、以之敬神則勢州有椿宮社、以之勸學則宋帝比木有https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 椿、誠是木部之大年、花中之巨麗者也、頃歳椿花衆品佳色不一、乃知太平之時萬物蕃多矣、況 又大椿兩八千之春秋、以祝遠大乎、松平伊賀太守源忠晴、尤愛此花、雖然夙夜公務不塢灌https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 花、於是取諸方所有品色、及有其名者一百種、圖其形様以爲目之慰、丹青煥發四時不凋、與一歳一枯榮者日而語也、嘗聞山陰韋氏之百梅、携李張氏之百菊、播名于中華、未百椿之美至于如https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 此也、可謂大平之勝事、好文之嘉徴也、太守之用意誰不歆羨乎、或人曰、繪花者不其香、曰然有于此、緑苔青草惟是徳馨、而今況於椿花乎、嗚呼色也、香也、念https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f00006519c4.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f00006519c4.gif 、可勤哉、遂書以應其請焉、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 つばき 〈海石榴◯中略〉 寛永の頃に至りては、その花に重瓣千瓣赤白間雜の奇花八十種あまり百出するを以て、京師にては、こと好む人、その花をこと〴〵くあつめて百椿圖をゑがきたるに、烏丸光廣卿は、それが序を作り給ひ、〈扶桑拾葉集〉江都にては松平伊賀守忠晴公務のひまに諸方にある所の品色及び名たヽるものをもとめて、同じく百椿圖をゑがきたるに、それが序つくりたるは林祭酒道春なり、〈羅山文集〉それよりまた九十年を經て、享保中には染井の種樹家伊兵衞といふ者の著せし地錦抄に載せしはその數すべて二百二十四種也、今に至りては猶また種類多くいできて、おほよそ四五百種にも及べるは、實に太平の勝事なり、かく本邦にはその種類おほきものなるに、西土にては其種わづかに廿種に過ざるを以て、朱舜水も此邦の花は唐土よりも種類多くして花もまされりと〈朱氏談綺、東雅、〉いへり、然りといへども近衞家熙公の仰に、種類多きものは一々漢名あるべからず、〈◯中略〉是によりておもふに、菊や椿などは、人の好みによりて數多になるものとみえたり、一々漢名あるべからずと、

〔槐記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 享保九年閏四月十八日、仰ニ〈◯近衞家煕、中略、〉後西院ノ御時、山茶ヲ御好アリケレバ、處々ヨリコレヲ獻上ス、珍花ハ手鑑ニシテ、極彩色ニテ片表ニ九ヅヽ花ヲ記サレシニ、年々ニ册數多ナリケルホドニ、ツイニ五十卷バカリニナレリ、所詮カギリナキコトナリトテ止ラレタリ、コレニヨリテ 思フニ、菊ノ椿ノト云モノ、人ノ數奇ニヨリテ數多ニナルモノトミエタリ、一々漢名アルベカラズト仰ラル、

椿利用

〔延喜式〕

〈十三大舍人〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 凡正月上卯日供進御杖、〈◯中略〉頭進奏曰、大舍人寮申正月〈能〉上卯日〈能〉御杖仕奉〈氐〉進〈良牟止〉申給〈波久登〉申、勅曰置之屬以上共稱唯、隨次相轉置案上、畢即退出、其杖曾波木二束、比比良木棗毛保許桃梅各六束〈已上二株爲束〉燒椿(○○)十六束、皮椿(○○)四束、黒木八束、〈已上四株爲束〉中宮、比比良木棗毛保許桃梅各二束、燒椿皮椿(○○○○)各五束、〈但奉儀見東宮式

〔萬葉集〕

〈十二古今相聞往來歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 紫者(ムラサキハ)、灰指物曾(ハヒサスモノゾ)、海石榴市之(ツバイチノ)、八十街爾(ヤソノチマタニ)、相兒哉誰(アヘルコヤタレ)、

〔萬葉集略解〕

〈十二下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 紫は海石榴の灰のあくをさして染る物なるによりて、つば市といはん序とせり、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 つばき 〈海石榴◯中略〉 藥方雜記に、日本山茶花の名目を載て、白玉、唐笠、白妙、高根、白菊、六角、加賀牡丹、渡守、春日野、有川、朝露、亂拍子、薄衣、大江山三國、玉簾、浦山開、荒浪、鳴戸、金水引等の號ありと〈本草綱目啓蒙〉見へたり、いはゆる唐笠、白菊、春日野、加州、有(アル)川、亂拍子、薄衣、玉簾荒浪、鳴戸、金水引等の名目は、詳に増補地錦抄に載せたれば、古のみならず、近世もまた我邦よりして此種を西土には傳へしなり、此實の油を今の俗には木の實の油といひ、其一名を周防にてはかたし油、長門にてはかたあし、肥前にてはかたいしの油といふ、此油は男女にかぎらず、髮のねばりて櫛の齒の通らざるに少し灌げば、よくさばけて梳けづり易く、又土にそヽげば、よく蟲を殺すと〈同上〉云り、今江都にて鬻ぐものは、多く伊豆の八丈島より來る至て上品にして、あげものヽ料に用ゆる胡麻榧等の諸油にまされり、又此樹を燒て灰となしたるを、俗に山灰(アク)といふ、此灰は古より紫をそむる料に入るヽ故に、萬葉集に、紫者灰指物曾海石榴之(ツバイチノ)とよみたり、今あるものはすべて丹波國山邊郡の内より來るといふ、〈國史艸木昆蟲〉〈考〉

〔伊豆海島風土記〕

〈下産物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 ツバキ 島々ニ多シ、花ハ一重ノ紅ニテ、八月ヨリ咲キ四月迄絶エズ、島人 此實ノ油ヲトリテ菜ヲ煮テ喰フ(○○○○○○○○○○○○○○)、又國地ニ出シテ穀ニ交易ス、

〔續日本紀〕

〈三十四光仁〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 寶龜八年五月癸酉、渤海使史都蒙等歸蕃、〈◯中略〉縁都蒙請、加附〈◯中略〉海石榴油一缶

〔延喜式〕

〈十五内藏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 諸國年料供進〈◯中略〉 海石榴油一十斛

〔延喜式〕

〈二十四主計〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 凡中男一人輸作物〈◯中略〉海石榴(ツバキ)、呉桃、閉美油、各三合、

椿雜載

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 つばき 〈海石榴◯中略〉 椿の名たヽる所は、巨勢山はさら也、常磐山、音羽山、神山、鏡山、穴師山、朝日山、三上山、美濃の御山、宮城野等なるよし、

〔倭訓栞〕

〈中編二十一比〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 ひのきつばき(○○○○○○) 山茶花の葉の中に栢葉をまじへたる奇品なり、寄生の品とみえたり、近江伊勢三河などにあり、埃囊抄に、弘法大師槇尾寺に在し時、檜葉をもて御手を摩清めて、そこに在ける椿の上に投繫て誓はく、我宿願遂べくんば、此葉彼木に生著べしと、檜葉忽ち生著て椿になる、今に在、是を世に柴手水(テウヅ)とふいと見えたり、今しばしといふ里あり、伊勢鈴鹿郡高宮に此品多くあり、鈴鹿山中には、賢木多く生たり、安濃津に多羅葉木瓜柃梅(ヒサカキ)もときにも生ぜり、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 ひのきつばき 〈あやつばき〉 ひのつばきは、一名をあやつばきといふ、此樹は伊勢國鈴鹿郡つばきの神社の境内、及び同郡高宮村などに多し、即椿の枝に檜の枝さしまじりて、花は常のつばき也、されども紅白の二種あり、寛保年中台命によりて、彼村より二樹を奉りしを、吹上の御園に植させ給ひしより、今三緑山 増上寺、台徳院殿の御廟のうちに榮ゆるものは、〈諸國採藥記、國史艸木毘蟲考、〉後にうつしうへさせ給ひしにてもあるべきにや、一説に檜椿は寄生にして、すべて南方暖和の地に生ず、薩摩讃岐及び伊豆などにもまヽこれありといへり、今按にひのき椿の伊勢國及び増上寺等にあるものは、予〈◯屋代弘賢〉いまだ其樹を親見せず、今忍岡の稻荷〈俗にこれを穴のいなりといふ〉の境内にあるものは、即白玉椿にして、その樹極めて高大なりといへ共、その寄生は多く枝梢にありて、本幹大枝には生ぜず、其形は朴樹(エノキ)或は桑樹上の寄生とは異にして、扁柏(ヒノキ)に似て扁柏にあらず、海柏(ウミヒバ)に似て海柏にもあらず、別に是一種の寄生よりなると申傳ふるよし、予寛保中夏台命によりて彼地に行、此椿の木御用に付、一丈計の木二本を奉りしを、吹上御庭に植させられしなり、此椿のありし村は、東海道石藥師の驛より一里程江戸の方に來れば其村みゆるなり、

〔本朝奇跡談〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 同國〈◯伊勢〉鈴鹿郡高宮村に檜椿(ひのきつばき)と云名木あり、椿の木より檜の葉出る也、總而此村の椿に、檜の葉交り出る也、弘法大師檜を椿となし給ふと云傳るよし、所の者申傳る也、彼椿有し村は東海道石藥師の驛より壹里程、江戸の方へ來れば高宮村見ゆる、此所に在、

〔壒囊抄〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 弘法大師ノ御出家受學等ノ様如何〈◯中略〉 槇尾ニ御座シ時、〈◯中略〉檜葉(ヒバ)ヲ以テ御手ヲ摩淨便宜ニアリケル、椿ノ上ニ授繫テ、誓テ曰ク、我ガ宿願可果遂、此葉彼木ニ生付ベシト被仰ケルガ、檜葉則椿ノ上ニ生付テ、今ニアリト云々、是ヲ世ニ柴手水(シバテウヅ)ト云也、

山茶花

〔書言字考節用集〕

〈六生植〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 山茶花(サンザクハ/サザンクハ)〈一名海紅、詳三才圖會、活法、〉

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 茶梅(サヾンクワ) 山茶ノ類ニテ葉モ花モ小ナリ、白アリ、香ヨシ、山ニモアリ、實ニ油アリ、山ニ多キヲ村民取テ利トス、九月ヨリ花ヒラク、家園ニ植ルニハ淡紅アリ、深紅アリ紅ヲバ海紅トモ云、共ニ本草ニ不載、海紅ハ十月ヨリ二月マデ花アリ、中華ノ書ニ載タリ、冬花稀ナル時開キテ盛 リ久シ、家園ニ可植、子ヲマケバヨク生ズ、深紅ニ白キ飛入アルハ葉大ナリ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0549 山茶花 左牟佐久波、字之音也、誤如茶山花、〈◯中略〉 按山茶花其樹葉花實與海石榴(ツハキ)同而小、其葉如茶葉、其實圓長形如梨而有微毛、可小梅大、老則裂中有https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 、三四顆搾油、多於海石榴、凡種子者必不佳、可枝、凡山茶花冬爲盛、海石榴花春爲盛、〈遠州有山茶花大木、周三尺餘、高三丈餘、〉

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0549 さヾんくは 〈山茶華〉さヾんくははこれ山茶華の字音にして、即和漢通名なり、その一名を耐冬華、一名海紅華、一名玉茗華、一名茶梅といふ、今多く人家に植るものは、梅の風、口粉紅、根岸江、三國紅さめが井、雪の山、同じくその瓣小なるもの、及び酔西施しんくの房薄紅の大瓣小瓣茶ばななどのたぐひ也、いはゆる根岸紅、三國紅は即海紅華にて、いはゆる薄紅のものは玉茗華、一名淺紅山茶也、其外數十種ありといへども、漢名のいまだ詳かならざるもの極めて多し、華の形はすべて茶の華に似て、最大にして單瓣のもの多く、重瓣のもの少なし、本邦にては、その花八月の末九月の比より咲そめて、十一月の半に至り、西土にては十月より咲そめて、年をへて二月の比までも咲つヾくよし、蓋し風土の異なるによりてなるべし、其葉の状又茶の葉に似て、大小の異同ありといへども、皆深緑色にして、霜雪を經て凋まざる事、なを茶葉の如し、扨大隅國都の城といふ所にては、家ごとに此樹五六十、或は七八十を植置て、その芽ざしを摘て茶に製し、以て日用のたすけとす、その香氣芬芳常の茶よりも勝れるによりて、年若き女の神まうでなどする時は、まるぐけの帶を結び、手巾(テヌグヒ)ひきかぶりて、此茶を製せしを物につヽみて香袋に代用ゆるも、此ものヽ其地に生ずるは至て上品にて、殊に香氣の勝れたるによりてのならはしなるもいとめづらし、且其實を採て油となすに、海石榴よりもその油多く出て、それを以て物をゆびき熟し食ふに、香氣ありて味また麻油 に勝れりといへり、又此樹は海石榴に似て、高きものは一丈許、低きものは二尺を過ずして、よく華さくものなるに、和漢三才圖會に、遠州有山茶花大木、周三尺高三丈餘といひしは、その産地今詳ならず、

夏椿

〔草木育種後編〕

〈下蘭類并冒稱の類〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 夏椿 一名しやら(○○○)、日光にてサルスベリ(○○○○○)といふ、花夏月開く、五出にして白色なり、實を春月早く蒔て、二三年を過て砧となし、春葉出ぬ前によび接にしてよし、一種豆州天城山に産するサルスベリ、一名赤ぎといふものあり、似て花小なり、この木の枝を江戸の石匠石鏨の柄となす、又材は柱となして雅なり、盆に植たるは糞水を澆ぎてよし、花戸に多し、插花に用ふ、

〔倭名類聚抄〕

〈十六水漿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 茶茗 爾雅集注云、茶〈宅加反、字亦作搽、〉小樹似支子、其葉可煮爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 飮、今呼早採茶、晩採爲茗〈音酩〉茗一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000016772.gif 、〈音喘〉風土記云、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000016772.gif 者茗老葉名也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四水漿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 爾雅釋木釋文云、荼埤蒼作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b43.gif 、廣韻云、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b43.gif 春藏葉、可以爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 飮、茶俗、按爾雅釋艸、荼苦菜、詩毛傳、説文並云、荼菜名、是荼字本訓、以茗其味苦轉謂茗亦爲荼、爾雅釋木云、檟苦荼是也、荼茗字、後人從木作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b43.gif 、以別苦菜之荼、俗又省作茶、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b43.gif 字亦遂廢矣、陸羽茶經云、其字或從艸、或從木、或艸木并從艸、當荼、出開元文字音義、從木當https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b43.gif 、其字出本艸、艸木并作茶其字出爾雅、但今本爾雅作荼不茶、蓋源君所見爾雅作茶歟、釋木、檟苦荼、郭注略同、陸羽茶經、茶者南方嘉木也、一尺二尺廼至數十尺、其巴山峽川有兩人合抱者、伐而掇之、其樹如瓜盧、葉如梔子、花如白薔薇、實如栟櫚、葉如丁香、根如胡桃、伊勢廣本茶皆作荼與今本爾雅合、蓋苦菜荼茗同名異物、然荼茗之荼、後省作茶、以別苦菜之荼源君或從之、今不徑改、集韻、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 、茶葉老者、太平御覽引魏王花木志云、老葉謂https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 、細葉謂之茗

〔伊呂波字類抄〕

〈知殖物附殖物具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 茶〈チヤ亦作搽、小樹似支子、其葉可煮爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 飮、今呼早採茶、晩採爲茄、一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 、〈音喘風土記天https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 者茶老葉名也〉〉https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 〈同茗草名也〉

〔書言字考節用集〕

〈六生植〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551 茶(チヤノキ)〈郭璞云、早采爲茶、晩采爲茗、異名居多、出服食、〉茗(同)〈見上〉

〔異制庭訓往來〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551 夫茶之爲茶、始植而後摘之、始植則本、後摘則末也、植之不摘、則豈有之服之之茶哉、故桑苧翁之茶經、陸龜蒙之茶記、言之備、異朝名山者、建溪、蒙山、廬山、浮梁、我朝名山者、以栂尾第一也、仁和寺、醍醐、宇治、葉室、般若寺、神尾寺、是爲補佐、此外大和寶尾、伊賀八鳥、伊勢河居、駿河清見、武藏河越茶、皆是天下所指言也、

〔本朝食鑑〕

〈四味果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551 茶〈◯中略〉 集解、茶有野生種生、其野生者、移栽于好地之糞之、而摘葉作茶、其味不美、種生者、采收好茶子而鋤好園地、其地以雜砂之土上、九十月之際、鋤地碎土、極細令地上平均、作畦引繩而下種、以茶子二合于一處、此謂一叢(カブ)、大抵方一尺五六寸之地一叢相隔者三尺許、使茶子不相摺合要、覆之用雜土之砂、厚三寸許、或曰二月下種、使茶子一升分鋪地上、方一尺五六寸、覆土三寸許、輕輕打平土面、倶是削竹作弶(ワナ)形、數箇以設之、教竹籬構于四方、此預所以拒鳥雀之穿啄也、其苗盈尺之比、初糞于茶根、其糞者、馬糞夏草之類也、發根邊之土糞、後經一日而覆土、其苗既長經三四年而摘芽、至芽之歳人糞而培養之、先於大磁甕中人糞、次合水拌匀、又合油滓乾鰯而仍攪之、一日二三次、令之腐熟、經十四五日熟而用之其新芽之極上者號白、其次號極結(ゴクツメ)、號別儀(ベチギ)結、號極揃(ソヽリ)、號別儀揃、其號上揃者下品、其最下品者作煎茶也、白芽之茶園、糞之者秋冬至春七八次、臘月最多糞而培養之、極結別儀結之園、糞之者四五次、極揃別儀揃之園糞之者二三次、上揃煎茶之園、糞之者一次、大抵茶園恐春霜餘寒之氣、故編葦蘆、箔(スダレ)、令其緻密而要日影、自節分後四十八日、使箔覆于茶樹上者、如屋簷形以避霜雪風雨及八十八夜之氣、既過八十八夜而除去覆箔也、摘其白芽者、自節分後七十八九日期、以先其摘芽之大者少許而修治試之、其味佳則次第摘之、凡茶樹似巵子葉、或似巵子之弱葉、花似山茶花之小葩黄蘂、子大似木患子https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 、正圓黒色、其仁初甘後苦、而戟人喉之、古者煮茶而飮、 自中古以來、以碾茶末賞美、〈◯中略〉其碾末之茶者、以城州宇治之茶第一、縣吏上林氏及數十家、樊園摘茶而修治之、以號初昔、後昔、伊昔、鷹爪等名、而誇奇味、先以新産第一者獻之、次擇新奇公侯諸士之需、毎夏月公侯諸士、同遣茶壺于宇治茶市、以藏貯好奇品而轉輸之、京師江郡市上沾輾茶者、悉傳送於宇治以販之、其餘諸州産碾末之茶者全無惟處處産于煎茶、此亦以宇治之産勝、江州之政所紀州之熊野駿州之安部豫州之不動坊、及海西江東所在有之、江都市上所販煎茶者、駿信甲總野奧之産也、近時江東之俗、常煎茶朝飯前先飮者數碗、呼稱朝茶、婦女最爲之、京師海西之俗不然、南都之俗用煎茶飯、和以炒大豆黒大豆赤小豆等之類、四方賞之、號奈良茶、今有家家後園種茶采之修造、或寺社園中亦自製茶、倶不佳、世以桑葉枸https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00164.gif 葉五加葉忍冬葉之類茶、此唯備保養、其味不好、又市採中千歳纍葉而製之、代茶呼稱甜茶、是民間兒女之用耳、

〔和漢三才圖會〕

〈八十九味果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 茗〈音明〉 荼〈音途〉 檟〈音賈〉 蔎〈音設〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001eab5.gif 〈音外〉 〈漢時、荼字轉途音宅加切、今云知也、〉 本綱茶有野生、有種生、種者用子、其子大如指頂、正圓黒色、其仁入口、初甘後苦、二月下種、一坎須百顆、乃生一株、蓋空殼者多故也畏水與https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 日、最宜坡地蔭處、其木自一二尺數十尺、木如瓜蘆、葉如巵子、花如白薔薇、實如栟櫚、莘如丁香、根如胡桃、三歳可采、春中採嫰葉、蒸焙去苦木、末之乃可飮、其葉卷者上、舒者次、凡雅州之産爲第一、建州之茶上供御用、凡茶者下爲民生日用之資、上爲朝廷賦税之助、其利博哉、〈茶之税、始于唐徳宗、〉 採茶之候、太早則味不全、遲則神散、以穀雨前四五日上、後五日次之、再五日又次之、茶芽紫者爲上、面皺者次之、團葉又次之、先面如篠葉者最下也、徹夜無雲浥露採者爲上、日中採者次之、陰雨中不採、産谷中者爲上、竹下次之、爛石中者又次之、黄砂中者又次之、 茶葉〈苦甘微寒〉 入手足厥陰經、治陰證、湯藥内入此、能清頭目、下氣消食去痰熱、〈服威靈仙土茯令者忌茶〉 大抵飮茶宜熱、宜少、不飮尤佳、空心飮茶入鹽直入腎經、且冷脾胃、乃引賊入室也、惟飮食後濃茶漱 口去煩膩、 造茶法 新採揀去老葉及枝梗碎屑、鍋廣二尺四寸、將茶一斤半之、候鍋極熱始下茶急炒、火不緩、待熟方退火、徹入篩中、輕團https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001c05c.gif 數遍、復下鍋中、漸減火焙乾爲度、中爲玄微言顯、火候均停、色全美、

〔雍州府志〕

〈六土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 茶 凡本朝賞茶也舊矣、嵯峨天皇時既玩之、中世建仁禪寺開祖千光國師榮西入宋、得茶而歸本朝、治源實朝公之餘https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001b6be.gif 、明惠上人種茶實於栂尾、其所種之深瀬等園名至今存矣、曾來朝僧清拙正澄、與夢窗獨芳栂尾之詩中、稱栂尾茶山宜哉、義滿公適在伏見時、夢羽仙受植茗摘鮮之術、始使大内介某植茗於菟道、爾後宇縣有森祝長井氏之人而製茶、其中森川下預公方家之茶事、武衞家之園謂朝日、京極家之園謂祝奧山、至法住寺義澄公特賞之、故命彼等益々精選之、或稱極或稱上揃、或謂別義揃、倭俗毎物各比並而撰之、取用其良物總謂揃、近世上林峯順并竹菴等茶人、自丹波上林郷居於斯所、遂日富榮、凡宇治中十一家茶師、納公方家之茶於壺而獻之、其餘各所製之茶、或一袋、或二袋、納十一家所詰之壺内、是謂御通、倭俗不獨立、而遂隊連屬是謂通、周密納物曰詰、至茶特密極茶十錢目納小紙袋、壹雙謂壹袋、故袋壹個稱半、凡小袋二十、則約壹斤而其重二百目也、極極品之謂也、於今茶園所々有之、皆煎葉而用之者也、至抹茶之極品、則宇治之外不用、且宇治橋、自西第三柱之間於一河中水特清冷、堪茶之湯、又此地山間茶磨石出、彼此茶之事畢矣、凡橋以東宇治郡也、橋以西久世郡也、今製茶之大家多在橋西、然古茶家多在東、故依舊謂宇治茶

〔木芽説〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 茶といふものいとも上津代にはありとも聞えず、いづれのころよりか吾御國にはうゑそめけむ、さだかにしるし傳ふるものなし、類聚國史に、嵯峨のみかどの弘仁といふ年のむとせの夏、近江國にみゆきまし〳〵て、滋賀韓崎など見そなはし給ふみちのたよりに、ちかきわたりの寺々にわたらせおはしましける時、梵釋寺の永忠大僧都、手づから茶を煮て奉られしに、みか どこれをいみじくよろこばせ給ひて、かづけものなど給はせつ、やがてそのみな月に五の内つ國をはじめて、近江丹波播磨などの國々におほせて、國ごとに茶をうゑしめて、とし〴〵の貢ものにさだめ給へりしよししるされたり、わが御國にてこれを用ふること、こヽにさだかに見えたれば、世の人まづこれを引出て、此時をそのはじめといひ傳ふめり、〈◯中略〉かくのみ世を經つヽになきものともてはやさんには、かの弘仁のころ植そめられし國々より、其種ををちこちにもとり傳へて、あめのしたに茂くさかりにおひひろごりぬべきを、さしもあらざりしは、ふるき世には都人こそあれ、ゐなかうどらは、あながちにめで用ふべき物としもしらざりしにこそ、慶滋のやすたねが、三河國あをみの郡なる藥王寺といふてらにまうでて、そこに茶園藥園などあるよしいへるをみれば、まれ〳〵にはさる所も有しならめど、それはたひさしくはさかえざりしなるべし、かのはやうおほやけよりうゑおほさせ給へりし國々にも、此木にかなふ所を得ざりしにや、またとヽのへいとなむわざやいたらざりけむ、ありしみさだめのごとく、とし〴〵のみつぎものヽ數にそなへてはめさずなりぬとおぼえて、延喜式の國々のみつぎのさだめどもの中にはしるされずなむありける、〈◯中略〉さればいつしかとその木だちもなごりすくなう枯うせて、つひにはさるものありとあぢはひしれる人だに、世にいとまれになりゆきしなるべし、さばかりおとろへはてけむを、葉上僧正〈◯榮西〉明惠上人とて、これもかれもすぐれたる人のおなじ世に出逢れて、ともにこれをこよなきものとめでたふとばれしより、ふたヽび世になべてもてあつかうやうにひろごりて、かくは今の世までにたえせぬものと成こし事、ひとへに此ひじりのいさをによりてなりけり、しかありしはじめは、かの僧正もろこしより、此種をおほくもて傳へられて、建久の二とせといふに、筑紫まで歸りつきて、背揮山といふ所にこヽろみにうゑそめられしぞ、岩上茶といふものヽはじめなりける、〈◯中略〉この僧正いまだみやこにおはしけるとき、栂 のをの明惠上人法問のために、建仁寺にしたしくおはせしかば、これを贈り給へる事ありき、そのかみ栂尾にて、いかなるものぞとくすしに尋ねとはれしに、しか〴〵の能おほかれども、わが御國には、をさ〳〵ある事なしとこたへしかば、さはめでたきものよ、おこなひつとむる法師ら、かならずのみてたすけおほかりぬべしとて、其種をかの僧正よりもとめえうして、はじめて栂尾にうゑそめられしよし、上人の傳記にみゆ、このつたへにても其世のおもむきはしられたり、さてのち宇治の里におほしたてしよりなむ、あめのしたにたえてたぐひなきものはいできそめたるなりける、

〔類聚國史〕

〈三十三帝王〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 弘仁六年六月壬寅、令畿内并近江丹波播磨等國殖(○)茶(○)、毎年獻https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4d.gif 之、

〔日吉社神道秘密記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 一茶木數多有之、石像佛體有之、傳教大師御建立所、茶實從大唐大師求持シ玉ヒテ有御歸朝此處、其後山城國宇治郡栂尾所々植弘給云々、卯月祭禮、未日大政所エ神幸、二宮八王子十禪師三宮御茶調進之、社務當參之役人祝之、爲以淨水、此茶園之奧有大寺、小五月會刻内渡爲此、

〔木芽説〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 日吉社神道秘密記云(頭書)、〈◯中略〉かく見ゆれども、此書いと後世のものなるうへ、傳教大師茶をこの園に植はじめて、宇治とがの尾へも植弘められたりなどいふ事、何の證もなく、甚しきあやまりなれば、論にも及ばず、

〔西宮記〕

〈三月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555造茶使(○○○)事〈一日〉 勘承和例云、三月一日差造茶使、粮並雜物、行内藏寮者、使一人、侍醫、校書殿執事一人、共造之、校書殿使摘茶進所、藥殿生以升量請、造法見例文也、

〔延喜式〕

〈二十八隼人〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 年料竹器 茶籠(○○)廿枚〈方二尺〉料、箟竹各六株、

〔木芽説〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 延喜の民部式に、年料の雜物の中に、尾張國長門國は、茶碗廿口を奉るよしにて、そはい づれもわたり五寸をためしとせらるとみえ、隼人司式には、年ごとに茶籠二十枚づヽ造り納るよしなど見ゆれば、其器ものも、はやくこヽに造り出づる事しられたり、

〔權記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 長徳元年十月十日、下給出納爲親造茶所(○○○)請者、今年料造進御茶料物文、

〔海人藻芥〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 茶者自上古我朝ニアリ、挽茶節會トテ於内裏公事儀式、然葉上僧正入唐之時、重而茶ノ種ヲ被渡、栂尾明惠上人翫之、サレバ本ノ茶ト云ハ栂尾也、非ト云ハ宇治等ノ事也、

〔西宮記〕

〈臨時五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 所々事 茶園(○○)〈在主殿寮東

〔百寮訓要抄〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 典藥寮 もろ〳〵の藥をおさめらるヽ也、此寮は藥園あり、茶園枸https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00164.gif 園あり、

〔本朝文粹〕

〈十山寺〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 晩秋過參州藥王寺感 慶保胤 參河州碧海郡有一道場、曰藥王寺、行基菩薩昔所建立也、聖跡雖舊風物惟新、前有碧瑠璃之水、後有黄纐纈之林、有草堂、有茅屋、有經藏、有鐘樓、有茶園、有藥圃、〈◯下略〉

〔田氏家集〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556滋十三摘茶、 不外出家、大抵閑人只愛茶、見我銚中魚失眼、聞君園裏茗爲牙、詩行許摘何妨決、使盈筐誇、庭樹近來春欲暮、莫空腹猶看https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 花、

〔倭名類聚抄〕

〈十三祭祀具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 龍眼木 楊氏漢語鈔、龍眼木〈佐加岐(○○○)〉今按、龍眼者其子名也見本草、日本紀私記云、坂樹刺立爲神之木、今按、本朝式用賢木二字、漢語鈔榊字並未詳、

〔大和本草〕

〈十二雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 榊(サカキ) 本邦ノ寶基本紀曰、一名眞賢木(マサカキ)、持受自然之正氣、冬夏常青、故衆木之中以賢木榊木也、今案ニ榊ハ倭字也、日本紀ニ榊ヲサカキト訓ズ、又龍眼木(サカキ)トカケリ、順倭名抄モ同、龍眼肉ノ葉ニ似タル故ニヤ、昔年龍眼木異邦ヨリ來ルヲ見タリシニ、其葉ヨクサカキニ似タリ、此木山中ニ多シ、漢名未詳、本朝神事ニ用之、又別ニ葉モ木モ相似テ不同木アリ、其名未詳、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 榊〈倭字〉 坂樹〈日本紀〉 賢木〈本朝式〉 龍眼木〈漢語抄〉 和名佐加岐〈正字未詳〉按、榊本朝神社必用之木、猶浮屠用木蜜、其木葉似木蜜而葉小、色深青無香、四時不凋、開小白花、結子生青熟紅、

〔松屋叢考〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 三樹考 今三樹といふは、賢木(サカキ)は桂(カツラノキ)、楠(クスノキ)、樒(シキミノキ)、廣心樹(ヲカダマ)などの總名、加豆良乃木は欞(ヲカダマノキ)、木犀(ヲカヅラ)などの總名、欞は、天竺桂(メカヅラ)の類の總名なれば、この三種をとり出て、説を立るがゆゑなり、賢木は、香き常葉木のことにて、〈常葉木なるよしは、源氏榊に、かはらぬ色をしるべにてと有にても知べし、〉桂、楠、樒、廣心樹などをいへど、ことさらに賢木とて神事に用るは欞なり、〈欞は天竺桂、大多比、白多夫の總名なり、〉そは眞木(マキ)はもと柀(マキ)、檜(ヒノキ)、杉(スギ)などの類を、美樹(ウマキ)とほめし名なれど、〈宇万の約眞なり〉中に、一種柀(マキ)としも稱は、今の高野柀なるがごとし、〈高野柀、坂東には少なれど、北國中國西國には、いと多くて、檜杉などヽ共に山中に、しみさび立りといへり、〉古事記〈上卷〉に、天香山之五百津眞賢木矣(イホツマサカキヲ)、根許士爾許士而、〈(中略)神代紀上卷、古語拾遺同説也、神代紀には、五百箇眞坂樹と書き、拾遺には、五百箇眞賢木と書り、五百津は枝の繁きをいふ、湯津楓の湯津も五百津の約なり、仲哀紀に、五百枝賢木とも見ゆ、百枝槻百枝杜樹の類也、〉また〈中卷神武の段〉神武天皇の御歌に伊知(イチ)、佐加紀(サカキ)、微能意富祁久袁(ミノオホケクヲ)云々、〈神武紀同、伊知は伊都の通音、嚴橿といふにおなじ、その嚴しく立榮えたる貌也、古事記傳十九の卷に、嚴賢木といふは例なくてうけられぬよしいへるは、中々にうけがたし、〉神功紀に、撞賢木嚴之御魂(ツキサカキイツノミタマ)云々〈撞は齋にて、齋潔まはる榊なり、そを嚴の枕詞とす、〉などみえ、この外古書に名の顯れたるは、擧に遑あらず、こを賢木、坂樹と書るは假字なり、神樹〈万葉四〉と書るは、神字に用る木なればなり、榊〈日本後紀十六、新撰字鏡、〉は神木の合字にて、麻呂を麿、堅魚を鰹に作る類なり、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001f23c.gif 〈字鏡〉は祀木の合字、神祀る木のよしなり、椗〈字鏡〉は未詳、杜〈字鏡〉は神の杜にある木の心也、龍眼木〈字鏡、和名抄、〉はその形容の似たれば、借用て書るなり、名義は舊説に榮樹(サカキ)にて、なにヽもあれ常葉樹(トコバギ)の榮立るにいひ、〈万葉仙覺抄五の卷、靜山隨筆、冠辭考九の卷、古事記傳八の卷、万葉槻の落葉別記、〉中にも橿木の事ならんと〈冠辭考九の卷〉いへるはうけがたし、今按に賢木は小香木(サカキ)なり、まづ左(サ)といふ辭に五の差別あり、小言(サヽメゴト)、小雨(サアメ)、小枝(サエダ)、小躍(サヲドル)、小間无(サマナシ)、小竹(サヽ)、小々形(サヽラガタ)の錦、細石(サヾレイシ)、小々浪(サヾラナル)などの左は小き心なり、狹筵(サムシロ)、狹疊(サダヽミ)、さおりの帶などは狹き なり、左根掘(サネコジ)、左根延小菅(サネハフコスゲ)、五味子(サネカヅラ)、左百合(サユリ)、佐沼田(サヌタ)などは、底(ソコ)の曾にかよふ左にて深きにいへり、眞男鹿(サヲシカ)、眞寐(サネ)、佐夜中(サヨナカ)、狹衣(サコロモ)、佐青(サヲ)、狹藍々々(サhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000631069.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000631069.gif )、狹丹頰(サニヅラフ)、狹丹塗(サニヌリ)、酒(サケ)などは眞(マ)なり、眞は宇万の約にて、物を美る詞、眞木眞賢木などの眞これ也、早苗(サナヘ)、早蕨(サワラビ)などは和左の約にて早きなり、香木なりといふよしは、神樂歌に、佐加幾波乃加乎加久者之美とよみ、その外にもおほかればなり、〈清正集に、榊ばの香をとめくれば云々、光經集に、榊葉のかをなつかしみ云々、源氏榊に、さかきばのかをなつかしみ云々、亞槐集一に、まさかきのかをかぐはしみ云々など多く見ゆ、万葉槻の落葉に神樂歌を引て、榊樒のよしを云たれど、未だつくさヾる説なり、〉小香木は桂欞楠樒などの香木にはいへど、橿(カシノキ)にいへる例はたえてなし、〈景行紀の志邏迦之餓延、雄略紀の伊都加斯賀母登などの歌を引ていふも、證とするに足らず、〉桂の加は香也、都良は圓の略にて、香ありて圓なる實結木(ミナルキ)なれば香圓(カツラノ)木といふなり、橡(ツルバミ)も圓眞子(ツラマミ)の通音なるべし、〈都夫良は丸きことにいふ古語にて、履中紀に圓此云豆夫羅とみゆ、都夫と訓も同義也、〉欞の手加(ヲカ)は小香なり、苻蔰茵(ヲカトヽキヲカツヽシ)なども、香(クサ)きものなれば、然いふ也、多末は玉にて、實の圓なるが玉に似たればいふ、桂の都良も、欞の多万も、共に圓實のよしなり、楠は臭(クサ)の木也樒のしも久之(クシ)の約にて、酒を久之(クシ)といふも久左(クサ)の通音、藥(クスリ)も須利の切(ツヾマリ)しにて同義也、惡臭に久左之といひ、美香に加保利といふとのみ心得たるは頑なり、加も久左の切にて、古は別なかりしは、屎(クソ)は久左(クサ)、厠は薫屋(カホリヤ)なるを通はしいへるにても知べし、〈下學集に河屋の説を説たれどうけられず、兼輔家集、空穗國ゆづりの下卷、源氏須磨、枕草子春曙抄一、禁秘抄下、類從雜要三、侍中群要四などにみえたるみかはやうども、御熏屋人にて、御厠に奉仕する女官のことをいへるなり、〉かく、桂木犀楠樒廣心樹の類を、なべて賢木といへる中にも、神事にはおほく欞(ヲカダマ)をや用たりけん、〈欞は久須多夫、大多比、白多夫の總名、〉弓八幡謠詞に、うつすや神の跡すぐに、今も道あるまつりごと、あまねしや秀室(ヒムロ)の木の、をか玉の木の枝に、こがねの鈴を結びつけて、ちはやぶる神あそび、七日七夜の御神拜云々とあるは、太玉串のさまなり、

〔日本書紀〕

〈一神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 中臣連遠祖天兒屋命、忌部遠祖太玉命、掘天香山之五百箇眞板樹(○○○)、而上枝懸八坂瓊之五百箇御統中枝懸八呎鏡、〈一云眞經津鏡〉下枝懸青和幣〈和幣此云尼枳底〉白和幣、相與致其祈禱焉、又猿女君遠祖天鈿女命、則手持茅纒(チマキ)之矟、立於天石窟戸之前、巧作俳優、亦以天香山之眞坂樹鬘、以蘿〈蘿此云比舸礙〉 爲手繦、〈◯下略〉

〔萬葉集〕

〈三雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 大伴坂上郞女祭神歌一首并短歌 久堅之(ヒサカタノ)、天原從(アマノハラヨリ)、生來(アレキタル)、神之命(カミノミコトハ)、奧山乃(オクヤマノ)、賢木之枝爾(サカキノエダニ)、白香付(シラガツク)、木綿取付而(ユフトリツケテ)、齊戸乎(イハヒベヲ)、忌穿居(イハヒホリスヱ)、〈◯下略〉

〔古今和歌集〕

〈二十大歌所〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 神あそびのうた とりものヽうた 霜やたびおけどかれせぬさかきばのたちさかゆべき神のきねかも

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 柃 玉篇云、柃〈音零、一音冷、漢語抄、比佐加木(○○○○)、〉以荊可染灰者也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 今本玉篇云、力丁力井二切、按力丁在平聲十五青、與音令合、力井在上聲四十靜、冷在上聲四十一廻、其音不同、此以冷音柃恐誤、下總本令作零、廣本同、並與廣韵合、〈◯中略〉柃灰見染色具、按、相模俗呼柃爲阿久柴、以燒葉入染用也、

〔大和本草〕

〈十二雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 柃(ヒサカキ) 順和名比佐加木、西土ノ民俗小柴ト云、葉ハサヾン花ニ似テ黒キ實ナル、玉篇曰、柃似荊可染灰者也、今俗ヒサヽキト云、其灰汁ヲ用テ布ヲ染ム黄色ナリ、本草諸書ニヲヒテ未之、一種別ニヒサヽキト云小樹アリ、低小叢生、是亦柃ニ似タリ、葉ハ柃ヨリ少薄シ、其嫰葉鮮紅如火、其色甚好可玩色如火、小木故ヒサヽキト云、ヒハ火サヽハ小也、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 柃(ひさかき/びしやしやこ) 〈音零〉 〈和名比佐加木、 俗云比佐々木、訛云矮榊略言乎、比婆々古、◯中略〉 按、柃木高二三尺、葉略似茶葉而狹長、有鋸齒、開花最細小淡白甚臭、隨結實生於葉本杈、毎二顆細小黒色、其木葉爲灰、染家必用之灰汁也、蓋此非榊之屬、山谷巖石間多有之、略似榊而矮、故和名之

〔松屋叢考〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 三樹考 今の世神事に用るさかきは、和名抄に柃漢語抄云、比佐加木といへるもの也、これに三種あり、一種は上品にて、葉もつやヽかなり、その状水木犀(モツコク)に似て、細實結(ナ)り、初は青色、熟れば黒色なり、武藏國にて、左加木とも山左加木ともよぶ、一種は下品なり、俗に比左加木(ヒサカキ)とも比左々木(ヒサヽキ)ともよぶ、西 國にては小柴といふよし、大倭本草〈十二の卷〉にいへり、その灰汁を取て布を染るに黄色なり、また一種比左々木(ヒサヽキ)とて叢生小樹あり、葉比左加木よりも薄く、嫰葉の葉鮮紅にて火のごとし、三種共に形状相似たれど、香氣なければ、眞の賢木に別て、比賢木とはいへるなるべし、比は疎劣の心にて、曾祖父を比々知々、曾孫を比々古、孫枝孫生を比古枝、比古波江、稂を比豆知などいふも此よしなるべし、上野に刀禰(トネ)川、比刀禰川、信濃に田井、比田井あり、これも眞の刀禰川、田井より劣れる方に比の字をかうぶらせいへる也、比奈津女(ヒナツメ)、比奈乃國も、都人、都所にむかへて劣の鄙女鄙土をいへり、かヽれば比左加木は眞榊に似たれど、香氣なき劣の木なれば、その名おへりとみゆ、

〔倭名類聚抄〕

〈十四染色具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 柃灰 蘇敬曰、又有柃灰、〈柃音靈〉燒柃木葉之、並入染用、今按俗所謂椿灰等是也、

烏草樹

〔新撰字鏡〕

〈木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000135.gif 〈左世夫〉 烏草樹〈左之夫〉

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 烏草樹 楊氏漢語抄云、烏草樹、〈佐之夫乃紀、辨色立成説同、〉

〔古事記〕

〈下仁徳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 太后〈◯仁徳后磐之媛、中略、〉即不坐宮而引避其御船於堀江、隨河而上幸山代、此時歌曰、都藝泥布夜(ツキネフヤ)、夜麻志呂賀波袁(ヤマシロガハヲ)、迦波能煩理(カハノボリ)、和賀能煩禮婆(ワガノボレバ)、迦波能倍邇(カハノベニ)、淤斐陀氐流(オヒタテル)、佐斯夫袁(サシブヲ)、佐斯夫能紀(サシブノキ)、斯賀斯多邇(シガシタニ)、淤斐陀氐流(オヒダテル)、波比呂(ハビロ)、由都麻都婆岐(ユツマツバキ)、斯賀波那能(シガハナノ)、氐理伊麻斯(テリイマシ)、芝賀波能(シガハノ)、比呂理伊麻須波(ヒロリイマスハ)、淤富岐美呂迦母(オホキミロカモ)、

〔古事記傳〕

〈三十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 佐斯夫袁(サシブヲ)は〈夫字延佳本に天と作るは、次句なる夫を舊印本などに天に誤れるを宜しと心得て、此をもさかしらに改めたるなり、わろし、〉烏草樹(サシフ)をなり、袁(ヲ)は余(ヨ)と云むが如し、〈◯中略〉此樹契冲云、今山里人はさせぼの木と云、柃(ヒサカキ)に似て小き實あり、熟すれば紫の黒みたるやうにて、童などは取て食ふとぞ承る、柃は和名抄に見えて、今俗に毘左々紀と云木なり、出雲風土記に、佐世乃木葉とあるは、此烏草樹にやと云り、或人烏草樹は、今俗にさヽぶの木とも、しやくぶの木とも云と云り、〈出雲風土記大原郡佐世郷處に、須佐能袁命佐世乃木葉頭刺(カサシテ)而踊躍云云、〉 〈また倭https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000018ca0.gif 命世記に、佐々牟乃木枝とあるも此か、同書に佐々牟江御船泊給比、其處爾佐々牟江宮造令坐給支と云るは、神名帳に伊勢國多氣郡竹佐々夫江神社とある地なり、是も此木に因れる名にや、〉

〔出雲風土記〕

〈大原郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 佐世郷、〈◯中略〉古老傳云、須佐能袁命、佐世乃木(○○○○)葉頭https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001854d.gif 而踊躍爲時、所判〈◯判恐https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001854d.gif 誤〉佐世木葉墮地、故云佐世

モクコク

〔和漢三才圖會〕

〈八十二香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 水木犀 俗云毛豆古久〈◯中略〉 按、水木犀今人家庭園植之難長、而有大木、小枝多、毎枝梢五七葉最茂、狹長厚、光澤背淡、夏開小白花、其香似木犀花香、結子三四顆作簇、有彩色、自裂中有赤子、種其子亦生、其葉四時不凋、秋有紅葉者、新古相襍亦美、

〔地錦抄〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 もつこく もちの木のるい也、赤き實有、

〔本草一家言〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 丹青樹 和名茂久古久、稻若水云、要乃木、出西京雜記、 成章按、其樹葉青赤、交錯二木相同、但要木者、枝葉婆々散垂不車蓋、茂久古久、樹幹直立、枝葉重疊、密覆憧々如車蓋、予斷以茂久古久丹青樹也、 潛確類書曰、西京雜記終南山有樹、二百丈無枝、上枝叢條如車蓋、其葉一青一赤、望之斑駮如錦繡、故名丹青樹、俗謂之五采樹、 典籍便覽、王氏彙苑並曰、丹青樹一名華蓋樹、再審按木殼要木、其葉皆一青一赤、則宜通呼丹青樹可也、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十四喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 石爪 詳ナラズ モクコクニ充ル説近シ、モクコクハ日州ニテポツポウ(○○○○)ト云、庭院ニ多ク栽ユ、葉ハ茵芋(ミヤマシキミ)葉ニ似テ濶ク厚シ深緑色ニシテ光リアリ、互生ス、冬ヲ經テ凋マズ、莖赤シ、夏枝梢ニ花ヲ開ク、形瑞香花(ヂンテウケ)ノ如シ、四瓣ニシテ厚シ、色白シ、衰テ黄色ニ變ズ、後實ヲ生ズ、形桃葉珊瑚(アヲキノ)實ノ如シ、熟スレバ自ラ四 ツニ裂テ、内子見ハル、其皮厚キ故、甜瓜ヲ四ツニ切リタル形ニ似タリ、大抵集解説ク所ニ近シ、然レドモ的當ニ非ズ、モクコクハ四時常ニ紅葉ヲ雜ユ、故ニ古人西京雜記ノ葉一青一赤望之斑駮如錦繡ノ文ニ因テ丹青樹トス、然ドモ述異記ニ上有五色葉、俗謂之五采樹ト云時ハ、丹青樹ニハ當リガタシ、

金絲桃

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 金絲桃(ビヤウヤナギ) 葉ハ柳ニ似テ末マルシ、花ハ桃ニ似テ黄ナリ、蕊ハ黄ニシテ長ク絲ノ如シ、梅雨ノ中ニ花開ク、葉冬不枯、高二三尺、諸書ニ出タリ、春分ニワカチウヘ、又正月ニサシテモ生ズ、三才圖繪、如桃而心有黄鬚、鋪散花外金絲然、亦根下劈開分種、畫譜所言亦同、

〔剪花翁傳〕

〈前編三五月開花〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 金絲(びやう)桃 花一重色黄、開花五月、梅天より半月計もあり、方半陰、地半濕、土回込、肥大便寒中に入べし、株九月中に分植べし、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001e57f.gif (さしき)春ひがんに枝三寸許に剪て、少し斜に插て、即時に日覆すべし、後に指頭をもて、土の乾濕を壓て試るべし、指形の速にふかく入ものは可也、堅くして、指點なきものは既に乾ける也、此時水を澆ぐべし、後に又乾堅なる時は淡小便を灌ぐべし、寒中には大便を入べし、葉は柳に似て枝は飴色也、葉長くして丸からず、積氣を治するに妙なりといへり、剪花の時は日の出るまでによし、其後は花いたむなり、升水は切口より上に鑪をかけて插をくべし、

沙羅樹

〔大和本草〕

〈十二雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 沙羅樹 大坂ナドニアリ、葉ハ榎又柹ニ似テ、花白シ、朝ニ開キユウベニシボム、花大ナリ、夏花サク、是眞ニ沙羅樹ナリ、未詳、潛確類書ニ沙羅樹ヲノセタリ、

〔松屋筆記〕

〈六十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 娑羅樹 日下舊聞二十三の卷郊坰五臥佛寺の條に、娑羅不凡草、不惡禽、〈酉陽雜俎〉 娑羅花苞大如拳、葉似枇杷葉、凡二十餘葉、相沓捧苞、類桐花、一簇三十餘朶、經月方謝、〈茅亭客話〉 沙羅者、其木葉如海桐、又似楊梅花、紅白色、春夏間開〈呉船録〉 沙羅外國之交讓木也、葉似柟皮如玉蘭、色葱白、最潔、鳥不棲、虫不生、子 能下氣、〈通雅〉 五臺山僧侈言沙羅樹靈異、至畫圖鏤版、然如巴陵淮陰安西伊洛臨安白下蛾https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001b8b9.gif、在處有之、開廣州南海神廟四本特高、今京師臥佛寺二株亦有霄之勢、顧或著、或不著、草木亦有幸不幸也、〈緑水亭雜識〉 朱國祚臥佛寺詩、傳聞蘭若春三月、花比春彌陀院多、惆悵芳時來獨後、但聞風葉響娑羅、〈介石齊集◯中略〉按に沙羅雙樹の事、平家物語、源平盛衰記の初に見えたれば引注すべし、

〔和漢三才圖會〕

〈八十三喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 娑羅雙樹(しやらさうじゆ) 翻譯名義集云、娑羅此云堅固、冬夏不凋、故名堅固、其樹類檞、而皮青白葉甚光潤、四樹特高、其林森聳出於餘林也、故華嚴經音義翻爲高遠佛入https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019e89.gif、已四方雙樹皆悉垂覆如來、其樹慘然皆悉變白、 按娑羅本名也、雙樹其林也、俗通曰娑羅雙樹、比叡山有之、其花白單瓣、状似山茶花而易凋、酉陽雜俎云、娑羅樹花如蓮者與此異、〈和州長谷寺有一株

〔日光山志〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 砂羅樹(さらじゆ) 或砂羅雙樹(さらさうじゆ)とも唱へ、常に夏椿といへり、四五月比花さくゆゑにや、されども椿とは大に異なり、山中に多く生ぜり、

〔平家物語〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 祇園精舍之事 祇園精舍のかねのこゑ、諸行むじやうのひヾきあり、しやらさうじゆの花の色、盛者必衰のことはりをあらはす、おごれるもの久しからず、唯春の夜の夢のごとし、たけき人もつゐにはほろびぬ、偏に風のまへのちりにおなじ、

檉柳

〔昆陽漫録〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 御柳(○○) 五雜俎曰、今閩中有一種柳、其葉如松、而垂長數尺、其幹亦與柳不類、俗名爲御柳、夫詩人之咏御柳禁御中柳耳、此則別、是一種而強名之者也と、いまの御柳即是なり、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十四喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 檉柳 御柳〈通名〉 一名西河柳〈閩書〉 御柳〈肇慶府志〉 西湖柳〈錦囊秘録〉 菩薩柳〈興化府志〉 細柳〈寧波府志〉 春柳〈通志略〉 赤柳〈丹陽縣志〉 雨師柳〈王會新編〉 古ヨリ和産ナシ、寛保年中ニ漢種初テ渡リテ、今世甚多シhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019519.gif 插シテ活シ易ク、早ク成長スル者故ナリ、春新葉ヲ生ズ、形扁柏(ヒノキノ)葉ニ似テ、甚細クシテ扁ナラズ、枝細ク絲ノ如ニシテ多ク下垂ス、夏ニ至リ枝ノ梢ニ花ヲ開ク、穗ノ長サ六七寸、枝ゴトニ碎花簇リテ蓼花ノ如シ、粉紅色、秋ニ至リ再ビ花ヲ開ク、唐山ニテハ一年三次花サク、故ニ三春柳ノ名アリト云、霜後落葉ス、然ルニ爾雅翼ニハ負霜雪凋ト云ヘリ、按ズルニ檉ニ檉松、檉杉、香檉ノ名アリテ、冬凋サルノ檉アリ、冬凋ノ檉アリ、後人只成語ヲ襲ヒ、概シテ負霜雪凋ト爲シ、御柳ノ檉モ冬凋マズト云フ、是皆親ク栽試ザルノ説ナリ、證治準繩ニ一名垂絲柳ト云、綱目ニモ此名ヲ入ルヽ時ハ、疹ヲ治スルノ檉ハ御柳ナルコト知ルベシ、 増、本草從新云、西河柳一名赤檉柳、治https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000136.gif 熱毒不https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif出、外用爲發散、注云、末服四錢治https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000136.gif出喘嗽悶亂沙糖調服、コノ樹本邦ニテモ四月六月七月ト必ズ一年ニ三次ヅヽ花ヲヒラク、但コノ花至細ニシテ瓣蕚開謝共ニ辨ジ、難シ、故ニコノ誤アリ、コレニ三川柳ノ名アリ、畿輔通志曰、三川柳細葉赤皮、與他柳逈別、里人取以發痘ト是ナリ、

椅桐

〔類聚名義抄〕

〈三木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564 椅桐〈上音、倚、キリ、〉

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564 伊比桐(いひぎり) 本名未詳、葉似桐類而非桐屬、 按、伊比桐高丈許、葉似采盛葉而略長、春開小白花、秋結子、作房如南天子而大正赤、内有黒細子、阿州和州山中有之、移栽庭園甚美也、然人家希見之、

菜盛葉

〔和漢三才圖會〕

〈八十三喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564 菜盛葉 五菜菜 正字未詳 俗云左以毛利波(○○○○○) 按、木葉似桐而小、高一二丈、五月出花穗麴、六月結實、有毛似麴而攅生、秋黄熟、山人用葉盛食物器皿、故名菜盛葉、其木不材用、鳥衘其子屎易生、 葉〈苦甘〉治小兒胎毒草瘡、入五香湯用、又煎葉汁染皂色

瑞香

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 瑞香(ヂンチヤウケ) 沈丁ハ倭俗ノ名ヅクル所ナリ、本草綱目芳草門ニ瑞香アリ、和俗ノ所謂沈丁花ト相同ジ、凡本草ニ木ヲ草類ニノセ、草ヲ木類ニノセタル事多シ、灌木ノ類所載山礬花、與沈丁花相似不同、但畫譜所載山礬與沈丁花相合、然レバ瑞香山礬ハ一物二名ナルベシ、木ノ高二三尺、葉ハミカンニ似、花ハ丁子ニ似テ、紫白色香遠シ、故ニ七里香トモ云由、中華ノ書ニ見エタリ、園史曰、植ルニ根ヲアラハセバ不榮、濕ヲイミ日ヲオソル、水ヲシゲクソヽグベカラズ、花ヲチテ後小便ヲソヽグ、或ハ衣ヲ洗フ灰汁ヲカクル、又煎茶ヲ根ニソヽゲバ蟲クハズ、正月ニ花ヲヒラク、白花ナル者アリ、稀也、國俗沈丁花ト云アヤマリテリンチヤウト云、梅雨ノ前四月、或ハ梅雨ノ中ニ挾(サセ)バヨク活ク、糞ヲイム、世俗小兒ノ毒也ト云非也、本草ニ瑞香有數種、三(ミツ)マタ、瑞香ノ類ニテ相似タリ、枝ニ三椏アリ、京都北野ニアリ、花丁子(○○○)、木似山礬(ヂンチヤウ)、十二月花ヲヒラク、ツボミモ沈丁花ニ似タリ、夏ハ葉落テ冬葉生ズ、異木ナリ、北野ニアリ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十二香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 瑞香 睡香〈五雜俎〉 俗云沈丁花 誤曰里牟知也宇介 本草芳草類有之、今改移于此、 本綱、瑞香南方山中有之、枝幹婆娑、柔條厚葉、四時不凋、冬春之交開花成簇、長三四分、今如丁香状、有黄白紫三色、其高者三四尺、有數種、有枇杷葉者、楊梅葉者、柯葉者、毬子者、攣枝者、惟攣枝者、花紫香烈、其節攣曲如斷折之状也、枇杷葉者乃結子、其始出於廬山、宋時人家栽之、始著名、其根綿軟而香、〈味甘鹹〉五雜俎云相傳廬山一比丘晝寢山石下異香、覺而尋之得此花、故名睡香、後好事者以爲祥瑞、改爲瑞香、 古今醫統云、用衣灰汁瑞香根、去蚯蚓、以漆査根、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019b70.gif 鷄鵞水之、皆盛長、此花惡濕畏日、不根、 按、瑞香人家多栽之、疑此山礬之類、此云沈丁花也、春插之能活、一二尺亦開花、高者四五尺枝幹婆 娑、葉似無齒https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000065163c.gif 子葉及楊梅葉、春著花、形如丁香而紫、既開則四出、外淡紫内白、十餘朶攅簇、其香烈如沈香丁香相兼、故俗曰沈丁花、然濕濃不蘭花之艷、〈未黄色花者、未審、〉

〔地錦抄〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 沈丁花(ぢんてうげ)〈木春初中〉 うす紫の花咲、一所にあつまり咲て、しかもいみじき匂有、葉ももつこくのごとくにてよし、又花ノ白キも有、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈九芳草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 瑞香 ヂンテウケ(○○○○○) ヂゴセウ(○○○○)〈但州〉 ハナコンセウ(○○○○○○) センリカウ(○○○○○) 一名睡香〈五雜俎及ビ群芳譜ニ廬山記ヲ引テ曰、一比丘晝寢磐石上、夢中聞花香酷烈覺求得之、因名睡香、四方奇之、謂爲花中祥瑞、遂名瑞香、〉 紫風流〈典籍便覽〉 蓬萊紫〈同上〉 殊大〈三才圖繪〉 殊友〈名物法言〉 麝囊〈秘傳花鏡〉 蓬萊花〈同上〉 紫丁香〈草花譜〉 錦被堆〈名花譜〉 露甲〈群芳譜〉 風流樹〈同上〉 佳客〈事物異名〉 世英〈尺https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f00006520ec.gif 雙魚〉 奪香〈廣東新語〉 花賊〈致富奇書〉 人家ニ多ク栽ユ、或ハ誤テリンチヤウケト呼ブ、樹高サ三四尺、枝幹繁茂ス、葉細長ニシテ厚ク、冬ヲ經テ凋マズ、春月枝上ニ花アリ、數十アツマリ開ク、ソノ形筒子(ツヽザキ)ニシテ末四瓣ニ分レ、丁香ノ形ノ如シ、大サ四五分、内ハ粉紅、外ハ紫赤ニシテ、香氣烈シ、沈香丁香ニ似タリトテ、俗ニ沈丁花ト呼ブ、實ヲ結バズ、一種葉邊ニ黄暈アルヲ、金邊瑞香ト云、秘傳花鏡ニ出ヅ、一種白花ノモノアリ、深山ニ多ク生ズ、葉長大ニシテ花後實ヲ結ブ、南天燭子ニ似リ、生ハ青ク、熟スレバ紅、味辛シ、故ニ俗ニ誤リテ胡椒ノ木ト云、然レドモ實ニ毒アリ、食スレバ半日許煩悶ス、 又一種葉小ク薄ク黄花ヲ開クモノアリ、甲州ニテオニシバリ(○○○○○)ト云、越後ニテナツホウズト呼ブ、コレモ俗ニ胡椒ノ木(○○○○)ト稱スレドモ、皆非ナリ、胡椒ハ蔓生ニシテ和産ナシ、

黄瑞香

〔駿國雜志〕

〈二十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 黄瑞香 庵原郡興津山中にあり、以て紙をすくに用ゆ、庵原郡巡村記云、小河内中河内西河内の三村、紙を製する事を初しは、明和年中甲州市川の人某和田島村に來て製し始む、今は所々にすくといへども、最初の名を全して、和田島紙と云り、楮の皮に非ず、三扠木(○○○)の皮を用ゆ、近歳多く山畠を開發 き、是を植ゆ、戸毎に紙を製し、江戸及び東西に出して資益とす、今駿河紙と號して、墨付唐紙に似たるもの即是也、

白丁花

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 白丁花(はくちやうけ)〈俗稱〉 花白而微有丁香之氣、故俗名之、 按、白丁花小樹、高二三尺、枝莖勁、葉似狗黄楊(イヌツケ)葉、四月開小白花、大三分許、一種有千葉者、折枝莖寸寸插之能活、叢生爲墻籬際限、人家檐滴下植之、

〔大和本草〕

〈十一園木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 白丁花 小木ナリ、葉花モ小ナリ、筑紫ニテバンテイシ(○○○○○)ト云、漢名シレズ、春秋枝ヲサセバ能生ズ、四月ニ小白花ヲヒラク、庭ニウエ籬トシ、梢ヲ一様ニヒキク刈トヽノフ、枝繁密ニ花サキテ可愛實ナシ、陽地ヲ好ム陰地ニ植レバ不榮無花、又ヲランダ白丁花ト云木アリ、相似タリ、

三椏

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 三杈木(みつまたのき) 〈正字未詳〉 按三杈木高丈許、枝椏皆三叉而葉似水楊葉(カハヤナキノハ)、開小黄花房、

〔廣益國産考〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 楮〈◯中略〉 駿州由井宿より興津の間さつた峠の山抔に三ツ杈(また)といへるものを植て、倉澤其外にて紙に漉いだすなり、木は餘り大木となる事なし、山に植て三四年目に伐て、楮を蒸やうに桶の蒸籠にてむし皮をむき、楮同様に干上置水に浸して皮をこそげ、河にて晒むして板の盤の上にてたヽき、紙に漉事は、楮の紙を漉に少しもかはる事なし、 此苗は冬より春にかけ花咲みいりたるを、五月に實の熟せし時取て干揚、春に蒔ば追々芽を出すを、程よく間引、綿を仕立るやう致しなば、其十月には壹尺五六寸には伸もの也、夫を翌春山か畑などに植置ば、三四年目には大は火吹竹ぐらゐ、小は手の指ぐらゐに伸たるを、右に云如く伐て苧(そ)となし紙に漉事なり、此三ツ杈(マタ)にて漉たる紙は唐紙に似て竪にもさくる也、武州邊玉川抔にて漉和唐紙は、此三ツ杈を多く楮を少し入 て漉事と見ゆ、江戸にて賣所のがんぴ紙の下品なるは多く三ツ杈にがんぴを少し合して漉たるもの也、何れ農家にては餘作をして、定作の外に利を得る事をせざれば、立行がたきもの也、右楮と櫨は農家餘作の内にて、利分多き作りものなるべし、

〔廣益國産考〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0568 三股を畾地に植益ある事〈三ツまたはかみをすく木也〉 三股の苗を拵ゆるには、二月の末苗床をこしらへ、糞水を蒔ちらし、日にさらして打ならし、畦をつくり、麥か綿蒔やうにまくべし、 蒔旬は彼岸中より十日位おくれて蒔べし、 たねは前年初夏にとりおさめて土をまぶし、俵に入、乾き地の日あたりよき所へ埋置、蒔候時ほり出し、土をはらひ、二三粒宛三ツの指にてひねり、上の皮をむけば、白く實出る也、是をまくべし、生ざる實はひねるに中黒く腐たる如し、 扨蒔たる實追々生出たるとき、しげき所は間引捨、小便七分に水三分を和して、度々かけて育れば、其年の冬は一尺二三寸、又は貳尺位に伸べし、 寒氣強き所にては覆をすべし、 翌春三月上旬こぎあげ、植場所にやりて本植すべし、 植るには山の裾、又は茨抔の生たるを伐拂ひ植べし、又は山畑などの荒たるを起し植てよし、植付て三年程になれば、凡六七尺にも伸る也、又三尺位に伸ざるもあり、其時は成長したる分其冬拔伐にすべし、 扨伐たるは家に持かへり、四尺位に伐揃へ、末の短きは中に結添、一〈卜〉だかへ半位の輪に結び、楮同様に蒸て皮をむき、干揚貯ひ置、用ふる時水に浸しけづりて河水にさらし、煎てたヽき紙に漉事は、楮紙に同じ事なれば、爰に略して記さず、 此三ツ股は枝三ツづヽ出れば、自稱の道理にて呼なしたる名と見えたり、駿州興津由井邊に作り、紙を漉て利を得るよし、又甲州にても漉ぬるよし、伊豆邊にても作りぬるか、あたみより漉出せる雁緋紙に下直成あるは、楮皮に此三ツ股を交て漉たるものと見ゆ、江戸にて見及べり、また武州玉川にて和唐紙とて漉出すもの、此三ツ股を用ふると見えたり、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈九芳草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 瑞香〈◯中略〉 又黄瑞香アリ、一名結香〈秘傳花鏡〉ニ見タリ、和名ミツマタ(○○○○)、ミツヱダ(○○○○)、〈勢州〉ミマタヤナギ(○○○○○○)、〈防州〉ユヅブサ(○○○○)〈參州〉高サ七八尺、本幹枝叉皆三椏ナリ、花葉時ヲ同セズ、冬ハ葉ナシ、秋ノ末葉落レバ已ニ枝端ゴトニツボミ、一朶ヅヽ下垂シ、穉蜂(アカパチ)ノ窠ノ形ノ如シ、春ニ至リテ花ヲ開ク、紫瑞香花(チンテウケ)ヨリ瘠長ク、外白ク内黄ナリ、香氣ナシ、花終テ新葉ヲ生ズ、夾竹桃葉ニ似テ大ニシテ兩頭尖ル、長サ七八寸、枝柔ニシテ結ビテモ折レズ、故ニ結香ト云フ、皮ヲ以テ紙ニ造ル、

〔増訂豆州志稿〕

〈七土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 結香(ミツマタ) 枝必三椏、山村種植シテ製紙ノ料トス、 増、近年山野ヲ墾拓シテ之ヲ栽培スル者頗ル多ク、皮ヲ剥テ各地ニ輸送ス、

雁皮

〔大和本草〕

〈十四木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 ガンヒ 又山カゴト云山楮ナリ、小木也、其木モ皮モ櫻ニ似タリ、葉ハハギニ似テ小也、四月ニ生葉枝長シ、高數尺ニ過ズ、深山ニアリ、花ハハギノ花ニ似テ黄ナリ、夏ノ末ニサク、其皮ヲハギテ楮ノ如クニ煮テ紙ヲスク、恰鳥ノ子紙ノ如ク、堅クシテツヨシ、色スコシ褐色ナリ、虫クハズ、誤字アレバケヅリ取テ、紙不破コト鳥ノ子ノ如シ、

〔増訂豆州志稿〕

〈七土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 黄雁皮(キガンヒ) 増、方言黄小雁皮(キコガンヒ)、又山カゴ、本草綱目ニ載ル蕘花ノ一種ニシテ、向陽ノ山野ニ自生ス、其皮ヲ以テ、雁皮紙薄様紙ヲ製ス、

沈香/伽羅

〔和漢三才圖會〕

〈八十二香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 沈香 沈水香 蜜香 阿迦嚧香〈梵書◯中略〉 按沈香交趾之産、脂潤柔靱而重爲最上、暹羅之産、色似鶉彪、而香亦佳、次之太泥之産、木理相透、状色美而其香不佳、占城之産白黒襍似鶉彪、而香不佳也、近年中華之船亦少將來之、 奇楠(きやら) 奇南 琪楠 奇藍 伽羅(キヤラ)〈今專稱之也〉 伽羅者梵語阿伽羅香之略乎〈◯中略〉 按伽羅乃香木至寶者、和漢同貴之、然本草綱目不詳辨https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 之何耶、蓋深水香中撰出之、換名稱奇楠奇藍等乎、〈楠藍字義不拘、分牝牡亦不然、沈水香即奇楠也、〉萬安沈香一片價萬錢者、則可知古者伽羅與沈香別也、其出處亦與 沈香同、交趾暹羅占城也、凡伽羅脂潤柔靱、味微辛者佳也不潤或帶白色味微甘者不佳但其香氣美惡、以言不論耳、大抵交趾之産最上、暹羅者次之、占城又次之、和州東大寺名香有二種、一名黄熟香、〈俗云蘭奢待有重三貫三百目〉一名大紅塵、〈有重四貫六百目云〉天竺漸名香鮮殊大者希也、

〔本草辨疑〕

〈四木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 沈香(チンカワ) 本綱ニ沈香アリテ伽羅(キヤラ)ヲ不載、或曰番國物ナル故ニ中花ニ不之、故ニ時珍不之ト依テ疑之、沈香既番國物ニシテ本草ニ出之、其外番國物ニシテ不貴物多載タリ、伽羅ハ中國外番天竺日本皆人ノ所貴重ノ物ナリ、何ゾ本草ニ載ザランヤ、因之考フルニ、本草ニ沈香蜜香ノ二條ヲ出ス、然モ樹ノ形香氣大凡均シテ、沈香ハ價一片萬錢ノ者アリテ、尊貴スル所皆伽羅ナリ、今ノ沈香ハ皆蜜香ノ説ニ合ス、蘇恭曰、木似攀柳樹、皮青色葉似橘葉、經冬不凋、夏生花白而圓、秋結實似檳榔、大如桑椹、紫而味辛、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十三香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 沈香 通名 一名遠秀卿〈輟耕録〉 惡掲嚕〈金光明經梵名〉 和産ナシ、廣東新語ニ日本ヨリ出ト云ハ誤ナリ、蠻舶來ノ者唐山ヘ傳ヘシコトナルベシ、唐山ニテモ、南方熱國ナラザレバ生ゼズ、嶺南ノ地ヲ離レ、南ニ瓊州アリ、其内ニ黎ト云地アリ、又黎母トモ云、其民深山中ニ居リ、中國ノ人物ト異ニシテ、男女モ別レ難シト云、コノ地ニ産スル沈香上品ナリ、其木ハ冬青(モチノキ)ノ如シト云、然レドモコノ木全身皆香トナルニ非ズ、香ノ木ニ結スルコト、人ノ癰疽ヲ發スルガ如ク木ノ病ナリ、故ニ香ノ結スル木ハ、必其葉夏ニテモ黄色ヲナシ枯レタルガ如シ、其香ハ或ハ枝幹、或ハ根株ニソノ木ノ脂一處ニ聚リ、凝結シテナル者ナリ、此香ヲ至テ上品トス、唐山ニテコレヲ生結〈廣東新語〉ト云、然レドモ此香ハ百ニ一二ナシト云、又木ヲ伐テ三四十年モ捐テヲキタルニ香ヲ結スルアリ、是ヲ死結〈同上〉ト云、生結ニ次グ、總テ木古クナラザレバ結セザル者ナリ、又木古クナラズ、數十年ニシテ香ヲ結スルアリ、コレヲ速香〈同上〉ト云、

〔西海紀游〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 沈香の事 大島に沈香の大木あり、文政壬辰の春、百姓深山に入りて木をおろす、日も既にくれしかば、木の葉をあつめて火にたく、其にほひかうだいなりしかば、夜明けて其あつめし木を見るに見なれぬ木なり、これにより殿様へ御訴へ申候處、さつまよりけんしを遣し、御吟味のところ、沈香に相違なし、段々ふかく山にわけ入り尋ねしに、何と申候事しれず、追々に注進のよし、役掛り御人よりきく、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十三香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 返魂香 補遺、長崎官園ニ沈香ト稱スル一樹アリ、ソノ幹周圍一尺許ナルヲ、三尺許ノ處ヨリ伐リ、今旁芽生長シテ丈許ニ及ブト云、弘化二年正月望日友人高井君ヲ訪ヒ、其所藏ノ沈香葉三枚ヲ目擊スルコトヲ得タリ、長サ七寸餘、濶サ三寸五六分、櫟(クヌギ)ノ葉ニ似テ、前後尖リテ中濶シ、沈香ノ集解ニ葉似橘葉、又似椿葉ト云ニハ合ハズ、而シテソノ蒂味辛クシテ香氣アリ、丁香ノ味ニ彷彿タリ、又丁香ノ集解ニ葉似櫟葉ト云ニ合スルニ似タリ、然レドモ未ダ其花實ヲ見ズ、又天保十五年蠻國ヨリ丁香樹ト稱スル者ヲ齎來セシニ、長崎ニテ枯ル惜ムベシ、コレ官園ノ沈香ト稱スル者ト同物ナルカ知ルベカラズ、

蜜香

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 櫁 唐韻云、櫁〈音蜜漢語抄云之岐美(○○○)、〉香木也

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 下總本櫁作樒、蜜作密、按作樒作密與廣韻合、作櫁與玉篇合則密蜜兩通然此引唐韻樒似是、按、櫁即蜜香(○○○○)、證類本草上品引陳藏器之、又千金翼方、證類本草下品有莽草、是櫁莽草、二物不同、而漢語抄以櫁爲之岐美、本草和名以莽草之岐美、二家其説不同也、源君兩載櫁莽草、並訓之岐美、非是、

〔本草辨疑〕

〈四木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 蜜香(ミツカウ) 櫁(シキミ)〈和名志紀美、此葉沈香ノ説ニ似タリ、古ノ採藥使モ似タルヲ以テ櫁ト名ケタル歟、是ヲ佛ニ供スル、其所以他日可考、〉 藏器曰、蜜香生交州、大樹節如沈香樹、形似槐而香、異物志云、其葉如椿、交州記云、樹似沈香異也、 沈香蜜香一類二種ニシテ、香氣ニ優劣アリト見タリ、 時珍曰、按魏王花木志云、蜜香號千歳樹、根本甚大、伐之四五歳、取腐者香、酉陽雜俎云、樹長丈餘、皮青白色、葉似槐而長、花似橘花而大、子黒色大如山茱萸酸甜可食、 沈香ハ水氣ヲ假テ香ヲナスト云、蜜香ハ斫仆シテ四五歳ノ後不腐敗モノ香ヲナスト云フ、 唐船長崎ヘ伽羅ヲ渡スニ、皆壺ニ水ヲ入テ伽羅ヲ渡シテ持來ル、是ヲ日本人水ヨリ揚テ乾ナリ、伽羅水ニ不漬バ香氣ナキ故ニ、日本マデモ水ニ漬テ來レリ、然レバ則本草ニ云、沈水香ニ無疑モノナリ、沈香ハ水ニ不浸シテ、其マヽ櫃ニ入テ渡之、香氣モhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001bfd8.gif ニ劣レリ、是本草ノ蜜香ナルベシ、若又本草ノ沈香ヲ、今ノ通用ノ沈香トセバ、密香ト名クル者ハ、何ヲ指シテ云ベケン哉、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十三香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 蜜香 一名木蜜香〈香譜、草部ノ木香モ蜜香ト名クルニ由テ木ノ字ヲ冠ス、〉 集解、諸説紛々タリ、古ヨリシキミト訓ズルハ甚誤ナリ、本經逢原ニ、一種曰蜜香與(○)沈香(○○)大抵相類(○○○○)、故綱目釋名、沈水香蜜香二者並稱、但其性直者毋大小、皆是沈水若形如木耳者、俗名將軍帽、即是蜜香、其力稍遜、僅能辟惡去邪氣、戸https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001a591.gif 、一切不正之氣、而温脾煖胃納氣歸亢之力不沈香也ト云、是ニ據レバ沈香ト同物ト見ルベシ、

フヂモドキ

〔本草一家言〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 芫花 稻若水翁云、和稱紫元之、又https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/0000000196b0.gif 之大坂花史名藤賽(フヂモドキ)樹、不甚高、春初著細小紫花櫻花時花罷出葉、葉如白前、有毛者眞、庸俗或因和名相似而有紫荊樹混認者、紫荊即田氏荊和名蘇方花(スホウハナ)與芫花殊別、又或有https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001cd00.gif 草(ホウコクサ)、充芫花此誤、認黄芫花者、宜細辨https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 之、黄芫花即蕘花、和名三又(ミツマタ)先花後葉與莞花一般、愚按、黄芫花即蜜蒙花之別名、蜜蒙花、和名顏緋京北花肆稱黄元之(キゲンシ)、其花似芫花黄、勢州朝熊山、和州鉢伏山、河州金剛山、相州鎌倉山多産之、其他筑前州又産之、又有大顏緋、 花相似較大耳、詳見蜜蒙花條

丁香

〔大和本草〕

〈十一藥木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 丁香 本草ニ異名ヲ丁子香ト云、故ニ日本ノ俗丁子ト云、母丁子トハ、本草曰、有雌雄、雄顆小、雌者大、如山茱萸、名母丁香、入藥最勝、本草原始曰、擊破有理而解爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 兩、向如雞舌、又一名鷄舌香、藥肆ニ煎ジタルカスヲウル事アリ、エラブベシ、久シクナリテ香ウスキハ酒ニヒタセバ香生ズ、夏月丁子ヲ風爐ニカケテ煎ズレバ香滿室、且蚊ヲシリゾク、男子ハ夏月丁香ヲ佩、婦人ハ麝香ヲ帶テ汗臭ノケガレヲ去ルベシ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十二香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 丁子(ちやうじ) 丁香鷄舌香 〈附、母丁香、丁香皮、〉 本綱、丁子出崑崙國及交州廣州南番、其樹高丈餘、木類桂、葉似櫟(トチノ)葉、二三月開花、圓細黄色、凌冬不凋、七月成子、其子出枝蕊上釘、長三四分、紫色、但有雌雄、雄者顆小而名丁香、雌者大如山茱萸、名母丁香、〈一名雞舌香〉用雄則須丁蓋乳子、其樹皮名丁香皮、似桂皮、而厚氣味同丁香、丁字〈辛熱〉温脾胃止霍亂、治五痔及齒https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001b8a8.gif 虚噦小兒吐瀉、壯陽療反胃嘔逆〈丁子畏欝金火〉 香衣辟汗氣、〈丁子一兩、山椒六十粒、絹袋盛佩之、〉 治痘瘡、不光澤起發、成脹或瀉、或渇或氣促、表裏倶虚之證、〈陳文中用木香散異攻散、倍加丁香官桂、蓋運氣在寒水司天之際、又値嚴冬遏陽氣、故用大辛熱之劑之者也、若不氣血虚實寒熱經絡、一槩驟用其殺人也、〉 母丁香〈即雌也〉拔去白鬚、孔中用薑汁之、即生黒者、 按、阿蘭陀咬https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra0000066116.gif 吧舶到南蠻交易以渡之、外科呼丁子油加良阿保

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十三香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 丁香 テウジ(○○○) 通名 公丁香一名如字香〈本草https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins018062.gif 〉 索瞿者〈金光明經梵名〉 痩香嬌〈藥譜〉 百里馨〈種杏仙方〉 母丁香一名亭炅獨生〈酉陽雜俎〉 丁香皮一名支解香〈藥譜〉 和産ナシ、唐山ニテモ暹羅(シヤムロ)、渤泥(ホルネヲ)、蘇門荅刺(スモタラ)ヨリ來ルト、東西洋考ニ見ヘタリ、本邦ニモ紅毛ヨリ來ル、美洛居ト云蠻國ニ香山アリ、滿山皆丁香ナリ、雨後溪水ニ隨テ山麓ニ多ク流レ出ルヲ拾ヒ採テ、中國ノ商人ニ賣ルト東西洋考ニ云リ、

胡頽子

〔本草和名〕

〈十七菓〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 胡頽子〈出馬琬食經〉和名久美(○○)、

〔倭名類聚抄〕

〈十七菓〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 胡頽子 馬琬食經、養生秘要等云、胡頽子、〈和名久美、一云毛呂奈里(○○○○)、本朝式用諸生子三字、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈九果蓏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 本草和名載胡頽子云、出馬琬食經、按本草拾遺云、胡頽子、熟青酢澀、小兒食之當果、生林間樹高丈餘、葉陰白、冬不凋、冬花春熟、最早諸果、又有一種、大相似、冬凋春實夏熟、人呼爲木半夏、李時珍曰、胡頽即盧都子也、其樹高六七尺、其枝柔軟如蔓、其葉微似棠梨長狹而尖、面青背白、倶有細點如https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 星、老則星起如麩、經冬不凋、春前生花朶、如丁香蒂極細倒垂、正月乃敷白花、結實小長、儼如山茱萸、上亦有細星斑點、生青熟紅、立夏前采食酸濇、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 亦如山茱萸、但有八稜、軟而不堅、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 内白綿如絲、中有小仁、其木半夏、樹葉花實、及星班氣味、並與盧都同、但枝強https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001a849.gif 、葉微團而有尖、其實圓如櫻桃、而不長爲異耳、立夏後始熟、其https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 亦八稜、大抵是一類二種也、〈◯中略〉本草和名載久美之名、不毛侶奈利之名、〈◯中略〉延喜宮内省式、備中國例貢御贄、大膳職式、備中國貢進菓子並有諸成、皆不諸生、此所引或是弘仁貞觀式文、

〔大和本草〕

〈十一藥木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 胡頽子(ヒグミ) 本草灌木類ニノセタリ、國俗ヒグミト云、木ノ高サ六七尺、枝柔ナリ、葉ハ梨ニ似テ長ク狹シ、面青ウラ白シ、十二月正月花サク、花形丁香ノ如ク、サガリ垂ル、夏月實熟ス食フベシ、實少ニシテ長シ、星多シ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif ニカド多シ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 軟ニシテ不堅、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif ノ内絲ノ如シ、是胡頽子ノ集解、時珍ガ説ニヨクアヘリ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 胡頽子〈◯中略〉 按胡頽子、大柢有三種、其葉與實皆有少異耳、〈一種〉當春月種苗時、實熟大如小棗者、名苗代胡頽(ナハシログミ)子、〈一種〉五月實熟大如棗、而莖長五六寸垂、〈一種〉九月實熟小、其大如櫻子而成簇、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 胡頽子 諸生子(モロナリ)〈和名抄〉 グミ(○○)〈同上〉 グイミ(○○○)〈四國〉 グユミ(○○○)〈阿州〉 グイビ(○○○)〈備前〉 ゴイミ(○○○) ゴユミ(○○○) ゴミ(○○)〈江州〉 ナハシログミ(○○○○○○)〈京〉 ヤマグミ(○○○○) サツキグミ(○○○○○) ハルグ(○○○) ミ(○) トラグミ(○○○○)〈薩州〉 タハラグミ(○○○○○)〈肥前〉 タウラグミ(○○○○○)〈同上〉 カマツカグミ(○○○○○○)〈濃州〉 シヤシヤビ(○○○○○)〈阿州〉 シヤシヤブノキ(○○○○○○○)〈土州〉 ムギシヤシヤブ(○○○○○○○)〈讃州〉 サヽビ(○○○)〈同上〉 一名棠〈聖濟總録〉 紙錢棠毬〈同上〉 羊奈子〈通雅〉 山野ニ自生多シ、高サ六七尺、小枝多ク繁リテ、木瓜類ノ如シ、葉互生ス、形木蓮(イタビ)ノ葉ニ似タリ、又木樨葉ニ似テ鋸齒ナシ、面深緑色、背ハ褐色、或ハ白色、新葉ハ背白シテ、褐色ノ斑點アリ、冬モ葉凋マズ、故ニ多ク庭際ニ栽ユ、十二月葉間ニ花ヲ開ク、二三蕚下垂ス、本ハ筒子(ツヽサキ)ニシテ、末ハ分レテ丁香ノ形ノ如ク、香氣多シ、後實ヲ結ブ、山茱萸ニ似テ小シ、長サ五分許、初ハ緑色、播種插秧(ナハシロウヘツケ)ノ時熟ス、色赤シテ雲母色ノ星點アリ、小兒採リ食フ、内ニ長https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif アリ、山茱萸https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif ノ如ク、質甚堅シ、破レバ内ニ白綿アリ、一種蔓生ナル者アリ、ヒグミ(○○○)〈大和本草〉ト云、一名ツルグミ〈土州〉タウチグミ〈勢州〉ナハシログミ〈紀州〉ナンシログミ〈同上〉藤蔓(ツル)褐色ニシテ長延ス、葉ハ楊桐(サカキ)ノ葉ニ似テ長ク互生ス、面深緑色、背ハ褐色、花實ハ木本ノ者ト同ジ、コレニ一種圓葉ナル者アリ、讃州ニテトラグミ(○○○○)ト云、一種ナツグミ(○○○○)アリ、一名ヘソツキ〈播州〉チヽモヽ〈同上〉シホグミ〈勢州〉ヤマグミ〈大和本草〉木ノ高サ丈許、枝條繁茂ス、其枝胡頽子ヨリ柔ナリ、葉ノ形橢長ニシテ、互生ス、面緑色、背ハ淡褐、或ハ白色、春末葉間ニ花ヲ垂ル、胡頽子花ニ似テ小シ、實ハ形圓ニシテ、南燭子ヨリ微大ナリ、胡頽子ニ次テ熟ス、色赤シテ白星點アリ、小兒採リ食フ、是集解ノ木半夏、一名四月子野櫻桃ナリ、一種アキグミ(○○○○)アリ、一名グイミ、〈四國〉ゴミ、〈江州〉カハラグミ〈同上〉サワグミ、ダイヅグミ、〈紀州〉コメシヤシヤブ、〈讃州高松〉シヤシヤブ、〈同上丸龜〉シヤシヤビ、〈阿州〉アサドリ、〈播州〉カサトリ、〈防州〉タカリグミ、〈勢州〉アサツキ、〈播州〉木ノ高サ丈餘、又三四尺ノ小木ニモ花實ヲ生ズ、冬ハ葉ナシ、春新葉ヲ生ズ、木半夏ノ葉ヨリ小ニシテ狹ク、面緑色、背ハ白ク、光リアリテ雲母ノ如シ、枝モ亦同ジ、葉互生ス、春ノ末葉間ニ花ヲ開ク、木半夏ノ花ヨリ小ナリ、秋ニ至テ熟ス、大サ南燭(ナンテンノ)子ノ如シ、赤クシテ白星アリ、小兒採リ食フ、是野櫻桃ノ一種ナリ、 増、シヤシヤブ、シヤシヤビ等ノ名ハ、木半夏ノ名ヲ誤リ混ジタルナリ、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 ぐみ もろなり 〈胡頽子〉 ぐみもろなり、漢名胡頽子は、冬も葉凋まず、十二月花を開く、又九月末より十月に至りて開くもあり種類多き故遲速あり、花の形状は筒子のごとくにして、四瓣白色、下に向ひて開く、早くひらきたるは敢て實の形を成すあり、其熟するは苗代の比なり、夫木集に、小山田のなはしろぐみの春すぎてと詠じたるにはhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d6ea.gif 字を用ひ、本草和名には櫻桃、一名朱櫻、胡頽子と見ゆ、佐藤成裕曰、古の櫻桃はゆすらにあらず、櫻桃の一名に含桃の名あり、この含桃は胡頽子なり、鶯所含食といへるはぐみにあらざれば、含食とはいひ難し、櫻桃は大にして含食すべからず、本草和名に櫻桃一名胡頽子となす、故あれども未だ證とすべき書を得ず、尤胡頽子釋名に、陶弘景の注に、山茱萸及櫻桃皆言胡頽子、凌冬不凋と見ゆれども、證となし難し、また救荒本草所載の野櫻桃はぐみなりと蘭山の説なり、尤この野櫻桃は夏ぐみにて、胡頽子集解にいふ木半夏なりといへり、それは葉細く薄くして、季秋には落ず、ぐみの種類本草綱目啓蒙に詳なればこヽに載せず、又山茱萸本草和名和名本草にいたちはじかみ、一名かりはのみとみえたれども、今和漢通名にして、山茱萸といへり、此花早春より開きて、梅と共に稱すれば、是又櫻桃に列すべし、又其實を形様するに、胡頽子は山茱萸に似たりといひ、山茱萸は胡頽子に似たりといへり、又古より茱萸をぐみといひて、九月九日用ゆるも、茱萸袋といへり、この木、享保年中に漢種渡り、今世に多く栽ゆといへるは、漢種なれども、元より皇國自生もありし故なり、

〔佐渡志〕

〈五物産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 胡頽子 方言グミ 品類甚多シ、ナワシログミアリ、サワグミアリ、カハラグミアリ、秋グミハ食用ニサワリナシ、

苗代グミ

〔夫木和歌抄〕

〈二十九https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d6ea.gif

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 民部卿爲家 をやまだのなはしろぐみ(○○○○○○)の春すぎてわが身の色にいでにける哉

〔大和本草〕

〈十一藥木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 山茱萸 京都ノ方言ナハシログミト云グミアリ、苗代スル時實熟ス、中華人云、是即山茱萸也、土地有肥痩、故日本所有少肉云、葉厚ク堅シ、冬不凋、枝ツヨシ、本草頌曰、山茱萸葉如梅ト云ニ不同イブカシ、實ハ山茱萸ニ似タリ、是誠ニ山茱萸ナリヤ未詳、

牛グミ

〔本草一家言〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 牛具味二種 江州所産者、即佐渡州所謂蒲澄是也、樹小葉如繡毬(アジサイ)、而薄有文脉、張傘綴子、霜後變紅、小兒食之、味酸甜、又一種牛具味、木質虚軟、似宇津木、而皮厚有毛葉、大狹圓長有毛、七八月間結實、赤色、

馬グミ

〔本草一家言〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 馬具味二種 一種京東一乘寺村宮山有大樹、一株葉厚而圓、似白楊葉、結實狹長、如棗、至秋通紅有白斑點、味酸甜、土人食之、名曰馬具味、然與胡頽子木半夏殊不相類、唯以形味相似而名爾、又江州矢州村所産馬具味、樹稍大、葉全似榎葉、有疎鋸齒、結實大、如胡椒、粒疎貼枝頭

タンガラ

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十四喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 橉木 詳ナラズ 舶來ノタンガラ(○○○○)ニ充ル、古説穩ナラズ、タンガラハ唐山ヨリ紅樹皮ト名ケ來ル、和ニテタンガラト云、皮ノ厚サ三分許、或ハ四五分、紫赤色、外皮ハ黒色ナレドモ、多ハケヅリ來ル、染用トス、奧州南部ハ褐色及ビ魚網ヲ染ルタンガラト呼ブ木ノ皮アリ、木ヲ仙臺ニテタンガラシバ(○○○○○○)ト云、是ト同カラズ、

百日紅

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 百日紅 紫微花トモ云、モロコシノ禁中ニ多ク此花ヲウフルヨシ、三才圖繪ニ見エタリ、此木皮ナシ、故ニ和名サルスベリ(○○○○○)ト云、六月ヨリ花開ルコト百日バカリ、其樹ノ本ヲ久シクカケバ、枝皆ウゴク、故ニ本草ニ異名ヲ怕痒樹ト云、蛾(コガネムシ)其ツボミヲクラヘバ花サカズ、又白花アリ、稀也、凡花ノ久シク開ルコト、百日紅ヲ第一トスベシ、次ニ山茶花(ツバキ)、海紅(サヾンクハ)、木瓜(ボケ)、躑躅、杜鵑花ナルベシ、草花ニハ菊、水仙、雞冠花、虎耳(キジン)艸、石竹、檀特花ナルベシ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 百日紅(ひやくじつかう) 怕痒樹 紫微花 按、樹似柘榴木而無皮、葉似夏黄櫨(ナツハゼ)而冬凋落、七月初至九月花、淺紫紅色映山谷、故名百日紅、隨結子攅簇、不熟而凋、挿其枝能活、 猿滑 猴剌脱 俗云左留須倍利 按、樹葉同百日紅、而葉略厚、四時不凋、未花實、其樹無皮、甚滑而猴猿亦不登、故呼名猴滑與、百日紅、一類二種也、〈百日紅冬葉凋有花、猿滑四時不凋無花、〉二本同稠堅、酒家用爲搾(シメ)木

〔夫木和歌抄〕

〈二十九猿滑〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 猿滑 民部卿爲家 足引の山のかけぢのさるなめり(○○○○○)すべらかにてもよをわたらばや

〔北邊隨筆〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 猿滑 いま世に猿すべりといふ木は、百日紅といふ、これをば猿なめりとぞいひけらし、夫木集に、猿滑、〈◯歌略〉とみゆ、しかれども、此末句、すべらかにてもとあるは、さるすべりすべらかとつヾくべき語勢とおぼゆれば、滑といふ字は、もと義をもてかきたりしを、萬葉集に、常滑(トコナメ)などかけるたぐひに見て、後人さかしらに、なめりと書きあやまれるにやとおぼし、

石榴

〔本草和名〕

〈十七菓〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 安石榴(○○○)〈楊玄操音留〉花名延年花、〈花可愛、人多植之、出崔禹〉一名塗林、一名若榴、〈已上二名出兼名苑〉和名佐久呂(○○○)、

〔倭名類聚抄〕

〈十七菓〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 石榴 兼名苑云、若榴一名安若榴(○○○)、〈音留、和名佐久呂(○○○)、今按若正作楉、見四聲字苑、〉石榴也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈九果蓏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 按説文無楉榴字、故南都賦借若留字之、楉榴字始見廣雅、云楉榴柰也、然南都賦注引廣雅曰、石留若榴也、李善所見廣雅猶不楉、今本廣雅從木者、蓋後人改寫從俗也、源君據四聲字苑、以楉爲正字、非是、〈◯中略〉所引蓋兼名苑注文、廣本若榴下有一名安若榴五字、按本草和名云、安石榴一名塗林、一名若榴、已上二名出兼名苑、不安若榴之名、齊民要術、安石榴引陸機鄴中記、若榴引抱朴子、石榴引廬山記京口記之、亦無安若榴之名、恐是安石榴之訛、初學記引埤 蒼云、石榴柰屬也、藝文類聚引陸機與弟雲云、張騫爲漢使外國十八年、得塗林安石榴也、太平御覽引廣志云、安石榴有甜酸二種、本草圖經云、安石榴、木下甚高大、枝柯附幹、自地便生作叢、種極易息、折其條土中便生、花有黄赤二色、實亦有甘酢二種、本草衍義云、旋開單葉花、旋結實、實中子紅、孫枝甚多、秋後經雨自坼裂、李時珍曰、榴五月開花、有紅黄白三色、單葉者結實、千葉者不實、或結亦無子也、案事類合璧云、榴大如盃赤色、有黒斑點皮、中如蜂窠、有黄膜之、子形如人齒、淡紅色、

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 石榴(ザクロ) 花ヒトヱアリ、千葉アリ、銀榴(アマザクロ)アリ、千葉ハ實ナシ、根ヨリ叢生スルヲ分ツ、興化府志曰、銀榴(アマザクロ)結實甘美、又曰百葉榴(センヤツノザクロ)有花無實、酉陽雜俎曰、石榴甜者、謂之天漿、石榴ノ直枝ノ大サ指ノ如ナルヲ長一尺ニ切、下ヲ二寸火ニテヤキ、穴ヲウガチテ挾土、枝ノサキヲ一寸出シ、水ヲシバシバソヽゲバ生ヤスシ、朝鮮石榴(○○○○)、ツ子ノ石榴ノ葉花實ノ如クニシテ小ナリ、夏ヨリ花サキ冬マデ逐月花サキミノル、

〔和漢三才圖會〕

〈八十七山果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 石榴 安石榴 丹若 金罌 〈本出於西域、漢張騫使西域、得安石國榴之種以歸、故名安石榴、◯中略〉 按、石榴樹初叢出、既長則有大木周二尺餘者、凡花色鮮紅者、莫楉榴、鮮紫者無燕子花矣、河州河内郡往生院之石榴、大者周過於尺味最佳、凡柘榴花紅者多、黄白二種希有之、千葉也、黄者亦非正黄、但淡赤帶黄也耳、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十一山果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 安石榴 イロタマ(○○○○)〈古名〉 ザクロ(○○○) ジヤクロ(○○○○) 一名阿措〈酉陽雜俎後集〉 石阿措〈事物異名〉 安榴 寶珠〈共ニ同上〉 塗林〈書蕉〉 百子甕〈清異録〉 金https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019137.gif 〈群芳譜〉 紫房艮研〈名物法言〉 珠實〈行厨集〉 朱實紅膚〈事物紺珠〉 玳瑁殼 紅瓠囊 綃囊 蚌珠 銀礫 玉房 村客柴 嬰粟〈共同上〉 石醋〈花暦百詠〉 花一名榴花〈秘傳花鏡〉 火珠〈尺https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f00006520ec.gif 雙魚〉 剪紅綃〈名物法言〉 紅巾〈事物紺珠〉 紅裙 丹葩〈共同上〉 樹ハ高サ丈餘、枝四方ニ廣ク繁リ、木ニ節多シテ、古木ハ異形ニナリテ百日紅ノ如シ、春新葉ヲ生ズ、形細長クシテ兩對ス、梅雨中花ヲ開ク、單葉重葉千葉アリ、單葉ナル者ハ實ヲ結ブ、ミザクロ(○○○○)ト 呼ブ、山東通志ニ果石榴ト云、千葉ナル者ハ實ヲ結バズ、ハナザクロ(○○○○○)ト呼ブ、山東通志ニ花石榴ト云、其花深紅色ナル者ハ常品ナリ、又白色淡紅色黄赤色アリ、唐山ニハ紫花モアリト云、花後實ヲ結ブ、秋ニ至リ熟シ自ラ裂ク、内ニ子アリ、紅色ナル者ハ常品ナリ、色白キ者ヲシロザクロ(○○○○○)ト云、宗奭ノ説ノ水晶石榴ナリ、味甘シテ上品ナリ、一名水精粒、〈事物紺珠〉玉榴、〈泉州府志〉又紅子ノ者ニモ、甘酸ノ二種アリ、甘キ者ハhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 小シ、甘石榴(○○○)ト云、一名天漿、〈集解〉酸キ者ハhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 大ナリ、酸石榴(○○○)ト云、一名柴榴、〈泉州府志〉藥ニハ多ク酸石榴皮ヲ用ユ、一種チヤウセンザクロ(○○○○○○○○)アリ、一名ナンキンザクロ(○○○○○○○)、木ノ高サ尺ニ盈タズシテ花實アリ、肥地ニ栽ユレバ丈許ニ至ル、花色殊ニ赤キ故、火石榴(○○○)ト云、海石榴(○○○)モ同物ナリ、コヽニ分テ二ツトスルハ非ナリ、凡ソ榴ハ不時花(カヘリバナ)アリ、火石榴ハ殊ニ多シテ實モ常ニアリ、花實共ニ小シ、單葉千葉共ニアリ、

〔草木六部耕種法〕

〈十九需實〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 石榴(ジヤクロ)ハ栽テ實ヲ採ベキノミナラズ、其若葉ニテ飼タル蠶兒ハ琴三弦ノ糸ヲ製スベシ、其事ハ上需葉編條下ニ説ルガ如シ、石榴ハ種子ヲ蒔ニモ及バズ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651547.gif 木一法ニテ能ク繁榮シ、實モ亦數多結者ナリ、此ヲhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651547.gif 木スル法ハ、春分頃に拇指ノ太ナル枝ヲ、利刀ニテ長サ一尺三四寸ニ切リ、切口ヲ炭火ニテ燒キ、此ヲ肥地ニ插テ頻々水ヲ澆グトキハ、四月ニ至テ自然ニ根ヲ生ジ葉モ繁ル、此物ハ氣候第十番ノ産物ナルガ故ニ、寒地ハ秋末ヨリ藁筵ニテ包ミ霜防シ、春分後ニ取リ除クベシ、寒中ニハ根ヲ去ルコト一尺三四寸ニ、溝ヲ掘リ巡ハシ、濃糞ヲ饒ニ入レ、土ヲ覆ヒ置ベシ、能ク繁テ多子ヲ結ブコト速ナリ、甚ダ繁リタル枝葉ヲバ切リ去ルヲ良トス、若植テ四五年モ實ザルトキハ、其ノ根ニ石ト枯骨ヲ取集メ、枝ニモ此レヲ取掛ルトキハ、必實ヲ結者ナリ、石榴ハ石ニ縁アルコト謂ナキニ非ザレドモ、枯骨ニ縁アルコトハhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000016b43.gif シ、然レドモ此ヲ作ルニ、古來石ト犬馬等ノ枯骨ヲ用ルヲ法トスルナリ、石榴ヲhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651547.gif 木スル古法、正月二月其枝笛竹太ナルヲ、長一尺四五寸ヅヽニ十本切リ、各皆其切口ヲ炭火ニテ燒キ、先ヅ肥地ニ穴ヲ穿ルコト濶 サ一尺二寸、深一尺五寸、右十本枝ヲ穴周圍ニ並樹テ、中ニ牛馬ノ枯骨ニ小石ヲ混タルヲ入ルコト一二寸、其上ニ肥土ヲ入ルコト一二寸、又其上ニ骨ト小石一二寸、肥土一二寸、漸々右ノ如ク衝固入レテ、平地ト同坥ニシ、石榴枝杪ノ僅ニ出ルコト一寸餘、頻ニ水ヲ灌テ常ニ潤シ置トキハ、皆活著テ枝杪成長ス、其ノ長ズルニ從ヒ、根ノ圍ニ骨ト石ヲ取掛テ、其ノ能ク繁榮シタル後ニ分テ移栽ベシ、又其儘ニ成長セシメタルモ、蓊蔚テ美ナル者ナリト云フ、

〔地錦抄附録〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 享保年中來品 南京柘榴(ナンキンザクロ)〈享保九年に來る〉 大和本草に朝鮮ざくろとあり、夏より冬まで月を追て花さくといへり、西國方には前々より有し由也、武江へは享保九年の比初て來る、小木にて花多く咲實のる、ながめよし、

五加

〔本草和名〕

〈十二木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 五茄(○○)〈陶景法云、或作家字、〉一名犲漆、一名犲節、〈已上本條〉一名五葭〈出釋藥性〉一名杜節、一名節花、〈已上出兼名苑〉一名金鹽母、一名豉母、一名牙古、一名金玉之香草五車星之精、〈已上出太清經〉一名五行之精、一名五葉、一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000137.gif 瓜、一名五家、〈五葉同本而外五分、故名五家、如五家爲隣比也、已上出神仙服餌方、〉五茄者草精也、〈出范注方〉和名牟古岐(○○○)、

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 五茄 神仙服餌方云、五茄〈和名無古木〉或茄作家、言同本而五家、如五家爲相鄰也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 本草和名五茄條引云、一名五家、五葉同本而外五分、故名五家、如五家爲隣比也、則知此同本上脱五葉二字、而下脱外五分故名五字、蓋傳寫誤脱、非源君之舊也、按五茄本作五家、通借五加、後从艸、與https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 莖之茄混、

〔書言字考節用集〕

〈六生植〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 五加木(ウコギ)

〔本草綱目譯義〕

〈三十六灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 五加 ウコギ 冬葉ナシ、古クナレバ木大クナル、市中ニアルハ葉小シ、春新葉ヲ采リテ食ス、苦ミナク甘ミアリ、コレハ姫ウコギ(○○○○)ト云、五葉ツキ黒ミアリ、四五枝一處ニ叢生ス、其間ニ花ツク、人參ノ如ク一處ニ アツマリツク、後ニハ枝延ビレバ葉互生ニナルナリ、モチウコギ(○○○○○)ト云大也、刺多ク葉モ大ニシテ三寸ホドアリ、五寸一尺ニナルモアリ、鬼ウコギ(○○○○)ト云、食用ニハ下品也、苦味アリ、山ウコギ(○○○○)トモ云、花實ハ同ジコト也、藥ニハ此皮ヲ采リ用ユ、藥店ニアルハ和生計也、舶來ナシ、京ヘハ北山ヨリ出ス、前方出ヌモノハ立惡シヽ、今出スモノハモノハヨシ、鬼ウコギト見ヘタリ、全體ハ根皮ヲ用ル也、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 五加〈◯中略〉 和名無古木 今云宇古木〈◯中略〉 按五加插枝能活、其根爲藥者、阿波丹波之産良、金剛山之者次之、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 五加 ムコギ〈和名鈔〉 ウコギ〈ウコハ五加ノ唐音ト大和本草ニ云ヘリ〉 一名金玉香草〈群芳譜〉 八角茶〈藥性纂要〉 十大功勞〈狗骨ト同名〉 老鼠刺〈共同上〉 五茄〈抱朴子〉 紫棘芽〈茹草編〉 根皮一名追風〈群芳譜〉 犲節使〈同上〉 羽化魁〈藥譜〉 五葉木皮〈江都新志〉 白刺顚〈汝南圃史〉 金鹽母〈發明〉 人家ニ栽テ籬トスル者多シ、葉ハ五葉一蒂ニシテ鋸齒アリ、形人參ノ葉ニ似テ、深緑色、春嫰葉簇リ生ズ、採テ食トス、ヒメウコギト云、越前ニテハウノメト云、山中自生ノ者ハ、樹大ニシテ葉モ大ナリ、オニウコギト云、石州ニテヤマウコギト云味劣レリ、皆夏月花ヲ簇生ス、小ニシテ白色、實モ亦簇リ生ズ、秋後葉枯レ落ツ、根皮ヲ採リ藥用トス、五加皮ト云フ、京師ニテハ北山ヨリ出ス、往年https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木(タラノキ)ノ皮ヲ以僞ル者アリ、白シテ刺アリ、今出ス者ハ外皮ヲ去テ色黄ナリ、オニウコギノ皮ナリト云、然レドモ庭ニ植ル五加根皮ヲ剥ギ見ルニ、形色大ニ異ナリ、故ニ自收ヲ良トス、

〔採藥録〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 五加皮 ウカキノカハ 秋八九月ニ皮ヲ剥テ、長サ五六寸ニ切リ、四五枚ヲ重子、藁ニテ纒ヒ日乾スベシ、藥肆ニ針様ノ五加皮ト云者ハ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木ノ皮ニテ僞ス不辨、

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 桵 爾雅注云、桵〈音蕤、和名太良(○○)、〉小木叢生有刺也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583引棫白桵郭注文、毛詩、芃々棫樸、傳、棫白桵也、樸枹木也、説文又云、棫白桵也、桵或假蕤、薛綜西京賦注云、棫白蕤也、蕤與桵同音、文昌雜録云、關中有白蕤、芃々叢生、民家多采作薪、與他木異、其烟直上如線高五七丈不絶、棫白桵下、郝氏曰、詩毎柞棫並稱、當二物、漢書郊祀志有棫陽宮、而漢又別有五柞宮、柞又無刺、知與棫非一物、又郭云、小木叢生、則非車軸及梳、與陸説又異矣、通志引陸機疏云、三蒼説、棫即柞也、其葉繁茂、其木堅https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001c654.gif 、有刺、今人以爲梳、亦可以爲車軸

〔大和本草〕

〈十二雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 總木(ダラ) 木ニハリ多シ、枝ナシ、其梢ノ上ニ葉生ズ、下ニ生ゼズ、其葉ワカキ時食スベシ、味ヨシ、小木ナリ、高四五尺ニスギズ、本草ニノセタリ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木〈音怱〉 俗云太良乃木 倭名抄以桵訓太良者非也、桵則https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000138.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif于前、 本綱、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木高丈餘、直上無枝、莖上有刺、樹頂生葉、謂之鵲不https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 踏、以其多刺而無https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 枝故也、山人折取頭茹食謂之吻頭、 按、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 山谷有之、頂上生葉、秋凋春生、取嫰葉煠食、有獨活之香氣、葉間開小白花、成叢隨結子、小而黒色如椒目、其木枝皆有刺、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木〈證類本草ニhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 根ニ作ル〉 タラノキ(○○○○) タロウノキ(○○○○○) ダラ(○○)〈防州〉 タロノキ(○○○○) オニグイ(○○○○)〈豫州〉 オニノカナボウ(○○○○○○○)〈勢州〉 タロノイゲ(○○○○○)〈和州〉 タロウウド(○○○○○)〈江州〉 トリトマラズ(○○○○○○) オホトリトマラズ(○○○○○○○○) サルウド(○○○○) 一名鳥不宿〈遵生八牋〉 百鳥不泊〈保命歌括〉 赤頭芎 夫人柴〈共同上〉 鵲不登樹〈救荒野譜〉 鳥不立根〈外科百效全書〉 山野ニ多シ、一幹直立シテ枝條ナシ、大ナル者ハ丈餘、小ナル者ハ齊シカラズ、幹ニ刺多シ、故ニトリトマラズト云、春月幹上ニ嫰芽ヲ出ス、形欵冬(フキノタウ)花ノ如シ、煠熟シ味噌ニ和シテ食フ、味土當(ウド)歸芽ニ似タリ、故ニコレヲウドメ(○○○)トモ、ウドモドキ(○○○○○)トモ云、藏器ノ説ノ吻頭是ナリ又ツノヲトシ(○○○○○)、〈濃州〉 子ンブツサウ(○○○○○○)、〈同上〉トモ云、鹿角ヲ解スル時節ニ此芽出ル故ナリ、又鹿コノ芽ヲ食フテ角ヲ解ストモ云、葉展ルトキハ幹頭ニ數條布テ傘ノ如シ、葉ハ枝ヲ分チ、小葉多ク排生シテ棟葉(センダンノ)ニ似テ、大ニシテ刺多シ、夏月葉間ニ花ヲ開キ下垂ス、其穗枝多ク、小白花數ナシ、後小圓實ヲ結ブ、熟シテ黒色、土當歸ノ實ニ似タリ、一種木ニ刺アリ、葉大ニシテ刺ナク、背ニ毛アル者アリ、メダラ〈播州〉ト呼ブ、又一種枝條ヲ生ズル者アリ、メダラノ一種ナリ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001d704.gif 木中ニ心アリ、棣棠ノ心ニ似テ大ナリ、他木ノ心ヨリ大ナル故ニ酒中花ヲ製ス、 増、一種クマタラ(○○○○)、一名ハリブキト云者アリ、其葉甚ダ大ニシテ一尺許ニ及ブ、加州白山ニ産ス、

八手木

〔大和本草〕

〈十二雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 八手木(ヤツテノキ) 西州ニ多シ、葉ノ形蓖麻ノ如ク、又カヘデノ葉ノゴトクニシテ、甚大ナルコト盤ノ如ク葉アツシ、トチノ木ノ葉ニモ似タリ、冬不凋落、葉ノ本一ニシテ岐多ク、七八ニワカル、白花ヲ開キ、黒キ實ナル、毒アリト云、鰹ノサシミヲ八手ノ葉ニモリテ食スレバ死スト俗ニイヘリ、其木ノ高五六尺ニ不過、庭ニ栽ル人多シ、然レドモ佳木ニアラズ、筑紫ニハ山林ニモアリ、古來日本ニアル木ナルベシ、京畿ニテ未之、八手ヲ肝木ト云人アリ非ナリ、肝木ハ別也、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 八手木(やつでのき) 〈正字未詳、也豆天乃木、〉按八手木叢生一朶八葉、形略如軍配團扇、五六月開小白花、作簇上平而亦異常、

ハリギリ

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十四喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 海桐 詳ナラズ 一名掩木皮〈村家方〉 海東皮〈同上〉 増一名瑞桐〈閩書南産志〉 海桐皮古渡アリ、今ハ渡ラズ、故ニハリギリノ皮ヲ賣ハ僞物ナリ、ハリギリ(○○○○)ノ葉ハ至テ大ナリ、海桐ハ葉如掌ト云時ハ相符セズ、ハリギリハ救荒本草ノ刺楸ナリ、一名イヌダラ(○○○○)、〈和州〉ボウダラ(○○○○)、〈紀州〉オホダラ(○○○○)、〈藝州〉タラ(○○)、〈備後〉ミヤコダラ(○○○○○)、〈土州〉カツタイギリ(○○○○○○)〈勢州〉シヽダラ(○○○○)〈豫州〉モミヂ(○○○)、〈泉州〉カウハチ(○○○○)、〈城州大悲同〉コハチ(○○○)、〈同上〉セノキ(○○○)、〈奥州〉センノキ(○○○○)、〈同上〉アクダラ(○○○○)、〈常州〉新校正ニホウト訓ズルハ、ホウダ ラノ誤リナルベシ、コノ木江州丹州阿州等甚多シ、樹ハ白桐ノ如ニシテ大ナリ、木ニ刺多シ、大木ニナレバ肌瘤贅ノ如シ、枝ハ細刺多シ、葉ハ七尖、或ハ九尖ニシテ鋸齒アリ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001b3fe.gif 麻(トウゴマ)葉ノ如ニシテ厚シ、大サ一尺許、霜後葉枯ル、コノ木奧州ニテハ、水ニ入ルコト久シケレバ、化シテ石トナル、セノ木ノ化石ト云フ、

山茱萸

〔本草和名〕

〈十三木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 山茱萸、一名蜀棗、一名鷄足、一名思益、一名魃實〈楊玄操音㠯支反、又奇寄反、〉一名鼠矢〈出釋藥性〉和名以多知波之加美(○○○○○○○)一名加利波乃美(○○○○○)

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 山茱萸 通名 一石名棗〈萬病回春〉 湯主〈輟耕録〉 實棗兒樹〈救荒本草〉 古ヨリグミト訓ズルハ非ナリ、享保年中ニ漢種渡リ、今世ニ多ク栽ユ、木ハ高大ナリ、葉ハ土牛膝(イノコヅチノ)葉ニ似テ、毛ナク兩對ス、冬ハ葉ナシ、春未ダ葉ノ出ザル時、枝ノ節ゴトニ、小花數多ク簇リ開ク、四出黄色、大サ三分許リ、瓶花ニ用ユ、後實ヲ結ブ、形桃葉珊瑚(アヲキノ)實ノ如シ、初緑色秋後熟シテ、赤色、南京種ハ葉形細狹實ニ肉少シ、韓種ハ葉濶圓實ニ肉多シ、和産モ稀ニアリ、葉ハ南京種ヨリ狹ク尖レリ、實、最小ク形上大ニ下小ナリ、 増、夢溪筆談云、山茱萸、功在https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 、其味酸澀、正是其有功處、去https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a0e.gif 則無功、不物性也、 コヽニ土牛膝葉ニ似タリト云ハ誤ナリ、クルマミヅキ、一名カサミヅキノ葉ニ能ク似タリ、此實蒔テ三年ヲ經ザレバ生ゼズ、

〔採藥録〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 山茱萸 種樹家ニ山茱萸ト稱ス、黄花ノ者眞ニ非ズ、漢渡ノ者別ニ一種ノ者、本邦ニ無、

青木

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 青木(あをき) 〈正字未詳俗云阿乎木波〉 按、其樹叢生、高五七尺、葉似檞葉而厚潤、有大鋸齒、莖太而不勁、四時不凋、俗呼曰青木葉、植庭院之但有凋葉、相襍則正黒、如燒焦、四月有小花、紫https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001735f.gif 色、形色不玩、結子如小棗、秋月赤熟、瘍醫採莖葉、 膏藥用、又以葉〈陰乾〉和油傳小兒頭面草瘡、 一種有葉無鋸齒及皺文

ミヅキ

〔和漢三才圖會〕

〈八十三喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 美豆木(みづき) 正字未詳、或用椹字、亦俗也、 按、美豆木高者二三丈、葉似梅嫌(モトキ)木葉、而微厚、冬凋、花似藤花而黄色、 一種出於土佐山中、高一二丈、葉似粉團花葉而小、正月開黄花、攅簇下垂、結子赤色、呼名土佐美豆木

大空

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 大空 〈獨空〉 本綱大空生山谷中、小樹其葉似桐葉而不尖、深緑而皺文、其根皮赤色虚軟、山中采作末、〈苦有小毒〉和油塗髮殺蟣虱極妙、又搗葉篩疏圃中虫、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 大空 詳ナラズ 一名苦虱〈圖〉 増、古説ニウリノ木(○○○○)ニ充ツ、一名オニウリ、〈阿州祖谷〉ヤマギリ、ウリギ、〈共同上一宇〉深山ニ自生ス、枝葉繁茂シテ高サ丈許ニ及ブ、春新葉ヲ生ズ、葉ハ六七寸許ニシテ、桐ノ葉ニ似テ五尖アリ、又木芙蓉(フヤウ)ノ葉ニ似テ黒ミアリ、四五月葉間ニ花ヲ生ズ、蕾ノ長サ一寸許、幅一分許ニシテ俯テ生ズ、開ケバ五瓣ノ白花ナリ、コノ花ヲ切レバ瓜ノ香アリ、故ニ名ク、

石南

〔新撰字鏡〕

〈木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 石南草〈志麻木(○○○)、又云止比良乃木(○○○○○)、〉

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 石楠草 本草云、石楠草、〈楠音南、和名止比良乃木、俗云佐久奈無佐(○○○○○)、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 千金翼方證類本草下品作石楠、本草和名作石南草、〈◯中略〉佐久奈无佐、見拾遺集物名歌、本草作石南、可石楠之俗字、南字从木、遂與楩楠字混、

〔伊呂波字類抄〕

〈止殖物附殖物具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 石楠草(トミラノキ)〈トヒラノキイサクナムサウ〉

〔下學集〕

〈下草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 石南華(シヤクナンゲ)〈唐人詩云、不青嶂收來雨、清曉石南花亂流、〉

〔東雅〕

〈十六樹竹〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 石楠草トビラノキ 倭名抄に本草を引て、石楠草トビラノキ、俗にサクナムサといふと見えたり、トビラの義不詳、サクナムサは其字の音を呼ぶ也、〈藻鹽草には、石南草としるして、トベラノキと註せり、トビラといひ、〉 〈トベラといふは、其語轉ぜしなるべし、或人の説に、トビラノキといふは、俗相傳ふ、除日に民家の扉に此木の枝をさせば疫鬼を除ふといふ、さればトビラノ木といふ也、トビラノキといふは、古く聞えし名なれば、古には夫等の俗もやありけむと、今の如きは、除夜にヒヽラ木又はシキミの葉などを門戸に插む事はあれど、此物を用ゆる事は聞えず、今俗にトベラノキといふもの、本草衍義石楠の註には相合へり、即今東國山谷之間に生じて、其葉トベラといふものヽ如くにて長大なる、其花色白きものあり、紅なるものあり、一苞數花を開く、甚愛しつべし、其名をシヤクナギといふなり、或人それを石楠花なりといふなり、此物俗にトベラノキといふものには特に異なり、此もの倭名抄にいふ所なり、また倭名抄にいふ所の物、今いふトベノキならむには此もの古にはいかにやいふらむ、本草圖經に、石南南北の地方によりて、其産する所同じからずと見え、また酉陽雜俎には、衡山有三色石楠など見えたれば、かしこにしても其いふところ同じからぬありとは見えたり、〉

〔本草綱目譯義〕

〈三十六灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 石南 シヤクナゲ〈◯中略〉 此葉ハ冬カレズ、花白新葉出揃ヒテ、古キ葉イツノ間ニカ落テ代ル也、和州大峯山別シテ多シ、參詣ノ人此ヲトリ來ル、ナギノ葉ト云、藥ニハ此葉ヲ使フ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 石南 風藥 和名止比良乃木、俗云佐久奈無佐、 今云止比良乃木者非是、 出于香木下、〈◯中略〉 按、石南(シヤクナ)花、和州葛城、紀州高野、及深山谷山有之、京師近處亦稀有之、東北州絶無之、性惡寒濕也、三四月開花淡紅色、秋結細子、紅色春舊葉未落、新葉生交代也、竊考此非眞石南花、蘇恭所謂欒荊也乎、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 石南 シヤクナン(○○○○○) シヤクナゲ(○○○○○) シヤクナンゾウ(○○○○○○○)〈肥前、古書ニシヤクナン草ノ名アリ、〉 ヒヤクナン(○○○○○)〈豫州〉 モウノハナ(○○○○○)〈伊州〉 卯月バナ(○○○○)〈勢州〉 一名冷翠金剛〈輟耕録〉 深山幽谷ニ生ズ、高サ六七尺叢生ス、葉ハ石韋葉ニ似テ厚ク、末廣ク本狹ク、面深緑色、背ニ褐毛アリ、冬ヲ經テ枯レズ、枝梢ゴトニ簇リテ互生ス、四月其上ニ花アリ、形躑躅花ニ似テ大ナリ、五瓣ヨリ七八瓣ニ至リ、齋シカラズ、淡紫色凡ソ數十花簇リ開ク、遠望スレバ淡紫色、牡丹花ノ如シ、故ニ衡嶽志ニ、石柟花有紫碧白三色、花大如牡丹ト云ヘリ、又白花ナル者アリ、白花紅斑ナル者アリ、一種メシヤクナギ(○○○○○○)アリ、葉花共ニ小ナリ、又ヒメシヤクナギ(○○○○○○○)アリ、葉至テ小ク花ハヤシ、ホツヽジノ 花ニ似タリ、石南ノ類ニ非ズ、別物ナリ、

〔草木六部耕種法〕

〈十一需花〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 石楠花(シヤクナンゲ)ハ高山ニ繁生スルモノナルヲ以テ、此ヲ植ルニモ其心得ヲ爲スベシ、故ニ糞小便等ノ不淨ナル肥養ヲ用ルハ皆宜カラズ、植地ハ山土野土ノ宜キハ論ズルニモ及バズ、若シ眞土赤土等ニ植ルニハ、白沙ヲ等分ニ耕交(キリマゼ)ヘ、少シク胡麻油糟、鷄糞ヲ肥養ニシテ植ベシ、日光ノ黒髮山ハ、中禪寺ノ華表ヨリ上方絶頂ニ至ルマデ、石楠花極テ多ク、年々四五月花盛ノ頃ハ上リ三里ノ間滿山皆花ニテ、其美麗ナルコト吉野ノ櫻ト伯仲スベシ、富士山及ビ奧州會津萬歳山、信濃御嶽、紀州金峯山ニモ石楠花多シ、大峯ノ石楠花ハ其葉細長クシテ、挾(ケウ)竹桃ノ葉ニ似タリ、華ノ形色大抵日光ニ同ジ、此ヲ根分スルモ移植ルモ、三月九月ヲ良トス、又枝梢等ヲ切テ玉刺(タマザシ)ノ法、予〈◯佐藤信淵〉ガ〈接木ノ篇ニ詳ナリ〉術ヲ行フモ能活モノナリ、

〔紀伊續風土記〕

〈物産六上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 石楠(シヤクナゲ)〈本草、和名抄佐久奈無佐、貞享本典藥式サクナムクサ、下學集シヤクナンゲ、本草和名に止比良乃岐と訓ずるは誤なり、和名抄には二物と混ぜり、辨別すべし、〉 高野山及日高牟婁兩郡の山中に産す、殊に大臺山に多し、

〔佐渡志〕

〈五物産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 石南 方言シヤクナケ 深山ニ生ズ、金北山ニ登ル人折來テ證トス、

〔拾遺和歌集〕

〈七物名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 さくなむさ 如覺法師 むらさきの色にはさくなむさ(○○○○○)しのヽ草のゆかりと人もこそしれ

躑躅

〔壒囊抄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 躑躅ヲツヽジトヨム、字體草木ニ縁无ハ如何、 此問實ニ然リ、本名ハ山榴也、其花赤シテ柘榴(セキリウ)ニ似タル也、是ヲ躑躅(ツヽジ)ト云事ハ、古事ニ依テ也、申サバ異名ナルベシ、千金翼方ト云本草ニ云、羊食此花、躑躅(テキチヨウ)シテ而斃、故ニ云爾ト、文選ニハ躑躅(テキチヨク)ト、タヽズムトヨメリ、注ニハ不安ノ貌ト云、立煩惱姿ナルベシ、或ハフシマロブトヨム、同心也、羊此ノ山榴ノ花ヲ食テ、立煩ヒテ斃死ケルヨ リ、ツヽジノ名トハスル也、或説云、羊ノ性ハ至孝ナレバ、見此花赤莟、母ノ乳ト思テ、躑躅シテ折膝ヲ之、故ニ云爾共、此義難信用、又本草文ニ違ヘリ、但事廣ケレバ何ナル文ノ説ニカ、陁羅尼集經云、迦羅毘羅樹(キヤラヒラジユ)、唐ニハ云躑躅(テキチヨク)ト云云、花赤キ故ニ映山徑共云也、但順和名ニハ、山榴ヲバアイツヽジト點セリ、和名云羊躑躅、〈イワツヽシ、一云、モチツヽシ、〉茵芊(インセン)〈マツヽシ、一云ヲカツヽジ、〉山榴(アイツヽシ)〈予以山石榴也、花羊躑躅相似云々、〉

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 躑躅(ツヽジ) 大小霧島、其外種類、近年甚多シ、カゾヘツクスベカラズ、各其名アリ、三月花ヲ開ク、山州https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/0000000196b0.gif 州河州ニ多シ、山ニモ紫ツヽジ、ヨド川ツヽジ、紅ツヽジアリ、本草毒草羊躑躅ノ附録ニ、山躑躅ヲノセタリ、凡躑躅杜鵑花ハ非草、小樹也、故今改爲木類、ツヽジハ新ニウフルニハ根ヲヨク洗ヒ、舊土ヲ去、細黄土ニウヘ、日ヲ掩ヒシバ〳〵水ヲソヽグベシ、根下ヲ堅クツクベカラズ、六月ニ新枝ヲ挾ムベシ、舊枝ニツラ子切テ、好土ニ挾シ、日ヲオホヒ、シバ〳〵水ヲカクベシ、細黄土ヨシ、凡躑躅杜鵑花、共ニ糞溺ヲイム、米泔魚汁ヲ時々ソヽグベシ、葉ニ水ヲソヽグベカラズ、根ニソヽグベシ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 華ツヽジ、花三月サク、花落テ葉生ズ、花黄ニシテ如萱艸色、花ハ重葉也、葉ツ子ノツヽジニ異リ、葉ノ頭圓ク柔ナリ、羊躑躅ハ、モチツヽジト云、黄花三四月ヒラク、高二三尺バカリ、葉ハ桃ニ似タリ、花大毒アリ、アサギツヽジ、葉ハ大ギリシマノ如ク、枝ハ蔓ノ如ク長シ、小木ナリ、花ハ綿花ニ似テ小ナリ、色アサギ也、春花サク、木不高、花ヨカラザレドモメヅラシ、大山ノ岩上ナドニアリ、山中ニ紫花ノ春ツヽジ、木ノ高一丈許ナルアリ、ツ子ノツヽジノ花ノ三倍ノ大サアリ、花ウルハシ葉三角ナリ、

〔地錦抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 躑躅のるひ(○○○○○)〈木、春中末、〉 つヽじのるひは、長生花林抄といふ五册の雙紙に、花形を圖にあらはし、くわしくしるし、前にひろむゆへ、爰に略してわづかにその事を記す、 きりしま〈くれない、こきり島と云、〉 とよきり島〈くれないにかり〉 紫きり島〈こいむらさき〉 白きり島〈雪中りん〉 大きり島〈くれない大りん〉 藤きり島〈ふぢ色小りん〉 かわり藤きり〈藤色中りん〉二しゆんきり島〈きりしまのごとくこしみの有〉 櫻きり島〈さくらいろ小りん〉 めきり島〈くれない大りん〉 かこしま〈きりしまのごとし〉 べにきり島〈ほつこりと紅色〉 八重きり島〈赤せんやう小りん〉 中きり島〈くれない中りん〉 くちばきり島〈くちば色中りん〉もヽきり島〈もヽいろ中りん〉 初きり島〈こいむらさき小りん〉 小てうきり島〈赤小りん〉 大きり紫〈こいむらさき大りん〉 銀だい〈赤中りん、こしみのあり、〉 金だい〈赤中りん、こしみのあり、〉 せいさん〈玉子色よりかき色なり、中りん、〉ひとしほ〈櫻色大りん、花形ゆりのごとし、〉 やうきひ〈さくらいろ小りん〉 こけん萬葉〈あか八重中りん〉やしほ〈花形白く丸くしてあつまりさく〉 かうばい〈くれない中りん〉 いさはい〈くれない大りん〉 しもふりだん〈もらろふたへ小りん〉小ざくら〈あかし小りん〉 しやくま〈赤小りん八重〉 さんわう〈うす紫中りん〉 りうきう〈しろし〉 ざい〈花形きりさげてさいのごとくあかし〉江戸ざい〈是もきれさヾり色あかし〉 たなばた〈八重ひとへあかし〉 紫七夕〈紫大りん八重ひとへ〉 金しで〈しべばかりさきてしでのことじ色〉 ふさ金しで〈色あかしきりさげ〉 もちつヽじ〈うす紫ト白ト二色大りん〉 せいがいは〈あか小りん〉 紫せいがいは〈むらさき小りん〉 玉や紫〈こいむらさき大りん〉 たいたん〈赤大りんふたへ◯下略〉

〔花壇綱目〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0590 躑躅異名(○○○○)の事 せんよ かも紫 花月 まんよ くわ山 おち合 しこん ふさ紅 折入段 やしほ 身を しつめ せんざん 八はし 明ぼの 金しで 朝がほ 三吉野 そし段 西行 はつ雪 御所紫 花車 對馬紫 せいはく ざい紅 駿河万よ〈◯中略〉 右は躑躅の名なり、此外數多有之、あらましばかりしるし置なり、年々の二月中旬より、三月中旬までにしのぶ土を用、取木指木にする也、同じ木のうちにて、色たて咲出し、少づヽのかわり有て、名をあらため付るなり、

〔和漢三才圖會〕

〈九十五毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0590 豆萱躑躅(まめからつゝじ) 俗云末女加良豆豆之 按、豆萁躑躅、深山巖石間有之、三四月開花似美容柳花、而黄色、其葉四時不凋、〈端卷反似豆空莢、故名之、丹波氷上郡之山中有之、〉 黐躑躅(もちつゝじ) 〈俗稱俗云毛知豆豆之〉 按、黐躑躅葉淺緑色有細毛、枝少花繁、三四月開花、淺紅似桃花色、而一枝數蕚、其花及蕚觸手即黏如黐、故名之、花形色不美、今人四月八日灌佛用之、或插竹竿之、未其據、但當此時甚多、故取其簡易耳、 一種有躑躅、名江戸万葉(○○○○)、似黐躑躅、其花千葉而色濃、木黏爲異、 一種有岩躑躅(○○○)、〈伊波豆豆之〉葉花共小、花色深赤、平戸躑躅(ひらとつゝじ) 〈琉球躑躅〉 按、平戸九州之地名、本出於琉球、四月開花、單瓣白、最易繁茂、其大者至一二丈、 一種有朝鮮躅躅、高五六尺、葉似橿葉、三四月開花、大如平戸躑躅花、而淡鼠白色潤澤最爲珍、 永來部躑躅(ゑらぶつゝじ) 永來部、薩摩之南島也、出於彼土、甚暖、故如雖種于畿内、怕寒難茂盛、其花赤大、經五六寸許、甚奇、凡躑躅之種類最多、不(○)下(○)三百種(○○○)、不(○)悉記https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 之、

〔地錦抄附録〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 正保年中以後、渡來草木類、〈◯中略〉 琉球躑躅(リウキウツヽジ)

〔佐渡志〕

〈五物産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 躑躅 和名ツヽシ 山中ニアリ、加茂郡鷲岬村彈野ニハ殊ニ多ク、紅花アリ、白花アリ、黄花モマタ稀ニアリ、〈◯中略〉一種北山ノ南ノ峙ニ奇木アリ、樹葉トモニ躑躅ニシテ桃花ヲ著ク、草木ノ諸書ニ於テ見ルトコロナシ、天ノ物ヲ生ズル其測ルベカラザルコト斯ノ如シ

羊躑躅

〔新撰字鏡〕

〈木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 羊躑躅〈毛知豆々自(○○○○○)〉

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 羊躑躅 陶隱居本草注云、羊躑躅、〈https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/i000000000139.gif 直二字、和名以波豆豆之(○○○○○)、一云毛知豆豆之、〉羊誤食之、躑躅而死、故以 名之、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 證類本草下品引、食之、作食其葉、名之、作爲名、本草和名與此同、唯無食下之字、陶又云、花苗花鹿葱、古今注云、羊躑躅花黄、羊食之則死、羊見則躑躅分散、故名羊躑躅、其説與陶少異、

〔萬葉集〕

〈七雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 羇旅作 山越而(ヤマコエテ)、遠津之濱之(トホツノハマノ)、石管自(イハツヽジ)、迄吾來(ワガキタルマデ)、含而有待(フヽミテアリマテ)、

〔和漢三才圖會〕

〈九十五毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 羊躑躅 黄躑躅 老虎花 黄杜鵑 驚羊花 玉枝 羊不食草 閙羊花〈閙當https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/S01000000021.gif〉 俗云https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 華豆々之 本綱、近道諸山皆有之、小樹高二尺、葉似桃葉、三四月開花、黄色似凌霄花、而五出蕊瓣、皆黄而氣味皆惡、 花〈辛温有大毒〉羊食其葉躑躅而死 按、羊躑躅〈和名以波豆々之、一云毛知豆々之、〉據本草之諸説、則今云https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 華躑躅也、丹波及和州吉野山多有之、其木二三尺、高者五六尺、葉似楊梅葉而薄、有微白毛、三月開花五出、似凌霄花、一莖八九蕚、遠望之如https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif、故名之、又有https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 華者、〈蘇領云、嶺南有深紅色羊躑躅者是矣、〉凡躑躅之品類雖多、黄花者惟https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651145.gif 華躑躅、豆萁躑躅之二種也、而黐躑躅、岩躑躅等、亦一類、而花色不黄、

山榴

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 山榴 兼名苑云、山榴、〈和名阿伊豆豆之(○○○○○)〉即山石榴也、花與羊躑躅相似矣、

〔大和本草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 杜鵑花(サツキツヽジ) 躑躅ト一類別種ナリ、躑躅花落テ後、此花漸開ク、合璧事類ニ杜鵑ナク時始テヒラク、故ニ名ヅクトイヘリ、四五月花開ク、品類尤多シ、瓔珞ツヽジ、山中ニアリ、紫花小ナリ、枝ニ連リサキテ下リ垂ルヽ事、瓔珞ヲ垂ルヽガ如シ、樹ハツ子ノ杜鵑花ヨリ大ナリ、高一二丈ナルモアリ、冬ハ葉ヲツ、四五月ニ花サク、古昔ハ、躑躅杜鵑花ノ類多カラズ、近年其品類甚多ク出、ア ゲテカゾフベカラズ、時好ニヨツテ變化百出スル也、山茶花(ツバキ)、菊牡丹、芍藥、百合ナドモシカリ、凡ツツジモ杜鵑花モ、沙ヲイミ、赤土アヅ土ニ宜シ、糞ヲイム、米泔ヲ時々澆ベシ、園史ニ、樹下陰處ニウフレバ青茂ス、豆餅ヲ水ニヒタシ、クサラカシテ、ソヽグベシトイヘリ、正月枝ヲ赤土ニ埋ミテ取木ニスベシ、花史曰、杜鵑花、春初拔枝著地、用黄泥之、俟根截斷、來年分栽、杜鵑花ヲサス法モ躑躅ニ同、

〔和漢三才圖會〕

〈九十五毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 山躑躅(さつき) 山石榴 杜鵑花 和名阿伊豆々之、今云左豆木、 本綱、山躑躅、處處山谷有之、高者四五尺、低者一二尺、春生苗葉淺緑色、枝少而花繁、一枝數蕚、二月始開花如羊躑躅、而蒂如石榴花、有紅者紫者五出者千葉者、小兒食其花、味酸無毒、 草木畫譜云、杜鵑花喜陰惡肥、天蚤以河水之、樹陰下放置則茂、葉色青翠可觀、有黄白二色、 一種有藤牽牛花、葉似躑躅、而花似山石榴而大、淡紫色、蓋藤者言色、牽牛花言形、 按、山躑躅高者五六尺、其花有白、有赤、有紫、有桃紅、有赤白襍開者、至三百餘種、四月始開、五月爲盛、人呼五月佐豆幾、故名之、凡紀州遠州等山中、躑躅、山鵑花、共大木多、有高一二丈周二尺許者https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/0000000196b0.gif 州須磨一谷二谷至權現山、凡三四里許、遠州秋葉山麓乾川兩邊、亦三四里許、躑躅山鵑花甚多、夏月滿山頗如錦、凡正月折枝插地則活、攝州多田郷圃人常栽之販市、又木株最堅、燒炭以爲圍炭、〈圍者茶湯室名、訛曰加久井、〉

〔地錦抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 さつきのるひ〈木、夏初中、〉 松島〈白地に赤とびいろいろ大りん〉 高ね〈うす色赤とびいり大りん〉 源氏〈うす色大りん花のへり白し〉 吉野川〈白地に赤とびいり大りん〉 まがき〈白に赤とび入ふたへ中りん〉 かうしよく〈とびくれない小りん〉さヾなみ〈白地に赤とび入さらさ大りん〉はかた白〈雪白大りん〉 こふじ〈くれない小りん〉 にしきヾ〈白地に赤とびいり大りん〉ふぢがさね〈こふちの八重也〉ゆきくれない〈こいくれない八重ひとへ大りん〉 小ざらし〈くれない小りん〉しほがま〈白地にとび入さらさかのこあり〉 むさしの〈くれない大りん〉 こきん〈くれないひとへ葉たくさん咲〉 あらし山〈白地にべにのかすりとび入〉二人しづか〈うすむらさき中りん〉おそらく〈さヾなみのごとし〉 したくれない〈くれない大りん〉 きりかね〈さくらいろ中りん〉 たかさご〈うす紫大りん〉 おり入〈くれない大りん〉 かうやくれない〈くれない中りん〉 しんくれない〈くれない大りん〉八でうくれない〈こいくれない大りん〉はつれゆき〈うす色大りん花のへり白し〉さつま紅〈こいくれない大りん〉 大萬葉〈くれない大りんまんやう〉 せんやう〈くれないせんやう中りん〉萬葉〈くれないまんやう大りん〉 こくれない〈くれない小りん〉 そこ白〈赤大りん花のそこしろし〉 はごろも〈赤小りん〉 しよくかう〈白地にべにのかすりいろ〳〵〉ひろ島しぼり〈白に赤とび入大りん〉 名月〈あかし中りん〉 べにしぼり〈うす色に赤とびいり〉ちり〈くれない中りん〉 ゆき平〈白小りん〉 小紫〈むらさき小りん〉 ゆふさう〈むらさき大りん〉こしなみ〈くれない大りんこしみのあり〉なにはしぼり〈白に紫とび入大りん〉 百萬〈あかし大りん〉 おいへ紫〈紫中りん〉 赤り月〈あかし大りん〉 白り月〈白大りん〉 とび入〈白に赤とび入大りん〉 きくきり〈あか中りん〉 あふみ〈白大りん少かすりあり〉 かつらぎ〈白小りん〉 あさぎ〈あをじろし中りん〉 おもだか〈むらさき大りん◯下略〉

映山紅

〔和漢三才圖會〕

〈九十五毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0594 映山紅(きりしま) 紅躑躅 俗云岐利之末(○○○○) 草木畫譜云、映山紅生滿山頂、其年豐稔、人競之、 按、本草綱目、山躑躅〈山石榴杜鵑花〉映山紅〈紅躑躅〉以爲一物、今別爲二種、凡躑躅(○○)葉形類桃及柳葉、映山紅(○○○)葉略帶圓形、杜鵑花(○○○)葉形比映山紅狹長、三種大異也、 映山紅花類杜鵑花而小、深赤色、單葉、三月開花、能映滿山故名之、有大小二種、小映山紅開花最繁、蔽枝條愛、今又有白花者、有單葉八葉千葉之數品、大抵二三尺、高者一二丈以爲珍、薩摩日向山谷多有之、移種于諸國、彼地有霧島嶽、山頂燒起、且此花映山、故名之、 朝鮮載晉山世稿云、〈太明成化年中、當本朝後土御門時、〉得日本躑躅數盆、及其花開、葉單而花瓣甚大、色類石榴、重跗疊蕚久而不衰、其與我國色紫而千葉者姸雖不㆕啻若https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000018d1c.gif 母與西施也、上嘉賞之、命下上林園分植、外人秘莫能得、後一以種盆、一以種地、以試之、種地者凍死、而盆者無恙、數年之間枝條方盛、〈按此杜鵑花或大映山紅之類也〉

〔武江産物志〕

〈遊觀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 躑躅(つヽじ)、石巖(きりしま)、 染井植木屋〈立夏より三日頃〉 大窪邊 日暮里 上野穴稻荷 音羽護國寺 千手院〈千だがや〉

茵芋

〔新撰字鏡〕

〈木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 茵芋岡豆々志(○○○○)、又云伊波豆々自(○○○○○)

〔倭名類聚抄〕

〈二十木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 茵芋 本草云、茵芋、〈因于二音、和名仁豆豆之(○○○○)、一云乎加豆豆之(○○○○○)、〉

〔和漢三才圖會〕

〈九十五毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 茵芋 茵蕷 莞苴 卑共 和名仁豆々之 一云乎加豆々之 本綱、茵芋雍州絳州華州杭州有之、春生苗、高三四尺、莖赤葉似石榴而短厚、又似石南葉、四月開細白花、五月結實、 莖葉〈苦温有毒〉 茵芋莾草皆古人治風藥爲妙品、近世罕知、 按茵芋和名有躑躅之號、〈未詳〉今躑躅類中無實者

〔物類品隲〕

〈三草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 茵芋 和名ミヤマシキミ(○○○○○○)、所在ニアリ、弘景曰、莖葉状似莾草而細軟、頌曰、春生苗、高三四尺、莖赤葉似石榴而短厚、又似石南葉、四月開細白花、五月結實ト云モノ是ナリ、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0595 につヽじ 〈茵芋〉 につヽじ、一名をかつヽじ〈和名抄〉みやましきみ、〈通名〉漢名茵芋も、上に出す山礬馬酔木と同じく、大寒前よりも蕾を生じ、開くは雨水より啓蟄盛をなす、岡村尚謙曰、茵芋爾都都之、〈本草和名〉乎加都々之、〈同上〉俗に美也末之岐美、此小木也、高一二尺、葉似莾草、兩兩相對、冬不凋作穗、開花四瓣白色、後結實、生青熟赤大如南天燭子、即蜀本圖經日華子所註是也、諸國深山幽隱之地有之、其乎加都都之、別是一種、勅號記、茵芋乎加都都之、四月花白、本邦有赤紫白三種、又羊躑躅條云、之呂都都之生深山といへるは、躑躅のつヽじにして、この茵芋とは絶て別なり、茵辛の和名につヽじ、をかつヽじの二説有は、本草和名、和名類聚鈔ともに同して、共に羊躑躅の條下に附して、羊躑躅の和名いはつヽじ、もちつヽじといへば、つヽじの類と思へども、今花信風山礬の類となして、大寒三候より春かけての 花となすは、この茵芋なり、其形状は尚謙の説の如し、又一種緑蕚の種あり、本草綱目啓蒙に見えたり、啓蒙にもれたるは、栗本瑞仙院松問栗答云、みやましきみに似て異なり、箱根山中にあり、此みやましきみの一種、瑞香葉様物なり、葉は枝端にあり、四葉六葉一所に攅生す、これ本性なり、漢名茵芋此もの一種濶大の物あり、葉の蒂紅色美なり、花實なき時はみやましきみなること的識する者なし、葉紋理なく小皺ありて、瑞香葉に似たり、表深緑にして裏淡しと見えて、圓を載たり、其葉瑞香の葉に似て長大なり、實の赤熟したる枝なり、この瑞香葉の種は蘭山いまだ見ざるにや、啓蒙にのせず、また正二月枝頭に花あり、穗をなすこと二寸計、花の大さ三分五瓣白色と見ゆれども、五瓣にはあらず、尚謙の説の如く、四瓣にして花心は緑色なり、此茵芋山礬馬酔木の三種は、共に白小花を開きて、皆穗をなすなり、その開花も同時なれば、こヽに載れども、古の茵芋につつじの名あるは、即赤つヽじにして、今の山躑躅なりや、和名抄に羊躑躅茵芋山榴と次第して、山榴和名阿伊豆々之、山石榴也とあれば、本草綱目山躑躅の一名にして、又紅躑躅とも映山紅ともいへり、これはやまつヽじと呼て、山に自生の種なり、この茵芋につヽじの名あるによりて、寺島良安も、茵芋和名有躑躅之號詳、今躑躅類中無實者、また茵芋莾草皆古人治風藥爲妙品、近世罕知といひて詳ならざりしを、今は庭園に植て花は春早く開き、實は秋より染なし、赤紅にしてめづべきものなり、此茵芋の名は古く、神農本經より見えて、皇國にても本草和名、和名類聚抄にも見えて、につヽじをかつヽじと銘ぜしは詳ならざれども、茵芋は今いふみやましきみにして、その開くも山礬馬酔木と同じ、花彙にも冬梢間に五出碎花を著くと、その冬開くといへるは、冬より蕾を生ずれば可なり、又五出とあるは誤寫なり、圓には即四出に書たり、

馬酔木

〔下學集〕

〈下草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0596 馬酔木(アセボ)〈馬食此葉則死、故云馬酔木、有和歌、云、取繫(トリツナゲ)、玉田横野(タマタノヨコノ)、放駒(ハナレコマ)、躑躅(ツヽシ)、馬酔(アセボノ)、花發(ハナヤサクラン)云々、〉

〔壒囊抄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0596 アセボト云木ノ毒ナルト云ハ何ゾ(○○)、并其字如何、 此木ハ和名ニモ不載侍歟、定テ本名 アルラン、萬葉ニハ馬酔木(バスイボク)ト書テアセボトヨムト云リ、馬此ノ木ノ葉ヲ食テ酔テ死ケル也、毒ト云ハ此事ヲ云ニヤ、人ニモ定メテ毒ナル歟、但シ未ダ其由ヲ不見侍リ、萬葉歌云、 取繫(トリツナグ)、玉田横野(タマダヨコノヽ)、放馬(ハナレムマ)、躑躅枝(ツヽジカエダニ)、馬酔木花開(アセボハナサク)、 此外、銀杏梔子(イチヤウクチナシ)ナンドハ和名ニモ不見歟、

〔冠辭考〕

〈一阿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0597 あしびなす 〈さかえしきみが〉万葉卷七に〈詠井〉安志妣成(アシビナス)、榮之君之(サカエシキミガ)、〈◯中略〉安之妣は卷二十に、〈中臣清万呂の山齋にて〉伊蘇可氣乃(イソカゲノ)、美由流伊氣美豆(ミユルイケミヅ)、氐流麻埿爾(テルマデニ)、左家流安之婢乃(サケルアシビノ)、知良麻久乎思母(チラマクヲシモ)、卷十に、春山之(ハルヤマノ)、馬酔花之不惡(アシビノハナノニクカラヌ)、公爾波思惠也(キミニハシヱヤ)、所因友好(ヨセヌトモヨシ)、この外あしびをめでヽ手折とも、袖にこきれんともよめり、かくて花の照にほふ色も、春ふかく野山にさくなども、茵(ツヽジ)に似たるさまによめるを思へば、木瓜(モケ)にぞ有ける、いかにぞなれば、其もけは字音にて、こヽの語ならず、東人のしどみといひて、且馬の毒也とする物ぞ是なる、かの伊波都々自(イハツヽジ)を羊躑躅とするに對へて、安志妣(アシビ)を馬酔木と書るにてもしるべし、さて馬のこれを喰へば、酔て足なへとなるべし、其あしひとも、しとみともいふ語を考ふるに、病に志良太美(シラダミ)あり、貝に志多太美(シタダミ)、草に毒だみといふ、太美は病の事也、さてその太美と度美と音の通ふに依に、志度美(シドミ)は安志太美(アシダミ)の安を略き〈太と度は同音也〉安志妣(アシビ)は安志太美(アシダミ)の太を略ける也、〈妣の濁と、美の清とは常に通へり、〉後世の歌に、とりつなげ玉田よこ野のはなれこまつヽじまじりにあしみ花さく、とよまるもこれ歟、又後の俗のあせぼといふものをもて、古へのあしみを思ふは、いと誤也、

〔倭訓栞〕

〈中編一阿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0597 あせみ 新撰六帖に見えたり、あせぼ又あしびとも見ゆ、万葉集の馬酔木是也ともいへり、今いふえせび也、四國にてあせびといひ、豫州浮穴(ウケナ)郡にあせび谷あり、西州にてよしみしばといふとぞ、えせびに毒あり、されど馬の酔ものともきこえず、又万葉集によめる形状にも合がたし、たヾ此木に生たる茸など、必ず人を殺す事は親しく見たる所也、大神宮の禰宜荒木田氏は歳首に是を飾る、繁茂を祝する也、

〔碩鼠漫筆〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0598 馬酔木(アシミ)の説 万葉集卷二〈二十六丁左〉に、磯之於爾生流馬酔木乎(イソノウヘニオフルツツジヲ)云々、卷八〈十五丁左〉に山毛世爾咲有馬酔木乃(ヤマモセニサクルツツジノ)云々、卷十〈十右〉に、瀧上乃馬酔之花曾(タキノウヘノツツジノハナゾ)云々、又〈十四丁右〉奧山之馬酔花之(オクヤマノツツジノハナノ)云々、又〈十七丁右〉春山之馬酔花之(ハルヤマノツツジノハナノ)云々、卷十三〈二右〉に本邊者馬酔木花開(モトベハツツジハナサキ)云々と見えたるを、先達の考へにて安之比(アシビ)と點を改めたるは、げに然る事也、さるは卷七〈十右〉に安志妣成榮之君之(アシビナスサカエシキミガ)云々、卷二十〈六十二右〉に安之婢乃波奈毛左伎爾家流可母(アシビノハナモサキニケルカモ)、又〈同丁左〉佐伎爾保布安之婢乃波奈乎(サキニホフアシビノハナヲ)云々、又〈同丁左〉氐流麻埿爾左家流安之婢乃(テルマデニサケルアシビノ)云々とあるに據てなりけり、偖冠辭考云、花の照にほふ色も、春深く野山にさくなども、茵(ツヽジ)に似たるさまによめるを思へば、木瓜(モケ)にぞ有ける、いかにぞなれば、其木瓜は字音にて、こヽの語ならず、東人のしどみと云て馬の毒也とする物ぞ是なる、彼伊波都々自(イハツツジ)を羊躑躅とするに對へて、安志妣(アシヒ)を馬酔木と書るにてもしるべし、偖馬の是を喰へば酔てあしなへと成なるべし、其あしびとも、しどみともいふ語を考ふるに、病に志良太美(シラダミ)あり、貝に志多太美(シタダミ)、草に毒だみと云、太美は病の事なり、扨其太美と度美と音の通ふに依て、志度美(シドミ)は安志太美(アシダミ)の安を略き、〈太と度は同音なり〉安志妣は安志太美の太を略けるなり、〈妣の濁と美の清とは常に通へり〉後世の歌に、取つなげ玉田横野の放れ駒つヽじまじりにあしみ花さく、〈◯中略〉散木集註に、今案ずれば、あせみつヽじは共に馬毒なり、万葉集には馬酔木とかきてあせみともよみ、つヽじともよめり、可何説乎、又ともに毒なればつヽじのをかにあせみさかばかたがたあしければ、かくの如くよめるか〈以上〉と見ゆれど、馬酔木には總てツヽジの點のみ見えて、アセミの點はふつになき事、既に上件に載たるが如し、但羊躑躅(モチツヽジ)の漢名を思へば、つヽじも實に馬の毒なるべし、偖又アセボをアセミとしたるも、やヽ古き事とおもはる、新撰六帖第六衣笠内大臣の歌に、吉野川瀧つ岩根の白妙にあせみの花も咲にけらしな、とあるを見るべし、されば彼本草啓蒙も亦此誤りを受て、卷三十二〈灌木類〉にhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木アシミ、〈萬葉集〉アセボ、〈古今通名〉馬酔木〈共同上〉アセミ、〈古歌仙台〉ア セビ、〈枕草子土州〉アセモ、〈江戸〉アセブ、〈播州豐前〉アセビ、〈勢州〉ヨシミ、〈筑前〉アシブ、〈雲州〉など〈猶あれど爰に略す〉あれど、是に非ず、かかれば万葉なるハ樝子(ノボケ)にて木瓜(モケ)も通用し、堀川百首なるは全く樝子をよめりと治定したらむこそよからめ、

〔萬葉集〕

〈七雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599井 安志妣成(アシビナス)、榮之君之(サカエシキミガ)、穿之井之(ホリシhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000631069.gif ノ)、石井之水者(イハヰノミヅハ)、雖飮不飽鴨(ノメドアカヌカモ)、

〔萬葉集〕

〈十春雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599花 川津鳴(カハヅナク)、吉野河之(ヨシヌノカハノ)、瀧上乃(タキノヘノ)、馬酔之花曾(アシビノハナゾ)、置末勿勤(オクニマモナキ)、

〔萬葉集〕

〈十春相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599 問答春山之(ハルヤマノ)、馬酔花之(ツヽジノハナノ)、不惡(ニクカラヌ)、公爾波思惠也(キミニハシヱヤ)、所因友好(ヨリヌトモヨシ)、

〔萬葉集〕

〈二十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599 伊蘇可氣乃(イソカゲノ)、美由流伊氣美豆(ミユルイケミヅ)、氐流麻埿爾(テルマデニ)、左家流安之婢乃(サケルアシビノ)、知良麻久乎思母(チラマクヲシモ)、

〔新撰六帖〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599 あせみ 家良 よしの川たぎつ岩根の白沙にあせみの花も咲にけらしな 爲家 たきの上のあせみの花のあせ水にながれてくいよつみのむくいを

〔夫木和歌抄〕

〈二十九あせみ〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599 あせみ 光俊朝臣 おそろしやあせみの枝を折たきてみなみにむかひいのるいのりは

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0599 馬酔木(あせぼのき) 〈阿世美〉 俗云阿世保 按馬酔木生山谷、高者二三丈、小者一二尺、皆枝葉茂盛、其葉狹長、微鋸齒淺緑色、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001a849.gif 而攅生於枝椏、九十月出花芽、春開小白花、作房結子、亦作房、一子中細子多、人家庭砌植之、以賞四時不https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 凋、相傳馬食此葉則酔、故名、

〔大和木草〕

〈十二花木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0600 馬酔木(マセボノキ) 葉ハ忍冬ノ葉ニ似タリ、又シキミノハニ似テ細也、味苦ク澀ル、春ノ末青白花開テ下ニサガル、少黄色ヲ帶ブ、微毒アリ、馬此葉ヲクラヘバ死ス、西土ノ俗ハ此木ヲヨシミシバト云、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0600 あせび〈あしみ〉 〈馬酔木〉 あしび、一名あしみ、一名馬酔木、〈萬葉集〉漢名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木、處々山中自生多くして、今花戸莽草の代りとなして墳墓に備ふ、花ある時は挿花にも用ふ、これ右の山礬の類にて、花信風大寒三候の山礬と共に稱すべし、松岡玄達の一家言に、一種稱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif者、花葉形状全同山礬、而有圓葉尖葉之二種、但以花不香爲異已、此又山礬下品、而益軒翁大和本草、以瑞香花山礬者誤矣、また和漢三才圖繪にも、山礬未詳、蓋沈丁花之類也といひて、是となすことなし、玄達の山礬、一種https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木に充しは、これ本草綱目灌木類山礬の條下にhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木を出せり、このhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木にあせみを充るを是とすべし、蘭山もhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木に充たり、あせみの莟は早く冬の中より生じて白し、故にこれを插花とす、その開くは雨水より啓蟄盛なり、此花も穗をなして長さ二三寸垂て開く、その状丸くして白く先黄なり、其花開く時に、去年の實も落ずして存するもあり、葉は柃(ヒサカキ)に似て細し、其葉の色に黄色を帶て薄きあり、又深緑色なるあり、花は異ならず、又眞淵の説にあせびしとみは木瓜の類にて、脚氣の藥に用て功ありといへり、又下總にては鹽藏して、梅干のごとくに食ふ者多しといへり、しとみは本草綱目山果類木瓜の條下に出す、樝子一名木桃、一名和圓子にして、和名しとみ、一名のぼけ、一名くさぼけ、又こほけちなしほけとも呼て、處々山野生ぜざる事なく多くあるものにて、本草綱目啓蒙にも山野に多し、高一尺許叢生す、廣原の者は三四寸に過ぎず、山中の者は三四尺に至る、枝に刺多し、葉は貼幹海棠に似て小し、春新葉出て後花を開く、形小にして、五瓣重瓣なる者稀なり、大さ八分許、紅黄色、夏秋も不時花あり、花後圓實を結ぶ、夏に至て熟す、大さ一寸許、頭尾共に凹なり、藥舖には横に 薄く切り、眞の木瓜と呼び賣る、僞物ありといへども、樝子の主治云に、功與木瓜相近とも見えたれば、木瓜の代用となして佳なるべし、又このしどみをあせびとなせば、山野ともに自生多く、千種の花よりもことかはりたる色にてめづべきなり、又この不時花は六七月開くは、春さく花に異ならざれども、九月の頃開く花は其蕚緑色にて、花の色は春よりも艶なり、衆草のおとろへたる中に、しとみの花の一二輪開たる、王安石が萬緑叢中紅一點、動人春色不多といへる句のかなへるは、此不時花に勝れるはなし、尤この句は春のことなれども、秋はさらなり、〈◯下略〉

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0601 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif 木 アシミ(○○○)〈萬葉集〉 アセボ(○○○)〈古今通名〉 馬酔木〈共同上〉 アセミ(○○○)〈古歌仙臺〉 イワモチ(○○○○)〈同上薩州〉 アセビ(○○○)〈枕草子土州〉 アセモ(○○○)〈江戸〉 アセブ(○○○)〈播州豐前〉 ヱセビ(○○○)〈勢州〉 ヨシミ(○○○)〈筑前〉 ヨシミシバ(○○○○○)〈同上〉 ヨ子バ(○○○)〈豐後〉 アシブ(○○○)〈雲州〉 ヒサヽキ(○○○○)〈大和本草〉 ドクシバ(○○○○)〈豫州〉 カスクイ(○○○○)〈備前〉 ヲナザカモリ(○○○○○○)〈丹後〉 ヲナダカモリ(○○○○○○)〈同上〉 テヤシバ(○○○○)〈長州〉 アセボシバ(○○○○○)〈越前〉 ヨセブ(○○○)〈豐前〉 ゴマヤキシバ(○○○○○○)〈藝州〉 シヤリシヤリ(○○○○○○)〈城州上加茂〉 山中ニ五六尺ノ小木多シ、年久キ者ハ丈餘ニ至ル、葉形細長ニシテ鋸齒アリ、柃(ヒサカキ)ノ葉ニ似テ薄クhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001a849.gif シ、互生ス、冬凋マズ、春枝頂ニ花アリ、色白ク綟木(ネヂギノ)花ノ形ノ如シ、穗ノ長三寸許、多ク集リ垂ル、後小子ヲ生ズ、亦綟木ノ子ノ如シ、若シ牛馬コノ葉ヲ食ヘバ酔ヘルガ如シ、故ニ馬酔木ト云、鹿コレヲ食ヘバ不時ニ角解ス、又菜圃ニ小長黒蟲ヲ生ズルニ、コノ葉ノ煎汁ヲ冷シテ灌グ時ハ蟲ヲ殺ス、

木黎蘆

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈十三毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0601 木黎蘆 ハナヒリノキ(○○○○○○) アクシヨギ(○○○○○)〈加州〉 東北國ニ多シ、江州ニモアリ、小木ナリ、高サ尺ニ盈ズ、或ハ四五尺、葉ハ形長シテイハナシノ葉ニ似テ、短ク毛ナシ互生ス、夏ニ至リ穗ヲ出ス、長サ四五寸、小白花ヲ開ク、葉ヲ採リ末トナシ、鼻中ニ入レバ嚔ル故ニ名ク、厠中ニ入ルレバ蟲ヲ殺ス、 ミソクサヲ木黎蘆ニ充ツル古説ハ穩ナラズ、ミソクサハ一名ウジクサ、ヲジクサ、ミソナヲシ〈雲州〉、小木ノ如シ、春新葉ヲ生ズ、形細長ク南天燭葉ニ似テ、三葉一處ニ攅リテ胡枝(ハギ)子葉ノ如ク、黒ミテ光リアリ、此葉能蟲ヲ殺、故ニ此葉ヲ末トナシ味噌醤油ノ中ニ入レバ蟲生ゼズ、蟲生ジテ入レバ其蟲死ス、木ノ高サ一二尺、肥地ニ移シ栽ユレバ三四尺ニ至ル、枝多ク繁リ葉互生ス、夏枝ノ末ゴトニ、長穗ノ抽テ枝ヲ分ツ、長サ七八寸、コレニ細カナル花アリ、胡枝子花ノ如ニシテ紅白色、後莢ヲ結ブ、長サ一寸半、濶サ三分許、形扁薄緑色ニシテ毛刺多シテ衣ニ粘著ス、中ニ扁キ豆アリ、冬ニ至テ葉枯ル、漢名詳ナラズ、

綟木

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十四喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0602 綟木 子ヂギ(○○○) 子ヂノキ(○○○○)〈丹後〉 アカ子ヂ(○○○○)〈若州〉 アカヅ子(○○○○)〈泉州〉 ツメアカ(○○○○) カスギ(○○○) カシヲシギ(○○○○○)〈共同上〉 カシヲズミノキ(○○○○○○○)〈京〉 ヌリデ(○○○)〈江州〉 カツヲシミ(○○○○○)〈三才圖會〉 カスヲシ(○○○○)〈播州〉 カズヲシミ(○○○○○)〈薩州〉 カシヲノキ(○○○○○)〈城州岩倉〉 ハセワセ(○○○○)〈同上〉 カセホセ(○○○○)〈同州上加茂〉 サルノサイバシ(○○○○○○○)〈同上〉 サルナメシ(○○○○○)〈水戸〉 サルメラカシ(○○○○○○)〈肥前〉 サルスベリ(○○○○○)〈伊賀〉 カセウシギ(○○○○○)〈大和本草〉 カシモドキ(○○○○○)〈備前〉 カスウギ(○○○○)〈能州〉 ヌクヌクノキ(○○○○○○) アサメノキ(○○○○○)〈共同上〉 メシツブノキ(○○○○○○)〈京〉 メシツブノハナ(○○○○○○○)〈同上〉 シヤウジノキ(○○○○○○)〈越後〉 ヌリバシ(○○○○)〈勢州〉 キツ子ノヌリバシ(○○○○○○○○)〈江州〉 ハトノアシ(○○○○○)〈備中〉 アカメ(○○○) 山中ニ多シ、小木ニモ花實ヲ生ズ、木大ナレバ皆子ヂレテ直理ナラズ、新枝ハ赤シテ光リアリ、朱漆ノ如シ、故ニヌリバシト云、春葉ヲ生ズ、形土牛膝(イノコヾツチノ)葉ノ如シ、互生ス、夏月枝梢ゴトニ穗ヲナシ、下垂スルコト三寸許、花ハ筒子ヲナス、濶サ一分、長サ三分許、白色ニシテ飯粒ノ形ノ如シ、花落テ蒂中ニ小子アリ、秋ニ至リ葉落盡テ、子穗ナヲ殘レリ、コノ枝ヲ炭トナシ、漆塗ノトギ出ニ用ユ、コノ炭ヲカシラズミト云フ、

山礬

〔和漢三才圖會〕

〈八十二香木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0602 山礬(さんばん) 芸香 七里香 柘花 掟花 春桂 瑒花 本草灌木類有之、今改 移于此、〈◯中略〉 按山礬〈未詳〉蓋沈丁花之類也、而曰梔子類、凡梔子葉有齒與齒有二種、山礬葉有齒、沈丁花葉似齒梔子葉、有花四出與大出色白與淡紫、子有無之違

〔本草一家言〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0603 山礬 一名鄭花、一名、玉蘂花、一名七里香、一名海桐、和名登知柴、筑前福岡方言也、矮木葉似https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif色帶黄、春間開小白花、芬芳勝瑞香、采其葉黄不礬而成、故黄山谷名山礬、西土之人甚貴重之、然本邦人嘗不之、撫州府志論唐建昌宮玉蘂花、即此花也、又一種稱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019a58.gif者、花葉形状全同山礬、而有圓葉尖葉之二種、但以花不https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 香爲異已、此又山礬下品、而益軒翁大和本艸以瑞香花山礬者誤矣、

〔本草一家言〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0603 山礬 唐昌觀玉蘂花記 宋程大昌 唐昌觀玉蘂花長安惟有一株、或詩之曰、一樹瓏鬆玉刻成、則其葩蘂形似略可想矣、春花盛時傾城來賞、至仙女降焉、元日皆賦詩以實其事、則爲時貴重知矣、曾端伯曰、韋應物帖云、京師重玉蘂花比江南漫山、皆是土人取以供染事、不甚愛惜、則是江南有花瓏鬆而白、其葉可用以染者、眞唐昌之玉蘂矣、山谷曰、江南野中有一種、小白花、木高數尺、春開極香、野人謂之鄭花、王荊公陋其名、予請名曰山礬、此花之葉自可黄、不借礬而成色、故以名、又高齋詩話曰、玉蘂即今瑒花也、予按、瑒雉杏反玉圭名也、瑒鄭音近而呼訛耳、吾郷又呼鳥朕鄭瑒音亦相近、知一物也、江南凡有山處、即有此花、其葉類木犀而花白心黄、三四月間著花、芬香滿野、人家籬援皆斫其枝帶葉束之、稍々受日、葉遂變黄、取以染不礬石自成黄色、則魯直之言信矣、至僅高二三尺者、蓋土人不以爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f000003ac4a.gif 材、梢可燃燎烝樵之、不其長、惟長安以爲貴異、故其幹大於他處、非別種也、予家孰之西有山礬一株、高可五七丈、春花盛時、瓏鬆耀日如冬雪、礙積闔一里人家香風、皆滿比、予辛未得弟而歸、則爲人所伐矣、乃知唐玉蘂、正是人能護養所致、非他處無此之木也、

〔古今要覽稿〕

〈草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0604 そめしば(○○○○) 〈山礬〉 とちしば、一名そめしば、一名をしこめしば、一名はいのき、一名やまき、一名しまくろき、一名くはい、一名あくしば、一名なもち、一名はなしきみ、〈已上十名本草綱目啓蒙所載〉漢名山礬は花信風大寒三候に配し、西土にては梅と共に稱して、梅是兄山礬是弟といひて稱すれども、皇國にてはいまだこの花を稱せず、山礬の名は宋の黄庭堅が名づけし物なり、山谷詩集に、江湖南野中有一種小白花、木高數尺、春開極香、野人號爲鄭花、王荊公嘗欲此花、欲詩而陋其名、予請名曰山礬、野人采鄭花葉以染黄、不礬而成色、故名山礬といへども、山礬の名高くして、本草綱目にも山礬を先とす、佐藤成裕曰、肥後の人朝鮮の人に習ひて、この莖葉を燒灰汁となし、糯米を漬る事一宿にして飯となし乾し、飴にてかため、果子とす、其色鮮黄にして美なり、故にこの木を方言あくしばといふ、本草綱目啓蒙あくしばの名あれども、何國の方言ともなし、又栗本瑞仙院の説には、山礬しや〳〵きと云、飯を染るは此葉なり、金黄色となる、是筑前の果子屋のなす所なりといへば、筑前にても製すると見へたり、本草綱目啓蒙には、山礬にて物を染る事は載せず、又松問栗答云、〈この書は黒田侯より草木鳥獸等の事を問答せし書にて、八九卷もあり、〉蒙贈示大歡不之、山礬始てこれを視る、貴邦の土名トチシバ、又ソメシバなる由は兼て聞けり、貴邦に多くありと云によりて、一樹一本を乞奉るに、相州小磯驛小山、及武州神奈川驛の小山にて、先年御覽ありたる由、其地にて探索せば得易かるべし、其木を聢と見おぼへざればなり、今般其枝葉を親く見たるによりて、予は其樹を一覽せばそれと識ん、他人を以捜索せば、其方言も知らるべし、又冬春は形も異なるべし、捜索し難かるべし、唐山にては梅花水仙と并に賞すと聞けり、花五瓣聚り開、香氣馥郁遠く人を襲ふ、故に七里香の名あり、今聞に本邦に此樹花さけるを近く嗅に香氣なしと、然れば別物乎、國異なるによるにや、貴邦のもの野梅と同時に花ありて、香氣の賞すべきもの有や、花状の圖并に其説をきかまほし、礬を不用して染もの の用に入る、因て此名あり、いかやうの色に染まるにや聞ん事を冀ふ、如此問ありて答なければ、本邦の山礬の香の有無は詳ならざれども、上にいふ肥後の人朝鮮人の此方のそしめばを見て、これにて染ぬれば、鮮黄なりとて、その教によりて、今に果子を製して、名産となりぬれば、花の香の有無は、春蘭も西土にては、香の馥郁たるものなれども、本邦の産は香のをとれるがごとくなるべし、山礬は的當の物なるべし、岩崎常正が所寫の山礬を見るに、其葉巵子葉に似て鋸齒あり、時珍の説に、其葉似巵子葉生不節、光澤堅強略有齒といふに附合せり、その花は二寸許の穗、葉頂に五六條出て、五瓣の小白花を開く、形梅花のごとくにて三分許、一條十五六輪あり、然れども集解に穗をなすとは見へざれども、繁白如雪といひ、又花鏡にも著白花細小繁といへば、數條をなさねば繁とはいはれまじ、又花を開くを本草綱目秘傳花鏡ともに三月開花といへり、花信風には、大寒三候に配せり、また群芳譜の花月令、十二月梅蕊吐山茶麗、水仙凌波茗有花、瑞香郁烈山礬鬯發といへるは、小寒一候梅花、二候山茶、三候水仙、大寒一候瑞香、二候蘭花、三候山礬といふにはかなへり、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十五灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0605 山礬 トチシバ(○○○○)〈筑前〉 ソメシバ(○○○○) ヲコシゴメシバ(○○○○○○○) ハイノキ(○○○○)〈共同上〉 ヤマキ(○○○)〈豐前〉 シマクロギ(○○○○○)〈日州〉 クロバイ(○○○○)〈紀州〉 アクシバ(○○○○) ハナモチ(○○○○)〈城州宇治〉 ハナシキミ(○○○○○)〈同上、修學院村、〉 一名海桐花〈群芳譜〉 小白花〈同上〉 梅弟〈名物法言〉 米囊〈事物紺珠〉 九里香〈物理小識〉 幽客〈典籍便覽〉 山中ニ生ズ、高サ一二丈、枝條婆裟タリ、葉冬ヲ經テ凋マズ、形柃葉ニ似テ濶ク、深緑色ニシテ光リアリ、互生ス、春葉間ニ花ヲ開キ、穗ヲナスコト二寸許、イヌザクラノ花ノ如シ、五瓣白色黄蘂香氣アリ、大サ三分許、 集解、芸香ハクサノカウ、〈和名抄〉 ヘンルウダ 蠻種ナリ、花戸ニ多シ、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/000000019519.gif 插シテヨク活ス、葉ハマツカゼグサノ葉ニ似テ、小ク厚ク白色ヲ帶ブ、臭 氣甚シ、初夏莖梢ニ枝ヲ分チ花ヲ開ク、四瓣、或ハ五六瓣等シカラズ、色黄ニシテ内ニ毛アリ、花後實ヲ結ブ、大戟ノ實ニ似テ大ナリ、 増、山礬葉ヲ採リ煎ジテ黄汁ヲ取リ布ヲ染ム、又筑前博多ノ人、寛永ノ初年朝鮮人ノ傳ヲ受テ、コノ葉ヲ煎ジテ糯米ヲ染テ糕トシ、四角ニ切テ賣ル、淡黄色ニシテ少ク香アリ、是ヲ食スレバ口中冷テ味美ナリト云、大和本草ニ見ヘタリ、

磯松

〔草木六部耕種法〕

〈十需花〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0606 磯松モ甚ダ珍奇ナル者ナリ、此者ハ南國暖地ノ海岸ナル岩間ニ自ラ生ズ、幹ハ蘇鐵ノ如ク鱗形(ウロコガタ)アリ、細枝ヲ生ジ、其葉ハ石竹ニ似テ圓ク、九月下旬ニ至テ花ヲ開ク、其形状櫻ノ花ノ如クニシテ黄色ナリ、此者ハhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001bb5a.gif リニ移シ植ルトキハ、即チ枯ル、此レヲ植ル法ハ、白沙ト埴土ヲ等分ニ合セテ、蛤蜊(アサリ)ノ自然汁ニテ適宜(ホドヨ)ク煉リ、此ヲ鉢ニ盛リ、其中ニ植ヱ、毎日乾燥ザルヤウニ、蛤蜊ノ自然汁ヲ澆ギ掛ルトキハ、半月許ノ間ニハ活著(オヘツク)モノナリ、既ニ活テ新葉ヲ生(フク)ニ至テハ、常用ノ水ヲ澆グモ宜シ、盛養水ヲ淡薄クシテ澆ゲバ、殊ニ能ク繁榮ス、且ツ枝ヲhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f0000651547.gif ニスルモ活モノナリ、九月ヨリ能ク温養シテ、冬ハ閉藏法ヲ行ヒ、三月ニ至リ塘(ムロ)ヲ出スベシ、

鼠取樹

〔和漢三才圖會〕

〈八十四灌木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0606 鼠取(ねずみとり)樹〈俗稱〉 〈正字未詳〉 按、鼠取樹遠州竹林中多有之、高一尺許、如山橘様而葉似https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/7f00006504fe.gif (ユヅリ)葉、長三四寸、背莖有細刺、觸之人刺入皮膚脱、不知何因名鼠取乎、蓋摘葉用覆置天井上、則鼠不敢走、若栗梂能避天井鼠之類爾、秋結赤實、大三倍似山橘實、余國此樹未有矣、

杜莖山

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈十三毒草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0606 常山〈◯中略〉 附録、杜莖山、 ウバガ子モチ(○○○○○○)、シロダモ(○○○○)、〈天竺桂ノ一種ト同名〉白ムメモドキ(○○○○○○)、〈ムメモドキノ白實ノモノト同名〉ミカドガシハ(○○○○○○)、〈種樹家〉カシハラン(○○○○○)、〈同上〉ウバガ子サウ(○○○○○○)、カシラン(○○○○)、〈勢州〉小木ナリ、山足樹下ニ多シ、長三四尺、多ハ山崖ニ生ジ下垂ス、嫩ナル者ハ直上シ生ズ、莖ハ圓ク、葉ハ櫧葉ニ似テ柔ナリ、莖葉深緑色、秋葉間ニ花 アリ、小穗ヲナス、蕾(ツボミ)ハ粟粒ノ如ク、黄白花開クモノハ、綟木(ネヂギ)花ノ如ニシテ小ク、白色後圓實ヲ結ブ、大サ二分許、冬末春初熟ス、白色ニシテ紫ノ縱條多シ、故ニ白ムメモドキト云、葉ハ冬ヲ經テ枯レズ、


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Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:16