https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0781 煎茶ハ其起原詳ナラズ、高遊外ヲ以テ中興ノ祖トス、遊外ハ德川幕府ノ中世ノ人ニシテ、世ニ賣茶翁ト稱ス、其事ニハ水品擇芽煎法等アリテ、一ニ支那ノ風ニ摸倣シ、其器モ多ク支那ノ製ヲ用イ、簡素幽雅ヲ以テ主トスルガ故ニ、文人墨客ノ斐多ク之ヲ玩べリ、

名稱

〔書言字考節用集〕

〈六/服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0781 煎茶(センジチヤ)〈事見活法

〔類聚國史〕

〈三十一/帝王〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0781 弘仁六年四月癸亥、幸近江國滋賀韓崎、便過崇福寺、〈○中略〉大僧都永忠、手自煎茶奉御、施御被

〔江家次第〕

〈五/二月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0781 季御讀經事
上卿一人著南殿例〈天喜四年、三ケ日毎夕座侍臣施煎茶、〉

〔木石居煎茶訣〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0781 今日の茶は、泡(はう)茶、淹(ゑん)茶、沖(ちう)茶の三ツにて、煎茶ならぬに、なべて煎茶と唱ふる、當らぬやうなれど、矢張煎茶と稱して苦しからぬ也、かゝるためし少からねば、殊に手近き例をばいはんに、たとへば論語卷の一卷の二といふ如き、こは古竹簡に文字を彫り付、韋にて是を綴りまき置たるよりかくはいひし也、又中古になりては、絹に文字をかきて是を卷置たるが、紙の出來し後は、今の如く本に綴たれど、猶古稱を唱へて、卷の一卷の二といひ、竹簡が紙にかはりても、脱簡などゝもいふの類、煎茶の適例ともいふべし、さればだし茶にても、一煎二煎と稱するを笑ふ べきには非ず、素より初注再注など唱ふるは、尤當れりとすべし、前に述る如く泡淹沖の三ツも、わざにかけていふ時は、矢張古稱を用ひて烹點と唱ふる、是又前の例によりて拙きにはあらぬ也、

茶品

〔煎茶仕用集〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0782 茶品彙
蘭茶〈珠蘭茶と云、其香如蘭、渡來茶第一珍品、錫の器に入來る、掛目五匁程ヅヽあり、〉
松蘿〈舶來のもの也、蘇州閶門といふ處より出ると云書付あり、甚希に來る、桃巖釋石舟所撰松蘿と云書あり、序曰、唐有名僧、號曰松蘿、爲烟霞居山野云々、此人の始て製せし茶なる故、其名を呼とみへたり、始終此書にそなはる可考、〉
武夷〈此茶武夷の白茶とて、色は黑く、白きかびのやうなるものふきてあり、あまりよろしき茶にはあらず、是も舶來の品なり、此茶のこと諸書に出たれば、委不擧、〉
唐茶〈常に多く舶來のもの也、於肥州之、〉
一ツ山 雁音 山吹 初綠 湖溪 越後 初山吹 春風 喜撰 政所 龍田 一ツ森 冬梅 折鷹 朝日山 政所初葉
右拾六種、江州信樂より産す、日東煎茶此産第一とす、末茶は以宇治第一とす、
花橘〈江州彦根より八里ばかり北、たて原村源四郎といふもの近年製出す、上品なり、〉 莖茶〈城州字治産、薄茶の莖也、〉 室生(ムロフ)〈大和産〉 淸見〈駿河産〉 服部〈伊賀産〉 河越〈武州産〉 仙靈〈播州粟賀生蓮寺産靈玄院法皇ノ御勅名〉 本葉 薄葉〈此兩種城州高雄山ノ産、日本茶ノ殆テ産ル所ト云、〉 草山高泉寺 明石 〈此三品丹後ノ産〉 足久保〈駿州産〉 吉野茶〈和州産〉 北山茶〈和州産〉 川俣茶〈勢州産〉 高野茶〈紀州産、以浪華水烹甚惡シ、山水ニ宜シ、〉 日向茶〈疏茶也、無精製者、〉 完粟(シソウ)茶〈數品、播州産、〉 カナコシキ〈豫州字麻郡産〉 相樂茶〈肥前産〉 筑後茶〈上品〉 輪違〈濃州茶〉 葉室〈城州醍醐産〉

〔淸風瑣言〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0782 品解
煎品は、折鷹(レ)、白折(シラヲレ)、鴈がね等、上製の餘材也と見ゆ、葉茶有、莖(クキ)茶有、葉くき相半する有、其葉は尖のみなれば、氣味共に薄し、喜撰は〈山岳の名、其山下なる池の尾村に出すなり、〉朝日山の上に座せり、〈朝日は七園の一名なり〉なし蒸は下 品なり、〈里人の言に、上製の種をアヲと稱し、煎種をなしと呼とぞ、ナシ厶シの略言歟、蒸製精しからざるの名義なるべし、〉其餘品題猶多かり、
品目
近江の信樂、茶品殊に多し、山中の村民園畝を開きて蒸焙を事とす、煎種の絶品、此地天下第一なり、山吹一ツ森の名のみあまねく聞ゆ、〈山吹は本宇治の品題なり、今も猶かの地に出す、〉萬代、霜ノ花、湖水、花橘〈政所と云郷に出す、信樂の山脈也とぞ、〉等の種皆絶品也、其餘の品題多く聞ゆるは、園民漫に題するものに似たり、又京師の鬻戸等、私に品第を設けて、名と物と戸々にたがふも有べし、又彼とこれと合製して一品となるも有べし、沽酒家の醇薄辛甘を鹽梅して、戸々に品題を稱ふるに同じ、又昔の一ツ森は今の山吹にて、品第一階を進ましむとも云り、大觀茶話に、相鬻相爭、互爲剝竊、參錯無據、不茶之美惡在于製造之巧拙而已、豈園地之虚名所能增減哉、焙人之茶、固有前優而後劣者、昔負而今勝者、是亦園地不常也と云を見れば、はやくより此厄有しをしらる、唯々市に求る人、茶は眞の面目にあふ事難し、
洛北妙心寺の花園、近江の永源寺の越溪、土山の曙、〈永雲寺製〉美濃の虎溪、〈永保寺製〉播磨の仙靈、〈粟賀生蓮寺製〉山僧の手製、利の爲ならざるは佳品也、それを名として郷民の出せるは品降れり、
栂尾高雄の産、昔は上製の種ありし也、深瀨茶など聞えしも有しを、今は佳品なしと云り、
諸國の名産甚多七、伊勢の河上、伊賀の服部、大和の室生、紀の高野、尾張の内津、美濃の養老、駿河の蘆久保、西にては肥前のうれし野上首なるべし、肥後の鹿子尾、筑前の鶯、其餘柳川相樂等きこゆ、多くは鐺炒製にて、味醇く淸韻乏し、又唐茶とて、商舶の將來れる者は近年佳品なし、武彜、松蘿、龍井、蘭茶等の名あれども、眞物にあらざるべし、其它は丹波の草山香泉寺、播磨の鹿谷、日向茶の類は、常食の品にて文雅の友にあらず、

〔煎茶早指南〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0783 他國はおのづから他國に上茶を出す所おふけれど、我國〈○尾張〉にては内津の村民久しく茶を製し出す、其外賣物にあらぬ上品の茶、予〈○嵐翠〉がしりたる分左の如し、 知多郡大高の長壽寺毎年製せらる、これ江州越溪茶の法にて尤佳品なり、
水野定光寺の茶は、京師花園の製に同じくして、又これ佳品なり、此兩所にて上製の茶を飮ば、氣味他に異なる事甚遠し、兩山ともに水も精絶なるゆへとぞおぼゆれ、
府下白林寺、毎年唐樣茶を製せらる、其精品に至ては兩山におとらず、水もすこぶる靈なり、
右四條は、我國同好の諸君子にしらしむのみなり、他國の人は、他國の人境によりて製法を問ひ玉へ、
本朝にて茶を産する所おふけれども、第一とするは山城の國宇治の里なり、しかれども煎茶においては、むかしより近江の信樂を天下第一と沙汰しあえり、無膓翁も宇治信樂はもろこしの上茶を出す、建溪北苑にもおとらずと、瑣言にしるされたり、
信樂の上品にて、高翁の比にもてはやされたる茶の銘は、萬代、霜の花、湖水、花橘等なるよし、今は銘も堂上方より申くだして新銘を稱するもあり、又高名の君子によりて求たる銘もありて、其品目はかはれども、製法におゐてはむかしにことなる事なし
故人すべて信樂を賞せられしが、宇治なんぞ信樂の下におらんや、兩所の高下は、歌仙の人丸赤人のごとく、宇治は信樂の上たらんことかたく、信樂は宇治の下たらんことかたし、
つねに煎ずる茶、宇治にては喜撰、信樂にては信樂とゆふ銘の茶よろし、飮事は一等も上の茶よけれども、まづこれらこそ中品めよきものなり、

〔渡邊幸庵對話〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0784 一煎茶駿州府中の曲里の右の方に作るよし、され共人々呑料にする故に賣買にせず、安倍に水窪と云所あり、此所に作る茶至て極なり、然共木株少なし、是に差續て水見邑と云所の茶よし、是大方に水窪に對する也、其餘は茶料と云て、幅三里、長さ四十餘里、此所餘の物を不植、都て茶株也、是世にいふ阿倍茶也、運上も大分也、

〔煎茶綺言〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0785 性味
茶ノ性微寒、味ヒ甘苦トイヘルハ、世ノツネノ説ナリ、精良ノ品ヲエラミ、湯候ヲ得テ喫スルニ、芳鮮甘冷ノ風趣アルニ似テ、マタナキガゴトシ、餘韻ヲ呈シ、微冷ヲ賸(アマ)ス、甘ハ其花ナリ、冷ハソノ實ナリ、苦濇ハソノ根柢ナリ、然ハアレド頂選ニシテ苦濇ノ味ハ病ト云ベシ、袁仲郎其ノ澹冷ヲサシテ、ヤヽ金石ノ氣ニ類ストイヘリ、ヒトリ能茶ノ眞味ヲ識セリ、蘇東坡ハ淸風ニタトヘリ、苦濇ノ病ハ、原采收ノ早遲、蒸焙ノ過不及ニヨルナリ、其ノ製造ノ概略ハ、淸明穀雨ノ間ニ、茶ノ新芽四五葉ヲ發シ、津液萌芽ニ升ルヲ察シ、熙々煦々ノ朝タヲマチテ、頂ノ三葉ヲ摘采、淸水ニアラヒ、湯蒸焙乾ス、其時ヲ得レバ自ラ淸茶ヲ出ス、マタ焙養ノ粗ナルト、地道ノ旺セザルトニヨリテ、苦濇ノ味ヒヲ致モノ多シ、マタ一沸ノ湯候頃刻ノ火勢ニモヨルベシ、湯候ミタザル時ハ草氣ヲ剰ス、過時ハ眞味ヲ耗ス、火氣武時ハ焦氣ヲ發ス、文時ハ湯氣ヲ生ズ、マタ湯引鐺熬ノ製アリ、〈筑州ノ嬉野茶、日向ノヨシマツ茶、遠江ノ相良茶ノ如、皆イリ茶ナリ、〉其中マヽ良品アレド、多クハ草氣アリテ苦濇ナルモノナリ、喫茶ヲ賞シ、品題ヲ决識人、此造法ヲ詳ニセバ、又一助ニナルベキヤ、茶估ヨリ價得テ良器ニ收藏スルモノハ、烹時焙乾ヲ用ユベカラズ、焙乾ハヤムコトナキノ所爲ナリ、良器トイエドモ、誤テ冷濕ニ侵サルル時ハ、宜敷烘焙スベシ、サレド隔紙ニ火色ヲ蘸時ハ眞味ヲ損ズ、ツトメテ火候ヲ調シルベシ、彼ノ松蘿僧ノ如キハ、火候ノ調ガタキヲイブカリテ、芽ノ尖葶ヲ剪去テ、但其中段ヲ留トイヘリ、吁ウトカリキ、茶ニ花香ヲ裛モノハ、少シク醫藥ニ似タリ、ヨテコヽニノコス、

藏茶

〔煎茶仕用集〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0785 藏茶
宋蔡襄茶錄曰、茶宜蒻葉、而畏香藥、喜温燥、而忍溼冷、故收藏之家、以蒻葉封裏入焙中、兩三日一次用火、常如人體温温、則禦濕潤、若火多則茶焦不食、
もろこし茶をおさめたくはふことかくのごとし、此土の法は古今これに異なり、たゞよろしき 磁甕、或は錫の壺を用て、口をよく覆て濕なき所にをくによろし、蔡氏が法に必かゝはらざれ、
臭許次忬茶疏曰、収藏宜磁甕大容一二十斤、四圍厚箬中則貯茶、須燥極一レ新、專供此事、久乃愈佳、不必歲易一レ茶、須築實、仍用厚箬、塡緊甕口、再加以箬、以眞皮紙之、以苧麻緊札、壓以大新磚、勿微風得一レ入、可以接一レ新、
許氏が説大ていよし、人に近き處に置は、時々かへりみるによし、又人に近ければ温にして濕少しといへり、陸氏よりこのかた、吾朝にも厚紙のふくろに茶を入るなり、茶疏には畏紙と云、紙は水中におゐてなるにより、水氣ありて濕をふくむといへり、尤なる事なり、
古郵羅廩茶解曰、凡貯茶之器、始終貯茶、不移爲佗用、 岩栖幽事曰、茶見日而味奪、墨見日而色灰、此二説もしらずんばあるべからず、因て合せ記す、

〔淸風瑣言〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0786 收貯
茶を貯ふるは錫壺に勝る者なし、瓦壺は次也、いづれも古製にあらざれば効用少し、一度它の物を收し器は不用、香葯の器殊に忌べし、茶略に云、予嘗登石鼓、遊白雲洞、其住僧爲予言曰、瓦罐所貯之茶、經年則漸有濕、若錫鑵上レ之雖十年而氣味不改と云り、然るに頃日或高貴の家に、庫内より年記百餘年、封緘固密の茶壺を探出たり、開封して試るに、茶葉靑色乾燥、唯一二年の者に異ならず、但香味におきては舊廢の物也とぞ、是を以て見れば、瓦壺の錫に勝ると云べし、按ずるに、錫瓦の優劣にはあらで、器の新古、製造の工拙に係るなるべし、茶盒子も共に同じかるべし、唯々古製の貴むべきは、此談に明らか也、所居陰濕を忌み、煙薰を可避、雨雪雲霧の日、封を開くべからず、盒子に分取て後も、克々封固すべし、壺中茶減ずれば、其虚洞に濕氣隨て侵入、茶韻を害す、棚架上に、茶壺の口を將て、下に朝(ムカヒ)て放べし、濕烟入がたし、又茶壺を稻灰に埋め置法有、大桶に先茶壺を收め、上下四面より灰を以て瘞む、茶を分取日能せずば、灰入て茶を害すべし、西土には箬葉を以 て茶壺の口を包む、箬よく濕烟を透さず、又建城と呼て、竹籃を二重に造り、其間に箬葉を夾入たる者あり、〈圖茶經の附錄に出す〉予〈○上田秋成〉是を獲て藏む、思ふに是恐くは久藏の用に堪べからず、唯盒子の屬と云べき者也、
久藏
茶を貯ふるに、久藏の品は、今年の新茶を相半にして再び封密すべし、茶霖雨梅天には、壺中に在ても濕を感ず、快晴を待て急に焙爐に乾すべし、焙爐の火は温かるべし、是を文火と云、火勢猛なれば、葉焦れて茶韻を脱す、烹るに臨みて炙るも同法也、茶と火の間、凡一尺を去べし、茶史に、焙茶法見ゆ、夏至後三日、焙一次、秋分後三日、焙一次、一陽後三日又焙之、連山中共五焙、直至新、色香味如一と云り、茶賈總て焙の候法ありとぞ、然れども古人の説に、茶濕らざれば不焙炙、其度に香味を失ふと云り、又建紙包(カミノフクロ)に貯ふべからず、紙は水中に作しもの故に、濕を吸く害有と云り、此戒め茗溪詩話に見えたり、茶史に云、近人以燒紅炭殺紙裹瓶内、然後入茶極妙、以紙裹礦灰一塊亦妙と見えたり、

〔煎茶綺言〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0787 藏茶
茶ノ性、燥ヲ喜、潮ヲ嫌フ、故ニ壺ノ乾枯ナルヲヨシトス、サレド高麗、三島、熊川、龍門字、或ハ薩摩ノ古帖佐、尾張ノ古瀨戸等ノ類ヒハ、尋常ニ得難シ、頓ニ求ルニハ淸雅ナルヲ擇トリテ、數日武火ノ焙爐ニ安ジ、後爐ヲ出シ、密室中ニ懸、徐ニ冷ヲトリ、冷定テ茶ヲ藏シテ後マタ他器ニ移ベカラズ、マタ百錬ノ錫瓶モ佳ナリ、タトヒ良器トイヘド、其口ヲ守コト空疎(ウト)ケレバ、茶ノ性味自ラ散ズ、マタ經年久藏スルモノハ、故瓢、或ハ故竹筒ノ内ニ築實堅ク封ジテ、再ビ松香ニテ固縫ベシ、常ニ密室中ノ火氣絶ザル所ヲ相テ架ヲカケ儲フベシ、空堂虗屋ノ如キハ、風ノ氣ツネニ融通テ、名器トイヘド冷濕ニ侵サレテ、イツシカニ茶ノ性氣亡佚、

水品

〔煎茶仕用集上〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0788水和漢茶を好む人、水を撰を第一とす、水よからざれば、何程よき茶にても惡くなる也、陸氏より以來、水を論ずる事委し、鹽氣、金氣、濁水等は云に不及、水の善惡甚多しといへども、先大ていの水にても、くみたてを、活水とてよしとす、何程名水にても、時刻を經たる水は用るに惡し、

〔煎茶仕用集〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0788 名水品彙
賀茂御手濯川〈城州洛外下賀茂社流水、斯泉華洛第一ノ水といふ、別て烹茶によろし、其水甘く冷なり、〉 菊水〈京祇薗下河原にあり、水甚淡く茶の可否大にしろゝなりと、賀茂の水にはなとれり、〉 明星水〈吉田にある井水なり、菊水に同じ、以上三ツ洛外にありて、名水と云ものなり、〉 飛鳥井〈京二條にあり〉 少將井〈大炊御門南〉手水井〈四條烏丸〉 柳之水〈西洞院三條通東側人家内〉 醒井〈佐女牛通六條北〉 常盤井〈武者小路新町西北方〉 淸和水〈一條堀川東〉 晴明水〈上同〉 杜鵑井〈油小路通中立賣下ル東側人家内〉
右洛陽洛外大概之分擧
合坂水〈天王寺西門之西湧泉也、浪華第一之水、又云、今用逢坂字誤也、其處有合坂辻、用此字可也、〉 在栖淸水〈新淸水寺下湧泉〉 柳之水〈難波村の井水也〉 難波水〈南瓦屋町井水〉 愛宕水〈内久寶寺町井水〉 黃金水〈御城内井水〉 淀川〈長流水〉
右大坂近邊之名水也

本邦論名水書〈余○大枝流芳〉未見、世上茶家者流の口談ニ云、千阿彌利休、山城宇治川の橋三の間の水、日本第一の水と定む、豐臣太閤常に汲之、茶の水に用ひ給ふと云、至今彼橋汲水所、別に附出ししるしとす、利休が末流片桐石見守貞昌この水を汲、秤量二十錢目を以て分盈を作り、爾今點茶家者流に傳て合杓(カフノシヤク)と云、余これを傳て、諸方の水を量る分量大概左にしるす、按るに、水輕重を以て好惡を論じがたし、山水乳泉石池の類に重きあり、雜穢混合して流るゝ川に輕きあり、これを按るに、長流水は水こなれ、濁氣少きものは輕し、乳泉の類にて、只今石間地中よりわき出たるものは、 水は淸ふして甚重し、此類重きとて惡きにあらず、長流水輕しとて好にもあらず、水は只輕重にて定むべからず、只ロに含てよき味あるものよし、醎あり、金氣あり、土氣あり、澁き味ある等のもの惡し、只かるく甘き水好水也、又按に、點茶家者流の定むる所は、只水の分量のみ、輕重の間にはあるまじ、點茶は末茶の多少にて、水も多少の分量を汲はこれのみの用か、猶考べし、
遵生八牋曰、源泉必重、而泉之佳者尤重、餘杭徐隱翁嘗爲余言、以鳳凰山泉、較阿姥墩百花泉、便不五泉、可見仙源之勝矣、この説にて按るに、地中石間より出る活水は重く、長流のものは水こなれかるし、しかれば重きが惡しきにもあらず、輕きが極てよしとも定がたし、初めに論るがごとし、
水輕重考
金城中黃金水〈二十目八分〉 淀川水〈十九匁四分〉 冽寒泉〈二十目五分、余宅茶井也、〉 有馬湯山〈一ノ湯用水廿一匁三分、二ノ湯用水廿一匁三分五厘、〉 有馬鷹塚淸水〈廿一匁六分、石泉極上々甘、〉 龜尾瀑〈廿一匁五分、水至極惡し、〉 舟坂淸水〈有馬道、極上々甘、〉 宗悟川水〈名水と云、生瀨川、東小川、舟坂ニハ不及、〉 瑞寶寺水〈有馬京口也、用水廿一匁四分、〉 同所瀑泉〈廿一匁貳分五里〉 大坂愛宕水〈廿匁九分〉 合坂水〈大坂天王寺西〉在栖淸水〈同所淸水寺下〉 難波柳水 京下河原菊水 京杜鵑井 丸茂手濯水 明星水
此外本朝國志郡志に擧る所の名水多し、其方角に在す人は、自ら試み用んも、博物の一つならんのみ、

〔淸風瑣言〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0789
熊明遇の茶記に、茶を烹るは、水の功十の六に有と云り、〈○中略〉江水は中流の人氣遠きを汲べし、井者汲事多きを宜しと云り、是大統の論也、山水にも石池乳泉にして涌あふれざるは、陰氣を蓄ひて色鮮明ならず、或は淺縹に、或な微黑に、或者崖間樹蔭なるは、常た毒蠱なども住て潔からず、水味輕甘なりとも佳品とせず、江河長流は、汚穢流るれども、蕩々として其氣の停る所なく、味は甘重にて且無毒也、但烹て茶に靑色を出さず、山泉に劣る所也、井水は汲事多くとも、泥土或は海潮 の信ある地者、水味斥鹵腥臭、飮食の品にあらず、予〈○上田秋成〉頃(コノゴロ)京師の客舍に茶を烹て試るに、故(モト)是丘山の地なりと、いへども、千歲以來紅塵の陌、旦暮烟爨の稠密に汚穢滲漏して土臭となる乎、飮食佳品の水は稀なるやうにおぼゆ、只物に觸て其本色を出し、腐爛の氣を驅る者、山嵐寒冽の功のみ、一條通より上者尤淸冽にて、茶を烹れば靑黃鮮明なれども、甘香は冽氣に壓るゝに似たり、又洛東の井は、山下の濁溜にて土臭なき事能はず、茶韻興がたし、又市中所々に名水と聞えたる柳の水、さめが井、淸和井、あがた井、杜鵑井等は、たま〳〵地中の水脈にあひて活動あるもの、土臭なし、冽氣寒からず、旱天にも涸る事なく、茶を煎て尤佳品なるを、是亦猥に汲事を宥さゞれば、自ら渟潦の厄あり、只々淸流こそ食品の上首なれ、高野川、加茂の下上の泉川、西河も嵐山をかぎりて上は、急湍激流烹るべからず、宇治の橋本、尤絶品也、下流も人氣遠く塵垢をとゞめざるは、いづれも食品の水也、浪華は大江の中流三大橋の以東を上首とす、枝派の水は、塵穢泥臭、いづれも汲て煎るに不堪、あふ、坂、有栖等の乳泉、涌あふれて潔し、是も亦山下滴溜の弊にや、茶に靑色なし、市中郊外の井、悉く斥鹵泥腥、絶て食品なし、こゝに予が寓居の地、市陌を去事北に一里可、長柄川を南にし、大江東に流れて、柴島、山口、淡路莊等の地、井水淸潔にして、しかも寒冽ならず、甘味有て土臭なく、大凡江河中流の品に似たり、茶を烹て甘香、たゞ〳〵靑色なきを恨とす、予又私説あり、山川石池乳泉といへども、天の陽光を承ざるかぎりは、陰氣を蓄ふて寒冽なる故に、茶を烹て色は美なれども、香味は劣るべし、水は腸光を承て調和せられ、甘味もこゝに生ずる乎、江河塵穢なき事能はずとも、無毒にして廿味有者、活動陽光の和を得たるなり、水の性ひたすら澄を力む、塵穢汚泥も是を操る事能はず、市陌に横たはれる流水も、夜の丑寅の間に汲めば、淸泉に異ならずと云も此謂也、〈○中略〉茶を烹る者、水擇ばずば不有、水えらばざれば、茶に色香味の三絶なし、是を美ならしむるは、水源遠からず、流も緩きを佳品とす、輕甘、甘重の水、再び三沸の法を以て熟味なる、 惟色香味の三絶を全くする水は天下にまれなるべし甘泉淸流、茶の三絶に和するとも、是を死活ならしむるは、烹る人の巧拙に有、能々意を用ふべき者也、予京攝の間に老て、它方の水味を試みず、虚しく井蛙の談をなすのみ、讀人擇びて取べし、又諸書に雨水を上品とす、熊明遇云、無泉則用天水と、此説淸泉に劣るとす、又云、秋雨爲上、梅雨次之と、毛文錫は、梅雨其味甘和、乃長養萬物之水と云り、五雜組に、閩人苦山泉難一レ得、多用雨水、其味不山泉、而淸過之、然自淮而北、雨水苦黑、不茶と云り、古人の説に、暴雨は塵土を誘ひて淸潔ならずと云り、試るに暴雨ならずとも、市中の雨水は、必塵垢浮沫の厄あり、漉て烹れば香味あれども、色は美ならず、東坡は、時雨降れば、器を多く庭中に置て是を貯へりとぞ、只簷溜の水は不食、又雪水は五穀之精、尤宜茶飮と云説あり、丁謂の煎茶の詩に、痛惜藏書籄、堅留待雪天と云は、文雅の言のみ、雪水不白とあれば、雨水には劣るべし、况雪水性感重陰とあるを見れば多飮べからず、文子の説に、水之道、上天爲雨露、下地爲江河、均一水也と云へば、雨水と江水の品、相似たるも宜也けり、又甘泉香泉の名有は、若草木の傍に生ずる物に觸てゑかりや、〈○中略〉古人の言に、眞源は無味、眞水は無香と云説もあれば、甘香共に、物に觸て生ずと云んも又理ありとせん乎、又茶經に、茶の産地の水に烹れば佳ならぬ者なしと、是自然の理也、たま〳〵折鷹の品、京攝の水に美ならず、武都に烹て宜しと聞、又人のかたれるに、筑紫の人折鷹を煎て、東方を拜し甘香の恩を謝すとぞ、茶の水に合ふは、音律の物に和して韻聲を興さしむと同じく、天然の善緣常理を以て不論、又水を貯ふは、瓦罌に勝る者なし、是を陰庭に居て蓋を去、紗帛を以て覆ひ、星露の氣を承べし、水の英靈不散と云り、又煮泉小品に、移水取石子瓶中、旣可以養其味、又可以澄一レ水と見え、鍾伯敬の水品論にも、小石冷泉留早味と云、又大瓮收藏梅雨、下放鵞子石數十塊、經年不壞と云り、又黃山谷の詩に、錫谷寒泉橢石倶と云も是也、〈橢ハ形長狹ナルヲ云〉又擇水中潔淨白石、帶泉煮之尤妙也と云り、此石の類、靑灣茶話に、河内の枚方の驛の上坂川と 云河原に有と云り、此頃山僧雲水の路次、近江の石部の宿より、佳茗少許に、加へて、小石一枚を倶に封裹して餉來る、是茶の産地の石と倶に煎るべき風流、甚興有事におぼえし、又水を製する法有、常品の水を瓦罐に沸せて、屋上或は庭砌に架を造り、瓦罐を其上に置、蓋を去、一夜星露を承しむれば上品の水となれる事、試みし所也、此事知新錄に見えたり、又一法、羅牟毗伎(ランビキ)を用て、水の英靈を取、是に星露を承しむれば、上品となる也、喫茶家淸泉に遉きは一大厄なり、東坡は常に玉女河の水を愛し、符を齎せて汲しめ、且此流を枕に爲ざる事を歎息せしとぞ、又山居の人は筧を造りて水を引、承之奇石、貯之以淨缸と見えたり、刳木取泉遠と云は是也、又水は輕きを上首とのみ云も、大統の論也、山水は渟潦の品も輕し、江水は茶に宜しきも、鹹苦腥臭の井より重きが有、茶譜に、山頂泉淸而輕、山下泉淸而重と見え、鍾伯敬も源泉必重、而泉之佳者重と云へば、一槩なるべからず、只々水は石に出るもの佳也と云へば、山泉湧流の品にこゆる者なし、文子の水之性淸、沙石穢之と云説のいぶかしきなり、水品の論猶多かり、試みざる者不言、水擇ばざれば湯の功なし、湯者寔に茶の司命也、克々擇びて煮べき者也、

〔煎茶綺言〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0792
毛文錫云、茶ハ水ノ神、水ハ茶ノ體、ソノ水ニアラザレバ其神ヲ顯スコトナシ、精茶ニアラザレバ曷ソノ體ヲ伺ハム、嘗云、新水活水大江流水皆好、然レドモ道遠ケレバ厚味ヲ失フ、飛泉湍流陰翳ノ澗水ハ、性ハゲシウシテ宜シカラズトゾ、又云、井泉流水ハ體輕ク、味ヒ廿キヲ嘉シトストイヘド、水ノ甘キハイカデカ知ベケン、皆オホカタノ説ニシテ、未ダ試ミザル水ハ茶ヲ烹ニ及デ其品ヲ定ムベキ、夫レ水ハ地脈ニヨリテ〓湧ストイヘド、五味ナク、只鹹鐵士ノ三氣ヲ狹ム、サレド其微ナルハ、單飮シテ之ヲ口裏ニ識ルベカラズ、只茶ヨク其體ヲ知テ其神ヲ顯ハス、今コレヲ審ニスルニ、井泉江水及輕重ニ抱ハラズ、平旦ニ新汲水ヲ取、白瓷鍾三箇ニ盛テ、一ニハ鮮明ノ鐵線ヲ 投ジ、一ニハ硏末セシ五倍子ヲ投ジ、一ニハ瑩徹ノ明礬ヲ投ジ、淸室中二置、一夜ヲ過テ是ヲミルニ、鐵線クモルモノハ鹹氣ナリ、五倍子皂色ヲイタスモノハ鐵氣ナリ、明礬毛茸ヲ生ズルモノハ土氣ナリ、其三件全ク元ノ如ナルハ、極テ潔水、茶神ヲミルニ疑ヒナシ、僻地潔水ナキ所ハ、新水ヲ取、土瓶ニ盛リ煮熟シ、一宿露天シテ、明朝ニ上淸ヲ用ナバ稍佳ナリ、又流水ノ如キ、性ハゲシキモノモ此法ヲ取ベシ、寒中ノ水ヲ蓄置カ、蒸露鑵(ランビキ)ニテ水ヲ製スルモ可ナリ、サレド眞味ハ得ガタシ、陸放翁ガ入蜀記ニ、溺水ニ杏仁ノ末ヲ入テ、夕ヲ過テ飮ベシト云ヘリ、田藝衡ガ小品ニ、白石ヲ擇トリテ、泉ニ帶テ煮トイヘリ、是法タトへ宜シトモ煩シ、マタ綠天ノ雨、琅玕ノ雪ヲ烹ハ、幽境ヤムコトナキノ所爲ナメリ、

湯候

〔煎茶仕用集〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0793 湯候
茶を嗜む人、湯候をしらずんばあるべからず、點茶家者流には、みだりに湯を老爛するをよしとす、是何の益ぞや、余〈○大枝流芳〉したしく試に、湯久しく煎ばおもくなりて、生氣を失ふて毒となる、養生家に、久しぐ煮たる湯にて面を洗時は光澤をうしなふといへり、是にても其一つならざる事しるべし、况や何程ふるき釜にても、久しく煮ば鐵氣出て惡し、老湯は害ありて益なき事察すべし、

〔淸風瑣言〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0793 湯候
湯は甘泉淸流を擇び、法を以て煮るべし、茶經に老湯三沸の法を立、其候、始は茶瓶茶壺いづれにても先微々の音を出す、蟹眼魚眼散布等の序次有、中間には、四邊泉の涌が如く、珠を連ぬるに似、終は騰波鼓浪、こゝにいたりて水の性消、是茶を煮べき節也、是を過れば湯の性却りて鈍く、茶韻不興、茶譜には、其音を聽て候ふべし、初振驟の三音過て、無聲にいたり茶を烹ると見えたり、蘇廙の十六湯品に、湯者茶之司命也、湯濫りなれば、上品の茶も凡種となれると云り、

〔煎茶綺言〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0794 湯候
湯沸ニ新汲潔水ヲ盛、襄爐ニ活火ヲ起シ、初沸〈魚眼〉二沸〈連珠〉三沸〈波騰〉ヲ候シ、瓶中ニ茶ヲ投ジ湯ヲ沃ギ、湯面ノ氣眼ヲサマリ、茶脚沈ムヲ節トシテ、芳鮮ヲ喫スベシ、古人是ヲ初巡トス、初巡ハ則半韵色嫩、次ニ沸湯ヲサシ喫セシム、是ヲ再巡トス、則醇美廿冽ナリ、三巡則意况盡、 ムベカラズト、凡ソ煎茶ハ烹ニ逡速ヲ要トス、湯熟スレバ性弱ニシテ芳韻乏シ、マタ昔日ヨリ山林ノ人茶ヲ盌中ニオキ、沸湯ヲ衝、茶筅ヲモテ泡ヲタテヽ喫ス、是ヲ泡茶マタ沖茶ト云フ、實ニヒナビタル太古ノ風ナリ、

煎法

〔煎茶仕用集〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0794 庵茶
茶經曰、有觕茶、散茶、末茶、餅茶者、乃硏、乃熬、乃煬、乃舂、貯於瓶缶之中、以湯沃焉、謂之庵茶
五雜俎曰、古、時之茶、曰煮、曰烹、曰煎、須湯如蟹眼、茶味方中、今之茶、惟用沸湯之、稍着火卽色黃而味澁、不飮矣、廼知古今之法、亦自不同也、
此二條とも、こゝに云だし茶也、茶經すでにだし茶を云ば、謝氏が論のごとく、古になしとは云がたし、是茶を沸湯の中に入て、火を以て煮ず、香氣の發するを待て飮、世俗に云、隱元禪師始て日本に此法を傳ふと云り、本邦の茶は、だし茶によろしからず、舶來のものをよしとす、武夷山の茶まれに渡來す、得がたし、其香蘭に似り、茶少し焙して後、洗て瓶に入れ沸湯を入る、また洗はずしてもよし、渡來の茶、風味和品と異にして、又賞すべし、

〔淸風瑣言〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0794 煎法
蘇子瞻の詩、佳茗似佳人と云句有、予〈○上田秋成〉云、茶者高貴の人に應接するが如し、烹點共に法を濫れば、其悔かへるべからず、煎法蒸焙の茶は烹るに宜しく、炒茶は淹煎に宜し、法則先湯の茶を烹べきを候ひて、茶を急に瓶に投れ、卽手に火爐を去て盆上に置、一霎時熟するを待て飮べし、熟味 の候は、瓶中の茶葉の沈めるを節とす、淹茶は別鑵に湯を沸せて、茶瓶を沃盆の上に居て、茶を先瓶に投、瓶の外面より熱湯を沃ぎ、温氣を内に通ぜしめて後、瓶中に湯を汲入る也、杓を高く擧れば湯躍りて茶韻を勵す、熟味を待事、法上に同じ、又烹るに臨みて茶葉を洗ふ法あり、是茶に塵垢有を去爲也、別に瓦盆を儲て、〈是を漉塵と名づく〉新汲の水に一洗し、竹匙を以て瓶に移し、而後湯を汲入る也、沃盥の圖茶經に出たり、但上製の品は不洗、洗へば淸韻を脱す、鐺炒の茶は氣味共に濃く、洗ふて宜し、又淹茶の㨗法有、先瓶中に茶を投、一杓の温湯を汲入て茶葉を洗ひ、卽瓶の嘴より去て、更に熱湯を汲み熟候を待也、一二巡にして湯を次も可也、唯瓶を盡して、復烹るには及ず、茶譜の投茶法に、茶を先にし湯を後にするを下投と云、湯を半汲て茶を投、復び汲を中投と云、湯を先に茶を後にするを上投と云、春秋は中投、夏は上投、冬は下投宜しと云り、是精細の法也、然ども淹煎は〈卽下投なり〉茶葉の沈む事遲し、烹る〈上投〉に劣れる證也、茶疏に云、一壺の茶、〈壺は卽瓶の屬也〉只堪再巡、初巡鮮美、再巡甘醇、三巡意欲盡矣とぞ、多く不飮、暗中の害あるべし、廬同の茶歌に、一椀喉吻潤、二椀破孤悶、三椀披枯膓、唯有文字五千卷と云は、茶飮の節に適ひたる也、四椀に及て發輕汗、平生不平の事、盡向毛孔發と云ぞ、漸醉夢の境に入し者よ、五椀肌骨淸、六椀通仙靈といひ、七椀にいたら喫不得也、唯覺兩腋習々淸風生、蓬萊山在何處等の語者、大醉の妄言にして、五千卷隻字も胸臆に記すべからぬをしられて、酒仙の道路に倒るゝと異なる事なし、予前年浪華の喫茶家にて、點茶三椀を貪り、卽時に立て一里の行程を歸る、此日中冬下旬、郊外の晩景風尤烈しく、往來の人皆苦吟して走る、予一人北風を面に浴すれども、更に飢寒を思はず、却て輕汗を發し、薄暮蝸盧に歸りぬ、是暫く茶仙の醉境に入し者也、平生渴を患ひて、漏危の癖あれど、いまだ其害を覺らず、蓋暗中の損有べし、又茶錄に、茶を品する者、一人得神、二人得趣、三人得味、七八人是名施茶、と見ゆるをもおもへ、客主の淸雅、多飮にあらず、衆多にあらぬ事を、 分量
茶の分量、烹るは水一合に茶五分を適とす、濃きを好む者は是に增べし、炒茶は量を不過、又淹茶は大方に湯を次故に、量を增も宜し、但茶品によりて活用有べき也、色味共に濃に渦る者淸韻なし、

煎茶具

〔淸風瑣言〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0796 選器
茶瓶は小器を要むべし、湯候ひやすく、且客を迎へて再三煎るの興あり、只前煎の宿氣を去ざれば茶の色香なし、新汲の水に克々滌ひて再烹るべし、常に一煎して宿氣なからしむれば、客來たりて急卒の効有、怠るべからず、黃金銀錫の製造有、高貴の玩器、不試ば不言、分限に應じて玩弄すべし、磁器の功用尤佳なり、西土より渡せるは、形狀の文藻のみならず、用を專らと造りたれば宜し、古渡の物得がたし、淹煎の器、今も多く來たる、古代の物に比ぶれば麁品にて愛玩する者なし、古器を得んと欲する者効用の爲にて、點茶家の舜盌禹笻を撿索する談にあらず、古渡の茶瓶たまたま得たらば、京師の名工に摸さしめ、破壞の厄に備ふべし、
湯鑵、黃金白銀の製は措て論ぜず、錫鐵銅鍮瓦數品の中に、瓦罐の効勝れたり、銅鐵鍮の性臭、茶に敵す、錫は淡しく害なし、新古を論ぜず、鐵鑵を用ふる事、點茶家の弊也鐵鑵の湯熟爛すれば、古製といへども、鉎氣爛れ出て茶味を害す、茶譜に、湯用嫩、而不老と見え、茶疏に、過時老湯不用といへり、烹點共に害は同じ、試みよ終日煮過せし湯を以て面を洗ふに、其皮膚を刺す者は鐵氣也、且甘味とおぼゆるも卽鉎氣のみ、瓦罐も泥氣有は湯宜しからず、只新古美醜を論ぜず、湯の宜しきをえらぶべし、又茶解に湯銚と云有、釜め小而有柄有流者と云り、和名抄に、辨色立成云、銚子、和名佐之奈閉と云るは、都良香の銚子の銘に、多煮茶茗、飮來如何、和調體肉、散悶除痾と有を以て、當時は湯銚に茶を烹たる事を芝らる、又和名鈔の同條に、鐎、温器也、三足有柄と云も、銚の屬なるべ し、是等も茶具に用ひし乎しらず、
茶盞、或者茶杯とも云、是も小器を宜しとす、西土明世の製造白磁なる者宜し、茶史に、盞以雪白上と見ゆ、或は椀と云、鍾と云、甌と云、其形少(ワヅ)かの異有のみ、白磁を貴むは、茶の靑黃候ひやすきを以てなり、點茶家黑椀を貴むは、漚花の白色を試ん爲也、茶盞用ふる時、潔滌を專らと力むべし、茶略に、山僧迎客餉茶時、猶將濕絹茶碗内、再三掍拭、此誠得茶中三昧者と見ゆ、茶箋には、茶具滌爭覆竹架、俟其自乾佳、其拭巾只宜外面、切忌内、蓋布帨雖潔、一經人手、極易氣、縱器不乾亦無害と云り、共に深切の説也、諸書に盞と云、杯と云、椀と云、御國には上古より椀と云しと思ゆ、大和物語に、良峯宗貞五條わたりに雨やどりしたる家にて、あした菘を蒸ものと云物にして、ちやうわんに盛て出せしを、興有事に後まで忘れかねつると云事見ゆ、〈茶椀をちやうわんとなだらかにとなふる類、そのかみの詞づかひなり、これをある人長椀と解しは、いぶかしき事也、〉
火爐風爐、共に西土の製造佳也、効用を專らに造りたり、こゝに造れるも、かしこに象れる者宜し、茶具の圖、茶經に十二具を出し、附錄に七具を見はす、遵生八牋に十六具の目見ゆ、烹點共に今は長物と思しきもあれば、擇びて取べし、必備ふべき具、
火爐 風爐 苦節君〈茶經に圖あり、風爐を覆ふ具、〉 湯鑵 茶瓶 茶壺〈茶瓶と同用の者〉 水注 水杓 分茶盒 茶罌 茶匙〈竹或ハ瓢或ハ銅器〉 茶盞 飛閣 沃盆 水曹〈茶葉を洗ふ盤〉 受汚 納汚 烏府 降紅 團風 焙爐
小物は悉く器局に收むべし、竹籃を以て製するを都籃と稱す、總て器物は分限に應じ有に任すべし豪富の家には、珍奇を搜索めて著靡の情を恣にす、山林の士は、新麁を嫌はず、効用淸潔を專らと擇ぶべし、

〔木石居煎茶訣〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0797 〈和名〉こんろ 經〈○茶經〉に風爐とありて、其製銅鐵泥の三通りあり、眞〈○眞齋淸事錄〉には 凉爐とよべり、今用ふる所はこゝに圖〈○圖略〉するごときの類にして、形狀一ならず、いづれも明以後の製なり、按ずるに、コンロとよぶは風爐、凉爐等の唐音なるべし、しかるを俗間に崑崙の文字などを配當せしは、謂れなき傳會の説といふべし、
〈和名〉こんろぶた 錄〈○茶錄〉に爐蓋とあるは、疏〈○茶疏〉にいふ所の雪洞にして、今末茶家に用ふる雪洞是也、こゝに圖〈○圖略〉するはコンロブタにして、近ごろ新渡にたま〳〵これを見る、コンロに火を、用ひし後、これをもて覆ふに、灰燼騰散の憂ひなく、頗る便利を覺ゆ、舶來に蓮葉などをかたどれるもの多し、
〈和名〉ゆわかし きびしやう 杜〈○杜氏全集〉に急須、疏〈○茶疏〉に茶注甌、注湯銚、資〈○資暇錄〉に茗瓶、會〈○曾典〉に茶瓶、間〈○間情偶奇〉に茗壺、類〈○類書纂要〉に砂罐、眞〈○眞齋淸事錄〉に茶壺など、さま〴〵の名、種々の形もあれど、いづれも明以後のものにして、ユワカシも、キビシヤウも、素より一物なるを、三四十年來淹茶になりてより、ユワカシとキビシヤウと、二物のごとくもてはやす俗習とはなりぬ、〈○中略〉石〈○石山齋茶具圖譜〉に急尾燒の稱あり、キビシヤウの和名は、全くこゝにもとづくなるべし、
〈和名〉ひしやく 經〈○茶經〉に又犧杓ともよびて、圖〈○圖略〉の如くふくべにて造り、或は梨の木にても作るとあり、譜〈○茶譜〉に分盈、花〈○花史左編〉に水杓などいふも、みなヒシヤクにして、或は竹の節ある所を底にして造れるなどの類多し、
〈和名〉みづさし 經〈○茶經〉に熟孟とあるは、漉したる水を貯ふるゆゑの名なり、譜〈○茶譜〉に圖する雲屯は、則こゝに圖〈○圖略〉するものにして、運びに便なるを旨とするものなるべし、備〈○居家必備〉に兩耳あるものを、水提點といへるも、又此雲屯の類ならんか、經に水方とあるは、四角なる水さしをいへり、まうきはすべて方といひがたし、
〈和名〉みづつぎ 疏〈○茶疏〉に〓水、石〈○石山齋茶具圖譜〉に水罐などいひて、圖〈○圖略〉のごとく後手、或は上手、或


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Last-modified: 2023-04-14 (金) 14:48:17