人部/誹謗〈罵詈併入〉

p.0673 誹謗ハ、ソシルト云フ、大ニシテハ、濫ニ國家ノ政事ヲ誹譏シ、小ニシテハ、陰ニ陽ニ他人ノ行爲ヲ詆毀スルガ如キ是ナリ、
罵詈ハ、ノヽシルト云ヒ、舊クハ又ノルトモ云ヘリ、他ニ對シテ、己ノ鬱憤ヲ散ジ、若シクハ他ヲ侮辱センガ爲ニ、高聲ヲ放チテ、之ヲ惡口スルヲ謂フナリ、

名稱

〔新撰字鏡〕

〈口〉

p.0673 嗤蚩〈同、充之于之二反、(中略)曾志留、〉

〔同〕

〈言〉

p.0673 訾〈玆此反、上毀量也、思也、曾志留、語聲、〉

〔類聚名義抄〕

〈五/言〉

p.0673 〈不禮反ソシル〉 詆〈正〉 〈或〉 〈俗通〉 誚〈オ笑反 ソシルアサケル 譙字〉 譏〈居依反 ソシル和キ〉 議〈音魚又義 ソシル〉謗〈ソシル和ハウ〉 訾〈音髭 ソシル同レ呰 和シ〉 訾〈正 或〉 訕〈音刪 ソシル〉 誹〈非匪沸三音ソシル 和ヒ〉 諷〈ソシル和フウ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈所/人事〉

p.0673 毀〈ソシル毀譽〉 謗 誹 貶 詐 訕 誚 噁 諷 譏 詆 非 呰 短 蚩 箴 譣 〈諷 〉 訾 刺 讟 挑 〈已上 ソシル〉

〔同〕

〈比/疊字〉

p.0674 誹謗

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

p.0674 誹謗(ソシリソシル) 訾詆(同)〈史記〉 譏(ソシル) 訕(同)

〔同〕

〈九/言辭〉

p.0674 誹謗(ヒハウ)

〔倭訓栞〕

〈前編十三/曾〉

p.0674 そしる 詆毀をよめり、背するの義にや、又殺するにや、靈異記に訕をよみ、新撰字鏡に、嗤も訾もよめり、誹字、謗字も同じ、名人は人をそしらずといふ諺は、許魯齋が語に、君子省レ己、遑レ毀レ人乎哉とみゆ、

誹謗例

〔日本書紀〕

〈二十五/孝德〉

p.0674 大化二年三月、甲子、詔二東國國司等一曰、〈○中略〉故前以良家大夫使レ治二東方八道一、旣而國司之任六人奉レ法、二人違レ令毀譽(ソシリホマレ)各聞、朕便美二厥奉法一、疾二斯違法一、

〔日本書紀〕

〈二十六/齊明〉

p.0674 二年、是歲、於二飛鳥岡本一更定二宮地一、〈○中略〉時好二興事一、迺使二水工穿一レ渠、自二香山西一至二石上山一、以二舟二百隻一載二石上山石一、順レ流控二引於宮東山一、累レ石爲レ垣、時人謗曰(ソシリテタ)、狂心渠(ブレゴヽロノミゾ)、損費功夫三萬餘矣、費損造垣功夫七萬餘矣、宮材爛矣、山椒埋矣、又謗曰、作石山丘、隨レ作自破、〈若據二求成之時一、作二此謗一乎、〉

〔日本靈異記〕

〈中〉

p.0674 生二愛欲一戀二吉祥天女像一感應示二奇表一緣第十三
和泉國泉郡血渟山寺、有二吉祥天女 像一、聖武天皇御世、信濃國優婆塞來二住於其山寺一、睇二之天女像一、而生二愛欲一、繫レ心戀レ之、〈○中略〉其弟子於レ師無レ禮、故嘖擯去、所レ擯出レ里、訕レ師程レ事、〈○中略〉
訕〈ソヽリテ○ソヽリテ、恐ソシリテ誤、〉

〔日本靈異記〕

〈下〉

p.0674 誹下奉レ寫二法花經一女人過失上以現口喎斜緣第廿
粟國名方郡埴村在二一女人一、忌部首、〈字曰二多夜須子一〉白壁天皇〈○光仁〉代、是女奉レ寫二法花經於麻殖菀山寺一、于レ時麻殖郡人忌部連板屋擧二顯彼女人之過失一以誹謗、故卽口喎斜、面戻二於後一而終不レ直、

〔榮花物語〕

〈一/月宴〉

p.0674 さて參り給へり、〈○村上後宮藤原登子〉登花殿にぞ御つぼねしたる、それよりして御とのゐしきりて、こと御かた〴〵あへてたちいで給はず、〈○中略〉まいり給てのち、すべてよるひるふしおきむつれさせ給ひて、よのまつりごとをしらせ給はぬさまなれば、只いまのそしりぐさには、こ の御事ぞありける、

〔平家物語〕

〈一〉

p.0675 禿童事
いかなる賢王賢主の御まつりごと、攝政關白の御せいばいにも、世にあまされたるほどの、いたづらものなどの、かたはらにより合て、なにとなふそしりかたぶけ申事は、つねのならひなれども、このぜんもん〈○平淸盛〉世ざかりのほどは、いさゝかゆるかせに申ものなし、そのゆへは入道相國のはかりごとに、十四五六のわらべを、三百人すぐつて、かみをかぶろにきりまはし、あかきひたたれをきせて、めしつかはれけるが、京中にみち〳〵て往反しけり、をのづから平家の御事、あしざまに申ものあれば、一人きゝ出さぬほどこそ有けれ、よたうにふれまはし、かの家にらんにうし、しざい、ざうぐをつゐぶくし、そのやつをからめて、六波羅殿へゐてまいる、さればめに見、こゝうにしるといへども、ことばにあらはして申ものなし、六波羅殿のかぶろとだにいへば、道をすぐる馬車も、みなよぎてぞとをしける、禁門を出入すといへども、姓名をたづねらるゝにおよばず、京師の長吏これがためにめをそばむと見えけり、
○

罵詈

〔類聚名義抄〕

〈五/言〉

p.0675 詬〈呼豆反ノル(○○)〉 俗

〔同〕

〈九/ 〉

p.0675 罵 〈今正 音馬ノル サイナム〉 詈 〈今正 力智反 ノルサイナム 音離〉

〔伊呂波字類抄〕

〈能/人事〉

p.0675 罵〈ノル 罵入也〉 詈 訽 詢〈已上同〉

〔書言字考節用集〕

〈八/言辭〉

p.0675 罵詈(ノヽシル/ノリノリ)〈説文、正斥曰レ罵、旁及曰レ詈、〉 喤呷(同)〈文選〉 匉梨(同)

〔倭訓栞〕

〈前編二十三/乃〉

p.0675 のる〈○中略〉 罵署をいふは、乘の義成べし、

〔伊呂波字類抄〕

〈能/人事〉

p.0675 訇〈ノヽシル(○○○○)〉 喧 嘩 囂〈已上同〉

〔空穗物語〕

〈嵯峨院〉

p.0675 すざく院には、みかどやすくもおはしまさず、いでいりおもほしなげきて、をはしまさんとすれば、きさきのはらだちてのゝしり(○○○○)給て、いみじき事をし給て、このぬす人しらな んとて、うちての給へば、御心をやぶらじとて、えおはしまさず、

〔倭訓栞〕

〈前編二十三/乃〉

p.0676 のゝしる 文選に喤呻、又軿訇をよめり、眞名伊勢物語に匉訇と塡り、廣韵に大聲也と見ゆ、今の俗高聲といふ意也、罵(ノリ)知の義にや、新撰字鏡に聒もよめり、或は 字をよめども、字書に見えす、篇海に は熊虎聲也と見えたれば、是なるべし、或は詬をよめり、

〔常陸風土記〕

〈筑波郡〉

p.0676 古老曰、音祖神尊巡二行諸神之處一、到二駿河國福慈岳一、卒遇二日暮一、請欲二寓宿一、此時福慈神答曰、新粟初嘗、家内諱忌、今日之間、冀許不レ堪、於レ是祖神尊恨泣詈吿曰、卽汝親何不レ欲レ宿、汝所レ居山生涯之極、冬夏雪霜、冷寒重襲、人民不レ登、飮食勿二奠者一、

〔古事記〕

〈中/神武〉

p.0676 爾大伴連等之祖道臣命、久米直等之祖大久米命二人、召二兄宇迦斯一、罵詈云、伊賀〈此二字以レ音〉所二作仕奉一於二大殿内一者、意禮〈此二字以レ音〉先入明白其將レ爲二仕奉之狀一而、卽握二横刀之手上一、矛由氣〈此二字以レ音〉矢刺而追入之時、乃己所レ作押見レ打而死、

〔古事記傳〕

〈十九〉

p.0676 罵詈は能理氐(ノリテ)と訓べし、万葉十二〈二十八丁〉に、柜楉越爾(ウマセゴシニ)、麥咋駒乃(ムギクフコマノ)、雖詈(ノラユレド)、また於能禮故(オノレユエ)、所詈而居者(ノラエテヲレバ)、十六〈九丁〉に、將若異子等丹(ワカケ厶コラニ)、所詈金目八(ノラエカネメヤ)などあり、能流とは、もと詔宣などを云を、又如レ此人を辱しめて言ことにも用ふなり、

〔日本書紀〕

〈十九/欽明〉

p.0676 二十三年七月、同時所レ虜調吉士伊企儺、爲レ人勇烈、終不二降服一、新羅鬪將、拔レ刀欲レ斬、逼而脱レ褌、追令丙以二尻臋一向二日本一、大號叫〈叫咷也〉曰丙日本將齧乙我臗脽甲、卽號叫曰、新羅王啗二我臗脽一、雖レ被二苦逼一、尚如レ前叫、由レ是見レ殺、其子舅子亦抱二其父一而死、伊企儺辭旨難レ奪皆如レ此、由レ此特爲二諸將帥一所二痛惜一、

〔續日本紀〕

〈三十九/桓武〉

p.0676 延曆七年六月丙戌、中納言從三位兼兵部卿皇后宮左京大夫大和守石川朝臣名足薨、〈○中略〉性頗偏急、好詰二人之過一、官人申レ政、或不レ合レ旨、卽對二其人一極レ口而罵、因レ此諸司候二宮曹一者、値二名足聽一レ事、多跼蹐而避、

〔源平盛衰記〕

〈五〉

p.0676 成親已下被二召捕一事 西光法師ヲ召取テ、大庭ニ引居タリ、相國〈○平淸盛〉ハ素絹ノ衣ヲ著、尻切ハキ、長念珠後手ニ取テ、聖柄ノ刀サシ、中門ノ緣ニ立テ、西光法師ヲ一時睨テ嗔聲ニテ、無二云甲斐一下﨟ノ、過分ニ成上、朝恩ニ誇ル餘、無レ誤天台座主奉二流罪一、剩入道ヲ亡サント申行ケル條ハ、イカニ、アラ、希怪ヤ、希怪ヤ、凶、也、凶也、スハハヤ山王之冥罰ハ蒙ヌルハト宣ケリ、西光ハ天性死生不レ知ノ不當仁ニテ、入道ヲハタト睨返シテ、西光全ク謀叛ノ企ヲ不レ存、此恥ニアフ事運ノ窮ニアリ、但耳留事アリ、侍程ノ者ガ、靭負尉ニモナリ、受領撿非違使ニ至ラン事、何カ過分ナルベキ、始タル事ニ非ズ、去テカク宣、和入道ハ、イカニ王孫トコソ名乘給ヘドモ、昔ノ事ハ見ネバ知ズ、御邊ノ父忠盛ハ、正シク殿上ノ交ヲ嫌レシ人ゾカシ、其嫡子ニテオハセシカバ、十四五マデハ叙爵ヲダニモ不レ賜、シカモ繼母ニハ値タリ、難レ過カリケレバコソ、中御門藤中納言家成卿ノ、播磨守ニテオハセシ時、受領ノ鞭ヲ取、朝タニ ノ直垂ニ、繩絃ノ足駄ハキテ通給シカバ、京童部ハ、高平太トテ咲シゾカシ、其ヲ恥シトヤ思給ケン、扇ニテ顏ヲ隱シ、骨ノ中ヨリ鼻ヲ出シテ、閑道ヲ通給シカバ、又童部ガ先ヲ切テ、高平太殿ガ扇ニテ鼻ヲ挾タルゾヤトテ、後ニハ鼻平太々々トコソイハレ給シカ、去ドモ故刑部卿殿〈○平忠盛〉近江國水海船木ノ奧ニテ、海賊廿人ヲ被二搦進一タリシ勳功ノ賞ニ依テ、保延ノ比カトヨ、御邊十八歟十九歟ニテ、四位ノ兵衞佐ニ成給タリシコソ、人々トシト申シガ、其ガ今太政大臣ニ成タルヲコソ、下﨟ノ過分トハ申ベキ、此條ハ爭カ諍給ベキト、高聲ニ門外マデ聞エヨト云タリケレバ、入道餘ニ腹ヲ立テ、爲方ナカリケレバ、緣ノ上ニテ三踊四躍々給フ、猶腹ヲ居兼テ、大庭ニ飛下、西光ガ頰ヲ蹴タリ、蹈タリシ給ケレ共、西光ハ口ハ少モ減ズ、去テ其ハ左ハ無リシ事カ、彼ハ有シ事ゾカシ、哀足手ダニモ安穩ナラバ、報答申シテン下云ケレバ、入道何如樣ニモ謀叛ノ次第委ク相尋テ後、シヤ口割テ誡ヨト宣ヒケレバ、〈○下略〉

〔源平盛衰記〕

〈四十二〉

p.0677 屋島合戰附玉蟲立レ扇與一射レ扇事 同〈○元曆二年二月〉廿日卯時ニ、源氏五十餘騎ニテ、屋島ノ館ノ後ヨリ責寄テ鬨ヲ發ス、平家モ聲ヲ合テ戰、〈○中略〉武藏三郎左衞門尉有國、城ノ木戸ノ櫓ニテ、大音聲ヲ揚テ、今日ノ大將軍ハ誰人ゾト問、伊勢三郎義盛歩出シテ、穴事モ疎ヤ、我君ハ是淸和帝ノ十代後胤、八幡太郎義家ニ四代ノ孫、鎌倉右兵衞權佐殿〈○源賴朝〉御弟、九郎大夫判官殿〈○源義經〉ゾカシト云、有國是ヲ聞テ大ニ嘲、故左馬頭義朝ガ妾、九條院雜司常葉ガ腹ノ子ト名乘テ、京都ニ安堵仕難カリシカバ、金商人ガ從者シテ、蓑笠笈背負ツツ、陸奧へ下シ者ノ事ニヤトイヘバ、伊勢三郎腹ヲ立テ、角申ハ北國砥波山ノ軍ニ負テ、山ニ逃入、辛命生テ、乞食シテ這々京へ上ケル者也、掛忝ク舌ノ和ナル儘ニ、角ナ申シソ、サラヌダニ、冥加ハ盡ヌル者ゾ、甲斐ナキ命モ惜ケレバ、助サセ給ヘトコソ申サソズラメト云、有國ハ我君ノ御恩ニテ、若ヨリ衣食ニ不レ乏、何トテ可二乞食一、東國者共ハ、黨モ高家モ跋跪(ハイツクバグ)コソ有シガ、金商人ト云ヲダニ、舌ノ和ナル儘ト云、況年來ノ重恩ヲ忘、十善帝王ニ向進テ惡口吐、舌ハ如何有ベキ、就レ中汝ガ罵立耳ハユシ、伊勢國鈴鹿關ニテ朝夕山立シテ、年貢正税追落、在々所々ニ打入、殺賊强盜シテ、妻子ヲ養トコソ聞、其ハ有シ事ナレバ、諍所ナシト云、〈○下略〉