https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 拳ハケント云フ、其法種々アリト雖モ、多クハ兩人相對シテ、互ニ手指ヲ以テ、蝓贏ヲ決スルモノナリ、

名稱

〔倭訓栞〕

〈中編七/計〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 けん〈○中略〉 酒にいふは拳字を書り、唐山にてhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m02319.gif 拳といふ、古への拇陣也といへり、又打拳とも見え、五雜爼に手勢令といふも同じ、今唱ふる所のすううくちえまはまなどの數目も、唐音也といへり、

〔芝屋隨筆〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 拳をうつ事を、漢土にて拇陣と云、又にぎりこぶしにてするけん、ねぢなんごと云戯を猜拳と云、猜はうたがふ事なり、

種類

〔飛鳥川〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 子供寄あつまり、咄合抔互にいたすに、大方爺は山へ柴かり、婆々は川へ洗濯などと云昔噺專也しに、今〈○文化〉は虫拳、狐拳、本の拳抔するもおかし、

〔拳會角力圖會〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 むし拳
蛙、蛇、蚰延、蛙はなめくじりに勝、なめくじりは蛇にかち、くちなはゝまた蛙に勝也、向ひあわせにゐて、一二三のこゑにて打事なり、

〔嬉遊笑覽〕

〈十上/飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0228 蟲拳などは童部のみすなり、拇指を蛙、食指を蛇、季指を蛞蝓(ナメクジ)とす、相制するもて勝負をなす、〈○中略〉五雜爼〈六〉、後漢諸將相宴集爲手勢令、其法以手掌虎膺、指節爲松根、大指爲蹲鴟、食 指爲鉤戟、中指爲玉柱、無名指爲潜虬、小指爲奇兵、腕爲三洛、五指爲奇峯、但不其用法云何、今里巷小兒有中指之戯、得其遺意乎、〈これによれば蟲けん却て雅に近し、古めけり、中指といふもの今の拳なるべし、〉

〔拳會角力圖會〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0229 太平拳
圖〈○圖略〉のごとく車座にならび、五人なちば五人、拾人ならば十人居りて、誰よりよみ出すといふことを、最初にきはめをきて、いづれもみな、おもふほど指を出して、其指の數ほど、目當の人よりよみ出し、二十ならば二十、また三十ならば卅めにあたる人に酒を呑す事なり、此拳にあたらざる間は、すこしも酒を呑事ならず、どふぞして、あたれかし〳〵とおもふところへは、とんとあたらず、かへつて下戸の所へ度々あたる事多し、上戸も下戸もたがひにこまる間が、殊のほか可笑(おかし)きも、のなり、扨此拳にあたる人は大に福ありといふて、崎陽にては正月の賣初、または戎講などの酒席にて、專らにする事なりとそ、人々此拳をなして、其面白き事をこゝろみ給ふべし、勿論本拳をしらざる人にても、出來る事なれば、其席おほひに賑はひて興あるものなり、此拳一名連子(れんこ)拳ともいふなり、
匕玉拳(すくひだまけん)
是も圖〈○圖略〉に出せしごとく、唐桑(からくわ)、花梨(くはりん)、紫檀(したん)ありとのかたき木にてコツフを造り、〈圖のごとくすこし長き形のコツフなり〉本に長き紐を付、そのはしに同木にて造りたる玉を結び付、右の木酒器(こつふ)へ彼玉を五遍のうちに一遍すくひ入るか、又三べんの中に一へんすくひ入れるか、いづれにても最初のきはめによりて玉をすくひ込み、勝まけをあらそふ、此拳雙方かはる〴〵にする事なり、〈尤すくひそんじたるかたにさけを呑す也〉是も酒席に興ありて、はなはだ面白き拳なり、〈是玉をすくひ込みて、其日々々の吉凶をもこゝろみ、または待人などをもこゝろみる事也〉
盲人拳 此拳雙方ともに指を出さず、互に一時に聲を出し、向ふより一拳上をいひし方が勝なり、たとへば、むかふ一(イツコウ)といふとき、手前二(リヤン)といふこゑを出せば則勝なり、幾度にても一より十まで同じ事なり、
長崎丸山の尾崎といふ所に富都(とみいち)と、いふ法師あり、此人と拳を打に、たがひにこゑを出すうち、彼法師むかふ相手の手の甲を其度ごとに撫て、先の出せし指を知るに、すこしも違がふことなし、此法師は長崎におゐて、拳の上手の内なり、尤三味線も甚名人なりとぞ、今文化五年にて、年頃廿六七歲といふ、奇妙の法師也、
庄屋拳
庄やどのは鐵ほうに勝ち、鐵鉋はきつねにかち、狐はまた庄やに勝也、いづれも一二三の拍子にて、圖〈○圖略〉のごとくするなり、〈○中略〉
交拳(まぜけん)
此拳は、まづ初は、たがひにつねのごとく、一拳こゑを發し、二拳めはむし拳にて、たがひに指を出すべし、又三拳めは常の拳なり、四拳めまたむし拳、五拳めつねの拳と、段々につねの拳と、虫拳を交々に打なり、右のごとく打合ふ間に入まぎれて、むし拳の場にて、つねの拳のこゑを出すとき則負なり、またつねの拳の所にて、むし拳の指を出すときは、是もまた負なり、むし拳のところも、本拳のところも、勝負のところはつねにかはらず、さて此拳いたつておかしきものにて、酒席にては尤興あり、京師浪花などにてははなはだ稀也、〈むし拳を出すときは、よひといふかけごゑにて出すなり、〉
虎拳(とらけん)〈和藤内 母親 虎〉 〈和藤内はとらに勝ち、とらは母親にかち、母親はまた和藤内に勝なり、勿ろん地方あるベし、〉
是も前の庄屋拳のごとく、三人の役を二人にてする、圖〈○圖略〉のごとく屛風襖などを隔てゝ、立かたにて二人ともおもひ〳〵の振りありて、一所に出逢ふて勝まけを見ること也、酒氣を散じ、至 ておもしろくおかしきものなり、〈尤母親のすがたは、杖をつきて老人のふり、虎は這ふて出る、いたつてつよき身ぶりして、白眼み付るなり、〉

〔拳獨稽古〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0231 取上拳(とりあげけん)の事
此拳は十拳打なれば、十けん打と定め、人數たとへば五人なれば、四人と十けんづゝうつなり、かくして銘々四十拳打となる、不殘うちをはりて點數を〆て、てん數多きを順々に、天地人、外何番として甲乙つくなり、〈○中略〉
片(かた)拳の事
此拳は相手にはじめ出すかと聞、相手初め出すときは、此方たゞ聲計よびて、さきのゆびにこゑのあへばとる、あはざるときはかちまけなし、またその次は、此方よりゆび出す、先に而こゑばかりよびて、手出さず、こゑのゆびにあへばどるなり、かく幾度も一ツかはりにだして、四けんとりてはらひ、五けんめ一本をかちとする也、〈尤呼聲ごうまで也〉
源平拳の事
此拳は先百拳打なれば、百拳打と定め置、人數十人なれば、左右に五人づゝ順を立置、下手と下手と合せて、けん木三本ヅヽうたせ、二本とりたる方殘り居て、向がはの段々上の强き人と合せうたす、また此方に而まければ、先の順の人出てうつ、かくして百拳となるとき、源方のてん數いくほん有、平かたの點かずいくほんあると、總數〆て、てんの多きを側のかちとする也、又側々にて天地人外何番と、點數多きをさきにして、段々甲乙つくなり、

〔七拳圖式〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0231 七拳圖
左にみえたる七賢の各を呼で拳をうつべし、拳の數は句の俳名を見て、おのづからしるべし、必しも圖する所の手の形にかゝはる事なかれ、勝負はつねの拳に同じ、たゞ八九十(はまきうとうらい)のなきのみなり、但無手を沒有(もいう)といふなり、 阮藉〈○圖略、下傚之、〉 煮て食ふ下戸こそ白眼(にらめ)初がつほ 逸口(いつこう) 嵇康 夜は月をきたふ水あり夏柳 凌也(りやんや) 山濤 雲ひとえうちの月みる友もがな 山阿(さんな) 向秀 笛の音にむかし忍ぶの軒端哉 澄湯(すむゆ) 劉伶 いでや此雪に埋まば醉死ん 江齋(ごうさい) 王戎 、眦(まなじり)にくはで味ふ李かな 呂馬(るま) 阮咸 ふどしさらす秋や心の唐錦 茶磨(ちやま)

手法

〔拳會角力圖會〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0232 初心打習心得之事
先初心より拳を打ならはんとおもはゞ、一より十迄の聲をおぼえ、眼當とするに、楊枝かまたは竹串などをむかふにたてをきて、たとへば相手のイツカウを乞ひとるこゝうならば、串一本たてゝこひとるべし、それもイツカウ、リヤン、サン、スウ、ゴウ、リウと稽古すれば、打登(うちのぼ)りといふ癖手になる、またリウ、ゴク、スウ、サン、リヤン、イツカウとけいこすれば、下手(くだりて)といふ癖付てよろしからず、右の通りのぼりくだりにならぬやう、間ばらに稽古すべし、次に相手のよく出る指は、何からなにへかよふとおもふところにこゝろをつける事、考がえの一なり、倂しながら初心のうちは、思案工夫をするよりも、只達者にうつ事ばかりをこゝろがける方尤よろし、其云は、〈ま事の角力の地取に押押といふて、只おす事をおもとして敎ゆ、すべて此理に同じ、〉思案工夫は上達の後にすべし、其中に相手より乞に來る手を、我耳に聞込事を、兼々底心におきて打ざれば、何日(いつか)、上手の場にいたる事なし、
拳は酒席のたはむれといへども、禮儀を第一とす、禮儀なきときは、他の見聞もよろしからず、心得べし、多くは相手、にむかひ、我方へ一拳折かけ、二拳めを折かけるときに、ハ子イなどゝ、下知をなすに似たる言あり、男子にさへよからぬ言葉なるに、女子にまゝありて、甚聞ぐるしきものなり、よく〳〵かん、がへ愼しむべき事なり、〈全たひ是まで聞ゆるしてある、非言といふ事こそ可笑(おかし)、もつとも非言とは、ことばにあらずといふ文字に當れども、行司が團扇を引てより、角力取が濘倒(すべりこけ)たりとて、濘倒(ねいどう)などゝいひしことむかしより聞ず、此外さま〴〵おかしき事あまたあり、考がふべし、〉
相手に向ひ打合時心得之事 相手にむかひ打ときは、よく心をしづめ氣をおとしつけ、ずいぶん慥にして、他の事をおもはず、一心を拳によせてうつべし、すこしにても外のことをおもへば、勝をとる事なりがたし、只向ふを取りひしぐやうの心持第一なり、すこしにても臆する氣味あれば、其氣つれて負るものなり、兎角丈夫に氣をもちて打ときは、其氣に乗じて勝あるべし、
總じて未熟にて弱き拳は、手の癖もすくなく、こゑかたよりて一ヲ出せば、サン、スウより外のこゑは出ず、五ヲ出せば、リウ、ゴウよりほかのこゑの出ざるもの也、兎角我指の役々を、こゑに出す事を得ざる故に、始終手の數、こゑの數ともにすくなくして、只むかふに出す手の多きものばかり、我目にかゝり、あるひはかよひ、押もどりなど、それをもまた取に行事もならず、只こゝろばかりせき〳〵向ふへ行のみなり、是等の事も段々手錬の上にて、よくかんがへ工夫をなすべし、中通りの拳は、たいてい早戻り、をし戻りなど多くうつものなり、是等の事もよく考がへてうつべき事なり、
上手の拳は、すべて手の癖も多く見得て、指の替もはやし、是また大ひにこゝろ得あるべき事なり、總じて拳を打ときは、相手百人に向へば、百人とも、各々拳の調子の違ふものと知るべし、
相手の調子をそれ〴〵にとくとかんがへ、其勝手、不勝手をこゝうにとめて、先の氣變をよくはかり、透を見あはせて打事を專一とすべし、扨また拳を捨てうつ事あり、又かゝえて打事もあり、打合あひだに先と合聲になる事幾度もあり、此時先の氣を能々かんがへて打べし、又此方より先へ取らるゝ手を、合聲にする事有、またこゑの調子あげさげする事あり、よく〳〵心得べし、實に是等の條々は、はなはだ意味ある事なり、深く考がへ工夫をなして、由斷なく打給ふべし、
拳を上達せんとおもはゞ、毎日拳數を五六百拳も、つとめて日數六十日ばかりも打て、また十日計も休み、また六十日も前のごとく懈怠なく打續きて、我指にとんと氣もとゞまらず、常氣(へいき)にな るやうにすべし、其後我指のか、さねを、程よくがんがへて打時は、自然と上達し、功者も出來るものなり、
相手の癖に、ずいぶんこゝろをつけ、見出してうつときは、始終の勝をとるべし、斯のごとく心を用ゆれば、此方のすこしづゝの癖は、先の相手へは、ひとつも知れぬ道理なり、たとへをのれ上達すればとて、手のつたなき拳は、おほひに恥辱にして、人々の用ひもなし、此意をよく愼しみて、稽古する事を專一とすべし、〈丁べて拳によらず、何事をけいこするにも、只最初に付たる癖は、終りまで去らぬものなれば、初心のときより、よく心を用ひ、見ぐるしからぬやうにけいこすれば、上達の後にても、實に名人の場へも至るべし、〉
拳をうつに、甚こゝうせかれて、氣のたつものなれば、隨分臍卞にこゝろをおきて、兎角向ふ相手の、氣にもたゝぬやうにうつときは、自然人も恥て工合もよく、打にはなはだ打やすきものなり、拳をならふには、聲の調子をよくさだめ、自身の意にも應じ、よき調子は爰といふところを常々考がへ覺へをくべし、

〔拳會角力圖會〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0234 初拳を勝拳心得之事
初拳をかちて多く負になる事あり、これ氣のゆるむ所なり、はじめの拳に勝たるとき、負たるこころになりて、すこしもゆるめず打べし、まけたる方には大事とおもひ、ゆだんなく打、勝たる方には、すゝみすぐるものなり、夫も先が我よりいたつて弱き拳なれば追廻し、うろたへさせて取事もあれども、先へすゝみ過るはよろしからず、また我より下の拳を打ときは、わがおもふやうにゆびも出れども、我より上手の拳に向て打時は、指の自由なりがたし、こゝに習も口傳もあるべし、萬藝我よりたかき人にむかへば、常より二割も我藝のすくむものなり、是其一ツに魂のいらざるところなるべし、始からむかふの人は、我より上手ならんと、其人にのまるゝやうなこゝろにては、拳に利を得る事なし、本心を臍の下におとし付、見くだしてはうが利なるべし、あま りむかふを見あげて打ば、利を失なふ事あり、其餘は臨氣應變なり、
全體拳を打に、一三五七九(ンウエヒ)半冫指を出ときは、手の表を出し、また二四六八十(ンウウマイ)の手を出すときは、手の裏を出すが本意なれども、段々拳の流行するより、さま〴〵と考へ、誰それが手は肩先より打おろす時は、何の手が出る、打出しには何の手を出すといふやうに、目かしこくなりしより、近世裏表にかゝはらず手を出す、裏表にかゝはるは則陰陽なり、
拳に己を捨るといふ事
五人びろいなどのとき、四人までひろいて、跡壹人にかゝりて、相手に初拳を負、二拳めもまた其相手にをりこまれたるとき、己をすてゝ打事あり、をのれを捨るといふは、我指にすこしも心をかけずして打事也、すこしにても我指にこゝろをかけては、相手を仕とめる事おぼつかなし、尤我指にこゝろをつけて打は、平常の事なり、今爰ぞといふけはしきときにのぞんでは、我指に心をとゞめず己を捨べし、

〔嬉遊笑覽〕

〈十上/飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0235 類柑子に、或第宅のことをいふ、内から國のうたを扇にうつし、拳といふ酒のみかはして、松落葉、はやり歌かんふうらん替りヤンシウ(/リヤンスー)ウスンイロ(/スムユ)マ(/六)リヤンケンタニコタマサンチエマサンナハラリトサケノカンオナジコト梅ノ花トウライキウコ五ウリウスウ、これら訛りてさま〴〵にいひしなるべし、

〔拳會角力圖會〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0235 土俵勝負拳之事
初拳一拳を勝ち、また續て一拳勝たるを、二番勝といふなり、中の拳一拳負たるとき、是を取分といふ、次の一拳勝負にてかちたる方、是をすなはち勝負勝といふなり、
京都堺などは、みな五拳の折詰といふて、指を合す度々に打込、四本折て、はらひといふて、指をみな拂、五本めの拳、一本合せ勝となるなり、是も向ふは一本右折ず、手前五本折ときは、二本の勝に て是を丸といふ、また向ふ四本折たるを拂ひて、手前一本もなき時より、五本折たれば、是三本の勝になるなり、たとへば向ふに一本、初拳をかちたりとも、前のごとく手前三本勝たるときは、勝負勝になるなり、則此拳を△(無)といふ、兩方とりわけになりて、次の勝負拳を十五の一といふなり、また向ふに一拳かち、次に手前はまへに云丸といふて、五拳折かちたるを、是を叶勝といふなり、則京師堺などの拳の立法なり、
つき出し一ツ合すを勝とするは、是を薩摩拳といふ也、

〔拳獨稽古〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0236 大坂拳の事
此拳は呼聲なし、只ゆび計出して、先のゆび此方のゆびと出して見、たとへば先ニ而握り出せしとき、此方ニ而一本出したるは、一本のかたかち也、先ニ而一本出し、此方ニ而一本出したるは、二本のかた勝也、かくの如ぐ一本ましをかちとす、餘のゆびかづとなれば、かちまけなし、先ニ而五本出せし時は、無手ニ而取なり、餘はじゆんじ知べし、
大坂にてはをりはねといふて、初けん一本此方ニ而とり、また先ニ而一本とり、二本めまた此方にてとりたるとき、先にて二本めをとれば、此方ニ而二本めのとりたるゆびはねるなり、互にかくして、二本め三本めとつゞけてとりたるかた、かちとするなり、

名人

〔拳會角力圖會〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0236 浪華拳諸名家組々表附
〈北船場〉古定組 大關 義友 關脇 東士 小結 舍亭〈○中略〉 頭取〈米萬 蘆萑 平嘉〉 組頭〈義浪平辰〉 〈中船場〉新定組大關 文樂 關脇 花石 小結 都水〈○中略〉 〈北船場〉寶組 大關 巴水 關脇 可一 小結 文橋〈○中略〉 〈中船場〉鶴組 大關 定信 關脇 專イ 小結 香車〈○中略〉
京都拳名家 關取分 文字霞 浦島 八重谷 海士錦 瀧霞 司馬藤 沖錦 繫藤 四方雪 源氏綱 色紙波 岩戸車 千歲波 御崎灘 五百湊 御代谷 八十島 濱霞 兒櫻 渦霞 八雲巖〈○中略〉
長崎拳名家表附 大關 小牟田友助 關脇 木原榮吹郎 小結 小牟田太次郎〈○中略〉 大關 平山太四郎 關脇 竹内喜平次 小結 西村喜藏〈○中略〉
國々名家拳 豐後日田 鍋屋半八 鍋屋甚三郎 京屋亦八 京屋爲三郎 鍋屋新太郎 羽野養順 京屋小三郎 筑前博多 久理屋甚六 福田屋勘兵衞 弦屋半四郎 肥前佐嘉 西村源兵衞 吉田勘兵衞 筑後若津 半治 榮藏 武三郎 肥後熊本 金屋淸助 荒物屋新吉 守口屋民八 菓子屋榮助 薩摩屋榮吉 肥前大村 淸治郎 竹三郎 文治郎 久留米 大八島 藥八 八郎兵衞 紀州若山 服部 杜友 河庄 如月 竹久 新虎 歌扇 河久 糸遊 紀三七 住保 岡新 粉武

拳會

〔拳會角力圖會〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0237 行司演舌之事
東西々々、此所にをきまして晴雨に拘はらず、一日拳會つかまつりまするところ、其沙汰よろしうして、各々さまがた、御賑々しう御見物に御出くださり升るだんな、會元何某は申におよばず、組中の銘々、かずなりませぬわたくしまで、いかばかりか大慶の色をなしたてまつる、したがつて左右の力者力錺をかけまするあいだ、拳角力の故實をあらまし御耳に觸ます、皇のかしこき御代の神あそび、四海太平、五穀豐饒の祭たり、天ひらけて四象あらはれ、陰陽あつて萬物せうず、中にも拳な末げいたりといへども、すこしく其規摸をつたへ、角力となぞらへ、酒席のたすけとなし、組うち手練のほまれをあらはすとかや、爰に肥州長崎圓山開發のとき、彼所の靑樓に唐人あまたきたり、宴をまうけ遊女を招き、玉椀琥珀粲然とかざりたて、檻のまへには八珍をつらね、床の側には笙をならし、あるひはからうたを唱、こなたには金鼓をたゝき、喇叭をふき、意氣を勵まし、チンタ蒲萄の美酒をすゝむ、酒闌はにおよぶのころ、唐人左右にわかれ、禮儀正しく、上より は拳をひろいまはるあり、下よりは拾ひのぼるあり、火花を散しうちたゝかふ、やがて負と見えたる方家には、ギヤマンの大器に二三盃程づゝのみほして、うしろに退ぞく、其行儀正麗なる事、實に言語に述がたし、今世にいふ崎陽拳の濫觴是なり、扨其時中にも手練達者の拳を五人ゑり出し、此五人に打勝たるものには、虎皮五枚、豹皮五枚、猩々緋五本、羅紗五本、または美女五人など、さま〴〵の褒美を出し、其勝負を見んと、座中皆こぞりあへり、しかる處はるか末席より壹人の唐人あらはれ出、此五人の達人を何の苦もなくひろひまはり、同席にて美人五人ひろひなげにせしより、五人拾のはじめとす、是則陰陽和合の體なり、さるに因て眞の角力の土俵に阿吽(あうん)の二字口あり、阿は開て酒を呑、吽な塞で呑ぬとかや、唐玄宗皇帝の曰、拳な酒席の一助たれば、眞に愛すべきものなり、かならず上達の關取うつ、此事わするべからずとかや、拳角力のかゝりにも、十六箇の土俵を布、土はすなはち五行の主にして、餘の木火金水を四方に配る、是則四本柱なり、地取にとりては東西南北、須彌にとりては北は黃に、南は靑く、東白西紅に染色の山をうつし、四色の絹をもつて幕の上にはり、神明佛陀の御戸帳などゝいへり、なか〳〵左にあらず、北は水にして其性黑く玄武なり、北より卷出し北にてとめるゆえ水引と號く、實の角力な四つより出て、四ツの聲を放さず、それゆえ四々十六俵の布たるを土俵といふ、拳な一より十までのこゑなり、勸進角力は八方正面、拳のすまふな十方正面、一より十迄變聲あることは、今諸君子の知れる處なれば、長口じやうはかへつて番數のさまたげにもなりませうづから、唯何事もあらかじめ、まづは左右の力者をうたせ御一覽に入まする、〈拳會角力のとき、行司方五人ひらひの最初のかゝりに此口上を述、其後角力を合す、〉
行司仕樣之事
行事はかねて組々の名乘をよく覺へ、拳角力の節土俵にかゝり、一通り口演すみて後、拳土俵の東西に出かけて、寄方と書たる張紙あり、此はりがみに目をつけ、出かけの方より出がけ〳〵と 呼出し、次に寄かた〳〵と呼べし、さて雙方土俵にむかへば、出かけの方より名乘をあげて、其次に寄かた誰と名乘をあげ、角力を合すなり、もつとも拳の故實濫觴の事は、五人拾ひの最初に、行司を預人是を述る、〈此おもむき、眞の角力とはすこしの相違あり、〉
同行司意得之事
行事をあづかる人、第一に意得とするは、左右より打たる指をよくおぼえ、何々にてをりかけたりといふことを得と胸におとしつけ、幾度も折はね〳〵したるときに、うろたえぬやうにすべし、又左右ともにつかれ見え、たがひにこゑの合ぬことあり、其時中にて水を入れ、左右へ化粧紙をわたすなども席の摸樣なり、さてまた特(わざ)と聲の遲き拳、あるひはこゑをぬく拳あり、かやうのとき行司のはなはだめいわくする事あり、折にはまたイヤ〳〵〳〵とばかりいひて、拳のこゑが一こゑに、イヤ〳〵を十こゑもいふ拳あり、さほどいやなことなれば、最初よりうたぬがよひとおもふ事も儘あり、其餘色々むづかしき拳のあるものなれば、行司の役はいづれにも、ずいぶん氣ながにしんぼうをせねばならぬことなり、たとへ極寒にても玉をあざむく汗をながし、我家業よりも大切にして眼たゝきもせず、拳ばかりにこゝろをうつし宵より夜のあけるもいとはず、勝負の分るまで嚴重に相つとめる事なり、かくのごとく堅固につとめたりとて、誰ありて給銀をくれるものもなければ莪寶を散じて、此役を守るが行司の味なり、奇なり玅なり、〈○下略〉

〔拳會角力圖會〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0239 團(うちは)之圖〈○圖略、下傚之、〉 拍木之圖 拳錦之圖 手水桶之圖 相引之圖 土俵飾附之圖 弓之圖 弦

〔近世奇跡考〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0239 玉菊拳まはし
享保中酒を好む者、拳相撲といふことをして、もつはらはやりけるが、玉菊その事を上手にせしよし、新吉原小田原屋某玉菊が手におほひし拳まはしといふものを今にをさむ、甲がけと云も のゝごとく、黑天鵝絨(くろびつうど)にてつくり、金糸にてかくのごとき紋をぬひたり、〈○圖略〉是かの拳相撲にもちゐたる手おほひなりとぞ、

〔嬉遊笑覽〕

〈十上/飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0240 吉原などにも享保中に拳相撲といふことはやりて、遊女玉菊これを上手にして、拳まはしといふもの有とて、手覆めくものを、奇跡考に載たれど、その頃いまださばかりは行はれざりしと見えて、延享三年丙寅、吉原細見虎が文といふに、拳の圖解委しく出たり、かゝれば彼拳まはし後の物なるべし、明和七年、辰巳園と云册子に、拳すまふ有しことをいへり、江戸名物鑑、拳すまふとありて、其句、米かしや指て戰ふ秋の雲、唯拳を打つも拳すまふなり、

拳稽古所

〔天保度御改正諸事留〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0240 辰〈○天保十五年〉二月廿八日
市中之内、拳稽古所と申看板差出、又は看板無之致稽古候儀、御時節柄如何ニ付、組合限早々爲相止候樣、北御廻り方ゟ御談有之候間、御組合限早々行屆候樣、御通達可成候、
但右拳稽古所御差止被成候分、名前肩書幷看板之有無共、半紙竪帳ニ御認、來月二日北御番所 御腰掛〈江〉御持寄可成候、以上、
二月廿八日 定世話掛


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Last-modified: 2023-04-14 (金) 14:48:18