筓/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十二/冠帽具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419 擽鬢㕞 文選云、勁㕞理鬢、〈季善曰、通俗文所以理鬢謂之㕞也、刷音雪、〉釋名云、纛〈音盜〉導也、所以導擽鬢髮也、或曰擽鬢、〈擽音歷、和名加美賀岐(○○○○)、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四/冠帽具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419引嵇康養生論文、注鬢、原書作髮、此作鬢恐誤、〈○中略〉北堂書鈔引東宮舊事云、太子納妃、有漆畫猪氂㕞大小三枚、則知㕞雖以理一レ髮、然非加美加岐也、又按㕞、拭也、爲髮具名者、轉注也、〈○中略〉源氏物語眞木柱卷、榮花物語初花卷、謂之加宇加伊、卽加美加岐之一轉也、按今俗婦人首飾有加宇加伊(○○○○○○○○○○○)、蓋所以拘髻令一レ亂者、卽是簪、非㕞導之類、宜呼爲加无左之(○○○○○○○)、今俗呼加无左之者、插頭花之屬、蓋加佐之也、

〔毛詩註疏〕

〈三/偕老〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419 鬒髮如雲、不髢也、玉之瑱也、象之揥(○)也、傳、〈○中略〉〈揥所以摘一レ髮也、〉

〔伊呂波字類抄〕

〈加/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419 箆〈邊兮反 カムカキ 白云銀箆〉 笄〈音雞〉 鈿〈音田、婦人首餝、〉 篦 纓〈已上同〉 擽鬢㕞〈カムカキ、歷賓二音、理髮謂之㕞、〉 勁㕞鬢 纛〈已上同〉

〔易林本節用集〕

〈加/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419 髮搔(カフカイ)〈鉤匙(同)〉筓(同)

〔倭訓栞〕

〈前編六/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0419 かうがい 髮搔の義也、倭名鈔に擽鬢㕞、かみかきとみえて、かうがいは其音便なり、本草に搔頭尖ともみえたり、刀に副るかうがいも同物なるべし、〈○中略〉古へ髮を括り上て、かうがいにて留たり、兜鍪など著る時は髮を亂し、其かうがいを太刀にさす也とぞ、

〔倭訓栞〕

〈中編四/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0420 かみかき 倭名鈔に、擽鬢馭をよめり、今搔板といふ物成べし、元服にも用う、鬢板も同じ、

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0420 筓 かうがい かみかき
かみかきを、音をかよはしてかうがいと云は、ミをウと云ひ、キをイといふなり、髮搔にて、頭髮のうちのかゆき時にかくものなり、これを後には首の飾りにせしものなり、されば男女ともに用うることなり、

〔和漢三才圖會〕

〈二十五/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0420 揥枝(かうがい) 抿子 俗云加宇加伊
詩魏風云、佩其象揥、女子著揥於首、男子佩之、蓋揥枝整髮釵也、
三才圖會云、揥所以摘一レ髮、以象骨之、若今之箆兒(ヘラ)、古今註云、秦穆公以象牙之、敬王以玳瑁之、始皇金銀作鳳頭、以玳瑁脚、號曰鳳釵

〔俚言集覽〕

〈加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0420 髮搔(カウガイ)〈筓(カウカイ)〉
筓は刀の具、〈增〉古へは髮を搔くに用う、後世には婦人裝飾の品となる、又刀の鞘中に插むものをいふ、
女の筓は、三河及遠州にてほせ(○○)と云、

筓沿革

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0420 神代の髮の飾 笄
笄(かうがい)は本字筓(けい)なり、御國にて古書に髮搔(かうがい)とも書たれば、此物の本用は、今の毛筋立(けすぢたて)の如くにつかひ、あるひは髮の内の痒きを搔物としたるなり、
笄を髮の飾に插はじめたる起原
元祿中頃にいたり、笄髷(かうがいわげ)といふ髮の風、京より起り、諸國にうつれり、其結ぶりは、笄を髮の根もとにさし、これに髮を卷つけて狀(かたち)をなすなり、〈○註略〉笄は髮を理(つくろふ)物なるを、始て髮に刺物になりしは、 此笄髷おこりしよりの一變なり、〈○中略〉此後十五年たちては、稍々飾りに插物になりしや、眞葛原、〈享保六年板、鷺水撰俳書、〉あらひ髮にはさゝぬかうがい、〈付〉照のよき縮にすかすお湯の肌、前句の笄を玳瑁として照のよきと附たれば、享保ごろ〈今より百廿年ばかり〉よりかざりにもさしたりけん、しかれども皆一枚甲のひきぬきにて薄き物なり、俳書十七回、〈享保八年板、淡々撰集、〉かうがいの反(そり)たがるのは誰に似る、〈付〉極暑はおそきかまくらの道、鎌倉見物の旅の女中、菅笠の下なる笄、日の照と頭熱にて反りたらんとの句なり、笄のうすかりし證とすべし、

〔歷世女裝考〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0421 貞享年中女の頭に飾物十六品
貞享五年京板盛衰記、〈卷三〉今の女、むかしなかつた事どもを仕出して、身をたしなむ物の道具數々なり、首筋より上ばかりに入用の物十六品あり、〈○中略〉かうがい〈こゝにかんざしをかぞへざるにて、今より百五六十年前は、くじらぞうげなどのかうがいのみにて、かんざしはさゝざりしをしるべし、○下略〉

〔近世女風俗考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0421 揥枝簪の事
婦女の用ふる揥枝といへる物は、其始は髮をけずる具にて、髮を止めおくものにはあらず、近世揥枝髷といふ振出てより、髮鍵(かゝえ)の物とはなりぬ、古製は楊枝の如きものにて、竹或は角鯨の鰭にて甚素朴なるもの也、

〔近世女風俗考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0421 髮を結號の事
今の世に兩輪(りやうわ)といふ髷振を、むかしは筓曲といひしなり、異本女用訓蒙圖彙、〈元祿元年印本、此書貞享板本と同本、所所吹し敖、暫異本といふ、〉筓髷は、下髮せし奉公人など、其勤しまひ内々の局などに入、くつろぎまたはおのがじゝうち寄時、下髮は身持むつかしき故、くる〳〵と廻して筓にて假にしめ置たるなり、〈○中略〉此髻振も寬永の頃ほひよりありこしもの歟、左に證出する古書どもを見てしれ、知歌竹〈用附云々といへる條に、髮にかうがいをつけたりとあり、此書奧書に万治三年とあり、〉 諸國万句〈承應元年印本、三之卷十句第四、〉
前句 手ぎわにほりし家のかうがい 正之
附句 上臈はいとゞふりよき髮のわげ 信親
玉海集〈明曆二年印本、一囊軒安原貞室撰、春の部一の卷、〉
おのが枝をかうがいにさせ柳髮 行正〈○中略〉
女用訓蒙圖彙、貞享四年印本卷之三所載、かうがいわげの圖、〈○圖略〉是より古きもの未見、筓のかたち楊枝の如し、西鶴大鑑一之卷、銀の筓を楊枝にさしかへ云々といへるも考べし、物類稱呼四之卷に揥、參河及遠州にてほせと云々、〈春明云〉今も此五十瀨の國〈○伊勢〉には、木にもあれ、竹にもあれ、小さく扮しをほせくらといへるもおもふべし、

筓製作

〔諸家奧女中袖鏡〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0422 髮飾の事
一揥枝(かうがい)は御三の間以上、朝鮮形か、貝なり形を用ふ、
一同じ老若女の外は、角形にく太く短き品をも用ゆ、
一御廣式附若き女中は、角形にて差込の花小さきを用ゆ、
一兩添、後ろ指、總女中とも禁ず、
一揥枝は、御使番以下、角形にて長く目だつ品をば用ゆ、

〔雲萍雜志〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0422 洛の燈籠菴は、そのむかし小松内府〈○平重盛〉の燈籠を造られし所なれば、その名殘れりとぞ、六波羅より東南にあたりて小高きところなり、あるとき家をつくるとて、そのあたり掘けるに、筓の如きもの多く出たり、赤がねにしてその形丸く、左右に圓く合せたる玉の如きもの附たり、一尺あまりあり、予〈○柳澤淇園〉が友文鎭にしたるを見たり、古雅いはんかたなく至ておもし、往昔の質素たるをおもひやるべし、

〔後は昔物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423 おもふに物の流行、江戸は足早く、京都は足遲し、十年跡に京に登りて見たるに、帶の幅のせまき、筓の長(○○○)き等、江戸にてむかし流行せし事、其まゝにて有やうに思へり、

〔守貞漫稿〕

〈十/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423 筓〈カウガヒ〉之事〈○中略〉守貞曰、所詮笄ハ元來㧧具也、筓髷アリテ以來、髷ヲ止ル具トナル、又昔ハ筓簪トモニ形相似タリ、恐クハ一物二名歟、享保以來、耳搔アルヲ簪、耳搔ナキヲ筓ト云テ二物トナル也、又筓モ昔ハ竹、角、鯨髭ヲ以テ製之、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423
文化前、筓長大略一尺二寸、幅五分、兩端漸ク廣ク薄ク耳圓也、〈○圖略〉又右ト同形ニテ、象牙製ノ筓、端ヨリ一寸バカリ下テ、唐花ノ定紋〈○圖略〉ヲ漆書ニシタル兩端兩面トモ、四紋アル物、余〈○喜多川季莊〉近年歸坂ノ序、洛ニテ買得之テ、今モ藏セリ、〈○中略〉
今世〈嘉永中也〉京坂式正所用鼈甲製〈○中略〉
筓 長ケ概八寸、或八寸五分、其他如圖、〈○圖略〉或ハ幅五分半、今世京坂ノ筓兩端角也、古製ハ兩端圓也、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423 筓〈○圖略〉
地黑漆金蒔繪ヲ專トシ、近世用之、此形モ全ク無地金ノ上ニ蒔繪スルモアリ、又央黑ニテ兩端ノミ無地金或ハマキエモアリ、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423 寶曆六年印本ニ所載少女圖〈○圖略〉
島田曲
此鬂髱ヲ制セザルハ、大凡十二三ノ小女ト見ユ、然ルニ筓ヲ用ヒタリ、是今世ニ爲ザル所也、〈○中略〉當時ノ筓或ハ直、或ハ上ニ反ル、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0423 今世江戸市中所用鼈甲製圖〈○圖略〉 筓 極上製ハ全白甲ナレドモ稀也、多クハ上製ト雖ドモ、央ニ黑甲ヲ交ル、黑甲江戸ニテバラフト云、京坂ニテハモクト云、或ハフト云、〈○中略〉
江戸ノ筓ハ、片端角、片端圓也髷テ後ニ圓ノ方ヨリ插シ貫ク也、

〔守貞漫稿〕

〈二十/妓扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 江戸吉原遊女之扮ハ、京坂ノ太夫天神ヨリ甚ダ華也、江戸市中ノ筓ハ、當時甚ダ短カケレドモ、遊女ノ筓ハ、今モ長キヲ用ヒ、櫛モ甚ダ大形ナルヲ二枚サシ、〈○下略〉

筓種類

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 櫛挽 挍槩(○○)又これを商ふ、竹(○)、角(○)、象牙(○○)、鯨のひれ(○○○○)をもつて造る、

〔類聚雜要抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 一母屋調度
甲筥懸子納、〈○中略〉髮搔(○○)、〈平(○)二〉〈二兩一分〉〈細(○)二〉〈二兩〉〈○中略〉
懸子納、〈○中略〉平髮搔(○○○)四枚、〈四兩二分、各一兩三朱、單功八疋、各二疋、○中略〉細髮搔(○○○)四筋、〈四兩各一兩、單功八疋、各二疋、〉

〔雅亮裝束抄〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 わらは殿上のこと
かゝげのはこのふたに、〈○中略〉ときぐし一枚、ひらかうがい(○○○○○○)一つ、あぶらつぼにあぶらわたいれて、こがたなひとつ、これらをかゝげのはこのふたにいれて、さうぞくにぐしてとりいだすなり、

〔松屋筆記〕

〈百十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 かうがい
老談記に、信長公より印とて、金の髮搔(○○○○)を給はりけり、其人の名をとひしに忘れしといへり、

〔紫式部日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 臨時の祭の使は、とのゝ權中將〈○藤原敎通〉の君なり、〈○中略〉ありしはこのふたに、しろがねのさうしばこをすへたり、かゞみをしいれて、ぢんのくし、白がねのかうがい(○○○○○○○○)など、使のきみのびんかゝせ給べきけしきをしたり、〈○又見榮花物語

〔西鶴織留〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 古帳よりは十八人口
銀の筓に金紋を居させ、さんごじゆの前髮押へ、針がね入の刎鬠(はねもつとひ)を掛て、〈○下略〉

〔男色大鑑〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0424 心を染し香の圖は誰 過にし頃、勝尾寺の開帳に、大和屋甚兵衞誘ひて參詣しけるに、〈○中略〉後よりいまだ十六と見て十五なるべき美女の、〈○中略〉おとし懸のはね鬠(もつとひ)、すかし形のさし櫛、金銀(○○)延分(のべわけ)のかうがい(○○○○○)、〈○中略〉いづれに一つ惡き物好なく、あらのまゝなる素面、萬にいふべき所なし、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 元文年中三味線ノ根緖ニテ、〈○圖略〉ケマンムスビニシテ、カウガイニサシ、其外スヾ(○○)ノ類ニテ、コノ如ク拵ヘカウガイトス、

〔守貞漫稿〕

〈十/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 守貞云、右ニ筓ト云、乃今ノ簪也、其頃ハ簪ト云ズ、總テ筓ト云歟、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 享保末ヨリ、ピイドロ筓(○○○○○)ハヤル、筆ノ輪ノヤウニシテ五色ノ綿ヲ入タリ、後ニハビイドロヲ捻リテカウガイニサス、

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 角細工(○○○) 梗槩(○○)櫛揥、〈○中略〉角、象牙をもちゆるたぐひ、これをつくる、寺町通を始め處々にあり、

〔雍州府志〕

〈七/土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 象牙(○○) 以象牙幷水牛角器物、〈○中略〉凡書畫卷末軸多用之、近世婦人櫛篦(○)又用之、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 延享元年、金銀ノ櫛筓カンザシ堅ク御停止、其後象牙、ツノ、ベツカフ、錫等ニテコシラヘサス、寬延ヨリ御停止ニカマハズサスナリ、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 明曆アタリ迄ハ女ノカウガイ、〈○中略〉寬文ノコロヨリ鼈甲(○○)ヲサス人モアリ、〈○中略〉早正德ノ比ハ、下女モ鼈甲ヲサシ、グル〳〵結ナリ、

〔甲子夜話〕

〈四十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 松平防州ハ、當時浪華ノ尹ナレバ、當地ノ邸ニハ、婦女子ノ殘リ居ルニ、或夜コノ盜〈○鼠小僧〉入リタリト覺シキ、三月ト五月ノ兩度ナリシガ、〈○中略〉一婦ノ部屋ニテハ鼈甲ノ筓簪等ヲ取出テナミヨク雙べ置キ、銀簪等ハ、折曲ゲテ置キタルノミニテ一物モ取ラズ、〈○下略〉

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0425 明曆アタリ迄ハ、女ノカウガイ、多クハ鯨ノ棒カウガイ(○○○○○○○)ナリ、〈○中略〉貞享天和迄ハ、鶴ノ脛骨ノカウガイ(○○○○○○○○○)最上タリ、享保比ヨリハ供ヲツレル女ハ不用、老母ナド用タリ、元文ノ比ハ、馬ノ骨ヲ鶴(○○○○○) ノヨウニ拵(○○○○○)、價十錢位ニ賣ル、田舍出ノ下女ナド用ル、

〔類聚雜要抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 一庇具
紫檀(○○) 平髮搔(○○○) 各二兩一分 太如常也
單功一疋

〔俗つれ〴〵〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 是ぞ妹背の姿山
年のほど十四か五にもせよ、いまだ若木の莟、〈○中略〉落しかけの大島田、忍髻の上に中疊平結、〈○中略〉伽羅の(/○○○)角揥枝(かくかうがい/○○○)に靑貝の折菊、〈○下略〉

〔雲萍雜志〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 今や赤銅眞鍮の筓、あるひは竹(○)などにて造れるものは、丹波但馬の在所にてもさゝず、予〈○柳澤淇園〉が祖父の物がたりに、むかし大原にて男も筓をさしたり、近きころは、さすものなしといへり、竹にて短くつくり、結たる髮の横にさしけるとぞ、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 元文ノ比ハ、馬ノ骨ヲ鶴ノヨウニ拵、〈○中略〉竹ニ銀箔ヲ置(○○○○○○)タル筓モ、此時ナリ、下蒔繪櫛筓(○○○○○)ノ類、享保ヨリ延享迄ニ多ク仕出シタリ、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 さき筓(○○○)、金龍山千本櫻といふ繪草子に、〈享保十九年〉吉原の遊女兵庫曲にさしたる筓、本一つにて、末二つに分れたり、是さき筓なるべし、今京難波の婦人の髮にさき筓といへども、さる物も用ひず、もとはこの筓を用ひて結べる髮なるべし、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0426 武家ノ室息以下媵婢御殿風ニ結ブ者、或ハ此花筓(○○)ヲ用ヒ、或ハ無花ヲモ用フ、簪ニモ有之、〈○中略〉花簪大形ノ物ハ、筓ト同ク、別ニ差貫ク、小形ノ物ハ、初ヨリ足アリテ、簪ニ付タリ、花簪ハ、市中ノ處女十二三歲以下用之也、
筓ニ花ヲ付ルハ、御殿女中ノミ、市間ニハ無之、又京坂ニモ更ニ無之、
花筓武家下婢モ用レドモ先上輩ノ專用トス 花筓粗製ハ、朝鮮甲ノ摸物アリ、或ハ筓ノミ眞ノ鼈甲、花ハ摸物アリ、又筓花トモニ、眞物ヲ上製トス、
此花ノ如ク〈○圖略〉差貫クヲ、京坂ニテサシコミト云也、差込ト書ク、
花筓ハ、花アル方ヲ右ニ、花ナキ方ヲ左ニス、
花、菊ノミニ非ズ、諸花有之、又有因ノ物ヲ附タルアリ、譬バ菊ニ枕ノ類也、文甚ダ大形ナルモアリ、此圖〈○圖略〉ハ筓ニ付ル花ノ小形ナル物也、

〔好色一代女〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0427 濡問屋硯
萬賣帳難波の浦は、日本第一の大湊にして、諸國の商人爰に集りぬ、〈○中略〉下に薄綿の小袖、上に紺染の無紋に、黑き大幅帶、赤前垂、吹鬢の京筓(○○○○○)、伽羅の油に堅めて、〈○下略〉

筓用法

〔雅亮裝束抄〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0427 みづらをゆふこと
まづときぐしにて、ちごのかみをときまはして、ひらかうがいにてわけめのすちよりおなじ〈○頂〉をわけくだして、まづ右のかみをかみねりしてゆひて、左のかみをよくけづりて、あぶらわたつけ、なでなどして、もとゞりをとるやうにけづりよせて、〈○下略〉

〔十訓抄〕

〈十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0427 大納言行成卿いまだ殿上人にておはしける時、實方中將いかなる憤か有けん、殿上に參會て、いふ事もなく行成の冠を打落て、小庭になげ捨てけり、行成少もさはがずして、とのもり司をめして、冠取て參れと命じて、守刀よりかうがいぬきとりて、びんかいつくろひて、居直りて、いかなる事にて候やらん、忽にかうほどの亂冠に預るべき事こそ覺え侍らね、その故を承りて後の事にや侍るべからんと、ことうるはしくいはれけり、〈○下略〉

〔明月記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0427 正治二年十二月廿日壬寅、亥時許、若君〈○藤原兼實子良平、良經養子、〉御元服、〈○中略〉次予〈○藤原定家〉參著御前圓座、〈○中略〉若君ウツブキ給、御髮ヲ搔返〈天〉、かうがいにて分取〈天〉、左髮ヲ梳〈天〉、小本結〈ニ天〉結〈天〉、又右ヲ 梳〈天〉、次梳合〈天〉、長本結〈ヲ〉卷〈天〉結之、ビンフク以櫛押〈天〉、末ヲ卷〈ハ天々〉結固了、其髮末〈ヲ〉又かうがいにてわけ〈て〉、左〈ヲ〉小本結ニテ結〈天〉カキ、又右〈ヲ〉小本結ニテ同結之、〈○下略〉

〔近世女風俗考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 揥枝簪の事
古き畫どもを見るに、筓さしたるは町人のみにて、遊女のさせる體はなし、遊女の專飾りとするは、寬延より以後の事なり、

〔〈浪花襍誌〉街迺噂〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 鶴人、〈○中略〉先第一江戸で見かけぬことは、大阪の女は、女郎でも素人でも、筓をさす穴を張紙でこしらへて、髮のうちへいれておいて、其中へ指こみやす、

筓雜載

〔空穗物語〕

〈祭の使〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 なかたゞの侍從、〈○中略〉しうきはちすの花に、かうがいのさきして、かくかきつけてたてまつる、〈○下略〉

〔源氏物語〕

〈三十一/槇柱〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 ひめ君ひはだ色のかみのかさねたゞいさゝかにかきて、はしらのひわれたるはざまに、かうがいのさきしてをしいれたまふ、

〔江家衣第〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 東宮御元服
唐匣〈○中略〉第三層納櫛〈二〉、篦子〈一〉、婆佐美二

〔雅亮裝束抄〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 御もとゞりをとること
御くしのはこのふたに、かみをしきて、もとゆひ、御くし二三枚、かうがい、かばさみをいれたり、とることつねのごとし、

〔散木弃謌集〕

〈六/神祇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 いなりにまいりたる人の、杉をこひければ遣はすとて、たゝう紙にかうがいのさきして書つけてつかはしける、〈○歌略〉

簪/名稱

〔新撰字鏡〕

〈角〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 䚣〈上兮丁兮二反、箸也、加美佐志、〉

〔同〕

〈竹〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 簪〈則含反、平、加牟佐志、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十二/冠帽具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0428 簪 四聲字苑云、簪〈作含反、又則岑反、和名加無左之、〉插冠釘也、蒼頡篇云、簪筓也、釋名云、筓〈音雞、此間〉 〈云、筓子上音如才、〉孫也、所以拘冠使一レ墜也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四/冠帽〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 昌平本下總本有和名二字、〈○中略〉説文无、首筓也、从人、匕象簪形、簪俗无从竹从朁、〈○中略〉文選左思招隱詩注引云、簪筓也、所以持一レ冠也、此所引卽此、慧琳音義引同、按説文、旡首筓也、又云、筓簪也、互相訓、卽此義、

〔釋名〕

〈四/首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 簪兓也、以兓連冠於髮也、又枝也、因形名之也、

〔事物紀原〕

〈三/冠冕首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429
桓寬鹽鐵論曰、禹治水、墮簪不顧、簪始見此、自女媧之女筓以貫髮、亦簪之始矣、其與冠纓興乎、

〔釋名〕

〈四/首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 筓係也、所以係冠使一レ墜也、〈○中略〉
揥、摘也、所以摘一レ髮也、〈○中略〉
刷、帥也、帥髮長短皆令上從也、亦言瑟也、刷髮令上瑟然也、

〔玉篇〕

〈十四/竹〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 筓〈古奚切、簪也、婦人筓冠、〉

〔中華古今注〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 頭髻
古之有髻、而吉者繫也、女子十五而筓許嫁於人、以繫他族、故曰髻而吉、榛木爲筓、筓以約髮也、居喪以桑木爲筓、表變孝也、皆長尺有二寸、沼至夏后、以銅爲筓、於兩旁髮也、爲之髮筓

〔類聚名義抄〕

〈八/竹〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 簪〈側林反 力ムサシ〉 簮簪〈通正〉 筓〈音雞 カムザシ(○○○○)〉

〔同〕

〈八/金〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 釼〈音叉佳反カムサシ〉 釵〈音叉〉

〔伊呂波宇類抄〕

〈加/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 簪〈カムサシ、側吟反、亦作冤、亦作含反、釵也、〉

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 簮(カンザシ)釵〈二字義同、髻鬟具也、〉

〔運歩色葉集〕

〈賀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 歩搖(カンサシ)〈金歩搖、長恨歌、〉 簪(カンザシ) 鈿(同) 釵

〔和漢三才圖會〕

〈二十九/冠帽〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0429 簪〈音譛〉 笄〈筓同、音雞、〉〓〈音渡〉 和名加無左之 通簪 氣筒 俗云加宇加比(○○○○○○)
簪插冠釘抱冠使墜也、女子年十五而笄、古者女媧之女、始以荊木及竹笄、以貫髮、至堯以銅爲之、 且横貫焉、舜以象牙、〈○中略〉
按簪之和名、冠插(カンサシ)也、其通簪(カウカヒ)不周圍大者、而婦人插髮之鬈使解亂也、〈俗謂加宇加比和介〉用瑇瑁及水牛角作、

〔倭訓栞〕

〈中編四/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 かんざし 倭名鈔に簪又筓を訓ぜり、插頭と同じ、髮にさして冠を抱へ墜さぬがための用也、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 かんざしに二義あり、插頭花は髮刺の義、風流に花を折てさしたるがもとにて、是を細工に作り、意巧を加へて樣々にするなり、年賀などに用るは、老をかくす意なり、

〔雅亮裝束抄〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 五せち所のこと
ゑりぐし、まきぐし、かんざし(○○○○)をぐして、五せち所ごとにをきまはるなり、

〔北山抄〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 卽位事
禮服次第、〈○中略〉女禮服、〈○中略〉不簪(○)、可纂、〈○纂一本作徽〉是位驗也、

簪沿革

〔出雲風土記〕

〈大原郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 佐世郷、郡家正東九里二百歩、古老傳云、須佐能袁命、佐世乃木葉頭刾(○○)而踊躍爲時、所刾佐世木葉墮地、故云佐世

〔古事記傳〕

〈二十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 宇受爾佐勢(ウズニサセ)は、髻華(ウズ)に插(サ)せなり、〈○中略〉木草の枝を頭に插すを云、〈宇受にさすと云は、別に宇受と云物ありて、其に插には非す、插物ぞ卽宇受なる、〉後世に插頭(カザシ)と云物、卽古の髻華(ウズ)なり、

〔日本書紀〕

〈二十二/推古〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 十一年十二月壬申、始行冠位、〈○中略〉幷十二階、並以當色絁縫之、頂撮總如囊、而著緣焉、唯元日著髻華(○○)、〈髻華此云于孺(○○)

〔釋日本紀〕

〈十四/述義〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 髻花(ウズ)
兼方案之、髻花者鈿(カンサシ)也、今世插頭花象此歟、

〔閑窻自語〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0430 世俗簪造始事 或人かたられし、今の世、をうなのさすかんざしは、享保のはじめまではなかりけりとぞ、それよりかんがふるに、繪草紙などを見るにも、その頃まではかんざし髮搔のたぐひをすべてさゝず、しかればちか比の物なるべし、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0431 今の如く簪をさしたる起原
寬永以來寬文の末まで、五十年ばかりの間の畫軸板本のるゐの女繪どもには、首飾一品もみえず、延寶、天和、貞享、元祿、此間三十四年、菱川師宣が繪本あまたあれど、遊女すら髮のかざりなし、櫛はさしたる事、書にはまれにみえたれど、繪にはみえず、貞享五年板〈此年元祿と改元〉好色盛衰記〈卷三〉に、今の女、むかしなかつた事どもを仕出し、身をたしなむ物道具數々なり、首筋より上ばかりに入用の物ども十六品あり、まづ髮の油、髩付、長かもじ、小まくら、平鬠(ひらもとゆい)、しのびもとゆひ、かうがい、さし櫛、まへ髮立、紅粉、白粉、齒黑、きはずみ、おもり頭巾、留針、浮世つゞら笠、あらましさへ此通りぞかし、かくかぞへたてし中にも、かんざしはいはず、然ども是より二年前、貞享三年板一代女〈前なるも此書も大坂の板〉卷三に、琴のつれびき遊しける時、かの猫をしかけけるに、何の用捨もな 奧樣のおぐしにかきつき、かんざしに小まくらおとせばとあり、おもふにこゝにかんざしといひしはめづらし、此書は、一人の女、さま〴〵に世をわたる一代をしるしたる物なれど、全部五册の文中、此一本のかんざしのみにて、さし繪にもかんざしみえざれば證としがたく、此後廿七年たちて、正德三年板、本朝廿四貞、〈卷三〉辻にて益踊の所、現をぬかし、心をうかして踊る子どもの、さし櫛かんざし、首に掛たる丹前帶とあり、おもふに踊に出る乙女ゆゑ、常にはさゝぬ櫛もかんざしも、さしかざりつらん、しか思ふよしは、正德六年板とある〈此年亭保と改元〉繪本園若草〈京板、大本全三册、西川祐信筆〉に、あまたの婦女を晝たる中に、櫛筓はのこらずさしたるさまをゑがき、かんざしさしたるは四人みゆ、〈○中略〉寬永の比及より元祿中まで八十年ばかりの間、江戸にて上梓の浮世草子は甚稀也、〈○中略〉ゆゑに前にあげ たるは、皆京大坂の風俗なり、されど物の流行は、天の左遷に順ふ物ゆゑ、都浪花の女風も、おほかたは東したるなるべし、さればかんざしさす風も然らんかし、つら〳〵おもふに、びん付油といふ物、〈○註略〉世に出てのち、髮のゆひぶりもくさ〴〵あれば、むかしのすべらかしよりは、かしらも痒からんに、師宣〈○菱川〉が天和元祿あたりの畫などには、北廓の遊女すら、櫛も筓もかんざしもみえず、かしらの痒き時は、爪もてかきしや、〈○中略〉遊女などさへかんざしさゝざりしはいぶかし、さて件の書どもをよみわたして按ずるに、今の如く人みなかんざしをさす風になりしは、おほかた元文あたりよりの事とおもひしに、はたして一證をえたり、我衣、〈此書は、元祿以來の雜事を、古老に聞あつめたる寫本の隨筆、安永の比を盛に歷たる江戸人曳尾庵作、〉花簪(はなかんざし)は、元文寬保の頃、舞乎など、銀の梅の枝に、銀のたんざくをつけたるをさす、ゆきゝすれば、音のするやうにこしらへたる物なり、其頃世にはやるとあり、然れば常の簪もさしたること明し、是今より百年のむかしなりけり、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0432 婦人首飾、昔は首飾なし、〈○中略〉賢女心化粧〈○其磧作〉に姑六十年以前の事を〈延享よりなれば貞享頃に當る、〉定規にして、むかしも今も同じやうに思はれ、嫁の髮みるに、〈○中略〉透とほる玳瑁の櫛をさして、筓の前にかんざしとやらいふ物をさゝるゝは、何の用にたつことぞ、時代ちがひ姑の目からは、辨慶が七ツ道具を、あたまにいたゞくと思はるゝは無理でなし、凡そ首筋より上ばかりに入る物廿一二品もあり、かりそめに出るに戴身拵に隙なき事思はれける、〈○中略〉筓、かんざし、つと出し、〈○中略〉あらましさへ此通りぞかし、かく有は西鶴がいひし貞享より六十年に及べり、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0432 文化文政中、巨戸ノ處女䙝服ノ圖〈○圖略〉
京坂ハ今ニ至リテモ、簪等數ケヲ插テ、髮飾最モ華也、蓋近年僅ニ不華、 江戸モ文政以前ハ此圖ノ如ク兩天釵、ビラ〳〵簪、前刺、背口刺、〈則後差ハベツカウ〉櫛等ヲ插シ、紅丈長等ヲ用フ、如此飾今江戸更ニ廢テ、處女ト雖ドモ、櫛一、中刺簪一、〈婦ノ筓ノ所ニ用フ〉前差簪一ケ、銀ノ頭搔簪〈ホソキ小形〉ヲ用ヒ、其他ヲ插ズ、 今世京坂中民之處女禮晴之扮〈○中略〉
櫛ト前差簪ハ鼈甲、ウシロザシハ銀釵、〈○中略〉又三都トモニ、禮晴ニハ、鼈甲簪櫛ヲ用ヒ、略䙝ニハ、〈○中略〉簪ハ銀、鍮等ヲ用ヒテ、鼈甲ヲ用フ声者稀也、婦人モ准之、〈○中略〉
今世〈嘉永中也〉京坂式正所用鼈甲製〈○圖略〉
式正時、䙝トモニ、櫛、筓、髷止、以上三具ハ各一個ヲ用ヒ、簪ノミ應時テ數ヲ異ニス、
式正ニハ專ラ前後左右各一ケ、凡テ四個ヲ用ヒ、髮カキニハ、銀釵等一ヲ加フ、
䙝ニハ、簪前後各一ケ、都テ二個ヲ用フ、或ハ前ノミ一ケヲ用フ、背ニハ銀釵ヲサス、江戸ハ近世式正ニモ背ニ簪一ケヲ用フ、文政前ニハ前ニモ插之シガ天保以來廢ス、〈○中略〉
櫛以下四具トモニ、極上製ハ白甲ノミヲ以テシ、中品ハ黑點アル物ヲ交へ用フ、蓋古製ハ全體黑點アル物ヲ用ヒシガ、今ハ稀ニシテ、黑點ヲ交ルニモ、〈○中略〉筓ハ、中央髮ニ插テカクルヽ所ノミ、簪モ、下ノミ曲止中央ノミ皆專ラ髮』入テ不見所ノミニ黑點ヲ交へ、極上製ハ全ク白甲也、

簪製作

〔閑窻自語〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0433 世俗簪造始事
ふるき人のものがたりをきくに、享保の比までは、女のこどもなどは、花すゝきなどのかたしたる白銀のかんざしをさしけり、しかるに御厨子所預故若狹守宗直わかゝりしより好事のものにて、みゝかきをその花の上につけてつくらし、め、かんざしみゝかき、通用たよりありと思ひて、人におくりしに、たよりあるものなれば、よろこびてしだいにつくりそへ、色々このみをくはへ、今は貴賤となく、しろがねにでつくりて、さしもてあそぶ事にはなれり、それかんざしは、髮のかざり、みゝかきは理髮の具のうちなり、そのへだてをわきまへず、たかき人の用ひらるゝは、くちをしき事なり、宗直は時の興にてやつくられしならん、しからざれば、遠きおもんはがりなしとやいふべき、

〔好古日錄〕

〈末〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0434 雜器
世ニ婦女ノ普ク用ル筓ハ、貞享年間御厨子所預故備前守始テ工人ニ造ラシム、後ワヅカニ十數年ニシテ宇内ニ弘マリタリ、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0434 釵子に耳搔を作り添し肇
筓に耳かきのあるは、前にしるしたる如くいと古し、かんざしの耳搔は近し、〈○中略〉おのれ〈○岩瀨百樹〉文化十三年上京の時、加茂の季鷹大人に玄ば〳〵對話しつるに、ある時、話右の事におよびけるに、大人謂やう、閑窻自語にかゝれたる如く、かんざしへみゝかきを付たるは、宗直ぬしの創意なり、然るに其頃北野に開帳ありしに、さかしき商人、宗直の創意を襲ひ、梅ばちの紋に、みゝかきある銀ながしのかんざしを、北野の社内にて賣けるに、人々もてはやしたるより、みゝかきある簪世にはやり、今はかんざしといへば、耳搔ある物になれり、今げいこどもがさす、べつかふのかんざし、もし唐人がみば、日本の女は耳の穴ひろしとおもふべしと、大笑ひしたる事ありき、件の説どもに據ば、簪に耳搔ありし肇は、享保三四年の事なるべし、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0434 撥耳琴柱形〈○圖略〉
此肩ノ二段ニナリタル、三都トモニコトジト云、江戸モ先年ハ有之、今ハ廢シテ稀也、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0434 今世江戸ノ奔簪、圖〈○圖略〉ノ如ク短キヲ流布ス、然ト雖ドモ畫圖ヲ見ルニ、甚ダ長ク畫ケル物多シ、故ニ先日始テ江戸ニ來ル大坂ノ女客アリ、其簪太ダ長シ、其故ヲ問ヘバ、江戸ニテ短キ物ヲ用ヒズ、必ラズ簪ハ長ヲ流行ト察テ特製之所也ト、余再問、何ニ據テ察テ長キヲ流布トスト云バ、江戸一枚摺ト云錦繪ヲ見ニ、筓簪太ダ長シ、故ニ江戸風ヲ倣テ如此ト、今當所ニ來テ畫圖ノ非ナルヲ知ト云リ、今世ノ人スラ東西此誤アリ、况ヤ後世ノ人、今ノ畫ヲ見テ證トスルコト用捨アルベシ、

簪種類/以原質爲名

〔閑窻自語〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0435 東福門院御簪事
東福門院の御かんざしとて、當家〈○柳原〉にもちつたふるあり、こがね(○○○)にて作り、うへに三色のたまをつゝみつけたり、安永年中そのかたによせて、しろがね(○○○○)にてつくらしめ、三色のたまをいれて、家内のものにさゝしむ、内院の女房、あるは友なる人々など聞および、所望ありてつかはしぬ、されば玉えがたきによりてつくらしむる事かたし、そのうへ、これはいやしきものゝさすかんざしにはあらざるべし、のち〳〵心をうつし、世間の人は、享保のはじめまでの如く、花すゝきなどのみゝかきなきかんざしをさすべし、この玉のかんざし、あるものしりがほなる人びとにかたちていふ、かんざしに玉いるゝこと、いにしへはなき事なるべし、所見なしと、此事ちかき書にあり、

〔大安寺伽藍緣起幷流記資財帳〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0435 合雜物貳拾捌種〈○中略〉
銀髮刺(○○○)參〈○中略〉
右一色、平城宮御宇天皇〈○聖武〉以天平二年歲次庚午七月十七日納賜者、
以上資財等、天平十八年本記所定、注顯如件、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0435 孝謙天皇の御簪
難波の好古家梅園主人、天保二年に開板せられ、たる梅園奇賞に載たる、和州法隆寺の寶物、孝謙天皇の御簪とて其圖あり、〈○中略〉天保十二年の春、江戸本所回向院にて、法隆寺聖德太子の御開帳ありて、種々の御寶物もありときゝて、〈○中略〉朝早く往てをがみしに、かの梅園奇賞にある圖に露もたがはず、たゞ脚岐少し狹きのみにて、物は銀にぞありける、此時いひたてする人にゆるしを乞ひ、ちかくよりて臨寫したる圖左の如し、 孝謙天皇御簪銀製寸法如圖 南都法隆寺寶物之一
摸樣は平なるに毛彫したるにて、雲中に鳳凰の舞ふかたちと見えけるが、手に探て見ざれば、千百餘年の古色に昏眼して視さだめがたくありし、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0436 享保頃ヨツカンザシト名付ル物〈○圖略〉
上耳カキ、下髮カキ、銀ニテ作ル、

〔花街漫錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0436 茗荷屋之簪〈○圖略〉
日本堤の向ひ、淺草山谷町のうらの方なる畠地へ、むかしよりよし原町のちりあくたを捨し所あり、今はさる事もなく、元のはた地と成ぬれば、農業のをりからは、年々さま〴〵のものを掘出す事あり、ある人このかんざしを掘出したりとて、もてきぬるまゝに、うちかへしみるに、元祿の頃ほひの物とたしかに見えたり、金は眞鍮に銀をやき付し物とみゆ、めうがの紋あれば、茗荷屋某の禿などのさしたるものならんかし、いとてがるく作れるもの也、又かたちの古雅なるによりて、近頃世にはやれるも、これらより出たるものなるべし、

〔續近世畸人傳〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0436 松岡恕庵
恕庵松岡氏、名は玄達、〈○中略〉平安の人、〈○中略〉白銀の調度國禁となりし時、世間銀の細工ものをあつめ、官にさゝげしが、其後又年を經て、しきりに白銀のかんざしをさしたる比、女達の頭を先生みて、先年銀は國禁なりしに、などて是をさすぞと仰ければ、娘たちかへすことばなく、是は銀にてはなし、箔おしてこしらへしもの也と答へければ、さはよき細工よなどとて濟けるとぞ、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0436 銀釵〈○圖略〉 此紋ノ花モ種々有之、蓋簪形ハ是ヲ專トス、上輩下婢トモニ有之ドモ、下輩ノ專用トス、又此丸ヨリハ小形ナルモアリ、
御殿女中ノ簪ニ、右ノ銀簪其他モ用フレドモ、用之ハ稀也、多クハ耳搔ナシ、大略此圖ノ耳搔ヲ除キ去リタル如キ銀ノ髮搔ヲ、筥セコト云、懷中囊ニ刺納テ持之、頭ニハ筓ノミノ者ヲ專トスト思ヒシガ、夫モ誤ニテ、形ハ種々アレドモ、大略左ノ如キヲ髻邊髷ノ内ニ差ス、故ニ他ニハ見へ易カラズ、 銀釵、形種大小不同、〈○圖略〉

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0437 江戸銀釵今世風
江戸銀簪、〈○圖略〉大略四寸前後也、古製ハ五六寸、今製短キヲ專トス、珊瑚、或ハ砂金石ノ丸、又ハ瓢簞等ヲ製シ付ル、又ハ銀ニテ種々ノ形ヲ摸スモアリ、又更ニ付物ナキモアリ、
江戸モ近年、銀釵ニ流金ヲ專トス、或ハ素銀モアリ、又半以上ヲ赤銅ニ金象眼ノ有紋、半以下ノ髮搔ノミヲ素銀ノ物モアリ、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0437 京坂ノ銀釵
京坂ノ銀簪、古製六寸餘、今世同之、或ハ五寸餘、〈○圖略〉
京坂耳カキ長ク、江戸ハ短カシ、此丸〈○簪玉〉天保前、珊瑚流布、年給銀百二三十目ノ炊彈モ用之、江戸モ同之、今モ用之トモ、又近年、金水晶玉ヲ流布トス、江戸モ又コレヲ流行トス、又砂金石甚流布ス、重サ一匁、價金三兩餘、珊瑚下品小丸、價十五雙重サ一匁、銀十五匁ヲ云、
天保中ヨリ銀釵ノ表ヲ滅金ニ製シ、コレニ珊瑚其他ノ珠玉ヲ付ケ、或ハ銀紋、或ハ玉モ紋モ無之物ヲ用フ、滅金ヲ流金トモ云銀ヲ素ニテモ用フレドモ、流金ヲ流布トス、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0437 銀製芒簪〈○圖略〉
文政末年、江戸ニテ流行ス、處女娼妓トモニ用フ、團扇ト此芒ノ簪ハ、今モ芝居ニテ田舍娘ニ扮ス 者ハ用之、蓋芒ヲ專トスル也、
銀製葵簪〈○圖略〉
天保七八年頃、江戸ニテ流布シ、處女及ビ娼妓トモニ用之シ、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 三都トモ眞鍮釵(○○○)モアリ、然ドモ貧家ノ婦女モ用之者稀、鄙客ノ買之、或ハ鄙ヨリ來リ仕フ炊婢小婢ノミ用之、彼輩モ江戸ニ久ク住ス者ハ、又用之者稀也、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 鐵釵(○○)ノ上製ハ、却テ風流ノ婦モ用之、蓋是亦半以上鐵、以下銀ノ髮搔也、或ハ全鐵モアリ、

〔古今和歌集〕

〈十七/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 五節のあしたに、かんざしの玉(○○○○○○)のおちたりけるを見て、たがならんととふらひ てよめる、 河原の左のおほいまうちきみ〈○源融〉
ぬしやたれとへど白玉いはなくにさらばなべてや哀と思はん

〔倭訓栞〕

〈中編四/加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 かんざし かざしの玉といふも、筓の飾の玉也といへり、

〔宇治拾遺物語〕

〈十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 今はむかし、唐になにとかやいふ司になりて下らんとする物侍き、名をばけいそくといふ、それがむすめ一人ありけり、ならびなくおかしげなりし、十餘歲にしてうせにけり、父母なきかなしむことかぎりなし、〈○中略〉その母が夢に見るやう、うせにしむすめ靑き衣をきて、白きさいでして、かしらをつゝみて、髮に玉のかんざし一ようひをしてきたり、

〔拾遺員外〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 をみなへしをるもをしまぬしら露のたまのかんざし(○○○○○○○)いかさまにせん

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0438 今世〈嘉永中也〉京坂式正所用鼈甲製(○○○)、〈○中略〉京坂甲簪、專ラバチミゝ、江戸ハ丸耳ヲ用フ、
同京坂所用、〈○中略〉耳搔ノ圓ナルヲ、京坂ニテ江戸耳卜云、〈○圖略〉此形簪鼈甲製ハ、風流ヲ好ム婦女用之、風流女俗ニ粹ト云也、又木製モアリ、三都トモ櫛簪木製ハ伊須材也、蒔畫ヲ描キ用フ、蓋木製ヲ略褻ノ用トスルコト三都同風也、〈○中略〉木製蒔畫筓簪ヲ用フ時ハ、同製月形櫛ヲ用フ也、〈○中略〉蒔畫 物ハ簪モ一ケヲ用ヲ、月形櫛、筓、簪、曲止各一ケヲ四ツ揃ヒト云、木製ハ筓以下三具トモニ無稜シテ 如此マルミ也、

〔續近世畸人傳〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0439 松岡恕庵
恕庵松岡氏、名は玄達、〈○○略〉南天の木(○○○○)のふとき幹を取出し、人をよびて、是はよき南天なれば、かんざしにけづりて娘どもにとらせよと命ず、

〔提醒紀談〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0439 竹簪(○○)
關氏世々書を以てその名高し、〈○中略〉鳳岡の子南樓は、家君午谷翁が師なり、南樓の弟子潢南〈名は克明〉その嗣となる、その子東陽、予〈○山畸美成〉と同庚、交情殊に厚く、莫逆の友たり、その家竹簪を藏す、傳へて云、潢南の曾祖母なる人、享保中有德院樣〈○德川吉宗〉に宮つかへせしに、その頃反質の政を行はせたまひし折にて、宮中の婦人の髮の飾に、金銀を停止せしめられて、竹にて簪を造り、すべての女中に賜はりし物とぞ、

以製作爲名

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0439 簪 かんざし釵 筓 髮刺なり
瑯環記 人謂步搖、爲女髻非也、蓋以銀絲、宛轉屈曲、作花枝、插髮後、隨步輙搖、以增媌媠、故曰步搖、〈採蘭雜志〉思ふにこれ、今世の花かんざし(○○○○○)也、或は金銀にて花の折技を作り、蝶鳥または短册など付る物なり、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0439 花かんざし
花の枝を髮に插は、往昔男女の風なり、〈○中略〉插頭花と書て、かざしとよむは義訓なり、本字は翳なり、〈○中略〉大内の花の宴には、公卿の人々、花をかざし玉ふ事諸書にみゆ、のちには剪綵花(つくりはな)をも用ふる事もみへたり、西土にも生花又は剪綵花をも男女髮に插事、陔餘叢考〈卷卅一〉簪花の條に諸書を引て、あまたの故事を記せり、〈○註略〉又天竺國にても、佛在世の時、〈○註略〉生花もつくり花も、かんざし する事、慧林音義〈第十八〉翻譯名義集〈第七〉などに、花かんざしを、天竺ことばに、麼羅とは華鬘なりといひ、又釋迦如來叔母に示されたる大愛道比丘經にもみへたれば、花かんざしをさすは、三國古今の風也、

〔江家次第〕

〈三/正月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 踏歌
藏人催内侍以下〈泥繪唐衣、〓結裳、華釵、錦鞋等、〉

〔唐書〕

〈二十四/車服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 一品翟九等花釵九樹、二品翟八等花釵八樹、三品翟七等花釵七樹、四品翟六等花釵六樹、五品翟五等花釵五樹、寶鈿視花樹之數

〔賤のをだ卷〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 一衣服の色も、其比〈○寶曆〉は丁子茶と云色流行出て、〈○中略〉又子どもは花かんざしとて、美しく花を付たるかんざしをさせり、是は畢竟よし原の禿のあたまを眞似たるなり、其比の歌に、丁子茶と五寸もやうに日傘朱ぬりの櫛に花のかんざし、とて貴賤吟みたり、

〔浪花の風〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 首飾の類も、江戸とは同じからず、〈○中略〉また女子供も、銀かんざしを用るは稀にして、多くは絹、又は紙抔にて、美しく作りし花簪など、下直の品を用るなり、これ中より以下の風俗なり、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 裁細工(きれさいく)の花かんざし まげゆはひ まへざし
裁(きれ)あるひは紙細工の花かんざし、今もつはら用ふ、京製なるはすぐれて美工なれど、價は廉く樸にして雅なり、此物今より四五十年前、某の御館に仕へたる女中偶然つくりはじめけるに、徐々職人の作るやうになりしと、そのみたちにつかへたる老婦がいへり、

〔我衣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 元文、寬保ノ比ニハ、舞子、金銀ニテ梅ノ枝ニ色紙短冊ヲ付テサス、往來スレバ音ノスルヤウニコシラヘタリ、

〔守貞漫稿〕

〈十/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0440 守貞〈○喜田川〉云、是近世花簪ノ初トモ、又中興トモ云ベシ、源氏若菜上四十賀ニ云、カザシノ臺ハ沈ノケソク、マガネノ鳥、銀ノ枝ニ居タル心ロバへ云々、古ハ高貴ノミ用之、近世ハ 下賤用之、今世ハ銀ヲ却テ賤トシ、滅金等ヲ用フコト多シ、〈○下略〉

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0441 花簪ハ、三都トモ小間物店ニ賣之、又稠人ノ街ニ立テ小賈賣之、花見遊山ノ所モ亦賣之、皆幼女ノ所用ノミ、然モ野步ニハ中途買之、妓婦等モ往々戯ニ差之者アレドモ稀ト云、又江戸筆道、及三絃ノ師家、男女門弟ノ童男童女ヲ携テ花見ト號シ、向島其他諸所ニ往ク時、群童ヲ携フ故ニ、其群ヲ離レ迷ンコトヲ恐テ、皆必ズ此花簪ヲ頭ニ差テ標トス、梅櫻等ノ造ハ花精製絹也、然モ普通ハ染紙也、葉同之、而テ眞ノ花ノ如ク、簪磨キ竹也、〈○圖略〉江戸師家ノ花見ニハ、其一群男女長少トモニ插之也、老夫老嫗モ、是群ニハ用之テ耻トセズ、

〔新可笑記〕

〈一〉

利非の命勝負
胡蝶菊若二人美兒、緋の袴こしだかに、紋羅のかたぎぬ、まくり手の紫紐、玉牡丹の簪(○○○○○)、〈○下略〉

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0441 步搖簪(ひら〳〵のかんざし/○○○)寬政の間、ぴら〳〵のかんざしとて、花の折枝などに鎖を幾すぢもさげ、其すゑには、鳥蝶あるひは鈴のるゐ一品の物を鎖毎に付たる、銀のかんざしはやりし事ありて、振袖きるほどの乙女は、ぴら〳〵ならざるはなかりしゆゑ、其比の千柳點に、ぴら〳〵にびら〳〵からむ由良の助、〈寬政八年泉岳寺義士開帳〉文化にいたりてふつとすたり、俤ばかりは、箱せこかんざしといふ物に殘りしも、今はまれなり、此ぴら〳〵、西土はいと古し、〈○中略〉步搖は、ぴら〳〵かんざしなり、〈○中略〉我衣にみへたる正德の花かんざしに、たんじやくさげたるは、ぴら〳〵のかんざしの權輿とすべし、

〔釋名〕

〈四/首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0441 步搖上有垂珠、步則搖也、

〔唐書〕

〈三十四/五行〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0441 天寶初、貴族及士民、好爲胡服胡帽、婦人則簪步搖釵、袊袖窄小、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0441 銀ノビラ〳〵 簪〈○圖略〉
文化文政頃ハ、三都トモニ流布ス、京坂ハ是亦兩差ト同ク江戸ヨリ後ニ廢シ、三都トモニ、今ハ極 テ稀ニ用フ者アリ、蓋以前ヨリ新婦處女ノミ用之、年長ハ用ヒズ、銀グサリ長短アリ、又三アリ、五アリ、七筋モアリ、〈○中略〉文久中ニ至リビラ〳〵簪等全ク廢ス、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 白硝子ビラ〳〵簪(○○○○○○○○)、圖〈○圖略〉ノ如ク大同小異種々、硝子グサリ七筋、或ハ九筋許リ、天保二三年ノ頃、京坂ニテ流布ス、處女ノ用也、

〔歷世女装考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 瑇瑁を斑なしに作る起立
父が廿四五の頃、〈寶曆十一二年なるべし〉斑なしの松葉かんざし(○○○○○○)とて、〈掛目一匁五分 長サ六七寸〉今にくらべては、甚細きかんざしを四五本作り、問屋へみせける内を、一本手みせに京へものぼせしに、江戸京とも追々註文ありて、松葉かんざしはやり、銀にても作れり、是かんざしに形ち物いできしはじめなりと、父がいへりと照よし翁かたれり、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 毒瑁を斑なしに作る起立
かんざしに形の飾り物とて流行しは松葉なりしに、今はさしこみ(○○○○)といふ便利ありて、鶯は梅に初音をうたひ、蝶は菊に翅を動すあり、是も國澤の餘滴ぞかし、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 朝鮮べつかふ ばづの事
照義の話に、〈○中略〉爪甲(つめかふ)といふは爪にはあらず、眞甲のへりの所の甲なり、おほかたは、さしこみ形物に作るに用ゆ、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 兩てんのかんざし(○○○○○○○○)
もやう一對のかんざしをさす事は、享保あたりの繪にもみへ、近き寬政の間もはやりしが、今はすたれてさる物をみず、此兩てん、西土は古くよりありし物なり、名を鈿合といふ、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0442 兩天簪
京坂ニハ兩差(○○)ト云、リヤウザシト訓ズ、江戸ニテリヤウテント云、江戸モ先年專ラ用之、今モ右圖 〈○圖略〉ノ如クナル、往々䙝及略服ノ時ハ、筓ニ代テ用之、中銀製也、京坂ヨリ短カシ、兩丸珊瑚、或ハ瑪瑙ノ類也、先年ハ珊瑚流布、近年砂金石流布也、男子提物押目ニモ流布之トス、〈○圖略〉全ク銀製也、又鼈甲製モアリ、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0443 京坂兩差簪
リヤウザシハ、文化文政頃迄用之、蓋三都トモニ略䙝ノ時ニ筓ニ代テ用之、江戸ハ京坂ヨリ僅ニ前ニ廢ス、〈○圖略〉全ク銀製也、兩端ニ定紋又ハ種々花形等定リナシ、兩差三都トモニ、今モ稀ニハ用フ人アリ、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0443 後刺 靑龍刀のかんざし(○○○○○○○○)
三十年前、靑龍刀のかんざし、歌妓どもさしはやらせし事あり、簪には似氣なき物とおもひしに、西土にも搜神記〈卷七〉に、晉の惠帝元康中に、宮中の婦人瑇瑁の屬にて斧鉞戈戟のるゐを作りて當筓(かんざし)にしたる事みへたり、

〔物はくさ〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0443 いやみ十二段
七段〈○中略〉又女のかんざしの模樣、しのぶ、すゝきやうの物は、古風ながらしほらしゝ、靑龍刀(○○○)なども、きつとしていやみなけれど、近頃めづらしきをこのみて、まとひ、かなぼう、あるひは臺所の道具、わさびおろしなどに至つては、もつともいやしきとも、いやみともいふべきやうぞなき、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0443 武藏野簪(○○○○)〈○圖略〉
天保十一二年頃、江戸ニテ暫時流布ス、竹簪ニ鳥ノ羽ヲ屬タリ、處女娼妓モ用之卜雖ドモ、銀製ノ物ノ如クニ非ズ、唯一時ノ興ニ差スノミ、賣之ハ專ラ行人多キ所ニ、天道見世、又ハ路上ニ賣リ步クノミ、賣之詞ニ深川名物ノ武藏野簪ト云シガ、不日シテ深川等ノ娼妓ヲ禁ジ、其家ヲ壞ツ、時人後ニ此簪ヲ賣リシハ先兆カト云リ、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 團扇簪(○○○)ハ古キ物也、俗ニアタボ簪(○○○○)ト云、〈○圖略〉柄黑朝鮮甲ヲ用フ、文政以前、江戸ニテ再ビ行レシ由ヲ聞リ、天保以來ハ廢シテ、今モ黑點アル鼈甲製ニハ有之、十二三以下ノ女童ニ用フノミ、黑鼈甲團扇極薄クス、蒔畫アリ、

以用法爲名

〔武江年表〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 慶應三年五月十九日、下賤の婦女、簪二本をつかねて頭へさすものあり、めをとざし(○○○○○)といふ、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 今世江戸市中所用鼈甲製圖
簪 文政前ハ前差(○○)ト號テ、此ゴトキヲ〈○圖略〉髷前ニサス、今ハ廢ス、今ハ背ニノミ挿之、〈○中略〉
江戸今世ノ婦女、式正ニハ、〈○中略〉簪右圖ノ如キヲ曲背ニ差シ、或ハ右圖ノ簪ヨリ纎キ鼈甲製ニテ、珊瑚製ノ瓢簟、或ハ甲製ノ造リ花等ヲ付タル物ヲ曲背ニ差ス、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 今世江戸巨戸之處女禮晴之扮〈○中略〉
三都トモニ禮晴ニハ鼈甲ヲ用フ、今世櫛一、簪一、〈無花〉同一、〈花アリ、上方ニ云、サシ込ノ類、〉小形銀釵一ケヲ用フ、前差簪ヲ不用コト天保以來也、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 江戸ノ婦、上中下民トモニ略䙝ノ時ハ、筓ヲ用ヒズ、簪ヲ以テ代之、故ニ中差(○○)ト云、

〔守貞漫稿〕

〈十二/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0444 今世婦ハ、正ニハ必ラズ筓ヲ用ヒ、晴略䙝ニハ、中差簪ヲ以テ代之也、略䙝ニモ筓不用ニ非レドモ、用之ハ稀也、晴ニハ筓ヲ專トシ、中差ハ稀、又中差モ鼈甲ハ晴ヲ專トシ、木製ニ金蒔繪ノ物ハ、略䙝ニ專用トス、
中差簪〈○圖略〉
同白魚形〈○圖略〉同德利形〈○圖略〉竹之節〈○圖略〉是等形筓ナレドモ、江戸今俗ハ專ラ中差ト云也、
此形〈○圖略〉ニテ、丸モアリ、兩端象牙ニテ中紫檀也、今嘉永中大ニ流布シ、婦人䙝ニ用之、嘉永末象牙廢シテ、中ハ紫タン、或ハイス、兩端無地鈖ト云テ、無地ニ金フンヲ蒔ク、無地金或ハ金ダミトモ 云、安政元年比ヨリ兩端象牙、或ハ金無地ナレドモ、中ヲ細クシテ、髻ニサス時、太キ分一方ヌキ、央ノ細キ所ヲ髻ニ插シ、而后ニ一方ヲサス、號テ杵形ト云、
此二品〈○圖略〉金無地ノ上ニ、再ビ金フンヲ以テ蒔繪シタルモアリ、又杵形兩端丸形ヲ圖セドモ、角形モアリ、丸角並行ル、
杵形中差〈○圖略〉右圖ニ似タル形ニテ、牙ノ小口ヲ梅櫻等ノ花形ヲ彫ミ、匂ニハ小珊瑚ヲ用ヒタルアリ、牙ノ全體モ花形ニ應ジ鐫之、

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0445 後刺(○○) 靑龍刀のかんざし
今うしろざしとて、簪を耳の後にさす事、五十年前寬政間(ごろ)よりの風なり、其以前、書にも畫にもみへず、西土はいと古し、字彙、釵の字の註に、繁欽定が情詩を引て、何以慰別離、耳後玳瑁釵とあり、和漢駢事なり、

簪用法

〔類聚雜要抄〕

〈三/五節雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0445 一理髮具
末額髮二流、〈○中略〉簪、

〔中山傳信錄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0445 風俗
婦女小民家簪用玳瑁、長尺許、倒插髻中、翹額上、髻甚鬆、前後偏墮、疑卽所謂倭墮髻也、

〔近世女風俗考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0445 楴枝簪の事
すべて昔の筓簪同物なるを、紋又は耳搔をつけしより、別の物とはなれるかとおぼし、〈○中略〉右に擧たる圖の如く簪をさしたるに、一本より外用ひざるを見るべし、もとより金銀等を以て製する事いと〳〵稀也、無論里問答に云、めつたに長いかんざしを、天窻のかざり數多くさす云々といへるは、數多刺事は、寶曆以後の事也、

〔守貞漫稿〕

〈十一/女扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0445 寶曆中 昔ハ簪、必ラズ一本ヲ差ス、大略寶曆以來、長簪ヲ數本差ス也、

〔守貞漫稿〕

〈二十/妓扮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0446 今世〈○嘉永頃〉京師ノ島原及ビ大坂新町大夫職遊女之扮、
簪ハ京坂無紋ニテ、圖〈○圖略〉ノ如ク數皆一文字ニ插ス、是ヲ霞ニサスト云、江戸ハ末ヲ開キテ插シ、佛像ノ後光ニ似タリ、紋ノ有無、插樣兩地必ズ然リ、
江戸吉原遊女之扮ハ、京坂ノ太夫天神ヨリ甚ダ華也、〈○中略〉簪、背ノ左右各三四本、皆耳搔ト髮ノ間ニ、定紋或ハ花形等ノ作リ者アリテ、〈○中略〉銀釵ノ形ニ似テ又甚ダ長ク、八九寸モアルベク、前ノ左右ニハ、紋ナシノ簪、左右是又各三四本ヲサシ、簪凡テ十二本、或ハ十六本バカリモサシ、又ハ櫛ノ不伏ヤウニ、前ヨリ竪ニ一二本サスモアリ、髷尻ヲ高クシ、專ラ島田髷也、

簪雜載

〔諸家奧女中袖鑑〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0446 髮飾の事
一髮指は御三の間以上、式の節は藏し(/○○)筓(かんざし/○)用ゆべし、
一同く平日は是といふ定りもなし
一おなじく留袖前、平うち定紋、銀の髮ざし用ゆ、
一髮ざしは、御使番以下、平打定紋か、又は我が名の文字ほり附、大形にて目立品用ゆ、

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0446 筐(○) こかんざし
是はちさき簪也、〈○中略〉今案に、簪は西土にても、たゞ髮に刺のみにあらず、異事にも用ゐしと見へて、長恨歌傳に、方士が楊貴妃の魂を尋ねて仙宮へ至りし所にも、〈○中略〉方士抽簪扣扉と見ゆ、かゝる事にも、時として用ゐし成べし、

〔源氏物語〕

〈一/桐壷〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0446 たゞかの御形見にとて、〈○中略〉御くしあげのてうどめく物そへ給ふ、〈○中略〉かのをくりもの御らんぜさす、なき人のすみかたづねいでたりけん、しるしのかんざし(○○○○○○○○)ならましかばと、おもほすもいとかひなし、
○按ズルニ、しるしのかんざしハ、白氏文集ノ長恨歌ニ據テ作レルナリ、

〔好色一代女〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 金紙の匕髻結
或時雨の淋しく、女交りに殿も宵より御機嫌もよろしく、琴のつれびき遊ばしける時、彼猫をしかけけるに、何の用捨も無く奧樣の御ぐしにかきつき、かんざしに小まくらおとせば、〈○下略〉

〔〈北里劇場〉隣の疝氣〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 女郎の風俗も、〈○中略〉簪とて色々もようをしたるを、七八本さしちらし、祭りに賣步行だしやら、辨慶の人形やら見わけがたし、〈○中略〉
女郎の身持昔とはちがひ、せつなきこと多し、〈○中略〉今は二人り禿と云へども、我衣類に少しもちがはざるをきせかさね、くし、かうがい、かんざしに至る迄替ることなし、〈○中略〉かのかんざしも一本に付、二三分一兩位、〈○下略〉

釵子/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十二/冠帽具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 簪 釋名云、筓〈音雞、此間云、筓子(○○)、上音如才、〉係也、所以拘冠使一レ墜也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四/冠帽具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 類聚名義抄、筓子訓佐伊之、與此云上音如一レ才合、空物語初秋卷亦有佐伊之、然其音可疑、伊勢本、山田本、曲直瀨本無上音如才四字

〔玉篇〕

〈十八/金〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 釵〈楚街切、婦人岐筓也、〉

〔事物紀原〕

〈三/冠冕首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447
實錄曰、燧人始爲髻、女媧之女、以荊梭及竹筓、以貫髮、至堯以銅爲之、且横貫焉、舜雜以象牙玳瑁、此釵之始也、

〔釋名〕

〈四/首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 爵釵、釵頭及上施爵也、

〔類聚名義抄〕

〈八竹/〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 筓子〈サイシ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈左/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 釵〈サイシ カンサシ〉 筓子〈サイシ〉

〔倭訓栞〕

〈中編九/佐〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 さいし 筓子の音轉也、かんざし也、和名抄に、筓、此間云、筓子、上音如才と見ゆ、

〔空穗物語〕

〈初秋二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0447 夏冬のよそひをすきばこに入て、そのしきものうへのおほいうへのくみ子せ られける、〈○中略〉今二には、おほんくしのてうど、すへひたひよりはじめ、さいし(○○○)、もとゆい、おほんくしどもなど、そのくさともいはずめでたてゝ、たかつきなんまうけ給へりけり、

〔安齋隨筆〕

〈二十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0448 釵子 是は宮女の髻の飾なり、字音サイシなり、今世の詞にオシヤシと云ふは卽ち御釵子なり、サイシの轉語なり、玉篇に釵は婦人岐筓也とあり、〈○中略〉貞丈云く、女房式正の時は、垂髮して頂の上に髮を瘤の如く束ねて、是をカブと名づく、其のカブに釵子をさすなり、別に圖あり、如斯するを髮あげと云ふ、

釵子用法

〔歷世女裝考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0448 さいしといふ髮のかざり
さて此さいしといふ首飾、文字には釵子とありて、むかしより和訓のなき物なり、此さいしは七八百年の中昔の比及よりや、女の髮のかざりとなしけん、新撰字鏡にも、和名抄にも釵子といふ物みへず、後の物には、さいしとのみ名はみへたれど、形狀はしられず、雅亮裝束抄には、五節の舞の下仕の女に、さいしを著てやる仕方を委くかきたる文をみれば、紐ありて髮に結びつける物也、然るに東山殿比の記錄女房飾抄に〈寫本〉圖あり、
釵子の圖〈さいしをよみくせにて、かいし、おしやしともいふよし、〉
二本一對さいしにそふる物なり、銀にて作る、
銀にて作之
右のさいしを髮にかざるには、垂髮のつむりのまん中へ小枕をいれて、瘤だつ物をこしらへ、これにさいしを結びつけるなり、結びやうは雅亮裝束抄に〈五せちの所〉くはしくみへたり、髮の毛を瘤 だつ形ちに作るを寶髻と名づく、是髮のゆひ風に名あるのはじめなり、

〔服飾管見〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0449 首飾
女の首飾つぶさにしりがたし、〈○中略〉玉海に、理髮具〈○中略〉釵子四〈花釵子一、二有緖、○中略〉と見ゆ、〈○中略〉釵子四といへる注に、花釵子一ツ、二有緖とは、花釵子左右よりさす二本にて一具也、二有緖とは釵子也、〈○中略〉釵子もかづらとかみとをひとしくかたむる料也〈○中略〉花釵子はもとゞりをとめむ料也、〈○中略〉江家次第、節會の内命婦なども、朝服にはあらねど、華釵とあれば、首飾のみは、やゝ殘りてけり、後の代、となりては、ゑりぐし華釵などつくることなく髻もなし、たゞかみをあげてさいしさし、くしのみなりき、〈釵子の緖は、髮あるにはもちゐず、髮なき時も或はもちう、五節には、たれかみにも、さいしをさして緖をたるゝ也、〉是を平額といふにや、常に陪膳などするには、かくしたりけり、

〔雅亮裝束抄〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0449 五せち所のこと
ひめ君は五せち所にて、かみあげのさうぞかすこと也、〈○中略〉おほかたは五せちのあいだは、ひ め君以下さぶらふべきことなり、わらは、しもつかひのさいし(○○○)、ひめ君のかづら〈○中略〉とりぐし て、うちみだりのはこのふたにいれて、二かゐにおくべし、〈○中略〉
ひめ君のさうぞく〈○中略〉
とらの日〈○中略〉かんざし(○○○○)、さいし(○○○)四すぢあるを本所にまうく、〈○中略〉しもづかひのさうぞくの寸法〈○中略〉
しもづかひのさうぞく、〈○中略〉つぎにさいしをさすべし、むらごのみつくりのをゝつけたり、ま づむらごをとりて、なかをりにとりなして、ひとむすびして、さいしをつらぬくべし、たゞしか たかたをすこしながくすべし、いたゞきよりひきこさんよういなり、さいしをひだりのてに とりて、しもつかひにむかひてたちて、わけめの右のかたのかみを、すこしさいしにてすくひ て、わけめをこして、又わけめの左のかたのかみを又すくひて、さいしのさきのいでたるに、このむらごのいとのかた〳〵を、わけめのうへよりひきこして、さいしのさきにからむなり、

〔禁秘御抄〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0450 御膳事
朝餉女房皆上髮、三位以上釵子許也、暑氣比、凡聽髮、

〔類聚雜要抄〕

〈三/五節雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0450 一理髮具〈○中略〉釵子

〔紫式部日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0450 にしによりて、おほみやのおもの、れいのぢんのおしき、なにくれのだいなりけんかし、そなたの事はみず、御まかなひ宰相の君さぬきとりつぐ、女房もさいし(○○○)もとゆひなどしたり、

〔吉記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0450 壽永元年七月廿三日辛卯、藏人少輔問立后事、〈○中略〉
金釵子〈○中略〉如注文者、被永久御物歟、在何所哉、答云、如注文者、年預所課之中也、然而被永久御物歟、其在所不覺悟、但不違之注文載其旨者、勿論御膳女房裝束之内、裙補、比禮、釵子等誰人所課、件裝束等自院御方内々有沙汰、其中釵子、年預調進、但近代其數减歟如例、 八月十四日壬子、今日有命皇后〈○安德准母亮子内親王、後白河皇女、〉事、〈○中略〉此間皇后理御髮、〈○註略〉御理髮具、鬟、金釵子、〈(中略)巳上永久御物也、至于承安用之、今度被尋出之、〉

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0450 元曆元年十一月十八日癸卯、此日踐祚〈○後鳥羽〉大嘗祭也、 廿二日丁未、大將〈○藤原兼實子良經〉五節裝束已下饗祿等注文、 丑日〈余(藤原兼實)沙汰○中略〉梅唐衣〈○中略〉釵子〈在緖○中略〉 卯日〈攝政○藤原基通、中略、〉萌黃唐衣〈○中略〉釵子〈在緖○中略〉
五節雜事、〈依略儀定文、長寬例也、〉此注文、泰經注進之、〈○中略〉
一理髮具〈○中略〉釵子四〈花釵子(○○○)一、二在緖、〉
文治六年〈○建久元年〉五月三日丙辰、此日中宮〈○後鳥羽后任子〉八社奉幣也、〈○中略〉先是中宮有御湯殿事、〈○中略〉其後著御帳南面平敷御座、〈(中略)又雖御髮、差給釵孑、是憶事理所爲也、〉陪膳御匣殿同差釵子、〈不髮〉著物具等、可然之中臈 等各有障、仍兵衞督爲入御贖物之役人、〈装束釵子、同陪膳、〉

〔永仁御卽位用途記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 藏人所注進御卽位調進物用途事〈○中略〉
一女房禮服四十具〈今度三十四具〉
褰帳二人、〈○中略〉位驗一頭、〈釵子上居金鳳玉一顆、高一寸、長二寸、○中略〉 平釵子(○○○)二枚〈如常○中略〉
内侍二人、〈○中略〉位驗一頭、〈釵子上立麟形、長一寸五分、高六寸、居雲、長二寸、飾玉四顆於頸、○中略〉
平釵子二枚〈同〉
威儀命婦四人、〈○中略〉位驗一頭、〈同前〉 平釵子二枚〈同前〉

耳搔

〔伊呂波字類抄〕

〈見/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 鑷〈ミヽクシリ〉

〔運步色葉集〕

〈見〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 耳攪(カキ) 耳觽(クジリ)

〔增補下學集〕

〈下二/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 耳攪(ミヽカキ) 耳搔(ミヽカキ)

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 穵子(ミヽカキ)〈又云穵耳〉

〔倭訓栞〕

〈中編二十五/美〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 みゝかき 穵耳を訓ぜり、耳爬子も同じ、穵はくしる意なり、類聚雜要には耳决と見えたり、

〔類聚雜要抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 耳决
〈銀一兩三分 單功一疋〉

〔河海抄〕

〈八/繪合〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0451 銀耳觽

鑷子/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十四/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷子 釋名云、鑷〈尼輙反〉攝也、拔取毛髮也、楊氏漢語鈔云、〈波奈介沼岐〉俗云、〈計沼岐〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈六/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 按、説文無鑷有籋、云箝也、徐音尼輙切、則知籋鑷古今字、

〔釋名〕

〈四/首飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷攝也、攝取髮也、

〔類聚名義抄〕

〈八/金〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷〈音聶 ケヌキ〉 鑷子〈ハナケヌキ、俗云ケヌキ、〉

〔伊呂波字類抄〕

〈計/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷子(ケヌキ)〈拔収毛髮〉 鑷 鋏刀〈巳上同、亦ハサミ、〉

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷子(ケヌキ)〈毛抜也〉

〔和漢三才圖會〕

〈二十五/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 銸(けぬき)〈音攝〉 鑷〈同〉 和名波奈介沼岐

〔女重寶記〕

〈五/女用器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷子(けぬき)

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 鑷子 けぬき 毛拔 〈異名〉却老先生

鑷子種類

〔枕草子〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 ありがたきもの
ものよくぬくるしろがねのけのき(○○○○○○○○)

〔類聚雜要抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0452 一母屋調度〈○中略〉
甲筥懸子納〈○中略〉鑷子二〈一兩二分○中略〉
懸子納〈甲乙同前○中略〉鑷子四枚〈銀三兩、單功四疋、各一兩二分、各一疋、○中略〉
一庇具〈○中略〉
鑷子
銀一兩二分
單功一疋
一北庇具〈○中略〉 納物懸子〈○中略〉鑷子〈六疋○中略〉
納物料銀百九十七兩三分四朱〈○中略〉鑷子〈一兩六疋六升〉

〔和漢三才圖會〕

〈二十五/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453
凡用古船釘(○○○○○○)鑷者良爲潮腐鏽、再鍛之卽鐵更柔輭、

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 げつじき 木鑷子

〔北條五代記〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 關東昔侍形義異樣なる事
諸侍の形義異樣に候ひし、〈○中略〉扨又げつじきと名付て(○○○○○○○○)、木をもて大きに木ばさみを作り(○○○○○○○○○○○○○○)、其げつじきにて、かしら毛をぬき、又鬢の毛のあひをぬきすかし、皮肉の見ゆる程にして、髮をばびなんせきにて、びんを高くつけあげ給へり、〈○又見慶長見聞集

鑷子用法

〔和漢三才圖會〕

〈二十五/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 銸〈○中略〉
按、華人不髭鬚、而長者以爲美、本朝亦古者然矣、唯拔鼻毛及白髮爾、故和名以鼻毛拔本乎、近世面部不眉外有一レ毛、

〔和事始〕

〈一/人倫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 月額
月額そる事、北條氏執權せし頃より始まるにや〈○中略〉むかしは、げしきとて髮をぬくものを以て、額上を少ぬきしに、信長公髮をぬきて益なく、頭のいたむ事をうれひて、剃刀を用給ひし也、其いにしへは髮をそる事、僧尼の外は、きはめていま〳〵しき事にせしとかや、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 眉を畫くは、もとの眉を鑷子にて拔さりて〈○註略〉畫くにて、こはいと後の風俗なり、

〔江家次第〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 東宮御元服
二階南立唐匣、〈○中略〉第二層、有櫛四枚、刷二、鑷刀(○○)

〔元祿曾我物語〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0453 海なふて生魚絶えぬ都かな 日數消行ての後、源右衞門、劒術功者のよし、誰れいひふるゝともなしに、家中へばつと其沙汰聞へて、額に鑷子をあて、鬢に伽羅を引程の若い者ども打より、心安だての師匠にたのみ、〈○下略〉

〔明良洪範〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0454 增譽曰、前田利家ノ姓ハ菅原ナリ、〈○中略〉利常鼻毛ノ延過テ見苦シケレドモ、是ヲ申出ス者ナシ、本多安房守ガ鏡ヲ土産ニシテ、近習ノ士ニ申付、鼻毛ヲ夜詰メニハ拔セテ見レドモ、知ラザルヨシニテ居給フ、此節近仕シケル掃除坊主入湯ノ土産ニ、横山左衞門佐ガ指圖シテ、鼻毛ヌキ(○○○○)ヲ捧サセケル、利常是ヲ見給ヒテ、老臣以下ヲ招キ申サレケルハ、我鼻毛ノ延タルヲ、何レモ笑止ニ思ヒ、世上ニテ鼻毛ノ延タル虚氣者ナドイフハ、利常モ心得テ居ルゾ、此頃安房守ガ鏡ヲ送リタルヨリ、近習ノ者共、懷へ顏ヲ差入、鼻毛セヽクリ、態ザト痛ムツラツキ、此ノ坊主ガ、鼻毛ヌキヲ持參シタルモ、汝等ガサシヅセズバ爭デカ持參セン、皆察シナガラ其マヽニサシ置シ也、其意昧申聞スベキ爲呼タリ、我今大名ノ上座ニシテ、官祿日本ニ知レタル利常、利口ヲ鼻ノ先ニ顯ハス時ハ、人氣ヅカヒシ大キニ疑ヒ、存ジ寄ザル難ヲ請ル者也、我タハケヲ人ニ知ラセテコソ心易ク三ケ國ヲバ領シ、何レモ樂シマシムルハト宣ヒシト也、

〔幕朝故事談〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0454 公方家
館林樣御加增の時分は、御老中御用部屋迄御禮に御出被遊候、其節空印髭を拔て居、御著座の時に臨て、鑷を收て御仕合の儀など御挨拶申上る、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0454 鑷子、髭を作る事を好むころ、書院のたばこ盆に毛拔を添置たり、是を書院けぬきといふ、明曆二年の刻梓、世話燒草に、なむぼうか冷る書院の内ならん月にくさめをするはな毛拔、南方(○○)は毛拔の異名なり、漢土にても白髮を拔く、これを鑷白といふ、楊誠齋、鑷白詩、止酒愁無那、哦詩意已關、鑷髭非急務、也遣半時閑、〈○中略〉
ある通人と稱する者、心に恊へる鑷工あり、是を雇ひて額髮を拔しむ、鑷工家内に要事ありて歸 らんことを請ふ、通人これを今しばしとめて金壹分を與ふ、やがてまた歸らんとすれば又金を與ふ、其内、家より小者を遣して呼しむ、通人又金を與ふ、二時に至らずして金子あまた費したりとぞ、

鑷子産地

〔毛吹草〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 尾張 南方鑷(ナンバウケヌキ) 越前 金津鑷(カナヅケヌキ)

〔江戸鹿子〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 諸職名匠諸商人
鑷子屋 日本橋南四丁目 うぶけや茂左衞門 淺草通九町目 河内

〔鹽尻〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 けぬきを南方と名つけしこと
一名古屋鑷を製する鍛冶に南方と云者有、傳へ言、義敎將軍〈○足利〉の富士御覽の時、熱田の圓福寺に御止宿ありし時、鑷鍛冶、けぬきを奉りしかば、なんぼうよき鑷也と仰ありしより、家號とせりとなん、〈按此説非なり〉此號は近衞龍山公より拜領の號なりといふ、是は孔明出師表に、ふかく南方不毛の地に入とありしより、能喰ふ鑷の號に被下しとなん云傳ふ、此説是ならんか、

〔本朝世事談綺〕

〈二/器用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 南方鑷(○○○)
尾州名護屋の産也、南方の名は近衞殿のつけさせられしと云、孔明が出師の表に、深く不毛に入り、今南方已定、甲兵足れりの心也と云、

〔本朝世事談綺正誤〕

〈一/器用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 榊巷説苑曰、鑷子を南方と名づけたるは、不毛と云心にて、出師表よりいふとぞ、むかし關東へ下りける勅使の、かのけぬきもとめて、さる名をばつけゝるとぞ、筑後守君美申されし、

〔おろか於比〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0455 南方鑷
諸の道中記には漏たれど、尾張宮宿の〈○中略〉南方の鑷は、古來只一家にて、あまた賣るゝものにもあらねば、贋物を造る人もなく、分家などいふもある事なし、寬永十五年重種の編輯しける毛吹 草〈四卷〉諸國名物にも載て、尾陽發句帳〈撰集の年月をしるさず、明曆のころの古調也、〉上卷にも、
柳 南方のかぜは鑷の柳がみ 何人
と詠り、〈○中略〉南方は北につきての稱號かと思ひしに、此鍛に通稱次郎左衞門は世々中山と名のれるよし自いへり、此家の招牌極て古朴なるものなれば、先手習おきつるをこゝに縮寫す、文字は皆彫上たるものなり、〈○圖略〉
義敎將軍の頃より有無は、何ともいひがたけれど、いと古き名物なる事は論なし、今も他物は造らず、鑷のみ製して世を渡るは、めづらしき家なりといふべし、

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/附錄〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0456 一説に尾張國名古屋に南方といへる鍛冶あり、彼を南方といへるは、源敬卿、かれが作りし毛拔にて御髭をぬき給へば、よくぬけて少しも殘らず、南方不毛之地といふことのあれば、常にかれを南方と仰られしより名となるなり、二説いづれが是なるを知らず、

鑷子雜載

〔雅筵醉狂集〕

〈六/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0456 題しらず
鑷是南方强
中庸云、南方之强與、北方之强與、けぬきのつよきをいふ、


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Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:21