https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0535 澡浴具ハ專ラ沐浴ニ用イルモノニシテ、垢膩ヲ除クニハ澡豆、洗粉、小糠、石鹸等アリ、其器具ニハ泔器、匜、盥、浴斛等アリ、
澡豆ハサクヅト云ヒ、後ニ轉ジテサクヂトモ云ヘリ、小豆ノ細末粉ヲ以テ製シ、手面等ノ垢膩ヲ澡ヒ除クニ用イル、原ト佛家澡浴具ノ一ニシテ、漢土ヲ經テ本邦ニ傳來セシモノナリ、其時代ハ詳ナラザレドモ、延喜式ニ、天皇中宮供御ノ料、及ビ齋會衆僧ノ料等アレバ、當時旣ニ貴賤一般ニ之ヲ用イタリシヲ知ルベシ、
洗粉(アラヒコ)ハ、舊ク漬粉、又ハ手水粉(テウヅノコ)ト云ヒ、又單ニ粉トモ云ヘリ、初ハ專ラ澡豆ヲ用イシガ、後ニハ綠豆ノ粉、及ビ蘭麝粉等ヲ使用セリ、髮洗粉ハ專ラ髮ノ垢ヲ洗ヒ除クユ用イルモノニシテ、藁本(コウホン)ト白芷(ピヤクシ)トノ細末粉アリ、又海蘿(フノリ)ト饂飩粉トヲ湯ニ溶シ、或ハ無(ム)患子(ク)ノ皮ヲ細析シタルアリ、
小糠(コヌカ)ハ一エマチカネト云フ、蓋シ待兼ノ義、卽チ來(コ)ヌカノ緣語ナリ、小糠ヲ入ルヽ袋ヲヌカブクロ、又ハモミヂブクロト云フ、モミヂブクロハ其袋ニ紅木綿ヲ用イルニ由リテ稱セシナラン、
石鹸ハシヤボン、又サボント稱ス、身體ノ垢膩ヲ澡ヒ除クニ用イル所ニシテ、アルカリト膏 油トニテ製シタルモノナリ、原ト外國品ニシテ、衣服ノ洗濯ニ用イルモノハ、夙ニ世ニ行ハレタレドモ、之ヲ身體ノ澡浴ニ用イシバ、最モ近世ノ事ニ屬ス、而シ、テ無患子ノ皮、白小豆等、總テ油ヲ洗ヒ去ルモノヲモ亦汎ク之ヲシヤボント稱セリ、
垢摺(アカスリ)ノ類ニ、絲瓜皮アリ、浮石アリ、絲瓜皮ハヘチマノカハト云フ、絲瓜ヲ晒シテ其纎維ヲ取リテ製ス、浮石バカルイシト云フ、其體虚ニシテ輕キガ故ニ名トス、並ニ垢ヲ脱シ蹠ヲ磨クニ用イル、
河藥バカハグスリト云フ、白米ヲ以テ製スルモノナリ、
泔器ハユスルツキト云フ、淅米ノ汁ヲ盛リテ、以テ髮ヲ梳ルノ用ニ供ス、其形ハ茶碗ノ如クニシテ、蓋及ビ臺アリ、又下臺アリ、其製作頗ル美ナルヲ以テ、室内ニ陳設シテ裝飾ト爲スモノアリ、後世ユスリツキト云フハ、其語ノ轉ジタルナリ、
鬢水入(ビンミヅイレ)ハ泔器ノ類ナリ、漆器ニシテ、鬢水ヲ盛ルニ供ス、鬢水トハ、鬢髮ヲ梳ルニ用イル水ノ謂ナリ、
匜ハハニサフト云フ、半插ノ字音ナリ、之ヲハンザフト云フハ音便ニシテ、ハサフト云フハ略言ナリ、卽チ湯桶ノ類ニテ、湯水等ヲ注グニ用イルモノナリ、抑〻我邦ノ座ハ、支那ニ謂ユル匜トハ、其形狀大ニ異ナレドモ、其用ノ同ジキ故ニ、此字ヲ充テタルナラン、此器ハ銀ヲ以テ作レルアリ、木製ノ漆塗ニ蒔繪シタルアリ、又柄アルモアリ、柄ナキモアリテ一定ナラズ、後世ニ齒黑盥(バグロメタラヒ)ヲハンザフト稱スルハ、同時ニ用イルニ由リテ、其名ノ轉レルナラン、多志良加ハ土製ノ瓶ニシテ、蝦鰭槽(エビノハタフネ)ハ土製ノ手洗ナリ、倶ニ神祭ノ具ニテ、天皇ノミ用イタマフモノナリ、
水瓶ハミヅガメト云フ、スイビント云フハ音讀ナリ、鑄物アハ、木製アリ、硝子製アリ、水ヲ注 グニ用イル、
水注子ハミヅサシト云フ、鑄物ニシテ、湯ノ熱キ時ニ水ヲ注入スル器ナリ、
手湯戸ハテユノヘト云フ、漆器、陶器、金器等アリ、其形甕ノ如シ、
缶ハホトキト云フ、瓦器ニテ、盆ノ如キモノヽ總稱ナリ、
罍ハ水ヲ盛ル具ニシテ、一ニ盥罍トモ云フ、又酒器ニモ用イル、尚ホ飮食具篇櫑子條ヲ參看スベシ、
手水桶ハテウヅヲケト云フ、澡手ノ水ヲ盛ル桶ナリ、
手水鉢ハテウヅバチト云フ、金石陶器等ニテ作リ、常ニ水ヲ貯ヘテ手ヲ洗フノ用ニ供ス、
杓ハ元ト瓢ヲ用イル、因テ之ヲヒサゴト云フ、後世竹木等ニテ作リタルヲモ亦舊稱ニ由リテヒサゴト云ヒ、轉ジテヒサゲ、ヒシヤク、又ハシヤクトモ云ヘリ、澡浴ノ時、湯水等ヲ汲ムニ用イル具ナリ、
搔器ハ搔笥トモ書シ、之ヲカイゲト云フ、其製作及ビ用法等ハ大概杓ト同ジ、
升ハマスト云フ、其形斗量ノ量ニ似タルヲ以テ名ヅク、湯屋ニテ澡浴ノ時ニ用イルモノナリ、
嗽茶碗ハウガヒヂヤフント云フ、茶碗ノ大ナルモノニテ、口ヲ嗽グニ用イル水ヲ盛ルモノナリ、
楊枝ハヤウジト云フ、齒牙ヲ磨キ、口中ヲ滌フニ用イル具ニシテ、形ハ箸ニ類シ、小ナルモノハ一寸有餘ナレドモ、大ナルモノハ一尺二寸ニ至ルモノアリ、原ト佛家ニ齒木ト云ヒシヲ、漢土ニ傳來シテハ、專ラ楊材ヲ以テ作リ、之ヲ楊枝ト譯シテヨリ、本邦ニテモ亦其名稱ヲ用イ、終ニ他ノ材ニテ作レルヲモ、總テ楊枝ト稱スルニ至レリ、 琢砂ハミガキズナト云フ、齒ヲ磨クニ用イル具ニシテ、特種ノ砂ヲ水飛シテ、龍腦、丁子等ヲ加ヘタル砂粉ナリ、後ニハ專ラ齒磨粉(ハミガキコ)ト云ヒテ、琢砂ノ稱ハ廢セリ、
盥ハタラヒト云フ、水或ハ湯等ヲ承クル圓形ノ器ナリ、金器、陶器、木製等アリテ、之ニ附屬シタルモノニ貫簀、臺、打敷等アリ、
洗ハセント云フ、金屬ニテ作レル圓形ノ器ニシテ、其用盥ト同ジ、後世之ヲ飯銅ト云フ、
浴斛ハ字又湯槽、湯船等ニ作リ、ユブネト云フ、卽チ沐浴ニ用イル湯ヲ容ルヽ大ナル函ナリ、フネトハ都テ狹長ニシテ、大ナル函ヲ謂ヘルニテ、馬槽、酒槽ナドノ如シ、浴斛ニハ木製ニ漆ヲ塗リタルアリ、白木ニテ作レルアリ、又沐槽、浴槽、手水槽、洗足槽等ノ別アリ、
風呂ハ風爐ノ假借ニテ、原ト風カニテ火ノ燃ユルヤウニ作レル器ノ總稱ナリ、居風呂(スエフロ)アリ、荷風呂アリ、又板風呂、石風呂、竃風呂、五右衞門風呂等ノ數種アリ、
浴斛及ビ風呂ノ具ニハ、覆帷、下敷帷、波絹、打板、踏板、樋、洗牀、案、桶等アリ、尚ホ浴斛風呂等ノ事ハ、居處部浴室篇ニ詳ナレバ、宜シク參看スベシ、
内衣ハユカタビラト云ヒ、後ニ略シテユカタト云ヘリ、入浴ノ時ニ用イル盟衣ナリ、後ニハ專ラ入浴後ニ身ヲ拭フニ用イタリ、故ニ身拭(ミヌグヒ)ノ稱アリ、天羽衣ト云フハ、大嘗祭ノ時、天皇ノ著タマフ内衣ニシテ、又アカハトモ云ヘリ、
今木ハイマキト云フ、湯纏(ユマキ)ノ轉語ナリ、始ハ專ラ浴室若シクハ理髮等ニ奉仕スル婦人ノ著ル衣ヲ稱セシガ、後ニハ汎ク湯具ヲモ稱セリ、
湯具ハユグト云フ、浴槽ニ入ル時陰部ヲ掩フニ用イル一幅ノ布ナリ、一ニユモジト云フハ湯文字ノ義、湯具ノ歇後ノ言ニシテ鮨ヲスモジト云ヒ、章魚ヲタモジト云フニ同ジ、又下裳(シタモ)ト云フハ婦人ノ用イルヲ云フ、又フロフドシト云フハ、湯風呂ニ入ルトキニ用イル褌ナリ、 膝覆ハヒザオホヒト云フ、産兒ヲ浴セシムル婦人ノ膝ヲ覆フニ用イル生絹ノ三幅二重ナルモノナリ、
風呂敷ハフロシキト云フ、湯殿ニ敷キテ浴斛ヨリ上リタル時、足ヲ拭フ布ナリ、又湯アゲトモ云テ、小兒ノ身ヲ拭フニモ用イタリ、
手拭ハ奮クタノゴヒ、又ハタナゴヒト云ヒ、後ニテノゴビ若シクハテヌグヒトモ云ヘリ、手ヲ拭フニ用イル具ニシテ、一幅ノ布ヲ斷チテ製ス、巾箱(タナゴヒノハコ)、手拭臺、手拭掛等ハ並ニ手拭ノ附屬品ナリ、

澡豆/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十四/澡浴具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 澡豆 温室經云、澡浴之法、用七物、其三曰澡豆

〔類聚名義抄〕

〈五/豆〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 澡豆〈和語サクツ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈左/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 澡豆〈サクツ〉

〔醒睡笑〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 謂被謂物之由來
一なべて上臈がたには、さくぢ(○○○)といふを、禁中にはまちかねとかやもてあつかひ給ふ事、こぬかといふ言葉のえんにや、

澡豆製作

〔延喜式〕

〈三十六/主殿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 新嘗會供奉料〈中宮准此〉
小豆三升〈澡豆料(○○○)〉

〔延喜式〕

〈四十/主永〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0539 供御月料〈中宮亦同〉
御澡豆料(○○○○)、小豆二升五合、〈小月亦同〉
○按ズルニ澡豆ハ、小豆ヲ細末ニシテ粉トナシタルモノナリ、千金方ニ澡豆製造ノ諸方ヲ載セテ、香藥ヲ合和シタレドモ、反テ小豆ヲ用イザルモノアリ、今左ニ其中ノ一方ヲ掲ゲテ參考ニ供ス、

〔備急千金要方〕

〈六下/面藥第九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540手面白淨悦澤澡豆方
白芷 白木 白鮮皮 白歛 白附子 白茯苓 羗活 萎蕤 括樓子 桃人 杏人 菟絲子 商陸 土瓜根 芎藭〈各壹兩〉 猪〓〈兩具、大者細切、〉 冬瓜人〈四合〉白豆麪〈壹升〉 麪〈參升、洩猪〓爲餠、曝乾擣篩、〉
右十九味、合擣篩、入麪猪〓拌匀更擣、毎日常用、以漿水手面甚良、

澡豆用法

〔延喜式〕

〈四十/主水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 正月最勝王經齋會佛聖已下沙彌已上、〈○中略〉澡豆、〈日別二勺〉

〔佛説温室洗浴衆僧經〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 佛吿醫王、善哉妙意、〈○中略〉今復請佛及諸衆僧、入温室洗浴、願及十方、衆藥療病、洗浴除垢、其福無量、一心諦聽、吾當汝先説浴衆僧反報之福、佛吿耆域、澡浴之法當七物、除去七病、得七福報、何謂七物、一者然火、二者淨水、三者澡豆、四者蘇膏、五者淳灰、六者楊枝、七者内衣、此是澡浴之法、

〔諸經要集〕

〈二十/雜要部三十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 讃淨緣
僧祇律云、比丘晨起、應洗手、不麤洗、五指復不齊至一レ腋、當手腕以前令上レ淨、不粗魯洗、不揩令血出、當巨摩草末、若灰土澡豆皂莢洗手、揩令上レ聲、淨洗手、又更相揩者、便名不淨

〔侍中群要〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0540 御盥事
主水司供御手水、女官取之參入、三人以上也、四位一人、五位一人、六位一人參入、五位取御巾筥左、六位取置御澡豆破鹽御箸等之御盤右、四位取御杓供奉、六位先供御澡豆二匙、〈或一匙云々〉
男房人供御盥
御手水番依例裝、候御手水、女房仰云、女房不候、〈謂命婦不一レ候〉藏人奉仰示供奉、〈四位、五位、六位、合三人也、但五位四位中一人不候者不供、必用上臈一人、〉三人到度御前、經御湯殿南簀子御簾中候之、上臈一人候、多坐戸坤角、〈差退向艮角候矣、供時進候、〉次人進取御手巾筥、〈在御厨子、不高坏、〉退當大床子西候、〈東面〉次人進取操豆幷御鹽盤、〈干荷葉御箸御七之澡豆料、御鹽坏器御澡豆坏居御盤、〉退當御手水洗西候之、〈東面〉次上臈膝行、進供御手水、〈二酌許〉次持御澡豆人進供澡豆、〈二七許、此間猶供御手水、〉 ○按ズルニ、干荷葉ハ、荷葉ヲ乾カシタルモノナリ、是淨手等ニ用イル所ニツテ、卽チ澡豆ヲ用イル料ナラン、

澡豆壷

〔延喜式〕

〈二十一/玄蕃〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 凡天皇卽位、則講説仁王般若經、〈一代一講〉一日朝哺二座講畢、宮中諸殿省寮等廳隨便莊嚴設百高座、〈○註略〉其一堂設高座一具七僧、〈講師讀師咒願、三禮、唄、散花、維那、○中略〉講師法服、〈○中略〉澡豆壺(○○○)一合、

澡豆篩

〔延喜式〕

〈四十/主水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 供御年料〈中宮亦同〉
絹小篩四口〈各一尺五寸、牛乳幷御澡豆料(○○○○)、〉

洗粉

〔嬉遊笑覽〕

〈三/書畫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 衣服の油を洗ふに、無患子皮と白小豆を粉にして、澡豆(アラヒコ/○○)に用ふる故に、白小豆をシヤボン豆とも呼ぶ、

〔諢話浮世風呂〕

〈三編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 春はあけぼの、やう〳〵白くなりゆくあらひ粉(○○○○)に、ふるとしの顏をあらふ、

〔諢話浮世風呂〕

〈前編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 洗粉の袋はぷん〳〵と匂ひて、下男の鼻をうがち、風呂の壁はとん〳〵と朴(たゝ)きて、湯汲の睡を寤さしむ、

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 蘭麝粉(○○○) つやあらひ粉(○○○○○○)也、もろこしの李夫人つねにこれを用ひ給ふゆゑに、顔のつやうつくしく、三千のちようあい一身にありといひしも、このつやあらひこのとくとかや、當世都にもつはらはやり、男女ともに、いろつやよく、おぼへ侍り、

〔江家次第〕

〈七/六月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 解齋事〈謂六月十二月十一日後曉、十一月中卯日後曉、〉
平旦主殿司、自御湯殿方、供御手水、〈○中略〉其南立白木二階机一脚、其層敷調布、其上居御巾、〈入黑葛筥〉又置粉(○)一坏〈入小土器
○按ズルニ、本文ノ粉ハ、手水ノ時ニ用イルモノナレバ、卽チ澡豆ナラン、

漬粉

〔兵範記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0541 久壽三年正月三日乙巳、早旦着束帶先參殿下、〈○藤原忠通〉御手水番人人七八許輩參會、〈皆衣冠○中略〉次殿下出御、有御手水事、其儀、〈○中略〉次高佐持參御手巾筥、〈御手巾布二切帖入之、其上居御漬粉(○○○)土器、其上安御楊箸一節、〉陪膳傳取 之、居御座右方、取御手巾一帖長展之打懸御脇息上、次殿下召御楊箸、次奉御漬粉(○○○)御手洗給、
○按ズルニ、漬粉ハ手面等ニ傅ケテ洗フヨリノ名ニシテ卽チ澡豆ナラン、C 手水粉

〔日中行事〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0542 もんどのつかさ御手水をまいる、女官案にすへてもちてまいる、はんぞう二、たらひの中のはん、しろかねのうつは物二すへて、〈一には御てうづのこ(○○○○○)をいる〉御やうじ二ぐしてまいらす、
○按ズルニ、御てうづのこト云フハ、御手水ニ用イタマ7粉ニシテ、卽チ澡豆ナルベシ、

〔女重寶記〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0542 女けしやうの卷
一てうずの粉(○○○○○)には、もみぢ、まちかねよりは、赤小豆の粉(○○○○○)、綠豆のこ(○○○○)をつかひ給ふべし、はだへこまやかになり、あせぼ、にきびなど出でず、

髮洗粉

〔女重寶記〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0542 女けゑやうの卷
一髮もさい〳〵あらへば、しなあしくなるなり、あらはずして、あかおとしやうの藥、 こうほん〈○藁本〉 びやくし〈○白芷〉此二味をとうぶんにして粉になし、髮にふりかけ、しばらくしてすけば、あかおちて、しなよくなるなり、

〔都風俗化粧傳〕

〈中/髮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0542 髮を洗ふ傳
髮をあらふことは、髮のつやを出し、かみの脂ねばりを去らんがためなれば、度々洗てよし、夏の日は汗と油の腐たるにて、甚だあしき臭ひすれば、嗜てことに度々洗ひ惡臭ひを去るべきことなり、仕樣は、
ふのり 海蘿 うどんのこ 温飩粉
ふのりをさきてあつき湯につけ置、箸にてまはせば能解るなり、其中へうどんの粉を入れ搔交、熱きうちに髮へ能々すり付、又手にすくひためて髮を能々もめば、髮につきたる油こと〴〵く取る也、其後あつき湯にて髮を洗ば、能とけさばけるなり、其次に髮を水にて洗ひて後よく干(ほし)、髮 を結へば、色をよくし光澤を出し、あしきにほひを去る也、
又むくの木の皮
細くきざみ煎じて髮を洗ふべし、髮の色を黑ふし、光澤を出す奇妙の方也、

小糠

〔女重寶記〕

〈一/大和詞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 一こぬか(○○○)は まちかね

〔醒睡笑〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 謂被謂物之由來
一なべて上臈がたには、さくぢ(○○○)といふを、禁中にはまちかね(○○○○)とかやもてあつかひ給ふ事、こぬか(○○○)といふ言葉のえんにや、
○按ズルニ、本書ハ、元和年間ニ成リシモノナリ、當時小糠ヲサクヂトモ云ヒシヲ見ルベシ、

糠袋

〔諢話浮世風呂〕

〈三編下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 三歲ばかりの小兒を、留桶に入れておき、母親は片手で留桶のふちを押へ、右の手でぬか袋(○○○)をつかひながら、〈○下略〉

〔都風俗化粧傅〕

〈下/身嗜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 湯をつかふ事幷にぬか袋の傳
毎朝湯をつかふに至て熱湯にて顏を洗へば、顏にはやく皺を生ず、ぬか袋〈一名もみぢ袋と云〉をつかふに、顏につよくあてゝ洗ふべからず、顏のきめをそんず、〈○中略〉
糠袋に用ゆる切れは、地のよき晒木綿、紅木綿の類、糸の細き木綿よし、藍〈ニ〉染たるか、又島の類のあらき木綿よろしからず、顏をあらすもの也〈○中略〉
糠は絹にてふるひつかふべし、其まゝつかへば、こゞめ交て顏をあらす也、餅米糠別てよし、肌の垢を去るは、紅の絹を手拭かぬか袋の上になりともあてゝ洗へば、垢よく落る也、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0543 もみぢ袋(○○○○) 空穗隨筆、空にけふもみぢ袋や月の顔、〈露牙〉といへるも、糠ぶくろをいふ也、汁をもみ出してつかふものなれば、さは名付たるにや、但し赤くなる意にいふか、もみぢ袋といふこと所見なし、さくぢ袋といひけんを訛りしなるべし、さくぢは糠なり、

石鹼

〔本草啓蒙〕

〈三/土〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 石鹼(○○) シヤボン(○○○○)
紅毛ノ語ニセツブト云、羅甸語ニサボーネト云、此ノサボーネヲ轉ジ誤テシヤボント云、舶來多シ、物ヲ洗ヒテ油アカヲ落スモノ也、集解ノ説ニテハ、アクノヲリニ、ウドンノ粉ヲマジヘタルモノ也、然レドモ蠻産ハ別ニ方アリト云フ、俗ニ油ヲ落スモノヲ皆シヤボント云、無患子ノ皮ヲモシヤボント云、コレモ油ヲ落スニ用フ、又白豆(シロアヅキ)ヲ細末ニシテ澡豆ニ用フルユエ、白豆ヲシヤボンマメトモ云、又サボテント云草ハ、秘傅花鏡ノ仙人掌ナリ、此レモタヽミニ油ノツキタル時、此物ヲ横ニ切テ磨スレバ、油ヲスヒトルニ依テ、シヤボント云フヲ轉ジテ、俗ニサボテント云、皆本條ノシヤボン(○○○○)ヨリ出タル名ナリト云フ、
○按ズルニ、石鹼ト書キテシヤボント云フハ、猶ホ鉛筆ト書キテペント云フガ如シ、或ル説ニ石鹼ハ西班牙語Xabon佛語Savonノ音譯字ナリト云ヘドモ、鹼ニハ、魚占切、七廉切、古斬切等ノ數音アレド、ボンノ音ナシ、此説恐ラクハ非ナラン、

〔增補華夷通商考〕

〈三/暹羅土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 サボン(○○○)、〈灰汁ヲ煉カタメタル者、色白ク鹹シ、衣服ヲ洗フニ用フ、能垢ヲ去、〉
○按ズルニ、本書ニ衣服ヲ洗フトノミニテ、身體ヲ洗フト云フコトノ無キハ、當時未ダ本邦人ノ汎ク澡浴ニ用イザリシガ故ナルベシ、

〔和漢三才圖會〕

〈八十三/喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0544 無患子
本綱、菩提子、生高山中、樹高大、枝葉皆如椿葉對生、〈或曰、葉似欅柳葉、〉五六月開白花、結實大如彈丸、狀如銀杏及苦楝子、生靑熟黃也、老則文皺、黃時肥如油煠之形、〈○中略〉子皮、〈卽核外肉也、微苦、有小毒、〉治喉痺、硏納喉中、立開澣垢、去面䵟
按無患子〈俗云、無久呂之、今俗云豆布、〉其樹膚似山茶花、木葉似椿及漆葉、凡一椏十二三葉對生、開小白花、其子殼黃皺、蔕下二小子及中黑核之形色、皆如上所一レ説、其黑核頂有微白毛、俗呼名豆布、〈○中略〉其子皮煎汁、洗 衣能去垢、又漬水以管吹則泡脹起以爲戯、〈俗云奢盆(○○)〉

〔嬉遊笑覽〕

〈三/書書〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 今しやぼんとて、無患(ムク)子、芋がら、烟草莖などを燒たる粉を水に漬し、竹の細き管に其汁を羆て吹ば、玉飛て日に映じ、五色に光りてみゆ、眞のシヤボン(○○○○)は、本草土部に石鹼といふもの也、こゝにも蠻舶將來る灰色の煉ものなり、蘭人はセツプといひ、羅甸語にサボーネといふ、爰にてしやぽんといふなり、衣服の油を洗ふに無患子皮と白小豆を粉にして、澡豆(アラヒコ)に用ふる故に、白小豆をシヤボン豆とも呼ぶ、覇王樹も、截たる小口にて、疊などの油つきたるを摩ておとす故、サボテンと呼たるは、ます〳〵轉じたり、

〔締盟各國條約彙纂〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 改税約書〈慶應二年五月十三日、(西曆千八百六十六年六月廿五日)英佛米蘭四公使ト於江戸各國文ヲ以、五通ニ認メ、各通ニ連名調印、(各圃皆同ヲ以テ他ハ略シテ之ヲ載ヤズ)〉
第一條 各政府の名代として、此度約書ヲ議定せし全權は、此約書に添たる運上目錄を採用し、
各政府の臣民、皆堅く之を遵奉すべき事とせり、〈○中略〉
運上目錄 輸入品 第四種〈元代ニ從ヒ、五分ノ税ヲ收ムベキ品、〉
香具、石鹼(○○)、
○按ズルエ、本文ノ石鹼ハ卽チ澡浴ニ用イル石鹼ナリ、其所以ハ、本則中洗濯用ノモノハ、別ニ其目ヲ掲ゲテ、本品ト區別シタレバナリ、

垢摺

〔諢話浮世風呂〕

〈二編下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 待やアがれ、うぬがいくら引ツこすらうとぬかしやアがつても、おらア垢摺(あかすり)を落したから、うぬが垢摺(○○)でおれが背中を引ツこすりやアがれ、〈○下略〉

〔都風俗化粧傳〕

〈下/身嗜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 湯をつかふ事幷にぬか袋の傳
肌の垢を去るは、紅の絹(○○○)を手拭かぬか袋の上になりともあてゝ洗へば、垢よく落る也、

絲瓜皮

〔頭書增補訓蒙圖彙〕

〈十七/菜蔬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0545 絲瓜は皮をほしてたゝみをふき、踵のあかをとるによし、 ○按ズルニ、皮をほしてトハ、熟セル絲瓜ヲ取タテ、水或ハ泔水ノ中ニ漬ケ置キ、其種子ト外皮ヲ去ヲテ日ニ曝シ、後ニ用イルヲ云フナリ、故ニ皮トハ云ヘドモ、畢竟其中ノ纖維ヲ用イルナリ、

浮石

〔倭名類聚抄〕

〈一/巖石〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 浮石 交州記云、體虚而輕、〈觚名加留以之(○○○○)〉

〔書言字考節用集〕

〈一/乾坤〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 浮石(カルイシ)〈一名水花、本草、海中有浮石、輕虚可以磨一レ脚、〉

〔諢話浮世風呂〕

〈前編上/大意〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 總て錢湯に五常の道あり、〈○中略〉糠、洗粉、輕石(○○)、絲瓜皮にて垢を落し、石子で毛を切るたぐひ則智也、

〔錢湯來歷〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 湯語敎
無盡呪輕石(○○)ヲ盜隱 借着物更以不
○按ズルニ、錢湯ノ輕石ヲ懷中シテ、賴子講ニ出席スレバ、必ズ當籤シテ金ヲ得ト云フ諺アリシ故ニ、カク云ヘルナリ、

河藥

〔江家次第〕

〈十五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 大嘗會
卯日、〈○中略〉主殿寮供御湯、〈用東戸
仕御湯殿之人、〈殿上四位一人、六位一人、並觸山陰卿子孫之人、〉於女官幄改裝束、而於釜殿脱之人有之云云、〈○中略〉承保供御河藥(○○○)、〈入土器、居折敷、〉

〔筆の靈〕

〈後篇五十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 御河藥とは、江家次第考十五卷に、御河藥、白米也、自御厨子所之、入土器、居四足云云などもあり、さて河藥と書くは、借字にて、實は皮藥なり、白米を水に漬して、その水を天皇の御膚にぬり給ふにて、皮膚をしてうつくしからしむる藥なり、薰藥と心得たる説あるは、いみじきひがことなりと、小山田翁〈○與淸〉いはれたり、

〔侍中群要〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0546 御浴殿 口傳云、所司參上、〈女官相共〉了後奏事由、御浴之間、藏人一人候而鳴弓弦、事了、未御入之前、藏人問云、誰〈曾、近代説云、誰々侍留、〉名對面時、主殿寮官人隨次稱名、次御厨子所參上、供御河藥事了、
御湯
御艚、六月十二月替分、主殿寮供當官人已下女官候進河藥、藏人鳴弦、〈若西方〉御浴了、藏人問主殿官人名謁

〔禁秘御抄上〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 一恒例毎日次第
早旦供御湯、主殿官人奉行之、〈近代多經允五位也〉釜殿運湯、須麻志女官〈二人〉取傳、藏人爲鳴弦戸外、内侍申具之由、御船一、桶二、内侍候御垢、典侍〈或上臈女房〉進御湯帷、奉河藥、次典侍取河藥器板、于時藏人鳴弦、

〔日中行事〕

御湯殿へおりさせ給て、御ゆめしぬれば、典侍もしは上臈の女房、御ゆかたびらをたてまつる、四あしにすへたる御かはくすりをとりてまいらせてなぐる時、かはらけのをとを聞て、とのもりのすけなるくら人、〈とのもりならずばいづれにても〉弓のつるをうつ、

〔日中行事略解〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 河藥の事を考ふるに、邪惡の氣を避る藥なるべし、されば古人の説の香藥ならん、薰藥といへど、かはらけにもるとあれば、燒物とは見えず、浴後身にぬりて邪惡をさくる藥なるべし、宋洪芻が香譜に、英粉、靑木香、麻黃根、附子、甘松、瞿香、○陵香、右除英粉外、同擣羅爲細末、用夾絹袋盛、浴了傅之、此等の藥などを、御身にぬりたまふにや、

泔器/名稱

〔伊呂波字類抄〕

〈由/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 泔器〈ユスルツキ〉

〔撮壤集〕

〈中/家具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 泔器(ユスリツキ)

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 泔坏(ユスルツキ)〈婦人納理髮水之器〉

〔段注説文解字〕

〈十一上/水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0547 〓、淅米汁也、〈内則曰、其間、面垢燂潘請靧、鄭云、潘、米瀾也、按瀾者、瀾之省、○中略〉〓、周謂潘曰泔、〈今各處語言同○下略〉

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 泔杯
今女の用る鬢水入の事なり、小茶碗の如くして蓋有りて、中央の棹子の如き臺有り、

〔貞丈雜記〕

〈八/調度〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0548 一ゆするつきは、泔坏(カンハイ)と書く、びん水入の事也、その形は茶碗の如し、木にて作り、漆にてぬり、蒔繪したるもあり、又銀にて作り、けぼりをしたるもあり、ふたも茶碗のふたの如し、臺もゆするつきと對にする、形は茶碗の臺の如し、但臺の中ゆするつきの絲じりをうくる所のあなは、あけ通さずして、そこあり、又下臺別にあり、是は香臺にも用べき樣の形也、上は窠形(クハナリ)にて、ふち二分計も高し、足五所にあり、金物あり、五所にあげまきを結び垂る也、足の下は輪也、是も窠(クハ)也、
ゆするつきの圖〈ゆするつき、五字共にすみてよむべし、○圖略〉
頭書
本名泔坏ノ臺ト云也、面七寸三分ト元服記ニアリ、
泔坏の臺にあげ卷を付る事、本式いかな物を打て、それにあげまきを付るにはあらず、臺の上を錦にて張りて、其端々を組緖にて臺の板にとぢ付て、その緖の餘りを足の方へ引出して、あげ卷に結ぶ也、織物を板にとぢ付るに、大針と小針とまぜてとぢる也、大針にながくとぢたるをになと云、小針に短くとぢたるを蚫と云、河貝結、あはび結の事、包結記にくわしく記す、
一ゆするつきと云事、ゆするはゆりする也、泔坏と書てゆするつきと云も、泔はしろみづとよむ字也、坏(ツキ)はすべて椀の類を云、さかづきと云も、酒坏と云意也、たかつきと云も、高坏也、扨泔は、米を水に入てぬかをゆり、米と米をすり合てとぐ故、ゆりすると云事を略して、ゆすると云也、米をとぎたる、一番の白水をびん水に用る也、此白水を入る坏なる故ゆするつきと云也、白水は性の寒(ヒユ)る物也、人の血氣はのぼする物也、のぼせ强ければ、眼わろくなり、或は頭痛し、又は髮の内に瘡を生ずる事ある故、頭をばひやすをよしとす、依之髮を結ふに、白水を櫛に付て、髮をけづる也、〈けづると〉 〈は、髮をとかす事也、〉白水はひやす物なれば也、

〔空穗物語〕

〈藏開中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0549 まことやとのいもの給はせよ、わひてもころもだにとかたらひにてなめし、〈○中略〉略はなちのはこ、ゆするつきのぐなど奉れ給、

泔器製作

〔類聚雜要抄〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0549
泔坏
銀塗外唐草境内海浮〓
二階上瑞居物
上卷唐組五足同付
同臺五葉入
足高七寸五分、内面厚六分、土居厚三分、
牙象腰弘一寸六分、同手前長三寸〈自角定〉
牙象高二分
面敷物小文唐錦、同表臥組唐組二丈三尺、〈加上卷五垂定〉
河貞子五所蚫五所〈入角當之〉
三之物用途銀卅七兩
弘五寸八分、高六分、尻高五分、
料木三寸半板三尺七寸〈弘一尺定厚一寸〉
木道單功卅疋
蒔繪料金七兩一分、漆二合、
磨料二百疋、
打物鍛冶單功百疋
食料百疋
螺鈿料二百五十疋、同堀入料廿疋、
同堺料廿五疋、入玉料十八疋、

泔器種類

〔兵範記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 仁安三年十二月十日丁酉、早旦著行事所、大嘗會威儀御物幷副御調度内覽、〈○中略〉
大嘗會悠紀所 注進 御物目錄事〈○中略〉 螺鈿蠻繪二階一脚〈在黃地唐錦面○中略〉 銀泔坏(○○○)一口〈在螺鈿蠻繪臺、面赤地唐錦、幷唐組等、○中略〉 金銅物(○○○)〈○中略〉 泔坏(○○)二具〈○中略〉
大嘗會悠紀所 注進 副御調事〈○中略〉 金銅泔坏一口〈在臺、赤地唐錦面、〉

泔器用法

〔雅亮裝束抄〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 みづらをゆふこと
まづしたむすびをして、かうがいのさきをゆするつきの水にぬらして、むすびめをぬらして、まむすびにすべし、いとをのべしれうなり、〈○中略〉ゆするつきの水は、いとのむすびめぬらさんれうなり、

〔侍中群要〕

〈四〉

御泔坏水
先置臺取坏出、到御厨子所、入水了供之、其儀左手取水右手取蓋供之、居時取蓋置臺下云々、或取臺供之、

〔雅亮裝束抄〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 もやひさしのてうどたつる事
もやひさしに、ひろむしろをしきみてゝ、ひさしのなげしのうへに、やまとむしろをはしらにきりまはして、なげしにむしろのみゝをはしらにひとしくあてゝ、釘してうちつく、〈○中略〉そのたゝみのにしのかしらに、二階をたつ、おもてににしきをおしたり、うらにまはして、くみをしたり、上のこしのおくに、火とり、白かねのこ、はし、かゐばちあり、はしにゆするつきををくだいあり、にしきのおもてをしたり、ゆするつきふたあり、みなかねなり、

〔雅亮装束抄〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 わらは殿上のこと
ゆするつきに水いれて、やないばこにをきてぐすべし、

〔類聚雜要抄〕

〈二/調度〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0550 口傳 關白相府〈○藤原賴通〉仰云、〈○中略〉二階上置火取、以唾壼下層之説、〈打亂筥北〉又以泔坏(○○)臺唐匣南、以唾壼火取等二階上之説云々、〈○中略〉
小野宮差圖 庇立二階一脚〈南北行、東向、〉 上層北火取、南泔器、〈○中略〉
母屋立二階厨子一雙〈東西行、南向、○中略〉 南厨子上層南泔坏

〔類聚雜要抄〕

〈二/調度〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551調度例事
大治元年二月二日戊戌、白河院移御新三條殿、〈三條東洞院北面〉庇御調度如常、但不母屋調度、北庇机足二階厨子一脚、火取、泔坏、手筥、硯筥等許被用之、〈○中略〉
大治二年、白河院移御大炊殿、〈大炊御門富小路北面、但院一所令渡御東門御、〉母屋庇之御調度被立之、〈蠻繪螺鈿、沃懸地、〉北庇二階、火取、泔坏、手筥、 筥、凡皆具被置之、又女院、一品宮兩方樣々蒔繪御厨子、火取、泔坏、手筥、硯筥、御護筥等被置之、〈○中略〉
大治五年院〈○鳥羽〉幷待賢門院〈○璋子〉移御仁和寺殿、〈法金剛院東御所〉庇御調度如常、〈○中略〉北庇二階、火取、泔坏、手筥、硯筥等被置之、〈○下略〉

〔江家次第〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551 天皇元服御裝束
北面厨子中有二層、上層置御冠筥二合、〈倒置冠筥臺、具内置筥、或人云、御冠筥可一合、ニ合例不見、又倒置頗見苦、設一合臺相並可置、其東居泔坏〉〈加臺〉〈下層立二階一脚、〉〈依可立二階異一層歟〉〈其二階下層置唾壼筥一合〉〈西〉〈打亂筥一合、二階階下置平硯筥一合、〉次取出二階於東御屛風前、其上立御冠筥、〈有臺不然歟〉其北立泔坏、中層打亂唾壼同置之、

〔北山抄〕

〈四/拾遺雜抄〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0551 皇太子加元服儀〈加載記文〉
其日平明、所司裝束紫宸殿、其儀、〈○中略〉自母屋東第三間北障子南去七尺、立平文倚子、〈○註略〉其南二尺餘立平文倚子、〈○註略〉左右立平文置物机、〈在南北倚子中間、卽當御倚子、〉机上分置櫛箱泔坏等、〈螺鈿之具、櫛匣則唐匣、但无臺、泔坏有臺、延喜記云、東机置御冠筥、又出唐匣小調度置之、西机置唐匣泔坏等云云、而應和泔坏在東机、唐匣在西机、納櫛巾小刀、○下略〉

〔江家次第〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 東宮御元服
次春宮坊司、〈亮大進少進、率藏人所衆廳下部等事云云、〉自母屋東第三間北障子、南去一丈、〈舊記注七尺、而延光記注一丈由、是又相叶云云、〉南向立平文小倚子、〈金銀平文也、有金銅金物等、〉鋪紫綾毯代〈東西行鋪之、四幅、鎭子准上、〉爲御加冠座、其南二尺二寸、立白〓平文倚子、〈北面、無金銀飾及毯代、〉左右立平文置物机、〈在南北倚子中間、卽當主上御倚于、〉机上分置櫛箱泔坩等、〈紫檀地螺鈿歟〉泔坏置左机、〈北寄有臺〉

〔西宮記〕

〈臨時九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 親王元服
親王着座〈○註略〉引入着孫庇南二間、〈(中略)本家儲置加冠具、親王座頭、唐匣一合、泔坏一口、〉

〔侍中群要〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 親王元服
凡親王加元服之儀、〈○中略〉親王自侍方參上着座、次召引入人、着座之後、置加冠調度親王座頭、〈唐匣一合、泔坏一口、置座巽角、○下略〉

〔西宮記〕

〈臨時九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 一世源氏元服
天慶二年八月十四日、吏部記云、章明親王加元服、〈○中略〉酉二刻、置巾櫛具、〈二階、唐匣、櫛筥、泔坏冠筥及脇息等、〉

〔兵範記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 久壽三年二月廿八日庚子、申刻許向權辨〈○平範家〉亭、於四條東洞院新造家經營也、右衞門佐光宗令第三女子也、寢殿中央母屋立障子張、〈○中略〉北妻爲常居所、〈○中略〉其西〈右方〉立二階厨子一雙、置居冠筥、搔上筥、泔坏臺等、〈○下略〉

〔玉蘂〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 承元三年三月廿三日、此日、故攝政前太政大臣〈○藤原長經〉長女有入宮事、〈○中略〉
御裝束儀 御出立所〈一條亭○中略〉 中間〈○註略〉立御帳、〈○中略〉同間、南庇副東柱四尺屏風一帖、〈○註略〉其前立二階一脚、〈逼北〉上層中央置泔坏、〈在臺○中略〉 本宮〈以寢殿西面御所、名高陽院是也、○中略〉 南第二間立御帳、〈○中略〉同間西庇副南柱苙泥繪四尺屛風一帖、〈○註略〉其前立二階一脚、〈逼東〉其上層中央置泔坏、〈在臺〉

〔雅亮裝束抄〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0552 五せち所のこと
四尺の屛風をたてゝ、ものゝぐをく事つねのごとし、ひさしのてうどのていなり、〈○中略〉二かゐの うへの火とりは、ゆするつきにをきかへて、はしにをきたるもあしからず、

〔類聚雜要抄〕

〈三/五節雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 一調度〈○中略〉 泔坏一具

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 元曆元年十一月廿二日丁未、大將五節裝束已下饗祿等注文、〈○中略〉
一調度 二階 泔坏〈在臺〉

泔器雜載

〔源氏物語〕

〈三十四/若菜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 正月廿三日子の日なるに、左大將殿〈○髯黑〉の北方、わかなまいり給、かねてけしきももらし給はで、いといたく忍びておぼしまうけたりければ、にはかにてえいさめかへしきこえ給はず、しのびたれど、さばかりの御いきほひなれば、わたり給ふ儀式などいとひゝきこと也、みなみのおとゞの西のはなちいでに、おましよそふ、〈○中略〉御ぢしき四十まい、御しとね、けうそくなどすべてその御ぐども、いときよらにせさせ給へり、らてんのみづしふたようひに、御衣ばこよつすへて、夏冬の御さうそく、かうご、くすりのはこ、御すゞりゆするつき、かゝげのはこなどやうの物、うち〳〵きよらをつくし給へり、

〔蜻蛉日記〕

〈上之下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 五六日ばかりになりぬるに、おともせず、れいならぬほどになりぬれば、あなものぐるほし、たはぶれごとにこそわれはおもひしか、はかなきなかなれば、かくてやむやうもありなんかしとおもへば、心ぼそうてながむるほどに、いでし日つかひしゆするつきのみづ(○○○○○○○○)は、さながらありけり、うへにちりゐてあり、かくまでとあさましう、
たへぬるかかけだにあらばとふべきをかたみのみづはみくさゐにけり、などおもひしひしも見えたり、れいのことにてやみにけり、

鬢水入

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 粉水 けさうみづ 粃裝水
けさう水、或は鬢水とて、それ入る器を俗には鬢水入ともいふ、これ古への泔盃なり、

〔嬉遊笑覽〕

〈一下/容儀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0553 びなんかづらを水に漬て用る器、鬢水入といふ、塗物も金物もあり、形圓扁なり、難 波などには、びんつけ入れともいへりと見えて、大坂版の前句付に、さても結構な日和さまかな、月代へ鬢付入を頂きて、是は小判金の形に似たるに依て云り、

〔近世奇跡考〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0554 高尾所置鬢水入圖
表臘色紅葉金蒔繪
紋かな具、内朱、ふち金いつかけ、
口長さしわたし、三寸四分、横二寸二分、
裏ニカクノ
如キ紋アリ
此器は今より三十とせばかりさき、吉原の駿河屋魚躍といふ者、方圓庵得器におくりあたへしを、ちかごろ某君にたてまつりしとなん、某君予〈○京傳〉がふるきを好める事をきかせ玉ひ、めして古書畫古器等を見せしめ玉ふついで、此器をも見せ玉ふ、かゝる小器さへ、後の世に傳へて、人のめつるは、まことに高尾がほまれといふべし、

〔甲子夜話〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0554 貴上ニハ蔓堅、鬢水入トテ有テ、蔓堅ニハ五味子ノ莖ヲ截テ立テ、鬢水入ニハ水ヲイレ、〈○中略〉故ニ貴上ノ品ハ黑漆ニ金銀ノ蒔繪ニシ、卑下ノハ竹筒ニ淺マシキ陶器ノ水入ニテ、婢女モ必コノ物ヲ持リ、今ハ絶テ其品ヲ見ルコトサへ無ク、稀ニハ蒔繪ノモノ抔、骨董肆ニ見ルノミ、

〔三省錄〕

〈五/附言〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0554 理齋云、むかしは家毎に鬢水入といふかつらを入し器あり、

匜/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十四/澡浴〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0554 匜 説文云、匜〈移爾反、一音移、和名、波邇佐布、〉柄中有道、可以注一レ水之器也、俗用楾字、所出未詳、但和名之義、或説云、有柄半插其内、故呼爲半插也、

〔倭名類聚抄〕

〈十六/漆器〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 匜 説文云、匜〈初爾反、一音移、漢語抄幷俗用楾字、所出未詳、或説云、此噐有柄半插其中、故名半插也、〉柄中有道、可以注一レ水之器也、
○按ズルニ、匜ハ倭名類聚抄ニ重出シテ調度部ニハ澡浴具トシ、器皿部ニハ漆器具トシタルハ、其用ト製作トニ由リテ分載セシナラン、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四/漆器〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 廣本俗上、有漢語抄幷四字、未詳下、有或説云此器有柄半擂其中故名半插也十六字、按盥條注云、以上二物、具見下澡浴具、則此十六字、後人依澡浴具注之、非源君之舊、又按楾字、見仁壽二年尼證攝狀、〈○中略〉蓋皇國所製會意字、〈○中略〉按博古圖錄載三代匜、其狀與許氏所云似羹魁合、與皇國半插頗異、然所以盛水沃一レ盥則同、故以匜當半插也、

〔説文解字〕

〈十二下/匚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 〓〈似羹魁、柄中有道可以注一レ水、从匚也聲、移爾切、〉

〔段注説文解字〕

〈十二下/匚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 〓、似羮魁、〈斗部曰、魁、羮料也、科、勺也、匜之狀似羹、勺亦所以挹取也、〉柄中有道、可㠯注水酒、〈道者路也、其器有勺、可以盛水盛一レ酒、其柄空中、可使勺中水酒自柄中流出、注於盥槃及飮噐也、左傳、奉匜沃盥、杜曰、匜沃盥噐也、此注水之匜也、内則敦牟卮匜、非餕莫敢用、鄭曰、卮匜、酒漿噐、此注酒之匜也、今大徐本無酒字、小徐有之、韵會刪酒、而以盥噐二字於似羮魁之上妄甚、若左傳釋文引説文酒字、因經注但言盥耳、〉从匚〈此噐、蓋亦正方、〉也聲、

〔六書正譌〕

〈平聲上/四支〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555
〓古匜字、沃盥器也、有流目注水象形、欺識有張仲姑〓〓、卽〓字大篆、李斯秦刻作〓、小篆省文、今用之、後人又作〓、隷作也、借爲助詞、羊者切、詞助之用旣多、故正義爲奪、又加匚爲匜㠯別之、其實一字也、大抵古人因事物字、今之語助、皆古人器物之字、如〓本〓艸、乎本吁气、焉本鳥名之類、説文目爲女陰象形甚繆、

〔類聚名義抄〕

〈一/匚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 〓〈ハンサフ〉

〔伊呂波字類抄〕

〈波/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 匜〈ハンサウ、柄中有道、可以注一レ水之噐也、〉 楾〈俗用此字詳〉 木泉 半插〈已上同〉

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0555 楾(ハンサウ)

〔運步色葉集〕

〈葉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 楾(ハンサウ)

〔撮壤集〕

〈中/家具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 楾(ハンサウ) 匜〈同〉 半插〈同〉

〔皇大神宮儀式帳〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 御食神祭物部、〈○中略〉御波佐布(○○○)卌二口、

〔大神宮儀式解〕

〈十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 御波佐布は、御匜也、楾の字をも用ゆ、〈○中略〉和名波爾佐布といへば、波左布は半插(ハサウ)の義をしるべし、此物土師器なるは諸書に見ゆ、又陶器にも見えて、造酒式、陶匜六十口と見ゆ、

〔秋齋間語〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 はざう(○○○)は、湯水をつぐ物にて、俗にいふ湯桶の類なり、これにゆにても水にてもつぎて、たらゐへうけさする物なるに、近年〈○寶曆年間〉はぐろめの具にたらゐをあやまりて、はざうといふはいかゞ、堂上方元服の調度、官僧儀式の器物に、はざうといふはゆつぎなり、いはんやはんぞうとよこなまれるをや、

匜製作

〔延喜式〕

〈十七/内匠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 伊勢初齋院裝束
〈半插〉楾一合、〈高一尺、周二尺四寸、〉料漆七合、絹一尺、綿七兩、細布二尺、掃墨四合、燒土五合、單功六人、

匜種類

〔延喜式〕

〈四十/造酒〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 雜給料〈○中略〉
陶匜(○○)六十口

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 造備雜物
塗漆匜(○○○)一口

〔延喜式〕

〈四十/造酒〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 鎭魂祭料〈○中略〉
小匜(○○)四口

〔空穗物語〕

〈菊の宴一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0556 かくてきさいの宮賀、正月廿七日にいでくる、おとねになんつかまつり給ける、まうけられたるもの、〈○中略〉御てうづのてうど、〈○中略〉しろかねのはんざう(○○○○○○○○○)、〈○下略〉

匜用法

〔大鏡〕

〈二/左大臣時平〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 たゞこの君だち〈○時平公達〉の御中には、大納言源昇の卿御女のはらの顯忠おとゞのみぞ右大臣までなり給へる、その位にて六年おはせしかど、すこしおぼす所やありけん、出てありき給ふにも、家のうちにても大臣の作法をふるまひ給はず、〈○中略〉又はんざうたらひにて御手すまさず、寢殿のひんがしのまに、たなをして、こおけにちいさきひさげぐして、をかれたれば、仕丁つとめてごとにゆもてまいりていれければ、人してもかけさせ給はず、われ出させ給ひて、御手づからぞすましける、

〔落窪物語〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 御てうづまいらんと、もとめありきて、御かたにはいづくのはさうたらいかあらん、三の御かたのをとりもてきて、御まへにまいらんとて、かしらかいくだしなどしてゐたり、

〔枕草子〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 あはれなる物
犬ふせぎのかたより、法師よりきていとよく申侍ぬ、いくかばかりこもらせ給ふべきなどとふ、しか〴〵の人こもらせ給へりなどいひきかせていぬる、すなはち火おけくだ物などもてきつつかす、はんざうに手水などいれて、たらゐの手もなきなどあり、

〔日中行事〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 もんどのつかさの御手水をまいる、女官案にすへてもちてまいる、はんざふ二、たらひの中のはんしろかねのうつは物二すへて、〈○註略〉御やうじ二ぐしてまいらす、

〔後水尾院當時年中行事〕

〈上/正月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 朔日、四方拜とらの一刻なれば、とうより御ひるなる、常にならします方にて先御手水參る、〈○中略〉是より先に、はいぜんの人楾を御手洗の中よりとり出し、うちかへしたるふだをしあらためて、御手水をかけ參らす、

〔儀式〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0557 踐祚大嘗祭(○○○)儀
下諸司諸國官符宣旨例〈○中略〉
太政官符、宮内省、 應行雜器事〈○中略〉 波佐布八口〈○中略〉
右得某國解偁、供奉大嘗會神態料、依例所請如件者、省宜承知、依件充之、〈○中略〉
太政官符、民部大藏宮内三省、〈○中略〉
宮内〈○中略〉 波佐布二口〈○中略〉
右得神祇官解偁、供奉大嘗會、其所調度、依例所請如件者、省宜承知、依件充之、

〔康富記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 永享二年十一月十八日乙卯、是日、大嘗祭也、〈○中略〉次著御齋服主水司御手水事、陪膳頭右大辨役送藏人左少辨、〈御楾手洗〉藏人權辨〈御手巾〉等也、

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558新嘗(○○)
匜八口

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 年料(○○)供物
匜手洗各一口、手水案二脚、

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 初齋院裝束
楾一合〈(中略)已上供物〉

〔類聚雜要抄〕

〈三/五節雜事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558
一盥具 手洗二口〈大小〉 貫簀〈打敷〉 楾二口〈○中略〉
一舞師房裝束〈○中略〉 楾一口 手洗一口〈○中略〉
一祿法 大師〈○中略〉 楾一口 手洗一口〈○中略〉 小師〈○中略〉 楾一口 手洗一口

〔北山抄〕

〈四/拾遺雜抄〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 御元服(○○)儀
當日早朝、所司設御冠座於紫宸殿御帳内之南面、〈○中略〉又設洗器於殿東西壇上、〈盛匜盥於案上○下略〉

〔長秋記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0558 大治四年正月一日庚辰、皇帝〈○崇德〉加元服也、〈○中略〉攝政〈○藤原忠通〉昇西壇、立洗器北、〈南面〉主水正資 盛取楾立壇下、〈北面○中略〉右兵衞督〈○藤原伊通〉昇西壇、經洗器西其南、〈東向〉受楾向攝政、攝政洗手、〈當簀子手洗也〉事了以楾返給資盛、〈○下略〉

〔台記別記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 久安六年正月四日壬午、是日天子〈○近衞〉加冠、〈○中略〉 御元服式〈○中略〉 當日早朝所司、〈○中略〉又設洗器於殿東西壇上、〈盛匜盥於案上○下略〉

〔玉海〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 嘉應二年十月五日辛亥、資長卿來談、衆事多是御元服〈○高倉〉之間事也、 三年正月三日戊寅、天皇渡御南殿北廟、〈○註略〉其儀、〈○中略〉自壇上南行、就洗器西頭楾、〈主水正傳取獻之〉大相〈○藤原忠雅〉給笏於隨身、〈夂安故殿(藤原忠薀)給笏於隨身、〉洗手〈不嗽〉了、納言〈○藤原忠親〉返楾、

〔薩戒記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 永享五年正月三日戊午、今日有天皇〈○後花園〉御元服事、〈○中略〉此間左相〈○義敎〉就西壇上手、〈新宰相中將實雅、主水佐厶、内藏檀助職貞勤之、相公羽林入宣仁門代於軒廊案坤方、懷中笏楾沃水、○下略〉

〔北山抄〕

〈四/拾遣雜抄〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 皇太子加元服儀〈加載記文
其日平明、所司裝束紫宸殿、其儀、〈○中略〉主水司東軒廊西、第二間北邊、設洗手具、〈楾洗手手巾等、置八足机上、(中略)應和記云、官先一日、召仰所司其具、楾洗手各一具、(中略)内藏寮進、〉

〔江家次第〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 東宮御元服
主水司、東軒廊西第二間北邊、設洗手具、楾洗手巾等、置八尺机上

〔東寺要集〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559 入道无品親王性信、治安三年三月七日庚午、於仁和寺觀音院兩部傳法灌頂(○○)、〈○中略〉
一大阿闍梨御房〈○中略〉 楾手洗各一口

〔類聚雜要抄〕

〈二/調度〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0559調度例事
保延六年十一月四日甲辰、土御門内裏移御(○○)、〈土御門烏丸南面〉夜御殿幷晝御帳帷、鏡、懸角、雜事等如常、〈○中略〉
楾一口〈入水○中略〉
康治二年七月十一日丙寅、前齋院〈統子、一院御女、〉三條殿移御、〈三條室町北東○中略〉御車西面之四足ニ遣向、暫在〈天〉 反閉、陰陽師〈頭〉參向、黃牛二頭、同門之内、左右之脇〈ニ〉向、奧引立、龓府官人水〈左入楾〉火童女從中門内步出、各諸大夫一人相具、中門之砌ニ立、廳官二人持楾燭等相副、御車遣入時、水燭二人頗步出〈天〉大藏卿通職續松火〈ニ〉寄、童女燭〈ニ〉付之〈天〉立直天中門〈ヲ〉還入〈天〉於御車前天、橋隱砌〈ニ〉參寄、本付、諸大夫二人各取燭楾等〈天〉從橋隱間參入〈志天〉、燈爐油付、水童女持物、各交帶之後、卽侍相具〈天〉從東中間出畢反閉、

匜袋

〔延喜式〕

〈四十/主水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 供御年料〈中宮亦同〉
兩面袋(○○○)二口、〈一口御匜料、一口盥料、〉油絁覆二條、〈一條御膳櫃料、一條牙床料、〉油絁袋(○○○)二口、〈一口御匜料、一口御盥料、已上四物並著絁裏、○中略〉紺布一丈、〈煖御盥水釜覆料○中略〉
右便納司家、隨時出用、

匜雜載

〔榮花物語〕

〈十九/御裳著〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 御くしあげのないしのすけのこよひ〈○治安三年四月一日〉のつぼね、えもいはずしつらはせたまへり、〈○中略〉こよひの御まへのものども、やがて給はりたる、つぼねには、びやうぶきちやう、二かい、すゞりのはこ、くしのはこ、ひとり、はんざう、たらひ、たゝみまで、のこりなくたまはる、

〔辨内侍日記〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 常の御所には、きやうようの丸、いかけぢに、ほらがひをすりたる御づし、御手ばこ二、御すゞり、御はんざう、たらひ、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 内記慶滋保胤出家語第三
今韭旦天皇ノ御代ニ、内記慶滋ノ保胤ト云フ者有ケリ、〈○中略〉石藏ト云フ所ニ住ケル時キニ、冷ミ過シテ腹解ニケリ、厠ニ行キヌル間ダ、隣ノ房ニ有ケル法師ノ聞ケバ、厠ニ居タリケル者ハ、楾ノ水ヲ〓泛ス樣也、

〔長門本平家物語〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0560 昌明太刀をなげ捨て、得たりおうといだきたり、上になり下に成するに、大源次宗安大石をとり、十郎藏人のひたひをちやうと打わりたり、〈○中略〉さて藏人を引をこしてみ れば、額より流るゝ血は、楾の水をこぼすが如し、

〔今昔物語〕

〈二十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 中納言紀長谷雄家顯狗語第廿九
今昔、中納言紀ノ長谷雄ト云フ博士有ケリ、才賢ク悟廣クシテ、世ニ並ビ無ク、止事无キ者ニテハ有ケレドモ、陰陽ノ方ヲナム何ニモ不知ザリケル、而ル間、狗ノ常ニ出來テ、築垣ヲ越ツヽ屎ヲシケレバ、此レヲ怪ト思テ、ノト云フ陰陽師ニ、此ノ事ノ吉凶ヲ問タリケレバ、其ノ月ノ某ノ日、家ノ内ニ鬼現ズル事有ラムトス、但シ人ヲ犯シ崇ヲ可成キ者ニハ非ズト占タリケレバ、其ノ日、物忌ヲ可爲キナヽハト云テ止ヌ、而ル間、其ノ物忌ノ日ニ成テ、其ノ事忘レテ物忌ヲモ不爲ザリケリ、然テ學生共ヲ集メテ作文シテ居タリケルニ、文頌スル盛ニ、傍ニ物共取置タリケル、〈○中略〉塗籠ノ戸ヲ少シ引開タリケルヨリ、動出ル者有ルヲ見レバ、長二尺許リ有ル者ノ、身ハ白クテ頰ハ黑シ、角ノ一ツ生テ黑シ、足四ツ有テ白シ、此レヲ見テ皆人恐迷フ事无限ツ、而ルニ其ノ中ニ一人ノ人思量有リ心强カリケル者ニテ、立走ルマヽニ、此ノ鬼ノ頭ノ方ヲハタト蹴タリケレバ、頭ノ方ノ黑キ物ヲ蹴拔キツ、其ノ時ニ見レバ、白キ狗ノ行ト哭テ立テリ、早ウ狗ノ楾ヲ頭ニ指入タリケルヲ、楾ヲ蹴拔タルマヽニ見レバ、狗ノ夜ル塗籠ニ入ニケルガ、楾ニ頭ヲ指入テケルヲ否不引出テ鳴ク音ノ怪シキ也ケリ、其レガ走リ出タルヲ、物恐ヲ不爲ズ量リ有ケル者ノ、狗ノ然カ有ケル也ケリト見テ、蹴顯シタル也ケリ、

多志良加/蝦鰭槽

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 多之良加(タシラカ)〈納水之器〉

〔倭訓栞〕

〈中編十三/多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 たしらか 延喜式に、多志良加一口と見えたり、尼瓶に似たりといへり、水を入る器なり、江次第に見ゆ、日本紀に、手白香皇女ましませり、

〔古事記傳〕

〈四十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0561 手白髮(タシラカノ)郎女、〈白髮は借字なり〉御名瓦器の名なり、貞觀儀式〈大嘗會儀〉に水部一人執多志良加、〈○中略〉主計式に、多志羅加二口、〈受一斗〉また手白髮〓(タシラカベ)四口などある是なり、〈水部執とあるを思へば、水を入るゝ器にや、〉 〈又受一斗ともあれば、やゝ大なる器と見ゆ、此物和名抄には見えず、〉ぼて御名に負ヒ坐るは其由あるべし、

〔多志良加考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 延喜式〈神今食大嘗祭〉云、多志良加四口、
タシラカ(○○○○)は、御手水を入る器なり、今のハンサウは、此遺製にて、名をかへたる物也、村井古巖所傳多志良加の圖
はんさうの圖
ハンサウは字音なり、和名類聚鈔〈澡浴具〉匜、説文云、匜〈移爾反、一音移、和名波邇佐布、〉柄中有道、可以注一レ水之器也、〈俗用楾字、所出未詳、但和名之義、或説云、有柄半插其内、故呼爲半插也、〉
弘賢按ずるに、延喜式〈神今食〉に匜をハサウとよみしハ、和名抄以後につけしなるべし、匜と多志良加とならべ載たれば、をのづから別物なりし事あきらけし、匜は丈ひきく長き物にて、タシラカとはおなじからざれども、匜字の注釋、タシラカニ似たる所あるより、ハンサウとよびならはせしなるべし、〈○中略〉
タシラカの義詳なもず〈しゐていはゞ、タとは手の義、シヲはしらけの義にて、淨むる意にてもあるべき歟、カとにミカ、ヒラカなどいひし同じ義にて、瓷器の名なるべし、〉
文化十二年正月 源弘賢

〔匡房卿大嘗會記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0562 天仁元年十一(/○○○)月廿一日、亥一刻供神膳、其次第自柏殿東、其行列次第、〈○中略〉次主水 司水取連一人執蝦鰭船(○○○)、〈是土手洗(○)也〉次水部一人執多志良加(○○○○)、〈土瓶(○○)也〉

〔儀式〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 六月十一日祠今食儀〈十二月准此〉
亥一刻薦御膳、其行立次第、〈○中略〉次水取連一人、〈執海老鰭槽(○○○○)〉次水部一人、〈執多志良加

〔寶石類書〕

〈五/神祇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563 鰕鰭船幷蛤鰭槽
三箇重事、ゑびのはた舟といふは、御手洗の具也、
宗〈○紀宗直〉云、のゝ宮殿御考、ゑびのはた舟、當時出納調進之、〈○下略〉

〔大嘗曾指圖〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563
蝦鰭槽二
長一尺三寸壹分
鰭長各二寸四分
幅四寸八分
高四寸八分

〔延喜式〕

〈一/四時祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0563神今食
多志良加四口、〈○中略〉蚡鰭槽(○○○)二隻、〈○中略〉
右供御雜物、各付内膳主水等司、神祇官官人率神部等、夕曉兩般、參入内裏、供奉其事、所供雜物、祭訖卽給中臣忌部宮主等、一同大嘗會例

〔延喜式〕

〈三十一/宮内〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564奉神事諸司行列
次主水司水取連一人、〈執蝦鰭槽、〉次水部一人、〈執多志良加

〔延喜式〕

〈二/四時祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564新嘗
多志良加四口、〈○中略〉蚡鰭槽二隻、〈○中略〉
右依前件、其御贖大殿忌火庭火等祭料、並准神今食

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564神嘗
都婆波、多志良加各四口、〈○中略〉蝦鰭槽二隻、〈○中略〉
神嘗料〈卜八男十女
蝦鰭槽二口、〈(中略)已上當國充之○中略〉多志良加四口、〈(中略)已上美濃國充之○中略〉
右主神司幷膳部所

〔儀式〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564 踐祚大嘗祭儀
亥一刻供御膳、四刻撤之、其次第也、〈○中略〉水取一人執海老鰭盥槽次之、水部一人執多志良加次之、

〔延善式〕

〈七/踐祚大嘗祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564悠紀御膳、〈亥一刻進、四刻退、〉行立次第、〈○中略〉主水司水取連一人、〈執蝦鰭盥槽〉水部一人、〈執多志良加

〔儀式〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0564 踐祚大嘗祭儀
下諸司諸國、官符宣旨例、〈○中略〉
太政官符諸國〈毎國有符〉
新器〈○中略〉 參河國〈○中略〉 多志良加八口〈○中略〉
以前得神祇官解偁、爲奉大嘗會、應須雜物、〈○中略〉具如上件者、國承知一事以上依例行之、事有期會、不闕怠、〈○中略〉 太政官符宮内省
行雜器事〈○中略〉 多志良加、陶碓各四口、〈○中略〉
右得某國解偁、供奉大嘗會神態料、依例所請如件者、省宜承知、依件充之、〈○中略〉太政官符、民部大藏宮内三省、
民部 海老鰭槽一隻〈○中略〉 宮内、〈○中略〉多志良加二口、〈○中略〉
右得神祇官解偁、供奉大嘗會、其所調度、依例所請如件者、省宜承知、依件充之、

〔北山抄〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 大嘗會事
主殿寮供御浴、〈自東戸供之〉卽著祭服、〈(中略)淸凉抄云、式云、水部一人執廻立多之良加者、而天慶九年於嘗殿御盥失也云云、仁和四年記云、内侍奉御衾四度、號腰衾、次主水司供御盥者、檢式文弘仁宮内式、延喜式省之、猶依近例嘗殿供歟、〉

〔江家次第〕

〈十五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 大嘗會
亥一刻供御膳〈○中略〉 水取連一人、執海老鰭槽次之、 水部一人、執多之良加次之、〈○中略〉 次八姫之中二人、相分共舁海老鰭槽、置御前短帖、〈○中略〉 次取水部所持多之良加〈謂水瓶(○○○○)〉 授姫退候戸外 御手水供了、三沃爲限、候戸外之姫、伺御盥畢參入、取多之良加返給水部、〈○中略〉 姫又歸參、次第取刷巾等匣退出、又進與留姫共舁槽、退出、

〔延喜式〕

〈二十四/主計〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 左右京 調輸錢〈○中略〉
東山道 美濃國〈行程、上四日下二日、〉 調〈○中略〉手白髮〓四口

水瓶

〔倭名類聚抄〕

〈十三/僧坊具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 水瓶 因果經云、善惠仙人、被鹿皮水瓶、〈和名、美豆加米、〉

〔過去現在因果經〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0565 爾時、善慧仙人、在於山中、得五奇特夢、〈○中略〉得此夢已、卽大驚悟、心自念言、我今此夢、非小緣當以問誰、宜城内諸智者、作是念已、被〈○被、舊作披、據倭名類聚抄改、〉鹿皮衣、手執水瓶(○○)及杖繖蓋、行入城邑、〈○下略〉

〔類聚名義抄〕

〈九/瓦〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 水瓶〈ミヅカメ ミヅミカ〉

〔饅頭屋本節用集〕

〈寸/財寶〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 水瓶(スイビン)

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 水瓶(スイビン)

〔今昔物語〕

〈二十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 淸瀧河奧聖人成慢悔語第卅九
今昔、淸瀧河ノ奧ニ菴ヲ造テ、年來行僧有ケリ、水瓶ニ水ヲ入レムト思フ時ハ、水瓶ヲ令飛テ此ノ河水ヲ汲セテ年ヲ經レバ、此許行(カバカリノ)人ハ不有自(アラジカシト)ラ時々思ケル時モ有ケリ、然ル慢ノ心有ルハ惡キ事トモ智リ无キガ故ニ不知、而ル間時々其ノ菴ノ水上ヨリ、水瓶飛ビ來テ水ヲ汲ム、〈○下略〉
○按ズルニ、此ノ水瓶ハ卽チ軍持ナリ、故ニ聊カ此ニ載セタリ、

〔百丈淸規〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 辨道具
濾水囊 增輝記云、爲器雖小、其功甚大、爲生命、故中華僧鮮受持、准律標示、根本百一羯磨云、水羅有五種、〈○中略〉二法瓶(○○)、〈陰陽瓶也〉三軍遲(○○)、〈以絹繫口、以繩懸沉於水、待滿引出、〉

〔南海寄歸内法傳〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 七晨旦觀
凡是經宿之水、旦不看者、有蟲無蟲、律云用皆招一レ罪、然護生取水、多種不同、井處施行、此羅最要、河池之處、或可棬用陰陽瓶(○○○)時濟上レ事、

〔海人藻芥〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 手洗水ヲ置中居邊楾水瓶ヲ入手洗中置之、提ヲバ不入置之事也、〈○中略〉
水瓶ヲバ入手洗、力者持之、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0566 僧死後舌殘在山誦法花語第卅一
今昔、阿倍ノ天皇〈○孝謙〉ノ御代ニ、紀伊ノ國牟婁ノ郡熊野ノ村ニ、永興禪師ト云僧有ケリ、〈○中略〉其ノ邊ノ人、禪師ヲ貴フガ故ニ此ノ人ヲ菩薩ト云フ、〈○中略〉如此クシテ其ノ所ニ有ル間、一ノ僧有テ、此ノ菩薩ノ所ニ來ル、何レノ所ヨリ來レリト云フ事ヲ不知ズ、持テル所ノ物法花經一部、小字ニシ テ一卷寫セリ、白銅ノ水瓶(○○○○○)繩床一足也、〈○下略〉

〔新猿樂記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 水瓶〈(中略)已上鑄物〉

〔東大寺正倉院御開封記錄〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 水瓶 三、内〈一木(○)、一金(○)、一硝子(ビイドロ/○○)、〉

〔大安寺伽藍緣起幷流記資財帳〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 合水〓肆拾五口〈佛物卅六口之中、二口漢軍持、三口胡軍持、十九口藁瓶(○○)、十一口柘榴〓(○○)、一口洗豆〓(○○○)、菩薩物一口、通物四口、木又分物四口、○中略〉
以上資財等、天平十八年本記所定、注顯如件、

〔南海寄歸内法傳〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 六水有二瓶
凡水分淨觸、瓶有二枚、淨者威用瓦瓷(○○)、觸者任銅鐵(○○)、淨擬非時飮用、觸乃便利所須、淨則淨手方持、必須著淨處、觸乃觸手隨執、可觸處上レ之、准斯淨瓶及新淨器所盛之水、非時合飮、餘器盛者、名爲時水、中前受飮、卽是無愆、若於午後飮便有過、其作瓶法(○○○)蓋須口、頂出尖臺、可高兩指、上通小穴、麤如銅箸、飮水可此中、傍邊則別開圓孔、罐口令上、豎高兩指、孔如錢許、添水宜此處、可二三升、小成無用、斯之二穴恐蟲塵入、或可蓋、或以竹木、或將布葉而裹塞之、彼有梵僧、取製而造、若取水時、必須内令塵垢盡、方始納上レ新、豈容水則不淨觸、但畜一小銅瓶、著蓋插口、傾水流散、不受用、難淨觸、中間有垢有氣、不水、一升兩合、隨事皆闕、其瓶袋法式、可布長二尺、寬一尺許、角襵兩頭、對處縫合、於兩角頭施一襻、纔長一磔、内瓶在中、掛髆而去、乞食鉢袋樣亦同此、

〔瑩山和尚淸規〕

〈上/月中行事〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 菩薩戒布薩式
維那先問訊、抽身歷後進淨水前問訊、長跪合掌、唱淨水偈云、〈○中略〉 偈畢、右手取淨水瓶(○○○)、左掌受淨水、兩手灌洗、〈○中略〉 偈畢、淨水人唱淨水偈、維那左手取香湯瓶(○○○)、右掌受香水、兩手灌洗、而左手取手巾拭畢、且待淨水人洗手了、

〔八丈淸規〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0567 辨道具 淨瓶 梵語捃雉迦、此云瓶、常貯水隨身以用淨手、寄歸傳云、軍遲有二、若甆瓦者、是淨用、若銅鐵者是觸用、

〔南海寄歸内法傳〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0568 五食罷去
食罷之時或以器承、或在屛處、或向渠竇、或可階、或自持瓶、或令人授一レ水、手必淨洗、〈○中略〉次取淨瓶之水、盛以螺盃、或用鮮葉、或以手承、其器及手必須三屑淨揩〈豆屑、土乾、牛糞、〉洗令一レ膩、或於屛隱淨瓶注口、若居顯處、律有遮文、〈○中略〉
九受齋軌則
其施主家、設食之處、地必牛糞淨塗、各別安小牀座、復須淸淨瓨瓮預多貯一レ水、僧徒旣至、解開衣紐、安置淨瓶、卽宜水、若無蟲者、用之濯足、然後各就小牀、停息片時、察其早晩、甘旣將午、施主白言時至、法衆乃反襵上衣、兩角前繫、下邊右角壓在腰絛左邊、或屑或土、澡手令淨、或施主授水、或自用軍遲(○○)、隨時濟事、重來踞坐、受其器葉、以水略洗、勿使横流

〔南海寄歸内法傳〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0568 十八便利之事
便利之事、略出其儀、下著洗浴之裙、上披僧脚崎服、次取觸瓶(○○)、添水令滿、持將上厠、閉戸遮身、〈○中略〉復將三丸於厠内、安在一邊、一將拭體、一用洗身、洗身之法、須左手、先以水洗、後兼土淨、〈○中略〉旣洗淨了、方以右手下其衣、瓶安置一邊、右手撥開傍居、還將右手、提瓶而出、或以左臂瓶、拳其左手、可右手戸而去、就彼土處、蹲坐一邊、若須坐物、隨時量處、置瓶左䏶之上、可左臂下壓上レ之、先取身一七塊土、別別洗其左手、後用餘七、一一兩手倶淨、其塼木上、必須淨洗、餘有一丸、將洗瓶器、次洗臂腨及足、並令淸潔、然後隨情而去、此瓶之水、不口脣、重至房中、以淨瓶(○○)水口、若其事至觸此瓶者、還須洗手漱口、方可餘器具、斯乃大便之儀、麤説如此、〈○中略〉添瓶之罐、著柴爲佳、如畜君持(○○)前爲矣、銅瓶插蓋而口寬、元來不洗淨、若其腹邊別爲一孔、頂上以錫錮之、高出尖臺、中安小孔、 此亦權當時須也、

〔延喜式〕

〈三十四/木工〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 神事幷年料供御
水〓案(○○○○)、〈長四尺五寸、廣二尺、高二尺、厚八分、〉長功二人、中功二人半、短功三人、

水注子

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 水注子(ミヅサシ)

〔頭書增補訓蒙圖彙〕

〈十一/器用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 注子(○○)は水さし、湯盥、湯釜に、湯のあつきとき、水をうめる具なり、
注子(ちうし/みづさし)

〔事物紀原〕

〈八/什物器用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 注子
事始曰、唐元和初、酌酒用樽勺、雖十數人、一樽一杓、挹酒了無遺滴、無幾改用注子(○○)、雖元和時、而輒失其所造之人

〔和漢茶誌〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0569 注子 水壼也〈金紫銅胡銅之屬、今俗名其器金水指、〉
古者用金紫銅、元明皆以胡銅之、今亦同、又有鐵製、〈或有水提點、其説詳於居家必備、傍有兩耳者、其形大小低昂、任人之所一レ用、〉
本國有水瓶、其形各異、聞有銅鐵、或花紋禽獸鑰之雕之、又有眞鍮白銅、白銅者尚南蠻之製、胡銅者其次也、朝鮮白銅又其次也、
本邦用陶器、出於伊賀、信樂、備前、唐津、且京師東乾山亦造之、然經緯剛柔之理、不其趣、又曰有染付之製、摸草木山澤花鳥雲堂之屬、間亦加金銀以銷鑠之、漢土器亦然、其瓷膚靑白者、皆雪脚不浮也、 又曰、京師有樂燒、其形各異、其色有赤黑、〈○下略〉
○按ズルニ、茶湯ニ用イル注子ノ事ハ、遊戲部茶湯具篇ニ詳ナリ、宜シク參看スベシ、

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 初齋院裝束
手湯戸一合〈加鏖(中略)已上供物〉

〔延喜式〕

〈四十/主水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 供御年料〈中宮亦同〉

手湯戸

手湯戸一具、〈加臺幷拁〉手洗槽三口、〈已上二種隨損請替〉

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570新嘗料〈卜入男十女
手湯瓫二口〈已上寮充之○中略〉
右主神司幷膳部所

〔延喜式〕

〈二十四/主計〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 凡左右京五畿内國調、一丁輸錢隨時增減、其畿内輸雜物者、〈○中略〉一丁〈○中略〉手湯瓫二口、〈徑六寸、受一斗、○中略〉 河内國〈行程一里〉 調〈○中略〉 手湯瓫(○○○)四百十三口
○按ズルニ、手湯瓮ハ、手湯瓫ト別物ニヤ、又ハ文字ノ誤ニヤ、但シ字書ニハ何レモ盆ト同ジトアレバ、猶ホ通用ナランカ、

〔延喜式〕

〈十七/内匠〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 漆供御雜器
手湯戸一口、〈周五尺八寸五分、高二尺五寸五分、〉蓋一枚、〈周三尺五分〉料漆三升、掃墨五合、貲布九尺、綿一斤四兩、絁布各一尺二寸、油二合、功五人大半、
伊勢初齋院裝束
手湯戸一合、〈腹周五尺、高一尺四寸、〉臺一脚、料漆二升五合、絹一尺五寸、綿一屯、細布一尺五寸、貲布八尺、掃墨五合、燒土一升、油二合、炭五斗、單功八人、

〔延喜式〕

〈三十四/木工〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0570 神事幷年料供御 轆轤手湯戸盆(○○○○○○)、〈口徑一尺八寸、高一尺三寸、〉長功四人、〈工一人、夫三人、〉中功四人半、短功五人、

〔延喜式〕

〈四十三/主膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 年料
手湯戸一口〈口濶九寸、底濶一尺一寸、腹徑一尺九寸、深一尺三寸、○中略〉
右坊依主膳監解、申官請受、餘監署所請物准此、

〔儀式〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 踐祚大嘗祭儀
下諸司諸國官符宣旨例〈○中略〉
太政官符諸國〈毎國有符〉
新器 河内國〈○中略〉 御手湯瓫十六口〈○中略〉 已上御料〈○中略〉
以前得神祇官解偁、爲奉大嘗會須雜物幷潔祓具、如上件者、國承知、一事以上、依例行之、事有期會、不闕怠

〔兵範記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571 仁安三年十二月十日丁酉早旦着行事所、大嘗會威儀御物幷副御調度内覽、〈○中略〉
大嘗會悠紀所 注進御物目錄事〈○中略〉
白銅物〈○中略〉 手湯戸一具

〔延喜式〕

〈一/四時祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571神今食
土手湯盆(○○○○)二口〈○中略〉
右供御雜物、各付内膳主水等司、神祇官官人率神部等夕曉兩般、參入内裏奉其事、所供雜物、祭訖卽給中臣忌部宮主等、一同大嘗會例

〔延喜式〕

〈二/四時祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0571新嘗
土手湯瓫二口〈○中略〉
右依前件、其御贖大殿忌火庭火等祭料、並准神今食

〔延喜式〕

〈五/齋宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572新嘗
土手湯盆、陶手洗各二口、

〔延喜式〕

〈四十三/主膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 年料
缶四口〈二口納漿、二口汲水部手水料、○中略〉
右坊依主膳監解、申官請受、餘監署所請物准此、

〔江家次第〕

〈七/六月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 解齋事〈謂六月十二月十一日後曉、十一月中卯日後曉、〉
御手水大床子南頭、立白木机一脚、〈○中略〉其南立白木八足机一脚、其上居缶一口、〈盛御手水、長經記二口云云、近代如此、〉杓一口、

〔紫式部日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 御ゆどのは、とりの時とか、〈○中略〉そのおけすへたるだいなど、みなしろきおほひしたり、〈○中略〉みづし二、きよいこの命婦、はりま、とりつぎてうめつゝ、女房二人、大もく、むま、くみわたして、御ほどき(○○○○)十六にあまればいる、
○按ズルニ、水ヲ以テ湯ニ投ジタルヲ瓫ニ入ルヽナリ、卽チ洗兒ノ用ニ供スルナリ、

〔延喜式〕

〈二十/大學〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 饋享
大祝還樽所、謁者引頭詣罍洗手洗爵、〈○下略〉

〔正字通〕

〈未/缶〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 罍〈廬回切音雷、酒器、又盥器、畫爲雲雷之象、○下略〉

〔延喜式〕

〈五十/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 諸國釋奠式
器數〈○中略〉 盥罍(○○)一〈實水○中略〉
職掌〈○中略〉 洗所三人〈(中略)一執罍(○)掌獻官盥具事

手水桶

〔三好筑前守義長朝臣亭〈江〉御成之記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0572 御西淨之内に棚あり、〈○中略〉桶杓あり、御手水をも桶にて置同杓、〈何も黑塗テマキエアリ〉

〔融通念佛緣起〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 V 沙石集

〔沙石集〕

〈三下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 律學者之學與行相違事
故笠置ノ解脱上人、如法ノ律義興隆ノ志深クシテ、六人ノ器量ノ仁ヲエラビテ、持齋シ律學セシムトイへドモ、時イタラザリケルニヤ、皆正體ナキ事ニテアリケレドモ、堂衆ノ中ニ器量ノ仁ヲ以テ常喜院ト云所ニテ、夏中ノ間律學シ侍リ、〈○中略〉サテ彼六人ノ内ニ、名モ承リシカドモ忘レ侍リ、持齋モヤブリテ、僧房ニ同宿兒共アマタヲキテ、昔ノ儀スタレハテヽ兒ニクハセントテ、サヲ河トイフ河ニテ魚ヲトラセテ、我身ハヒタイツキノ内ニイテ下知シ、弟子ノ僧火タキテ、マヘノ爐ニテ生(イキ)タル魚ヲニルニ、鍋ノ湯ノアツクナルマヽニ、魚スビツニヲドリオツ、愛弟ノ兒コレヲトリテ手水桶ノ水ニスヽギテ鍋ニ入ル、〈○下略〉

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 觸桶〈同上(東司)具也〉
○按ズルニ、觸桶ノ用ハ手水桶ノ如シ、

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0573 觸桶〈同上(東司)具〉

〔道元禪師淸規〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 辨道法
大宋諸寺後架無楊枝、今大佛寺後架構之、兩手把面桶(○○)竈頭桶、把杓汲湯承桶還來架上、輕手於桶洗面、低細如法、洗眼裏鼻孔耳邊口頭而見淨、不湯水多費無度而使、漱口吐水於面桶之外、曲躬低頭而洗面、不直腰濺水於隣桶、兩手掬湯而洗面、勿垢膩、〈○中略〉不桶杓喧轟、咳嗽作聲、驚動淸衆、〈○下略〉

〔百丈淸規〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 列職雜務
淨頭 掃地装香、換籌洗厠、燒湯添水、須是及一レ時、稍有狼籍、隨卽淨治、手巾淨桶(○○)、點檢添換、

〔百丈淸規〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 日用軌範
輕手掲簾出三後架、〈○中略〉輕手取盆洗面、湯不多、〈○中略〉嗽口吐水、須頭以手引下、直腰吐水、恐濺隣桶、不頭、有四件自他不利、〈一汙桶○中略〉不唾涕面桶(○○)、〈○中略〉右手提水、入厠換鞋、不參差、安淨桶(○○)前、鳴指三下、驚噉糞鬼、蹲身令正、不努氣作一レ聲、〈○中略〉不水澆兩邊、左手洗淨、護大指第二第三指、不多用籌子、〈○中略〉淨桶(○○)安舊處、以乾手内衣袴、以乾手門、左手提桶出、〈○下略〉

手水鉢

〔色音論〕

〈末〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 東にみゆる淺草の觀世音にもまゐらんと、〈○中略〉御堂になれば、手水ばち(○○○○)、力及ばぬ大石を、ふねのかたちにつくりなす、〈○下略〉

〔嬉遊笑覽〕

〈二下/器用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0574 馬ふね、酒ふね何にまれ、横長なる筥のたぐひなぞらへて舟といふは、常のことなり、色音論淺草寺の條に、御堂になれば手水鉢、ちから及ばぬ大石を、船の形に作りなすとあるを、めづらしげにいへるものあり、此船の形とあるをいかに思へるにか、天和頃、師宣がかける淺草寺境内の圖に、本堂の前に大なる石の手水鉢の横長なるをかけり、帥是なり、船形といへばとて、艫舳具りて首尾異なるやうに作りしにはあらず、先つ年、大和國なる長谷寺に詣しに、樓門の前に石の筥めくものあり、其形凡長サ一丈ばかり、横五尺餘、高サ二尺二三寸もある べし、其狀石槨とも云べし、こは古き手水鉢と見ゆ、いにしへ參詣群集せし時、かばかりの物にあらずば、足るまじければ也、是に似たる手水鉢の圖、淸凉寺融通念佛御緣起の畫中にあり、

〔融通念佛緣起〕

〈下〉

〔神道名目類聚抄〕

〈一/宮社〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0575
手水所(テウヅトコロ)

〔松屋文集〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 養素園のことば
階ちかく手洗ふべき水いれたるもの(○○○○○○○○○○○○)は、寬文の五とせといひしとしに、つくれりし、堀川のかはかみなる、かめのはしのはしぐひの石なりとぞ、

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 庭石屋 海山の石、蒔石、石船、井筒、石樋、手水鉢(○○○)等也、京万壽寺通、烏丸の西、大坂は、横堀にあり、

〔饅頭屋本節用集〕

〈比/財寳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 柄杓(ヒシヤク)

〔書言字考節用集〕

〈七/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 杓(ヒサク/ヒシヤクシ)〈唐韻斟水器〉枓(同) 柄杓(同)〈和俗所用、又作檜杓、〉

〔瘧州府志〕

〈七/土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 竹屋
柄杓(○○)汲湯之具也、竹筒存節二寸許切之、横貫竹柄、以之扚湯幷水、檜杉柄杓(○○)檜物屋造之、

〔女禮秘傳集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 湯柄杓(○○○)之事、口の纒り五寸計、深サも五寸計にして、えを一尺五寸計にする也、

〔北山抄〕

〈一/四月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 八日灌佛事
次親王以下進簀子、入額間、跪机前、搢笏膝行取黑漆杓(○○○)東邊鉢水、〈先酌南鉢水、盡時酌北鉢、〉膝行灌佛一杓、安杓退而禮佛一度、把笏左廻出初間、〈○下略〉

〔瑩山和尚淸規〕

〈下/年中行事三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 四月七日、〈○中略〉若臈散行、採華來、宿老龕邊打調日内莊嚴佛龕、佛前安排、殿主聚採五木、曉更煎取、入淨鉢、立誕生佛、置兩杓(○○)、香華供養、

〔薩戒記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 應永卅二年八月十一日丁丑、今夜釋奠也、〈○中略〉次主水官人供手水、〈酌水於杓、插紙於木手力、〉上卿懷中笏手、次予插笏於左腋前方手、〈○下略〉

〔諢話浮世風呂〕

〈四編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0576 秋の時候
番公の居ねむりはまだいゝが、湯汲の居睡るのがおそれるぜ、今時分はいゝけれど、冬寒くてがたがた震ふをもかまはず、小さな柄杓(○○○○○)でだらりだらりと汲やつさ、あんまり心いきがねへ、

〔禮容筆粹〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 主貴人之御手水を掛候事、貴人之御手水をかけ候事、右の手にてひしやく(○○○○)のえの中程を持、左にて柄の末を持、たとへば御酌をとり候ごとくかまへて、少も水をかけきる事なく、さら〳〵とかけ可申也、左右順逆は其場の勝手次第なるべし、順とは貴人を我かたに見、左手にてひしやくのさきを取、逆とは主貴人を右の方に見奉りて、左手にてひしやくを深く取、右にてひ、しやくのえの末を取をいふ也、御ひぢの方へ深くかくれば御小袖に水かゝる事あるべし、尤心得べき也、〈○下略〉

搔器

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 搔器(カイゲ)

〔饅頭屋本節用集〕

〈加/財寶〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 搔器(カイゲ)

〔女用訓蒙圖彙〕

〈一/湯殿具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 搔器(かいげ)

〔商賣往來〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0577 搔器(かいげ)

〔女用訓蒙圖彙〕

〈一/湯殿具〉

搔器

〔海人藻芥〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 湯屋風呂ニテ進退ノ事、湯ヲ汲搔笥(○○)懸ル所へ添左手、手ニ湯ヲ添テ懸ル也、不手バ湯飛汁(トハシリ)散、近處無骨ナル者也、〈○下略〉
○按ズルニ、搔笥ハ卽チ搔器ト同物ナルベシ、

〔諢話浮世風呂〕

〈四編上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 秋の時候
先刻風呂へ入たる俳諧師、水舟のわきにかゞみゐて、升(○)から直に水をうちかけて、坊主あたまをくる〳〵と廻しながら、氣味のよささうに、手であらひをる、

〔錢湯來歷〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 湯語敎
朝暗内來戸擲 打晩五ツ來桝擬(ますをあてがひ/○ )

嗽茶碗

〔女重寶記〕

〈五/女用器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 嗽茶碗(うがひちやわん)

〔類聚名義抄〕

〈五/水〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 潄〈ウカフ〉

〔下學集〕

〈下/態藝〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 鵜飼(ウガイ)〈嗽也〉

〔饅頭屋本節用集〕

〈宇/人倫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 鵜飼(ウカイ)

〔善庵隨筆〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0578 笈埃隨筆ニ、五山にて、毎日早天に方丈より祖師前へ供膳あり、先拂曉に銅盤に湯 を入れ、手巾を添て奉る、其後白粥を供ふ、未明に至り齋飯調菜をよく煮、念を入て鹽梅し、輪番の僧に供し奉る、四季に衣服をも奉る也、されば俗間に早朝に起て手水し口漱をウガイといふは卯粥なり、事は佛氏に出、るとて、瑯鄒代醉編卷二十ニ、周朴唐末詩人、寓於閭中僧寺、假丈室以居、不酒茹一レ葷、塊然獨處、諸僧晨粥卯食、朴亦携巾盂、厮諸僧中、畢飯而退、率以爲常トアルヲ例證トス、鼎〈○朝川〉謂フ、此説餘リ學問過ギタル考ナリ、烏鬼ヲ使フモノ鵜ヲシテ魚ヲ捕ラシメ、咽喉ヨリ下へ下サズシテ吐出セシム、今手水スルモノ湯水ニ口ヲ漱ギ咽喉ヨリ下ニ下サズシテ吐出スル、恰モ鵜飼ノ如クナレバトテ、鵜飼(○○)トイフ説ノ簡明朴實ナルニ如ズ、

〔女用訓蒙圖彙〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 同御厨子黑棚かざりの事
同中の棚、〈○中略〉左は、〈○中略〉鵜飼天目(○○○○)二つそえてかざるべし、

楊枝/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十四/澡浴具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 楊枝 温室經云、七物其六曰、楊枝、

〔伊呂波字類抄〕

〈也/雜物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 楊枝〈ヤウジ〉

〔下學集〕

〈下/器財〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 楊枝(ヤウシ)〈梵網之疏云、齒木也、〉

〔饅頭屋本節用集〕

〈也/財寶〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 楊枝(ヤウジ)

〔大和本草〕

〈十二/雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 黑モジ 山中ニ生ズ、〈○中略〉皮黑クシテ香氣アリ、故ニ是ヲ用テ牙枝(ヤウジ/○○)トス、皮ヲツケ用ユ、

楊枝製作

〔雍州府志〕

〈七/土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579 楊枝 所々劉之、其内下粟田口猿屋爲本、百本或五十本、入桐筥並紙袋、贈遠方、今自四條京極西至祗園町特多、其木自河内國玉串村出者爲良、豐前國立石之楊枝木爲絶品、各在京師、立石村、堂上萩原家領地也、

楊枝寸法

〔壒囊抄〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0579楊枝功能幷寸法アリト云、如何、〈○中略〉
次寸法事、三寸ヲ最小トシ、一尺二寸ヲ最大トス、其中間ハ可意歟、諸經要集云、僧祇律云、極長十 六指、極短四指、以上、若无齒者、當灰ト云云、今此四指ノ量ヲ三寸トスル事、倶舍ニ寄一肘ヲ、一尺八寸ト定テ、廿四指肘ト云リ、然バ四指ハ是三寸ニ當レリ、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/舉餡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 楊枝〈○中略〉寸法の事、僧祇律云、極長十六指、極短四指とあり、今此四指を三寸とするを、倶舍に一肘を舒て一尺八寸と定めて、廿四指肘といへり、然れば四指は三寸に當れり、最大なるは一尺二寸、最小三寸、其中は意に任すべしと、右は古代に定れる法也、今〈○文政年間〉四寸より六寸の間を用ふといへり、延寶に遊冶郎用る處のやうじ寸法かくの如し、〈(中略)古畫を見るに、寬永前後天和真享ごろ迄もやうじの大さ同じやうなり、〉

楊枝種類

〔大和本草〕

〈十二/雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 白楊(○○) 本草喬木部ニアリ、京都四條邊コレヲ牙杖(ヤウジ)ニケヅリウル、又扇筥ニモコレヲ用ユ、故ニハコ柳ト云、葉ハ梨ノゴトシ、又桐ニ似テ小ナリ、實ハ椋ノ實ホドアフ、冬熟シテ紅ナリ、洛外處々ニアリ、筑紫ニテハ犬桐ト云、葉桐ニ似タレバナリ、又木理柳ニ似タリ、故ニ葉ハ柳ニ似ズトイヘドモ、中華ニテハ白楊ト云、京都ニテハハコヤナギト云、

〔和漢三才圖會〕

〈八十三/喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 柳〈○中略〉
柳枝 去風消腫止痛、作浴湯膏藥牙齒藥、又其嫩枝削爲牙杖、滌齒最妙、

〔和漢三才圖會〕

〈八十三/喬木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 贅柳(こぶやなぎ/○○) 正字未詳按、贅柳生山谷叢生、高五六尺、葉似白楊葉而花穗與柳無異、其木枝皆有縱脹起、剝皮如堆文、亦似人肬贅、故呼曰贅柳、木理濃美、可以作牙杖

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 楊枝師 打楊枝、平楊枝、品々あり、木は、〈○中略〉加賀國越前よりいづるは、こぶある木なり、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 箕山大鑑に、楊枝は、こぶにて直なるよし、房かみたるを用、

〔嬉遊笑覽〕

〈二巾/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0580 こぶとは、こぶ柳をいぶ也、

〔大和本草〕

〈十二/雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 黑モジ(○○○) 山中ニ生ズ、葉ハ漆ニ似テ、又榎ニ似タリ、葉ニ大小ノ異アリ、冬ハ葉落ツ、皮黑クシテ香氣アリ、故ニ是ヲ用テ旡杖(ヤウジ)トス、皮ヲツケ用ユ、
○按ズルニ、近世小楊枝ヲ作ルニハ、多ク此木ヲ用イルナリ、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 今牙杖に削り造る木、黑もじ、かんぼく、白楊等あり、黑もじは、木の高さ一丈許に至り、葉椎に似て鋸齒なし、春若葉の出る時黃花咲、秋丸き實なる榎に似たり、皮は色靑く、黑き斑あり

〔和漢三才圖會〕

〈二十五/容飾具〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 楊枝 剔牙棒 齒木〈○中略〉
按、楊枝卽削楊柳枝抒(セヽル)牙齒間者也、桃枝(○○)亦佳、但有節者不用、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 かんぼく(○○○○)、同書〈○大和本草〉云、肝木、漢名未詳云々、この木江戸にも處々にあり、葉は對生にして三尖なり、形楓葉に似て大さ一寸許、木はひよどり上戸に似たり、香氣あり、これには大和本草にも牙杖にするよしを云ず、

〔都風俗化粧傳〕

〈上/顏面〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 疣をとる傅
杉楊枝(○○○)にて疣をなで、其やうじを黑やきにして、〈やうじに火をつけ、ちやわんにてふせ置べし、〉粉にして、胡麻の油にてとき、疣に付べし、

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 楊枝〈○中略〉 世に傳へし天滿宮の御詠といふものにも、竹のやうじ(○○○○○)と見えしは、まことゝも、思はれねども、これらも、久しき諺にや、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/舉飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0581 牙杖の原、竹をも用ひたう、然るに菅家神詠とて、みる石の面に物は書ざりき竹のやうじもつかはざりけり、と云る歌を傳へたるは、何ものゝさかしらなりけん、抑意義なき事ながら、そのかみさる俗習ありしにこそ、
○按ズルニ、本文ノ竹ノ楊枝ノ歌ハ、類聚叢林和歌集卷四十二ニ菅家御詠トシテ之ヲ擧ゲタ リ、以テ其古クヨリ世ニ行ハレタルモノナルヲ見ルベシ、

〔西鶴織留〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 古帳よりハ十八人口
今是のおかたの常住の風俗を見るに、〈○中略〉爐燵にむらさきぶとんをかけ、茶繻子の引敷、延の鼻紙に壼打のやうじ(○○○○○○)取添へ、たばこの火に、伽羅を燒かけ、せんじ茶を、臺天目にてはこばせ、手もとに源氏物語、いたづらに氣を移す事を、年中の仕事にして、〈○下略〉

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 西鶴織留に、傾城が人の妻となりたる處に、延の鼻紙に壺打のやうじ取添云々、その繪に、今のふさやうじの形をかけり、食後には必是を用ひたる也、

〔男色大鑑〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 詠めつゞけし老木の花の頃
今年主水〈○玉島〉は六十三、半右衞門〈○豐田〉は六十六まで昔に替らぬ心づかひ、二人共に一生女の顏をも見ず、此年迄世を過しは、是戀道少人を好る鑑ならん、今もまだ主水を若年のごとく思ひつづけて、黑き筋なき薄鬢に、花の露をそゝぎ、卷立に結なすもをかし、氣をとめて見しに、此人は角を入たるよしもなく、生付の丸額、是ぞかし、不斷も以前を忘れずして、壼打の楊枝(○○○○○)手ふれて齒を磨くなど、髭をぬき捨、しらぬ人の見ては、かゝる分とはよもや思ふまじ、

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 楊枝師 打楊枝、卒楊枝、品々あり、粟田口の猿屋ハ、玉串村の者なるによりて、其名高し、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 打やうじと云ひしは、今のふさやうじなり、平やうじ(○○○○)、今〈○文政年間〉もあり、平めにして、少しそりたるなり、茶菓子などに二本添て箸に用、むかしのは、大かた今の辨當箸よりも長しと見ゆ、

〔諸艶大鑑〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0582 一言聞身行邊
道行づくしの淨瑠利本、皮付の大楊枝(○○○○○○)、喜三郎が琢砂をたしなみ、〈○下略〉

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 箕山大鑑に楊枝は、〈○中略〉皮付のやうじ(○○○○○○)凡卑なり、

〔大和本草〕

〈十二/雜木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 黑モジ 山中ニ生ズ、葉ハ漆ニ似テ又榎ニ似タリ、葉ニ大小ノ異アリ、冬ハ葉落ツ、皮黑クシナ香氣アリ、故ニ是ヲ用テ牙杖トス、皮ヲツケ用ユ、又ホヤウジ(○○○○)ト名ヅク、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 大和、本草にほやうじ(○○○○)とあるは、黑もじの皮付にて、草の穗に似たるをもていふにや、これ又たけ長きにて、今の爪やうじをいふにあらず、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/雎飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 爪楊枝は、八文舍が色三線に、〈浮世男をいふ處〉こぎくの五つ折、爪楊枝を指こみ云々とあれば、此頃は小き楊枝も出來て、壼打などは懷中にもたざりしにや、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/舉飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 寸法、人の好みによりて用ゆるにや、〈○中略〉近きころ〈○文政年間〉迄も、今のごとき小きやうじ(○○○○○)はなかりき、

〔男色大鑑〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 袖も通さぬ形見の衣
猿に袴を着て看板出し、夷橋筋に根本浮世楊枝とて、芝居若衆の定紋をうちつけ置しに、それぞれのおもはく其手に枕のかたらひ、及びがたき人、せめてば心睛しに、此絞やうじ(○○○○)を手にふれて、口中琢ける時は、戀の君が美舌をくはふる心ちのして、哀や氣をなやましぬ、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 西鶴大鑑にえびす橋筋に、根本浮世楊技とし、芝居若衆の定紋をうちつけ置しに云々とあり、其頃の俳諧集に、野郎の紋やうじ付合の句往々見えたるよし、柳亭子〈○種彦〉いへり、思ふに紋の模を作り、楊の木の軟なれば、その模を打たるものと見ゆ、

〔懷子伽〕

〈十上/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0583 花もしにふるまふ網の鯉一種 重賴
立よりてこそ三輪の杉の木
初瀨女をもてなす茶の子そぎ楊枝(○○○○)
なじまぬ中もふかき心中

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 そぎやうじ、〈○中略〉これは杉の割木なるべし、

楊枝用法

〔九條殿遺誡〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 遺誡幷日中行事〈造次可座右
先起、稱屬星名號七遍、〈微音、其七星、貪狼者、子年、巨門者、丑亥年、祿存者、寅戊年、文曲者、卯酉年、廉貞者、辰申年、武曲者、巳未年、破軍者、午年、〉次取鏡見面、次見曆知日吉凶、次取楊枝西洗手、〈○下略〉

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 楊枝 やうじ
やうじ(○○○)をもて、齒を刺、口そゝぐ事、すでに天曆の比より見えたり、九條殿遺誡ハ、その比の物なるに、そのうちに見えたれば、そのまへつかたより有しことゝ見ゆ、

〔南海寄歸内法傳〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 八朝嚼齒木
毎日旦朝、須齒木、揩齒刮舌、務令法、盥漱淸淨、方行敬禮、若其不然、受禮禮他、悉皆得罪、其齒木者、梵云憚移家瑟詫、憚哆譯之爲齒、家瑟詫、卽是其木、長十二指、短不八指、大如小指、一頭緩、須熟嚼良久淨刷牙關、〈○中略〉亦旣用罷、卽可倶洗棄之屛處、〈○中略〉近山莊者、則柞條葛蔓爲先、處平疇者卽楮桃槐柳、隨意預收備擬、無闕乏、濕者卽須他授、乾者許自執持、少壯者任取嚼一レ之、耆宿者乃椎頭使碎、其木條以苦澀辛辣者佳、嚼頭成絮者爲最、麤胡葈根極爲精也、〈卽蒼耳、幷截耳入地二寸、〉堅齒口香、消食去癊、用之半月、口氣頓除、牙疼齒憊、三旬卽癒、要須熟嚼淨揩、令涎癊流出、多水淨漱、〈○中略〉豈容齒木名作楊枝、西國柳樹全稀、譯者輒傳斯號、佛齒木樹實非楊柳、那爛陀寺目自親觀、旣不信於他、聞者亦無勞致一レ惑、〈○下略〉

〔禁秘御抄〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0584 一恒例毎日次第
抑御手水は、近代内侍内々供之、昔女官所獻也、今前後不定之間不用之、主水司供之、御手水女官舁之參立御手水間前、女官申御手水まいらせ候はん、女房あといふ、女官御楊枝二ヲ雙指御簾、まかりいたしまいらせ候はんといふ也、又女房あといふなり、

〔日中行事〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 もとんのつかさの御手水をまいる、女官案にすへてもちてまいる、はんざふ二、たらひの中のはんしうかねのうつは物二すへて、〈一には御てうづのこをいる〉御やうじ二ぐしてまいらす、〈○中略〉石ばいの壇に出おはしまして御拜あり、〈○中略〉御拜の程、内侍一人、ひろ日さしに候て、御てうづうるはしくまいらすおりは、女官御手水まいらせ候んと二聲申す、女房あといふ、女官御楊枝二をみすにさして、まかりいだしまいらせ候と二こゑ申す、女房又あといふ、

〔兵範記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 久壽三年正月三日乙巳、早旦着束帶、先參殿下、〈○藤原忠通〉御手水番人人七八許輩參會、〈皆衣冠○中略〉次殿下出御、有御手水事、其儀、〈○中略〉次高佐持參御手巾筥、〈御手巾布二切帖入之、其上居御漬粉土器、其上安御楊箸(○○)一筋、○中略〉次殿下召御楊箸(○○○)
○按ズルニ、楊箸ハ卽チ楊枝ナラン、

〔成氏年中行事〕

〈正月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 朔日、早朝ニ公方樣御行水メサレテ以後、御手水ノヤク人、直垂ニテ致出仕トキ、足利ヨリマイル御年男御手水ヲ楾盥ニ入テ、御ヤウジ御手カケニ置テ、御中居マデ持テ參ル時、役人請取、御前ノ次ノ御座六間ニヒガシムキニ置申時、上臈樣御持有テ、御手カケアル也、御陣之時ハ、役人緣塗小具足ニテ參リ、直ニ懸ラル、其後大御所樣御方、〈○足利持氏〉御所樣〈○足利政氏〉へモ役人參リ、御手水ヲ調進、上二日、三日、七日、十五日同前也、

〔都風俗化粧傳〕

〈下/身嗜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0585 朝起ては、齒をよく磨、楊枝をもて、齒の間の滓を去るべし、
又楊枝をふかくつかひ、又くせになりて無用の時にやうじをつかふ人あり、甚だ齒を損じてあしゝ、
又楊枝にて舌の上の滓をなでさり、食事の後は湯か茶を口にくゝみて、齒の間に挾たる食物の滓を吐去べし、
○按ズルニ、楊枝ヲ以テ舌上ノ垢ヲ去ルコト、我ガ邦ニテハ、楊枝ヲノミ用イテ、別ニ刮舌刀ヲ バ作ラザルナリ、然ルニ佛家ニテハ古クハ別ニ作リテ、楊枝トハ其用ヲ異ニセリ、但シ時ニ或ハ楊枝ヲ擘キテ刮舌刀ノ代用ニシタルコトモアリ、其詳細ハ、左ニ掲グル文ニ據リテ見ルベシ、

〔四分律〕

〈五十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 雜撻度之三
時諸比丘、舌上多垢、佛言聽刮舌刀、彼用寶作、佛言不爾、聽骨牙角銅鐵白鑞鉛錫舍羅草竹葦木、彼不洗便擧、餘比丘見惡之、佛言不爾、應洗、彼洗已不曬燥、便擧生壞、佛言不爾、

〔毘尼母經〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 晨起嚼楊枝竟須舌者、佛聽銅鐵木竹葦刮舌刀是名刮舌法

〔南海寄歸内法傳〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 八朝嚼齒木
毎日旦朝、須齒木、楷齒刮舌務令法、〈○中略〉用罷擘破、屈而刮舌、或可別用銅鐵刮舌之箆、或取竹木薄片如小指面許、一頭繊細、以剔斷牙、屈而刮舌、勿傷損

〔女重寶記〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 女中よろづくいやうの事
一餅は、楊枝にさしてくふべし、又手にてつまみてもくふべし、
一眞桑瓜くふ事、たてに四つにわり、楊枝をそへ、さらに入出べし、楊枝をとり、瓜の中こをこきすてゝ、楊枝にさしくひ給ふべし、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 女鑑〈寬永前後の書慶安三年板〉くわしのこと、御すはりなば、まづやうじをとり給ひて、つかはれ候はゞ、をとこのやうに、やうじを折ちれ候まじく候、又やうじもちやうの事、大りやく、ゆび二つにてもたれ候、又くわしをもまいり給ふべし、
○按ズルニ、慶安ノ頃ニ在リテハ、男子ハ楊枝ヲ一タビ使ヒテハ、直ニ之ヲ折リテ捨テタルモノト見ユ、其原ハ佛家ノ説ニ據リタルモノナルベシ、左ニ其本説ヲ掲ゲテ、參考ニ供ス、

〔諸經要集〕

〈二十/雜要部三十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0586 護淨緣 五分律云、嚼已、應洗棄一レ之、以蟲食死故、又三千威儀云、用楊枝五事、一斷當度、二破當法、三嚼頭不三分、四梳齒當中三齒、五當汁澡、自用刮舌、有五事、一不三反、二舌上血出當止、三不大振手汚僧珈梨若足、四棄楊枝人道、五當屛處

〔南海寄歸内法傅〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 八朝嚼齒木
毎日早旦須齒木、〈○中略〉亦旣用罷、卽可倶洗棄之屛處、凡棄齒木、若口中吐水、及以洟唾、皆須彈指經三、或時謦欬過一レ兩、如不爾者棄、便有罪、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 世につかひたる楊枝は、折て拾べし、若をらで打遣る時は、恠ありともいひ、又楊枝がくれなど、みな女童べのいふこと也、按るに、似せ物語〈寬永の草子〉男けいせいに知音して、卽時もはなれず有わたるに、いたづらものになりぬべければ、終に知音はなるべしとて、この男いかにせん、吾かのさまよせ給へと、佛神にも申けれど、いやまさりてよせざりつゝなほわりなくいとすげなうあひしらひければ、御楊枝かるたなどつゝみかきつけて、もはやかはじといふせいもんとをたてゝなむあひける云々と有、そのことわきまへがたけれど、これをもて誓に立る遊里のならひありしと見ゆ、されば楊枝に靈あるやうにいふこと、久しき俗傳と見ゆ、その原は上に引る寄歸傳の文に、やうじは人氣なき處に棄るに、欬(シハフキ)つまはじきなど種々の法あり、然せざれば、罪ありといへる事を附會していひ出し事と知らる、世話盡〈明曆二年板〉戀部に、〈○中略〉片見楊枝とあれば、件の物語のかるた楊枝は、かたみとして贈り、重ねて逢まじき意にて、楊枝に靈あるのよしにあらじ、

〔永代重寶記〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0587 食物の作法
一楊枝をつかふ事、さきをみじかく持て、口に手をかざすごとくにして、脇へむきてつかひ、はな紙を取出し、口を拭ひ、楊枝をふところへ入るなり、

〔醍醐雜事記〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 注進眞言院用途物事
楊枝卅枝〈○中略〉
嘉承三年正月 日

〔醍醐雜事記〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 眞言院後七日御修法用途物等事
楊枝卅枝〈○中略〉
仁平三年閏十二月
○按ズルニ、本文ノ楊枝ハ、衆僧ノ漱口用ニ供スル料ナルベシ、

〔沙石集〕

〈三下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 栂尾上人物語事
或遁世ノ長齋ノ上人、河内國へ請用シテユク、七里ノ道ヲ冬ノ日、時以前ニオハシマセト請ズ、イト道モアユマヌ馬ニノリテユクニ、クモリテ日影モ見エ子共、ハルカニ日タクテ覺ケレバ、今日ハ日サガリヌラントイフニ、檀那イマダ午時ニテゾ候覽トテ、種々ノ珍物ヲ以テ齋イトナミテスヽム、本ヨリ食者ナレバ、カヒ〴〵シクヲコナビ、食後ノ菓子迄至極セメクヒテ、楊枝ツカフニ、鐘ノコエキコユ、〈○下略〉

〔雨窻閑話〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0588 小野木家妻女〈幷〉かちんの事
一細川幽齋侯の和歌の門人に、小野木縫殿助言郷といふ人あり、丹州福智山の城主たり、〈○中略〉或日和歌の會を催す、其連中は小川土佐守、熊谷大膳亮、宇田下野守、木村宗八郎等なり、〈○中略〉程なく歌始りて、食事時分に至りしかば、年の頃四十計の女、さもけなげなるが、翠簾の外に手をつかへ、今日の御客來に饗應奉るべき品なし、如何はからひ申さんと有りしに、妻女とりあへず、短冊に歌を書きて出だされけり、折節春雨の降りければ、
月さへも漏る宿なれば春雨のふるまふ物もなかりける哉 やゝ有りて黑く燒きこがしたる餅を、反故につゝみ、杉楊枝(○○○)を添へて、引かれしとぞ、

〔窻の須佐美追加〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 佐倉少將利勝朝臣大老たりし時、或國君執政たちに請れるは、近日茶をすゝめたく候、御出下さるベく候やと申されしかば、朝臣を始、各一向に、是は興ある事に候、某日皆可參と約束有けり、〈○中略〉當日に及て、老臣達うちつれて行れければ、主人門内に迎て、辱よしを述、書院に招じ、やがて數奇屋に八られけるに、小き重箱にかいもちひ五つ入、ふたの上に楊枝をそへて出されけり、

楊枝筥

〔江家次第〕

〈十五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 大嘗會
卯日〈○中略〉皇上召御手水〈女藏人傳供、近例頭藏人奉之、○中略〉 次十姫十男以次參入、列居於中戸南、 次八姫之中二人相分其舁海老鰭槽御前短帖
已上一姫留候
一姫歸取楊枝筥(○○○)、授留姫、姫取之置槽南邊

楊枝指

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 こぎくの五ツ折爪楊枝(○○○)を指こみ、〈○中略〉
男女ともに楊枝さし(○○○○)と云もの、昔はなく、はながみの間に入るまでなり、賤の小手卷に、やうじさし、大かた女の拵へたる切封じの手紙にしたるやうじ指なりしに、次第に色々の工夫して、黃土佐紙にて、小く拵へたる有、又折居にして疊むやうにしたるもあり、とかくいやみなく辨理なるかたになりたり、かく云へるは、寬延頃なり、是にて楊枝も小くなりしを知る、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0589 賤小手卷、はな紙袋、昔は一ツ口にして脇入を入口のかぶせに銀の大なる平がなものさま〴〵物ずきして打たり、それを紫のふくさに包み、胴じめに眞田の廣きを廻し、銀の平き輪かなものをはめ、緖じめの如くしめ、其先に落し巾著を付て、内懷へ入て持たり、はな紙別に其儘入るか、又ははながみさし、はな紙押へとて、きれにてうすく拵へ、挾みて入たり、右のはなが み袋は、今に女の用ること替ることなし、其後、三德といふものはやり、今なほ是を用、はながみさしも、色々工夫し、中に一ツ淺き口を付、楊枝などを入(○○○○○○)、是を田沼懸(○○○○○)と云り、

楊枝店

〔人倫訓蒙圖彙〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0590 楊枝師 粟田口の猿屋は、玉串村の者なるによりて、其名高し、猿屋楊枝といふいはれ、からの猿は、齒あかくかほ白し、日本の猿は、齒しろきゆゑに、楊枝の看板(○○○○○)たり、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0590 商人世帶形氣二楊枝屋の看板のさる見るやうに守つてゐてなど云り、

〔男色大鑑〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0590 袖も通さぬ形見の衣
猿に袴を著て看板出し、夷橋筋に根本浮世枝楊とて、芝居若衆の定紋をうちつけ置しに、〈○中略〉世に又世をわたる業程悲しきはなし、道頓堀の眞齋橋に人形屋の新六といへる人、手細工に師子笛或ひは張貫の虎、またはふんどしなしの赤鬼、太鼓もたぬ安神鳴、これみな童子たらしの樣に拵へて、年中丹波通ひして、そのもどりには、竹の皮荒布に肩替て、しづかなる心なく、元日より大晦日まで、夫婦の口過ばかりに、去とはせはしく、橋一つ南へ渡れば、常芝居のあるに、つひに見た事もなし、燈臺本油の耗(へる)をなげき、始末心より是なり、此人ある時道に行暮て、里遉く村雲山も時雨もよほして、風は松を噪がせて次第に淋しくなれば、やう〳〵子安の地藏堂に立寄て、寒き一夜を臥しぬ、旣に夜半と思ふ時、駒の鈴音けはしく耳驚かし、旅人かと立聞せしに、形も見えずして、御聲あらたにお地藏〳〵と呼給ひて、今夜の産所へ見舞給はずや、丹後の切戸の文珠じやとのたまへば、戸帳のうちより、今宵は思ひよらざるとまり客あり、役々の諸神諸佛によきに心し給へといひ別れ給ひ、其夜の曉方に又文珠の聲し給ひて、今宵五畿内ばかりの平産一万二千百十六人、此内八千七十三人娘なり、中にも攝津國三津寺八幡の氏子、道頓堀の楊枝屋に願ひのままなる男子平産せし、〈○中略〉と先を見開きての御物語、あり〳〵と聞しに、程なく常の夜も明白み、新六地藏堂を起別れ、丹波より難波に歸りて見しに、南隣楊枝屋に日も時も違はず男子産出し て、今日六日とて親族集り、はじめて髮垂る祝言より、此子はそなはりて野郎下地なり、仔細は今からさへ鬢付の色濃く、首筋髮際まで、此美しみならびなき太夫になるべしと、なほ嬰兒總角の比よう朝暮大事に掛て育てける程に、〈○下略〉

〔嬉遊笑覽〕

〈三/書畫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 西鶴大鑑〈七〉猿に袴をきせ、楊枝屋の看板とすることをいへり、齒の白きにとるにや、

〔江戸總鹿子名所大全〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 新材木町南通〈北ハ新材木町ゟよし町まで〉 此町筋商家大概
材木 竹や よしすや もとゆい やうじ(○○○)〈○中略〉
御堀はた通〈南ハ數寄や橋より、北へ鎌倉河岸迄、〉 此町筋諸職商家やうじや(○○○○)

〔江戸名所圖會〕

〈十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 金龍山淺草寺 楊枝店
境内、楊枝を鬻く店甚多し、柳屋と稱するものをもて本源とす、されど今は其家號を唱ふるもの多く、竟に此地の名産とはなれり、

〔近世奇跡考〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 淺草楊枝店始原
寬永の頃は、店をかまへず、ちいさき長櫃やうのものゝうへに、茶筅と楊枝をならべおきて賣けるよし、其頃の者十餘人、今に楊枝をあきなひて、櫃親といふ、〈或云役店〉これ櫃の上にて物を賣たる證の今に殘れる也、今觀音堂におきて、追儺をおこなふ時、鬼に扮するは、彼櫃親等のつとむる古例なりとぞ、〈以上、淺草菴主人(大垣市人)彼ひつおやのうち、古老のものゝ説なりとて、ものがたりき、〉

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 江戸にて、楊枝商人の多きは、淺草寺境内に勝る處なし、此商人古くより有しとなむ、昔は茶筅と楊枝を櫃のうへに幷べ置て賣たりとぞ、是寬永頃よりありしものといへるはおぼつかなし、

楊枝雜載

〔空華日工集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0591 應安五年二月十二日、赴長壽寺府君光伴之筵、官伴管領及弟侍中愛甲三品、僧壁少室 主人古光而已、其壁次三品話、嘗宿京之今熊野、山伏者某爲某女人邪氣、女人口吐出鐵釘、又吐出一物、乃楊枝(○○)幷眉造者、以其女人手書和歌故紙而纒之、稍見其物、逡巡而從去、

〔仁勢物語〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 おかし大けいせいやありけり、〈○中略〉かく片時もはなれず、有わたるに、いたづらものになりぬべければ、終に知音はなるべしとて、このおとこ、いかにせん、吾かのさまよせたまへと、佛神にも申けれど、いやまさりてよせざりつゝ、なをわりなく、いとすげなうあひしらひければ、御楊枝かるたなどつゝみ、かきつけて、もはやかはじといふせいもんをたてゝなむあひける、

〔男色大鑑〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 此道にいろはにほへと
やう〳〵西日になつて、樽は口せず轉(こか)し、水風呂の湯もすて、久三もとりまはし賢く仕舞へば、女は噪しく木綿足袋をぬぎて袂に入、銀の筓を楊枝にさしかへ、櫛も鼻紙袋にをさめ、紅の脚布を内懷にまくりあげ、上着の衣裏をかなしみ、首筋をとりのけ、木枝に掛置し木地笠をとり〴〵に、いそぐや暮の面影、

〔男色大鑑〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 螢も夜は勤の尻
きのふは田含侍のかたむくろなる人に、其氣に入相ごろより夜ふくる迄、無理酒にいたみ、けふはまた七八人の伊勢講中間として買れ、〈○中略〉楊枝つかはの(○○○○○○)口をちかく寄られ、木綿のひとへなる肌着身にさはりておそろしきに、革たびの匂ひ寵りて鼻ふさげば、〈○下略〉

〔江戸總鹿子名所大全〕

〈一/名木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 楊枝杉(○○○)〈同所(麻布)に有、これも親鸞上人のさし給ふのよし、山中に有て、岩の中より生じたる木也、〉

〔類聚名物考〕

〈調度十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0592 淨齒木
慈恩傳〈卷三、四ノ右、〉從此東行五百餘里、至鞞索迦國云々、其側又有如來六年説法處、有一樹高七十尺餘、昔因佛淨齒木棄、其餘枝遂植根繁茂、至今邪見之徒、數來殘伐、隨伐隨生、榮茂如本、 今案に、淨齒木は卽ち楊枝なり、國朝にも古人宿德の楊枝箸などの生付て、今大木となれりといふ 事、所々に多くいふ事なり、和漢同日の談なり、

〔懷乎伽〕

〈十上/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 はだへにそはゞいかに若衆 素仙
楊枝共扇共身はつかはれて

〔狗猧集〕

〈十一/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 ひる狐かやまたは狸か 貞德
眞白にけはふ女の高楊枝(○○○)
きれいなりける芋のはの露 慶友
我妻の楊枝をつかふ口の中

〔狗猧集〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 一句ニ付句百五十句 德元
有馬山湯には楊枝をつけ置て

〔用捨箱〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 餅屋の看板
花紋日〈京保十四年印本言石撰〉
白糸餅(やせうま)に楊枝のむちや峠茶屋

琢砂/齒藥

〔諸艶大鑑〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 一言聞身行邊
道行づくしの淨瑠利本、〈○中略〉喜三郎が琢砂をたしなみ、〈○下略〉

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 みがき砂〈○中略〉喜三郎が琢砂といふ事、諸艶大鑑に見えたるは、難波にて其頃の聞えたるものと見ゆ、
○按ズルニ、琢砂ハ卽チ齒磨粉ナリ、而シテ正德ノ頃ニハ、難波ニテ喜三郎ト云フモノヽ作レル齒磨粉ヲ珍重シタリト見エタリ、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0593 世話盡、白雪や山のはぎはのみがき砂(○○○○)、楊枝につらく似たる谷口、食籠を狩場の末に開かせて、

〔燕石襍志〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0594 俗呪方
養齒方 黑き蛤(ハマグリ)の肉を去、その一隻の貝へは鹽をつめ、亦一隻へは飯をつめ、合して火中に投じ、燒果て後搔出して搗碎き、毎朝これを以て齒を磨けば、よく口熱を去て、老後に齒の脱ること稀也、もし蛤の黑きを得ざるときは、靑竹の節をとめて、五六寸に截とり、筒の中へ鹽をつめ、筒ともに燒て搗碎きたるもよし、亦翠實(マツノミドリ)をとりて、ごれを鹽に和て、霜(クロヤキ)とするを松葉鹽(マッハシホ)といふ、しかれども蛤の功、竹と松とに勝れり、

〔嬉遊笑覽〕

〈二中/服飾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0594 みがき砂 すべて香具屋にて賣しなるべし、江戸鹿子に、齒藥幷はぬき、〈竹川町〉入齒師安藤安志、〈日本橋通三丁目〉小野玄入、〈源助町兼康祐玄〉とあり、これらの家にても賣たる歟、〈○中略〉漢土には是を白齒藥と云、博聞類纂〈十一〉磁器を洗ふ法に、用白齒藥擦則光澤とあり、風來山人が齒みがきの報帖(ヒキフダ)は、おかしく書るひきふだの始なり、〈下手談義にもおかしき引札あれども、これはそらごとを作りたる也、〉
江戸には、常に房州砂を水飛して、龍腦、丁子など加へて、諸州にも白砂又白石等を粉となし、又は米糠を燒て用るもあれど、房州砂には及ばず、故にみがき砂は、江戸にまさるものなし、


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Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:20