https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0997 蟲ハムシト云フ、産ノ義ニシテ、生化ノ多キヨリ此名アリト云ヘリ、又古ク、ハフムシトモ稱シタルハ、蟲類ノ多クハ匍匐スルモノナレバナリ、而シテ後世ノ本草書ニハ、蟲類ヲ、卵生、化生、濕生等ニ分チタリ、
上代ニハ、蟲害甚ダ多カリシカバ、大祓詞ニハ昆蟲(ハフムシ)ノ災ト稱シテ、是ヲ國津罪ノ一ニ數ヘタリ、又蝗害ノ事モ旣ニ神代ニ見エタリ、
我國養蠶ノ事ハ、天照大神ノ始メ給フ所ニシテ、古來國産ノ一トシテ、最モ重ンゼラル、事ハ産業部養蠶篇ニ詳ナリ、
後世松虫、鈴虫、促織(ハタオリ)、蟀蟋(キリ〳〵ス)、等ノ鳴聲ヲ愛スルモノ漸ク多ク、聽蟲、撰蟲、放蟲等ノ事、上下風流者ノ間ニ行ハル、而シテ此等ノ昆蟲ヲ飼育スル事モ夙クヨリ之レアリシモノヽ如シ、
蟲類中、蛇ニ關スル事蹟最モ繁多ナハ、是レ其害毒夥シク、且ツ其性モ亦獰惡ニシテ、一種ノ靈異ヲ有スルモノト信ゼラレタルニ由ルナリ、

蟲總載/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0997 蟲 爾雅云、有足、謂之蟲、〈除忠反〉無足謂之豸、〈池爾反、上聲之重、〉唐韻云、虫(○)〈與蟲通用、和名無之(○○○○)、〉鱗介https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/if0000r13041.gif 名也(○○○○○)、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0997 按説文云、蟲有足謂之蟲、無足謂之豸、徐音直弓切、又云虫一名蝮、博三寸、首 大如擘指、徐音許偉切、此蟲虫二字不同、而蟲字或省作虫、漢碑唐扶頌云、德及章虫、干祿字書云、虫蟲上俗下正、是也、遂與蟆虫字異、然其義可音別一レ之廣、韻以鱗介總名之虫字之七尾、非是、源君擧七尾之虫字、云蟲通用、亦承是誤也、

〔干祿字書〕

〈平聲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 虫蟲〈竝上俗、下正、〉

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 虫〈與蟲通用ムシ〉蟲〈上俗下正〉

〔日本釋名〕

〈中/蟲〉

虫は蒸(ムシ)也、濕熱の氣むして生ず、

〔東雅〕

〈二十/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 蟲ムシ 古事記に、太古の事をしるせし語に、ウジタカルといふ事見えたり、萬葉集抄に、ムシとはむらがり繁しといふ詞なり、ムとウとは同韻相通なれば、ムシをウジといふは本韻なれば、本韻につきて、ウジワクなどいへりと釋せリ、後代に及びて、ムシをば蟲の字を用ひ、ウジをば蛆〈ノ〉字を用ひぬれば、ムシといひ、ウジといふ、異なる者の如くにもなりたる也、〈古語にムといひしは、則産の義あり、高皇産靈神の名を、古事記には高御産巢日神としるせし如き卽是也、ムスといひ、ムシといふ、そのスといひ、シといふは詞助也、蟲を厶シといふは、たゞ其生ずるを云ひしなるべし、ウジといふは轉語也、或説にムシとは蒸也、濕熱の氣蒸而注ずる也といふ、古義にはあらじ、凡太古の俗、いひつきし所に、夫等の義を取べしとも思はれず、〉

〔倭訓栞〕

〈前編三十一/牟〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 むし 虫をよめり、生也、生化の多きをいふなり、むしけら(○○○○)といふ詞も、うつぽ物語に見えたり、

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 螻蛄〈○中略〉 諺に、むしけらなどいふは、けらをのみいひし語の事にはあらず、すべて虫類をいふなり、

〔空穗物語〕

〈俊蔭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 あすらいかれるかたちをいたして、なむぢなにによりてか、あすらの萬刧のつみのなかばはすぐるまで、とらおほかみ、むしけら(○○○○)といへども、人のけぢかきをあたりによせず、山のほとりにかゝりくるけだものは、あすらの食とせよと、あてられたり、

〔和漢三才圖會〕

〈五十二/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0998 蟲〈音仲〉乃生物之微者、其類甚繁、有足曰蟲、無足曰豸、裸毛羽鱗介之總名也、與虫 字同、
虫〈音毀〉乃古虺字、蛇之屬、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01540.gif 文字象形、然俗讀仲音、以蛇虫之虫蟲豸之蟲、今順非通用、〈和名無之〉
外骨、内骨、却行、仄行、連行、紆行之異
羽毛鱗介裸之形、胎卵風溼化之異
脰鳴(クヒスチニテ)、咮鳴(クチハシニテ)、旁鳴(ニテ)、翼鳴(ツハサニテ)、腹鳴、胸鳴(ニテク)者小蟲之屬
蠢動含靈各具性氣也、蟲部分爲三類、卵生、化生、溼生、本草綱目所載、凡一百六種、今刋(ケヅリ)遠而繁、補近 而洩者之耳〈○中略〉
張子和云、蟲之變、皆以溼熱主、得木氣乃生、得雨氣乃化、豈非風木主熱、雨澤主一レ濕耶、故五行之中皆 有蟲、 諸木有蠧、諸果有螬、諸菽有蚄、五穀有螟螣蝥https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01542.gif 、 麥朽蛾飛、栗破蟲出、草腐螢化、皆木之蟲 也、烈火有鼠、爛灰生蠅、皆火之蟲也、螬穴蟻、墻蝎(キリウシ)、田螻(ケラ)、石蜴(トカケ)、皆土之蟲也、 蝌蚪(カイルコ)、馬蛭(ヒル)、魚鼈、蛟龍、皆 水之蟲也、 昔有冶工、破一釜、見其斷處、白中有一蟲、如米蟲、色正赤、此則金中亦有蟲也、

〔古事記〕

〈下/仁德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0999是口子臣、亦其妹口比賣、及奴理能美、三人議而令天皇云、大后幸行所以者、奴理能美之所養虫、一度爲匐虫(○○)、一度爲殻、一度爲飛鳥三色之奇虫、看行此虫而入坐耳、

〔古事記傳〕

〈三十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0999 匐虫(ハフムシ)は、たゞ凡ての虫を云なり、〈たゞ鳥を、飛フ鳥と云に同じ、〉虫は波布(ハフ)物なればなり、書紀雄略卷大御歌に、波賦武志(ハフムシ)、大殿祭祝詞に、波府(ハフ)虫、神代紀、又大祓詞に、昆虫(ハフムシ)、繼體紀に、伏地之虫(ハフムシ)などあり、和名抄に、唐韻云、厳虫行也、訓波布、

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0999 四年八月戊申、行幸吉野宮、庚戌、幸于河上小野、命虞人獸欲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01543.gif 而待虻疾飛來、嗜天皇臂、於是蜻蛉忽然飛來、齧蝱將去、〈○中略〉天皇口號曰、〈○中略〉陀倶符羅爾(タクフラニ)、阿武柯枳都枳都(アムカキツキツ)、曾能阿武鳴(ソノアムヲ)、婀枳豆波野倶譬(アキツハヤクヒ)、波賦武志謀(ハフムシモ/○○○○ )、飫裒枳瀰儞磨都羅符(オホキミニマツラフ)、〈○下略〉

〔延喜式〕

〈八/祝詞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.0999 六月晦大祓 國津罪〈止八〉生膚斷、死膚斷、〈○中略〉昆虫(ハフムシ/○○)〈乃〉災、

〔東雅〕

〈二十/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 蠅〈(中略)凡そ蟲の名に、ハ(○)といふをもて呼ぶは、皆羽あるものなり、蠅をハへといひ、蜂をハチといひ、飛蟻をハアリといふが如き是也、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 夏蟲(○○) 莊子云、夏蟲〈俗云奈豆無之(○○○○)〉不以語一レ冰、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 仁德紀歌、那菟務始能譬務始、謂飛蛾、古今集戀一、後撰集伊勢歌皆同、古今集戀二、古今六帖、友則、躬恒、深養父歌、及枕草子所載、謂螢火、後拾遺集夏歌所詠、有燈蛾、有螢火、又有蟬爲夏虫、所引秋水篇文、

〔八雲御抄〕

〈三下/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 夏虫は總名也(○○○○○○)、火にいるをも云、後撰に、なつむしのこゑよりほかになども云り、又螢を夏むしといふ、つねの事なり、

〔藻鹽草〕

〈十二/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 夏虫〈夏虫は總名也、又は火に入をも云、飛蛾と云は是也、又云、夏虫と云は四色也、火取虫(○○○)、螢(○)、蟬(○)、蚊(○)也と云々、何も歌のやうによるべきか、又夏のむしと、のの字ありても、〉夏虫の聲よりほかに、〈是は蟬也(○○)〉なつ虫の身をいたづらに、〈是は火取むしか(○○○○)〉おもひにもゆる、〈夏虫也〉燈をけつ、〈夏虫也〉ひとりむし、

〔源平盛衰記〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 法皇三井灌頂事
常ノ御詠吟ニ、智者ハ林ノ鹿鳴テ入山、愚人ハ夏ノ蟲飛デ火ニ燒トゾナガメサセ給ケル、此ハ止觀行者、四種三昧ノ大意ヲ釋シケル絶句トカヤ、

〔日本書紀〕

〈十一/仁德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 二十二年正月、天皇語皇后曰、納八田皇女妃、時皇后不聽、爰天皇歌以乞皇后、〈○中略〉皇后答歌曰、〈○中略〉那菟務始能(ナツムシノ/○○○○○)、譬務始(ヒムシ/○○○)能虚呂望(ノコロモ)、赴多弊耆氐(フタヘキテ)、箇區瀰夜儾利破(カクミヤタリハ)、阿珥豫區望阿羅儒(アニヨクモアラズ)、

〔釋日本紀〕

〈二十五/和歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000 火虫衣、謂火取虫也、

〔萬葉集〕

〈九/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1000勝鹿眞間娘子歌一首幷短歌
勝牡鹿乃(カツシカノ)、眞間乃手兒奈我(マヽノテコナガ)、〈○中略〉望月之(モチツキノ)、滿有面輪二(ミテルオモワニ)、如花(ハナノゴト)、咲而立有者(エミテタテレバ)、夏蟲乃(ナツムシノ/○○○)、入火(ヒニイル/○○)之如(ガゴト)、水門入爾(ミナトイリニ)、船己具如久(フネコクゴトク)、歸香具禮(ユキカクレ)、人乃言時(ヒトノイフトキ)、〈○下略〉

〔枕草子〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 むしは
夏むし(○○○)いとおかしく、らうのうへとびありくいとおかし、

〔古今和歌集〕

〈十一/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 よみ人しらず
夏虫のみ(○○○○)をいたづらになす事もひとつ思ひによりて成けり

〔後撰和歌集〕

〈四/夏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 かつらのみこの、ほたる(○○○)をとらへてといひ侍りければ、わらはのかざみのそでに つゝみて、
つゝめどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれるおもひなりけり、

〔後撰和歌集〕

〈四/夏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 だいしらず
八重葎しげきやどには夏虫の聲(○○○○)より外にとふ人もなし

〔藻鹽草〕

〈十二/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001
夏虫のこゑ〈蚊也(○○)〉

蟲體/蟲性

〔新撰字鏡〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 蟠〈扶園反曲也、委也、鼠員虫也、屈也、爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00929.gif、志自万留(○○○○)、和太万留(○○○○)、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 蟠 野王按、蟠〈音煩、訓和太加末流(○○○○○)、〉龍蛇臥貌也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 按今本玉篇云、蟠扶元切、鼠婦蟲、又歩安切、大也、紆廻而轉曲也、〈○中略〉按説文、蟠、鼠婦也、假借爲蟠臥字、其實蟠臥宜般字、般、旋也、方言云、未天龍、謂之蟠龍

〔倭訓栞〕

〈前編四十二/和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 わだかまる 姦字、又蟠をよめり、曲屈(ワタカヽマル)の義成べし、まる反む也、よて俗に私曲の意にもいへり、〈○中略〉木をわだかめるなどいふは盤をよめり、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 蚑行 唐韻云、蚑〈音岐、訓波布(○○)、〉虫行也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1001 説文、蚑、行也、文選注引徐行也、詩小弁、鹿斯之奔、維足伎々、伎々本又作跂、毛傳云、舒貌、鄭箋云、伎々然舒者、留其羣也、伎跂皆假借字、

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蚑〈技、ハフ、 又音奇 又岐〉

〔伊呂波字類抄〕

〈波/動物體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蚑〈ハフ虫蚑也〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蠢動 野王按、蠢〈音准、訓無久女久(○○○○)、〉虫動搖藐也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 今本玉篇䖵部作動也作也、説文、蠢、蟲動也、

〔倭訓栞〕

〈中編二十六/牟〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 むくめく 日本紀、和名抄に蠢をよめり、字書に動擾貌と見えたり、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 螫 應劭漢書注云、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01544.gif 〈刃略反、又乎各反、〉螫也、野王按、螫〈音釋、訓佐須(○○)、〉蜂蠆行毒也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 按説文、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01545.gif 、螫也、應劭蓋依之、新撰字鏡同訓、按佐須、與刺同語、今本玉篇虫部作蟲行一レ毒、按説文同、顧氏蓋依之、

〔新撰字鏡〕

〈虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蛻〈湯會始悦二反、毛奴介加波、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蛻〈蛇蛻附〉 野王按、蛻〈始蛻反、音税、訓毛沼久(○○○)、〉蟬蛇之解皮也、本草云、蛇蛻、一名龍子衣、〈和名倍美乃毛奴介、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 新撰字鏡、蛻訓毛奴介加波、今本玉篇虫部云、蛻、蛇皮也、按説文、蛻、蛇蟬所解皮也、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蟄 野手按、蟄〈除立反、訓須古毛流(○○○○)、〉虫至冬隱不出也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 今本玉篇虫部云、蟄、藏也、按説文云、蟄、藏也、則知今本所訓、顧氏引釋文也慧琳音義引玉篇云、蟄、隱也、與此引同、亦玄應音義云、説文云、蟄、藏也、虫、至冬卽蟄隱不出也、今撿説文、無虫至以下字、蓋玄應從玉篇説文、誤倂顧野王之言、爲説文也、

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 蟄〈除立反 コモルカクル ウルフ〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 化 淮南子云、虫八日而化、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲體〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1002 按淮南子云、馬十二月而生、犬三月而生、〈○中略〉蟲八月而生、皆云幾月、無幾 日、此作日誤、大戴禮易本命篇亦作月、然説文風字注云、蟲八日而化、與此合、王充論衡商蟲篇同、今不徑改

〔和漢三才圖會〕

〈五十二/蟲之用〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003 喓〈須太久(○○○)〉蟲之聲也、詩召南喓喓草蟲、 啾喞、蟲之小聲也、

撰蟲

〔倭訓栞〕

〈中編二十六/牟〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003 むしえらみ 堀川帝の時より始る、著聞集に見ゆ、天寶遺事に、毎秋時、宮中妃妾輩、皆捉蟋蟀、閉養小金龍中、置枕函畔、聞其聲、庶民家皆効之と見えたり、

〔禁秘御抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003
松虫鈴虫類、人々進之、或被賀茂社司、堀川院御時、頭以下向嵯峨野、誠有逍遙、是給虫屋向選虫奉之(○○○○○○○○)、

〔公事根源〕

〈九月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003
是はあながち式ある事にはあらず、殿上の逍遙とて、殿上人どもあそびて、嵯峨野などへむかひて、虫を籠にえらび入て奉る、是は堀川院の御ときよりはじまる、おほよそ松むし鈴むしなどは、誰人も内裏に奉る、又賀茂の社司などに仰せられても、めされけるとなん、

〔世諺問答〕

〈九月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003 問て云、此ごろ加茂籠(○○○)とて、むし入る事侍るは、何のゆへに、加茂より出侍るにか、答、これは殿上の逍遙とて、むかし殿上人どものさが野などへむかひて、むしを籠にえらびいれてあそびて、きみにたてまつりしは、堀川院の御ときよりぞはじまりける、むしえらび(○○○○○)とも申なり、〈○中略〉されどむしこは賀茂よりいで侍るとおもひあはせられ侍る、

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1003 嘉保二年八月十二日、殿上のおのこ共、嵯峨野にむかつて、むしを取て奉るべぎよし、みことのりありて、むらごの糸にてかけたる、虫の籠(○○○)を下されたりければ、貫首以下、みな左右馬寮の御馬にのりてむかひける、藏人辨時範、馬のうへにて題を奉りけり、野徑尋虫とぞ侍ける、野中にいたりて僮僕をちらして虫をばとらせけり、十餘町計はをの〳〵馬よりをり、歩 行せられけり、ゆふべにをよんで、むしをとりて、籠に入て、内裏へかへりまいり、萩女郎花などをぞ、籠にはかざりたりけり、中宮○藤原篤子の御方へまいらせてのち、殿上にて盃酌朗詠など有けり、歌は宮の御方にては講ぜられける、簾中よりもいだされたりける、やさしかりける事なり、

蟲籠

〔倭訓栞〕

〈中編二十六/牟〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 むしや(○○○) 虫屋の義、續千載集に見ゆ、虫籠に同じ、

〔雍州府志〕

〈七/土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 鈴蟲籠 下賀茂社司婦人、造松虫鈴虫之籠、其式繊細刳竹爲籠、内安一小筒、盛土敷苔、種露草少許、倭俗所謂露草、則鴨跖草也、而以紫白絲、作藤花形、自籠上下、其體堪觀、到秋入蟲、掲檐下或掛簾眉、晝見之悦目、夜聽之娯耳、

〔續千載和歌集〕

〈四/秋〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 夕暮がたに、ちいさきこにすゞむしを入て、紫のうすやうにつゝみて、萩の花にさして、さるべき所の名のりをせさせて、齋院にさしをかすとて、そのつゝみ紙に書付たりける、 よみ人しらず
しめのうちの花の匂ひを鈴虫のをとにのみやは聞ふるすべき

〔續千載和歌集〕

〈九/神祇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 虫屋(○○)をつくりて、前大納言資季のもとへ送りつかはすとて、
從三位氏久
君のみや千とせもあかず聞ふりむ我神山の松虫のこゑ

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 むし籠を虫屋ともいふにや、續千載集、從三位氏久、虫屋を作り、資季卿に贈りし歌、〈○中略〉また麥わらの籠(○○○○○)は、花鏡紡績娘條に、以小稭籠之、挂於簷下云云、以瓜穰之などみゆ、稭はむぎわらなり、

〔源氏物語〕

〈二十八/野分〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1004 わらはべおろさせ給て、むしのこ(○○○○)どもに、露かはせ給なりけり、しをんなでしこのこきうすき、あこめどもに、をみなべしのかざみなどやうの、ときにあひたるさまにて、四五人ばかりつれて、こゝかしこのくさむらによりて、いろ〳〵のこどもをもてさまよひ、なでしこな どの、いとあはれげなるえだども、とりもてまいる、きりのまよひは、いとえんにぞ見えける

蟲吹

〔日次紀事〕

〈七/七月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 此月〈○中略〉入夜點火於叢間、而執松蟲幷鈴蟲、是謂蟲(○○)、執得後養紗囊竹籠之内、近年相國寺及建仁寺松林亦多、入夜人群聚聽之、下鴨社司細割竹而造蟲籠、別以紫白絲藤花其上、籠中小管内、盛土種露草、是號松蟲籠(○○○)、而贈堂上幷地下

〔貞德文集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 晩景虫吹(○○)可罷出候、黑月闇無用心候得共、盆前者墓參仕者繁候而、路次賑敷候、行燈挑燈聚置候得者、促織、松虫、鈴虫、蛬、幾等も寄聚候、

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 按るに虫吹とは、今も虫を取に、竹筒のかた方に、紗のきれを冒(ハリ)これをもて虫を覆へば、虫は上のかたに飛のぼるを、籠また袋などに、筒さきをむけて、冒たる紗のうへより、息して虫を吹こむなり、

放蟲/聽蟲

〔古今著聞集〕

〈十九/草木〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 天祿三年八月廿八日、規子内親王野々宮にて、御前の面に薄、蘭、紫苑、單香、女良花、萩などをうへさせ給て、松むし鈴むしをはなたせ給けり、〈○中略〉草をもうへ、虫をもなかせたり、おほせごとゝて、花のあり樣、むしのすみか、何れも〳〵いとおかしかりけり、

〔源氏物語〕

〈三十八/鈴虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 秋比、にしのわた殿のまへのなかのへいの、東のきはを、をしなべて野につくらせ給へり、〈○中略〉この野に、むしどもはなたせ給ひて、風すこし凉しくなり行夕暮に、わたり給て、虫の聲きゝ給ふやうにて、なを思はなれぬさまを聞えなやまし給へば、例の御こゝろはあるまじきことにこそあなれど、ひとへにむつかしきことに思聞え給へり、〈○中略〉虫の音いとしげうみだるゝゆふべかなとて、我もしのびてうちずし給、あみだの大ず、いとたうとくほの〴〵きこゆ、

〔古今著聞集〕

〈五/和歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1005 東三條院皇太后宮と申ける時、七月七日撫子あはせせさせ給けり、〈○中略〉瑠璃のつぼに花さしたる臺に〈○中略〉むしをはなちて、
松虫のしきりにこゑの聞ゆるは千世をかさぬるこゝうなりけり

〔江戸名所圖會〕

〈五ノ一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1006 道灌山聽蟲〈○圖略〉
文月の末を最中にして、とりわき名にしあふ虫塚の邊を奇絶とす、詞人吟客こゝに來りて、終夜その淸音を珍重す、中にも鐘兒(まつむし)の音は勝て艶しく、莎鷄(はたおり)、紡績娘(きり〳〵す)のあはれなるに、金琵琶(すゝむし)の振捨がたく、思はず有明の夜を待ちたるも一興とやいはん、まくり手にすゞむしさがす淺茅かな其角

〔東都歲時記〕

〈三/七月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1006 虫聞〈夏の末、秋の始より、〉眞崎(マツサキ) 隅田川東岸 王子邊 道灌山 飛鳥山邊〈道灌山は松虫多く、飛鳥山は鈴虫多し、〉三河島邊、 御茶水 廣尾の原 關口 根岸 淺草反圃

飼蟲

〔備前老人物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1006 松永彈正、松虫を飼けるに、さま〴〵に養ければ、三年までいきけり、

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1006 松虫の卵を取ることは、寬政七年の比、江戸にて何人か考て始むと云、按るに備前老人物語に、〈○中略〉松虫の三年生たりとは、うけられぬことなり、これ極て、其卵をかへして養ひ、年々其法の如くせしなるべし、

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1006 秋の末に小瓶に土を入て、其内に鈴虫の雌を移し、綟子はりの蓋をおほひ、日なたに出し餌を飼、日を經れば衰へ死するを、其儘にして蓋をおほひ、稻草にて包、雨露のあたらぬ土を上に置、〈緣の下よし〉翌年五月の初ころ包みをとき、蓋上より日にあて置ば、やがて土中の卵かへりて、微細の虫數多生出て、日を重ねて大になる時、瓶の内狹き故、他の器に分ち置べし、虫小きうちは、瓶のふた紗の類を用ひてよし、そだつに隨て籠に移すべし、紗などをば咋破るなり、餌は茄子を用、また細き葉の草に水を酒ぎて入置べし、茄子なくなる頃には、虫も死するなり、かくすれば年々絶ることなく、多く出來るものなり、松むしは此しかたにてはかへらず、帝京景物略に、促織秋盡則盡、今都人能種之留其鳴深冬、其法土于盆之、蟲生子土中、入冬以其土https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01546.gif 、日永灑綿覆之、伏五六日、土蠕々動、又伏七八日、子出白如蛆、然置、子蔬菜、仍灑覆之、足翅成漸以黑、匝月則鳴、鳴細 于秋、入春反僵也、これも大かたは似たる法ながら、水を灑ぎ煖むる故、ことなるべし、

〔堤中納言物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1007 むしめづるひめ君
てふめづるひめ君のすみ給ふかたはらに、あぜちの大納言の御むすめ、心にくゝなべてならぬさまに、おやたちかしづき給ふことかぎりなし、此ひめぎみのの給ふ事、人々のはなやてふやとめづるこそはかなうあやしけれ、人はまことあり、ほんちたづねたるこそ心ばへをかしけれとて、よろづのむしのおそろしげなるを取りあつめて、これがならんさまをみむとて、さま〴〵なるこはこごとにいれさせ給、〈○中略〉かはむしはけなどをかしげなれど、おぼえねばさう〳〵しとて、いほしり、かたつぶりなどをとり集めて、うたひのゝしらせてきかせ給て、我も聲をあげて、かたつぶりのあいのつのゝあらそふやなぞといふことをうちずんじ給ふ、わらべの名は、れいのやうなるはわびしとて、むしの名をなんつけ給たりける、けらを、ひさまろ、いなかだち、いなごまろ、あまひこ、なんなどつけて召しつかひ給ける、かゝる事世に聞えて、いとうたてある事をいふ中に、あるかんたちめのおぼむこうちはやりてものおちせず、あいぎやうづきたるあり、このひめ君の事を聞きて、さりともこれにはおぢなんとて、おびのはしのいとをかしげなるに、くちなはめの形をいみじく似せて、うごくべきさまなどしつけて、いろこだちたるかけぶくろに入れて、むすびつけたるふみををみれば、
はふ〳〵もきみがあたりにしたがはんながきこゝろのかぎりなき身は、とあるを、なにごゞうなく御まへにもてまひりて、袋などあくるだにあやしくおもたきかなとて、ひきあけたれば、くちなは首をもたげたり、人々心をまどはしてのゝしるに、君はいとのどかにて、なもあみだ佛なもあみだ佛とて、さうぜんの親ならん、なさわざそとうちわなゝかし、かほゝかやうに、なまめかしきうちしも、けちえんにおもはんぞ、怪しき心なるやとうちつぶやきて、ちかく引きよせ給 ふも、さすがにおそろしくおぼえ給ひければ、たちところ、ゐところ、てをのごとくせみこゑにの給ふこゑのいみじうをかしければ、人々にげさわぎて、わらひゐれば、〈○下略〉

蟲賣

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 むかしは虫を商ふ者などは、なかりしなり、貞享四年日記、六月十三日、きり〴〵す商賣いたし候者相尋候町々覺、四谷麴町、本郷湯島、神田すだ町二丁目相尋候處、一人も見え不申とあり、そのころ、さるものゝあらんと、おぼしき處を尋ねしなり、

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 螢火(ホタル)〈○中略〉 大小二種アリ、山中ノ川ノ邊ニ多シ、勢田宇治ニハ螢火多クシテ賣之、賣螢火事、和漢メヅラシ、

〔守貞漫稿〕

〈六/生業〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 蟲賣〈○圖略〉 螢ヲ第一トシ、蟋蟀、松虫、鈴虫、轡虫、土虫、蜩等、聲ヲ賞スル者ヲ賣ル、虫籠ノ製、京坂麁也、江戸精製、扇形船形等、種々ノ籠ヲ用フ、蓋虫ウリハ專ラ此屋體ヲ路傍ニ居テ賣也、巡リ賣コトヲ稀トス、秋季ニハ當季ノ商人夏冬ノ如ク多カラズ、

〔閑田次筆〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 南都の人の話に、松虫鈴虫を捉ふるに、挑灯を携へて夜行けば、其光をとめて飛來るといふは、むかしのしわざにて、今わがあたりにて虫を賣ものは、竹を二本もちて晝行、薄を押分れば、虫ども驚きて飛出るを捉ふ、又點智者は薄を根こして吾庭に植ゆ、惚じてかゝる虫は、薄の中に卵を殘せば、ことしの卵、來るとしの秋に至りて、かへりて聲をなす、吾庭にて生じたるをとりて、寵にこめて賣ればいと安し、春日野にて虫も捉、薄も根こせばよくしれりとなん、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 龍 文字集略云、龍〈力鍾反、和名太都(○○)、〉四足五采、甚有神靈者也、白虎通云、鱗蟲三百六十六而龍爲之長也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 按、太都、蓋爾雅所謂螣蛇、郭璞曰、能興雲霧而遊其中者也、荀子云、螣蛇無足而飛、説文、螣、神蛇也、今猶有太都在雲中尾者、越後海邊最多、謂之太都万岐、恐非龍也、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 虯龍(○○) 文字集略云、虯〈音球〉龍之有角、〈○有角、一本作元角、〉靑色也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 按淮南子注云、有角爲龍、無角爲虬、離騷及天問注云、無角曰虬、〈○中略〉説文云、虯、龍子有角者、廣雅云、有角曰鼉龍、無角曰https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01547.gif、初學記及玄應音義引廣雅鼉作虯、詑作螭、〈○中略〉是有角無角二説、自古有之、未此以孰爲一レ是也、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 螭龍(○○) 文字集略云、螭〈音知〉龍之無角、赤白蒼色也、

〔夫木和歌抄〕

〈二十七/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 虬(○) 俊賴朝臣
くちをしや雲井がくれに住たつ(○○)も思ふ人にはみゆなるものを

〔塵袋〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 一龍ト虵トハ別ノ物ト覺ルニ、虵ノノボリテ龍ニナルト云フハ、龍ノ始ハ虵歟、又龍舌虵ノ姿ニテ見ユル事先蹤アリ、〈○中略〉虵ノ龍ニナルコトハ轉證ノ義歟、〈○中略〉龍ハ足羽アリ、虵ハ羽モ足モナキ物ナレバ、當時ノ相ハ不同、名モ又別也、龍ノ虵ノ形ヲ顯スハ、虵ハ常ニ世間ニアルモノナレバ、是ニ姿ヲカリテ現ズル歟、〈○中略〉虵龍ハ身ノ長クテ物ヲマツフ能アルニヤ、虵ノノボリテ辰ニナルト云フハ、虵ノ龍ニ成ルマデアルニコソ、龍門ノ魚ハ魚龍トコソハナルラメ、便宜皆可然覺ル也、龍ノ吟ズル聲エ、馬ノ嘶ニ似タルナド申スハ、馬龍(○○)ノ聲歟、〈○中略〉帝釋ノノリ給フ伊羅波大龍馬守テ、鼻ノ長クシテ馬ノ如クナル龍アリ、是ナドハ、馬龍ナルベシ、蝦蟆龍(○○○)ト云フハ、カヘルニニタル龍ニハ種々ノ形アリ、ハ子ナキモアリ、アシナキモアリト、外書ニハ見エタリ、〈○下略〉

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/龍〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 龍 タツ〈和名鈔○中略〉
龍ハ神靈ノ物ニシテ、親シク形ヲ見ルコトナリ難シ、〈○中略〉夏秋ノ時忽チ風雨烈シク、木ヲ拔キ瓦ヲ飛シテ、雷霆スルコトアリ、俗ニタツノ天上スルト云フ、是ハ蛇類俗ニタツト呼ブモノニシテ、螣蛇ナリ、眞ノ龍ニハ非ズ、〈○下略〉

〔延喜式〕

〈二十一/治部〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 祥瑞(○○)
龍(○)〈被五色以遊、能幽能明、能小能大、○中略〉 右大瑞

〔日本書紀〕

〈二/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 豐玉姫果如前期、將其女弟玉依姫、直冒風波、來到海邊産屋、請曰、妾産時幸勿以看一レ之、天孫猶不忍、竊往覘之、豐玉姫方産、化爲龍(○○○)、而甚慙之曰、如有我者、則使海陸相通永无隔絶、今旣辱之、將何以結親昵之情乎、乃以草裹兒棄之海邊、閉海途而徑去矣、故因以名兒曰彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊
一云〈○中略〉天孫心怪其言、竊覘之、則化爲八尋大鰐、(○○○○○○)〈○下略〉

〔日本書紀纂疏〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 豐玉姫化爲八尋大熊鰐、〈○中略〉問、海女不龍蛇而化鰐何也、答、龍之爲畜、變化無常、已是化爲他畜、何足怪耶、

〔日本紀略〕

〈嵯峨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 弘仁十年七丹丙申、京中白龍(○○)見、有暴風雨民屋

〔三代實錄〕

〈二十七/淸和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 貞觀十七年六月廿三日甲戌、不雨數旬、農民失業、轉經走幣、祈請佛神、猶未嘉澍、古老言曰、神泉苑池中有神龍(○○)、昔年炎旱、焦草礫石、決水乾池、發鐘鼓聲、應時雷雨、必然之驗也、〈○下略〉

〔扶桑略記〕

〈二十二/宇多〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 寬平元年十月朔己未、卽位之間、自乾角山中、黃龍騰天(○○○○)、太宰少貳淸原令望、爲堰大井灘使之、從五位下橘有棟參梅宮之頃見之、丹波博士丹波有冬、在彼國之、件三人慥見之、往往見多也、

〔竹取物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 大友の御ゆきの大納言は、我家に有とある人めしあつめての給はく、龍の首に、五色の光ある玉あなり、それとりてたてまつりたらむ人には、ねがはん事をかなへむとのたまふ、男ども、仰の事を承て申さく、仰の事はいともたうとし、但此玉たはやすくえとらじ、いはんや龍の首の玉は、いかゞとらむとまうしあへり、大納言のたまふ、てんの使といはんものは、命をすてゝも、をのが君の仰ごとをば、かなへんとこそおもはへけれ、此國になき、天竺唐の物にもあらず、此國の海山より、龍はおりのぼるもの也、いかに思ひてか、なんぢら、かたき物と申べき、〈○中略〉たつのかしらの玉とりえずば、歸りくなとのたまへば、いづちも〳〵、足のむきたらむかたへいなんとす、 かゝるすき事をし給事と誹りあへり、つかはしゝ人は、夜晝待給ふに、年越るまで音もせず、心もとながりて、いと忍て、たゞ舍人二人召付として、やつれ給ひ、難波の邊におはしまして、問給ふ事は、大友の大納言どのゝ人や、ふねに乘て、龍ころして、其首の玉とれるとや聞と、とはするに、舟人こたへていはく、あやしき事哉とわらひて、さるわざするふねもなしと答るに、おぢなき事する船人にもある哉、得しらでかく云とおぼして、我ゆみの力は、龍あらば、ふといころして、首の玉はとりてん、をそくくるやつばらをまたじとの給ひて、船にのりて、海ごとにありき給ふに、〈○中略〉はやき風吹て、世界くらがりて、船を吹もてありく、いづれのかたともしらず、船を海中にまかり入ぬべく吹まはして、波は般に打かけつゝまき入、神はおちかゝるやうにひらめきかゝるに、〈○中略〉はや神にいのり給へといふ、よき事也とて、梶とりの御神きこしめせ、をとなく心おさなく、龍をころさむと思ひけり、今より後は、けのすぢ一すぢをだにうごかしたてまつらじと、よごとをはなちて、たちゐなく〳〵よばひ給ふこと、千度ばかり申給ふけにやあらん漸々神なりやみ、すこし光て風は猶はやく吹、梶取のいはく、是はたつのしわざにこそありけれ、此吹風〈○中略〉三四日ふきて、吹かへしよせたり、濱をみれば、播磨のあかしの濱なり、〈○中略〉船にある男ども國につきたれども、國の司まうでとぶらふにも、えおきあがり給はで、ふなぞこに臥たまへり、〈○中略〉いかでか聞けん、つかはしゝ男どもまいりて申やう、龍のくびの玉をえとらざりしかばなむ、殿へもえまいらざりし、玉の取がたかりし事をしり給へればなん、かむだうあらじとて、參つると申、大納言起出のたまはく、なむぢらよくもてこずなりぬ、たつはなる神のるい(○○○○○○○○○)にてこそ有けれ、かくや姫てふおほ盜人のやつが、人をころさむとする也けり、家のあたりだに、今はとをらじ、男どもゝなありきそとて、家に少殘りたりける物どもは、龍の玉をとらぬものどもにたびつ、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈二十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 忠明治龍者語第十一 今昔天皇ノ御代ニ、内裏ニ御マシケル間、夏比冷(スヾミ)セムトテ、瀧口共數八省ノ廊ニ居タリケル程ニ、徒然ナリケレバ、一人ノ瀧口有テ、此徒然ニ酒肴ヲ取リニ遣シ侍ラバヤト云ケレバ、他ノ瀧口共此ヲ聞テ、糸吉キ事也、早ク取リニ可遣ト口々ニ責ケレバ、此瀧口從者ノ男ヲ呼テ遣ツ、男南樣ニ走テ行ヌ、今ハ十町許モ行ヌラムト思フ程ニ、空陰テ夕立シケレバ、瀧口共物語ナドシテ廊ニ居タル程ニ、雨モ止ミ、空モ晴ヌレバ、今ヤ酒持來ルト待ケルニ、日ノ暮ルマデ行ツル男モ、不見リケレバ、去來返リナムトテ、皆内裏ニ返ヌ、此酒取リニ遣ツル瀧口ハ、奇異ク腹立シク思ヘドモ、云甲斐无クテ、共ニ返テ本所ニ有ルニ、此遣ツル男、其夜モ不見リケレバ、希有ノ事カナ、此ハ只ノ事ニハ非ジ、此男ハ道ニテ死タルカ、若ハ重キ病ヲ受タルカト、終夜思ヒ明シテ明ル遲キト、朝疾ク家ニ忩ギ行テ、先ヅ昨日此男遣シ事ヲ語ルニ、家ノ人ノ云ク、其男ハ昨日來タリシニ、死タル樣ニテ彼コニ臥タル、何ニモ不云テ、囗トシテ臥タルゾト云ヘバ、〈○中略〉後人心地ニ成畢ニケレバ、此ハ何ナリツル事ゾト問ケレバ、男ノ云ク、昨日八省ノ廊ニテ、仰ヲ承リテ、急ギ美福下リニ走リ候シニ、神泉ノ西面ニテ、俄ニ雷電シテ夕立ノ仕リシ程ニ、神泉ノ内ノ暗ニ成テ、西樣ニ暗カリ罷リシニ、見遣タリシニ、其暗カリタル中ニ、金色ナル手ノ鑭ト見エシヲ、急ト見テ候シヨリ、四方ニ暗塞ガリテ、物モ不思シテ侍シヲ、然リトテ路ニ可臥キ事ニモ非リシカバ念ジテ、此殿ニ參リ著シマデハ、髴ニ思ヒ侍リ、其後ノ事ハ更ニ思エ不侍ト、〈○下略〉

〔古事談〕

〈三/僧行〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1012 天長元年二月、天下大以旱魃、仍空海和尚奉勅、於神泉苑請雨經法者、于時守敏大德奏狀云、〈○中略〉結願之朝、兩京如暗夜、雷響尤盛、甚雨洪水、衆人所感歎也、但遣勅使撿知之處、只兩京内不山外云々、亦令空海和尚勤修同法、經七ケ日更無雨氣、和尚入定思惟、守敏大德驅取諸龍、呪入水瓶也、出定延修二ケ日夜、於和尚吿云、池中有龍、號日善女、元是無熱池龍王之類、所勸請也、件龍爲人有慈、不害心、貴眞言之奧旨、從池中其形、是則將悉地成就也、彼現形如金色、長八寸許、紫(○) 金色離(○○○)居在長九尺許蛇項、見之弟子實惠、眞濟、眞雅、眞維、堅惠、眞曉、眞然等也、自餘弟子不敢能一レ見、具注此由奏時、小時之間、給勅使和氣眞綱、以御幣種々物等、奉龍王、結願之日、重雲覆天、雷鳴四方、忽降膏雨、池水涌滿、至于火壇之上、自今以後三ケ日、普雨天下、自然傍沱、水愁已絶、〈○又見今昔物語

〔古事談〕

〈五/神社佛寺〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 室生龍穴者、善達龍王(○○○○)之所居也、件龍王初住猿澤池、昔采女投身之時、龍王避而住香山、〈春日南山也〉件所下人弃死人、龍王又避住室穴、件所賢憬僧都所行出池、賢憬者、修圓僧都之師也、往年日對上人有龍王尊體拜見之志、入件龍穴三四町計、黑闇而其後有靑天所、有一之宮、殿上人立其南砌、見之懸珠簾光明照耀、有風吹珠簾間、其隙伺見彼裏、玉机上置法花經一部、頃之有人之氣色、問云、何人來哉、上人答云、爲見御體、上人日對所參入也、龍王云、於此所見、出此穴、其趾三町計可對面也、上人卽如本出穴、於約束所衣冠給自腰上、出地中、上人拜見之、卽消失了、日對件所立社、造立龍王體、于今見在云々、祈雨之時、於件社頭讀經等事云々、有感應之時、龍穴之上有黑雲、頃之件雲周遍、天上有降雨事云々、

〔續古事談〕

〈四/神社佛寺〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 祇園ノ寶殿ノ申ニハ、龍穴アリトナムイフ、延久ノ燒亡ノ時、梨本ノ座主、ソノフカサヲハカラムトセラレケレバ、五十丈ニヲヨビテ、猶ソコナシトゾ、〈○下略〉

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 文治のころ、伊賀國住人女子をもちたりけるを、同國三室池の龍にとられけり、龍王よな〳〵かよひけるを、ある夜ぐして行を、父ゆきがたをみてけり、後日に其所へ行て此女にあひたりければ、檜皮屋の家を現じてぞみせけるが、まことにはなかりけり、

〔吾妻鏡〕

〈十〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 文治六年〈○建久元年〉五月十五日戊辰、甚雨大風雷鳴、終日不休止、大倉山震動、樹木多顚倒、岩石鵚落、其跡俄爲細流、是龍降(○○)云々、

〔源平盛衰記〕

〈十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 文覺淸水狀天神金事
文覺ハ〈○中略〉南海道ヨリ漕廻テ、遠江國名田沖ニゾ浮タル、折節黑風俄ニ吹起、波蓬莱ヲ上ケレバ、 コハイカヾセント上下周章騷ケリ、〈○中略〉風ハ彌吹シボリ、船耳(フナバタ)ニ浪越ケレバ、今ハ櫓ヲ取、楫ヲ直スニ及ズ、舟底ニ倒伏テ、音ヲ揚テ喚キケレ共、文覺ハ泣モセズ、起モアガラズ、〈○中略〉良有テ這起、餘ニ歎クガ不便ナルニ、波風ヤメテ見セントテ、舟ノ舳頭ニ立跨テ、奧ノ方ヲ睨ヘテ、龍王ヤ候、〳〵イカニ海龍王(○○○)共ハナキカ、曳曳トゾ呼タリケル、〈○中略〉文覺ハ念珠押捻、大ノ聲ノシハガレタルヲ以申ケルハ、海龍王神モ慥ニ聞、此船中ニハ大願發タル文覺ガ乘タル也、〈○中略〉吾船ヲバ手ニ捧、頭ニ載テモ行ベキ所ヘハ送ベシ、サマデコソナカラメ、浪風ヲ發ズ條、アラ奇怪ヤ〳〵、忽ニ風ヲ和ゲ波ヲ靜ヨト云事ヲ聞ズバ、第八外海ノ小龍メラ、四大海水ノ八大龍王(○○○○)ニ仰附テ、ナク成ベシトテ嗔リケル、〈○中略〉文覺ガ云事、龍神ノ心ニヤ叶ケン、沖吹風モ和テ、岸打浪モ靜也、〈○中略〉國澄問云、抑當時世間ニ鳴渡雷ヲコソ龍王ト知テ侍ル(○○○○○○○○○○○○○○○○)ニ、其外ニ又大龍王ノ御座樣ニ仰候ツルハ、イカナル事ニテ侍ルヤラントイヘバ、文覺答テ云、此等ノ鳴雷ハ龍神トハ云ナガラ、尫弱ノ奴原也、アレハ大龍王ノ邊ニモ寄ツカズ、履ヲ取マデモナキ小龍メラナリ、八大龍王トテ、法華經ノ同聞衆ニ有八龍王、〈○中略〉此空ニ鳴行ク奴原ハ、八大龍王ノ眷屬ノ又從者ノ又從者ノ百重バカリニモ及ビ難キ小龍也、去共夏天ノ暑ニ雲ヲ起シ雨ヲ降シテ、五穀ヲ養フ事ハ、目出(メデタキ)事ゾヤ、〈○中略〉サシモ氣高キ八大龍王ハ、文覺ヲ守護セント云誓アリ、況小龍共ガ不案内危クモ煩ヲナス時ニ、只今名乘タレバ、スハ海上ハ靜リヌルハト云、〈○下略〉

〔金槐和歌集〕

〈雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 建曆元年七月、洪水漫天、土民愁歎せむことをおもひて、一人奉本尊、聊致祈念、時によりすぐれば民の歎なり八大龍王雨やめ玉へ

〔看聞日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 應永廿三年七月八日、大雨降、〈○中略〉近江國にも此日龍降下云々、希代不思議事也、

〔東遊記〕

〈後篇三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 登龍
越中越後の海中、夏の日龍登るどいふ甚多し、黑龍多し、黑雲一村虚空より下り來れば、海中の潮 水、其雲に乘じ、逆卷のぼり、黑雲の中に入る、其雲を又くはしく見れば、龍の形見ゆること也、尾頭などもたしかに見え、登潮は瀧を逆に懸るがごとし、又岩瀨と云所、宮崎といふ所まで十餘里の間に竟(わた)りて、黑龍登れるを見しと云、又鐵脚道人退冥の手代、越後の名立の沖を船にて通りし時、海底に大龍の蟠れるを見しといふ、蟠龍を見る事は、此手代に限らず、彼海底には、折々ある事となり、是等は皆慥なる物語なりき、奇怪の事也、過し年淇園子の剳記を見しに、其中に或人江戸より船にてのぼりしに、東海道の沖津の沖を過る時に、一むらの黑雲、虚空より彼船をさして飛來る、船頭大に驚き、是は龍の此船を卷上んとするなり、急に髮を切て、燒(た)くべしとて、船中の人々のこらず、頭髮を切て、火に燒しに、臭氣空にのぼりしかば、彼黑雲たちまちに散失たりと、載られたり、是も亦珍らしき事也、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下龍〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 龍〈○中略〉
龍骨(○○)〈○中略〉 和産ノ龍骨アリ、是ハ讃州小豆島ノ沖、但人鳴戸ノツキツケト言傳ル、深海中ヨリ採出ス者ナリ、頭アリ、角アリ、肢骨アリ、其形一ナラズ、皆大ニシテ重シ、色黑澤ニシテ、外ニ蠣殼ヲ粘ス、コレヲ舐レバ、唇舌ニ粘著ス、然レドモコレヲ焚ケバ、魚臭アリテ、舶來ノモノ、焚テ臭氣ナキニ異ナル時ハ、小豆島ノ産ハ大魚骨ナルベシ、

〔延喜式〕

〈三十七/典藥〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 臈月御藥〈○中略〉
龍骨一兩二分〈○中略〉
諸國進年料雜藥〈○中略〉
安房國〈○中略〉龍骨卅斤〈○大宰府亦有龍骨調

〔東遊記〕

〈後篇二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 龍鱗(○○)
越後糸魚川の近在、黑姫山の麓姫川の岸に、水に臨みて大なる岩出たる所あり、先年姫川大洪水 の時、水引て後、獵師彼岩の邊へ行しに、何とは知らず、白く滑なる脂のごとき物多く付居たり、又岩の角の所に、大なる鱗とみゆるもの五六枚付たり、其大さ五六寸づゝあり、何物か洪水に押出され來りて、此岩角に强くすれて、鱗落脂も殘れるなるべし、誠此姫川は瀧のごとくなる急流にて、大河なれば、其洪水の勢ひにはいかなるものも、押流さるべし、彼獵師其鱗を取歸り、今に所持せり、人皆龍の鱗といふ、

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 蜃(○)〈○中略〉 篤信曰、蜃氣爲樓臺ノ蜃ハ、龍ノ類ナリ、日本ニナシ、月令ニシルセシ雉ノ化スル蜃ハ大蛤ナリ、非褸臺之蜃、〈○下略〉

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/龍〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 蛟龍 ミツチ ミヅチ〈○中略〉
附錄、蜃(○)、 龍類ニシテ、和産詳ナラズ、同名アリテ車螯(オホハマグリ)モ蜃ト云コト註ニ詳ナリ、〈○中略〉蜃樓ハ〈○中略〉勢州桑名ニテ、 キツネノモリト云、奧州津輕ニテ、 キツネダチト云、越中魚津浦ニテハ喜見城ト云フ、海邊ニハ何レノ國ニモアルコトナリ、津輕ニテハ、春末雪消ル時ニアリテ、他時ニハナシ、夕陽ニ映ジテ、海上或ハ地上ニ、白氣上リテ、人物或ハ樓臺屋舍ノ形ヲ現ズ、人集リ觀ル、藝州ニテ四月、嚴島ノ山ノ後、海上ニツヾキテ、屛風ノ如ク、諸物ノ形象ヲ現ズ、〈○中略〉ホウライジマト云フ、是皆海氣ノナス所ニシテ、蜃龍ノ氣ヲ吁スルニ非ズ、〈○下略〉

〔結眊錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 海市ノ事
海市ハ蜃樓也(○○○○○○)、佛書ニ乾闥婆城ト云也、周防ニテ、濱遊(ハマアソビ)又龍王遊(リヤワウノアソビ)トモ云、土人云、海龍王ノ濱へ出テ遊ブ也ト、周防ノ醫生某在國ノ時、目擊セリト、其物語ニ、海中俄ニ洲渚山郭城樓村落竹樹人物往來歷々タリ、暫シテ滅スト、安藝ノ嚴島ニテ、蓬萊ノ島ト云、松下氏異稱日本傳ニ、蓬萊島ヲ嚴島ノ別名トス、誤也、山上ニ現ズルヲ山市ト云、四日市ニテモ見レシコトアリ、越中ニテハ狐ノ森ト云、常陸ノ影沼ハ別ナリ、影沼ハ地ニ人物ノ往來スル影寫リ見ユル也、卽唐土ノ書ニ出タル地鏡ナ リ、

〔東海道名所圖會〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 那古浦蜃樓記
吾郷四日市驛之爲地也、在勢灣北畔、而遠望東南數十里、面于手大洋海門矣、是海門也、南界勢之熊岳、北則尾州海嶠也、其間亦數十里有鼇洲及小洲數處、點々如盆池設一レ石然、吾郷所望不熊挹取其微而已、春夏之交、數月中、一日晴霄和氣、雲靜風收、將雨之前、自熊岳尾之嶠、忽爾烟靄靉靆、失海門所在、而地如連接、靄上有物、如雲烟變態、或臺閣、或門闕、前有干旄、後有輦路、行伍排列、森々孑々、奇觀不説也、須臾湮滅、而山海景象復平常矣、其顯見也、發南而移轉而失北、古今不違、歲率五七回、若二三回、或不見焉、不吾郷畔數千歩、蓋所以爲吾郷名勝也、〈○中略〉博物者云、勢灣之北畔、産蜃也尚矣、蓋以爲其所一レ吐也、〈○下略〉
○按ズルニ、蜃氣樓ノ事ハ、天部虹篇ニ附載セリ、宜シク參看スベシ、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 蛟 説文云、蛟〈音交、和名美豆知(○○○)、日本紀用大虬二字、〉龍屬也、山海經注云、蛟似蛇而四脚、池魚滿二千六百、則蛟來爲之長

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/龍魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 按以蛟爲美都知、以大虯美都知、其説不同、非蛟一名大虯也、又按、万葉集云、虎爾乘古屋乎越而靑淵爾鮫龍取將來劒刀毛我、蛟龍卽鮫龍之異文、中庸竈鼉鮫龍、釋文本作蛟、是也、宜美都知若多都、今本訓左女者、依鮫字而誤也、淮南子道應訓、蛟龍水居、注、蛟水蛟、其皮有珠、世人以爲刀劒之口、高誘以蛟龍鮫魚、其誤與万葉集舊訓同、

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 蛟〈音交ミツチ〉 大軋〈ミツチ〉

〔萬葉集〕

〈十六/有由緣雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 境部王詠數種物
虎爾乘(トラニノリ)、古屋乎越而(フルヤヲコエテ)、靑淵爾(アヲブチニ)、鮫龍取將來(ミヅチトリコン)、劒刀毛我(ツルギダチモガ)、

〔日本書紀〕

〈十一/仁德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 六十七年、是歲於吉備中國川島河派大虬(ナルミツチ)、令人、時路人觸其處而行、必被其毒、以 多死亡、於是笠臣祖縣守、爲人勇悍而强力、臨派淵、以三全https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01548.gif 水曰、汝屢吐毒令路人、余殺汝虬、汝沈https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01548.gif 、則余避之、不沈者、仍斬汝身、時水〈○水恐大訛〉虬化鹿以引https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01548.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01548.gif沈、卽擧劒入水斬虬、更求虬之黨類、乃諸虬族滿淵底之岫穴、悉斬之、河水變血、故號其水縣守淵也、

〔沙石集〕

〈五上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 學匠之蟻蜹之問答事
海ノ中ニ虬トイフ物アリ、蛇ニニテ、角ナキ物トイヘリ、妻懷姙シテ、猿ノ生肝ヲ子ガヒケレバ、山ノホトリニ猿アリケル所ニユキテ、コノ山ニ菓オホシヤトトフ、サルノ云フ、ハナハダエガタシトイヘバ、虬ノ云ク、ワガスム海中ニ菓ノオホキ山アリ、オハシマセカシトイヲ、猿ノ云ク、海ノ中ヘハイカデカユカントイフ、虬ノ云ク、我背ニノセテトイフ、サラバトテ背ニノリテエク、海中ヘハルカニユケドモ、山モ見エズ、イカニ山ハイヅクゾトイヘバ、ゲニハ海中ニイカデカ山有ベキ、我妻猿ノ生肝ヲ子ガヘバ、其ノタメナリトイフ、サル色ヲ失ヒテ、如何ニスベキカタナクテ申ケルハ、サラバ山ニテモノ給ハデ、ヤスキコトナリケルヲ、我生肝ハ、アリツル山ニヲケリ、急ギツル程ニ忘レタリトイフ、サテハ肝ノ爲ニコソ具シテキツレト思テ、サラバ返テトリテタベトイフ、安キ事ト云ケレバ、返テ山ヘユキヌ、猿木ニ上テ、海中ニ山ナシ、身ヲハナレテキモナシト云タ、山へフカク入ヌ、虬ヌケ〳〵トシテ歸リヌ、〈○下略〉

蛇/名稱

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 蛇 孫愐切韻云、蛇〈食遮反、和名倍美(○○)、一云久知奈波(○○○○)、日本紀私記云、乎呂知(○○○)、〉毒虫也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 閉美見佛足石歌、久知奈波見堤中納言物語、按八岐大虵見神代紀上、大物主神化美麗小虵、見崇神十年紀、伊吹山神化大虵、見景行四十年紀、田道墓有大虵、見仁德五十五年紀、小子部蜾蠃登三諸山、捉取大虵、見雄略七年紀、虵犬相交見持統卽位前紀、皆訓乎呂千、按乎呂謂尾、呂助語耳、山鳥乃乎呂乃波都乎、亦是知畏者之稱、謂虵有尾可畏之者也、廣韻同、唯作蛇、云虵俗、説文它虫也、从虫而長、象寃曲垂尾形、又載蛇字云、它或从虫、

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 虵蛇〈ヘミクチナハ〉

〔下學集〕

〈上/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 蛇(クチナハ)

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 蛇へび 關西及西國に、くちなは、關東にへび、薩摩にて女の詞に、たるらむしと(○○○○○○)云、家(や/○)ぐちなは(○○○○)と云るは、屋上にすみて、鼠を追ひ鳥の雛を捕もの也、是黃頷蛇也、近江にて、さとまはり(○○○○○)と云、播磨にて、をなぶそ(○○○○)といふ、津の國にて、をなびそ(○○○○)、又ねづみとり(○○○○○)と云、筑前にてやじうみ(○○○○)と云、一種東國にて、山かゞち(○○○○)と云を、近江にて、しまへび(○○○○)と云、又一種巨蛇(こじや)〈和名〉をゝへび(○○○○)、東國にて、あをだいしやう(○○○○○○○)と云を、近江にて、あをそ(○○○)と云、又一種畿内及東武にて、からすへび(○○○○○)と云を、安房にて、すぐろへび(○○○○○)と云、筑前にて、うしぐちなは(○○○○○○)と云、

〔本朝食鑑〕

〈十二/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 蛇〈訓倍美、一曰久知奈波、○中略〉
集解、蛇類最多、其極大者、俗稱宇和波美、能追呑人及鹿馬狐犬猴兎之類、若人被呑幸持刀鎌等屬、而自蛇之腹中割破而出者、雖死傷鬂髮如禿、或爪牙悉落、是中蛇之熱毒也、蛇飽睡鼾如雷、聞于數里許、其頭大而扁圓、眼大如電、背蒼灰色、有鱗文、腹黃白或赤、口舌紅如火、猛疾如流、今深山幽谷希有之、人毎不之、山中有自死者、暴枯骸骨成山、山人采而鬻之、卽蛇骨也、自脱之蛻皮亦有、小者俗號靑大將、長者三四尺、能捕鳥鼠、或逐兒女、然不之、尾而捲倒耳、俗有眞蟲、卽蝮也、古稱久知波美、源順曰、和名波美、俗呼蛇爲反鼻、大者數尺、小者尺餘、大者黃黑色如土、鼻上有古錦紋、白斑黃頷尖口、尾有毒刺能螫人、小者土色無紋、短身亦能螫人、大小同毒烈、中之者多到死、近代阿蘭陀商客販小黑石如棊子、呼號湏羅牟加頂天、此石附蛇螫處、則黃水流出、痛止而愈、又波不手古武羅比利理等藥、亦毒虫之備也、今患癩病楊梅瘡者、醸蝮酒以飮則瘥、俗有五八霜者、去頭尾燒作霜、壯氣止血、治惡瘡、本邦自古有伯耆藥者、方中用此霜、凡山野之人毎謂、食蛇及眞蟲、則氣盛志猛、矛未之、復有日量(ヒバカリ)者、狀小不尺、色白如銀、亦能螫人、若遇此毒者、不一日之刻數而死、故名、江東希有、西南諸國儘有之、有 烏蛇者、背有三稜、身烏如漆有光、頭圓尾尖、眼有赤光、有劒脊細尾者、無劒脊而尾稍粗者、倶能逐人而螫、亦能索纏令苦、江東希有、西南多有、野人食之者多、言甘平無毒、予未之、有滑蛇者、常在林下草澤之間、色黃黑相間、喉下黃而腹白、不二三尺餘、哲丈者希有、惟近人家田畝竹林圃場之溝畔而呑食蛙及鼠子雀雛之類、而不人、其毒亦少、故村野之兒童追打爲弄戯耳、有山醬者(ヤマカヽチ)、紅黑節節相間、亦在林篁草澤田畝園場之際、毎呑食蛙及鼠子雀雛之類、而不人、有水蛇者、在山川野水中、大如鱔鱏黃黑色有纈紋、亦不人、釣鱔者儘得之、識者不之、不識者混而炙食、亦中毒者少矣、大抵蛇類春後出而秋後蟄、天寒則穴居于土中、脩繕隄塘之人、穿土見蛇之群蟄、遇寒不蠢、如繩之緊結、其大者深蟄不有也、

〔日本書紀〕

〈一/神代〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 一書曰、伊弉諾尊、拔劒斬軻遇突智三段、〈○中略〉 一段是爲高龗(タカオカミ)、〈○中略〉龗此云於箇美(○○○)

〔古事記傳〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 淤加(オカ)の意は、いまだ思得(ヒ)ず、美(ミ)は寵蛇の類の稱なり、和名抄に、水神又蛟を、和名美豆知(ミヅチ)とある美(ミ)これなり、〈豆(ツ)は例の之(ノ)に通フ辭、知(チ)に尊稱にて、野椎などの例のごとし、〉又蛇蛟(ヘミハミ)などの美(ミ)も此なり、又日讀の巳を美(ミ)と訓るも此意なるべし、さて此神を書紀に龗と書て、此云於箇美(オカミ)とあり、〈龗は、字書を考るに、龍也とも注し又靈ノ字とも通ふなり、〉豐後國風(ノ)土記に、球珠(クスノ)郡球覃郷(クタミノサト)、此村有(ノニ)泉、昔景行天皇行幸之時、奉膳之人(カシハデ)、擬於御飯令(オホミケノソナヘニ)泉水(イヅミヲ)卽有蛇龗(オカミ)、〈謂於箇美〉於是天皇勅云必將(ム)有(カラ)臰(クサ)、莫令汲用(ナクマセソト)、因斯名曰臰泉(クサイヅミ)因爲名今謂球覃郷者訛也(クタミノサトヽヨコナハレルナリ)、〈○註略〉万葉二〈十二丁〉に、吾崗之(ワガヲカノ)、於可美爾言而(オカミニイヒテ)、令落(フラセツル)、雪之摧之(クダケシ)、彼所爾塵家武(ソコニチリケム)、これらを思ふに、此神は龍にて、雨を物する神なり、書紀に高龗(タカオカミ)と云もあり、そは山上(ノ)なる龍神、この闇淤加美(クラオカミ)は谷なる龍神(タツガミ)なり、〈○註略〉神名帳に意加美神社(オカミノノ)處々見ゆ、

〔萬葉集〕

〈二/相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 藤原夫人奉和歌一首
吾崗之(カガヲカノ)、於可美爾言而(オカミニイヒテ)、令落(フラセタル)、雪之摧之(ユキノクダケシ)、彼所爾塵家武(ソコニチリケム)、

〔塵袋〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 一福ノ神ヲ宇加ト申ス心如何〈○中略〉 クチナワヲ今ノ世ニ宇加(○○)ト云フハ、宇加ノ神ノ虵ノ形ニ變ジテ、人ニ見工玉フ心カ、實ノクチナハハナニバカリノ福分カアラン、〈○下略〉

蛇種類/蟒蛇

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 蟒蛇(○○) 兼名苑云、蟒〈音莽、和名夜萬加々智(○○○○○)、見内典、〉蛇之最大也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 蟒見法華經譬喩品、其佗尚多、〈○中略〉源君訓夜万加々知、謂蛇之大者、蓋今俗呼宇波婆美(○○○○)者也、其在山中眼光如酸漿、故名夜末加々知也、〈○中略〉所引蓋兼名苑注文、按爾雅釋蟲注云、蟒虵最大者、兼名苑注蓋本於此、玉篇亦云、蟒大虵也、下總本蟒下有虵字、注首有上字、恐並非、按蟒虵、今俗呼宇波婆美

〔麈袋〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 一大虵ヲヤマカヾチト云フハ何ノ心ゾ
ヤマハ山ノ義歟、大虵オホクハ深山幽谷ニスメバナリ、カヾチトハ、酸醬(ホヽヅキ)ノ名也、〈○中略〉大虵ノ目ノヒカリテアカクマロキガ、イロヨキホウヅキニ似タリケレバ、カク云ヘリ、〈○下略〉

〔古語拾遺〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 天十握劒〈其名天羽斬、今在石上神宮、古語大蛇謂之羽羽(○○)、言斬蛇也、〉

〔源平盛衰記〕

〈四十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 神鏡神璽都入幷三種寶劒事
十握劒ヲバ、羽々斬ノ劒ト名ク、羽々トハ、大蛇ノ名也、此劒大蛇ヲ斬レバ也、〈○下略〉

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 蚺蛇(うはゞみ)〈音髯〉 埋頭蛇 南蛇 和名仁之木倍美 俗云宇和波美〈○中略〉
按蚺蛇、本朝深山中有之、其頭大圓扁、眼大而光、背灰黑色、腹黃白、舌深紅也、蛇食物飽則睡、鼾聞數十歩、其耳小僅二寸許、形如鼠耳、然蚺蛇不耳有無者未審、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 蚺蛇 ニシキヘミ〈和名鈔○中略〉
ウハヾミト訓ズルハ非ナリ ウハヾミハ 一名 ヤマカヾチ(○○○○○)和名鈔 オホヘビ(○○○○)〈○中略〉 ヲカバミ(○○○○)〈北國○中略〉 本邦大虵ノ名ニシテ、漢名蟒蛇ナリ、〈○下略〉

蚺蛇

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 蚺蛇 文字集略云、蚺、〈音髯、和名仁之木倍美(○○○○○)、〉蛇文如連錢錦也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 古事紀垂仁條有錦色小虵、亦恐是、〈○中略〉按埤雅云、蚺虵身有斑文、如故暗錦纈、與此義同、又按説文、蚺、大蛇可食、玄應音義引字林云、蚺大虵也、可食、大二圍、長二丈餘、郭注海内南經云、今南方蚺虵呑鹿、鹿已爛、自絞於樹、腹中骨皆穿鱗甲間出、本草蚺虵膽注陶弘景曰、此蛇出晉安、大者三二圍、蜀本圖經云、出交廣二州嶺南諸州、大者徑尺、長丈許、若蛇而麁短、田村氏藏蚺虵皮、其大如陶氏所一レ説、是恐非源君所訓者、輔仁蚺虵無和名、邇之岐倍美、當是今俗呼也万加々知

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 蚺〈音髯ニシキヘミ〉

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 蚺蛇〈仁諝、音而簷反、大蛇也、〉北行黑血、〈黑蛇血也、出兼名苑、〉

〔日本書紀〕

〈六/垂仁〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 五年十月己卯朔、天皇幸來目、居於高宮、時天皇枕皇后膝而晝寢、於是皇后旣無成事、而空思之、兄王所謀道是時也、卽眼涙流之、落帝面、天皇則寤之、語皇后曰、朕今日夢矣、錦色小蛇(○○○○)、繞于朕頸、復大雨從狹穗發、而來之濡面、是何祥也、皇后則知謀、而悚恐伏地、曲上兄王之反狀、因以奏曰、妾不兄王之志、亦不天皇之恩、〈○中略〉唯今日也、天皇枕妾膝而寢之、於是妾一思矣、若有狂婦兄志者、適遇是時、不勞以成功乎、玆意未竟、眼涕自流、則擧袖拭涕、從袖溢之沾帝面、故今日夢也、必是事應焉、錦色小蛇、則授妾匕首也、大雨忽發、則妾眼涙也、天皇謂皇后曰、是非汝罪也、〈○下略〉

〔古事記傳〕

〈二十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 錦色小蛇(ニシキイロナルヘミ)、小蛇は幣美(ヘミ)と訓べし、〈○中略〉錦色とは錦の如くなる文のあるを云なり、然る一種の蛇あり、和名抄に蚺蛇、文字集略云、蛇文如連錢錦也、和名仁之木倍美(ニシキヘミ)とあり、〈埤雅に蚺蛇尾圓無鱗、身有斑文錦纈とも云り、但シ和名抄に仁之木倍美とあるは、小蛇なるべきに、本草を考るに、蚺蛇はいと大キなる物なれは、此漢名は當らざるが如し、○下略〉

〔八幡愚童訓〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 御殿ノ内ヨリ五色蛇(○○○)ハイ出テ、淸丸〈○和氣〉ガ脛ヲ舐ルニ如元足ニ成シカバ、〈○下略〉

〔行縢餘錄〕

〈出雲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 十月は、神あり月とゝなへ、十一日より十七日まで神ありのものいみといへることのありて、御社近き五十田狹之小汀く高波うちよせて、にしきのあやある龍蛇(○○○○○○○○○○)、一ツあるは二ツもあがれるをきよらなるものへのすれば、わだかまりてうごかぬを、國造とりて御社へ奉るに、日 かず十日ほどは、わだかまれるまゝ活てをれり、後はまなこをふさぎいくとせ經ても、かたちそこなはれずといへり、そを見けるに長さ一尺あまりもあるらむ、わだかまりつゝ尾の先平らけく三の角ありて、龍のごと口は頭のさきゞはまでさけ、常の蛇とはいと〳〵ことなり、

蚖蛇

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 蚖蛇(○○) 崔豹古今注云、玄蚖、綠蛇、〈音元、字亦作螈、内典云、蚖蛇、加良須倍三(○○○○○)、〉各隨其色名之、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 玉篇蚖螈同上、蚖虵見法華經譬喩品、及普門品、〈○中略〉按崔豹所謂玄螈綠蚖、蓋榮蚖之玄紺者、卽蝘蜓之一種、非虵類、故本草和名石龍子條引之、源君所見古今注、誤作綠虵、遂與法華經蚖虵、遺敎經之黑蚖混也、法華經譬喩品云、蚖蛇、蝮蝎、蜈蚣、蚰蜒、守宮、百足、鼬貍、鼷鼠、諸惡蟲輩、交横馳走、玄贊云、蚖依遺敎經黑短蛇也、又云、蚖有二、一蜥蜴、二黑短蛇、故遺敎經言譬知黑虵在汝室云々、睡蛇旣出乃可安眠、慧琳音義云、蚖者黑短蛇、與餘蛇別、非守宮也、不爾此經下別守宮、上復説蚖、一何重沓、故俗書解與經義別、經則内典之蚖、不古今注螈、加良須倍美之蚖蛇、宜法華經若遺敎經、源君引古今注、爲梵典所云蚖蛇是、李時珍曰、烏蛇有二種、一種劒脊細尾、一種長大無劒脊、而尾稍粗者名風稍蛇、小野氏曰、風稍蛇可以充加良須倍美也、

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01549.gif 蚖〈カラスヘミ カラスクチナハ(○○○○○○○)〉

〔下學集〕

〈上/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 蚖(カラスヘビ)

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 鳥蛇 黑花蛇 烏稍蛇 加良須久知奈波〈○中略〉
按烏蛇、見人則擧頭追來、逃人不正直走、如久字則蛇不追至也、雖追著、此蛇不敢爲一レ害、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 烏蛇 一名黑風蛇〈蛇譜〉
舶來アリ、色黑クシテ、脊ニ稜アリテ圓ナラズ、尾末數寸、急ニ細クシテ、常蛇ニ異ナリ、薩州谷山郡ノ黑蛇舶來ノ烏蛇ニ異ナラズ、又山野ニ全身色黑クシテ、腹淡黑ナルモノ多シ、大者ハヨク人ヲ逐フ、是ヲ カラスへビ〈京〉ト云、一名カラスクチナハ、〈同上〉ウシクチナハ(○○○○○○○)、〈大和本草〉ツチムグリ(○○○○○)、佐州ス(○) グロヘビ(○○○○)、〈房州〉 是風稍蛇ナリ、烏蛇ニ非ズ、此類猶多シ、

〔今昔物語〕

〈二十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 山城介三善春家恐虵語第卅二
今昔、山城ノ介ニテ三善ノ春家ト云フ者有キ、前ノ世ノ蝦蟆ニテヤ有ケム、虵ナム極ク恐ケル、〈○中略〉夏比染殿ノ辰巳ノ角ノ山ノ木隱レニ、殿上人君達二三人許行テ、冷ミテ物語ナドシケル所ニ、此ノ春家モ有ケリ、其レハ人ノ當リモコソ有レ、此ノ春家ガ居タリケル傍ヨリシモ、三尺許ナル烏虵(○○)ノ這出タリケレバ、春家ハ否不見ザリケルニ、君達ノ其レ見ヨ春家ト云ケレバ、春家打見遣タルニ、袖ノ傍ヨリ去タル事一尺許ニ、三尺許ノ烏虵ノ這行クヲ見付テ、春家顏ノ色ハ朽シ藍ノ樣ニ成テ奇異ク難堪氣ナル音ヲ出シテ、一音的テ否立モ不敢ズ、立ムト爲ル程ニ二度倒ヌ、辛クシテ起テ、沓ヲモ不履ズ、ニテ走リ去テ、染殿ノ東ノ門ヨリ走リ出テ、北樣ニ走テ、一條ヨリ西へ西ノ洞院マデ走テ、其ヨリ南へ西洞院下ニ走リ、家ハ土御門西ノ洞院ニ有ケレバ、家ニ走テ入タリケルヲ、家ノ妻子共、此ハ何ナル事ノ有ツルゾト問ヘドモ、露物モ不云ズ、裝束ヲモ不解ズ著乍ラ低ニ臥ニケリ、〈○中略〉五位許ノ者ノ、晝中ニ大路ヲ歩ニテナル者ノ、指貫ノnan取テ、喘々ギテ、七八町ト走ケムハ、大路ノ者、此レヲ見テ、何カニ咲ヒケム、〈○下略〉

〔百練抄〕

〈十/後鳥羽〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 建久三年八月一日辛丑、北野御輿迎也、仍奉出神輿之處、自三王子御輿蛇出來、遷正殿御輿云々、大炊頭師尚、勘申天仁二年八月一日御輿迎日、黑蛇(○○)死御輿中、〈○下略〉

白蛇

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 金蛇 附銀蛇〈○中略〉
銀蛇ハシロへビ(○○○○)、一名カナへビ(○○○○)、〈佐州〉此品稀ナリ、豫州ニハ多クアリト云フ、又和名ニ銀蛇ト呼ブ者ハ大腹皮中ノ小蟲ニシテ、甚稀ナリ、長サ二三寸、濶一分許、蛇ノ形ニシテ、首ハ龍ノ如シ、體ニ鱗アリ、全身銀色、首ハ微紅ナリ、〈○中略〉
按ニ、シロヘビニ二種アリ、一ハ常ノ蛇ノ變ジテ白色ニナルモノナリ、一ハ至テ稀ナリ、文化甲戌 ノ秋七月二十六日、紀州雜賀川ニ眞ノ銀蛇ヲ得タリ、其性緩ニシテ人ヲ恐レズ、長サニ尺八寸、全身白色ニシテ、鱗間悉ク銀光アリ、頭ハ常ノ蛇ト異ニシテ、扁ク鱓(ウツボ)ニ似テ、縱横ニ赤黃色ノ條五六アリ、眼ハ黑ク、眼邊黃ニシテ舌白シ、凡テ蛇ノ類ハ臭氣アレドモ、此蛇少シモ臭氣ナシ、僅ニ鷄子黃ヲ食フノミ、二年ノ後死ス、先年紀州庚申堂ニテ觀場ニ備ル者アリ、長サ五尺餘、全ク白粉ヲ傅ル如ク、小黑斑アリ、頭ハ鱔ニ似テ、目ハ灰靑色、舌ハ灰白色ナリ、後チ衣ヲ脱シテ潔白銀光アリ、コレ眞物ナルベシ、又肥前佐賀脊振山ニテ、毎歲四月辨才天ノ祭ニ白蛇出ルコトアリ、コレ又具ノ銀蛇ナリト云、又和名ニ銀蛇ト呼ブ者、先年阿州ニテ草綿ノ中ヨリコレヲ獲テ國侯ニ獻ズ、

〔中右記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 長承三年五月十三日、今日、院〈○鳥羽〉白蛇(○○)御覽、十八日、白蛇渡一條、庭水大湛、如池〈○池一本作洪〉水也、

〔康富記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 嘉吉三年六月五日己丑、後聞、今日石淸水八幡宮末社、武内御社御殿内、白虵死有之奉見付也、是五月五日神事延引、今日遂行之間、開御殿御戸之處、白虵死有之、久成歟之間、臭氣以外也、仍驚入之由、自社家注進之間、後日被先例於兩局輩云々、後日淸外史被語曰、當社之例不所見之間、注申准據例云々、

〔言國卿記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 文明六年七月廿九日、内侍所殿ヨリ白蛇二筋出、二合ノ御辛櫃ノ上へ上リ、其儘紛失之由、兩傳奏ヲ被召、陰陽頭ヲ被召、可勘申由被仰付了、

金蛇

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 金蛇 附銀蛇 金蛇〈ハ〉キヘビ(○○○)
黃色ノ蛇ヲ金蛇ト云、日ニ映ジテ光リアル故名ク、〈○中略〉
增、桃洞遺拳ニ云、金蛇ハキヘビニハ非ザルベシ、キヘビハ稀ニ紀州ニモ産ス、形常ノ蛇ト異ナルコトナク、大抵長サ二尺餘、總身黃色ニシテ微シ黑色ヲ帶ビ、日ニ映ズレバ光アリ、コレ淸ノ陳鑑ガ江南蛇品ニ載スル黃蛇ナリ、眞ノ金蛇ニ充ツベキモノハ未ダコレヲ見ズ、

靑蛇

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 靑蛇(あをんじやう) 俗云阿乎牟之也宇(○○○○○○)
按有山中石岩間、靑黃色而有小點、頭大而如龍、其大者一丈許、老者生耳、本草所謂、與竹根蛇同色非一物

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 黃頷蛇〈○中略〉
增、集解、竹根蛇、 アヲクチナハ、和産アリ、靑綠色ナルモノヲ云、

熇尾蛇

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 熇尾蛇(ひばかり) 竹根蛇 俗云日波加利(○○○○)
本綱、竹根蛇、不藥用、最毒、喜緣竹木、與竹同色、大者長四五尺、其尾三四寸、有異點者名熇尾蛇、毒尤猛烈、中之者急灸三五壯、毒卽不行、仍以藥傅之、
按有毒蛇、不一二尺、色深黃有細點、中其毒者卽日死、故俗呼曰日限(バカリ)、此乃熇尾蛇矣、
小蛇有庭砌、人手捕之、棄于壁外、少時腕有小孔、如針痕、血出似絲線、須臾面目腫脹發熱、招予乞治、蓋此熇尾蛇所囓也、急傅止血藥血、次艾灸一壯、上傅留宇陀草末、内用敗毒散二三貼平愈、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 熇尾蛇ハヒバカリ(○○○○)ナルベシ、
ヒバカリハ小蛇ニシテ、長サニ尺許リ、至テ毒物ナリ、誤テ人ヲ囓メバ、立處ニ肌肉ノ色變ジテ腐ルト云フ、

黃頷蛇

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 黃頷蛇(さとめぐり) 黃喉蛇 亦棟蛇 桑根蛇 俗云里巡
本綱、黃頷蛇、多在人家屋間、呑鼠子雀雛、見腹中大者、破取其蛙鼠、乾之爲藥、紅黑節節相間、儼如赤棟桑根之狀、喉下黃色而大者近丈、皆不甚毒、丐兒多養爲戯弄、死則食之、
按黃頷蛇、竄棲人家、呑鼠及燕子、不人、如有倉廩米者、長大有二三丈者、捕三四尺許者、令https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01550.gif 丐 兒女頸、稱因果所業錢之類、和漢共然乎、有一黃頷蛇、呑雞卵於戸鑰孔、卵輾自潰、蛇快然去、因 以黃楊卵形塒、亦蛇呑之濳鑰孔、而木卵不嘗潰、蛇還退入尾於孔逆濳、卽木卵吐出得安焉、人 懼其智

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 黃頷蛇 附赤棟蛇 ヲナミソ(○○○○)〈新校正〉 ラナグソ(○○○○) ヤジラミ〈筑前〉ネズミトリ〈讃州攝州〉 サトマワリ〈江州〉 ヤクヾリ(○○○○)〈日州〉 ナブサ(○○○)〈南部〉 ムギワラスヂ(○○○○○○)〈大和○中略〉此蛇長サ五六尺ナルモアリ、灰黑色ニシテ淡黑ノ斑文アリ、頷ニ黃色ノ環アリ、故ニ黃頷蛇ト名ク、多クハ村家ニ住シテ、夜屋椽ノ間ニ出テ鼠ノ兒ヲ取り、雀卵ヲ尋子食フ、人ニハ害ヲナサズ、赤棟蛇ハセンベクチナハ和州此蛇ハ赤ト黑ト雜リタルヲ云、草莽中ニ在リ、人家ニ住セズ、此ニモ黃頷ナルモノアリ、

麥䅌蛇

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 麥䅌蛇(むぎわらへび/なぐそ) 奈久曾(○○○)
按園野處處有之、大抵三四尺、大者一丈許、黃褐色、自頭至尾有縱文、其文淺白如麥䅌、故名、又名奈久曾蛇、〈未詳〉不人、與黃頷蛇同好事者弄之、

野槌蛇

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 野槌蛇(のつちへび) 合木蛇之屬乎
按深山木竅中有之、大者徑五寸、長三尺、頭尾均等而尾不尖、似槌無柯者、故俗呼名野槌、和州吉野山中菜摘川淸明之瀧邊往往見之、其口大而嗑人脚、自坂走下、甚速逐人、但登行極遲、故如逢之則急可高處、不逐著
○按ズルニ、類聚名義抄、蝮字ヲハミ又ノツチト訓ゼリ、

水蛇

〔和漢三才圓會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 水蛇(みつくちなは) 公蠣蛇
本綱、生水中、大如鱓、黃黑色、有纈紋、囓人不甚毒、能化鱧者卽此也、
泥蛇 黑色、穴居成群、囓人有毒、與水蛇同、
按江海水涯有穴處、以爲鰻鱺、以手搜之、握水蛇泥蛇等、所囓者多、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 水蛇 ミヅクチナハ ミヅヘビ 流水中ニ穴居スル蛇ナリ、若人水ヲ渡リ、ソノ孔ニ觸レバ、出テ足ヲ纏フノミニシテ、害ヲナサズ、泥蛇モ亦ソノ類ナリ、

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 蝮蛇靑蛙〈仁諝音胡媧反〉赤https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 〈仁諝音連〉廣頷〈二種在人間、巳上三種出陶景注、〉䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 、一名黃頰、蝮蛇、一名虺、〈已上四名出疏文〉一名蟀https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01552.gif 、〈率然二音、兼名苑〉 和名、波美(○○)

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 蝮(○) 本草疏云、蝮蛇〈蝮音覆〉一名䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 〈僕連二音〉兼名苑云、一名反鼻、〈蝮和名波美、俗或呼蛇爲反鼻、其音片尾、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 本草和名蝮蛇條云、䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 一名黃頰、蝮蛇一名虺、已上四名出疏文、按本草和名蝮蛇上無一名字、蓋䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 蝮蛇以相類兼擧者、源君引以https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 蝮虵一名誤、下總本https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01553.gif 、連作速、按玉篇廣韻竝云、䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 蟲名、僕速蓋疊韻字、則作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01553.gif是、然玉篇廣韻所謂䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 、不荷物、且䗱https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif本草和名合、則作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01553.gif 、恐非源君之舊、下總本間有後人依玉篇改作者、此亦或然、又本草蝮蛇條陶注有赤連、本草和名引作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01551.gif 、未必非、爾雅釋魚、蝮虺博三寸、首大如擘、説文云、虫一名蝮、博三寸、首大如擘指、郭璞曰、身廣三寸、頭大如人擘指、此自一種蛇、〈○中略〉按南山經云、猨翼之山多蝮虫、注、一名反鼻、兼名苑蓋本於此、藝文類聚引廣志去、蝮虵與土色相亂、長三四尺、其中人、以牙櫟之、裁斷皮血、則身盡痛、九竅血出而死、王念孫曰、今江淮之間謂之土骨虵、其大虵有毒、與虺同者亦名蝮虺、楚辭招魂、蝮虵蓁々、王逸注云、蝮大蛇也、南山經郭注云、蝮虫色如綬文、鼻上有鍼、大者百餘斤、虫古虺字、此則殊方異産、非爾雅廣雅所謂虺矣、陶云蝮蛇黃黑色、黃頷尖口、蘇云、蝮蛇作地色、鼻反口叉長身短、頭尾相似、蜀本圖經云、形麁短、黃如土色、白斑鼻反、陳藏器云、蝮虵形短鼻反、錦文亦有地同色若、衆蛇之中此獨胎生、按京俗今猶呼波美、或訛云波米、大和俗呼波毘、京江戸又謂之万牟誌、〈○中略〉按蛇和名倍美、見上文、俗呼蛇爲片尾者、卽倍美之轉、源君以爲反鼻字音者屬牽强

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 蝮〈ハミノツチ〉

〔下學集〕

〈上/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 蝮(ヘミ)

〔塵袋〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 一毒虵ヲクチバミ(○○○○)ト云フ、イカナル義ゾ、
クチト云フハ、腐爛ノ心ナリ、サシタル所ニ毒氣入テ、クチクサル故ヘナルベシ、蝮ノ字ヲバハミトヨム、兼名苑ニハ一名ハ反鼻(ヘンヒ)ト云へリ、又片尾(ヘンヒ)トモカクベシ、ムヒヲ略シテヘミト云フ、蚖虵トカキテカラスヘミトヨミ、蚺(セン)虵トカキテハニシキヘミトヨム、ハヒフヘホハ通音ナレバ、ヘミヲハミト云ヒナセリ、コノユヘニクチハミナリ、ヘミヲバ、ハミトモ云フ、コノユへニクチバミナリ、

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 蝮蛇まむし(○○○) 西國にてひらぐち(○○○○)と呼、筑前にてはめ(○○)と云、土佐にて、はみ(○○)、又くつばみ(○○○○)と云、上總房州にて、くちばみ(○○○○)と云、是〈和名〉はみ也、又一種俗に、ひばかり(○○○○)と云有、土佐にて日みず(○○○)と云、小クして錦色なるもの也、人是にさゝるゝ時は、日を見る間なく死すと云心にて、日みずと云と也、〈○下略〉

〔康賴本草〕

〈下/蟲魚部下品〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 蝮蛇膽(○○○) 味苦微寒有毒、和久呂波美(○○○○)、又云乃川知(○○○)、五々取燒使之、 波美、

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 蝮虵(ヘビ) 倭名ヘビ、又クチバミ、又マムシト云、ヘビハ反鼻(ヘンビ)ナリ、本草蝮虵一名反鼻ト云、牙アリ毒虵也、西土ノ俗ヒラクチ(○○○○)ト云、人ヲクラヘバ、往々ニ死ス、〈○中略〉虺虵ハ蝮ノ小ナルヲ云、蚖虵トモ云、〈○中略〉鱗類皆卵生、而蝮虵ハ胎座ス、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 蝮蛇 マムシ〈京〉 ハミ ハメ〈共同上〉 ハビ(○○)〈和州〉 クチバミ上〈總房州〉クツハミ〈土州〉 ヒラタチ(○○○○)〈筑前〉 ヒラグチ〈西國○中略〉
ハミハ反鼻ノ音ナリ ヘビト云モ同ジキ音ナレドモ、今ハ諸蛇ノ總名トス、蝮蛇ハ蛇ノ猛毒アルモノナリ、性人ヲ畏レズ、他蛇ノ人ヲ見テ走竄スルニ異ナリ、ソノ長サ一尺餘、灰色ニシテ黑斑文アリ、又小朱點アル者アリ、蝮蛇尾ニ刺アリ、鋸齒アリテ、魟魚(エイ)ノ刺ノ形ノ如シ、然レドモ甚取ガタシ、信州ニハ黑マムシ(○○○○)、白マムシ(○○○○)、赤マムシ(○○○○)、靑マムシ(○○○○)、シマヽムシ(○○○○○)ノ品アリト云、筑前ニテ蟆蛇ヲ採リ疔ノ藥トスルニ、三節ガレト云ヲ上品トス、其毒尤猛クシテ、靑竹ニテ按ズルニ、忽下ヨリ竹 枯レ、色變ジテ三節ニ至ルヲ云、和方ニ多ク蝮蛇ヲ用ユ、頭尾ト腸トヲ去リテ、黑燒ニシテ止血ノ藥トス、コレヲ五八霜ト云ヒ、又四十霜ト云、黑燒ノコトヲ和名ニ霜ト云、端午ノ百草ノ黑燒ヲ百草霜ト云ト同例ナリ、〈○下略〉

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1030 蝮蛇〈○中略〉
蚖(○)〈一名虺〉 與蝮同類、長尺餘、蝮大而蚖小、其毒則一、其色如土而無文、
按蝮蛇大抵長者不二三尺、凡諸蛇自頭至尾次第繊、如牛蒡根、惟蝮蛇如木杖、而至尾耑急繊、又諸蛇卵生、獨此胎生、吐子於口、然有利牙易産、七八月將産時、白欲牙好囓樹咬人、草行不愼、人殺之宜其頭、如打身尾頭、則悲鳴聞其聲、群蝮來聚無之奈何也、蓋此非實物、其地草莖化如羣蛇然、其猛念可知矣、毎好蟠山椒樹、故蝮身有山椒氣香、土人取之剝皮、但以上下唇之、則皮肉骨分爲三段、肉潔白如雪、寸寸切亦能蠢動、用梅醋蓼浸食甘美、益氣力、强神志、又黑燒爲藥、隱名曰五八草、〈又名十三草〉能止血治惡瘡、〈其燒粉若値雨、變成小虫、〉
子生於口時、尾先出、纏竹木互如引出生、直紆行、復如此、凡六七子、又蝮與蚖爲一種、爲別種諸説、時珍解之、愈爲二物、小而無紋者爲蚖、大而有錦文者爲蝮云云、畿内有之者、長一尺許而尺半者希矣、九州之産雖大、不二三尺、皆地黑色而有黃赤白錦文、無文可蚖者希有之、
蝮性甚勇悍也、農人草行見蝮欲殺、而擕刀杖、故詈曰、汝卑怯者不去也、還家持鋤鍬等復行、蝮嚴然如待然、或以竿抒(セヽル)其首、曾不逃去、徐縮身、肥僅爲五六寸、此爲跳著也、果急跳懸、拗首則死、其鍼有尾如蜂針、常不見、臨時出刺人、毒最烈、然謂鍼有鼻上者未審、傳云、取針安懷中、令人勇氣

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1030 蚖 コクチバミ(○○○○○) クソヘビ(○○○○)〈津輕〉 クソクチナハ(○○○○○○)〈水戸〉
蝮蛇ノ類ナリ、形小クシテ、黑斑ナク、土ト同色ニシテ、毒尤甚シ、人コレヲ畏ル、又筑前ニカウガイ(○○○○)ヒラクチ(○○○○)、一名三寸ヒラクチ(○○○○○○)ト呼ブモノアリ、長サ四五寸ニ過ギズシテ、首尾一般ノ大サナリ、毒 尤甚シト云、亦蚖ノ屬ナリ、

〔徒然草〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 めなもみといふ草あり、くちばみ(○○○○)にさゝれたる人、かの草をもみてつけぬれば、則いゆとなん、見しりてをくべし、

はぶ

〔閑田耕筆〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 大隅の人の話に鬼界島大島とくのしまなどに、はぶ(○○)〈文字はしらず〉といふ蛇ありて、太く長きもの也、人をとらんとしては、竪になりて其齒をもて、人の頭にても身にてもうつ、うたれたる所、毒氣にて腐れり、〈○中略〉はぶつかひといふものあり、其島々にて惡事をなせるもの、陳じて善惡わかちがたき時、其咎ある者を、咎なきものと共に車座にして、彼はぶつかひをよびて、はぶをはなせば、必咎ある者をうつと也、常にも此はぶにうたるゝは、よからぬもの也とかや、〈○下略〉

異形蛇

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 枳頭虵(○○○)〈俗云兩頭虵〉

〔本朝世紀〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 天慶元年八月七日辛巳、東院東路、與郁芳門路辻、有兩頭蛇、諸人見之云々、

〔看聞日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 永享五年閏七月廿七日、兩頭小蛇、一方頭入穴之間不見、尾方有頭、兩頭初而見、希有事也、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 兩頭蛇 平等ヘビ〈古名〉 リヤウトウノヘビ(○○○○○○○○) 一名弩絃〈事物紺珠〉
尾ニモ頭アル蛇ナリ、然ドモ尾ノハ形ノミニシテ、口目ナシ、是他ノ蛇ヲ呑テ成ルト云、備後ニハ稀ニアリ、又頭上ニ一頭タチ生ズルアリ、コレモ形ノミニシテ、口目ナシ、又一種岐ヲ分チ、ソノ末ニ各一頭生ズルモノ佐州ニアリ、事物紺珠ニ、並頭蛇、長人許、一身兩首並生、花黑色、口目皆能運用、ト云モノニシテ、卽枳首蛇ナリ、釋名ニ兩頭蛇トスルハ非ナリ、

〔百練抄〕

〈五/鳥羽〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 保安三年五月十四日、故二品親王白川堂〈善勝寺〉前庭有足蛇出來(○○○○○)、爲犬被喰殺、上皇〈○白河〉仰敦光師遠、令申子細

〔古名錄〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 中外抄曰、久安四年閏四月四日云々、近則白河院御時、故廣親子白川堂〈字善勝寺〉有足虵(○○)、又師遠依院宣註申、女子之祥也、又本朝奇令例爲最去申了、今當顯季孫、體皇后出來了、愚女子之祥 相叶、仰、音人例如何、申云、爲童時有足虵、餘音囗之由不見也、仰云、大有興事也、我小年時、見虵足、華山院乃霞殿〈乃〉東南〈乃〉南端ニ、日がくし安き件所〈乃〉前ニ、仕丁朝掃時、蛇〈ヲ〉木〈ニ〉懸〈テ〉持出之時、有足、ムカデノ足のごとし、而有傍他人更不之由申、還テ我見由を云をも、時人不信き、如此事ハ幸人目ニ見トゾ時人云云、今音人例相叶、尤有興々々云云、仰云、故顯季語我之夢ニ、見蛇〈乃〉足タリ、いみじき事なりとぞ云々、

〔古今著聞集〕

〈一/神祇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 基隆朝臣、周防國をしりける比、保安三年十月にかたりけるは、彼國にしまの明神とておはします、神主窂籠の事有て、論じけるもの有とて、神田をかりとらんとしければ、寶前より蛇三百計出たり、其内につの有二つ有けり(○○○○○○○○)、しばしありて入ぬ、其後猶からんとしければ、烏數万とび來りて、神田の稻の穗をくひぬきて、みな神殿の上に葺けり、ふしぎの事也、〈○下略〉

〔常陸風土記〕

〈香島郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 角折濱、謂古有大蛇、欲東海、堀濱作穴、蛇角折落(○○○○)、因名之、

〔西遊記〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 榎木の大蛇
肥後國求麻郡の御城下五日町といへる所に、知足軒と云小庵有り、其庵の裏はすなはち求麻川なり、其川端に大なる榎木あり、地より上三四間程の所、二またに成りたるに、其またの間うろに成りゐて、其中に年久敷大蛇すめり、時々此榎木のまたに出るを、城下の人々は、多く見及べり、顏を見合すれば、病む事あるとて、此木の下を通るものは、頭をたれて通る、常の事なり、ふとさ貳三尺まわりにて、惚身色白く、長さは纔に三尺餘なり、たとへば犬の足のなきがごとし、又芋虫によく似たりといふ、所の者是を一寸坊蛇(○○○○)と云、昔より人を害する事はなしと也、予〈○橘南谿〉も毎度其榎木の下にいたり、うかゞひ見しかど、折あしくてや、ついに見ざりき、

〔西遊記〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 猪の狩倉の大蛇
予が遊びし前年の事なりし、求麻の城下より六里ばかり離れて、猪の狩倉と云所あり、此所の百 姓貳人、山深く木こりに入りしに、其ふとさ四斗桶ばかりにて、長さ八九尺ばかりなる大蛇草のしげれる間よりさはと出て追來る、のがれ得べうもあらざれば貳人ともに取てかへし、木こる那刀(なた)もて、命をかぎりに働しに、つゐに大蛇を打殺ぬ、〈○中略〉かく短くふとき蛇もあるものにや、

蛇蠱

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 蛇(クチナハ)〈○中略〉 日本ニ中國ノ小蛇(コクチナハ)トテ、安藝ニ蛇神アリ、又タウベウ(○○○○)ト云、人家ニヨリテ、蛇神ヲツカフ者(○○○○○○○)アリ、其家ニ小蛇多クアツマリ居テ、他人ニツキテ災ヲナス事、四國ノ犬神、備前ノ兒島ノ狐ノ如シ、〈○下略〉

〔明月記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 建久七年四月十七日丙寅、新日吉近日有蛇男(○○)一人、隨其蛇、吐種々狂言蛇託宣、又云、後白川院後身也云々、此事不便奏狀進之云云、殿下〈C 藤原兼實〉仰云、是可追拂事也、奉爲故院甚見苦事也、

蛇利用

〔延喜式〕

〈三十七/典藥〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 諸國進年料雜藥
伊賀國廿三種〈○中略〉虵脱皮一兩〈○尾張、近江、美濃、丹波、丹後、所進亦有、〉

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 虵蛻皮(○○○)、〈仁諝音税〉一名龍子衣、一名虵苻、一名龍子皮、一名龍子單衣、一名弓皮、和名倍美乃毛奴介

〔康賴本草〕

〈下/蟲魚部下品〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 蛇蛻 味醎甘平无毒、和返美乃毛奴計、五五、又十五日採之、

喰蛇

〔今昔物語〕

〈三十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 太刀帶陣賣魚嫗語第卅一
今昔、三條ノ院ノ天皇ノ春宮ニテ御マシケル時ニ、太刀帶ノ陣ニ常ニ來テ魚賣ル女有ケリ、太刀帶共此レヲ買ヒテ食フニ味ヒノ美力リケレバ、此レヲ役ト持成シテ菜料ニ好ミケリ、干タル魚ノ切々ナルニテナム有ケル、而ル間八月許ニ太刀帶共、小鷹狩ニ北野ニ出テ遊ケルニ、此ノ魚賣ノ女出來タリ、太刀帶共女ノ顏ヲ見知タレバ、此奴ハ野ニハ何態爲ルニカ有ラムト思テ馳寄テ見レバ、女大キヤカナル籮ヲ持タリ、亦楚一筋ヲ捧テ持タリ、此ノ女太刀帶共ヲ見テ、恠ク逃目ヲ仕ヒテ只騷ギニ騷グ、太刀帶ノ從者共寄テ女ノ持タル籮ニハ、何ノ入タルゾト見ムト爲ルニ、女 惜ムデ不見セヌヲ恠ガリテ引奪テ見レバ、蛇ヲ四寸許ニ切ツヽ入タリ、奇異ク思テ此ハ何ノ料ゾト問ヘドモ、女更ニ答フル事无クテ テ立テリ、早ウ此奴ノシケル樣ハ、楚ヲ以テ藪ヲ驚カシツヽ、這出ル蛇ヲ打殺シテ切ツヽ家ニ持行テ、鹽ヲ付テ干テ賣ケル也ケリ、太刀帶共其レヲ不知ズシテ買ヒテ役ト食ケル也ケリ、此レヲ思フニ、蛇ハ食ツル人惡ト云フニ何ト蛇ノ不毒ヌ、然レバ其體慥ニ无クテ切々ナラム魚賣ラムヲバ、廣量ニ買テ食ハム事ハ可止シトナム、此レヲ聞ク人云繚ケルトナム語リ傳ヘタルトヤ、

〔百家琦行傳〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 蛇喰八兵衞
常陸國龍が崎に、山田屋何がしの家の下僕八兵衞といふ者ありけり、性惡食を事とす、〈○中略〉一日同じ村の莊官より、山田屋へ使をつかはし、下人八兵衞を些しの間、借うけ度よしを史(たの)み越しけり、奈何なる事ともわきまへねど、且八兵衞を呼て斯と知せ、莊官の家へつかはしけり、斯て莊官八兵衞を呼て語て曰く、近頃我家の前栽のうちへ、兩頭の蛇きたりて徘廻す、これを看人遠からず死るといふ事、昔より云傳て、人の怕る事、唐土の叔敖が古事にても知べし、蛇は執心深き者ゆゑ殺しても念を殘し、其人に仇するといへり、況や兩頭の蛇においてをや、爰をもて我思に、かの蛇くひてしまはゞ、形も殘らず、念をのこす處なかるべし、儞何(なんぢ)とぞ彼蛇をくひてくれよ、然らば其酬謝には二十金を儞に與ふべしといひければ八兵衞〈○中略〉點頭(うなづき)、いつにてもあれ、其蛇いで侍らはゞ、疾く知せ給はるべし、小僕參りて㗖さふらはんと云て、當日は家に歸りけり、四五日を經て、莊官よりむかへの人來りけるにぞ、八兵衞急ぎ莊官の許に往て看に、彼兩頭の蛇、前栽の松樹の下に圓蟠(うづくまり)て居りける、八兵衞は手に鍬を持て、忍足にすゝみより、彼蛇をしたゝかに打ければ、蛇は大いにhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01554.gif (いか)り、鎌頭をもたげて、八兵衞が方へ越り來る〈○中略〉處を、扯(ひき)とらへて、皮をはぎ、菜刀にて三五寸程づゝに斬、醬油をつけて殘ず喰ひ、二(ふたつ)固の頭と皮と骨とは、火にてよく燒、炭のごとく にして、殘なく喰盡し、塵ばかりの物も殘る處なし、莊官大いによろこび、頓て二十金を把いだして、八兵衞に與へけれ共、小僕死ざる間は、要用にあらずとて、是を受ず、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01555.gif (はしり)て山田屋へ歸りけり、〈○下略〉

〔百家琦行傳〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 蛇隱居
天明寬政の頃、東武靑山或御組屋敷のほとりに、武家の隱居ありけり、氏を武谷、俗稱を又三郎と云けり、此人希有の癖あり、常に虫を食することを好み、〈○中略〉虫多き中にも、第一の好味として憘び喰するものは蛇なり、皮をはぎ、骨を去り、二三寸程づゝに斬て、竹串にさし、炙物にして食す、予〈○八島五岳〉其頃此老人に蛇のかばやきを貰ひて飡たり、はなはだ美味ものなりし、外人は釣竿をかたげて川狩にゆくなかに、此老人のみは、野山を經めぐりて、蛇を數隻とり來り、是を按排して、酒のみて樂みける、〈○下略〉

蛇事蹟

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 速須佐之男命、〈○中略〉降出雲國之肥〈上〉河上在鳥髮地、〈○中略〉老夫與老女二人在、而童女置中而泣、爾問賜之汝等者誰、故其老夫答言、僕者國神、大山〈上〉津見神之子焉、僕名謂足〈上〉名椎、妻名謂手〈上〉名椎、女名謂櫛名田比賣、亦問汝哭由者何、答白言、我之女者、自本在八稚女、是高志之八俣遠呂智(○○○○○○○○)〈此三字以音〉毎年來喫、今其可來時故泣、爾問其形如何、答白、彼目如赤加賀智而、身一有八頭八尾、亦其身生蘿及檜榅、其長度谿八谷峽八尾而、見其腹者、悉常血爛也、〈此謂赤加賀知者、今酸醬者也、〉爾速須佐之男命、〈○中略〉吿其足名椎、手名椎神、汝等釀八鹽折之酒、且作廻垣、於其垣八門、毎門結八佐受岐、〈此三字以音〉毎其佐受岐酒船而、毎般盛其八鹽折酒而待、故隨吿而、如此設備待之時、其八俣遠呂智、信如言來、乃毎船垂入己頭、飮其酒、於是飮醉、留〈○留原本作死由、據眞福寺本改、〉伏寢、爾速須佐之男命、拔其所御佩之十拳劒、切散其蛇者、肥河變血而流、故切其中尾時、御刀之刃毀、爾思怪以御刀之前刺割而見者、在都牟刈之大刀、故取此大刀、思異物而、白上於天照大御神也、是者草那藝之大刀也、〈那藝二字以音〉

〔古事記傳〕

〈九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 八俣遠呂智(ヤマタヲロチ)〈八俣之と之を添へて訓ムはわろし○中略〉八俣は、次に身一有八頭八尾と云るこれなり、卽書紀に頭尾各有八岐とあり、遠呂智は書紀に大蛇と書り、和名抄に、蛇和名倍美、一去、久知奈波、日本紀私記云、乎呂知とあり、〈今俗に、小く尋常なるを久知奈波(クチナハ)と云ヒやゝ大なるを幣毘(ヘビ)と云ヒなほ大なるを宇婆婆美(ウハバミ)と云ヒきはめて大なるを、蛇(ヂヤ)と云なり、遠呂智とは俗に蛇と云フばかりなるをぞ云けむ、〉名義、尾於杼呂智(ヲオドロチ)にて、尾のおどろ〳〵しきを云なるべし、於杼呂(オドロ)は棘(オドロ)、〈字鏡に藪ハ於止呂、〉驚などゝ同言なり、さてその於(オ)は、遠(ヲ)の韻にある故に省軋〈○註略〉又遠杼(ヲド)は遠(ヲ)と切(ツヾマ)ればなり、そも〳〵此蛇は上なき靈劒を尾ノ中にしも含持れば、其威靈にて、餘所よりも、尾は殊にいかめしくおどろ〳〵しかりけむ、故レ尾を以て名に負せしなるべし、智は例の稱名なり、〈○中略〉蛟(ミヅチ)などの知も同じ、

〔古事記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 御祖命吿子云、可向須佐能男命所座之根堅洲國、必其大神議也、故隨詔命、而參到須佐之男命之御所者、其女須勢理毘賣出見、爲目合而相婚、還入白其父言、甚麗神來、爾其大神出見、而貴此者謂之葦原色許男、卽喚入而令其蛇室(○○)、於是其妻須勢理毘賣命、以蛇比禮(○○○)〈二字以音〉授其夫云、其蛇將咋以此比禮三擧打撥、故如敎者、蛇自靜、故平寢出之、

〔日本書紀〕

〈七/景行〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 四十年十月是歲、〈○中略〉日本武尊更還於尾張、〈○中略〉於是聞近江膽吹山有荒神、卽解劒置於宮簀媛家、而徒行之、至膽吹山、山神化大虵道、爰日本武尊、不主神化一レ虵之、謂是大虵必荒神之使也、旣得主神、其使者豈足求乎、因跨虵猶行、時山神之興雲零氷、峯霧谷暿、無復可行之路、乃棲遑不其所跋渉、然凌霧强行、方僅得出、猶失意如醉、因居山下之泉側、乃飮其水而醒之、〈○下略〉

〔日本書紀〕

〈十一/仁德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 五十五年、蝦夷叛之、遣田道擊、則爲蝦夷敗、以死于伊寺水門、〈○中略〉是後蝦夷亦襲之略人民、因以掘田道墓、則有大虵發、瞋目自墓出、以咋蝦夷、悉被虵毒而多死亡、唯一二人得免耳、故時人云、田道雖旣亡遂報讎、何死人之無知耶、

〔日本書紀〕

〈十四/雄略〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 七年七月丙子、天皇詔少子部連蝶臝曰、朕欲三諸岳神之形、〈○註略〉汝膂力過人、自行 捉來、蝶、臝答曰、試往捉之、乃登三諸岳、捉取大虵示天皇、天皇不齊戒、其雷虺虺、目精赫赫、天皇畏蔽目不見、刧入殿中、使於岳、仍改賜名爲雷、

〔日本書紀〕

〈三十/持統〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 朱鳥元年潤十二月、是歲、虵犬相交(ヲロチトトツルメリ)、俄而倶死、

〔常陸風土記〕

〈行方郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 古老曰、石村玉穗宮大八洲所馭天皇〈○繼體〉之世、有人箭括氏麻多智(ヤハズウシマタチ)點自郡西谷之葦原、墾闢新治田、此時夜刀(ヤド/○○)ノ神(カミ/○)、相群引率、悉盡到來、左右防障、令耕佃、〈俗曰、謂蛇爲夜刀(ヤト)ノ神、其形蛇身頭角、率紀免、難時有見人者、破滅家門、子孫不繼、凡此郡側、郊原甚多所住之、〉於是麻多智(マタチ)、大起怒情、著被甲鎧之自身執仗、打殺驅逐、乃至山口、標杭置堺堀、吿夜刀(ヤド)ノ神日、自此以上、聽神地、自此以下、須人田、自今以後、吾爲神祝、永代敬祭、冀勿崇勿恨、設社初祭者、卽還發耕田一十町餘、麻多智子孫相承致祭、至今不絶、其後至難波長柄豐前大宮臨軒天皇〈○孝德〉之世、壬生(ミブ)ノ連麻呂(ムラジマロ)、初占其谷、令池堤、時夜刀神、昇集池邊之椎樹、經時不去、於是麻呂擧聲大言、令此池、要在民、何神誰祗、不風化、卽令役民曰、目見雜物魚虫之類、無憚懼隨盡打殺言了、應時神蛇避隱、所謂其池、今號椎ノ井也、池面椎株、淸泉所出、取池、卽向香島陸之驛道也、

〔日本靈異記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037雷之喜子强力子緣第三
昔敏達天皇〈是磐余譯語田宮食國淳名倉太玉敷命也〉御世、尾張國阿育知郡片蕝里有一農夫、作田引水之時、小細雨降、故隱木本https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/00000001965c.gif 金杖而立、時雷鳴、卽恐擎金杖而立、卽雷墮於彼人前、雷成小子而隨伏、汝何報、雷答言也、寄於汝、令子而報、爲我作楠船水、泛竹葉而賜、卽如雷言作備而與、時雷言近依避卽靉霧登天、然後所産兒之頭纒虵二遍、首尾垂後而生長大、年十有餘頃、聞之朝庭有力人、念試之來於大宮邊居、爾時王有力秀當時、住大宮東北角之於別院、彼東北角有方八尺石、力王自住處出取其石而投、卽入住處門、他人不出入、小子規念、名聞力(ヘシ)人者是也、夜不人、取其石而投益一尺、力王見之、手https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01557.gif 攅取石而投、從常不投益、小子亦二尺投益、〈○中略〉小子作於元興僧之童子、〈○中略〉童子作優婆塞、猶住元興寺、其寺作田引水、諸王等妨不水、田燒亡時、優婆塞言、吾引田水、衆僧聽之、故十餘人可荷作鋤 柄使持也、優婆塞彼持鋤柄杖而往、立水門口而居、諸王等鋤柄引棄、塞水門口而不寺田、優婆塞亦取百餘人引石、塞於水門於寺田、王等恐乎優婆塞之力、而終不犯故寺田不渴而能得之、故寺衆僧聽令得度出家、名號道場法師、後世人傳謂、元興寺道場法師强力多有是也、當知誠先世强修能緣感之力也、〈○下略〉

〔日本後紀〕

〈二十四/嵯峨〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 弘仁六年六月癸亥、山城國乙訓郡物集國背兩郷、雷風壞百姓廬舍、人或被震死、先是有大蛇人屋、卽殺之、未幾其人被震、

〔三代實錄〕

〈十九/淸和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 貞觀十三年五月十六日辛酉、先是出羽國司言、從三位勳五等大物忌神証、在飽海郡山上、巖石壁立、人疏(アト)稀到、夏冬戴雪、禿無草木、去四月八日、山上有火燒土石、又有聲如雷、自山所出之河泥水泛溢、其色靑黑、臭氣充滿、人不聞、死魚多浮、擁塞不流、有兩大蛇、長十許丈(○○○○)、相流出入於海口、小蛇隨者、不其數、緣河苗稼流損者多、或染濁水臭氣、朽而不生、聞於古老、未嘗有此之異、但弘仁年中見火、其後不幾、有兵仗、〈○下略〉

〔三代實錄〕

〈二十一/淸和〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 貞觀十四年五月卅日己亥、駿河國國分寺別堂有大蛇、呑般若心經三十一卷、復爲一軸、觀者以繩結蛇尾、倒懸樹上、小選吐經、蛇落地半死、俄而更生、

〔今昔物語〕

〈十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038佛物餅酒見虵語第廿一
今昔、北叡ノ山ニ有ケル僧ノ山ニテ指ル事无カリケレバ、山ヲ去リ本ノ生土攝津ノ國ノ郡ニ行テ、妻ナド儲テ有ケル程ニ、其ノ郷ニ自然ラ法事ナド行ヒ佛經ナド供養スルニ、〈○中略〉此ノ僧ヲ導師ニシケリ、其行ヒノ餅ヲ此ノ僧多ク得タリ、人ニモ不與テ、家ニ取置タリケルヲ、此ノ僧ノ妻、此ノ多ノ餅ヲ无益ニ乎共ニモ從者共ニモ食セムヨリハ、〈○中略〉酒ニ造ラバヤト思ヒ得テ、夫ノ僧ニ此ナム思ト云ケレパ、僧糸吉カリナムト云合テ、酒ニ造リケリ、其後久ク有テ、其ノ酒出來タラムト思フ程ニ、妻行テ、其酒造タル壼ノ蓋ヲ開テ見ルニ、壼ノ内ニ動ク樣ニ見ユ、怪ト思フニ暗 テ不見エネバ、火ヲ燈シテ壼ノ内ニ指入テ見ルニ、壼ノ内ニ大ナル少サキ虵一壼頭ヲ指上テ蠢キ合タリ、穴怖シ、此ハ何ニト云テ、蓋ヲ覆テ逃ゲ去ヌ、夫ニ此ノ由ヲ語ルニ、夫奇異キ事カナ、若シ妻ノ僻目カト、我レ行テ見ムト思テ、火ヲ燃シテ壼ノ内ニ指入テ臨クニ、實ニ多ク虵有テ蠢ク、然レバ夫モ愕キ去ヌ、然テ壼ニ蓋ヲ覆テ壼乍ラ遠ク弃ムト云テ、搔出テ遠キ所ニ持行テ、廣キ野ノ有ケルニ竊ニ弃ツ、其ノ後一兩日ヲ經テ、男三人其ノ酒ノ壼弃タル側ヲ過ケルニ、此壼ヲ見付テ、彼レハ何ゾノ壼ゾト云フ、〈○中略〉世ニ不似ヌ美キ酒ニテ有ケレバ、三人指合テ、吉ク呑テムト云テ、大ナル壼也ケレバ、其ノ酒多力リケルヲ指荷テ、家ニ持行テ、日來置テ呑ケルニ、更ニ事无カリケリ、〈○中略〉此レヲ思フニ佛物ハ量无ク罪重キ物也ケリ、現ニ虵ト見エテ蠢キケム、極テ難有ク希有ノ事也〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈二十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 相撲人海恒世會虵試力語第廿二
今昔、丹後ノ國ニ、海ノ恒世ト云右ノ相撲人有ケリ、其ノ恒世ガ住ケル家ノ傍ニ、舊河有ケルガ、深キ淵ニテ有ケル所ニ、夏比恒世、其ノ舊河ノ汀近ク、木景ノ有ケルニ、帷計ヲ著テ、中結テ足駄ヲ履テ、拐杖ト云物ヲ突テ、小童一人計ヲ共ニ具シテ、此彼冷ニ行ケル次デニ、其ノ淵ノ傍ノ木ノ下ニ行ケリ、淵靑ク怖シ氣ニ底モ不見エ、葦ヤ薦ナド生タリケルヲ見テ立リケルニ、淵ノ彼方ノ岸ノ、三丈計ハ去タラント見ユルニ、水ノミナギリテ此方樣ニ來ケレバ、恒世何ノ爲ルニカ有ラント思テ見ル程ニ、此方ノ汀近ク成テ、大ナル虵ノ、水ヨリ頭ヲ指出タリケレバ、恒世此レヲ見テ、此ノ虵ノ頭ノ程ヲ見ルニ大キナランカシ、此方樣ニ上ランズルニヤ有ラムト見立リケル程ニ、虵ノ貌ヲ指出テ、暫ク恒世ヲ守ケレバ、恒世我ヲ此ノ虵ハ何カニ思フニカト思テ、汀四五尺計去テ、不動テ立テ見ケレバ、虵暫計守リテ、頭ヲ水ニ引入テケリ、其後彼方ノ岸樣ニ、水ミナギルト見ル程ニ、亦卽チ此方樣ニ水浪立テ來ル、其後馳ノ尾ヲ水ヨリ指シ上テ、恒世ガ立テル方樣ニ指寄セケ ル、此虵思フ樣ノ有ルニコソ有ケレト思ヒテ、任セテ見立テルニ、虵ノ尾ヲ指シ遣テ、恒世ガ足ヲ三返計纒テケリ、何ニセント爲ルニカ有ラント思ヒ立テル程、纒ヒ得テキシ〳〵ト引ケレバ、早ウ我ヲ河ニ引入レムト爲ルニコソ有ケレト思テ、其ノ時ニ踏强メテ立テルニ、極ク强ク引ト思エケルニ、履タル足駄ノ齒踏折ツ、被引倒ヌベシト思ケルヲ構テ、踏直リテ立テルニ、强ク引ト云ヘバ愚也トヤ、被引取ヌベク思エケルヲ、力ヲ發シテ足ヲ强ク踏立テケレバ、固キ土ニ五六寸計、足ヲ踏入テ立テルニ、吉ク强ク引ク也ケリト思程ニ繩ナドノ切ルヽ樣ニ、フツト切ルヽマヽニ、河ノ中ニ血浮ビ出ル樣ニ見エケレバ、早ウ切レヌル也ト思テ、足ヲ引ケレバ、虵ノ切引サレテ陸ニ上ニケリ、其ノ時ニ足ニ纒ヒタル尾ヲ引キホドキテ、足ヲ水ニ洗ヒケレドモ、其虵ノ卷タリツル跡不失ザリケリ、而ル間從者共數來ケリ、酒ヲ以テ其ノ跡ヲ可洗フト人云へリケレバ、忽ニ酒取リニ遣テ洗ヒナドシテ後、從者共ヲ以テ、其ノ虵ノ尾ノ方ヲ引上テ見ケレバ、大キ也ト云ヘバ愚也、切口ノ大サ一尺計リ有ツラントゾ見エケル、頭ノ方ノ切口見セニ、河ノ彼方ニ遣タリケレバ、岸ニ大キナル木根ノ有ケルニ、虵ノ頭ヲ數返纒テ、尾ヲ指遣セテ先ヅ足ヲ纒テ、引キケル也ケリ、其レニ虵ノカノ、恒世ニ劣テ中ヨり切レニケルナリ、我身ノ切ルヽモ不知引ケム虵ノ心ハ奇異シキ事也カシ、其後馳ノカノ程、人何ラ計ノ力ニ力有ケルト試ムト思テ、大キナル繩ヲ以テ虵ノ卷タリケル樣ニ、恒世ガ足ニ付テ、人十人計ヲ付テ引セケレドモ、尚彼レ計ハ无シトテ、三人寄セ五人寄セナド付ツ引セタレドモ、尚不足ト云テ、六十人計リ懸リテ引ケル時ニナム、此ク計ゾ思エシト恒世云ケリ、此ヲ思フニ、恒世ガ力ハ百人計ガ力ヲ持タリケルトナム思ユル、此レ希有ノ事也、昔ハ此ル力有ル相撲人モ有ケリトナム、語リ傳ヘタルトヤ、

〔日本紀略〕

〈八/花山〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 寬和元年六月廿九日壬寅、軒廊御ト、出羽國言上虵吠(○○)事

〔太平記〕

〈劒卷〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 爲義〈○源〉ガ傳へ持タルニノ劒、終夜吼ユ、鬼切吼タル音ハ、師子ノ音ニ似タリ、蛛切ガ 吠タル音ハ、蛇ノ泣ニ似タリ(○○○○○○○)、故ニ鬼丸ヲバ師子ノ子ト改名シ、蛛切ヲバ吼丸トゾ號シケル、

〔古今著聞集〕

〈十七/怪異〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 延長八年七月十五日とりの時におほき成流星、東北をさして引けるが、その跡化して雲となりにけり、同廿日くろき雲にして南より來りて、龍尾壇をおほふ、すなはち風吹て、大じやの五六丈ばかりなるおちかゝりて、高欄やぶれにけれど、蛇は見へざりけり、

〔大鏡〕

〈六/右大臣道兼〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 この粟田殿〈○道兼〉の御男君達三人ぞおはせしが、太郎君は福足君と申しゝを、おさなき人はさのみこそはと思へど、いとあさましくまさなく恐しくぞおはせし、〈○中略〉この君人しもこそゐれ蛇(くちなは)れうじ給ひて、そのたゝりにより、かしらに物はれてうせ給ひにき、

〔百練抄〕

〈四/一條〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 寬弘三年七月三日、諸卿於御前、定申諸道勘申神鏡可鑄改哉否事、定間三尺餘蛇自御在所庇庭中、登南殿北階、赴西不見、可神不一レ非禮

〔古今著聞集〕

〈七/術道〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 御堂關白殿〈○道長〉御物忌に、解脱寺僧正觀修、陰陽師晴明、醫師忠明、武士義家朝臣〈○義家與道長世、此名恐有誤、〉參籠して侍けるに、五月一日、南都より早瓜を奉たりけるに、御物忌の中に取入られん事いかゞあるべきとて、晴明にうらなはせられければ、晴明うらなひて、一つの瓜に毒氣さぶらふよしを申て一を取出したり、加持せられば毒氣顯れ侍べしと申ければ、僧正に仰て加持せらるゝに、しばし念誦の間にそのうちはたらきうごきけり、其時忠明に毒氣治すべきよし仰られば、瓜を取まはし〳〵見て二所に針を立てけり、其後瓜はだらかず成にけり、義家に仰て瓜をわらせられければ、腰刀をぬきてわりたれば、中に小蛇わだかまりて有けり、針は蛇の左右の眼に立たりけり、義家何となく中をわると見へつれども、蛇の頭を切たりけり、名をえたる人人のふるまひかくのごとし、ゆゝしかりける事也、この事いづれの日記にみえたりといふ事をしらね共、普く申傳へて侍り、

〔扶桑略記〕

〈二十九/後冷泉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 康平八年五月廿一日庚辰、台嶽僧侶等、群集賀茂社、爲祈雨讀仁王經、爰有小蛇、 於寶殿前、吐出水氣、不時刻、雨脚少降、〈○下略〉

〔百練抄〕

〈八/高倉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 嘉應元年三月廿六日、近日淸水寺瀧水枯失、去正月、自瀧上虵百許出來、占求之處、山崩瀧渴歟云々、今亦如此、爲奇、

〔十訓抄〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 伶人助元府役懈怠の事によりて、左近府の下倉に召籠らる、此下倉〈○古事談作https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01558.gif 〉には、蛇蝎のすむなる物をと恐をなすところに、夜中ばかりに大蛇案の如く來れり、頭は祇園の獅子に似たり、眼はかなまりのごとくにて、三尺ばかりなる舌さし出て、大口をあきて、旣にのまんとす、助元魂失ながら、わなゝく〳〵腰なる笛をぬき出、還城樂の破を吹、大蛇來りとゞまりて、頭を高くもたげて、しばらく笛を聞けしきにて、返り去にけり、

〔源平盛衰記〕

〈十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 小松大臣情事
小松〈○平重盛〉大臣、中宮ノ御方へ被申ベキ事有テ被參タリケルガ、仁壽殿ニ候ハレテ、帥典侍殿ト申女房ト暫シ對面有ケルニ、良アリテ帥典侍殿ノ左ノ袴ノスソヨリ大ナル蛇ハイ出テ、重盛ノ右ノ膝ノ下ヘハイ入ケリ、大臣コレヲ見給、我サハヒデ立ナラバ、中宮モ御騒有ベキ、帥典侍殿モ驚給ベシ、此事旁惡力リナント推、シヅメ給テ、左ノ手ニテ、蛇ノ頭ヲヲサへ、右ノ手ニテ、尾ヲ押ヘテ、六位參レト召ケレバ、伊豆守其時ハ、未藏人所ニ候ケルガ、指出タリケルニ、是ハ何ト被仰タレバ、見候トテ、ツトヨリ、布衣ノ袖ヲ打覆テ罷出テ、御倉町ノ前ニ出テ、人ヤ候、參レト呼ケレバ小舍人參タリ、是賜テイヅクニモ捨ヨトテ、差出シタレバ、一目見テ、赤面シテ逃歸リヌ、郎等省ニ賜タレバ、不恐蛇ノ頭ヲ取テ、大路ニ出テ、打振テ捨タレバ、蛇卽死ケリ、翌日ニ小松殿、自筆ニテ御文アリ、昨日ノ御振舞還城樂ト奉見候キ、雖異體候一匹一振令送進候トゾ有ケル、黑キ馬ノ七寸ニ餘テ、太逞シキニ、白覆輪ノ鞍置テ、厚房ノ鞦ヲ懸タリ、太刀ハ長覆輪也ケルヲ、錦ノ袋ニ入ラレタリ、優ニヤサシク見工ケル、仲綱御返事ニハ、御劒御馬謹拜領、御芳志之至、殊畏入候、抑去夜誠還城樂ノ 心地仕候キ、仲綱頓首謹言ト書タリケ、リ還城藥トハ、蛇ヲ取舞スナレバ、角問答有ケルコソ、〈○下略〉

〔吾妻鏡〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 建仁三年六月一日丁酉、將軍家○源賴家著御伊豆奧狩倉、而號伊東崎之山中有大洞、不其源遠、將軍恠之、巳刻遣和田平太胤長之、胤長擧火入彼穴、酉刻歸參申云、此穴行程數十里、暗兮不日光、有一大虵胤長之間、拔劒斬殺訖云云、

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 建保の比、北小路堀川邊の在家に女有けり、湯をわかして釜のまへに、火をたきて居たりけるに、三尺計成虵來、其かまのまへなるねずみの穴へ入にけり、女おそろしく思ひて、いかゞせましと思たる所に、隣なる女〈○中略〉何かおそれ給ふ、いとやすくしたゝめてん、其湯のにえたるを穴のくちにくみ入たまへ、さらばあつさにたへずしてはひ出なんと云、まことにとていふまゝ、にかへりたる湯を、穴の口にくみ入たりける程に、あんにたがはず虵出て、びりびりとひろめきてやがて死ぬ、かしこくをしへてん、さんなれ共いかゞはせんとてすてゝげり、其次日の未の時計に、其湯くみ入よとをしへつる女、俄に病出て、あらあつや〳〵とおめきいりくるめく事おびたゞし、〈○中略〉やがてとりころしてげり、〈○中略〉
後堀川院御位の時、所下人末重、丹波國桑原の御厨供御備進のためにくだりける時、くだんのみくりやに山あり、〈○中略〉或山ぶしの有ける一人同道して行たりけるに、件の山にはやを(○○○)といふ虵あり、長さ二丈あまり計也、かまくびをたてゝ、此二人の輩にかゝりて、大口をあきてのまんとしけり、〈○中略〉山ぶしはうち刀をぬきてむかふ、此時くちなはえよらでしゞかまりだりけり、〈○下略〉

〔吾妻鏡〕

〈三十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 嘉禎四年六月廿五日戊辰、雨降終日不休、丑刻大風霹靂洪水、人屋多破損、栂尾、淸瀧河邊蛇出云云、

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 渡邊に往年の堂あり、藥師堂とぞいふなる、源三左衞門かけるが先祖の氏寺也、つがふの馬ノ允が時、此堂を修理しけるに、もとこけらぶきにて有けるが、年久しくなりて、み な朽くさりて侍けるを、ふきかへんとて、うへを取やぶりて侍けるに、大なるくちなは有けり、何とかしたりけん、おほきなる釘に打付られて、年比はたらきもせで、かくてありける也、其時此堂建立の年記をかぞふれば、六十餘年になりにけり、その間かく打つけられながら生て有ける、命ながさ、おそろしき事也、其虵の有けるしたの裏板は、あぶらみがきなどをしたるやうにて、きらめきたりけり、〈○下略〉

〔沙石集〕

〈七下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 蛇害頓死事
下野ノ國或所ノ路ノ傍ニ大ナル木ノウツヲヨリ大蛇ノ頭ヲサシ出タルヲ見テ、或ル俗人何ニヲ見ルゾ、ニクキモノカナトテ、矢ヲヌキイダシテ、頸ヲツヨク木ニイツケテ、ウチステヽ行程ニ、大キナル沼ノホトリヲ打メグリテスギケルニ、水ノ上ニオヨグ者有、見レバ大蛇ノ一丈バカリナルガ、頸ニ矢タチテ、水ノ上ヲオヨギテ來ル、又マチウケテイコロシツ、サテ家へ歸リハテズ、ヤガテヤミクルヒ、種々ノ事ドモイヒテ、狂死ニ死ニケリ、

〔徒然草〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 龜山殿たてられんとて、地をひかれけるに、大きなるくちなは、數もしらずこりあつまりたる塚有けり、此所の神なりといひて、ことのよしを申ければ、いかゞ有べきと、勅問ありけるに、ふるくよりこの地をしめたる物ならば、さうなく堀すてられがたしと、皆人申されけるに、このおとゞ〈○藤原實基〉一人、王土におらん虫、皇居をたてられんに、何のたゝりをかなすべき、鬼神は邪なし、とがむべからず、たゞみな堀すつべしと申されたりければ、塚をくづして蛇をば大井川にながしてけり、更にたゝりなかりけり、

〔看聞日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 永享七年六月廿五日、抑養小鳥〈ウソ三ヒバ二〉入籠簾代之内ニ鈎、夜付寢時分、鳥共ふためく、南御方指燭を指て一見口繩(クチナハ)寵内ニ入、ウソ一呑畢、又ウソ一、ヒハ一死、言語道斷驚畏、雜男共參、口繩打殺畢、ウソ一、ヒハ一希有ニ生、自餘三ハ死畢、不便云々、口繩所行可恐々々、

〔義殘後覺〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 犬蛇淵をさる事
内藏助〈○佐々〉どの、越中を領し給ふ、くにの繁昌するやうにとおもひ給ひて、北ろくだうのみちをつくり給ふに、こゝにかいだうのなかばに、兩はうは山にて、ふかきふちあり、谷底なれば、見わたすところ、三十けんばかりもあるらんと思ふに、下は靑ふちにてなん〳〵とみえたり、これに大はしをかけて、往來の旅人をこゝろやすくとをさんとの給ふ所に、所の住人の申けるは、むかしより此淵には大じやのすみ候て、かならず一年には二人三人づゝとらぬとしは候はず、去によつて、しよこくのものきゝつたへに、このすぢをとをり申さぬよしを申あぐる、内藏助きゝ給ひて、〈○中略〉さらばいそぎのけんとて、このふちのはたにせいらうをあげて、石火矢をしかけ、人數をよせて、内藏助申されけるは、いかに淵の底なる大じや、ものをきけ、我このくにのあるじとして、この海道をこゝろやすく、ゆきゝのりよじんを、とをさんとおもふに、なんぢこのふちにありて、毎年人ゑをはむ事、きつくわいなり、いそぎこのふちを、いづちへもとく〳〵まかりのき候へ、のかずはあしかるべし、先手なみのほどをなんぢにみせんとて、石火矢を天地もうごくばかりに、ふちの底へうだせ給へば、ふちはさかなみたつてしんどうし、俄にきりをりてくらやみとなりけるが、たゞひとゝびにさほのしといふものに、たつみのかたへ十六七町とびて、山の尾さきへおちけるが、大地しんどうして、五十間四方なん〳〵としたる淵となつて、則是にすみにける、これよりもはしをかけて、こゝろやすくゆきゝをぞしたりける、まことにおびたゞしき大蛇といへど、道理にやをれたりけん、又石火矢におそれけん、ふしぎにぞ覺ける、

〔傍廂〕

〈前篇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 孩子蛇を殺す
昔我殿のしろしめしゝ、信濃國水内郡富竹村の農民、夫婦共に、田畑に耕作の爲に出でんとて、二歲なる男子をつぐらといへ、る藁器にいれて、鴨居につり置きて出で行き、午時にかへりて見れ ば、小兒はこゝちよげにあそび居たり、おろしみれば、徑一寸ばかり、長四尺もやあらん蛇をつかみて、ふりまはし遊び居たり、蛇はとくに死にたるさまなり、思ふに人のみぬ間に小兒の血吸はんとて、柱より上り、鴨居よりつたひて、つぐらに入りつるを何ごゝうなく、急所をつかみたるなり、首より三四寸下は、急所にて、うてば忽に死ぬるなり、小兒はさる事しらねど、全く産土神の守護し給ひしならんと、たふとくぞおもほゆる、

蛇雜載

〔日本書紀〕

〈五/崇神〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 十年、倭迹迹日百襲姫命爲大物主神之妻、然其神常晝不見、而夜來矣、倭迹迹姫命語夫曰、君常晝不見者、分明不其尊顏、願暫留之、明旦仰欲美麗之威儀、大神對曰、言理灼然、吾明旦入汝櫛笥而居、願無吾形、爰倭迹迹姫命心裏密異之、待明以見櫛笥、遂有美麗小蛇、其長大如衣細、則驚之叫啼、時大神有恥、忽化人形、謂其妻曰、汝不忍令吾、吾還令汝、仍踐大虚于御諸山、〈○下略〉

〔古事記〕

〈中/垂仁〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 爾其御子、〈○本牟智和氣御子〉一宿婚肥長比賣、故竊伺其美人者蛇也、卽見畏遁逃、爾其肥長比賣患、光海原船追來、故益見畏、以自山多和〈此二字以音〉引越御船、逃上行也、

〔常陸風土記那賀郡茨城里自此以北高丘、名曰哺時臥之山、古老曰、有兄妹二人、兄名努賀毗古、妹名努賀毗咩、時妹在室、有人不姓名、常就求婚、夜來晝去、遂成夫婦、一夕懷妊、至産月、終生小蛇、明若言、闇與母語、於是母伯驚奇、心挾神子、卽盛淨杯、設一レ壇安置、一夜之間、已滿杯中、更易瓫而置之、亦滿瓫内、如此三四、不敢用一レ器、母吿子曰、量汝器宇、自知神子、我屬之勢、不養長、宜父所在、不此者、時子哀泣、拭面答曰、謹承母命、無敢所一レ辭、然一身獨去、無人共去、望請矜副一小子、母曰、我家所有、母與伯父而已、是亦汝明所知、當無人可相從、爰子含恨、而事不吐之、臨決別時、不怒怨、欲殺伯父、而昇天、時母驚動、取瓫投之、觸神子昇因留此峯、所盛瓫甕、今存片岡之村、其子孫立社致祭、相續不絶、〕

〔日本靈異記〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 女人大虵所婚賴藥力命緣第卅一 河内國更荒郡馬甘里有富家、家有女子、大炊天皇世天平寶字三年己亥夏四月、其女子登桑揃葉、時有大虵於登女之桑而登、往路之人見示於孃、孃見驚落、虵亦副墮、纒之以婚、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01559.gif 迷而臥、父母見之、請召藥師、孃與虵倶載於同床、歸家置庭、燒穗ノ藁三束、三尺成束爲三束、合湯取汁三斗煮煎之二斗、猪毛十把剋末合汁、然當孃頭足橛懸釣、開口入汁、汁入一斗、乃虵放往、殺而棄、虵子白凝如蝦蟆子、猪毛立虵子身https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00478.gif 出五升許、口入二斗、虵子皆出、迷惑之孃乃醒言語、二親問之、答我意如夢、今醒如本、藥服如是、何謹不用、然經三年彼孃復虵所婚而死、〈○又見今昔物語二十四

〔源平盛衰記〕

〈三十三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1047 大神宮勅使附緖方三郎攻平家
昔日向國鹽田ト云所ニ、大太夫ト云德人アリ、一人ノ娘アリ、其名ヲ花ノ御本ト云、ミメコツガラ尋常也、〈○中略〉尾上ノ鹿ノ妻呼音痛マ敷壁ニスダク蟋蟀何歎クラント、最心細キ折節ニ、イヅクヨリ來ル其覺ズ、立烏https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00817.gif 子ニ、水色ノ狩衣著タル男ノ、廿四五ナルガ、田舍ノ者トモ覺ズ、タヲヤカナル貌ニテ、花御(ノ)本ガ傍ニ指寄テ、樣々物語シテ、〈○中略〉細々ト恨口説ケレバ、花御本流石岩木ナラネバ、終ニハ靡キケリ、〈○中略〉母此事ヲ聞、水色ノ狩衣ニ立烏https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00817.gif 子ハhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01560.gif (オボツカ)ナシ、〈○中略〉如何ニシテ、彼人ノ行末ヲ知ベキト、樣々計ケルニ、母ガ云、其人タベニ來リテ、曉還ルナルニ、注(シル)シヲサシテ、其行末ヲ尋ベシトテ、苧玉卷(ヲダマキ)ト針トヲ與テ、懇ニ娘ニ敎テ後園ノ家ニ歸ス、其夜又彼男來レリ、曉方ニ歸ケルニ、敎ヘノ如ク女針ヲ、小手卷ノ端ニ貫テ、男ノ狩衣ノ頸カミニ指テケリ、夜明テ後ニ角ト吿タレバ、親ノ鹽田大夫、子息家人四五十人引具シテ、糸ノ註シヲ尋行、誠ニ賤ガ苧玉卷百尋千尋ニ引ハヘテ、尾越谷越行程ニ、日向ト豐後トノ境ナル嫗嶽ト云山ニ、大ナル窟ノ中ヘゾ引入タル、彼穴ノ口ニテ立聞ケレバ、大ニ痛ミ吟ズル音アリ、是ヲ聞人、身ノ毛竪(ヨダチ)テ怖シ、父ガ敎へニ依テ、娘穴ノ口ニテ、糸ヲ、引カヘテ云ケルハ、抑此穴ノ底ニハ如何ナル者ノ侍ルゾ、又何事ヲ痛テ吟(ニヨウ)ゾト問バ、穴ノ中ニ答ケルハ、我ハ汝花御(ノ)本ガ許へ夜々通ツル者ナリ、可然契モ緣モ盡果、此曉ヲトガヒノ下ニ 針ヲ立ラレタリ、大事ノ疵ニテ痛ミ吟、我本身ハ大蛇ナリ、〈○中略〉形ニハ不似、ヲメ〳〵トシテ涙ヲ浮メテ、頭バカリヲ指出シタリ、女衣ヲ脱テ蛇ノ頭ニ打懸テ、自ラ頤ノ下ノハリヲヌク、大蛇悦デ申ケルハ、汝ガ腹ノ内ニ一人ノ男子宿セリ、〈○中略〉斯ル怖シキ者ノ種(タミ)子ナレバトテ、穴賢捨給フナ、我子孫ノ末マデモ可守護、必可繁昌、是ヲ最後ノ言バニテ大蛇穴ニ引入テ死ニケリ、〈○中略〉日數積ツテ月滿ヌ、花御本男子ヲ生、〈○中略〉此童ハ烏https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00817.gif 子著テ、皸大(アカヾリ)彌太ト云、大彌太ガ子ニ大彌次、其子ニ大六、其子ニ大七、其子ニ尾形三郎惟義ナレバ、大太ヨリ五代ノ孫ナリ、〈○下略〉

〔沙石集〕

〈七下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 繼女蛇欲合事
下總國ニ或者ノ妻十二三計ナル繼女ヲ、大ナル沼ノ畔ヘグシテ往テ、此沼ノ主ニ申、コノ女ヲ參セテ、ムコニシマイラセント、度々云ケリ、或時世間スサマジク風吹空曇レル時、又例ノヤウニイヒケリ、此女殊ニオソロシク、身ノ毛イヨダツ、沼ノ水浪タチ風アラクシテ見ヘケレバ、急家へ歸ニ、物ノオフ心チシケレバ、イヨ丶怖ナンド云計ナシ、サテ父ニトリツキテ、カヽル事ナン有ツルト、日ゴロノ事マデ語ル、サルホドニ母モ内ヘニゲ入ヌ、其後大ナル蛇キタリテ、頸ヲアゲ舌ヲ動シテ、此女ヲ見ル、父下郎ナレドモ、サカ〳〵シキ者ニテ、蛇ニ向テ、此女ハ我女也、母ハ繼母也、我ユルシナクテハ爭カトルベキ、母ガコトバニヨルベカラズ、妻ハ夫ニ從フコトナレバ、母ヲバ心ニマカス、トルベシトイフ時、蛇ムスメヲ打捨テ母ガカタヘハイユキヌ、ソノ時父コノ女ヲカイ具シテニゲヌ、コノ蛇母ニマトヒツキテ、物クルハシク成テ、旣ニ聞ヘキ、文永年中夏ノ比ノ事ト沙汰シキ、〈○中略〉
蛇之人之妻犯事
中比遠江國ノ或山里ニ、所ノ政所ナル俗有ケリ、サカ〳〵シキ者也ケリ、他行ノ隙ニ妻ヒル寢シテ久ク不驚、夫歸テ、ネヤへ入テ見レバ、五六尺バカリナル蛇、マトハリテ口サシ付テ臥タリ、杖ヲ 用テ打ハナチテ、申ケルハ、親ノ敵宿世ノ敵トイヒツレバ、子細ニ不及、殺害スベキナレドモ、今度バカリハ許ス、自今以後、カヽルヒガ事アラバ、命ヲタツベシトイヒテ、杖ニテスコシ打ナヤシテ、山ノ方ヘステツ、其後五六日有テ、家内ノ男女驚サハグ、何事ゾト問バ、蛇ノオビタヾシクアツマリ候ト云、主ナサワギソトテ、直垂キ、ヒモサシテ出居ニイタリ、一二尺ノ蛇カシラヲナラベテ、間モナク四方ヲカコミテ庭ノキハマデ來ル、サシマサリクル蛇、ツヾキテイク千萬トイフ數ヲ知ズ、ハテニハ一丈二三尺バカリナル蛇左右ニ五六尺バカリナル蛇十バカリ具シテ來ル、ミナ頭ヲアゲ、舌ヲウゴカス、オソロシナンド云計ナシ、女共ハ肝魂モナキ髏也、今ハカウニコソト思テ、アルジ申ケルハ、各何トシテ、カク聚リ給へルゾ、大カタ存知シガタク侍リ、一日女童部ガ晝眠シタリシヲ、蛇ノ犯シタル事侍リキ、マノアタリ見ツケテ侍シカバ、宿世ノカタキナル上ハ、命ヲタツベカリシヲ、慈悲ヲ以タスケテ、後ニカヽル事アラバ、命ヲタツベシトテ、杖ニテスコシ打ナヤシテ、捨タル事侍キ、此事ヲ各キヽ給テ、某ガ僻事トバシ思テ、オハシタルカ、人畜異ナリトイヘドモ、物ノ道理ハヨモカハリ侍ラジ、妻ヲオカサレテ、耻ガマシキ事ニアヒ、ナサケアリテ、イノチヲタスケナガラ、猶僻事ニ成テ、ヨコサマニ損ゼラレン事コソ、無慚ノ次第ニテ侍レ、此事冥衆三寶モ知見ヲタレ、天神地祇、梵王帝釋、四大天王、日月星宿モ御照覽有ベシ、一事モ虚誕ナシト、事ウルハシクカビツクロイテ、人ニ向テ申樣ニイヒケレバ、大蛇ヨリ始テ、頭ヲ一度ニサゲテ、大蛇ノソバニ居タル一日ノ件ノ蛇トオボシキヲ、一カミカミテ引返ル、コレヲ見テ、アラユル蛇、一口ヅヽカミテ、ミソ〳〵トカミナシテ、山ノ方ヘミナカクレテ後、スベテ別事ナカリケリ、

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 攝津國ふきやと云所に、下女ありけり、夏晝ねしたりけるに、家のたる木に、大成くちなはまとひ付てありけり、此女のうへにて尾をばたる木にまとひて、かしちをさげて、落かゝらんとしけるが、又ひきかへし〳〵する事、たび〳〵になりにけり、女が夫ふしぎのやう かなとおもひて、事のやうを見はてんと思ひて、追ものけずして、かくれよりのぞき居たり、かくたび〳〵しけれ共、いかにもおちかゝらざりければあやしくて、女をよりてみれば、かたびらのむねに大なる針をさしたりけるが、きら〳〵として見へけり、もしこれにおそるゝかと思て針をぬきて、又もとの所にてみるに、やがてくちなは落かゝりにけり、其ときよりて、打はなちつ、すなはち女おどろきて語りけるは、夢にもゐらず、うつゝにもあらで、うつくしきおとこの來て、われをけさうじつるを、なんぢきて追さまだげつるなりとぞいひける、

〔日本靈異記〕

〈中〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050慳貪大虵緣第卅八
聖武天皇御世、諾樂京馬庭山寺一僧常住、其僧臨命終時、吿弟子言、我死之後、至于三年、室戸莫開、然死後經七々日、在大毒虵、伏其室戸、弟子知因敎化、而開室戸之、錢卅貫隱藏也、取其錢以爲誦經、修善贈福矣、誠知貪錢因隱得大虵身、返護其錢也、

〔法華驗記〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 第百廿九紀伊國牟婁郡惡女
二沙門、一人年若、其形端正、一人年老、共詣熊野、至牟婁郡、宿路邊宅、其宅主寡婦、出兩三女從者、宿居二僧、致志勞養、爰家女夜半至若僧邊、覆衣並語僧言、我家從昔不宿他人、今夜借宿、非所由、從見始時交臥之志、仍所宿也、爲其本意進來也、僧大驚恠、起居語女言、日來精進、出立遙途、參向權現寶前、如何有此惡事哉、更不承引、女大恨怨、通夜抱僧擾亂戯笑、僧以種々詞語誘、參詣熊野、只兩三日、獻燈明御幣、還向之次可君情、作約東了、僅遁此事、參詣熊野、女人念僧還向日時、致種々儲相待、僧不來過行、女待煩僧、出路邊見往還人、有熊野出僧、女問僧曰、著其色衣若老二僧來否、僧云其二僧早還向、旣經兩三日、女聞此事、打手大瞋、還家入隔舍、籠居無音、卽成五尋大毒虵身、追此僧行、時人見此虵大怖畏、吿二僧言、有希有事、五尋許大虵、過山野走來、二僧聞了、定知此女成虵追我卽早馳去到道成寺、事由啓寺中虵害、諸僧集會、議計此事、取大鐘件僧籠居鐘内、令堂門時、大虵 追來道成寺、圍堂一兩度、則到僧戸、以尾叩扉數百遍、叩破扉戸、虵入堂内卷大鐘、以尾叩龍頭兩三時計、諸僧驚恠、開四面戸集見之恐歎、毒虵從兩眼血涙、出堂擧頸動舌指本方走去、諸僧見大鐘爲虵毒燒、炎火熾燃敢不上レ近、卽汲水浸大鐘炎熱、見僧悉皆燒盡、骸骨不殘、纔有灰塵矣、經數日之時、一﨟老僧夢、前大虵直來白老僧言、我是籠居鐘中僧也、遂爲惡女被一レ領成其夫、感弊惡身、今思苦、我力不及、我存生時、雖妙法、薫修年淺、未勝利、決定業所牽、遇此惡緣、今蒙聖人恩、欲此苦、殊發無緣大慈悲心、淸淨書寫法華經如來壽量品、爲我等二虵拔苦、非妙法力、爭得拔苦哉、就中爲彼惡女拔苦、當此善、虵宣此語卽以還去、聖人夢覺、卽發道心生死苦、手自書寫如來壽量品、捨衣鉢蓄、設施僧之營、屈請僧侶一日無差大會、爲二虵拔苦、供養旣了、其夜聖人夢、一僧一女面貌含喜、氣色安穩來道成寺、一心頂禮三寶及老僧、白言、依淸淨善、我等二人遠離邪道、趣向善趣、女生忉利天、僧昇兜率天、作是語了、各々相分向虚空而去、〈○又見今昔物語十四

〔吾妻鏡〕

〈四十九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 正元二年〈○文應元年〉十月十五日己酉、相州政村息女煩邪氣、今夕殊惱亂、爲比企判官女讃岐局靈祟之由及自詫云云、件局爲大虵、頂有大角、如火炎、常受苦、當時在比企谷土中之由發言、聞之人堅身毛云云、

〔沙石集〕

〈七下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051愛執蛇事
鎌倉ニ或人ノ女、若宮ノ僧坊ノ兒ヲ戀テ、病ニナリヌ、母ニカクトツゲシラセケレバ、彼ノ兒ガ父母モ知人ナリケルマヽニ、コノ由申合テ、時々兒ヲカヨハシケレドモ、心モナカリケルニヤ、疎クナリユクホドニ、ツイニ思死ニシニヌ、父母カナシミテ、カノ骨ヲ善光寺へ送ラントテ、箱ニ入テヲキテケリ、其後コノ兒又病付テ、大事ニ成テ、物狂ナリケレバ、一間ナル所ニオシコメテヲク、人ト物カタル聲シケルヲアヤシミテ、父母物ノヒマヨリ見ルニ、大ナル蛇トムカヒテ、物ヲイヒケルナルベシ、サテ終ニウセニケレバ、入棺シテ若宮ノ西ノ山ニテ葬スルニ、棺ノ中ニ大ナル蛇有 テ、兒トマトハリタリ、ヤガテ蛇ト共ニ葬シテケリ、カノ父母、女ガ骨ヲ善光寺へ送次ニ取分テ、鎌倉ノ有寺へ送ラントシテ見ケルニ、骨サナガラ小蛇ニ成タルモ有、ナカラバカリ成力ヽリタルモ有、此事ハ彼父母或僧ニ孝養シテタベトテ、アリノマヽニ語リケルトテ、タシカニ聞テ語リ侍キ、近キ事也、名モ承シカドモ、ハヾカリ有テシルサズ、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈二十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 加賀國諍虵蜈島行人助虵住島語第九
今昔、加賀ノ國郡ニ住ケル下衆七人、〈○中略〉釣シニ出レドモ、皆弓箭兵仗ヲナム具シタリケル、遙ノ沖ニ漕出デ、此方ノ岸モ不見程ニ、思モ不懸ニ、俄ニ荒キ風出來テ、澳ノ方へ吹持行ケバ、〈○中略〉行方ノ澳ニ離レタル大キナル島ヲ見付テ、〈○中略〉島ノ體ヲ見レバ、水ナド流出デ、生物ノ木ナドモ、有氣ニ見エケレバ、食ベキ物ナンドモヤ有ト見ト爲程ニ、年廿餘ハ有ント見ユル男ノ糸淸氣ナル歩ミ出タリ、〈○中略〉此男近ク寄來テ云ク、〈○中略〉其達ヲ迎ヘツル故ハ、此ヨリモ澳ノ方ニ亦島有、其ノ島ノ主ノ、我ヲ殺テ、此島ヲ領セントテ、常ニ來テ戰フヲ、我相構テ戰返シテ、此年來ハ過ス程、明日來テ、我毛人モ死生ヲ可決日ナレバ、我ヲ助ケヨト思テ、迎ツル也ト、釣人共ノ云ク、其來ン人ハ、何許ノ軍ヲ具シテ、船何ツ許ニ乘テ來ルゾ、身ニ不堪事ニ侍リトモ、此ク參ヌレバ、命ヲ棄テコソト、仰ニ隨ヒ侍ラメト、男此ヲ聞テ、喜デ云ク、來ラント爲ル敵モ、人ノ體ニハ非ズ、儲ケンズル我身モ、亦人ノ體ニハ非ズ、今明日見テン、先彼來テ島ニ、懸ラン程ニ、我ハ此上ヨリ下來ランズルヲ、前前ハ敵ヲ此瀧ノ前ニ不上シテ、此海際ニシテ、戰ヒ返スヲ、明日ハ其達ヲ强ク憑マンズレバ、彼レヲ上ニ登センズル也、彼ハ上ニ登テ、力ヲ得ベケレバ、喜デ登ラント爲ルヲ、暫ハ我ニ任セテ見ムニ、我難堪成バ、其達ニ目ヲ見合センズルヲ、其時ニ箭ノ有ン限リ可射也、努々愚ニ不爲、明日ノ巳時許ヨリ儀立テ、午時許ニゾ戰ハントスル、吉ク〳〵物ナド食テ、此巖ノ上ニ立ン、此ヨリゾ上ラン爲ルト、吉々敎へ置テ、奧樣ニ入ヌ、〈○中略〉而、声間、來ント云シ方ヲ見遣タレバ、風打吹テ、海ノ 面奇異ク怖シ氣也ト見程ニ、海ノ面ニ成テ、光ル樣ニ見ユ、其中ヨリ大キナル火ニツ出來タリ、何ナル事ニカト見程ニ、出來合ント云シ方ヲ見上タレバ、其モ山ノ氣色異ク怖シ氣ニ成テ、草靡キ木葉モ騒ギ、音高ク喤合タル中ヨリ、亦火二ツ出來タリ、澳ノ方ヨリ、近ク寄來ルヲ見レバ、蜈ノ十丈許アル游來ル、上ハニ光タリ、左右ノnanハ赤ク光タリ、上ヨリ見レバ同長サ許ナル虵ノ、臥長一抱許ナル下向フ、舌嘗ヅリヲシテ、向ヒ合タリ、彼モ此モ怖シ氣ナル事无限、實ニ云シガ如クニ、虵彼ガ可登程ヲ置テ頸ヲ差上テ立ルヲ見テ、蜈喜テ走上ヌ、互ニ目ヲ嗔ラカシテ守テ暫ク有、七人ノ釣人ハ敎シマヽニ、巖ノ上ニ登テ、箭ヲ番ツヽ、虵ニ眼ヲ懸テ立ル程ニ、蜈進テ走寄テ咋合ヌ、互ニヒシ〳〵ト咋フ程ニ、共ニ血肉ニ成ヌ、蜈ハ手多カル者ニテ、打ツヽ咋ハ、常ニ上手也、二時許咋フ程、虵少シ脱タル氣付テ、釣人共ノ方ニ目ヲ見遣セテ、疾射ヨト思タル氣色ナレバ、七人ノ者共寄テ、蜈ノ頭ヨリ始テ、尾ニ至マデ、箭ノ有ケル限皆射ル、弭本マデ不殘射立ツ、其後ハ太刀ヲ以テ、蜈ノ手ヲ切ケレバ、倒レ臥ニケリ、而レバ虵引離シテ去ヌレバ、彌ヨ蜈ア切殺テケリ、其時ニ虵テ返入ヌ、其後良久ウ有テ、有シ男片蹇テ極ク心地惡氣ニテ顏ナドモ缺テ、血打テ出來タリ、亦食物共持來テ、食セナドシテ、喜ブ事无限シ、蜈ヲバ切放チツヽ、山ノ木共ヲ伐懸テ燒テケリ、其灰骨ナドヲバ、遠ク棄テケリ、然テ男釣人共ニ云ク、我其達ノ御德ニ此島ヲ平カニ領セム事、極テ喜シ、此島ニハ田可作所多カリ、畠无量、生物ノ木員不知、然レバ事ニ觸テ便有島也、其達此島ニ來テ住メト思フヲ何ニカト、〈○中略〉七人ノ者共、皆本ノ家ニ返、彼島ニ行ント、云者ヲ皆倡具シテ、〈○中略〉七艘乍ラ島ニ渡リ著ニケリ、其後其七人ノ者共、其島ニ居テ、田畠ヲ作リ居弘マリテ、員不知人多ク成テ、今存也、〈○中略〉其島ハ能登國郡ニ大宮ト云所ニテゾ吉ク見ナル、晴タル日見遣レバ、離タル所ニテ、西南ニテ、靑ミ渡テゾ見ユナル、〈○下略〉

〔萬葉集抄〕

〈二上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 常陸風土記云、新治郡驛家名曰大神(オホカミミ)、所以然稱者、大蛇多在(オロチオホクアリ)、囚名驛家、云々、

〔明月記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 建仁二年五月四日丁未、近日頻幸神泉苑、其中被致獵之間、生取猪也、仍堀池苑多食虵、年年荒池、偏虵之棲也、今如此、神龍之心如何、尤可恐者歟、俗呼云、依此事炎早云々、

〔沙石集〕

〈八下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 執心之堅固由佛法﨟事
錢入タル瓶ノ中ニ小蛇ニ成テ有事、申傳タリ、執心妄念オソルベシ〳〵、

〔看聞日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 永享九年六月十二日、抑聞西岡有死蛇、谷底有頭、其尾廻山尾、及十六町云々、已成白骨、地下人堀取云々、十六町不審、若十六丈歟、實説不知、

蝘蜓

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 石龍子 一名蜥蜴〈楊玄操音上私歷反、下音https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01561.gif 、〉一名山龍子、一名守宮〈蘇敬注苹、常在屋壁、故以名之、〉一名石蜴、一名蛇醫母、〈黃色〉一名蛇舅母、一名龍子、〈長尾〉蝘蜒〈仁諝音上煙典反、下音彌、已上五名出陶景注、〉蛇師〈頭大尾短〉守宮、一名榮螈、一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01562.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01240.gif 〈音子力反〉一名壁宮、〈已上四名、出釋藥性、〉一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00895.gif 蜴、一名玄蚖、〈音元、出兼名苑、〉一名玄螈、一名綠螈、〈已上出古今注〉 和名、止加介(○○○)、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 蝘蜒 兼名苑云、蝘蜒〈偃殄二音〉一名蜥蜴〈析易二音、〉釋藥性云、一名蠑螈〈榮原二音〉本草云、龍子一名守宮、〈和名止加介〉蘇敬注云、常在屋壁、故名守宮也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 本草和名石龍子條云、一名https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00895.gif 蜴、一名玄蚖、出兼名苑、不此二名、蓋兼名苑本有是之名、而以本草有蜥蜴之名、陶注載蝘蜓、故輔仁不之也、按説文蝘字注、在壁曰蝘蜓(○○○○○)、在草曰蜥易(○○○○○)、是析言也、蜥字注、蜥易也、易字注云、蜥易蝘蜓、蝘蜓、守宮也、是混言也、兼名苑本之、依説文蜴从虫、俗字、那波本蜓誤蜒、〈○中略〉千金翼方、證類本草中品、皆作石龍子一名守宮、本草和名同、證類本草引陶蘇二注、竝無石字、然此引本草正文、則無石字者、蓋脱誤也、類聚名義抄、伊呂波字類抄引此亦無石字、今姑依舊、〈○中略〉訓度加介、依輔仁也、新撰字鏡、蛆https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01563.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01564.gif 同訓、按今俗在石間者、在草間者、竝呼登加計(○○○)、在屋壁者、呼也毛利(○○○)、在池澤中者、呼爲毛利(○○○)、源君引蘇注、則其所訓度加介(○○○)、卽今所謂也毛利也(○○○○○○○○)、度加介、卽戸蔭之義、謂好在戸陰也、今人度加介之名歸之在草石間者(○○○○○○○○○○○○○)、誤(○)也、爾雅蠑螈、蜥蜴、蝘蜓、守宮、四名一物、説文在壁曰蝘蝘、陶弘景曰、喜緣籬壁蝘蜓、方言注、守宮又呼蝘蜓、蝘蜓好在壁、 故亦名守宮也、是今俗所謂也毛利也、陶云、似蛇醫小形、長尾、見人不動、名龍子、今俗謂之度加介、陶云、小形而五色、尾靑碧可愛名蜥蜴、説文在草曰蜥易、今俗呼阿乎度加介(○○○○○)、嶺表錄異、全義嶺之西南有盤龍山、山有乳洞、斜貫一溪、號爲靈水溪、溪内有魚、皆修尾四足、丹其腹、游泳自若、漁人不敢捕一レ之、中山傳信錄、蜥蜴生水池中、紅腹有金光、是今俗呼爲毛利者也、

〔本朝食鑑〕

〈十二/華和異同〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 蜥蜴、蠑螈、蝘蜓、
李時珍曰、大抵是水旱二種(○○○○)、有山石(○○○)、草澤(○○)、屋壁三者之異(○○○○○○)、本經惟用石龍、後人但稱蜥蜴實一物也、且生山石間、與石龍山龍之名、相合草澤之蛇師、屋壁之蝘蜓、二物不用、必大按、此説自明矣、蛇師又名蛇醫蛇舅、卽是蠑螈也、然則蜥蜴者本邦之止加計(○○○○○○○○○)、蠑螈者本邦之伊毛利(○○○○○○○○○)、蝘蜓者本邦之也毛利(○○○○○○○○○)、此無疑焉、今細考之、有尋常庭園、之蜥蜴、與石間之龍子、其所以相分者、詳見于本條

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 蠑螈〈榮原二音 トカケ龍子、一名守宮、〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01565.gif 〈螢同音俗〉 蝘蜓〈偃殄二音、同訓、上、イモリ、〉

〔下學集〕

〈上/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 龍子(トカケ)

〔增補下學集〕

〈上二/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 蝘蜒(トカケ) 蜥蜴〈同上〉蠑螈〈同上〉

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 蜥蜴とかけ 畿内にてとかけ、東國にてかなへび(○○○○)又かまぎつてう(○○○○○○)、相摸にてかまきり(○○○○)、西國にてとかぎり(○○○○)、大和にてとかき(○○○)、江戸にてはとかげ(○○○)と、けの字を濁りてよぶ、一種靑とかけ(○○○○)と云有、背靑みどりにして光リ有、縱斑の文有、腹白く口大イ也、是毒蟲なり、

〔本朝食鑑〕

〈十二/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 蜥蜴〈訓止加介、東俗訓加麻木豆知也宇、〉
釋名〈源順和名、以蝘蜓、蜥蜴、蠑螈、石龍子、守宮、倂訓止加介、必大按、以此數名一類、則恐有謬矣、詳見異同、今以蜥蜴止加介、石龍子別一種、〉
集解、蜥蜴在于庭園草石之間、或上堦砌、度牆壁、見人似懼、漸漸而去、頭方腹圓、肥形細七八寸、大者尺許、尾長四足、灰褐色有光、頭角兩端有靑白條、及背亦有、性有毒、其交靑翠色者、全紺靑色者、呼稱靑蜥蜴(○○○)、最多毒、自古毒于人者、采而收貯之、以靑者上、又有雙尾者、言是毒最甚、一種在山中石間者、山 龍子、石龍子、石蜥蜴也、狀似蜥蜴、而頭扁腹大、細鱗紋、金碧色、其五色全備者爲雄、今甲信之深山石間多蜥蜴、其中希有石龍子、然其長者不七八寸、予近於藥肆、見有華之石龍子、長三尺餘、大如https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01566.gif 、若斯者、本邦未之、故價貴難得、以彼入耆婆萬病圓中、則功驗十倍爾、〈○下略〉

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 蜥蜴蜡(とかげ) 石龍子 石蜴 山龍子 泉龍 豬婆蛇〈俗〉 和名止加介〈○中略〉按蜥蜴有數種、無骨易斷、小兒戯輕敲、則斷爲二三、其頭走、尾紆曲、如活者、其大四五寸、不七八寸、大抵黃褐色、而背有靑白色縱斑、頭微尖尾長、去足乃似奈久曾蛇而頷赤、此常蜥蜴也、狀相似而色有濃淡之異者多、〈○中略〉
蛤蚧(あをとかけ) 蛤蠏 僊蟾 嶺南人呼蛙爲蛤、因其首如一レ蛙名之、 俗云靑止加介(○○○○)〈○中略〉
按、蛤蚧〈俗云靑蜥蝪〉小者三四寸、大者七八寸、背靑綠色、而光有縱斑文、腹白口大、又有靑綠光而無襍色、雌雄抱負人捕之、則鳴如蚧(キヤイ)、最有毒、猫食之嘔吐煩悶、人誤煑食之毒至死者、今人恐不藥入用、其尾脆易斷、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下龍〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 石龍子 トカケ〈和名鈔、備前、京、〉 トカゲ〈江戸、水戸、佐州、〉 トカキ〈京○中略〉
夏月人家墻壁砌石ノ邊ニ徐行シ、人ヲ見テ驚カズ、人ヲ螫サズ、形蛇ニ而小ク、四足長尾アリテ、體ニ細鱗アリ、長サ六七寸ニシテ肥エ、茶褐色光アリ、一種瘠小クシテ、長サニ三寸、靑色ヲ帶ビ、尾最靑碧色ナル者ヲ、俗ニアヲトカキ(○○○○○)ト呼ブ、皆雌雄アリ、倶ニ尾甚脆シ、若人ニ擊タルレバ便チ斷ズ、一種山野草莽中ニ居リ、人ヲ見レバ甚恐レ走ルモノヲ、 シヽムシ(○○○○)ト云、一名シヽムシヤウ(○○○○○○)、〈筑前〉カナキチヨ(○○○○○)、〈仙臺〉 形守宮(ヤモリ)ニ似テ、瘠長サ六寸許、灰色、或ハ褐色ニシテ、背ニ黑條一道アリ、脇ニ黑斑アリ、四足ニ五指アリ、是蛇舅母ナリ、時珍生章澤間者ト云へル草間トハ、此蟲ヲ指スナリ、本草原始ニ、形大純黑者爲蛇醫、不藥用ト云、一種止水淺井中ニ生ジ、形守宮ニ似テ、色深黑、腹赤ク尾扁ナルモノヲ、イモリ(○○○)ト云、古名ノイモリニ非ズ、日州ニテイモラヒ(○○○○)ト呼ブ、是水蜥蜴、蠑螈ナリ、時 珍生草澤間ト云へル澤間トハ、此蟲ヲ指スナリ、守宮ノ條ニ方言ヲ引テ、在澤中者謂之蜥蜴、楚人謂之蠑螈ト云、中山傳信錄ニ、蜥蜴生水池中、紅腹背有金光ト云、皆イモリナリ、蜥蜴ハ石龍子ト同名ナリ、一名龍盆魚、〈北戸錄〉龍盤魚、〈物理小識〉石龍子、蛇醫、蠑螈、守宮、皆四足アリテ混ジヤスシ、爾雅ニハ一物トス、李時珍ノ分別ヲ優レリトス、謝肇淛ノ説ハ宜カラズ、

守宮

〔下學集〕

〈上/氣形〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 守宮(イモリ)〈本名蜥蝪也、取蜥蜴、飼以丹砂、體盡赤時、搗之塗宮女之臂、若有婬犯、則其血消滅、故守宮也、○下略〉

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 守宮(イモリ/ヤモリ) 本草龍類ニ載タリ、國俗ニヤモリト云、カベニヲル蟲也、〈○中略〉此血ヲ婦人ノ身ニヌレバヲチズ、婬事アレバヲツルト云、此故ニ宮中ヲ守ルト云意ヲ以、守宮ト名ヅク、此事淮南子博物志、幷ニ顏師古ガ説ニ出ヅ、右ノ二書ニ用之法アリ、各カハレリ、本邦ニモ、是ニヨツテ古ヨリイモリノシルシト云へリ、〈○下略〉

〔本朝食鑑〕

〈十二/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 蝘蜓〈訓也毛利(○○○)
釋名、守宮、〈源順訓止加介、必大按、今之也毛里也、〉
集解、狀似蜥蝪、而短肥灰黑色、扁首長頸、眼大有光、背有細鱗文、四足身長不六七寸、毎在屋壁障屛窻戸之間、故宮廢宅尤多、而不人、不人、反首瞰人而去、能捕蝎蠅而食、江東諸州未之、京師五畿及海西諸州有之、凡蠑螈、蝘蜓、亦有毒、而未之者也、

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 守宮(やもり) 蝘蜓 壁宮 壁虎 蝎虎 俗云也毛利、宮守之上略、〈○中略〉
按古者貴賎所居皆稱宮、至秦乃定爲至尊所居之稱矣、守宮(ヤムリ)〈今云屋守〉蠑螈(イモリ)〈今云井守〉一類二種、而所在與色異耳、又守宮不多淫、相傳、蛙黽變爲守宮

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八/下龍〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 守宮 イモリ(○○○)〈古名〉 ヤモリ〈京○中略〉
夏月夜屋壁ニ居リ、或ハ木ニ緣リテ蟲ヲ採リ食フ、晝ハ伏シテ出デズ、形石龍子ノ如ク細鱗アリ、四足指頂圓ニシテ、蛤蚧ノ如シ、尾長ク脆ク斷ジヤスシ、色ハ灰黑ニシテ黑斑アリ、或ハ深ク、或ハ 淡シ、時ニ尾ヲ擧ゲ、旋轉シテ鳴ク、

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1058 避役(大いもり/○○) 十二時蟲
本綱〈客州交州〉生人家籬壁樹木間、守宮之類也、大小如指、狀同守宮、而腦上連背有肉鬣、如冠幘、長頸長足、身靑色、大者長尺許、尾與身等囓人不療、其首隨十二時色、見者主喜慶、又云不能變十二色、但黃褐靑赤四色而已、蓋是五色守宮焉、嘗云、守宮以朱飼之滿三斤殺乾末以塗女人身、有交接事便脱、不爾如赤誌之説、萬畢術博物志墨客揮犀皆有其法、大抵不眞、恐別有術矣、所謂守宮者恐此十二時蟲矣、至尋常守宮旣不臂、亦未人至死者也、

〔傍廂〕

〈後篇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1058 ゐもり やもり とかげ
和名抄に、蝘蜓、一名蜥蜴、一名蠑螈、本草云、龍子、一名守宮、〈和名止加介〉蘇敬注云、常在屋壁、故名守宮也とありて、ゐもり、やもりも、ひとつに擧げられたり、これをわけていへば、蝘蜓はゐもりにて、守宮はやもりにて、龍子はとかげなるべし、水中に在りて、堰埭の水を守る義にて、ゐもりといひ、家の籬壁の間に居るを、屋を守る義にて守宮といひ、草のかげ、石垣の間などに居るを、處蔭といふなるべし、今世男女の中の事につきて、水中のゐもりを黑燒に製するよしいへるは、據たがへるなるべし、陶弘景云、蝘蜓喜緣籬壁間、以朱飼之、滿三斤、殺乾末塗女人身、有交接事便脱、不爾如赤誌、故名守宮、三蟲ともに毒蟲にて似よりたるものながら、とかげは美麗に見えて、やもりはきたなげに見ゆるものなり、ゐもりは小魚と同じさまに、小兒もとらへて、小器の水中に飼ひ置く事あり、女の身にぬるは、今のやもりなるべし、

〔三養雜記〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1058 守宮の辨
ゐもり、やもりは、二蟲ノ名實を、ある人問けるにこたへて云、昔より守宮をゐもりに充れど的當ならず、漢書顏師古註に、守宮蟲名也、術家云、以器養之、食以丹砂、滿七斤、擣治滿杵、以點女人體、終身不 滅、若有房中之事卽滅矣、言可以防閑淫逸、故謂守宮也とあるによれば、今のやもりに充べし、その證は、守宮一名壁宮、また壁虎、蝎虎、蝘蜓ともいへり、陶弘景云、蝘蜓喜緣籬壁間、以朱飼之、滿三斤、殺乾末以塗女人身、有交接事便脱、不爾如赤誌、故名守宮とあり、この喜緣籬壁間といふにて、ゐもりにはあらで今いふやもりなること辨を待ずしてしらる、さてやもりといふ名は守宮の字によりて、みやもりの略語かともおもへど、さにはあらで、家をやといふこと常なれば、家に住よしにて家守の義あるべし、ゐもりは漢名ふるくは守宮にあつれど誤なり、近來物産家に、龍盤魚に充と、物理小識云、龍盤山乳洞、有金沙龍盤魚、皆四足脩尾丹腹、狀如守宮といふによるに、その名と實とあたれりやいなやをしらず、ゐもりといふ訓は、井守の義なり、井に住の意なり、

〔袖中抄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1059 井もりのしるし(○○○○○○○)
ぬぐくつのかさなることのかさなればゐもりのしるし今はあらじな
顯昭云、法華玄賛六云、守宮以血塗女人臂、必有私情、洗之不落、可以守一レ宮云々、 嘉祥法花義疏云、守宮者、嫉妬譬也、古人取此虫置箱内、以朱飮之令赤、若王行不在、刺取血題内 人臂、有私情者、血流入皮肉、可以守宮人、故以名之、博物志云、以器養之、食以朱沙、體盡赤、重七斤、擣 万杵、以點女人體、終身不滅、婬則點滅、故云守宮、漢武試之、有驗也、
今付之、案之、内傳には、婬すれば、うせずといひ、外典には婬すればうすといへり、すでに大に相 違歟、但嘉祥疏に婬すれば血流入皮肉といへる文にて、心えあはするに、内傳には皮肉にしづ みいればうせずと云ひ、外典には底にしづみてはだへのうへに見えねば、うすといへるか、
無名抄云、井もりといふ蟲は、ふるき井などに、とかげににて尾ながき蟲の、手足つきたる也、 これはもろこしの事なめり、爰には蟲はあれどするやうをしらねば、つくる事なし、とをき 所などへまかゐ時にかひなにつけつれば、あらひのごひなどすれど、おつる事なし、たゞお とこのあたりに、よるをりにおつるなめり
忘るなよたぶさにつけし蟲の色のあせなば人にいかにこたへむ、返し
あせぬとも我ぬりかへむもろこしのゐもりもまもるかぎりこそあれ、
ぬぐくつのかさなることのかさなればとよめるは、めのみそかごとするをりに、はきたる くつの、をのづからかさなりて、ぬぎをかるゝなり、さてかくはよめる也、〈○中略〉
私云、井もりを守宮といふ樣を、釋すれば、帝皇のあるき給とき、宮人の臂にぬるが故に、宮をまもるといへり、然ばたゞの人はいかゞすらん、

〔壒囊抄〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 イモリノシルシト云ハ、何事ゾ、
是和漢共沙汰アル事ナリ、イモリトハ、守宮共書ケリ、法華經ニモ侍べリ、其本ノ名ハ蜥蜴也、是ノ血ヲ取テ、宮人ノ臂等ニ塗事アリ、其蟲取蜥蜴、飼以丹砂、體盡赤時、搗之、其血ヲ宮女ノ臂ニ塗ニ、何ニ洗ヒ拭へ共、更ニ落ル事ナシ、然共有婬犯、其血則消失スルナリ、此ヲ以テ、敢テ不調ノ儀ナシ、仍守宮トハ云也、サレバ古詩ニモ
臂上守宮何日消 鹿葱花落涙如雨ト云リ、鹿葱ハ宜男草也、〈○下略〉

〔赤染衞門集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 又いひたる
むしのちをつぶして身にはつけずとも恩ひそめつる色なたがへそ
かへし
むしならぬ心をだにもつぶさでは何につけてかおもひそむべき

〔夫木和歌抄〕

〈二十七/守宮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 十題百首 寂蓮法師
ゐもりすむ山下水のあきの色はむすぶてにつくしるし也けり〈○中略〉
建保四年内裏十首歌合 二條院讃岐 うたがひしゐもりの跡はそれながら人の心のあせにけるかな
○按ズルニ、古ク守宮ヲ蝘蜓(トカゲ)及ビ龍盤魚ト相混ジ、其區別明カナラザルモノ多シ、宜シク各條 ヲ參看スベシ、

龍盤魚

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 蝘蜒〈上、井モリ(○○○)、〉

〔新撰字鏡〕

〈虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01567.gif 〈一全反、蠉也、井中虫、撓也、棹也、井毛利(○○○)、〉

〔袖中抄〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 井もりのしるし〈○中略〉
無名抄云、井もりといふ蟲は、ふるき井などに、とかげににて尾ながき蟲の、手足つきたる也、

〔大和本草〕

〈十四/蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 龍盤魚(イモリ)〈○中略〉 井中又水溝ニ生ズ、腹赤ク背黑ク、形守宮(ヤモリ)ニ似タリ、田家ノ井中ニ多シ、土人コレヲ惡マズ、毒ナシト云、井中ニヲルユへ、井モリト云、イモリノシルシノ事ハ是ニアラズ、守宮ノコトナリ、

〔本朝食鑑〕

〈十二/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 蠑螈〈訓伊毛里
集解、狀似蜥蜴、而小頭太於蜥蜴、而扁圓、背靑黑色腹赤四足極小、毎在草澤山地之中、性淫能交、故自古作房中術者、取血以塗女身、則如赤誌、若有交接事便脱、歌人稱蜴誌、又歌書所謂、用蜴血宮女之臂、待遇王之行、則得寵、故號守宮、按今此二説、以蝪字伊毛利、或作守宮、是恐有誤矣、守宮者蝘蜓、毎在屋壁間、故名也、又古歌謂、伊毛利頂無山下水乃秋乃色者無湏武手爾津久志留志也計里、然則蜴誌爲蠑螈、凡蜥蜴、蠑螈、蝘蜓、自古相混歟、事詳于異同

〔和漢三才圖會〕

〈四十五/龍蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 蠑螈〈榮蚖〉 虵醫 虵師 虵舅母 俗云井毛利〈○中略〉
按蠑螈生草澤溪澗及野井中、俗稱井守、形似蜥蜴而小、全體正黑、止腹微赤、有小黑點、頭圓扁口大、性淫能交、夜深至丑時多出、土人候其時之、畜於水中、俗傳曰、捕其合交者、雄與雌隔山燒之、以爲媚藥、壯夫爭求之、蛤蚧(ヤマイモリ)最爲佳、然未其効也、所謂入水與魚合交者、石斑魚乎、又謂靑黃色、或白斑者未審、

蝦蟇/名稱

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 鼃〈仁諝音胡媧反〉一名長股、一名土鴨、〈大而靑脊者〉蛤子〈黑色〉鼃子〈小形鳴https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m00778.gif 、已上三種出陶景注、〉一名螳、〈音五綺反〉一名螻蟈、〈已上出兼名苑〉 和名加倍留(○○○)

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 蝦蟇〈蝌斗附〉 唐韻云、蛙〈烏蝸反、古文作鼃、和名賀閉流、〉蝦蟇也、兼名苑云、蝦蟇〈遐麻二音〉一名螻蟈、〈婁國二音〉唐韻云、蛞https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01568.gif 〈活東二音〉蝌斗也蝌蚪〈科斗二音〉蝦蟇子也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 廣韻蝸作媧、按字異音同、然此引唐韻則作媧爲是、本草和名、引仁諝音亦作媧、干祿字書云、蛙鼃、上通下正、説文有鼃無蛙、顏氏以鼃爲正字是、此云古文是、鼃字後人變黽从虫作蛙、其字與蚳䖯字混、䖯蠆也、史記律書、北至於䖯、䖯者主毒螫殺萬物也、是也、孟子蚳鼃、當蚳䖯、蓋以是物名也、今本从黽从氐皆誤、〈○中略〉本草和名鼃、和名加倍留、新撰字鏡https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01569.gif 、訓加比留、按蛙今俗呼阿乎加閉流、又足長鼃者、是也、加閉流、蛙蝦蟇之總稱耳、谷川氏曰蝦蟇雖遐棄遠處、暮還本處、故名加閉流、〈○中略〉廣韻、也作屬、今本説文云鼃蝦蟆也、與此所引唐韻合、段玉裁曰、韻會所據説文作屬、今本説文作也誤、蝦蟆與詹諸小別、鼃則與蝦蟆大別、而其形相似、故言屬而別見、按玉篇云、蝦蟇也、是顧孫二氏所見説文亦似屬、蓋統言之、廣雅釋魚、國語晉語、晉書音義、後漢書張衡傳注、列子天瑞篇釋文、禮記月令釋文、皆云鼃、蝦蟇也、越語注鼃黽、蝦蟇也亦皆是也、然其實鼃與蝦蟇二物不同、故荀子正論篇注、鼃、蝦蟇類也、莊子秋水篇釋文引司馬注云、鼃水蟲、形似蝦蟆、晉書音義下引字林云、鼃似蝦蟇、周禮序官蟈氏注云、鼃、蝦蟇屬、漢書武帝紀、元鼎五年鼃蝦蟇鬪皆可以證一レ一物、故本草以蝦蟇鼃二物、蜀本注亦云、蛙蝦蟇屬也、廣韻云、蛙蝦蟇屬、唐韻同、源君引作也、恐誤、按蝦蟆形狀、陳藏器所説最詳、蟾蜍條引之、鼃別錄云、鼃一名長股、生水中、陶弘景注云、一種小形善鳴、喚名鼃子、急就篇、水蟲科斗䵷蝦墓、顏師古注䵷、一名螻蟈色靑小形而長股、蝦蟇一名蟼、大腹而短脚又事物異名、蛙色靑、腹細嘴尖、後足長、秘傳花鏡、一蛙鳴百鼃皆鳴、其聲甚壯、名鼃鼓、至秋則無聲矣、是可以見鼃之狀也、〈○中略〉本草和名蝦蟇條云、一名蛙黽、一名蠖黽一名長股、已上三名出兼名苑、 鼃條云、一名螘一名螻蟈、已上出兼名苑、按禮記月令、孟夏之月螻蟈鳴、注、螻蟈、蛙也、兼名苑蓋本於此、顏師古注急就篇亦云、鼃一名螻、蟈然則螻蟈鼃之別名、非蝦蟇之一名、然呂覽高注、以螻蟈蝦蟇、統言之也、源君從之、以蛙蝦墓一物、故引兼名苑鼃一名螻蟈、改爲蝦蟇一名螻蟈也、按月令釋文引崔邕章句、以螻爲螻蛄、以蟈爲蛙、郝懿行曰、蛙與螻蛄並以立夏後鳴、故諸家異説、唯廣雅云、螻蜮、螻蛄也、此説得之、蜮蟈字同、見於説文、蟈蛄聲轉、故其字通、諸家紛如不辨矣、然則螻蟈其實非鼃、又非蝦蟇也、廣本國作膕、按音膕與廣韻合、在二十一麥、國在二十五德、作國恐誤、按説文、螻、螻蛄也、以蟈爲蜮異文、蜮短狐也、並非此義、〈○中略〉廣韻斗下有蟲字、爾雅、科斗活東、孫氏本之、按玉篇蛞字注云、蛞https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01568.gif 、䖵部無https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01568.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01568.gif 俗活東字耳、舍人本作顆東、科斗活東顆東、倶雙聲字也、〈○中略〉廣韻同、郭璞注爾雅科斗活東云、蝦蟇子、孫氏蓋本之、玉篇蝌蚪蛞束子也、恐子上脱蝦蟇二字、蝌蚪亦俗科斗字、李時珍曰、蝌斗狀如河豚、頭圓身上黑色、始出有尾無足、稍大則足生尾脱、今俗呼於玉杓子

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1063 蝦蟇〈遐摩二音力ヘル〉

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1063 蝦蟆かはづ〈かへる〉 仙臺にて、びつき(○○○)と云、西國にて、びき(○○)と云唐津にて、たんなんびき(○○○○○○)と云、土佐にて、ひき(○○)、又おんびき(○○○○)、又しやくたらう(○○○○○○)などゝ云、又一種小サく靑色にして、木竹の枝に棲ものを、關東及畿内にて、土鴨(あまがへる/○○)と云、九州にてほとけびき(○○○○○)、又あまびき(○○○○)といふ、唐津にては、あをびき(○○○○)と云、〈○下略〉

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1063 蝦蟇 カへル〈和名鈔〉 ツチガへル(○○○○○)〈同上〉カハキヾス(○○○○○)〈古歌〉 カハズ〈京〉 カイル(○○○)〈同上、佐渡、○中略〉 オンビキ シヤクタラウ クソヒキ ヒキ〈共同上○土州、中略、〉 クソガへル(○○○○○)〈備前○中略〉 ビキ〈西國〉 ビッキ〈仙臺〉
蝦蟆ニ限ラズ、蟾蜍モ遠處ニ移セバ必還リ來ル、故ニ皆カへルト呼ブ、此類ノ形小ク體瘠テ、脚細長ナルヲカワズト云フ、皆水中ニ住ミ、夏夜鳴クコト聒シ、品類最多シ、

〔後撰和歌集〕

〈十二/戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 おとこの物などいひつかはしける女のゐなかの家にまかりて、たゝきけれど も、きゝつけずやありけん、かどもあけずなりにければ、田のほとりに、かへる(○○○)のなきけるを きゝて、 よみ人しらず
足引の山田のそほづ打わびて獨かへるの音をぞ鳴ぬる

〔淸輔朝臣集〕

〈戀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 女をうらみて、いまはあはじとちかごとたてゝ後、もとよりけに、戀しかりければ、 あをきすぢあるかみにて、かへるのうたをつくりてかきつけてやりける、
ちかひしをおもひかへる(○○○)の人しれずくちから物をおもふころ哉

〔蜻蛉日記〕

〈中ノ下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 山ごもりののちは、あまがへるといふなをつけられたりければかくものしけり、こなたざまならではうたもなどけしくて、
おほばこの神のたすけやなかりけんちぎりしことをおもひかへるは〈○下略〉

〔延喜式〕

〈八/祝詞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 祈年祭〈○中略〉
皇神〈能〉敷坐島(シキマスシマ)〈能〉八十島者(ヤソシマハ)、谷蟆(タニグヽ/○○)〈能(ノ)〉狹度極(サワタルキハミ)、〈○下略〉

〔祝詞考〕

〈天〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 他には、谷蝦蟆とあり、こゝには字を略けり、ことばは、万葉に谷具久といへる是也、さて蝦蟆が一歩の一寸にもたらぬを、ものゝ狹ききはみのたとへとす、

〔萬葉集〕

〈六/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 四年〈○天平〉壬申、藤原宇合卿遣西海道節度使之時、高橋連蟲麻呂作歌一首幷短歌、〈○中略〉山彦乃(ヤマピコノ)、將應極(コタヘンキハミ)、谷潜乃(タニグヽノ)、狹渡極(サワタルキハミ)、國方乎(クニガタヲ)、見之賜而(ミシタマヒテ)、冬木成(フユゴモリ)、春去行者(ハルサリユカバ)、飛鳥乃(トブトリノ)、早御來(ハヤクキマサネ)、〈○下略〉

蝦蟇種類

〔和漢三才圖會〕

〈五十四/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1064 蝦蟇(かへる)〈遐麻〉 蟼蟇 和名加閉流 俗云加波湏(○○○) 雖人、常慕而返、故名之、和名亦然、〈○中略〉
黑虎(○○) 身小黑、嘴脚小班、
䖲黃(○○) 前脚大後腿小班色、有尾子一條、 黃https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01570.gif (○○) 遍身黃色、腹下有臍帶、長五七分、住立處帶下、有自然汁出
螻蟈(○○) 卽夜鳴、腰細口大、皮蒼黑色、月令所謂孟夏螻蟈鳴者是也、〈與螻蛄名〉
按、蝦墓種類甚多、或時有蝦蟇合戰、以爲不祥

蛙黽

〔新撰字鏡〕

〈虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1065 蛙〈烏蝸反、阿万加戸留(○○○○○)〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1065 蛙黽 本草云、蛙黽〈莫耿反、和名阿末加閉流、〉形小如蝦蟇、而靑色者也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1065引文千金翼方、證類本草、及陶蘇二注皆無載、未出、按本草和名蝦蟆條引兼名苑、載一名蛙黽、又此文與蟾蜍條引兼名苑同一文法、則此所引、疑是兼名苑注文、説文、黽、鼃也、从它象形、黽頭與它頭同、按單言鼃、複言鼃黽、其實不異、然則此所載蛙黽、卽上條蛙也、不阿末加倍流、陶云、一種小形善鳴喚名蛙子、本草圖經云、鼃似蝦蟇而背靑綠色、與此所載形狀略同、卽前條蛙是也、源君分載別訓非是、又泊宅編云、山間小靑蛙、一名靑鳧、飛走竹樹上、如平地、與葉色別、毎鳴則雨作、是卽可以充阿末加倍流、福州府志雨鬼、漳州府志樹蛤亦當是、

〔本朝食鑑〕

〈十二/蛇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1065 蛙〈訓加閉流、和名阿末加閉流、〉
釋名〈源順曰、蛙https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01086.gif 形小如蝦蟇、而靑色者也、蛙古文作鼃、蝦蟇也、和名賀閉流、蛞蟲蝌斗也、蝌蚪蝦蟇子也、靑蝦蟇、大而靑背、謂之土鴨、黑蝦蟇黑色、謂之蛤子、和名豆知加閉流、必大按、此説大抵似是多非、詳于異同、〉
集解、蛙本作鼃、或䵷同、烏蝸切、狀似蝦蟇而最小、躍陸升木、宿水善鳴、長脚靑色、田家ト水旱者、天欲雨時必多鳴、故通俗號雨蛙也、復有於雨蛙而背靑綠色者、有黑褐色者、有背作黃路金線、倶在水則鳴、在陸則跳、野人有之者、其味稍佳、山東人生捕入熱湯中、剝皮投芥醋内而食、此稱目摺膾、以賞之、古亦有之、桃花老人公事根源謂、吉野國https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01571.gif 人煮蛙號毛瀰(○○)而食之、以爲美味、然則本邦食蛙者久矣、

〔和漢三才圖會〕

〈五十四/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1065 蛙(あまがへる) 鼃〈蛙同〉 長股 靑雞 坐魚 田雞 蛤魚 和名阿末加閉流〈○中略〉
按蛙、如蝦蟇而小、背靑綠、腹白大者不寸半、將雨則鳴、故名雨蛙、俗傳云、蛙變爲守宮、其變也、抱屋 壁敢動、不雨露三旬許而變色生尾、以行去、
靑蝦蟇(○○○) 俗名土鴨〈和名阿乎加閉流〉大而靑背、其鳴甚壯、爾雅所謂在水曰黽者是也、
金線蛙(○○○) 似靑蝦蟇、背作黃路
黑蝦蟇(○○○) 〈和名豆知加閉流〉黑色者、南人名蛤子、食之至美、以爲佳饌、卽今云水雞是也、
赤蝦蟇(○○○) 按赤蝦蟇不本草、然川澤有之、體瘦淺赤色、入五疳藥以爲効、但希有難得耳、

〔藤原長能集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 山寺にまうづる道に、木々のもと過るほどに、あまがへるのなきしかば、
あまがへる鳴や梢のしるべとてぬれなんものを行やわがせこ〈○せこ、一本作こま、〉

靑蝦蟇

〔新撰字鏡〕

〈虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01572.gif 〈居丙反、靑加邊留(○○○)、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 靑蝦蟇 陶隱居本草注云、蝦蟇大而靑脊、謂之土鴨、〈和名阿乎加閉流〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 證類本草下品鼃條引云、大而靑脊者、俗名土鴨、按鼃蝦蟇不同、上條已辨之、況陶謂蝦蟇卽蟾蜍、則引陶以土鴨蝦蟇大者誤、陶又云、土鴨其鳴甚壯、爾雅、在水者黽、郭注、耿黽也、似靑蛙大腹、一名土鴨、〈○中略〉本草和名土鴨在鼃條、別無和名、新撰字鏡、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01572.gif 靑加邊留、

〔康賴本草〕

〈下/蟲魚部下品〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 鼃 和、安、於加惠留、不時採之、 加倍留

〔塵袋〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 一土鴨トカケルハ鳥ノ名歟
土鴨ヲバアヲガへルトヨム、今ワラハベ勾當蟇ト云フモノ是也、アヲクビト云フ、カモノクビノアヲキニ似タレバカモトカケリ、ソラヲトブコトナケレバ、ツチノカモトハカクナリ、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1066 蝦蟇〈○中略〉
鼃(○) アヲガへル アシナガガへル(○○○○○○○)〈同上〉
カハズノ一種、綠色ニシテ、水中ニ住ミ、聒ク鳴ク者ナリ、〈○中略〉秘傳花鏡ニ、一鼃鳴、百鼃皆鳴、其聲甚壯、名鼃鼓、至秋則無聲矣ト云フ、〈○中略〉樹枝或ハ葉上ニ住ミ、雨フラントスル、時ハ必ズ鳴ク、常ハ鳴 カズ、

黑蝦蟇

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 黑蝦蟇(○○○) 陶隱居本草注云、蝦蟇黑色、謂之蛤子、〈和名豆知加閉流(○○○○○)〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 證類本草鼃條引云、又一種黑色南人名蛤子、此引云蝦蟇黑色、亦誤、下總本、陶隱居注作兼名苑注、恐非、〈○中略〉本草圖經云、卽今所謂之蛤、亦名水雞是也、本草和名蛤子在鼃條、別無和名、按蛤是後世依鳴聲合々諧聲字、與https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01573.gif、其原不同也、

〔康賴本草〕

〈下/蟲魚部下品〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 蝦 和、久呂加惠留、生水幷田中

赤蝦蟇

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 山蛤(○○) ヤマガへル(○○○○○) アカヾへル(○○○○○)〈京○中略〉
山谷ニ多シ、形鼃ノ如クシテ、〈○中略〉跳ルコト捷クシテ捕ヘガタシ、人コレヲ捕へ、皮ト腸トヲ去リ、醬油ニテ炙リ、小兒ニ與へ食ハシメ、疳疾ヲ治ス、〈○下略〉

〔日本山海名産圖會〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 山蛤
山城嵯峨、又は丹波、播州小夜の山より多く出す、又攝津神崎の邊にも出せども、其性宜しからず、凡笹原茅原のくまにありて、是をとるには、小き網にて伏せ、又唐網のごとくなる物の龍頭を兩手に挾み、こまを廻すごとくひねりて打ば、網きりゝとまはりて、三尺四方許に廣がるなり、かくし得て腸を拔き、乾物として出す、其色桃色繻子のごとし、手足甚だ長く、目は扇の要に似たり、

蟾蜍

〔新撰字鏡〕

〈虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01574.gif 〈比支(○○)〉

〔本草和名〕

〈十六/蟲魚〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 蝦蟇〈仁諝遐麻二音〉一名蟾蜍、〈楊玄操、上音占、下市余反、〉一名去https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01575.gif 〈楊玄操音秋〉一名去甫、一名苦蠪、一名仇道、〈出小品方〉一名蛙黽 〈英取反〉一名蠖黽、一名長股、〈已上三名、出兼名苑、〉和名比支、

〔倭名類聚抄〕

〈十九/蟲豸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 蟾蜍 兼名苑注云、蟾蜍〈占徐二音、蜍或作蠩一音余、和名比木、〉似蝦蟇而大、陸居者也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈八/蟲名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1067 按爾雅鼀https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01576.gif 蟾諸、郭注云、似蝦蟇陸地、兼名苑注蓋本於此、説文、䗇鼀、詹諸、以脰鳴者、尚書大傳亦作詹諸、兼名苑作蟾蜍、俗字也、下總本無形字、廣本同、按證類本草云、蝦蟇一 名蟾蜍、陶隱居云、此是腹大皮上多痱磊者、故本草和名擧蝦蟇一名蟾蜍云、和名比支、月令正義引李巡注、蟾諸蝦䗫也、亦與本草同、證類本草引陳藏器云、蝦蟆蟾蜍二物各別、蝦蟆背有黑點、身小能跳接百蟲、解作呷々聲、在陂澤間、擧動極急、蟾蜍身大、背黑無點、多痱磊、不跳、不聲、行動遲緩、在人家濕處、本經云、蝦蟆一名蟾蜍、誤矣、爾雅蟾諸郭注云、似蝦蟆、亦蟾諸蝦蟆不同、本草云、蝦蟆一名蟾蜍者、統言之耳、淮南子精神訓注、爾雅李巡注、後漢書張衡傳注、皆以蝦蟆解蟾蜍、陶氏所説是蟾蜍非蝦蟆、源君訓蝦蟆加閉流、訓蟾蜍比岐、從析言之説也、按説文䗇鼀詹諸以脰鳴者、又云、圥鼀詹諸也、其鳴詹諸、其皮鼀々、其行圥々、又載https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01576.gif云、鼀或从酋、又云、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01576.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif 詹諸也、詩曰、得https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif 、言其行https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif 々、依之爾雅鼀https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01576.gifhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif 、若https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01576.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01577.gif 、又可蟾蜍詹諸之俗字耳、

〔康賴本草〕

〈下/蟲魚部下品〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1068 蝦墓 和、比支加惠留(○○○○○)、又云、比支、五月取陰東行者良、

〔醫心方〕

〈一/諸藥和名〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1068 蝦(音遐)蟆(音麻)〈和名比支〉

〔類聚名義抄〕

〈十/虫〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1068 蟾蜍〈占徐二音ヒキ〉

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1068 蟾蜍ひきがへる 五畿内及參、遠、又は越路などにて、ふくがへる(○○○○○)といふ、伊賀伊勢にてひきご(○○○)、西國にてわくどう(○○○○)、又どつくう(○○○○)、又わくひき(○○○○)、又くつわびき(○○○○○)、又鬼わくどう(○○○○○)、又牛わくどう(○○○○○)などいふ、土佐にて、くつひき(○○○○)、又やどもり(○○○○)などいふ、奧州にてひきだ(○○○)、又びつき(○○○)、又だいてんばい(○○○○○○)などいふ、出羽秋田にてもつけ(○○○)と云、房總にてあんがう(○○○○)、又をかまがへる(○○○○○○)又、ふくあんごう(○○○○○○)と云、武、八王子にて山あんかう(○○○○○)と云、上野にて大ひき(○○○)、又小なるをべつとう(○○○○)と云、江戸にて墓(ひきがへる/○)といふ、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1068 蟾蜍 ヒキ〈和名鈔〉 ヒキガへル〈江戸京〉 フクガへル〈畿内、參州、遠州、越州、○中略〉フルダ(○○○)〈仙臺○中略〉 クツヒキ〈土州○中略〉 トンクワウ〈薩州〉 ワコヒキ ワクドウ ワクヒキ〈共同上筑前、豐後○中略〉 ニウドウガへル(○○○○○○○)〈石見○中略〉 トンヒキ(○○○○)〈信州○中略〉 オホヒキ 〈上野○中略〉
夏月夜出テ蚊及ビ諸蟲ヲ食ヒ、晝ハ土石間ニ伏シテ出ザル、形大ニシテ大腹ナルカへルナリ、〈○中〉 〈略〉數百年ヲ經テ形大ナル者、諸州ニアリ、勢州山田ニ近キ山中、及ビ江州八幡邊ノ山中ニ大蟾アリト云、又寬政七年六月、加州小松ノ近邊崩レテ、丈餘ノ死蟾出タリト云、又和州大瀧山中ニ、大サ六尺餘ナル者アリ、背上三人ヲ乘ベシト、採藥記ニ云へリ、〈○下略〉

〔今物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1069 小侍從が子に、法橋實賢と云もの有けり、いかなりける事にか、世の人是をひきがへるといふ名をつけたりける、法眼をのぞみ申て、
法の橋のしたに年ふるひきがへる今ひとあがりとびあがらばや、と申たりければ、やがてなされにけり、

〔江戸塵拾〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1069 大蟇
松平美濃守下屋敷本所に有、方三町餘の沼あり、此中に住む、一年故有て、此沼を埋べきよし被申付、近々彌埋べき沙汰有しに、或日上屋敷の玄關にけんぼう小紋の上下著たる老人一人來りて、取次の士にいふ樣、私儀御下屋敷に住居仕る蟇にて御座候、此度私住居の沼を御埋被成候御沙汰有之段奉承知候付參上仕候、何卒此儀御止被下候樣に奉願上候旨を申述候、其段可申聞とて取次の侍退座して、怪しき事に思ひ、襖の隙より覗きみるに、けんぼう小紋の上下と見へしは、蟇が背中のまだらふなり、大さは人の居りたるが如く、兩眼かゞみの如し、卽刻美濃守へ申達ける處、口上之おもむき聞屆候よし挨拶あられ、沼を埋むる事を止られける、元文三年の事なり、

河蝦

〔物類稱呼〕

〈二/動物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1069 蝦蟆〈○中略〉按に、但馬國に一種(○○)河鹿(かじか/○○)とよぶ有、谷川の流にすみて、濁る水にはすまぬもの也、其聲鹿に似たり、故に河鹿と呼、魚に同名有、別物也、常の蛙の群る中へ放す時は、則常の蛙聲をとゞむとなり、肥州にては、これをかはづ(○○○)と呼、常の蛙をばかへると呼也、古歌に蛙なくよしのゝ川の瀧の上にとよみ、又みわ川の淸き瀨など詠る類、是皆山蛙(○○)也、常の蛙は聲かまびすしく、山蛙は聲淸く寂しきものにて、鹿の聲ともきこえ、また鳥の鳴くともきこゆる物なりとそ、無名 抄に、井堤(いで)の蛙のおもしろきよしを誌す、是山蛙也、近年江戸にもとめよせたりと聞り、余いまだ不知、

〔河蝦考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1070 万葉集に、河蝦(カハヅ)鳴、また河津(カハツ)妻呼などよめる河蝦(カハツ)は、後の世に蛙鳴云々よめるものとは、おなじからず、〈○中略〉河蝦と河鹿(カジカ)とのけちめ、さだかならざるがうへに、後世加自加(カジカ)とよぶもの、魚と蟲と二種ありて、ともに古名にあらず、〈○中略〉又二種なることをしら譫人、一種によりて論ずるあり、〈○中略〉今の世には、かはづといへば、春の田沼などに、うたてかしがましきまで鳴ものとのみおぼえて、秋のころ鳴ものとは思はざる人おほし、そは万葉の歌より後、千百餘年、河蝦を秋の歌によむこと、たえてなかりしかば、さることにはあれど、いにしへに河津とよみしは、山川の淸きながれにすみて、夏の末より秋かけて、さかりに聲めでたく鳴ものをいひて、春の田溝、すべて堪水に鳴ものをば蛙(カへル)といひて、かはづとは、いはざりけむ、万葉の歌にて見れば、河蝦(カハヅ)は山川にすみて秋かけてなくものをいひしなり、古今集の序に、花に鳴うぐひす、水に住かはづの聲をきけば云云いへりしは、春と秋とをむかへてかける文なれば、河蝦は秋のものなることしるし、〈○中略〉万葉十秋ノ雜ノ歌の中に詠蝦歌五首、皆山川にのみよみて、田沼などによめるはひとつもなし、このほかもみなしかり、
三吉野乃(ミヨシヌノ)、石本不避(イハモトサラズ)、鳴川津(ナクカハヅ)、諾文鳴來(ウベモナキケリ)、河乎淨(カバヲサヤケミ)、
神名火之(カミナビノ)、山下動(ヤマシタドヨミ)、去水丹(ユクミヅニ)、川津鳴成(カハヅナクナリ)、秋登將云鳥屋(アキトイハムトヤ)、
草枕(クサマクラ)、客爾物念(タビニモオモフ)、吾聞者(ワガキケバ)、夕片設而(ユフカタマケテ)、鳴川津可聞(ナクカハヅカモ)、
瀨乎速見(セヲハヤミ)、落當知足(オチタギチタル)、白浪爾(シラナミニ)、川津鳴奈里(カハヅナクナリ)、朝夕毎(アナヨヒゴトニ)、
上瀨爾(カミツセニ)、川津妻呼(カハヅツマヨブ)、暮去者(ユフサレバ)、衣手寒三(コロモデサムミ)、妻將枕跡香(ツマヽカムトカ)、〈○中略〉
古今の序にいへるも、このものならでは、鶯の聲に對しがたし、〈○中略〉河鹿といふ魚は、聲うるはし く鳴もの也ともいひて、正しく實をしらざるの説どもなり、伊勢の久老〈○https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/km0000m01116.gif 木田〉神主の説に、〈○中略〉或時京師人と、宮川の邊に、魚つりあそべるに、彼鳴聲をきゝて、いとうるはしき蝦(カハヅ)なりといへり、〈○中略〉さては河鹿といふは、魚にはあらで、蝦なるよしをしり、且田面に鳴蛙とは、別なることをしれりとかゝれたり、〈○中略〉又岡野磐根云、いにし年、常陸國麻生の殿の、難波より河鹿おほくめされて、器の中に飼置給ふを見たりしも、ちひさき蝦にてありしと、かたられだり、〈○中略〉上田秋成が、俗に山かはづ(○○○○)と呼て、音はさゝやかなる鈴をふりたつるごとく、たれも聞過がたくする物也といへるも、同じものなり、〈○中略〉堀川後百首、時しもあれやみな淵山を朝ゆけばこのもかのもにかはづ鳴なり、とよめるも此類なり、〈○下略〉

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1071 蝦蟆〈○中略〉
カジカハ、山谷淸流ニ住ム、京師川々ニ甚多シ、就中八瀨ノ産、名アリ、形雨蛉ヨリ微大ニシテ、瘠テ痱㿔(イボ)アリ、色黑シ、又褐色ニシテ黑斑アルモノモアリ、更ゴトニ石上ニ出テ鳴ク、一箇鳴ケバ、擧族ミナ鳴ク、ソノ聲小ニシテ淸ク、抑揚多シ、七遍反スモノヲ上トス、好事ノ者、生蟲ヲ以テ畜フ、〈○中略〉增、カジカ、一名ヤマガへル、 タニガへル(○○○○○) イデノカハズ(○○○○○○)トモ云フ、手足ノ指頭ニ玉ノ如ク圓ニ泡タルモノアリ、取テ池中ニ放テバ、他ノカハズ鳴カズト云フ、

〔萬葉集〕

〈六/雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1071 按作村主益人歌一首
不所念(オモホエズ)、來座君乎(キマセルキミヲ)、佐保川乃(サホガハノ)、河蝦不分聞(カハヅキカセズ)、還都流香聞(カヘシヅルカモ)、

〔萬葉集〕

〈八/春雜歌〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1071 厚見王歌一首
河津鳴(カハヅナク)、甘南備河爾(カミナビガハニ)、陰所見(カゲミエテ)、今哉開良武(イマヤサクラム)、山振之花(ヤマブキノハナ)、

〔萬葉集〕

〈十/秋相聞〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1071
朝霞(アサガスミ)、鹿火屋之下爾(カビヤガシタニ)、鳴蝦(ナクカハヅ)、聲谷聞者(コエダニキカバ)、吾將戀八方(ワレコヒメヤモ)、

〔古今和歌集〕

〈序〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 花になくうぐひす、水にすむかはづの聲をきけば、いきとしいけるもの、いづれか歌をよまざりける、

〔後撰和歌集〕

〈十八/雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 かはづをきゝて よみ人しらず
我やどにあひやどりしてすむかはず(○○○)よるになればや物はかなしき

〔後拾遺和歌集〕

〈二/春〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 長久二年弘徽殿女御家歌合に、かはづをよめる、 良暹法師
みがくれてすだく蛙のもろ聲にさはぎぞわたる井手のうき草

〔新古今和歌集〕

〈二/春〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 延喜十三年亭子院歌合歌 藤原興風
あし曳の山吹の花散にけり井手のかはづは今やなくらむ

〔無名秘抄〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 井手の河津と申ことこそ、やうある事にて侍れ、よの人思ひて侍るは、たゞかへるをみなかはづといふと思へり、それもたがひ侍らねど、かはづと申かへるは、外にはさらに侍らず、たゞこの井ての河にのみ侍る也、色黑きやうにて、いとおほきにもあらず、よのつねのかへるのやうに、あらはにおどりあるく事などもいとも侍らず、常に水にのみすみて、夜ふくるほどに、かれがなきたる聲、いみじく心すみ、ものあはれなる聲にてなん侍る、春夏のころ、かならずおはして聞給へと申しかど、其のちとかくまぎれて、いまだ尋ずとなん語侍し、〈○下略〉

〔袋草紙〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 加久夜長帶刀節信ハ數奇者也、始テ逢能因テ、相互ニ有感緖、能因云、今日見參ノ引出物ニ可見物侍リトテ、自懷中錦ノ小袋ヲ取出、其中ニ銫屑一筋アリ、示云是ハ吾重寶也、長柄橋造之時銫クヅナリト云々、于時節信喜悦甚フテ、又自懷中紙ニ裹物(メル)ヲ取出(セリ)、開之見ニ、カレタルカヘルナリ、コレハ井堤ノカバヅニ侍云云、共ニ感歎シテ各懷之退散云々、

〔河蝦考〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1072 おひつぎの考〈○中略〉
幾度も玉川にゆきて、下つ瀨六合のわたりより二子のわたりをさかのぼり、〈○中略〉靑梅の里にい たり、〈○中略〉卯月の始ツかた、河原におり立て、かなたこなた見めぐるに、〈○中略〉河の洲の石あるかたに、ほのかにあはれなる聲のヒウ〳〵ときこゆ、小鳥などの雛に、やと思ふばかりなり、人々あれは何の音ぞやと打みるに、さるものもみえず、猶ことかたにもなくは、河蝦なめり(○○○○○)と、耳そばたててきけば、いとあはれにうるはしき物から、浪の音に打けたれて、ほのかなれど、小田につねきゝつる蛙のにるべくもあらず、夏の末より秋にいたりなば、いかばかりうるはしからんと思ひやらる、去年の秋よりおもひ立て、こゝろを盡し、この春も二月ばかりより、玉川におり立て、下つ瀨より河につきて、二十里にちかき間を、〈○中略〉さかのぼりたるかひありて、秋をもまたで、その聲をきゝぬるこそうれしけれ、人々そのかはづ得てしがなとて、〈○中略〉あさりみれど見えず、たゞ水の底にて鳴やうにきこゆ、後によく〳〵みとめつれば、みな水中より出たる、黑き石の上、いはほの間などのかすかなる處に、同じ黑色なるちひさき蝦の、とりつき居てなけば、ふとはみえざるものなり、〈○下略〉

蝦蟇事蹟

〔日本書紀〕

〈十/應神〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1073 十九年十月戊戌朔、幸吉野宮、時國樔人來朝之〈○中略〉夫國樔者、其爲人甚淳朴也、毎取山菓食、亦煮蝦蟆上味、名曰毛瀰(モミ/○○)、〈○下略〉

〔扶桑略記〕

〈四/皇極〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1073 三年十一月、〈○中略〉王宮〈○中略〉有一蟇人立行、

〔續日本紀〕

〈二十九/孝謙〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1073 神護景雲二年七月庚寅、大宰府言、肥後國八代郡正倉院北畔、蝦蟆陳列廣可七丈、南向而去、及于日暮、不去處

〔續日本紀〕

〈三十八/桓武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1073 延曆三年五月癸未、攝津職言、今月七日卯時、蝦蟇二万許、長可四分、其色黑斑、從難波市南道、南行池ニ列可三町、隨道南行、入四天王寺内、至於午時、皆悉散去、

〔水鏡〕

〈下/桓武〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1073 同〈○延曆〉三年五月七日、かへる三萬ばかりあつまりて、三町ばかりにつらなりて、難波より天王寺へまいりにき、此事都うつりのあるべき相なりと申あへりし程に、廿六日にやましろ のながをかに京たつべしといふ事いできて、人々をつかはして、そのところをさだめさせたまひき、

〔今昔物語〕

〈二十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1074 近衞御門倒人蝦蟆語第卌一
今昔天皇ノ御代ニ、近衞ノ御門ニ人倒ス蝦蟆有ケリ、何也ケル事ニカ有ラム、近衞ノ御門ノ内ニ大キナル蝦蟆一ツ有テ生、夕暮ニ成ヌレバ出來テ、只平ナル石ノ樣ニテ有ケレバ、内へ參リ罷出ル上下ノ人、此レヲ踏テ不倒ヌ人无カリケリ、人倒レヌレバ、卽チ這隱レテ失ニケリ、後々ニハ人此ク知ニケレドモ、何ナルコトニカ有ケム、同ジ人此レヲ踏テ返々ル倒レケル、而ル間一人ノ大學ノ衆有ケリ、世ノ鳴呼ノ者ニテ、糸痛ウ物咲ヒシテ物謗リ爲ル者ニテゾ有ケル、其レガ此ノ蝦蟆ノ人倒ス事ヲ聞テ、一度コソ錯テ倒レメ、然ダニ知リ得ナムニハ、押倒ス人有ト云フトモ、倒レナムヤト云テ、暗ク成ル程ニ、大學ヨリ出テ、内邊ノ女房ノ知タリケルニ、物云ハムトテ行ケルニ、近衞ノ御門ノ内ニ、蝦蟆平ミテ居ケリ、大學ノ衆イデ然リトモ、然樣ニハ人ヲコソ謀力ルトモ、我レヲバ謀ラムヤト云テ、平ミ居ル蝦蟆ヲ踊リ越ル程ニ、押入タリケル冠也ケレバ、冠落ニケルヲ不知ズニ、其ノ冠、沓ニ當タリケルヲ、此奴ノ、人倒スハ、己レハ己ハト云テ、踏囗ニ巾子ノ强クテ急トモ不ザリケレバ、蟾蜍ノ盜人ノ奴ハ、此ク强キゾカシト云テ、无キカヲ發テ、无下ニ踏入ル、時ニ内ヨり火ヲ燃シテ、前ニ立ラ、上達部ノ出給ヒケレバ、大學ノ衆、橋ノ許ニ突居ヌ、前駈共火ヲ打振ツヽ見ルニ、ニ表ノ衣著タル者ノ、髻ヲ放テ居タレバ、此ハ何ゾ何ゾト云テ見騷グニ、大學ノ衆音ヲ擧テ、自然ラ音ニモ聞食スラム、記傳學生藤原ノ某、兼テハ近衞ノ御門ニ人倒ス蝦蟆ノ追捕使ト名乘ルニ、此云フハ何ゾナド云テ、咲ヒ喤テ、此引出ヨ見ムト云テ、雜色共寄テ引ク程ニ、表モ引破テ損ジケレバ、大學ノ衆侘テ、頭ヲ搔搜ルニ冠モ无レバ、此ハ雜色共ノ取ツル也ケリト思テ、其ノ冠ヲバ何シニ取ヅルゾ、其レ得サセヨ、得サセヨト云テ、走テ追ケル程ニ、近衞ノ 大路ニ低ニ倒レニケリ、〈○下略〉古ヘハ此ク世ノ鳴呼ノ者ノ有ケル也、〈○下略〉

〔今昔物語〕

〈二十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 安倍晴明隨忠行道語第十六
今昔、天文博士安倍晴明ト云陰陽師有ケリ、〈○中略〉廣澤ノ寬朝僧正ト申ケル人ノ御房ニ參リ、物申シ承ハリケル間、若キ君達僧共有テ、晴明ニ物語ナドシテ云ク、其識神ヲ仕ヒ給フナルハ、忽ニ人ヲバ殺シ給フラムヤト、晴明道ノ大事ヲ此ク現ニモ問ヒ給フカナト云テ、安クハ否不殺、少シカタニ入テ樣ヘバ必ズ殺シテム、虫ナドヲバ塵許ノ事セムニ必ズ殺シツベキニテ、生ク樣ヲ不知バ罪ヲ得ヌベケレバ由无キ也ナド云フ程ニ、庭ヨリ蝦蟆ノ五ツ六ツ許踊リツヽ、池ノ邊樣ニ行ケルヲ、君達、而レバ彼一ツ殺シ給へ、試ムト云ケレバ、晴明、罪造リ給フ君カナ、而ルニテモ試ミ給ハムト有レバトテ、草ノ葉ヲ摘切テ物ヲ讀樣ニシテ、蝦蟆ノ方へ投遣タリケレバ、其ノ草ノ葉蝦蟆ノ上ニ懸ルト見ケル程ニ、蝦蟆ハ眞平ニ テ死タリケル、僧共是ヲ見テ色ヲ失テナム恐ヂ怖レケル、

〔百練抄〕

〈六/崇德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 保延四年三月廿一日、神泉内蝦蟇鬪諍、

〔本朝世紀〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 仁平元年四月二日癸卯、二條櫛笥小路池水邊、蝦蟆相鬪、

〔百練抄〕

〈八/高倉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 治承四年三月十六日、於海橋立池、蝦虵合戰、互決雌雄、又蝦蟆食殺虵、見者如垣、賀茂上社同有此事云々、

〔百練抄〕

〈九/安德〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 壽永二年十二月廿五日、於鳥羽南樓門外、蛙與虵合戰、虵死去謂咎徵

〔明月記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 寬喜二年六月廿四日、東小壼有虵、以友村取弃、腹中飮物、出庭中之間、漸吐出之、蛙也、未死漸搖令水中、無事存命云々、於虵弃川原、蛙已生非惡事哉、

〔古今著聞集〕

〈二十/魚虫禽獸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1075 寬喜三年夏の比、高陽院殿の南の大路に堀有、蝦數千あつまりて、方ぎりてくひあひけり、ひとつがい〳〵くひあひて、或はくひころし、或はかたいきして、はらじろに成て 有けり、又も〳〵多くあつまる事かぎりなし、ある者心みにくちなはを一もとめて、その中へなげ入たりけるに、すこしもおそるゝ事なし、くちなはも又のまん共せず、にげさりにけり、京中の者市をなして見物しけり、ふるくも蝦のたゝかひはありけるとかや、

〔百練抄〕

〈十六/後深草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 寶治元年正月十七日辛未、今日關東若宮〈○鶴岡〉神前、螻蟈數十万充滿、亥子時人々見付之、翌朝失畢之由、後日風聞、

〔類聚名物考〕

〈和歌十六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 住吉記考 住吉の忘草の事
紀叔貞(ヨシサダ)住吉の浦に行て忘草をたづねければ、美女にあへり、來會を契りてわかれけるに、後の日行けるに、かの女來らず、つれ〴〵としてある所に、蛙の濱をあゆみ行あとをみれば、歌なり、
住よしの濱の見るめもわすれねばかりにも人にまたとはれけり

〔徒然草〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 綾小路宮のおはします、小坂殿のむねに、いつぞや繩をひかれたりしかば、かのためしおもひ出られ侍りしに、誠や烏のむれゐて、池の蛙をとりければ、御覽じかなしませ給てなんと、人のかたりしこそ、さてはいみじくこそと覺しか、

〔駿府政事錄〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 慶長十九年十二月六日、今午剋甲山邊路次傍一二間四方草深處、蛙不幾千万數噉合戰一時計、諸人見之、寒天之時分、殊奇怪也、

〔結眊錄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 蛙鬪事
正德三年二月、北野連歌堂ノ前ノ池ニ、蛙數萬聚リテ鬪フ、或人云、是異事ニ非ズ、蛙ノ交ルナリト、

蝌斗

〔和漢三才圖會〕

〈五十四/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 蝌斗(かへると) 活師 活東 玄魚 懸針 水仙子 加閉流古〈○中略〉
按蝌斗、處處池溏多有、如上所一レ説、其如黑繩者旣孚爲(カヘリテ)科斗、尾脱足生、爲小蝦蟇、芒種後半寸許、小蝦蟇多出、跳阡陌者、卽成長者也、

〔重修本草綱目啓蒙〕

〈二十八下/濕生蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1076 蝦蟇〈○中略〉 蝌斗カイルコ(○○○○)〈○中略〉 オタマジヤクシ(○○○○○○○)〈江戸○中略〉
春月池澤小水中ニ淡鼠色透徹シテ、中ニ烏麻(クロゴマ)ノ如キ小黑點アル者多シ、長クシテ繩索ノ如ク丈餘ニ至ル、是蟾蜍ノ胎ナリ、蝦蟆ノ胎ハ、圓塊ヲナシテ長カラズ、大サ六寸許、毬形ノ如シ色白シ、小黑卵日ヲ歷テ漸ク大ニナリ、科斗出色深黑ナリ、蝦蟆ニハ白斑アリ、皆初ハ頭圓大、身ハ狹長ニシテ尾アリ、稍大ナル時ハ、尾脱シ足ヲ生ズ、〈○下略〉

蝦蟇雜載

〔四季物語〕

〈四月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1077 みくさ淸きあぜの夕くれは、秋ならねどもあはれおほかれど、蛙といふものは、えせたるむしにて、人の足にな、れ來て、ともすれば、沓の下にしかれて、うでをひしがれ、身をあやぶむ、律だつひじりなどは、此比はあしをとゞむるも、むづかしき身なるべし、〈○下略〉

〔沙石集〕

〈五上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1077 學生之蟻蜹之問答事
アル池ノ中ニ蛇ト龜ト蛙ト知音ニテ侍リケリ、天下早シテ、池ノ水モ枯、食物モナフシテウエテツレ〴〵ナリケル時、蛇龜ヲ使者トシテ蛙ノモトへ時程オハシマセ、見參セムト云ニ、蛙返事ニ偈ヲ説テ飢渴ニセメラレヌレバ、仁義ヲワスレテ、食ヲノミ思フ、情モ好モ、ヨノツ子ノ時コソアレ、カヽル時ナレバ、エマイラジトゾ返事シケル、〈○下略〉

〔塵袋〕

〈九〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1077 一井ノ中ノカへルト云フ、ソノ説如何、
莊子井蛙笑於海ト云へルコトアリ、此ヨリイフ事歟、

〔嬉遊笑覽〕

〈十二/禽蟲〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1077 蝦蟇を投て嬲り殺し、地に少坎を堀り、車前草を、襯(シキ)て死たるかへるを其上におき、又車前草を覆ひ、小兒其周りに居て、かへるどのお死にやつた、おんばく殿の御とむらひと、聲々にいひて祝(マジナ)ふに、須臾ありてかへる蘇(ヨミガヘ)る、此事古き事と見えたり、毛詩茉苡の郭璞が疏曰、今車前草大葉長穗、江東呼蝦蟇衣、〈陸璣草木、疏にも、車前草一名蝦蟇衣とあり、〉本草啓蒙に、車前カへルは〈南部仙臺〉また漢名を擧たる内、蝦蟇葉〈靑浦懸志〉かゝれば、陸奧にてカへルハと云ふは、彼兒戯より名づげて、漢土の名に符合せ しなり、〈○中略〉おほばこの神とは、かへるに奇功のあるをいふなり、〈○下略〉


トップ   差分 履歴 リロード   一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:31