地部/安房國

p.1001 安房國ハ、アハノクニト云フ、東海道ニ在リ、北ハ上總ニ界シ、東西南ハ海ヲ以テ繞ラシタル半島ナリ、東西凡ソ拾里、南北凡ソ七里、其地勢ハ、北方上總ト境ヲ接スル所、山脈横走シテ自ラ國界ヲ爲シ、支脈南走シテ中央ヲ貫ク、此國ハ古ヘ國府ヲ平群郡ニ置キ、平群(ヘグリ)、安房(アハ)、朝夷(アサヒナ)、長狹(ナガサ)ノ四郡ヲ管シ、延喜ノ制、中國ニ列ス、明治維新ノ後、四郡ヲ合シテ安房一郡ト爲シ、千葉縣ヲシテ、之ヲ治セシム、

名稱

〔倭名類聚抄〕

〈五國郡〉

p.1001 安房〈阿八〉

〔饅頭屋本節用集〕

〈安天地〉

p.1001 安房(アハ)〈房州〉

〔日本風土記〕

〈一寄語島名〉

p.1001 安房〈阿穵(アワ)〉

〔倭訓栞〕

〈前編一阿〉

p.1001 あは　安房國も、古事記に東之淡と見え、阿波の忌部の居たりしよりの名なる事、古語拾遺に見えたり、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1001 國號基原　古語拾遺ニ載ル如ク、四國粟(アハ)ノ國ヨリ來レル齋部氏居住ノ地ナルヲ以テ、安房郡ト名ク、古書ニハ阿波、〈舊事紀〉或ハ淡、〈日本書紀〉マタハ阿八〈和名抄〉ナドミヱタリ、何レモ粟ノ辭ニ就キ、文字ノ音訓ヲ假借シタルマデノコトニシテ別義ナシ、斯テ養老二年ニ至テ、此國ヲ置キ、之ヲ安房ト稱スルモノ、既

p.1002 ニ阿波齋部氏、天富命ニ隨從シテ、コノ地ニ來リ、土民ノタメニ、麻穀ヲ播植シ、土民コレニヨリ、衣食餘リアッテ、其處ヲ得タリシカバ、阿波齋部ノ功勞徳澤莫大ナルヲ、萬世遺忘スベカラザル爲ニ、安房ノ郡名ヲ取テ、直ニ國號トハ定メ玉フナリ、一説ニ、安房ハ淡ナリ、味ノ淡薄ナルヲ云、即チ淡水ノ義ニシテ、海水ノ醎ニ、溪澗ノ流水相混和シ、之ヲ嘗ルニ、其味極テ淡薄ナルナリ、今ノ安房平群二郡ノ海濱、山澗ノ流水幾條トナク落テ海ニ入ル、依テ此邊海水ノ味、之ヲ嘗ルニ自然淡薄ナレバ、淡國トハ名ケタリト云、又一説ニ、上古當國平群ヨリ、上總天羽(アマウ)ニ接スル海濱、陸地ヲ距コト數里ニシテ、海面ニ屏風ヲ展タル如キ山巖、聳峙環抱セリ、天皇其中間ニ於テ、舟行アリシニ、風濤聊沸起セズ、平坦宛モ湖水ノ如クナレバ、淡水門ヲ渡ト云シナルベシ、今ニ海潮退クトキハ、遙ニ礁石ノ水面ニ迸ヲ見ト、〈房總志料此説ヲトル〉コレ淡ヲ以テ平淡ノ義トスルナリ、或ハ古昔阿波淡等ノ文字ヲ用シカドモ、元來總(フサ)ノ國ヨリ割タル國ナレバ、其訓ヲ存シテ安房(ヤスフサ)ノ字ニ改メラレシナド云、諸説各一理アリトイヘドモ、古語拾遺ニ據テ郡名ヲ取リ、直ニ國號トナスノ説ヲ以テ是ニ近トスベシ、

位置

〔地勢提要〕

〈乾〉

p.1002 各國經緯度〈附里程〉　安房洲崎村、極高三十四度五十八分半、經度東三度五十八分、從二東都一〈日本橋〉至二永代橋一、沿海四十三里八町五十七間半、

〔日本經緯度實測〕

p.1002 北極出地　安房　勝山　三五度〇六分三〇秒〈〇中略〉　東西里差　山城　京　〇度〇〇分〇〇秒〈〇中略〉　安房　勝山　東四度〇四分〇〇秒

疆域

〔安房概志〕

〈一〉

p.1002 海防　

p.1003 當國ノ形勢タル、東南大洋ニ面シ、西方ハ海ヲ隔テ、伊豆相模ノ二國ト相對シ、一大海港ヲナセリ、北ノ一方高山峩々トシテ相連リ、上總ト國界ヲ接ス、

〔日本地誌提要〕

〈十九安房〉

p.1003 疆域　北ハ上總、東西南ハ海ニ至ル、東西拾里、南北七里、

〔房總志料〕

〈二安房〉

p.1003 鋸山、上總天羽郡、此山を越ぬれば、安房地平郡也、〈〇中略〉　一長狹郡小塚村より、上總周准郡鹿野山へ行路に、木の根といふ絶頂あり、是則房總の界也、それよりくだれば、上總天羽郡寶村と云所に至る、行程二里、關村安房より上總の地、天神山への路なり、

〔房總志料〕

〈四上總附録〉

p.1003 一房總の界は、安房の地長狹郡小湊浦と、上總夷灊郡大澤浦との間をいふ也、

〔房總志料〕

〈五安房附録〉

p.1003 一長狹郡に壤を接せる上總の郡は、夷灊望陀の二郡なり、平郡は天羽と接せり、

島嶼

〔日本實測録〕

〈九島嶼〉

p.1003 安房國長狹郡　遠測　辨天島〈小湊〉　辨天島〈磯村〉　安房郡　遠測　沖島　タカノ島　平郡　遠測　雀島　浮島

地勢

〔易林本節用集〕

〈下〉

p.1003 安房〈房(バウ)州〉中管二四郡一、南北一日半、山河原野田里平均、魚貝多、是以田糞用レ之、大中國也、

〔房總志料〕

〈二安房〉

p.1003 安房の地方四郡のうち、其土沃壤なるは、長狹郡を第一とす、次は安房郡、其次は平郡、朝夷郡は半は負海の地也

〔房總志料〕

〈五安房附録〉

p.1003 一安房の輿地考へがたし、如何となれば、海灣迂曲、廣狹幾といふことさだかならず、大抵東小湊浦より西淵崎まで、十二里許もありぬべし、南北は妻郞の鼻より鋸山まで、七八里といへども、是又山道直路の地ならざれば、詳なる事不レ可レ知、　一安房の山は、極で崇峻、然れども本州より望に、獨清澄山のみ見ゆ、其他は不レ見、如何となれば、彼

p.1004 地方本州より一帶低ければなり、房總の界市ケ坂より、彼地直下に見ゆるにてしるべし、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1004 海防　當國ノ形勢タル〈〇中略〉所レ謂天險ノ地ナリ、〈室町氏ノ時、安房國ヲ指シテ、小嚢(コフクロ)國ト云、言ハ他邦出入スルノ道路嶮隘陜絶、一夫是ヲ守テ、万夫過ルコト能ハズ嚢ノ口ヲ括スルガ如シ〉、故ニ古來ノ英雄、一敗地ニ塗ルノ後、逃テ當國ニ入ル時ハ、敵人之ヲ追ニ及バズ、將軍頼朝、里見義實ノ如キ是ナリ、其勢守ニ利アツテ攻ニ利アラズ、然レドモ三面ニ海ヲ帶ルヲ以テ、海冦ノ預備ナクンバアルベカラズ、光孝實録曰、仁和二年八月四日、勅令三安房上總等國重警二不虞一、註曰東南海寇ノ來侵ントスル、陰陽寮ノ占兆アルヲ以テナリ、里見氏ノ時ニ及テ、小田原北條氏ノ船兵屢渡海シテ、海岸ノ村落ヲ摽掠ス、依テ海岸防禦ノ令ヲ出セリ、里見氏軍令條ニ、南洲崎ヨリ北明金ノ崎マデ、處々ニ遠見番所ヲ置キ、コレニ金太鼔ヲ設置、變アルニ臨ミ、是ヲ擊鳴スベシ、其聲ヲ聞付、近邊ノ百姓町人共、家財ヲ地ニ埋メ、老人妻子ハ山ヘ藏スベシ、何者ニ限ラズ、走來リ敵ヲ防ニ於テ、厚キ恩賞タルベキモノナリトアリ、是ハ模見氏相州ノ北條ニ相對シテノ防禦ナリ、我神祖建槖以來、海内承平ナリトイヘドモ、猶深慮アツテ、相模及ビ當國ハ格別咽喉ノ形勢タルニヨツテ、文化七庚午二月廿六日、松平越中守定信、及ビ松平金之助〈後肥後守客衆〉幼年ナルニ依テ、名代保科能登守正徳ヲ營中ニ召シテ、異國船渡來防禦ノタメ、相模國浦賀、及ビ安房上總兩國ノ浦浦ニ砲臺ヲ設ケラレ、兩侯ニ引請仰付ラレタリ、後文政壬午三月兩侯御免アリ、浦賀御備場ハ、浦賀奉行ノ掛トナリ、房總ハ文武ノ才能アル者ヲ撰ビ、御代官ニ命ゼラレ、專ラ防禦ノコトヲ委任セラル、天保十四年八月四日、松平下總守房總ノ海防ヲ命ゼラル、後弘化四年、松平肥後守ニ命ゼラレ、上總富津ニ戍士ヲ置カル可キ由ナリ、因テ下總侯ハ富津ヨリ移リ、當國北條ニ於テ、新ニ陣屋ヲ取立テ、猶又處々ノ海岸ニ砲臺ヲ築カル、近隣ノ諸侯、變アルニ臨テ、之ヲ救援スベキノ由ナリ、是ハ皇國全體ノ防禦ニシテ、治ニ處テ武ヲ忘ザルノ聖慮ヨリ出テ、南蠻西戎ノハテ迄モ、我邦

p.1005 如レ此ノ形勢ニ由テ、嚴重ノ備アルコトヲ知リ、窺覦ノ念ヲ爰ニ斷絶シ、蒼海一點ノ塵ヲ揚ズ、万民枕ヲ千歳ニ高スルモ亦宜ナル哉、

〔本朝續文粹〕

〈六奏状〉

p.1005 散位從五位上大江朝臣時棟誠惶誠恐謹言　請四特蒙二天恩一依下安房國任中勘二畢公文一功上拜乙任丹後上野出羽國守闕甲状　右時棟謹撿二案内一、〈〇中略〉安房國之爲レ體也、山重江複、路遠境遙、黔首之栖二邊雲一也、家二草澤一而數二閩越之俗一、渡口之疊二嶮浪一也、掉二木道一而過二呂梁之危一、因レ之延喜以來、彼國守所レ任總卅四之中、纔勘二畢公文一者、唯六人也、〈〇中略〉　寛仁四年正月十五日

道路

〔日本實測録〕

〈一沿海〉

p.1005 從二三厩一沿海至二東京一〈〇中略〉　女房國長狹郡小湊村　一里一十一町三十九間　天津村、三十五度七分、　四里三町二十間〈至二貝渚村余瀬町一里三十町一間〉　朝夷郡江見村、三十五度三分半、　三里三十町三十七間　北朝夷村濱、〈至二北朝夷村宿所一六町三十四間〉三十四度五十八分、　三里二十町五十五間半〈至二大川村一一里一十二町一十五間半、從二大川一至二野島崎一、一里一十二町五間、〉　安房郡瀧口村下浦〈至二瀧口村一一十三町二十一間〉　三里二十七町五間半〈至二相濱村一一里二十二町九間半〉　洲崎村、三十四度五十八分半、　三里三十一町三十二間〈至二館山新井浦一二里三十二町四十七間、徒二新井浦一至二北條一八町五十三間、〉　平(ヘイ)郡那古村、〈至二那古村宿所一一十一町六間〉三十五度一分半、　三里三十五町廿七間〈至二大房崎一一里一十五町五十六間半〉　岩井袋村〈至レ岬一十七町四十七間〉　九町四十三間　加知山、〈本勝山〉三十五度六分半、　一里三十間　吉濱村、三十五度八分、　一里一十三町一十三間〈至二國界一三十町五十三間半〉　上總國天羽郡金谷村

宿驛

〔延喜式〕

〈二十八兵部〉

p.1005 諸國驛傳馬〈〇中略〉　安房國驛馬〈白濱、川上、各五疋、〉

建置沿革

〔日本國郡沿革考〕

〈二東海道〉

p.1005 安房　古作レ淡、〈古事記云、定二東之淡水門一淡即安房、〉或阿波、〈古語拾遺云、阿波忌部所レ居、便名二安房郡一、國造記阿波國造、即是、〉養

p.1006 老二年五月、割二上總平群、安房、朝夷、長狹四郡一置レ、〈按、先レ是廢レ之併二上總國一、至レ此再置、而事不レ見二國史一、〉天平十三年十二月、併二上總國一、天平寶字元年五月、依レ舊分立、中國、管二四郡一、二百八十村、　平群〈七十三村　古府治、御國高調帳、單作レ平、疑脱文、〉　安房〈八十三村〉　朝夷〈六十二村〉　長狹〈六十二村〉

〔安房概志〕

〈一〉

p.1006 割國　上總國四郡ヲ割キ、初テ安房國ヲ置レシハ、養老二年ノコトナリ、夫ヨリ二十二年ヲ過ギ、天平十二年ニ至リ、故ニ復シ、上總ノ國ニ并合シテ、安房國ヲ廢セラル、其中間十六年、天平寶字元年ニ及テ、再ビ養老ノ例ニ從ヒ、四郡ヲ分割シテ安房ヲ置玉ヒテヨリ、今日ニ至ルナリ、房總志料ニ、天平寶字元年依レ舊分立ノ事ヲ載セズ、万葉集ニミユル郡名ヲ引テ、安房分國ノコトヲ論ズルハ、深ク考ヘザルノ誤ト謂フベシ、

〔日本地誌提要〕

〈十九安房〉

p.1006 沿革　古ヘ國府ヲ平群郡ニ置、〈府中村是ナリ〉治承四年、源頼朝ノ本州ヲ徇ル、土豪安西(アンザイ)、〈是益〉安餘(カナマリ)〈光秀、或ハ金鞠ニ作ル、〉麻呂、〈信俊〉東條〈秋則〉四氏、首トシテ來リ屬ス、頼朝本州ヲ四分シテ之ニ賜フ正平中、鎌倉管領足利基氏、其執事上杉憲顯ヲ守護トシ、子孫ニ傳ヘ、州守ヲ兼ヌ、嘉吉ノ初、憲顯ノ玄孫清方、管領ノ事ヲ行フ、州内諸豪約束ヲ受ケズ、互ニ相攻擊ス、神餘景貞其臣山下定兼ニ弑セラル、麻呂信朝、安西景春、定兼ヲ戮シテ、神餘ノ故地ヲ爭フ、景春終ニ信朝ヲ殺シテ、二氏ノ地ヲ併有ス、是時ニ當テ、里見義實本州ニ流寓ス、二氏ノ餘衆往テ之ニ歸ス、文安二年、義實遂ニ兵ヲ擧ゲ、景春ヲ降シ、東條定政ヲ滅シ、本州ヲ取リ安房郡白濱ニ居ル、足利成氏因テ守護ヲ授ク、〈後ニ治ヲ同郡稻村ニ定ム、玄孫義弘上總天羽郡佐貫ニ移ル、義弘ノ孫義康、又本州安房郡館山ニ移ル、〉子成義上總ヲ併セ、自立シテ房總二州ノ主トナリ、孫義堯下總ノ西境ヲ略取ス、其子義弘ニ至テ兵勢日ニ盛ナリ、相模ノ北條氏ト連戰ヤマズ、義弘ノ孫義康ニ至リ、國勢頓ニ衰フ、天正十八年、豐臣氏東征シ、上總下總ノ地ヲ削リ、僅ニ本州ヲ領セシム、徳川氏ニ至リ、義康ノ子忠義、罪有テ伯耆ニ謫セラレ、國除ス、後酒井忠國ヲ

p.1007 勝山ニ、稻葉正明ヲ館山ニ封ジ、最後ニ平岡道弘、封ヲ船方ニ受ク、王政革新、勝山ヲ改テ加知山トナシ、長尾〈本多正訥〉花房〈西尾忠篤〉二藩ヲ徙封シ、船方ノ地ヲ收ム、凡テ四藩、既ニシテ皆改テ縣トシ、又廢シテ木更津縣ヨリ兼治シ、更ニ千葉縣ヨリ兼治ス、

〔古語拾遺〕

p.1007 天日鷲命之孫、造二木綿及麻并織布一、〈〇註略〉仍令下天富命率二日鷲命之孫一、求二肥饒地一、遺二阿波國一殖中穀麻種上、〈〇中略〉天富命更求二沃壤一、分二阿波齋部一率二往東上一、播二殖麻穀一、〈〇中略〉阿波忌部所居、便名二安房郡(○○○)一〈今安房國(○○○)是也〉天富命即於二其地一立二太玉命社一、今謂二之安房社一、故其神戸有二齋部氏一、

〔古事記〕

〈中景行〉

p.1007 此之御世〈〇中略〉定二東之淡(○)水門一、

〔古事記傳〕

〈二十六〉

p.1007 定二東之淡水門一、東は阿豆麻(アヅマ)と訓べし、〈阿豆麻てふ名は、倭建命の後に始まりつれど、此はなほ後の傳言なればなり、〉淡(アハ)は安房國なり、〈東之と云は、四國の阿波と分むためなり、〇中略〉書紀に五十三年秋八月、天皇詔二群卿一曰、朕顧二愛子一、何日止乎、冀欲レ巡二狩小碓王所レ平之國一、是月乘輿幸二伊勢一、轉入二東海一、冬十月至二上總國一、從二海路一渡二淡水門一云々、そも〳〵此時淡はいまだ一國の名には非ず、上總國の内にて、其水門(ミナト)と云は、安房と相模國御浦郡の御崎〈今も御崎と云〉との間を、大海より入海に入る海門(ウナド)なり、〈此入海は、東は上總、西は武藏、北は下總にて包めり、淡水門は、其南方の口なり、さて今天皇の、此水門を渡坐しとあるは、還り上坐道にて、上總より相模へ渡り賜ふなり、〉さて此に定と云は、天皇の渡坐しにつきて、始めて此名を定賜へりとにや、又始めて此海路の開けしを云にもあるべし、

〔古事記〕

〈中神武〉

p.1007 神八井耳命者〈（中略）長狹國造（中略）等之祖也〉

〔古事記傳〕

〈二十〉

p.1007 長狹(ナガサ)國造、和名抄に、安房國長狹郡奈加佐是なり、〈（中略）上總國夷灊郡にも、長狹郷あり、又同國望陀郡に飫富神社あり長狹國造の祖神なるべし、〉

〔先代舊事本紀〕

〈十國造〉

p.1007 阿波國造　志賀高穴穗〈〇成務〉朝御世、天穗日命八世孫彌都侶岐命孫、大伴直大瀧、定二賜國造一、

〔續日本紀〕

〈八元正〉

p.1007 養老二年五月乙未、割二上總國之平群、安房、朝夷、長狹四郡一、置二安房國一、

〔續日本紀〕

〈十四聖武〉

p.1008 天平十三年十二月丙戌、安房國并二上總國一、

〔續日本紀〕

〈二十孝謙〉

p.1008 天平寶字元年五月乙卯、勅曰、頃者上下諸使、揔附二驛家一、於レ理不レ穩、亦苦二驛子一、自今已後、宜二爲依一レ令、其能登安房(○○)、和泉等國、依レ舊分立、

〔里見代々記〕

p.1008 抑安房國ニ里見ノ打入、十代相續國ヲ保給フ、其元由ヲ尋ルニ、人皇五十六代清和天皇九代ノ後胤新田大炊助義重ノ三男、里見太郞ノ末孫、足利黨ノ末葉基氏ノ嫡男家基、其子足利刑部大輔義實ト申セシハ、安房里見元祖、〈〇中略〉義實ハ父ノ諫ニ任テ、木曾左馬允氏元、堀内藏人貞行ヲ隨身シ、三浦ノ方へ落給ヒケル、兩人ニ向テ申サレケルハ、今ハ結城モ落城セリ、後日ノ用意ニナル事モヤナラン、先三浦ヲ差置テ、是ヨリ安房國ヘ渡ラントテ、海人ヲ頼テ濱地ニ下リ給ヒケル、海人承ハリ急ギ船ヲ浮ケレバ、折節順風吹送り、白濱トイフ在所ニ著ニケリ、其比安房國ニハ四人ノ郡主ヲ立置レケル、平群ニハ安西式部大輔勝峯、勝山ニ住ス、安房郡ニハ金餘左衞門介景春、神餘ニ住ス、朝夷郡ニハ丸右近介元俊、石堂谷ニ住ス、長狹郡ニハ東條左衞門督重永、永泉ニ住ス、彼等四人互ニ心ヲ示シ合セ、分内ヲ守リ居リケル、然ルニ金餘ガ家臣ニ山下左衞門ト云フ者アリ、主君景春ヲ討亡シ、己郡主ト押成リテ、郡ヲモ山下郡ト名ヲ改、放逸無懺ニ働ケリ、丸安西ハ是ヲ見テ、彼ガ無道國ノ汚也トテ示合、山下ヲ討テ捨、郡内ヲ分取、丸安西ト口論出來リ、又俄ニ戰起リテ、暫ク挑タリシガ、安西終ニ打勝タリ、丸ハ此時滅亡セリ、爰ニ金餘ガ浪人共、皆一同ニ云合、義實公ヲ大將ニ頼タテマツリ、奉公申バヤトイフ、〈〇中略〉御出馬カクレナケレバ、勝山安西式部大輔勝峯ハ、急ギ大勢ヲ引率シ、瀧田原ニ出張シテ待カケタリシガ、イカゞ思ヒタリケン、甲ヲ脱ギ弓弦ヲハヅシテ、〈〇中略〉自今似後御手ニ屬センタメ、馳參シテ候ト愼テ申ケル、〈〇中略〉東條左衞門重永ハ、上總ノ國大瀧ノ正木彈正ト一味シテ、金山ノ城ニ楯籠、文安二年癸巳六月八日ニ合戰初リ、明ル九日ニ落城セリ、東條重永ハ自害セリ、正木彈正ハ大瀧ヲ指テ引退ク、同三年甲午正月廿

p.1009 七日、大瀧ノ正木ガ城ヲ押取卷、晝夜攻戰、終ニ城方敗レテ、正木降參シタリケル、夫ヨリ白濱ヘ引歸リ、暫ク事靜ニナリケレバ、義實公ノ給ヒケルハ、我十九歳ニテ當國ヘ渡リ、纔五六年モ旅住セシ所ニ、不思議ノ合戰起リシヨリ、當國ヲ切隨ヒ、今ハ上總迄手ニ入タリ、可レ然者ノ娘ヲ娶ラバヤト仰ケル、安西承、上總國眞里谷某ガ息女可レ然候トテ、追付迎取、御前ニゾ定タリ、斯テ御添合睦カリケレバ、御男子誕生マシ〳〵ケル、大將御悦カギリナク、千歳ヲ祝ヒ春若丸ト名付給フ、月日來リ過行程ニ、今年十五歳ニナラセ給フ、御元服ノ御祝アリケリ、義實公ノ給ヒケルハ、我足利ヲ名乘ドモ、元根ハ新田ノ三男里見也、其子足利ナレバ、我父家基末葉故、足利ヲ名乘給ヒシゾカシ、然バ先祖ノ氏里見ヲ名乘モノナシ、今日ヨリ汝元服セバ、里見ヲ名乘ベシトテ、里見刑部少輔義成トゾ名付給ヒケリ、〈〇中略〉永正二年乙丑四月十五日、生命五十八歳ニテ薨給ケル、安房ノ里見ノ初祖ハ此殿ニゾ在ケル、

國府

〔倭名類聚抄〕

〈五國郡〉

p.1009 安房國〈國府在二平群郡一、行程上四十四日、下十七日、〉

〔房總志料〕

〈二安房〉

p.1009 府中は、地名にてはなし、安房の國府といふ事なり、順和名抄に、安房國府在二平郡一と、然れども今は安房郡に并す、又府中を國中といへるも、國府なれば也、

〔房總志料續〕

〈十一平群郡〉

p.1009 今は府中村となりてあり、村高七拾九石四斗九升五合、外に貳百七石寺領社領ありと、

郡

〔倭名類聚抄〕

〈五國郡〉

p.1009 安房國〈養老二年、割二上總國四郡一、置二此國一、〉管四、〈〇註略〉平群、〈倍久利、國府、〉安房、〈如國〉朝夷、〈阿左比奈〉長狹、〈奈加佐〉

〔延喜式〕

〈二十二民部〉

p.1009 安房國中〈管　平群　安房　朝夷　長狹〇中略〉右爲二遠國一

〔伊呂波字類抄〕

〈安國郡〉

p.1009 安房國〈管　養老二年五月、割二上總國四郡一爲レ國、常陸守藤原朝臣宇合、始爲レ守、〉　四郡〈郷卌五　平栗〈府〉　朝夷アサヒナ　安房アハ　長狹ナカサ〉

〔皇國郡名志〕

p.1009 安房國〈四郡〉　

p.1010 平郡(ヘクリ)　〈＜勝山　●保田　米澤　岡本　本名　リウサキ　岩井　大房　上サ界内海ニ向〉　安房(アハ)　〈北條　●館山　●洲崎　川名　藤原　綾濱　眞倉　瀧セ　白ハマ　那古　神余　西ノ出崎郡〉　朝夷(アサヒナ)　〈●平館　乙浦　白子　松田　ヱミ　ヒニヱ　白渚　海發　礒村　セト　ゴウト　南出崎郡〉　長狹(ナガサ)　〈東條　小湊　内浦　天津　濱萩　清澄　清水　平塚　小松原　上サ界東海向〉　〇按ズルニ、本書及ビ次下郡名異同一覽ノ符號ハ、山城國篇郡條ニ引ク所ノ、二書ノ凡例ヲ參照スベシ、

〔郡名異同一覽〕

p.1010 安房

平群郡

〔郡名考〕

p.1011 安房　平群〈ヘクリ倍久利〉

〔伊呂波字類抄〕

〈安國郡〉

p.1011 安房國　平栗(○○)〈府〉

〔房陽郡郷考〕

p.1011 平群郡、北は上總國天羽郡界に至り、東長狹朝夷二郡を界とし、南安房郡の界を限り、西は海に至る、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1011 郡名　平郡(ヘグリ)郡〈和名抄曰、倍久利、〉　北ハ上總ノ天羽ト國界ヲ分チ、東朝夷長狹ノ二郡ト接壤シ、南安房郡ニ至テ限ル、其西面ハ海ヲ蔕テ遙ニ相模國ト相對セリ、〈〇中略〉吾妻鑑ニハ平北郡(○○○)ニ作ル、土人平北郡ト呼ヲ聞テ、ソノマヽ記シタルカ、又ハ字形ノ相似ヲ以テ、比ヲ北ニ誤ルニヤ、或ハ周西周東廳南廳北ナドノ例ニシテ、其頃平群ノ北ヲ、平北ト呼ビ、其南ヲ平南ト稱シタル歟、是皆詳ナラズ、又中古國ノ北方ニアルヲ以テ、直ニ此郡ヲ北郡(○○)ト呼タルコトアリ、寶珠院ノ舊記ニ、北郡佐久間村、マタ里見記ニ、北郡大津城ナドミヱタリ、和漢三才圖會ニハ、平郡ニ作ル、邦人ノ説ニ、平群郡ハ畿内ニ同名アレバ之ヲ忌諱シ、且ハ混同センコトヲ恐テ、近年ハ群ノ一字ヲ省テ平郡トノミ書セリト、然レドモ民部式ニ、諸國部内郡里等名並用二二字一、必取二嘉名一トミユレバ、平群ノ二字ヲ用ルヲ以テ正トスベシ、

〔續日本紀〕

〈二十六稱徳〉

p.1011 天平神護元年二月辛卯、安房國平群郡(○○○)人壬生美與會、廣主二人、賜二姓平群壬生朝臣一、

〔吾妻鏡〕

〈一〉

p.1011 治承四年八月二十九日己酉、武衞、相二具實平一掉二扁舟一、令レ著二于安房國平北郡(○○○)獵島一給、

〔圓藏院文書〕

p.1011 九十八ケ所之内　房州九郡朝平南村之内四拾石、山下郡北條村之内五石、北之郡(○○○)保田村之内五石、高合五拾石、右之通御寺領被レ遣之由、我等所々從二御奉行所一御書出一册ニ御坐候間、從二甲寅年一可レ有二御所務一者也、仍如

p.1012 レ件、　元和貳年辰九月十五日　中村彌右衞門尉吉繁〈黒印花押〉　圓藏院

安房郡

〔房陽郡郷考〕

p.1012 安房郡、北は平群の界に至り、東朝夷郡界に臻り、西南は海に限る、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1012 郡名　安房郡〈和名抄曰、阿八、〉　南洲崎ニ起テ、北山名村ニ距リ、平群ト郡ヲ接シ、西濱ハ湊八幡ノ邊ヨリ海ヲ環シテ、東南瀧口村ニ終ル、其正東全ク朝夷郡ト接壤セリ、此郡ヲ安房ト稱スルコトハ、神武天皇ノ朝ニ、阿波齋部氏天富命ニ隨從シテ來リ、麻穀ヲ樹藝センタメ、居住アリシ地ナレバ、アハノ辭ニ因テ、安房郡ト名ク、古語拾遺ニ、阿波忌部所レ居、便名二安房郡一、天富命即於二其地一立二太玉命社一、故其神戸有二齋部氏一トミユ、又當郡ヲ指シテ【神郡】(カミノホコリ)ト稱セリ、式部式曰、安房郡ト號シテ神郡トナス、〈〇中略〉中古安房郡ノ名ヲ改メ山下郡(○○○)ト稱セシコトアリ、里見志ニ神餘(カムマリ)太郞滿孝(ミツタカ)ノ臣ニ、山下佐衞門景胤〈一本宣兼ニ作ル〉トテ、惡逆ナルモノアリ、或日酒ヲ主人滿孝ニ獻ジテ大ニ酔シメ、其虚ニ乘ジテ、刀ヲ拔テ首ヲ取リ、終ニ其地ヲ押領シ、安房郡ヲ改テ、私ニ山下郡ト號ス、然ドモ臣トシテ君ヲ殺セル、ソノ簒奪ノ罪ヲ惡ンデ、時人之ヲ乏シテ【下郡】(シモツコホリ)ト呼タリト、里見氏ノ世ニ至テ、猶山下郡ヲ以テ稱セシニヤ、其頃ノ寶珠院ノ舊書記ニハ、山下郡某村ト云コトミヱタリ、

〔房總志料〕

〈五安房〉

p.1012 安西(○○)は國郡〈〇安房郡〉のうち也、〈〇中略〉　朝夷郡和田白兒などに接し、安東村(○○○)有、安房郡の安西に對せし名なるべし、

〔吾妻鏡〕

〈一〉

p.1012 治承四年九月一日庚戌、爰安房國住人安西(○○)三郞景益者、御幼稚之當初、殊奉二昵近一者也、仍最前被レ遣一御書一、

〔延喜式〕

〈十八式部〉

p.1012 凡郡司者、一郡不レ得レ併二用同姓一、若他姓中无二人可レ用者一、雖二同姓一除二同門一外聽レ任、神郡陸奧縁

p.1013 レ邊郡、大隅馭謨熊毛等郡者、不レ在二制限一、〈謂二（中略）安房國安房、（中略）筑前國宗形等郡一爲二神郡(○○)一、〉

〔續日本紀〕

〈一文武〉

p.1013 四年二月乙酉、上總國司請安房郡大少領連二任父子兄弟一、許之、

〔續日本紀〕

〈九聖武〉

p.1013 神龜三年九月己卯、停二安房國安房郡〈〇中略〉采女一、令レ貢二兵衞一、

朝夷郡

〔房陽郡郷考〕

p.1013 朝夷郡、東南は海に至り、西安房平群二郡に界ひ、北は長狹郡を界とす、

〔房總志料〕

〈五安房附録〉

p.1013 一朝夷郡の夷字を、いなととなへしはひな也、田舍の意、後人誤て奈字を加るものは非也、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1013 郡名　朝夷(アサヒナノ)郡〈和名抄曰、阿佐比奈、〉　東面一帶海ニ濱シテ大洋ヲ受ケ、南白濱村ニ起テ、北長狹郡ト隣ル、其西方ハ、安房平群ノ二郡ト接壤セリ、此郡ヲ朝夷ト名ルコトハ、國郡ノ東方ニ在テ、前面一帶蒼海ニ臨ミ、朝日ノ海中ヨリ出ヲ見ル、因テ朝日(アサヒナ)ノ郡ト呼ブ、万葉集ニハ朝夷ニ作ル、日夷ノ字同クヒナト訓ズ、武夷鳥(タケヒナトリノ)命或ハ武日鳥(タケヒナトリ)命ニ作ルヲ以テミルベシ、里見志ニ丸右近元俊ハ、朝夷郡ヲ自己ノ名字ニ改テ、丸郡(○○)ト號ス、里見氏ノ時ニ至テモ、ナホ丸郡ト呼タルニヤ、里見分限帳ニ、丸郡某村ト記セリ、又巨松寺鐘銘ニハ、朝平南郡(○○○○)ニ作ル、

〔萬葉集〕

〈二十〉

p.1013 天平勝寶七歳乙未二月、相替遣二筑紫一諸國防人等歌、　伊部加是波(イヘカゼハ)、比爾比爾布氣等(ヒニヒニフケド)、和伎母古賀(ワギモコガ)、伊倍其登母遲氐(イヘコトモチテ)、久流比等母奈之(クルヒトモナシ)、　右一首、朝夷郡上丁丸子連大歳、

長狹郡

〔房陽郡郷考〕

p.1013 長狹郡、南は朝夷郡に界ひ、西は平群の界に至り、北は上總の國周准、望陀、夷隅三郡の界に至り、東は海に至る、

〔安房概志〕

〈一〉

p.1013 郡名　長狹(ナガサ)郡〈和名抄曰、奈加佐、〉　南天面村ヨリノ海岸、北小湊ニ至テ限ル、西南ハ朝夷平郡ノ二郡ト接

p.1014 壤シ、其北方ハ、高山峻嶺相連リ、上總國望陀夷灊(モウダイスミ)ノ二郡ニ接シ、國界ヲ分テリ、千光山清澄寺舊記曰、上古事勝國勝長狹命、當山ニ鎭座アルニ因テ、此郡ヲ長狹郡ト名ケリ、古事記曰、神八井耳命者、長狹國造之祖也、

〔萬葉集〕

〈二十〉

p.1014 天平勝寶七歳乙未二月、相替遣二筑紫一諸國防人等歌、　多知許毛乃(タチコモノ)、多知乃佐和伎爾(タチノサワギニ)、阿比美氐之(アヒミテシ)、伊母加己々呂波(イモガコヽロハ)、和須禮世奴可母(ワスレセヌカモ)、　右一首、長狹郡上丁丈部與呂麿、

郷

〔倭名類聚抄〕

〈六國郡〉

p.1014 安房國　平群郡　砥河〈止加波〉餘戸　達良〈太々良〉石井〈伊波井〉狹隈〈佐久萬〉長門〈奈加止〉大里〈於保佐止〉穗田〈保太〉川上〈加波加美〉驛家　白濱〈之良波萬〉　安房郡　太田〈於保太〉鹽海〈之保美〉麻原〈乎波良〉大井〈於保井〉河曲〈加波和〉白濱〈之良波萬〉神戸　神餘〈加無乃安萬里〉　朝夷郡　御原〈美波良〉新田〈爾布多〉大瀦〈於保奴萬〉滿祿〈萬呂〉健田〈多介太〉　長狹郡　壬生〈爾布〉日置　田原〈多波良〉酒井〈佐加井〉伴部〈止毛倍〉賀茂　丈部〈波世豆加倍〉置津〈乎木津〉

〔日蓮聖人註畫讃〕

〈一〉

p.1014 誕生第一　蓮師姓三國氏、〈〇中略〉父自二遠州一、竄二安房州長狹郡東條郷片海(○○○カタウミ)市河村小湊浦一、成二漁叟一、〈〇中略〉　建二立宗旨一第四　爲二景信計一、當夜擯二出寺中一、遠二離於塔寺之難一是也、爾時淨顯房義淨房、隱二置自房一、竊令レ出レ寺、其後至二西條華房郷(○○○○○)一寓二居青蓮房一、

〔吾妻鏡〕

〈三〉

p.1014 壽永三年〈〇元暦元年〉五月三日庚寅、武衞被レ奉レ寄附兩村於二所大神宮一、〈〇中略〉外宮御分、安房國東條(○○)御厨被レ付二會賀次郞大夫生倫一訖、

〔房總志料〕

〈五安房附録〉

p.1014 一安房の地方、東條、北條、南條の稱あれど、西條なしと土人かたれり、東條は長狹の地にあり、北條(○○)は安房郡大衙の地、南條は同郡館山より、十二三町許東の地に有と、　

p.1015 日蓮の事記せしものに、西條華英の郡といふ事見ゆ、西は東字を誤れるにや、華英は東條の地なればなり、又花英郡名にてはなし、按に、長狹の地、東の方小湊までを東條といへば、華英より西の方を、西條といひしにや、猶又考ゆべし、

村里/名邑

〔郡名一覽〕

p.1015 安房國(御料私領)　〈房州　南北一里半〉　四郡　高九万貳千八百八拾六石貳斗壹升貳勺三才　貳百七拾貳ケ村　〇勝山　三十六里　〇館山　三十六里　〇按ズルニ、本書ノ符號ハ、山城國篇村里條ニ引ク所ノ、本書ノ凡例ヲ參照スベシ、

〔郡國提要〕

p.1015 安房　四郡、二百四十村、　高九万五千七百三十六石二斗三升九合七才(御料私領)　長狹郡六十二村　朝夷郡六十二村　平郡七十三村　安房郡八十三村

〔地勢提要〕

〈坤〉

p.1015 郡邑島嶼奇名　安房　武射(ムサ)郡、長狹(ナガサ)郡、波太(ナブト)村、朝夷(アサイナ)郡、眞浦(マウラ)村、白渚(シラスカ)村、平館(ヘタテ)村、平郡、不入斗(イリヤマズ)村

〈武藏上野〉

〔國村名帳〕

p.1015 關東村數　安房國　二百八拾一ケ村

〔里見代々記〕

p.1015 去程ニ義實ハ、父ノ諫ニ任テ、〈〇中略〉先三浦ヲ差置テ、是ヨリ安房國ヘ渡ラントテ、海人ヲ頼テ濱地ニ下リ給ヒケル、〈〇中略〉其比安房國ニハ、四人ノ郡主ヲ立置レケル、平群ニハ安西式部大輔勝峯勝山(○○)ニ住ス、〈〇中略〉　第七代義頼公　義頼公、家臣安西、角田、岡本、山本ヲ召サレ、是ヨリ南ニ城ナシ、館山(○○)ノ古城跡ハ、何様能景山ナリ、殊要害ノ地ナレバ、カシコニ城ヲ築クベシト被二仰出一ケル、來春ヨリ御普請アルベシト聞エケル、實

p.1016 ニ此館山ト申ハ、昔平判官貞政ト云シ人ノ城跡ナリ、前ハ洋々タル大海ニテ、二ツノ島ヲ浮メタリ、シカモ廻船ノ湊ナリ、八幡ノ浦ニ富士ノ山ノ影移リ、夕日ニカヾヤク有様ヲ、古ヨリ云傳ヘテ、鏡ガ浦ト名ヅケタリ、向ヲ遙カニ見渡セバ、三浦小田原眼ノ前ナリ、又南北ヨリ敵船ノ入來ルモ、居ナガラ見ユレバ、要害ノ地是ニ過タルハナシ、

〔妙本寺文書〕

〈四〉

p.1016 乍レ恐令二言上一候、當國北郡吉濱村(○○○)妙本寺之事、　右當寺ハ、法花宗六門跡之隨一、日蓮聖人嫡々正統之總跡、讓状手續證文分明ニ候、〈〇中略〉　六月十四日　日侃(妙本寺)〈花押〇日侃、慶長六年寂、〉　本名肥後守殿

莊

〔吾妻鏡〕

〈十五〉

p.1016 建久六年七月二十四日丙午、新熊野領、安房國群房庄(○○○)領家年貢事、有二去年未濟一之由、訴出來、此事及二度々一之上、至レ今者、暫召二放地頭職一、點二當時得分物一、補二去今兩年本所乃貢一之後、於下可二返賜一否事上者、追可レ有二御計一之由被レ定云云、行政奉行之、數百果嚴重之神用無レ闕、十二所、權現之靈威、定新者歟

〔集古文書〕

〈六宸筆〉

p.1016 龜山上皇院宣〈相模國鎌倉荏柄天神社藏〉　安房國群房東西庄(○○○○○)事、大納言局縱雖得智之讓、如レ願已帶二前讓一、次第傳領不レ可レ有二相違一、兼又入道右府申本家總領事、割二廣瀬郷一免二年貢一之分、不レ混二總領一之條、先院宣斷已以炳焉、同不レ可レ有二忽所論一者、院宣如レ此、仍執達如レ件、　弘安三年五月五日　權中納言〈花押〉　民部卿法印御房

〔本間義存文書〕

p.1016 安房國多々良莊(○○○○)内本間兵衞五郞入道〈〇覺法〉知行分、相傳知行無二相違一上者、不レ可レ有二違亂一之状如レ件、　建武四年卯月八日　家長〈花押〇斯波〉

藩封

〔慶應元年武鑑〕

p.1017 酒井鉎次郞忠美(菊之間)　一万二千石　在所房州平群郡勝山　三十六里(江戸ヨリ)　〈當國者里見領、寛永年中ヨリ、酒井氏代々領レ之、〉稻葉備後守正善(菊之間　朝散大夫)　一万石　在所安房安房郡館山　三十六里(江戸ヨリ)〈〇節略〉

〔嘉永明治年間録〕

〈十七下〉

p.1017 慶應四年〈〇明治元年〉九年廿三日、遠州諸侯ニ、安房上總兩國ニ於テ、換地ヲ　賜フ、　高四万三千五百六十石餘　安房國平郡朝夷郡長狹郡、上總國望陀郡、周准郡、　西尾隱岐守右者先般上知被二仰付置一候代知として、頭書之通下賜候旨、御沙汰候事、〈〇中略〉　高五千百八十石餘　安房國平群郡長狹郡　松平和泉守　右同文

田數/石高

〔倭名類聚抄〕

〈五國郡〉

p.1017 安房國〈〇註略〉管四〈田四千三百三十五町八段五十九歩〉

〔拾芥抄〕

〈中末本朝國郡〉

p.1017 安房〈中遠〉四郡〈（中略）田四千三百六十二町〉

〔海東諸國記〕

p.1017 安房州　郡四、水田四千三百四十五町八段、

〔前關白秀吉公御檢地帳之目録〕

p.1017 四万五千四十五石　安房

〔和漢三才圖會〕

〈六十六安房〉

p.1017 四郡　九万千七百七十九石

〔安房概志〕

〈一〉

p.1017 石高總數〈〇中略〉　里見氏慶長十五庚戌霜月改帳曰　丸郡〈即朝夷郡〉　二万三千六百十五石一升　長狹郡　二万二千二百八十四石九斗二升二合　山下郡〈即安房郡〉　二万千八百二十三石八斗二升六合　北郡〈即平群郡〉　二万三千四百六十五石五斗六升七合　總高九万千百八十八石五斗四升五合　

p.1018 當今石高　平群郡　二万四千二百二十九石九斗四升六合七勺二才　安房郡　二万三千八百一石九斗三升四合　朝夷郡　二万二千四百十八石六斗七升六合五勺　長狹郡　二万二千九百五十石八斗八升七合七勺　總計九万三千四百一石四斗四升四合九勺七才

〔官中祕策〕

〈二〉

p.1018 安房國　四郡〈〇中略〉　一石高九万三千八百八拾六石餘

〔吹塵録〕

〈五人口及國高〉

p.1018 天保度御國高調〈〇中略〉　安房國〈御料私領〉　一高九万五千七百三拾六石貳斗三升九合七勺

出擧稻

〔延喜式〕

〈二十六主税〉

p.1018 諸國出擧正税公廨雜稻〈〇中略〉　安房國、正税公廨各十五万束、藥師寺料二万束、文殊會料一千束、安居僧供料一千束、修理池溝料二万束、

〔倭名類聚抄〕

〈五國郡〉

p.1018 安房國〈〇註略〉管四〈（中略）正公各十五萬束、本稻三萬二千束、雜稻五千束、〉

〔類聚國史〕

〈八十三政理〉

p.1018 天長八年十一月癸卯、免二除安房國正税未納七萬五百九十一束一、

國産/貢獻

〔延喜式〕

〈二十三民部〉

p.1018 年料別貢雜物〈〇中略〉　安房國〈長海松六籠〇中略〉　諸國貢レ蘇番次〈〇中略〉　安房國十壺〈並小一升〇中略〉　右六箇國爲二第二番一〈寅申年〇中略〉　交易雜物〈〇中略〉　安房國〈商布二千二百八十段、鹿革革張、櫑子四合、〇中略〉

〔延喜式〕

〈二十四主計〉

p.1018 安房國〈行程、上卅四日、下十七日、〉　調、緋紬布十二端細貲布十八端、薄貲布九端、縹細布二百五十端、鳥子鰒、都々伎鰒各廿斤、放耳鰒六

p.1019 十六斤四兩、著レ耳鰒八十斤、長鰒七十二斤、自餘輸二細布調布丸鰒一、　庸、輸二梅松四百斤一、自餘輸レ布、　中男作物、紙、熟麻、枲、紅花、堅魚、鰒、

〔延喜式〕

〈三十七典藥〉

p.1019 諸國進年料雜藥〈〇中略〉　安房國十八種　王不留行、虵 、葛花、旋䨱花各一斤、獨活四斤、 杞二斤十兩、白朮六斤十兩、杜仲五斤、地楡二斤、白頭公三斤、木防己一斤、貝子八兩、麥門冬、莨蓎子各一升、署預五升、桃人六升、決明子二升、龍骨卅斤、

〔毛吹草〕

〈三〉

p.1019 安房　木綿　小湊苔　ハヾ苔　生家ノ紐(ヒモ)苔　浪子〈しヾみ貝ニ似ト云〉　目黒鰹〈分テ多キ故、當國田ノ養ニ用レ之、〉

〔續日本紀〕

〈十二聖武〉

p.1019 天平八年五月辛卯、諸國調布長二丈八尺、闊一尺九寸、庸布長一丈四尺、闊一尺九寸、爲レ端貢レ之、〈〇中略〉安房細布、及出レ絁郷庸布依レ舊貢之、

〔三代實録〕

〈三十三陽成〉

p.1019 元慶二年五月九日甲辰、是日下符、〈〇中略〉令レ採二進槻弓一〈〇中略〉安房國百枝、

人口

〔安房概志〕

〈一〉

p.1019 戸口總數　平群郡　六千八百十戸　安房郡　五千三百五十一戸　朝夷郡　六千四十一戸　長狹郡　六千四百十三戸　總計二万四千六百十九戸

〔官中祕策〕

〈二〉

p.1019 安房國　四郡〈〇中略〉　一人數拾五万八千四百四拾人　内〈八万三千貳拾壹人　男　七万五千四百九人　女〉

〔吹塵録〕

〈五人口及國高〉

p.1019 諸國人數調〈〇中略〉(文化元甲子年)　人數拾三万貳千九百九拾三人(御料私領)　安房國(高九万貳千八百八拾六石餘)　内〈六万八千四百人　男　六万四千五百八拾九人　女〇中略〉

p.1020 　諸國人數調〈〇中略〉(弘化三丙午年)　一人數拾四万三千五百人(御料私領)　安房國(高九万五千七百三拾六石餘)　内〈七万貳千七百七拾六人　男　七万七百貳拾四人　女〉

風俗

〔人國記〕

p.1020 安房國　安房之國ノ風俗ハ、人之氣尖成事、譬バ刃ノ如ク、和スルコト寡フシテ、常ノ作法モ、カタクヘナリ、唯人ハ男女トモニ死スル事ヲ手柄トノミ覺テ、假初ノ付合ニモ、タガイニ齒ヲ拔キ、一向之思案ニテ、大形萬事思案工夫分別スル事不レ成也、其内ニモ氣質之稟ル事、能ク生付タル人モマヽ有、此國人ハ言葉溶(ユルク)卑劣ナレドモ、根源ニ正キ所ヲ生得タル上ニ、道理ヲ分別シタル故、一旦ハ尖ニ見ユルトイヘドモ、武士ハ武士之上ニ備ル程之器トナリ、農工商トモニ皆是ニ準ヘ而可レ知、然ドモ如レ斯之人ハ多ク無レ之而、唯氣質ニツナガレ、漸ク理非ヲ少辨フル人ノミ有、サ有ルニ付テ、カリ染ニ執行フ事モ、我ガ生得之氣ニ任セテ執行フ故ニ、手強ク而、墮落ナル事稀ナリ、學者ト云人モ今不レ見バ、其風流ニ隨テ、自然ト勤ルモノナリ、

名所

〔日本鹿子〕

〈七〉

p.1020 同國〈〇安房〉名所之部　野島ケ崎　近江國また淡路にも同名あり、當國野島ケ崎は、小湊という所を云、　東路の野島が崎の濱風にわがひもゆひしいもがかほのみ　當國は小國ゆへにや、名所すくなし、舊記にも不レ見、

雜載

〔延喜式〕

〈二十八兵部〉

p.1020 諸國健兒〈〇中略〉　安房國卅人〈〇中略〉　諸國器仗〈〇中略〉　安房國〈甲二領、横刀四口、弓十二張、征箭十二具、胡簶十二具、〉

〔續日本紀〕

〈九聖武〉

p.1020 神龜元年三月庚申、定二諸流配遠近之程一、〈〇中略〉安房〈〇中略〉爲レ遠、

〔續日本紀〕

〈三十四光仁〉

p.1020 寶龜七年七月己亥、令レ造二安房、上總、下總、常陸四國、船五十隻一、置二陸奧國一、以備二不虞一、

〔三代實録〕

〈四十九光孝〉

p.1021 仁和二年八月四日庚戌、勅、令三安房上總等國重警二不虞一、先レ是安房國言上、去五月二十四日夕、有二黒雲一、自二南海一群起、其中現二電光一、雷鳴地震、通夜不レ止、二十六日曉雷電風雨已時、天色清朗、砂石粉土遍二滿地上一、山野田園无二所不一レ降、或所厚二三寸、或處僅蔽レ地、稼苗草木皆凋枯、馬牛食二黏粉草一、死斃甚多、陰陽寮占云、鬼氣御靈、忿怒成レ祟、彼國可レ愼一疫癘之患一、又國東南將レ有二兵賊之亂一、由レ是預令戒嚴一、

〔吾妻鏡〕

〈九〉

p.1021 文治五年二月三十日壬寅、安房上總下總等國々、多以有二荒野一、而庶民不二耕作一之間、更無二公私之益一、仍招二居浪人一令レ開二發之一、可レ備二乃貢一之旨、被レ仰二其所地頭等一云云、