p.0914 森ハ、モリト云フ、盛ノ義ニテ林叢ヲ謂フナリ、舊ク神社若シクハ社ノ字ヲモリト讀メルハ、蓋シ神社ハ林叢中ニ在リテ、社地即チ森ナレバナルベシ、
p.0914 杜〈 同徒古反塞也、 也、毛利(○○)、又佐加木、〉
p.0914 杜〈モリ杜ムラ〉 森〈同〉
p.0914 森 杜
p.0914 森(モリ)〈本朝斥二林叢一云レ爾、説文、森木多貌、〉杜(同)〈今案杜木名、赤棠也、又木根之皮也、本朝俗用爲二林叢之義一者未レ穩、〉
p.0914 森〈音參〉 衆木貌也、按森林有二少異一、野外有二草木一、平平者林也、一處在二衆木一、集叢者森也、〈古毛留略言也〉森林字形能合レ訓、今稱レ森者、多是神處也、如二糺森生田森之類一、而社(○)〈訓二毛利一〉續日本紀社女爲二毛理賣一是也、〈後人誤二社字一作レ杜(○)訓二毛里一乎〉
p.0914 杜モリ 日本紀に見えし長柄杜、私記に讀てモリとす、〈天武紀〉世人此字を讀てモリといふ事、これによれりと見えけり、されど此杜の字の如きは、社の字をもて誤寫してモリと讀しか、舊事記に見えし湯津楓木(ユヅカツラノキ)、古事記には湯津香木(ユヅカツラノキ)としるし、日本紀には湯津杜木(カツラ)と見えて、此にカツラといふと註せられけり、私記には杜字は桂字を誤れりといひけり、長柄杜の如きも、もし初より杜字に作りたらむには、私記またこれをも其誤を正しつべし、然るに是等の説も見えず、讀てモリといひし事は、必これ後人の寫し誤りにして、私記の頃ほひにては、社の字たりし事疑ふべからず、萬葉集には、社また神社の字共讀てモリといひけり、古の時は、此國にしても社には樹を植て其主となされ、それをばモリとも、またイツキとも云ひし也、日本紀に石上振の神椙と見
p.0915 え、生國魂社樹(イククニタマノモリノキ)などみえて、また隼別(ハヤブサワケ)王の舍人等の歌の詞にイツキと見えしを、私記に森也と釋せしが如きこれ也、また此事によりて、神社にしもあらねど、凡木多くしげき所をもモリなどいひしを、後人遂に木多貌也といふ義もあれば、森の字借用ひ、モリと讀む事にもなりし也、かヽるならはし、いづれの代にも多かる事なり、古の語に、神社をモリともイツキともいひし其義の如きは、既に闕けぬと見えしかど、素戔烏神新羅の曾尸茂梨(ソシモリ)の所にやどり給ひしと見えし、また神籬の字讀てヒモロギといふ、そのモリといひ、モロといふ、并にこれ古に神を齋祀するものを、さし云ひし所にて、また後にはハヤシなどいひしに同じき事にぞ見えたる、〈モリといふものヽ事は、倭名鈔に見えず、其字日本紀にみえし所にて、世の人ふるく用ひ來りぬればこヽに附しぬ、〉
p.0915 杜 杜字如レ被レ示候、森の字之意に用申候、万葉集に社字を森と用ひ候は、左様に讀來候、但萬葉は上古之物に候故、其訓斷絶候て、延喜中知る人なく候か、天暦に至て、源順押て訓を加へ候、爾來古點新點さま〴〵候へども、畢竟は先づ無理讀に候、因レ茲彼集は證據に成候事も候、又うたがはしき事も候、社字杜の訓に用ひ候は誤にて可レ有レ之候、但古今集に、 ねぎごとをさのみきヽけんやしろこそはてはなげきのもりとなるらめ 社ノ字を杜と訓じ候事もやと、臆説ながら申試候、是非如何候半、大略社は木しげき所に候へば、森とも申べきや、韻會に、周禮を引て、二十五家爲レ社、各樹二其土所レ宜之木一など候へば、社之字をもりと訓候は、さも有べきやとも存候、杜字を森の字意に訓候は、字書ニ説無レ所レ據よ、萬葉之社の字を誤て、杜の字に古來用ひ候誤も知るべからず、又別に子細も候歟、
p.0915 もり 林叢をいふ、盛の義なるべし、杜をよむは、日本紀、新撰字鏡に見えたり、杜はかつらとよみて、神地に殖るもの也、よて萬葉集に神社をよめり、神名式の神社の字しかよ
p.0916 むべきにや、ひもろぎをいふなるべし、ろぎノ反り、ひを略す、社地には必ず林叢あり、俗に森をよむは盛也と注し、木多貌と注せるをもて也、又史記に、畢在二鎬東南杜中一、注に、徐廣曰、杜一作レ社と見えたれば、杜と社を同意に用たるにや、委くいはんには、もりは樹をもて神體としたるをいひ、やしろは神舍を構へたるをいふ成べし、六帖にも、人づまはもりかやしろかとならべよめり、
p.0916 森といふは、寺社等の境内等に木を植立置、茂りて材木薪にも伐とらず立置くをいふ、林といふは、何方にても山、河原か、原等に、木を立置候て、材木薪にも伐候、木立茂りたるを林と云也、
p.0916 もりは おほあらぎの森 しのびのもり こヽゐのもり こがらしの森 しのだのもり いくたの森 うつきのもり きくたのもり いはせの森 立聞のもり ときはのもり くるべきのもり 神なびの森 うたヽねのもり うきだのもり うへ木のもり いはたの森 かうたての森といふが、みヽとヾまるこそあやしけれ、もりなどいふべくもあらず、たヾひと木あるを何につけたるぞ、こひのもり、こはたのもり、
p.0916 出二萬葉集一所名 普通名所不レ注 杜 いはせのもり〈かみなびの〉 いくりのもり〈いもがいへに〉 いはたのもり〈やましろの〉 うきたのもり さくさいのもり うなでのもり〈まとりすむ〉
p.0916 杜 うきたのもり〈山、万、しめおほあらきの、〉おほあらきの〈同上品也古今〉いはたの〈同 万たむけ〉はづかしの〈同 後〉ミつの〈同後撰、こつのもりとも、淀にありといへり、〉はヽその〈同 後拾頼宗公〉見かさの〈大 万おほのなか〉神なびの〈同 古〉 いはせの〈同、万、神〉
p.0917 〈なびのいはせの、 ものヽふのいはせの 同上所也 又攝津信のにも、いはせのもり有云々、〉かしはぎの〈同 拾秀綱女〉いくたの〈攝 後拾赤染〉しのだの〈後拾 増基能圓〉 あはづの〈近 後撰友則〉おいその〈同 後拾 公資〉 いはしろの〈紀伊 後拾 忠房〉 なぎさの〈同 万 よぶこどり 郭公〉うなでの〈美作、万、 眞鳥すむすがのねあり〉こヽゐの〈伊豆 拾 元輔或寄子事〉いくりの〈万 藂〉たかたの〈拾〉くるせの〈万〉うつきの〈清少納言草禰〉たちきの〈同〉くるべきの〈同〉うたヽねの〈同〉たれその〈伊賀 同〉よひたての〈同〉ゆるぎの〈近 千登蓮さきある〉ときはの〈山 新狹衣〉たヾすの〈同 新古貞文〉なげきの〈古〉けしきの〈大隅 千 堀川〉こがらしの〈新古 定家〉あはでの〈大〉しのぶの〈陸 千隆房〉わかまつの〈千永範〉ころもでの〈山〉かたをかの〈同 新古紫式部〉月よみの〈伊 西行神宮末社〉人つまの〈山〉いはでの〈同〉こひのたかまの〈大〉てくらの〈攝〉をとたの〈近〉やなぎの〈丹波〉うさかの〈越中 俊頼歌なり〉足ふち たじりの〈伊賀〉高まの
p.0917 宇合卿歌三首〈◯二首略〉 山科乃(ヤマシナノ)、【石田社】爾(イハタノモリニ)、市靡越者(フミコヘバ)、蓋吾妹爾(ケダシワギモニ)、直相鴨(タヾニアハムカモ)、
p.0917 山城守になりて、なげき侍りけるころ、月のあかヽりける夜、まうできたりける人のいかヾ思ふととひ侍ければよめる、 藤原輔尹朝臣 山しろのいはたのもりのいはずとも心の中をてらせ月かげ
p.0917 題しらず よみ人しらず おほあらきのもり(○○○○○○○○)のした草おいぬればこまもすさめずかる人もなし
p.0917 柞 俊頼 はぐヽみし梢さびしく成ぬらん柞の杜(○○○)のちり行みれば
p.0917 太宰大監大伴宿禰百代戀歌四首〈◯三首略〉 不念乎(オモハヌヲ)、思常云者大野有(オモフトイハヾオホヌナル)、【三笠杜】之(ミカサノモリノ)、神思知三(カミシシラサム)、
p.0917 鏡王女歌
p.0918 神奈備乃(カミナビノ)、【伊波瀬乃杜】之(イハセノモリノ)、喚子鳥(ヨブコドリ)、痛莫鳴(イタクナナキソ)、吾戀益(ワガコヒマサル)、
p.0918 忍びてすみ侍りける人のもとより、かヽるけしき人にみずなといへりければ、 元方 立田川たちなば君がなをおしみいはせの杜のいはじとぞ思ふ
p.0918 みちさださりてのち、帥の宮に參ぬときヽて、 赤染衞門 うつろはでしばししのだの森(○○○○○)を見よかへりもぞするくずのうら風
p.0918 六年四月、難波吉士磐金至レ自二新羅一而獻二鵲二侯一、乃俾レ養二於難波杜(○○○)一、因以二巣枝一而産之、
p.0918 宮つかへしける女をかたらひ侍けるに、やむごとなきおとこのいりたちて、いふけしきを見てうらみけるを、女あらがひければよみ侍りける、 平定文 僞をたヾすの森(○○○○○)のゆふだすきかけつヽちかへわれをおもはヾ
p.0918 清家がちヽのもとに、あはの國にくだりて侍りけるとき、かの國の女に物いひわたり侍りけり、ちヽ津國になりうつりてまかりのぼりけたば、女たよりにつけてつかはしける、 よみ人しらず 心をばいくたのもり(○○○○○○)にかくれどもこひしきにこそしぬべかりけれ
p.0918 吾妻森 大江戸龜戸天神のうしろを四五町ゆきて、かしこの畑中にあり、この社を、やまとだけのみことの御妻橘姫の靈をまつれりと、物にしるせり、されどうけがたき説なりと、おもひをりしに、この頃、藤原茂睡入道のえらばれし鳥のあとヽいへる歌集をよめるに、くだんの森を題にて、鳥がなくあづまの森を見わたせば月に入江の波ぞしらめる、といふ歌ありて、自注に、吾妻森は東人といふ人の、住し所とぞ、本所横堀三目の東にありとしるしたり、東人といへるは、いつの頃の人に
p.0919 か、橘姫なりといへるは、例の附會のせつなるべし、
p.0919 萬木森(○○○) ゆるぎのもり又云よろぎのもり 近江國〈高島郡〉 よろぎ、ゆるぎ訓かよへり、小余緩磯(コヨロギ)をもこゆるぎのいそとも云ふが如し、動搖の意より出たる名なるべし、
p.0919 鳥は さぎはいとみるめもみぐるし、まなこゐなどもうたてよろづになつかしからねど、ゆるぎのもりにひとりはねじと、あらそふらんこそおかしけれ、
p.0919 かくし題の歌よみ侍ける時、紫のけさを、 入道二品親王覺性 いかなればゆるぎの杜のむら鷺のけさしもことに立さはぐらん
p.0919 寄レ物陳レ思 不想乎(オモハヌヲ)、想常云者(オモフトイハヾ)、眞鳥住(マトリスム)、【卯名手乃杜】之(ウナデノモリノ)、神思將御心(カミシシルラム)、