天部/雨

p.0179 雨ハ、アメト云フ、小雨(コサメ)、霖(ナガアメ)、大雨(ヒサメ)、暴雨(ハヤサアメ)等ノ稱アリ、又降雨ノ時節ニ依リ、春雨(ハルサメ)、卯花クタシ、五月雨(サミダレ)、時雨(シグレ)等ノ名アリ、而シテ神佛ニ祈雨、祈霽スル事ハ、神祇部、祈禳篇ニ載セタリ、

名稱

〔新撰字鏡〕

〈雨〉

p.0179 霣隕〈同王閔反、上、落雨也、阿女不利於豆、〉

〔同〕

〈水〉

p.0179 瀑〈浦報反、疾雨也、甚雨、又蒲木反、入、阿女佐加利爾布留、又阿良支水、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0179 雨　説文云、水從二雲中一而下也、音禹、〈和名阿女〉

〔段注説文解字〕

〈十一下雨〉

p.0179 雨水從レ雨下也、〈引申之、凡自レ上而下者偁レ雨、〉一象レ天、冂象レ雲、水霝其間也、〈 者水字也、王矩切、五部、〉凡雨之屬皆从レ雨、

〔釋名〕

〈一釋天〉

p.0179 雨羽也、如二鳥羽動則散一也、

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0179 雨〈音禹　アメ　アメフル　和ウ〉　靀〈濛二正蒙、音雨、アメフル〉

〔日本釋名〕

〈上天象〉

p.0179 雨　天よりふる故に、天のことばをかり用ゆ、

〔八雲御抄〕

〈三上天象〉

p.0179 雨　春さめ　小雨　むらさめ　ながめ　しはくり　ゆふだち　こし雨〈◯中略〉　よこさめ〈源氏曰、野分時也、〉　さみだれ〈五月〉　うの花くたし〈四五月、万十に、はるさればうのはなくたしとよめり、〉　みをしるあめ〈涙也〉　しぐれ　夕　むら　はつ　あまのしぐれ、又かきくらしとよめり、古歌におつるしぐれとよめり、　たつみとは、雨のふりたるおりのみづなり、にはたづみなどもいふ、　頼政、よこ時雨とよみて俊成に被レ難、光忠があきさめなどいへるたぐひは、おかしき事なり、　しつくしくる〈雨名〉

p.0180 〈也〉

〔和漢三才圖會〕

〈三天象〉

p.0180 雨〈音禹〉　雨〈和名阿女◯中略〉　按、天文書云、雨者雲上隔二日氣一、下隔二火氣一、冷濕之氣在二雲中一、旋轉相盪爲レ雨、譬如レ蒸レ水、因レ熱上升作レ氣者雲象也、上及二于蓋一、〈蓋即譬二冷際一也〉就化爲レ水、便復下者雨象也、

小雨

〔新撰字鏡〕

〈雨〉

p.0180 〈息顯私覽二反、平、微雨也、古佐女、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0180 霡霂　兼名苑云、細雨、一名霡霂、小雨也、麥木二音、〈和名古女左〉

〔釋名〕

〈一釋天〉

p.0180 霡霂小雨也、言霂者霂瀝霑漬如二人沐一レ頭、惟及二其上枝一而已根不レ濡也、〈霡者膏潤入レ土如二人之脉一、霡言レ上、霡言レ下、〉

〔日本靈異記〕

〈上〉

p.0180 得二雷之喜一令レ生レ子強力子縁第三
小細雨〈三合コサメ〉

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0180 霡〈コサメ〉　霡霂〈コサメ〉

〔萬葉集〕

〈二挽歌〉

p.0180 靈龜元年歳次乙卯秋九月、志貴親王薨時作歌一首并短歌、〈◯中略〉
玉桙之(タマボコノ)、道來人乃(ミチクルヒトノ)、泣涙(ナクナミダ)、霈霖(コサメ)爾落者(ニフレバ)、白妙之(シロタヘノ)、衣埿漬而(コロモヒヅチテ)、立留(タチトマリ)、吾爾語久(ワレニカタラク)、〈◯下略〉

〔萬葉集〕

〈七雜歌〉

p.0180 詠レ雨
吾妹子之(ワキモコノ)、赤裳裙之(アカモノスソノ)、將染埿(ヒヅチナム)、今日之(ケフノ)霡霂(コサメ)爾(ニ)、吾共所沾名(ワレサヘヌレナ)、

〔古今和歌六帖〕

〈一天〉

p.0180 あめ　　　そせい
うくもあるか昨日のこさめわたるせに人の涙を淵となさねば

〔慶長日件録〕

p.0180 慶長十二年五月十九日、霎沃、

霖

〔新撰字鏡〕

〈雨〉

p.0180 〈序助如序二反、霖也、起也、霪也、奈加阿女強也、〉　 〈力凾力潜二反、久雨、奈加阿女、〉　霪〈以針反、平、雨无止也、猶降也、奈我阿女、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0180 霖　兼名苑云、霖三日以上雨也、音林、〈和名奈加阿女〉今按、又連雨、又名二苦雨一、爾雅註云、霖一名霪、音淫、久雨也、

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0180 霖〈音林、ナカメコシアメ〉

〔日本紀私記〕

〈上神代〉

p.0181 雖レ經二霖旱一〈津以利、比天利、安布止以倍止母、〉

〔塵袋〕

〈一〉

p.0181 一霖雨トハイカホド久クフルアメヲイフベキゾ、張銑文選ノ注ニハ、三日雨ヲ爲レ霖ト云ヘリ、三日ヨリ久カラバ又勿論也、淫雨トモ云フ歟、

〔日本書紀〕

〈一神代〉

p.0181 一書曰、〈◯中略〉既而諸神嘖二素戔嗚尊一曰、汝所レ行甚無頼、故不レ可レ住二於天上一、亦不レ可レ居レ於二葦原中國一、宜三急適二於底根之國一、乃共逐降去、于レ時霖(ナカメフル)也、素戔嗚尊、結二束青草一以爲二笠蓑一、而乞二宿於衆神一、衆神曰、是躬行濁惡、而見二逐謫一者、如何乞二宿於我一、遂同距レ之、

〔常陸風土記〕

〈行方郡〉

p.0181 郡家南門有二一大槻一、其北枝自垂觸レ地、還聳二空中一、其地昔有二水之澤一、今遇二霖雨一、廳庭濕潦、

〔萬葉集〕

〈十秋相聞〉

p.0181 寄レ雨
秋芽子乎(アキハギヲ)、令落長雨之(チラスナガメノ)、零比者(フルコロハ)、一起居而(ヒトリオキ井テ)、戀夜曾(コフルヨゾ)大寸(オホキ)、

〔萬葉集〕

〈十九〉

p.0181 霖雨晴日作歌一首
宇能花乎(ウノハナヲ)、令腐霖雨之(クタスナガメノ)、始水逝(ミヅハナニ)、縁木積成(ヨルコヅミナス)、將因兒毛我母(ヨラムコモガモ)、

〔小町集〕

p.0181 花をながめて
花の色はうつりにけりないたづらに我身世にふるながめせしまに

〔伊勢物語〕

〈上〉

p.0181 むかし男有けり、ならの京ははなれ、此京は人の家まださだまらざりけるときに、西の京に女ありけり、〈◯中略〉それをかのまめ男、うち物かたらひてかへりきて、いかヾ思ひけん、時はやよひのついたち、雨そぼふるにやりける、
　おきもせずねもせで夜を明しては春のものとてながめくらしつ

〔源氏物語〕

〈十二須磨〉

p.0181 なが雨に、ついぢ所々くづれてなどきヽ給へば、京の家司の許に仰つかはして、近き國々の御莊の物などもよほさせて、つかうまつるべきよしの給はす、

〔枕草子〕

〈二〉

p.0182 すさまじき物　しはすのつごもりのなが雨

〔鈴かね艸子〕

p.0182 寶暦十四年七月十四日曇天、時々雨一頻〈豆都〉降、奈賀世、　十六日、晴天、時々雨曾々久、奈我世、　二十日雨晴不レ定、長瀬、

大雨

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0182 霈　文字集略云、霈大雨也、音沛、日本紀私記云、火雨〈和名比左女〉雨冰〈同上、今按、俗云比布留、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈一風雨〉

p.0182 按、古無二霈字一、説文、霶霈作二滂沛一、孟子梁惠王篇、沛然下レ雨、初學記、太平御覽引作レ霈、盡心篇、沛然莫二之能禦一也、藝文類聚引作レ霈、文選思玄賦、凍雨沛其灑レ塗、注、沛雨貌知霈即沛字、然説文、沛水出二遼東番汙塞外一、西南入レ海、非二此義一、説文又云、 艸木盛【G朮－ヽ】【G朮－ヽ】然、象形、蓋轉二艸木盛一、爲二雨盛一、後從レ水作レ沛也、與二沛水字一自別、〈◯中略〉按、垂仁紀大雨訓二比左女一、又引二私記一訓二比多女一、比多女、當二是比多阿女之急呼一、謂下不二暫止一之雨上也、然則訓二大雨一爲二比左女一者、比多女之一轉也、又雨氷訓二比佐女一者、氷雨之義、古事記允恭段景行段氷雨、即是、蓋謂二天雨一レ氷、説文、雹雨レ氷也、則知雨氷即雹、皇極紀二年三月、風雷雨氷、雨氷謂レ雨レ雹、當下依二神武紀一訓中比佐女上、今本訓二三曽禮一、非レ是、然則大雨雨氷雖三同訓二比左女一、而其語原自別、源君收在二一條一、非レ是、宜下以二雨氷一在中雹條上、比布留見二源氏物語明石卷一、天武紀、氷零大如二桃子一、又長和二年三月、雷鳴氷降、大如二梅李一、見二日本紀略一、則知比布留、亦謂レ雨レ雹也、今俗謂レ雨レ雹爲二比也宇布留一者、比布留之轉譌也、或以二比也宇一爲二雹字音轉一、非レ是、那波本大雨作二火雨一、推古紀、天智紀、今本誤作二火雨一、按、畿内及中國、所在有二廢壙一、皆積レ石爲レ室、其制廣大、或可レ容二數十人一、與二今時墓穴一、大不レ同、土俗或傳云、古天雨レ火、故造二是石室一以避レ之、當丙是庸妄人、見下紀今本誤作二火雨一訓中比左女上、附會爲乙之説甲也、那波氏改二大雨一作二火雨一者、似下依二是説一而誤上、伊勢廣本雨氷作二雨水一、雨水見二孝徳白雉三年、持統五年紀一、今本並訓二三曾禮一、然皆謂二霖雨大水一、則與レ云二大雨一同、宜レ訓二比佐女一、則此作二雨水一亦似レ通、然云二今案比布留一明、源君所レ引是雨氷非二雨水一也、

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0182 大雨〈ヒヂアメ〉　雨氷〈同、俗云ヒフル、〉

〔日本書紀〕

〈三神武〉

p.0183 戊午年十二月丙申、皇師遂擊二長髓彦一、連戰不レ能レ取レ勝、時忽然天陰而雨氷(ヒサメフル)、乃有二金色靈鵄一、飛來止二于皇弓弭一、

〔古事記〕

〈中景行〉

p.0183 於レ是詔、茲山神者、徒手直取而騰二其山一之時、白猪逢二于山邊一、其大如レ牛、爾爲二言擧一而詔、是化二白猪一者、其神之使者、雖二今不一レ殺、還時將レ殺而騰坐、於レ是零二大氷雨(ヒサメ)一、打二惑倭健命一、

〔古事記傳〕

〈二十八〉

p.0183 大冰雨(オホヒサメ)、遠飛鳥宮段〈◯允恭〉にも、零二大氷雨一とあり、〈◯中略〉書紀に大雨、甚雨、淫雨など、みなひさめと訓り、〈推古紀、天智紀などに、火雨とあるは、もと大雨とありけむを、後人ヒサメとある訓を心得誤りて、大字をさかしらに火に攺めつるなるべし、和名抄に引る私記なるも同じ、又今世俗に、火の雨と云ことのあるも氷の雨なり、〉抑比佐米とは、もと氷(ヒ)の降るを云て、天武紀に氷零大如二桃子一とある是なり、〈今世に閇宇と云物にて、雹字これなり、閇宇と云は、此字音をハウと呼しが、訛れるにやあらむ、さて和名抄にも、書紀の訓にも、雹はアラレとあり、阿良禮は霰なるを、古は雹をも共に阿良禮とも云しなるべし、雹字、又右の氷零など、ヒサメとも、ヒフルとも訓べし、〉然るを其より轉りて、尋常の雨の甚く零るをも云りと見えて、彼遠飛鳥宮段なる氷雨は、歌には阿米とよめり、〈若雹ならむには、阿米とはよむまじきにや、但阿米と云は、此類の總名にて、此は雹ながら、歌には阿米とよめるにもあるべし、〉又和名抄に、霈をも比左女と注し、書紀に大雨甚雨などを、然訓るも是なり、かくて此なるは、打惑とあるを以て見れば雹(ヒフリ)なり、書紀にも零レ氷とあり、

〔日本書紀〕

〈六垂仁〉

p.0183 五年十月己卯朔、天皇幸二來目一、〈◯中略〉天皇則寤之語二皇后一曰、朕今日夢矣、〈◯中略〉大雨(ヒサメ)從二狹穗一發而來之濡レ面、是何祥也、

〔古事記〕

〈下允恭〉

p.0183 於レ是穴穗御子興レ軍、圍二大前小前宿禰之家一、爾到二其門一時、零二大冰雨一、故歌曰、意富麻幣(オホマヘ)、袁麻幣須久泥賀(ヲマヘスク子ガ)、加那斗加宜(カナトカゲ)、加久余理許泥(カクヨリコ子)、阿米多知夜米牟(アメタチヤメム)、

〔日本書紀〕

〈十六武烈〉

p.0183 八年、好二田獵一、走狗試馬出入不レ時、不レ避二大風甚雨(ヒサメ)一、衣濕而忘二百姓之寒一、

〔日本書紀〕

〈二十二推古〉

p.0183 九年五月、天皇居二于耳梨行宮一、是時火雨(ヒサメフル)、〈◯火雨諸本作二大雨一〉河水漂蕩滿二于宮庭一、

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0183 霈〈普蓋切、ヒチカサアメ、〉

〔袖中抄〕

〈一〉

p.0183 ひぢかさ雨

p.0184 　いもがかど行すぎがてにひぢかさの雨もふらなんあまかくれせん
顯昭云、此歌にひぢかさ雨といへるはひが事也、これは万葉集の歌なり、彼集にはひさかた雨といへり、考、万葉集第十一云、
　いもがかどゆき過かねつひさかたの雨もふらぬかそをよしにせん〈◯中略〉
六帖曰、いもがかど行すぎかねつひぢかさのあめもふらなんあまかくれせん
此歌は万葉の歌をやはらげたる歌也、第三句のひさかたを、ひぢかさと書たる也、ひぢかさ雨と云物不レ可レ有也、

〔八雲御抄〕

〈三上天象〉

p.0184 雨〈◯中略〉　ひぢかさ〈さとふるに、ひぢをかさにするなり、〉

〔催馬樂〕

p.0184 妹之門
いもがかどや、せながかど、行過かねてや、わがゆかば、ひぢかさの、ひぢかさの、雨もやふらなん、しでたをさ、雨やどり、かさやどり、やどりてまからん、しでたをさ、

〔空穗物語〕

〈菊の宴〉

p.0184 ひぢかさあめふり、かみなりひらめきて、おちかヽりなんとする時に、〈◯下略〉

〔源氏物語〕

〈十二須磨〉

p.0184 ひぢかさ雨とかふりきて、いとあはたヾしければ、みな返り給はんとするに、笠もとりあへず、さるこヽろもなきに、よろづ吹ちらし、又なき風なり、

〔枕草子〕

〈八〉

p.0184 名おそろしき物　ひぢかさ雨

暴雨/白雨

〔新撰字鏡〕

〈水〉

p.0184 涷〈多貢力見二反、去、暴雨、波也佐安女、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0184 暴雨　楊氏漢語鈔云、白雨、〈和名無良佐女〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈一風雨〉

p.0184 按、謂三物之不二平等一爲二无良一、與二羣村一同語、故謂二暴降 霽之雨一爲二无良佐女一、新撰字鏡云、涷暴雨、波也佐女、萬葉集、暮立之雨、皆是類也、〈◯中略〉白雨、見二李白杜甫楊巨源詩一、又南卓羯鼔録、頭如二青山峯一手如二白雨點一、此即羯鼔之能事也、山峯取レ不レ動、雨點取二碎急一、爾雅暴雨謂二之涷一、按、説文、

〈瀑疾雨也、詩曰、終風且瀑、是暴雨當レ作二瀑雨一、其作二暴雨一者假借也、〉

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0185 暴雨〈ムラサメ〉　白雨〈ムラサメ〉　 〈ムラサメ〉

〔下學集〕

〈一天地〉

p.0185 村雨(ムラサメ)

〔日本釋名〕

p.0185 上天象

p.0185 暴雨(ムラサメ)　ゆふだち所々にむら〳〵ふりて、ふらぬ所もあるゆへなり、さめはあめ也、さとあとよこに通ず、春雨のさめも同、

〔古事記〕

〈中垂仁〉

p.0185 天皇驚起、問二其后一曰、吾見二異夢一、從二沙本方一、暴雨(ハヤサメ)零來、急洽二吾面一、〈◯下略〉

〔萬葉集〕

〈十秋雜歌〉

p.0185 詠二蟋蟀一
庭草爾(ニハクサニ)、村雨落而(ムラサメフリテ)、蟋蟀(キリキリス)之、鳴音聞者(ナクコヱキケバ)、秋付爾家里(アキツキニケリ)、

〔古今和歌六帖〕

〈一天〉

p.0185 むらさめ
人しれず物思ふ夏〈◯夏、夫木和歌抄作レ宿、〉のむら雨は身よりふりぬる物にぞ有ける

春雨

〔萬葉集〕

〈四相聞〉

p.0185 藤原朝臣久須麻呂來報歌二首〈◯中略〉
春雨乎(ハルサメヲ)、待常二師有四(マツトニシアラジ)、吾屋戸之(ワガヤドノ)、若木乃梅毛(ワカキノウメモ)、未含有(イマダフヽメリ)、

〔古今和歌集〕

〈一春〉

p.0185 題しらず　　　よみ人しらず
梓弓おしてはる雨けふ降ぬあすさへふらば若菜つみてん

〔後撰和歌集〕

〈一春〉

p.0185 ある人の許に、新參りの女の侍りけるが、月日久しく經て、正月の朔頃に、まへ許されたりけるに、雨のふるを見て、　　　讀人しらず
白雲の上しる今日ぞ春雨のふるにかひある身とはしりぬる

卯花くたし

〔書言字考節用集〕

〈一乾坤〉

p.0185 迎梅雨(ウノハナクダシ)

〔倭訓栞〕

〈前編四宇〉

p.0185 うのはなくだし　万葉集によめり、卯花腐(クタシ)の義なり、降しの義とするは非也、卯月の比、雨のふりつヾきて、花も腐る意なり、西土にいふ迎梅雨也といへり、

〔萬葉集〕

〈十春相聞〉

p.0186 寄レ花
春去者(ハルサレバ)、宇乃花具多思(ウノハナクタシ)、吾越之(ワガコエシ)、妹我垣間者(イモガカキマハ)、荒來鴨(アレニケルカモ)、

〔堀川院御時百首和歌〕

〈夏〉

p.0186 五月雨　　　藤原基俊
いとヾしく賤が庵のいぶせきに卯花くたし五月雨ぞふる

五月雨

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0186 五月雨〈サミタレ〉

〔書言字考節用集〕

〈二乾坤〉

p.0186 送梅雨(サミダレ)〈韵瑞、五月雨也、續博物志、俗以二五月雨一爲二分龍雨一、一曰隔轍雨、〉　五月雨(同)

〔倭訓栞〕

〈前編十佐〉

p.0186 さみだれ　送梅雨をいふ、さはさ月也、みは雨也、たれは下るなり、よて五月雨と書りといへり、一説に万葉集にさみだれとよめる歌、一首も見えず、菅家万葉集に沙亂と書せたまへり、沙は音をかれり、五月の雲はよのつねならず、亂れちるをもていふにやともいへり、源氏にも風雨を空のみだれといふめり、

〔古今和歌集〕

〈三夏〉

p.0186 寛平御時、きさいのみやの歌合のうた、　　　きのとものり
さみだれに物思ひをれば時鳥夜ぶかく鳴ていづち行らん

夕立

〔撮壤集〕

〈上天像〉

p.0186 雨　晩立(ユフダチ)〈夕立〉

〔書言字考節用集〕

〈二乾坤〉

p.0186 涷雨(ユフダチ)〈爾雅注、江東呼二夏月暴雨一爲二涷雨一、〉　白雨(同)　暴雨(同)　晩立(同)〈俗字〉

〔倭訓栞〕

〈前編三十五由〉

p.0186 ゆふだち　夕に雲發て雨ふるをいふ、よて拾遺集に、夕だちやあめもふる野の末に見てとよめり、五色線に夏雨曰二錦雨一と見えたり、涷雨ともいへり、白雨をよめるは心得がたし、俗に馬の脊をわかつといふは、五雜爼に、龍於二是時一始分界而行レ雨、各有二區域一、不レ能二相踰一、故有二咫尺之間而晴雨頓殊者一、龍爲レ之也と見えたり、

〔萬葉集〕

〈十秋雜歌〉

p.0186 詠レ露
暮立之(ユフダチノ)、雨落毎(アメフルゴトニ)、春日野之(カスガヌノ)、尾花之上乃(ヲバナノウヘノ)、白露所念(シラツユオモホユ)、

〔古今和歌六帖〕

〈一天〉

p.0187 ゆふだち
夏の日のにはかにくもる夕立のおもひもかけぬ世にもあるかな

〔源氏物語〕

〈七紅葉賀〉

p.0187 ゆふだちしてなごり凉しき宵のまぎれに、うんめいでんのわたりをたヽずみありきたまへば、此内侍びはをいとをかしうひきゐたり、〈◯中略〉ひきやみていといたくおもひみだれたるけはひなり、君あづまやを忍びやかにうたひて、より居給へるに、おしひらいてきませとうちそへたるも、例にたがひたるこヽちぞする、
　立ぬるヽ人しもあらじあづまやにうたてもかヽる雨そヽぎかな、とうちなげくを、我ひとりしもきヽおふまじけれど、うとましや何事をかくまではと覺ゆ、

〔吾妻鏡〕

〈五十二〉

p.0187 文永二年六月三日己巳、日中夕立、

時雨

〔新撰字鏡〕

〈雨〉

p.0187 霂〈亡各反、霡也志久禮、又三曾禮、〉　雹 〈同波角反、霂也、志久禮、又阿良禮、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0187 雨　孫愐曰、 雨小雨也、〈音與レ終同、漢語鈔云、之久禮、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈一風雨〉

p.0187 按、志、水垂下之義、久禮、謂二或雨或陰、天氣暗晦一也、〈◯中略〉按、之久禮、謂二暮秋初冬之際、且降且霽之雨一、漢語抄以訓二小雨之 一爲二之久禮一、非レ是、李時珍曰、立冬後十日爲二入液一、至二小雪一爲二出液一、得レ雨謂二之液雨一、所レ謂之具禮近レ之、

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0187 〈音終、シクレ、〉

〔下學集〕

〈一天地〉

p.0187 時雨(シグレ)　霎(シグレ)

〔日本釋名〕

〈上天象〉

p.0187 時雨　しばしくらき也、らとれと通ず、時雨ふる間はしばしくらし、

〔倭訓栞〕

〈前編十一志〉

p.0187 しぐれ　天陰りて小雨するをいふ、頻昏の義、歌にしぐれのあめといふは、本義なるべし、新撰字鏡に霂又雹をよみ、童蒙頌韻に をよみ、倭名抄に 雨をよめり、常に時雨をよめれど、 雨は小雨也といひ、時雨は漢晉春秋に、喜如二時雨一と見え、好雨如二時節一の意なれば、あたら

p.0188 ずといへり、或は液雨を訓ぜり、十月雨也と注せり、古今集に秋のしぐれとよめり、万葉集に鐘禮と書るは、鐘をしくとよぶは、黄鐘のよみの如く古音なるべし、今の朝鮮音にもしくといへりとぞ、

〔物類稱呼〕

〈一天地〉

p.0188 液雨しぐれ　美濃加納にて山めぐりと云、丹鈆録曰、張野盧盧山記云、天將レ雨則有二白雲一、或冠二峯岩一、或亘二中領一、俗謂二之山帶一、不レ出二三日一必雨云々、又唐詩風吹二山帶一遥知レ雨なども作れり、又不時に村雨の降を、相州箱根山にてわたくし雨といふ、

〔萬葉集〕

〈八秋雜歌〉

p.0188 市原王歌一首
待時而(トキマチテ)、落鐘禮能(オツルシグレノ)、雨令零收(アメヤメテ)、朝香山之(アサカノヤマノ)、將黄變(ウツロヒヌラム)、

〔傭字例〕

〈附録〉

p.0188 鍾禮
萬葉集に鍾禮能雨(シグレノアメ)云々、また鐘禮とも書り、鍾は韻鏡第三轉合音の字にて、漢音シヨウ、呉音シユウにて、鐘も同音也、今シグと轉し用るは、黄鍾をワウシキと呼例なり、ウ韻をク韻に轉じ用る例は、香山をカグヤマ、勇禮をイクレといふ類あまたあり、悉曇に、カキクケコを喉音とするによれるなるべし、〈◯中略〉太田氏云、鍾は漢轉音チヨク、如今、小盃ヲチヨクト喚做り、即鍾字也、コノ鍾ノ入聲燭ニ竹ノ呉ノ原音チヨクアルノ轉ナリ、又呉轉音シユク、萬葉集ニ鍾禮ヲシグレトアリ、又此轉ノウ韻ハ唐音撥(ハ子)假字ノ音ニテ、朝鮮ナドハクト呼ヤウニ聞ユトイヘリ、漳州ヲチヤクチウトイフ類ナリ云々、かヽればこの鍾字は呉音の入聲シユクを、直音になほしてシグと呼べるなり、竹の本音チユクを、チクと呼がごとし、

〔古今和歌集〕

〈六冬〉

p.0188 題しらず　　　よみ人しらず
龍田川錦おりかく神無月しぐれの雨をたてぬきにして

〔源氏物語〕

〈九葵〉

p.0188 君はかくてのみもいかでかは、つく〴〵とながめすぐし給はんとて院へまいり給、

p.0189 御車さし出て、ごぜんなどまいりあつまるほど、をりしりがほなるしぐれうちそヽぎて、木の葉さそふ風あはたヾしう吹はらひたるに、おまへにさぶらふ人々ものいとヾ心ぼそくて、すこしひまありつる袖どもうるほひわたりぬ、

〔源氏物語〕

〈十榊〉

p.0189 はつしぐれいつしかとけしきだつに、いかヾおぼしけん、かれより、
　木がらしのふくにつけつヽ待しまにおぼつかなさのころもへにけり、と聞え給へり、をりもあはれに、あながちに忍びかき給へらん、御心ばへもにくからねば、御つかひとヾめさせ給て、〈◯中略〉聞えさせてもかひなき物ごりにこそ、むげにくづをれにけれ、身のみものうきほどに、
　あひみずてしのぶる比の涙をもなべての秋の時雨とやみる、こヽろのかよふならば、いかにながめの空も、物わすれし侍らんなど、こまやかに成にけり、

〔見た京物語〕

p.0189 時雨のけしきは江戸に勝れり、月と時雨たちまちにかはる、山近ければなり、

霤

〔新撰字鏡〕

〈雨〉

p.0189 霤〈力救反、自レ屋水流下、阿米志太太留、〉

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0189 霤　説文云、霤、屋簷前雨水流下也、〈音溜、和名阿萬之太利、〉

〔類聚名義抄〕

〈七雨〉

p.0189 霤〈音留　アマシタリ〉

〔拾玉集〕

〈一〉

p.0189 百首和歌　述懷
かきくらしはれぬ思ひのひまなきにあめしづくともながれける哉

潦

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0189 潦　唐韻云、潦音老、〈和名、爾八太豆美、〉雨水也、

〔類聚名義抄〕

〈五水〉

p.0189 潦〈音老　又朗倒反　ニハタツミアマミツ〉

〔運歩色葉集〕

〈伊〉

p.0189 卒尒水(イサラミツ)

〔書言字考節用集〕

〈一乾坤〉

p.0189 潢潦(ニハタツミ)〈黄老二音、文選注、雨水流二於地一者、〉　行潦(同)〈朱子云、道上無レ源之水也、〉

〔倭訓栞〕

〈前編二十爾〉

p.0189 にはたづみ　和名抄に潦字をよみ、文選に潢潦をよめり、朱説に道上无レ源之水

p.0190 也と見ゆ、万葉集に庭多泉と書り、流るヽの枕詞也、仙覺抄に、立水居水の事見えたり、立水は泉也といへり、喜撰式に庭水にはたつみと見え、呉竹集に庭のたつみともよめり、南伊勢の俗は淵をたづみといふ、

〔古事記〕

〈下仁徳〉

p.0190 故是口子臣、白二此御歌一之時大雨、爾不レ避二其雨一、參二伏前殿戸一者、違出二後戸一、參二伏後殿戸一者、違出二前戸一、爾匍匐進赴、跪二于庭中一時、水潦至レ腰、其臣服下著二紅紐一青摺衣上、故水潦拂二紅紐一青皆變二紅色一、

〔古事記傳〕

〈三十六〉

p.0190 水潦は〈◯中略〉雨降時に、地上にたまりて流るヽ水なり、〈師（賀茂眞淵）の俄泉(ニハカイヅミ)の意なりと云れたるは、あたれりやあたらずや、いかヾあらむ、〉

〔日本書紀〕

〈二十四皇極〉

p.0190 四年六月戊申、是日雨下、潦水(イサラミヅ)溢庭、

〔萬葉集〕

〈二挽歌〉

p.0190 皇子尊宮舍人等慟傷作歌二十三首〈◯中略〉
御立爲之(ミタヽシヽ)、島乎見時(シマヲミルトキ)、庭多泉(ニハタヅミ)、流涙(ナガルヽナミダ)、止曾金鶴(トメゾカ子ツル)、

〔萬葉集〕

〈七譬喩歌〉

p.0190 寄レ雨
甚多毛(ハナハダモ)、不零雨故(フラヌアメユヱ)、庭(ニハ)立水(タヅミ)、大莫逝(イタクナユキソ)、人之應知(ヒトノシルベク)、

〔古今和歌六帖〕

〈三水〉

p.0190 にはたづみ
世の中はありてむなしきにはたづみおのがゆき〳〵別れぬる身を

〔藏玉和謌集〕

〈夏〉

p.0190 庭堪草　〈これは五月雨の頃の庭にたまる泉なり〉
五月雨やはれず降らん庭堪草行かたもなき花のゆふぐれ

沫雨

〔倭名類聚抄〕

〈一雲雨〉

p.0190 沫雨　淮南子註云、沫雨雨二潦上一、沫起若二覆盆一、〈和名宇太加太〉

〔類聚名義抄〕

〈五水〉

p.0190 沫雨〈ウタカタ〉

〔倭訓栞〕

〈前編四宇〉

p.0190 うたかた　遊仙窟に未必をよめり、虚象(ウツカタ)の意にや、古來の説に、寧(ムシロ)の意といひ、しばしの義、すこしの義などもいへり、又危くかりそめなる意、定めなくはかなき意などにも取てよ

p.0191 めりといへり、喜撰式に、若詠二不レ忌物一時うたかたといふと見え、又船うたかたといふとも見えたり、〈◯中略〉倭名抄に沫雨をよめり、淮南子注に、沫雨雨二潦上一、沫起若二覆盆一と見えたり、方丈記に、逝川の流は絶ずして、しかももとの水にあらず、流にうかぶうたかたは、かつ消かつ結んで、久しくとヾまる事なし、世中に在人のすみかと住居と、またかくの如しといへり、樂普和尚淨漚の歌に、雲天雨落庭中水、水上漂漂見二漚起一、前後相續無二窮已一、本因二雨滴一水成レ漚、還縁二風激一漚歸レ水と見えたり、未必と義通へり、万葉集に、
　うたかたもいひつヽもあるか吾あらば土には落じ空にけなまし
新後撰集に
　水の面にうきてたヾよふうたかたのまた消ぬまにかはる世の中、未必と沫雨と兩義をかねてよめる歌、後撰集に、
　おもひ川絶ず流るヽ水のあわのうたかた人にあはで消めや

〔後撰和歌集〕

〈十三戀〉

p.0191 をとこのつらうなりゆくころ、雨のふりければつかはしける、　　　よみ人しらず
ふりやめば跡だにみえぬうたかたのきえてはかなきよを頼むかな

雜載

〔古事記〕

〈上〉

p.0191 其神〈◯八千矛神〉之嫡后、須勢理毘賣命、甚爲二嫉妬一、故其日子遲神和備氐、〈三字以レ音〉自二出雲一將レ上二坐倭國一、而束裝立時、片御手者繫二御馬之鞍一、片御足蹈二入其御鐙一、而歌曰、〈◯中略〉阿佐阿米(アサアメ/○○○○)能(ノ)、佐疑理邇多多牟叙(サギリニタヽムゾ)、〈◯下略〉

〔日本書紀〕

〈二十敏達〉

p.0191 十四年三月丙戌、物部弓削守屋大連、自詣二於寺一踞二坐胡床一、斫二倒其塔一、縱レ火燔レ之、并燒三佛像與二佛殿一、既而取二所レ燒餘佛像一令レ棄二難波堀江一、是日無(○)レ雲風雨(○○○)、

〔日本書紀〕

〈二十四皇極〉

p.0191 元年十月、是月行二夏令一、無レ雲雨、

〔日本紀略〕

〈平城〉

p.0192 大同三年三月甲辰、黄雨(○○)、　庚戌、黄雨、

〔源氏物語〕

〈三十三藤裏葉〉

p.0192 こヽろあはたヾしきあまかぜ(○○○○)に、みなちり〴〵にきほひかへり給ぬ、

〔枕草子〕

〈七〉

p.0192 つれ〴〵なるもの　雨うちふりたるは、ましてつれ〴〵なり、

〔殿暦〕

p.0192 永久五年五月廿八日乙卯、今月雨不レ降、五月不二雨降一、不可思議事歟、天災有レ之、

〔古事談〕

〈一王道后宮〉

p.0192 白川院金泥一切經、於二法勝寺一可レ被二供養一、臨レ期依二甚雨一延引三箇度也、被レ遂二供養一日、猶降雨、因レ之有二逆鱗一、雨ヲ物ニ請入テ、被レ遣二獄舍一云々、〈◯又見二源平盛衰記一〉

〔夫木和歌抄〕

〈十九雨〉

p.0192 六帖題　　　爲家卿
こちふけば雨け(○○)につどふ浮雲のかきあつめてぞ物はかなしき

〔古今和歌六帖〕

〈一天〉

p.0192 あめ
こぬ人を雨のあし(○○○○)とは思はねどほどふることはくるしかりけり

〔枕草子〕

〈九〉

p.0192 風は〈◯中略〉　八九月ばかりに、雨にまじりてふきたる風、いとあはれ也、雨のあしよこざまにさはがしう吹たるに、〈◯下略〉

〔世事百談〕

p.0192 雨手風手　雲海　風はよく物を動かすこと、手あるがごとく、雨は一むらふり過ぐること、足あるが如しとて、風の手、雨の足といふことあり、雨の足は唐山にても、ふるく雨足とも、雨脚ともいへり、晉の長景陽が雜詩に、雲根臨二八極一、雨足灑二四溟一、又云、翳々結二繁雲一、森々散二雨足一と文選に見ゆ、蘇東坡の詩に、疎々雨脚長などもいへり、和歌にも平兼盛集に、
　君をおもふかずにしとらばをやみなくふりしく雨のあしはものかは、蜻蛉日記に、けふは廿四日、雨のあしいとのどかにてあはれなり、
　ふる雨のあしともおつるなみだ哉こまかに物をおもひくだけば、など見えたり、

〔催馬樂〕

p.0192 東屋

p.0193 あづまやの、まやのあまりの、雨そヽぎ(○○○○)、われ立ぬれぬ、そのとのとひらかせ、

〔源氏物語〕

〈十五蓬生〉

p.0193 御さきの露を馬のむちしてはらひつヽいれたてまつる、あまそヽぎも、なを秋のしぐれめきてうちそヽげば、みかささぶらふ、

〔枕草子〕

〈四〉

p.0193 二月つごもりがた、雨いみじうふりてつれ〴〵なるに、御物いみにこもりて、さすがにさう〴〵しくこそあれ、物やいひにやらましとなんの給ふと人々かたれど、よにあらじなどいらへてあるに、一日しもにくらしてまゐりたれば、よるのおとヾに入せ給ひにけり、〈◯中略〉すびつのもとにゐたれば、又そこにあつまりゐて物などいふに、何がしさぶらふといとはなやかにいふ、あやしくいつのまになに事のあるぞととはすれば、殿守づかさなり、たヾこヽに人づてならで申べき事なんといへば、さし出てとふに、是頭中將殿のたてまつらせ給ふ、御かへりとくといふに、いみじくにくみ給ふを、いかなる御文ならんとおもへど、たヾいまいそぎ見るべきにあらねば、いね、今きこえんとて、ふところにひきいれていりぬ、猶人の物いふきヽなどするに、すなはちたちかへりて、さらば其ありつる文を給はりてことなんおほせられつる、とく〳〵といふに、あやしくいせの物がたりなるやとて見れば、あをきうすやうにいときよげにかき給へるを、心ときめきしつるさまにもあらざりけり、らんじやうの花の時、きんちやうのもとヽかきて、末はいかに〳〵とあるを、いかヾはすべからん、御まへのおはしまさば御らんぜさすべきを、これがすゑしりがほに、たど〳〵しきまんなに書たらんも見ぐるしなど思ひまはすほどもなく、せめまどはせば、たヾ其おくに、すびつのきえたる炭のあるして、草のいほりを誰かたづねんとかきつけてとらせつれど、返事もいはで、みなねて、つとめていととくつぼねにおりたれば、源中將のこゑして、草のいほりやある〳〵とをどろ〳〵しふとへば、などてかさ人げなきものはあらん、玉のうてなもとめ給はましかば、いできこえてましといふ、〈◯下略〉

〔和漢朗詠集〕

〈下〉

p.0194 山家
蘭省花時錦帳下、廬山雨夜草庵中、

〔枕草子〕

〈十一〉

p.0194 雨は心もとなき物と思ひしみたればにや、かた時ふるもいとにくヽぞある、やんごとなき事、おもしろかるべき事、たふとくめでたかるべき事も、雨だにふればいふかひなく口をしきに、何か其ぬれてかこちたらんがめでたからん、げにかたのヽ少將もどきたる、おちくぼの少將などはをかし、それもよべをとヽひの夜も有しかばこそをかしけれ、足あらひたるぞにくくきたなかりけん、さらでは何か、

〔梅園日記〕

〈二〉

p.0194 夏雨金(○○○)　五六月ひでりの頃、たま〳〵雨ふれば、農民はかねのふる也とよろこぶ、誹諧玉海集に、宗珠が、雨乞とゆふだちはこがねかたな哉、とよめるは是なり、もろこしにも趙崇森が又旱喜レ雨詩に、五月炎歊化作レ霖、分明滴々是黄金、〈後村千家詩〉曾幾が六月十四日、大雨連朝詩に、黄金北斗高、何似六月雨〈茶山集〉など作りたるも、似たることなり、〈◯中略〉
夏雨分(○○○)二馬脊(○○)一　學海餘滴卷十に、續博物志云、俗以二五月雨一、爲二分龍雨一、一曰二隔轍雨一、本邦諺曰、夏雨分二馬脊一、既隔二車轍一、則其理必應レ分二馬脊一也とあり、〈按に南畝莠言亦此説あり〉按ずるに、田家五行拾遺に、夏雨分二牛脊一〈七修類藁に、自然一對、夏雨分二牛脊一、秋風貫二驢耳一、〉とあり、牛を午と讀あやまれる人の、いひそめたるにはあらずや、

〔梅園日記〕

〈四〉

p.0194 車軸雨(○○○)　三浦氏の世話支那草云、車軸、ある人のいはく、これは大粒にふりたる雨のたまりて、その水の上にまた落るあと、車の軸の如くに飛上り、自然に輻(ミソノヤ)のかたちをなす故にしかいふと、又あるひとのかたりしは、大唐にて殷湯の時、旱魃甚しくしければ、湯王の徳のたらざる事をなげき給ひ、薪をつみあげ、みづからその上に坐して、火を四方よりはなちたまへば、にはかに黒雲たなびき、大雨おびたヾしくそヽぎ來て、火程なくきえければ、湯王つヽがなくて、車に乘て歸り給ふ道すがら、雨水車軸を流せしより、この詞おこるとなん、按ずるに、車軸の雨こヽに

p.0195 もふるくよりいへり、台記に康治元年五月十二日、秉燭程降雨如二車軸一、宇治拾遺物語に、車軸の如くなる雨ふりて、承久軍物語に、大雨しやぢくをふらし、又平家物語、吾妻鏡、曾我物語、太平記等にも出たり、〈宇都保物語俊蔭卷に、車のわの如くなる雨ふりとあるは、軸を輪と誤りたるに侯、〉湯王の時、車軸を流したる事なし、もと佛書より出たる語なり、王安石が夢中作に、燭〈李壁箋注に、當二是獨字一、〉龍注レ雨如二車軸一、〈箋注に、華嚴經龍王於二彼大海中一雨滴如二車軸一、〉法苑珠林〈大三災部の餘〉に、依二起世經一云、注二大洪雨一、其滴甚麤、或如二車軸一、或復如レ杵とあり、また世話支那草に、篠をつく雨(○○○○○)といふこと、篠を束たる如くにふる雨なり、むさし野のしのをたばねてふる雨に螢ならではなく虫もなし、誹諧崑山集に、正知、しのをつきふりくるや鑓梅の雨、吉野拾遺〈卷一〉に、またかきくもりしのをつくが如くふりいでければ云々、按ずるに、吉野拾遺一二の卷は僞書也とて、群書類從に除かれたるは卓見といふべし、しのをつくと云こと、無下に近き詞也、是も亦僞書の一證也、古くはしのにふるといへり、無名子永享三年道之記に、かしは原といふ所より、秋の雨しのにふる、また逍遥院殿の雪玉集に、むまや、袖もさぞふりくる雨はしのづかのむまやのすヾのさよふかきこゑ、とよませ給ひしもこれなり、又今さりがたきことのあるとき、鎗が降(○○○)ともゆくべしといふ俗語あり、韻語陽秋に、詩人比レ雨如レ絲如レ膏之類甚多、至二杜牧一乃以二羽林槍一爲レ比、念昔游云、水門寺外逢二猛雨一、林黒山高雨脚長、曾奉二郊官一爲二近詩一、分明㩳々羽林槍、大雨行云、萬里横レ牙羽林槍と見えたり、又卯の刻雨に笠をぬげといひて、明がたにふりいづる雨は必晴るといふ、重修臺灣府志に、稗海紀遊を引て、昧爽時雨、俗呼二開門雨一、是日主レ晴、昧爽是初明時也と、かしこにもいふことなり、又春は海はれ、秋は山はるれば日よりなりとて、春海秋山といふ、これも同書に、赤嵌筆談を引て、春日晩觀レ西、冬日晩觀レ東、有二黒雲起一主レ雨、諺云、冬山頭春海口といひて雨をしるなり、又朔日に雨ふれば、その月中雨おほしといふ、呉中田家志に、上旬交月雨、謂二朔日之雨一也、主三月内多二雨風吹一、また江戸にて廿四五兩日はおほく雨ふるといふ、もろこしには、この日ふればなが雨なりといへり、陸游が劒

p.0196 南詩稾〈八十二〉秋雨詩に、屋穿況値二雨騎一レ月、自注に、俗謂二二十四五雨一爲二騎月雨一、主二霖霪不一レ止、また毎年三月十五日、江戸は雨ふる事おほし、俗人梅若の涙雨とよぶ、唐土にては大風ふくといへり、明の鄭仲 が耳新に、毎年三月十五六、俗相戒爲二馬和尚渡レ江日一、必有二大風一敗レ舟、中山傳信録〈風暴日期〉に、三月十五日眞人颶などあり、又雷鳴あれば梅雨はるヽといふ、歳時廣記に、瑣碎録云、芒種後遇レ壬入梅、遇二雷電一謂二之斷梅一、〈葛原詩話に、放翁が詩の自注を引たり、〉とあり、

〔梅園日記〕

〈五〉

p.0196 甲子雨　天文九年の守武千句に、など大黒をかたらはざらん、甲子にふりつることよ雨のくれ、といへるは、今もいふ甲子の雨にて付たる句なり、また多聞院日記に、天正三年三月廿五日、天氣快然、春ノ甲子ニ雨下レバ大炎ト百姓申、先以雨不レ下珍重候とあり、按ずるに、朝野僉載に、諺云、春雨二甲子一、赤地千里、〈全唐詩徐寅詩に、豐年甲子春無レ雨、〉夏雨二甲子一、乘レ船入レ市、〈孔氏談苑に、乘レ船入レ市者雨多也、陳師道が后山集、和二黄預久雨一詩に、甲子猶逢レ夏、連朝雨脚垂、〉秋雨二甲子一、禾頭生レ耳、〈杜詩千家註補遺に、此八字齊民要術にありといへり、昌黎文集五百家注に、朝野僉載を引て木頭垂レ耳に作れり、〉冬雨二甲子一、鵲巣下レ地、其年大水〈また觀象玩占に、春雨二甲子一日旱、夏雨二甲子一四十日旱、秋雨二甲子一四十日澇、冬雨二甲子一二十七日寒雪、〉とあり、かの百姓の申しは、これによれるなるべし、さて今は四時ともに甲子の雨は、長雨のしるしなりとするは、田家五行に、春雨二甲子一、乘レ船入レ市、言平地可レ通二舟楫一也、夏雨二甲子一、赤地千里、一云赤尺古字通用、言爲レ水阻、跬歩若二千里之艱一也、秋雨二甲子一、禾頭生レ耳、冬雨二甲子一、飛雪千里、牛羊凍死、また雨航雜録に、徐光訓曰、子爲二水位一、雨二於甲一則水徴など見えたる説によれるなるべし、されども赤地を尺地とするは非なり、〈◯下略〉

〔和漢三才圖會〕

〈三天象〉

p.0196 以二風方角一知二雨晴一　五雜組云、詩曰、習習谷風以陰以雨、谷風東風也、東風主二發生一、故陰陽和而雨澤降、大抵東風必雨、然關西西風則雨、東風則晴、　按、本邦亦毎雖二東風生一レ雨、如二梅雨及土用中一以二東風一晴、秋雖二北風生一レ雨、秋夜則以二北風一晴、〈◯中略〉　凡春東風、夏南、秋西、冬北、是時旺分爲レ常、從二時氣一所レ生方風必生レ雨、如二春〈木〉南〈火〉秋〈金〉北〈水一〉是也、從二風方一生二時氣一者必晴、東〈木〉夏〈火〉西〈金〉冬〈木〉是也、蓋五月西者非二正西一謂二坤乾之土氣一也、夏〈火〉戊未〈土〉以可レ知、古人未レ言レ之、以二理自然一、載二愚案一而已、

〔萬寶鄙事記〕

〈六占天氣〉

p.0197 雨　五更に雨ふれば明る日必晴、五更とは夜るの七ツ時、曉前なり、くれの雨ははれがたし、　久雨の後くれがたに雨止みて、明らかに晴るはかならず又雨、　雨と雪とまじるは晴がたし　快き雨快く晴、老子曰、俄雨は日をおえず、　雨水に泡あるは、はれやすからず、　天一天上の甲午の日雨ふれば久しくはれず、天一神天より下、かのえいぬの日もおなじ、　久雨くもりて晴ず、午時の前に至りて少やむは、午時の後大雨、午の正時に少やむはよし、　久雨くらきはよし、久雨に天忽明かになるは、必ず又雨ふる、雨中に日てるは天氣よからず、又雨止て後、軒のあまだり未やまざるに日照るは、又雨となる、　春甲子の日雨ふれば赤地千里、いふ心は日でり也、一説赤地は尺地也、雨へだてヽ尺地も千里のごとし、夏の甲子に雨ふれば、船をさヽへて市に入る、云意は大水出る、秋の甲子の雨は、いねのかしら耳を生ず、冬の甲子の雨は、牛羊こヾえ死す、又一説に、春甲子に雨ふれば、船に乘て市に入、夏甲子にふれば赤地千里、秋甲子にふれば、いねのかしら耳を生ず、冬甲子雨ふれば、雪とぶ事千里と、二説同じからず、いづれの説よきにやしらず、丁巳の日雨ふれば四十五日日を見ず、〈◯中略〉　春あたヽかなるべきに、寒きは雨おほし、　夏さむきは水出、夏にはかにあつきは雨ふる、〈◯中略〉　甲午の旬中かはける土なし、いふ心は雨しげし、　朔日晴れば、その月のうちは晴おほし、朔日雨ふれば、月の内くもりがちに雨ふる、朔日の前より雨つヾきたるはかろし、毎月初三日晴れば、久しくはるヽ、十五日晴れば久しく雨ふらず、　三日月の下に黒雲ありて、よこぎるれば明日雨ふる、　晦日に雨なければ、來月のはじめかならず風雨あり、〈◯中略〉　久雨ふれば、かならず其後ひさしく日てる、　春甲子大雨ふれば夏大旱す、夏甲子に雨ふれば又秋旱す、　久雨久晴は、きのえの日より變ず、　久晴は戌の日に雨ふる、久雨はかのえの日はるヽ、　久雨晴ざるは丙丁に晴る、久雨ふらざるは戊巳にふる、　八專に入たる明日は多くは雨ふる、俗に八專の通ふりと云、〈◯中略〉　海上のおきの方鳴るは必北風ふく、おき鳴て天

p.0198 氣よくなる事有、雨ふりて後なるは晴る、晴ておきなるは雨、

〔三養雜記〕

〈一〉

p.0198 雨の長短を知る歌　雨のながみじかを知る歌に
　子はながし丑は一日寅は半卯は一時とかねてしるべし、この順に十二時ながら數ふればしるヽなり、この歌のしらべよろしからずとて、後水尾上皇の御製に、よみ直させたまひしといひ傳ふるに、
　曇りなば雨とさだめよふりふらずちら〳〵ちらと天氣なりけり、曇りなば〈長雨をいふ、子辰申、〉ふりふらず〈日を經ざる雨なり、丑巳酉、〉ちら〳〵〈半日ほど、寅午戌、〉天氣〈天氣はるヽなり、卯未亥、〉とくるなり、あるひは云、風を占にもよくあたれりといへり、