帝王部/踐祚下

立太子之日踐祚

〔皇年代略記〕

〈宇多〉

p.0269 仁和三年八月廿五日、爲二親王一、同廿六日、辰一刻立二皇太子一、酉一刻被レ奉二劒璽一受禪、

〔帝王編年記〕

〈十四宇多〉

p.0269 仁和三年八月廿五日丙寅、爲二親王一、同廿六日丁卯、爲二皇太子一、〈年廿一〉同日即位、
◯按ズルニ、此書ニ即位トアレドモ、其實ハ踐祚ナリ、

〔大鏡〕

〈一宇多〉

p.0269 つぎのみかど、亭子のみかど〈◯宇多〉と申き、〈◯中略〉仁和三年戊申八月廿六日、東宮にたヽせ給ひて、同じ日位につかせ給ふ、

〔玉海〕

p.0269 壽永二年八月十日壬寅、依二昨日召一、申刻著二直衣一參院、先レ是左大臣、〈◯藤原經宗〉内大臣〈◯藤原實定〉在二西對代南座一、余同加二其座一、昨日催之時、申下依二所勞一參入不定之由上、仍予參入以前、大略議定畢云々、兩府粗語二其趣一、各云、兼光爲レ奏二聞評定之趣一參二御所一畢、未二歸來一之間也云々、此間三人交語、兼光於レ不レ來、仍左大臣召二藏人一觸二余參入之由於兼光一、蹔兼光來、仰二左府一曰、條々聞食畢、但親王宣旨事重可二計申一者、左大臣被レ目レ余、余曰、可レ被レ下二親王宣旨一之間儀歟、彼宣旨可レ有否之儀歟、兼光曰、兩條共可二定申一者、余云、任二光仁天皇例一、雖レ無二親王宣旨一何事示且宣下之間無二便宜一之上、寳龜例爲二最吉一者、左内兩府同レ之、此事余參入以前、兩府被レ申下可レ有二親王宣旨一之由上云々、而今爰其儀被レ同二余議一也、此後兼光問二條々事於余一、兩府以前申畢事等也、　十九日辛亥、〈◯中略〉宣命事、嘉承之例頗雖二相似一、偏難二准據一彼者自二皇太子一有二登極事一、此者即日定二皇太子一可レ奉レ授二帝位一、然者太上天皇〈◯後白河〉詔〈二天〉皇太子并踐祚、前主〈◯安徳〉不慮脱屣、攝政如

p.0270 レ舊事等ヲ可二書載一云々、　廿日壬子、此日有二立皇〈◯後鳥羽〉事一云々、

〔神皇正統記〕

〈後鳥羽〉

p.0270 先帝〈◯安徳〉西海に臨幸ありしかど、祖父法皇〈◯後白河〉の御世なりしかば都はかはらず、攝政基通の大臣ぞ、平氏の縁にて供奉せられしを、いさめ申ともがら有けるにや九條の大路邊よりとヾまられぬ、其外平氏の親族ならぬ人々は、御供つかまつる人なかりけり、還幸あるべきよし院宣ありけれど、平氏承引し申さず、依レ之太上法皇の詔にて、此天皇たヽせ給ひぬ、親王の宣旨までもなし、先皇太子とし、即受禪の儀あり、翌年甲辰にあたる年四月に改元、七月に即位、此同胞に高倉の第三の御子まし〳〵しかども、法皇此君をえらび定め給ひけるとぞ、
◯按ズルニ、後鳥羽天皇ハ、後白河法皇ノ詔ニテ、安徳天皇ノ皇太子ニ立チ、即日踐祚シ給ヒシナリ、

受禪之日踐祚

〔日本書紀〕

〈十八安閑〉

p.0270 二十五年〈◯繼體〉二月丁未、男大迹天皇〈◯繼體〉立大兄一〈◯安閑〉爲二天皇一、即日男大迹天皇崩、

〔日本書紀〕

〈二十五孝徳〉

p.0270 天豐財重日足姫天皇〈◯皇極〉四年六月庚戌、〈◯中略〉天豐財重日足姫天皇授二璽綬一禪レ位、策曰、咨爾輕皇子云々、〈◯中略〉由レ是輕皇子不レ得二固辭一升レ壇即レ祚、

〔續日本紀〕

〈一文武〉

p.0270 高天原廣野姫天皇〈◯持統〉十一年立爲二皇太子一、　八月甲子朔、受レ禪即レ位、

〔續日本紀〕

〈七元正〉

p.0270 九月〈◯靈龜元年〉庚辰、受レ禪即二位于大極殿一、

〔神皇正統記〕

〈元正〉

p.0270 乙卯〈◯靈龜元年〉の正月に攝政、九月に受禪、その日即位、

〔續日本紀〕

〈九聖武〉

p.0270 神龜元年二月甲午、受レ禪即二位於大極殿一、

〔續日本紀〕

〈十七聖武〉

p.0270 天平勝寳元年七月甲午、皇太子〈◯孝謙〉受レ禪即二位於大極殿一、

〔續日本紀〕

〈二十一淳仁〉

p.0270 天平寳字二年八月庚子朔、高野天皇〈◯孝謙〉禪二位於皇太子一、〈◯淳仁、中略、〉是日、皇太子受レ禪、即二天皇位於大極殿一、

〔續日本紀〕

〈三十六光仁〉

p.0270 天應元年四月辛卯、詔云、〈◯中略〉朕以二寡薄一寳位〈乎〉受賜〈氐〉年久重〈奴、◯中略〉故是以皇太子

p.0271 〈止〉定賜〈留〉山部親王〈爾、◯桓武〉天下政〈波〉授賜〈布、◯中略〉是日皇太子受レ禪即レ位、

先帝崩之明年踐祚

〔日本書紀〕

〈四懿徳〉

p.0271 三十八年〈◯安寧庚寅〉十二月、磯城津彦玉手看天皇〈◯安寧〉崩、　元年〈◯辛卯〉二月壬子、皇太子〈◯懿徳〉即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈四孝安〉

p.0271 八十三年〈◯孝昭戊子〉八月、觀松彦香殖稻天皇〈◯孝昭〉崩、　元年〈◯己丑〉正月辛卯、皇太子〈◯孝安〉即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈四孝靈〉

p.0271 百二年〈◯孝安庚午〉正月、日本足彦國押人天皇〈◯孝安〉崩、　元年〈◯辛未〉正月癸卯、太子〈◯孝靈〉即二天皇位一、

〔水鏡〕

〈上孝靈〉

p.0271 孝安天皇の御世、七十六年正月に、東宮にたち給ふ、御とし廿六、ちヽみかどうせ給ひて、次のとし正月二日ぞ位につき給ひし、御とし五十三、

〔日本書紀〕

〈五崇神〉

p.0271 六十年〈◯開花癸未〉四月、稚日本根子大日日天皇〈◯開化〉崩、　元年〈◯甲申〉正月甲午、皇太子〈◯崇神〉即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈十二履中〉

p.0271 八十七年〈◯仁徳己亥〉正月、大鷦鷯天皇〈◯仁徳〉崩、　元年〈◯庚子〉二月壬午朔、皇太子〈◯履中〉即二位於磐余稚櫻宮一、

〔日本書紀〕

〈十五仁賢〉

p.0271 三年〈◯顯宗丁卯〉四月弘計天皇〈◯顯宗〉崩、　元年〈◯戊辰〉正月乙酉、皇太子〈◯仁賢〉於二石上廣高宮一即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈二十敏達〉

p.0271 三十二年〈◯欽明辛卯〉四月、天國排開廣庭天皇〈◯欽明〉崩、　元年〈◯壬辰〉四月甲戌、皇太子〈◯敏達〉即二天皇位一、
◯按ズルニ、先帝ノ崩後年ヲ踰エテ踐祚シ給フハ、殆ド上古ノ恒例タルガ如クニシテ、其跡少カラズ、今悉クハ擧ゲス、

先帝崩後久不踐祚

〔日本書紀〕

〈四綏靖〉

p.0271 神渟名川耳天皇〈◯綏靖、中略、〉至二四十八歳一、神日本磐余彦天皇〈◯神武〉崩、　元年正月己卯、神

p.0272 渟名川耳尊即二天皇位一、

〔神皇正統記〕

〈綏靖〉

p.0272 父の天皇〈◯神武〉かくれまして、三年ありて即位したまふ、庚辰のとしなり、大倭葛城高岡の宮にまします、

〔皇年代略記〕

〈神武〉

p.0272 七十六年丙子三月甲辰、崩、〈◯中略〉　天下諒闇、〈本朝諒闇始也、見二日本紀一、神武崩後三年空二王位一、綏靖即位之前、雖レ無二人主一諒闇之例也、〉　此後三年丁丑、戊寅、己卯、空二王位一、

〔日本書紀〕

〈四孝昭〉

p.0272 三十四年〈◯懿徳甲子〉九月、大日本彦耜友天皇〈◯懿徳〉崩、　元年〈◯丙寅〉正月甲子、皇太子〈◯孝昭〉即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈二十七天智〉

p.0272 天萬豐日天皇〈◯孝徳〉後五年十月崩、明年皇祖母尊〈◯齊明〉即二天皇位一、七年七月丁巳、崩、皇太子〈◯天智〉素服稱レ制、

〔日本書紀〕

〈二十七天智〉

p.0272 七年正月戊子、皇太子〈◯天智〉即二天皇位一、〈或本云、六年歳次丁卯三月、即位、〉

〔皇年代略記〕

〈天智〉

p.0272 辛酉年〈◯齊明七年〉七月、齊明崩、以來皇太子〈◯天智〉厚至孝、不レ稱二即位一、壬戌以來、於二岡本宮一攝政五箇年、至二六年丁卯三月己卯一、遷二都于近江大津宮一、八年己巳正月戊子、即位、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0272 朱鳥元年〈◯丙戌〉九月丙午、天渟中原瀛眞人天皇〈◯天武〉崩、皇后〈◯持統〉臨レ朝稱レ制、　四年〈◯持統庚寅〉正月戊寅朔、物部麻呂朝臣樹二大盾一、神祇伯中臣大嶋朝臣讀二天神壽詞一、畢忌部宿禰色夫知奉二上神璽劒鏡於皇后一、皇后即二天皇位一、公卿百寮、羅列匝拜、而拍レ手焉、

〔皇年代略記〕

〈持統〉

p.0272 朱鳥元年丙戌、皇后〈◯持統〉臨レ朝、〈天武雖二皇子坐一、以二皇后一攝二天下一、以二丁亥一爲二元年一、〉四年庚寅四月、皇太子草壁薨、五年正月一日戊寅、即位、

〔神皇正統記〕

〈持統〉

p.0272 皇子草壁わかくまし〳〵しかば皇后〈◯持統〉朝にのぞみ給ふ、戊子のとしなり、庚寅の春正月一日、即位、
◯按ズルニ、持統天皇ハ、日本書紀ニ依ルニ、朱鳥元年丙戌ニ、皇后ヲ以テ朝ニ臨ミ制ヲ稱シ、其

p.0273 翌年丁亥ヲ以テ元年ト稱シ、其三年己丑四月ニ、草壁太子薨ジ、四年庚寅ニ、皇后ヨリ天皇ノ位ニ即キタマヘリ、然ルニ皇年代略記ニ、庚寅ノ歳ニ草壁太子薨ジ、辛卯ニ持統天皇即位ト爲シ、神皇正統記ニ、戊子ノ歳ノ臨朝トスルハ竝ニ誤ナリ、

葬先帝後久不踐祚

〔日本書紀〕

〈二十七天智〉

p.0273 六年二月戊午、合下葬天豐財重日足姫天皇〈◯齊明〉與二間人皇女一〈◯孝徳后〉於小市岡上陵上、

〔日本書紀〕

〈二十七天智〉

p.0273 七年正月戊子、皇太子〈◯天智〉即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0273 朱鳥元年九月丙午、天渟中原瀛眞人天皇〈◯天武〉崩、皇后臨レ朝稱レ制、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0273 二年十一月戊午、皇太子〈◯文武〉率二公卿百寮人等一、與二諸蕃賓客一適二殯宮一、〈◯天武〉而慟哭焉、於レ是奉レ奠奏二楯節舞一、諸臣各擧二己先祖等所レ仕状一遞進レ誄焉、　乙丑、布勢朝臣御主人、大伴宿禰御行遞進レ誄、直廣肆當麻眞人智徳奉レ誄二皇祖等之騰極次第一禮也、畢葬二于大内陵一、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0273 四年正月戊寅朔、〈◯中略〉忌部宿禰色夫知奉二上神璽劒鏡於皇后一、〈◯持統〉皇后即二天皇位一、

未葬先帝而踐祚

〔日本書紀〕

〈四安寧〉

p.0273 三十三年〈◯綏靖〉五月、神渟名川耳天皇〈◯綏靖〉崩、　其年七月乙丑、太子〈◯安寧〉即二天皇位一、元年十月丙申、葬二神渟名川耳天皇於倭桃花鳥田丘上陵一、

〔日本書紀〕

〈四懿徳〉

p.0273 三十八年〈◯安寧〉十二月、磯城津彦玉手看天皇〈◯安寧〉崩、　元年二月壬子、皇太子〈◯懿徳〉即二天皇位一　八月丙午朔、葬二磯城津彦玉手看天皇於畝傍山南御陰井上陵一、

〔日本書紀〕

〈四孝安〉

p.0273 八十三年〈◯孝昭〉八月、觀松彦香殖稻天皇〈◯孝昭〉崩、　元年正月辛卯、皇太子〈◯孝安〉即二天皇位一、　三十八年八月己丑、葬二觀松彦香殖稻天皇于掖上博多山上陵一、

〔日本書紀〕

〈四孝元〉

p.0273 七十六年〈◯孝靈〉二月、大日本根子彦太瓊天皇〈◯孝靈〉崩、　元年正月甲申、太子〈◯孝元〉即二天皇位一、　六年九月癸卯、葬二大日本根子彦太瓊天皇于片丘馬坂陵一、

〔日本書紀〕

〈四開化〉

p.0273 五十七年〈◯孝元〉九月、大日本根子彦國牽天皇〈◯孝元〉崩、　十一月壬午、太子〈◯開化〉即二天皇位一、　五年二月壬子、葬二大日本根子彦國牽天皇于劍池嶋上陵一、

〔日本書紀〕

〈六垂仁〉

p.0274 六十八年〈◯崇神〉十二月、御間城入彦五十瓊殖天皇〈◯崇神〉崩、　元年正月戊寅、皇太子〈◯垂仁〉即二天皇位一、　十月癸丑、葬二御間城天皇於山邊道上陵一、

〔日本書紀〕

〈七成務〉

p.0274 六十年〈◯景行〉十一月、大足彦天皇〈◯景行〉崩、　元年正月戊子、皇太子〈◯成務〉即位、　二年十一月壬午、葬二大足彦天皇於倭國之山邊道上陵一、

〔日本書紀〕

〈十三允恭〉

p.0274 六年〈◯反正〉正月、瑞齒別天皇〈◯反正〉崩、　元年十有二月、〈◯中略〉皇子〈◯允恭〉曰、群卿共爲二天下一請二寡人一、寡人何敢遂辭、乃即二帝位一、　五年十一月甲申、葬二瑞齒別天皇于耳原陵一、

〔日本書紀〕

〈十三安康〉

p.0274 三年〈◯丙申〉八月壬辰、天皇爲二眉輪王一見レ弑、三年後乃葬二菅原伏見陵一、
◯按ズルニ、雄略天皇ハ、此年十一月甲子ノ日即位シ給ヒシナリ、

〔日本書紀〕

〈十五清寧〉

p.0274 二十三年〈◯雄略〉八月、大泊瀬天皇〈◯雄略〉崩、　元年正月壬子、命二有司一設二壇場於磐余甕栗一、陟二天皇位一、　十月辛丑、葬二大泊瀬天皇于丹比高鷲原陵一、

〔日本書紀〕

〈十五仁賢〉

p.0274 三年〈◯顯宗〉四月、弘計天皇〈◯顯宗〉崩、　元年正月乙酉、皇太子〈◯仁賢〉於二石上廣高宮一、即二天皇位一、　十月己酉、葬二弘計天皇于傍岳磐杯丘陵一、

〔日本書紀〕

〈十七繼體〉

p.0274 八年〈◯武烈〉十二月己亥、小泊瀬天皇〈◯武烈〉崩、元無二男女一可レ絶二繼嗣一、　元年二月甲午、〈◯中略〉男大迹天皇〈◯繼體〉曰、大臣大連、將相諸臣、咸推二寡人一、寡人敢不レ乖、乃受二璽符一、是日即二天皇位一、　二年十月癸丑、葬二小泊瀬稚鷦鷯天皇于傍丘磐杯丘陵一、

〔日本書紀〕

〈二十一用明〉

p.0274 十四年〈◯敏達〉八月、渟中倉太珠敷天皇〈◯敏達〉崩、　九月戊午、天皇即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈二十一崇峻〉

p.0274 二年〈◯用明〉四月、橘豐日天皇〈◯用明〉崩、　八月甲辰、炊屋姫尊〈◯用明皇后推古〉與二群臣一勸二進天皇一、即二天皇位一、　四年四月甲子、葬二譯語田天皇〈◯敏達〉於磯長陵一、
◯按ズルニ、用明天皇ノ、未ダ先帝ヲ葬ラズシテ踐祚シ給ヒシノミナラズ、崇峻天皇モ亦、未ダ敏達天皇ヲ葬ラズシテ踐祚シ給ヒシナリ、

〔續日本紀〕

〈四元明〉

p.0275 慶雲四年六月、豐祖父天皇〈◯文武〉崩、　七月壬子、天皇即二位於大極殿一、　十一月甲寅、葬二倭根子豐祖父天皇于安古山陵一、

〔扶桑略記〕

〈二十二光孝〉

p.0275 仁和三年八月廿六日丁卯、天皇聖體乖豫、是日立二第七皇子諱一〈◯宇多〉爲二皇太子一、是日巳二刻、天皇崩二於仁壽殿一、〈春秋五十八〉　九月二日壬申、葬二山城國葛野郡後田邑陵一、〈一云、小松山陵、〉
◯按ズルニ、宇多天皇ハ、立太子ノ日踐祚シ給ヒタリ、ナホ立太子之日踐祚ノ條參看スベシ、

〔日本紀略〕

〈五冷泉〉

p.0275 康保四年五月廿五日癸丑、巳時天皇〈◯村上〉崩二於清涼殿一、〈年四十二〉子刻奉二璽劒於皇太子〈◯冷泉〉直曹襲芳舍一、〈或云、凝華舍、〉固二三關一警二諸衞一、　廿七日乙卯、大行皇帝御入棺、依二遺詔一仰レ令レ停二素服擧哀一、但可レ有二心喪一、　六月四日辛酉、今夕奉レ土二葬先皇〈◯村上〉於山城國葛野郡田邑郷北中尾一、
◯按ズルニ、冷泉天皇以下ハ、未ダ先帝ヲ葬ラズシテ踐祚シ給フコト、歴朝ノ恒例トナレリ、故ニ略ス、

受神璽後經月日而踐祚

〔日本書紀〕

〈十四清寧〉

p.0275 二十三年〈◯雄略〉十月壬申、大伴室屋大連率二臣連等一、奉二璽於皇太子一、〈◯清寧〉　元年正月壬子、命二有司一設二壇場於磐余甕栗一、陟二天皇位一、

〔日本後紀〕

〈十三桓武〉

p.0275 大同元年三月辛巳、〈◯中略〉天皇崩二於正寢一、春秋七十、皇太子〈◯平城〉哀號擗踊、迷而不レ起、參議從三位近衞中將坂上大宿禰田村麻呂、春宮大夫從三位藤原朝臣葛野麻呂固請扶下レ殿而遷二於東廂一、次璽并劒櫃、　四月庚子、葬二於山城國紀伊郡柏原山陵一、　辛丑、行二三七齋於山陵一、　丙午、右大臣神王等上啓曰、惟天爲レ大、運二四序一以授レ時、惟辟奉レ天、括二三才一而育レ物、故能據二龍圖一而朝二萬國一、握二鳳紀一而撫二八荒一、鼎業於レ是永隆、風聲所二以自遠一、大行天皇〈◯桓武〉膺二通三之嘉命一、乘二得一之昌期一、籠二軒昊一而功成、躡二殷周一而治定、奄棄二率土一、遄及二登仙一、徒仰二弓劒一、痛踰二湯火一、伏惟皇太子〈◯平城〉殿下禀二惟叡之神姿一、承二元嗣之洪緒一、誠孝過レ禮、哀慕靡レ追、神等遐觀二往册一、緬歴二前脩一、莫レ不下俯就二弘規一式纂中洪業上、伏乞殿下、可下割二荼毒一而存二至孝一、率二典章一而昇二寳位一、裁二成四海一、字中濟萬方上、无レ任二懇性之至一、謹奉啓以聞、　辛亥、百官重復上啓曰、夫令者、

p.0276 隨レ代垂レ制、臨レ時定レ議、依レ事改張、備二於權宜一、謹案二禮家一、先君崩、嗣子位定二於初喪一、即位既明、无レ疑二遵行一、臣等今月十三日奉レ啓、率二迪舊章一、欲レ申二禮典一、荼毒之始、不レ許レ所レ請、伏惟殿下、叡情天縱、孝心自然、哀痛攀慕、抑レ禮不レ從、綸旨尚稱レ令、敷奏毎曰レ啓、稽二之禮家一、當レ爲二違失一、求二於人事一、亦有レ不レ愜、臣等愚情、竊懷レ不レ穩、伏望改レ令稱レ勅、使レ易二施行一、報曰、余小子未レ忍三即稱二帝號一、然卿等数有二上啓一、義在レ難レ違、不レ果レ窮レ心、唯増二摧感一、　五月庚午、〈◯中略〉是日群臣上表曰、臣等近稽二之舊章一、請以レ昇二朝位一、陛下不レ垂二省納一、未レ允二翹誠一、在二於聖躬一、實雖レ盡レ美、議二請凡厥一、竊恐レ未レ安、豈有下徳被二无方一者、殉二匹夫之小節一、化覃二有截一者、略中皇王之宏規上哉、天下至大、庶政至殷、一日萬機、不レ可二蹔曠一、伏願陛下、上念二社稷之重一、下從二黎元之望一負レ扆臨レ朝、凝レ旒布レ政、則小大之心允睦、遠近之情克諧、國家惟寧、天下幸甚、臣等請擇二良辰一、班二示有司一、不レ勝二憂惶之至一、謹詣レ闕以聞、勅、近省二公卿等表請一、以二宗社事重一、哀慟之情、不レ能二弭忘一、而再三敦逼、因依二來請一、其左右京并天下諸國、待二大祓使到一祓清、然後釋レ服、不レ得三囙レ此飮宴作レ樂并著二美服一、

〔日本後紀〕

〈十四平城〉

p.0276 大同元年五月辛巳、即二位於大極殿一、

〔文徳實録〕

〈一〉

p.0276 嘉祥三年三月己亥、仁明皇帝崩二於清涼殿一、干時皇太子〈◯文徳〉下レ殿御二宜陽殿東庭倚廬一、左右大臣率二諸卿及少納言左右近衞少將等一、獻二天子神璽寳劔符節鈴印等一、須叟駕二輦車一移二御東宮雅院一、陣列之儀一同二行幸一、但無二驚蹕一、　乙巳〈◯中略〉公卿奏言、施二事天下一猶稱二令旨一、在二於視聽一有レ所レ疑、請禀二天旨一、改レ令代レ勅、未二之許一焉、　四月己酉、公卿上啓曰、竊以萬物不レ能二自化一、資二大匠一以陶鈞、億兆不レ能二自治一、頼二元首之司牧一、一時曠レ位、則九服所二以廻遑一、一日無レ政、則萬機由レ其擁塞、是以姫王纉レ統、戴二冕宅憂之初一、漢帝乘レ乾正二位徂落之夕一、通行不レ滯、爲二萬代之舟車一、觀望相依百王之戸牖者也、大行聖帝、〈◯仁明〉明齊二日月一、道括二乾坤一、崇徳叶二於笙鏞一、體政存二於爼豆一、七十二帝、彼復何人、三五六經、本慙二聲教一、遂撹二乃昔以來禮典舊章一、察二其利病之端一、參二於方今之代一、遺制云、皇太子可下於二柩前一即二皇帝位一、一依中周漢故事上、伏惟殿下深仁植レ性、純孝因レ心、寢門問レ豎、竭二愛敬之誠一、馳道申レ虔、盡二温恭之禮一、臣子之道克宣、天人之望允集、宜下肅奉二聖旨一、

p.0277 屬二兹時來一、居二南面之尊高一、應中北辰之大寳上、而偏纒二罔極之至哀一、不レ忍二割レ情以就一レ禮、渉レ旬踰レ月、以至二今日一、臣等顒々、深所レ未レ達、況乎先帝已有二遺勅一、孝善述二父志一、何得下拘二匹夫之情孝一、缺中萬乘之典章上、謹案二春秋例一、人君即位有レ四、初喪即位一也、〈◯此下恐脱二既葬二字一〉即位二也、踰レ年即位三也、三年諒闇終即位四也、殿下已在二初喪一而忘レ制、宜下追二既葬一而示レ儀、上承二七廟之靈一、下定中萬民之望上、臣等自負二舊恩於丘山一、思レ致二新主於尭舜一、不レ任二悾欵之至一、謹奉啓以勸進、令曰、雖レ有二遺詔一既踰二旬月一、況亦陵土未レ乾、不レ忍レ即レ正、不レ聽、　庚戌、公卿重上啓曰、臣等先已上啓、具陳二勸進之誠一、而殿下至孝爲レ性、不レ忍レ割レ情、久曠二萬機一、經二引數月一、雖レ云二禮制一、亦有二權時一、請擇二吉辰一早正二其位一、以順二兆人之望一、以固二萬國之基一、令曰、卿等上啓驟諭二中誠一、事縁二遺詔一、義歸二權奪一、今不レ獲レ已、俯依二來啓一、　癸丑、帝公除、百官吉服、大二祓於朱雀門前一、　戊午、帝自二雅院一移二御中殿一、　甲子、帝即二位於大極殿一、
◯按ズルニ、此他推古天皇、清和天皇ノ如キモ、マタ神璽ヲ受ケテ後、月日ヲ經テ踐祚シ給ヒシモノナリ、推古天皇ノコトハ、女帝踐祚ノ條ニ、清和天皇ノコトハ、幼帝踐祚ノ條ニ詳ナリ、各就テ看ルベシ

不受神器而踐祚

〔玉海〕

p.0277 壽永二年八月六日戊戌、〈◯中略〉此日參院、以二定能卿一申入、以二頭辨兼光一被二仰下一云、立王事所二思食煩一也、先可レ奉レ待二主上〈◯安徳〉還御一哉、將又且雖レ無二劒璽一、可レ奉レ立二新主一哉之由被レ行二御卜一之處、官寮共申下可レ被レ奉レ待二主上一之由上、而於二此事一依レ可二思食一、重被レ問二官寮一、各數人〈官二人、寮八人、〉申状彼是不レ同、但吉凶半分也、此上事何様可レ有二沙汰一哉可二計申一矣、申云、先次第沙汰頗以依レ運歟、先有二議定一人意不二一決一、偏可レ訪二占卜一之由議奏之時可レ有二御卜一也、而遮以被レ行二御卜一、今又被レ乖二彼趣一之條太以無二其謂一、卜先不二再三一、云々、而及二度々一之條又以不レ可レ然、而於レ今者偏可レ被レ用二卜先一、重隨二良將吉神等之趣一、可レ有二斟酌一歟、但愚案之所レ及立王懈怠、愚心所二傾思一也、其故先京華狼籍不レ止、是人主不二御坐一之令レ然也、〈是一〉次須被之處平氏等奉レ具二主上及三神一、已赴二海西一、不立主有伐於レ議有レ妨、〈是二〉次我朝之習、不レ得二劒璽一踐祚曾無レ例、而繼體

p.0278 天皇爲二臣下一被レ迎之時、如國史文之踐祚、甲申、天皇移二樟葉宮一、辛卯、得二璽符鏡、劒一即位云々、雖レ無二即位之分別一如二今文一去即以前已稱二天皇一、又謂踐即被レ移二皇居一、其後得二劒璽一即位云々、然則准據尤可レ合之由所レ存也、〈是三〉凡天子之位一日不レ可レ曠、政悉亂云々、今遲々之條萬事亂之源也、早速可レ有二沙汰一、不レ可レ有二異議一者、左大臣同參候云々、非二一所一、兼光參上、小時歸來云、所可レ然就中爲二伐一可レ奉レ立二人主一之條事、畢肝心也、仍早可レ有二立王之事一云々、先愚案次第之沙汰、悉以違亂散々、凡不レ能二左右一云々、未曾有之事也、天下滅亡只此時也、可レ悲々々、

〔百練抄〕

〈九安徳〉

p.0278 壽永二年七月廿五日、平家黨類前内大臣已下、率二一族一出二奔西國一、天皇〈◯安徳〉建禮門院同奉二相具一、内侍所神鏡、神璽寳劒、時簡殿上御倚子、玄上鈴鹿皆以相具、　八月五日、玄上出來、大夫尉知康於二路頭一見付即進レ院、〈◯後白河〉踐祚事有二御卜一、　十日、於レ院召二三丞相一議二定踐祚間事一、　十八日、於レ院有二議定一、神鏡劍璽諸道進勘文、又踐祚間條々事也、　廿日、高倉院第四皇子〈尊成◯後鳥羽〉踐祚、〈御年四歳、閑院、〉左大臣於二太上法皇御所一令レ勘二日時一、奉二法皇詔一召二大内記光輔一、仰下可レ令レ作二傳國宣命一之由上、攝政藤原朝臣如レ元、不レ傳二劒璽一踐祚之例、今度始レ之、前主〈◯安徳〉出二於洛城一之後、至二干今日一空二王位一廿六箇日、

〔増鏡〕

〈一おどろの下〉

p.0278 御門はじまり給ひてより八十二代にあたりて後鳥羽院と申おはしましき、〈◯中略〉壽永二年八月廿日、御とし四にてくらゐにつかせたまひけり、内侍所神璽寳劒は、じやうゐの時かならずわたる事なれど、せんてい〈◯安徳〉つくしにいでおはしにければ、こたみはじめて三の神器なくて、めづらしきためしになりぬべし、

〔神皇正統記〕

〈後鳥羽〉

p.0278 先帝〈◯安徳〉三種の神器をあひぐせさせ給ひしゆゑに、踐祚のはじめの違例に侍りしかども、法皇〈◯後白河〉國の本主にて正統の位を傳へまします、皇大神宮熱田の神あきらかに守らせ給ふことなれば、天位つヽがましまさず、平氏ほろびて後、内侍所神璽は歸りいらせ玉ふ、寳劒はつひに海に沈みてみえず、其ころほひは晝の御座の御劒を寳劒に擬せられたりしが、神

p.0279 宮の御告にて、神劒を奉らせ給ひしによりて、近頃までの御守りなりき、

〔續史愚抄〕

〈光嚴〉

p.0279 元弘元年九月二十日癸巳、自二六波羅舘一行二啓于土御門東洞院殿一、被レ行二踐祚儀一、〈春秋十九〉前左大臣〈冬教〉如レ元爲二關白一、次公卿昇殿、勅授帶劒牛車殿上人禁色雜袍等如レ元宣下、上卿某一人奉二行之一、文永例云、無二劒璽及内侍所渡御一而踐祚、壽永例也、

〔皇年代略記〕

〈光嚴〉

p.0279 元弘元年九月廿日癸巳、踐祚、〈十九、被レ下二太上天皇（花園）詔命一、于時劔璽不レ渡レ之、壽永之例也、〉十月六日、渡二劒璽一、〈自二六波羅一奉レ渡二土御門東洞院皇居一、或説、神璽聊有二子細一云々、〉
◯按ズルニ、北朝ノ天皇ハ、或ハ神器ナクシテ踐祚シ、或ハ僞器ヲ受ケテ踐祚シ給ヒタリ、ナホ即位篇ノ無神器而即位ノ條ヲモ參照スベシ、

〔皇年代略記〕

〈光明〉

p.0279 建武三年八月十五日戊子、踐祚、〈十七、於二權大納言良基卿押小路第一有二此儀一、合戰雖レ末レ止之、依レ難二默止一武家申行之、〉以被レ行二次第事一、其儀併被レ摸二壽永例一云々、十一月二日、賢所劒璽渡御、〈自二花山院一被レ渡二東寺行宮一◯節略〉

〔皇年代略記〕

〈後光嚴〉

p.0279 觀應三年八月十七日丁巳、踐祚、〈（中略）今度不レ被レ行二節會一、不レ及二宣命一、不レ被レ渡二劒璽一、以下毎事新儀、兼日被レ問二諸卿一有二此沙汰一也、堅固密儀也、〉

〔園太暦〕

p.0279 觀應三年七月一日壬申、入レ夜青侍云、頭辨自二殿下一爲二御使一參云々、〈◯中略〉招二入仲房朝臣一也、彼朝臣示云、被レ申〈二條前關白事歟〉宮御方〈◯後光嚴〉踐祚事、武家申沙汰、近日可レ被レ行二其禮一、而舊主不二御坐一、節會已下不レ可レ被レ行、劒璽不二御坐一之上者、不レ可レ有二渡御儀一、〈◯中略〉彼是可レ爲二何様一乎申二談人々一、可二申沙汰一之旨在二女院仰一、仍令レ申云々者、

〔續史愚抄〕

〈後光嚴〉

p.0279 觀應三年八月十七日丁巳、大王〈春秋十五◯後光嚴〉諱彌仁、〈◯中略〉有二踐祚儀一、〈◯中略〉今度依二繼體天皇例一、不レ及二節會宣命沙汰一、〈新法皇已下三上皇、令レ蒙二塵於南山一給故也、〉無二劒璽渡御一、於二内侍所一者爲二如在儀一云、〈今夜自二佐女牛若宮八幡宮一辛櫃渡御、是者五月南主所レ被レ納二石清水寳殿一也、按二公忠公貞治五年記一内無レ物歟、〉

〔續神皇正統記〕

〈後光嚴〉

p.0279 踐祚の日、三種靈寳渡御なき事、繼體天皇の佳躅を尋て被二准擬一侍とかや、當

p.0280 日の儀は、壽永仁治等の例を摸せられ侍り、寳劒不二御坐一事は、壽永初例にや、此度太上天皇〈◯後白河〉の詔宣にて其儀を被レ行、元弘建武兩度も彼例を被レ守侍り、このたびは、上皇〈◯光嚴〉外都にましますによりて、宣命制作に不レ及、依て上古渺焉の蹤跡を追て被二遂行一侍り、内侍所御辛櫃佐女牛若宮寳殿に置れけること、今夜密々に内裏に渡入奉る、如在の禮奠に擬せられ侍にや、〈◯中略〉壽永度靈寳の歸坐をまたず踐祚あるべきや否、後白河院月輪の殿下〈時に左府◯藤原兼實〉に訪仰られし時、御返事に三種寳物を不レ渡事、繼體天皇御例、不レ可レ有二異儀一之旨計申されき、

〔續本朝通鑑〕

〈五十六崇光〉

p.0280 正平七年八月丁巳、皇子彌仁〈◯後光嚴〉自二持明院殿一移二土御門内裏一、先元二服於小御所一、而入二寢殿一行二踐祚之禮一、無二親王之宣一、無二立坊之事一、無二讓位之宣命一、不レ帶二三種神器一而登極、未曾有例也、是日從一位藤良基復爲二關白一、〈傳稱、公卿依二義詮推擧一議二踐祚之事一、然以レ無二三種神器一、故疑難不レ止、藤良基曰、遙拜二天照大神一、可下以擬二神鏡一、而以二尊氏義詮一換中寳劍上、如二神璽一則良基雖二不肖一准レ之、何疑之有、由レ之議決、〉

踐祚以前聽政

〔皇年代略記〕

〈天智〉

p.0280 孝徳天皇大化元年乙巳六月、立太子、辛酉年七月、齊明崩、以來皇太子厚至孝不レ稱二即位一、壬戌以來、於二岡本宮一攝政五箇年、〈◯中略〉八年己巳正月戊子、即レ位、
◯按ズルニ、天智天皇ノ攝政ノコトハ、皇太子篇ノ太子攝政ノ條ニ詳ニセリ、就テ看ルベシ、

〔續日本紀〕

〈三十稱徳〉

p.0280 寳龜元年八月癸巳、天皇崩二于西宮寢殿一、春秋五十三、左大臣從一位藤原朝臣永手〈◯中略〉等定二策禁中一、立レ諱〈◯光仁〉爲二皇太子一、　丙午、葬一高野天皇於大和國添下郡佐貴郷高野山陵一、　庚戌、皇太子令旨、如レ聞道鏡法師、竊挟二舐粳之心一爲レ日久矣、陵土未レ乾姧謀發覺、是則神祇所護、社稷攸レ祐、今顧二先聖厚恩一不レ得二依レ法入一レ刑、故任二造下野國藥師寺別當一發遣宜レ知レ之、即日遣二左大辨正四位下佐伯宿禰今毛人、彈正尹從四位下藤原朝臣楓麻呂一促令二上道一、以二從五位下中臣習宜朝臣阿曾麻呂一爲二多褹嶋守一、　九月壬戌、令旨、比年令外之官、其員繁夥、徒費二國用一、無レ益二公途一、省レ官簡レ務、往聖嘉典、除二要司一外宜二悉廢一矣、又以二去天平寳字九歳一、改二首史姓一、竝爲二毘登一、彼此難レ分、氏族混雜、於レ事不レ穩、宜レ從二本字一、又先著二袍衣一

p.0281 以レ匹爲レ限、天下服用不レ聞二狹窄一、比來任レ意競二好寛大一、至三于裁袍更加二半匹一、袍襖亦齊不レ辨二表裏一、而爲レ俗爲レ費良深、自レ今以後不レ得二更然一、　辛巳、七七於二山階寺一設レ齋焉、諸國者毎レ國屈二請管内僧尼於金光〈◯光下疑脱二明字一〉法華二寺一、行道轉經、是日京師及天下諸國大祓、　壬午、停二一年服期一天下從レ吉、

〔續日本紀〕

〈三十一光仁〉

p.0281 寳龜元年十月己丑朔、即二天皇位於大極殿一、
◯按ズルニ、此他推古、持統、元明、文徳、平城等ノ天皇モマタ踐祚以前ニ政ヲ聽キ給ヘリ、推古、持統、元明天皇ノコトハ女帝踐祚ノ條ニ、文徳、平城天皇ノコトハ受神璽後經月日而踐祚ノ條ニ詳ニセリ、就テ看ルベシ、
又按ズルニ、神皇正統記元正天皇ノ條ニ、乙卯の年〈◯靈龜元年〉正月に攝政、九月に受禪、その日即位トアレドモ、續日本紀ニハ攝政ノコト見エズ、

互讓帝位而踐祚

〔日本書紀〕

〈十一仁徳〉

p.0281 四十一年〈◯應神〉二月、譽田天皇〈◯應神〉崩、時太子菟道稚郞子、讓二位干大鷦鷯尊一〈◯仁徳〉未即二帝位一、仍諮二大鷦鷯尊一、夫君二天下一以治二萬民一者、蓋レ之如レ天、容レ之如レ地、上有二驩心一以使二百姓一、百姓欣然、天下安矣、今我也弟之、且文獻不レ足、何敢繼二嗣位一登二天業一乎、大王者風姿岐嶷、仁孝遠聆以レ齒且長、足レ爲二天下之君一、其先帝立レ我爲二太子一、豈有二能才一乎、唯愛レ之者也、亦奉二宗廟社稷一重事也、僕之不佞不レ足二以稱一、夫昆上而季下、聖君而愚臣、古今之常典焉、願王勿レ疑須レ即二帝位一、我則爲レ臣之助耳、大鷦鷯尊對言、先皇謂、皇位者一日之不レ可レ空、故預選二明徳一、立レ王爲レ貳、祚レ之以レ嗣、授レ之以レ民、崇二其寵章一、令レ聞二於國一我雖二不賢一、豈棄二先帝之命一、輙從二弟王之願一乎、固辭不レ承各相讓之、〈◯中略〉既而興二宮室於菟道一而居レ之、猶由レ讓二位於大鷦鷯尊一、以久不レ即二皇位一、爰皇位空之、既經二三載一、時有二海人一、賚二鮮魚之苞苴一獻二于菟道宮一也、太子令二海人一曰、我非二天皇一、乃返之令レ進二難波一、大鷦鷯尊亦返以令レ獻二菟道一、於レ是海人之苞苴鯘二於往還一、更返之取二他鮮魚一而獻焉、讓如二前日一、鮮魚亦鯘、海人苦二於屢還一、乃棄二鮮魚一而哭、故諺曰、有二海人一耶、因二己物一以泣、其是之縁也、太子曰、我知レ不レ可レ奪二兄王之志一、豈久生之煩二天下一乎、乃自死焉、時大鷦鷯尊聞二太子薨一以驚之、從二難波一馳之到二菟道宮一、

p.0282 爰太子薨之經二三日一、時大鷦鷯尊摽擗叫哭不レ知レ所レ如、乃解レ髮跨レ屍、以三呼曰、我弟皇子、乃應レ時而活、自起以居、爰大鷦鷯尊語二太子一曰、悲兮惜兮、何所以歟自逝之、若死者有レ知、先帝何二謂我一乎、乃太子啓二兄王一曰、天命也、誰能留焉、若有レ向二天皇之御所一、具奏二兄王聖之且有一レ讓矣、然聖王聞二我死一以急二馳遠路一、豈得レ無レ勞乎、乃進二同母妹八田皇女一曰雖レ不レ足二納採一、僅充二掖庭之數一、乃且伏レ棺而薨、於レ是大鷦鷯尊素服、爲レ之發レ哀、哭之甚慟、乃葬二於菟道山上一、　元年正月己卯、大鷦鷯尊即二天皇位一、

〔愚管抄〕

〈三〉

p.0282 仁徳天皇は、應神うせおはしまして後、御在生の時太子にたち給宇治皇太子なり、それこそはすなはち即位せさせ給べかりけむに、仁徳はあにヽておはしましければにや、仁徳をくらゐに即給へと申させ給けり、又仁徳は太子に立給たり、いかでかさる事さふらはむと、たがひに位につかんといふあらそひこそあることを、これは我はつかじ〳〵といふあらそひにて、三年までむなしく年をへければ、宇治の太子かくのみ論して國王おはしまさでとしふるを、民のためもなげきなり、われみづからしなんとの給ひてうせさせ給ひにけり、これを仁徳きこしめして、さわぎまどひてわたらせ給ひたりければ、三日になりけるがたちまちにいきかへりて、御物語ありて猶つゐにうせ給ひにけり、そのヽち仁徳は位にはつきて、八十七年までおはしましけり、このしだいこそ心もことばもおよばね、人といふ物はみづからをわすれて他をしるを實のみちとは申也、この宇治の太子の御心ばへをあらはさむれうに、太子にたてまゐらせられけるにやとこそ推知せられ侍れ、應神などの御あとのことはさだめてかヾみおぼしめしけん、日本國の正法にこそ侍めれ、

〔日本書紀〕

〈十五顯宗〉

p.0282 白髮天皇〈◯清寧〉三年四月、立二億計王一〈◯仁賢〉爲二皇太子一、立二天皇一〈◯顯宗〉爲二皇子一、五年正月、白髮天皇崩、是月皇太子億計王與二天皇一讓レ位、久而不レ處、由レ是天皇姉飯豐青皇女、於二忍海角刺宮一臨レ朝秉レ政、〈◯中略〉十一月、飯豐青尊崩、〈◯中略〉十二月、百官大會、皇太子億計、取二天皇之璽一置二之天皇之座一、再拜從二諸臣

p.0283 之位一曰、此天皇之位、有レ功者可二以處一レ之、著レ貴蒙レ迎皆弟之謀也、以二天下一讓二天皇一、天皇顧讓以レ弟莫二敢即位一又奉三白髮天皇、先欲レ傳レ兄立二皇太子一、前後固辭曰、日月出矣、而爝火不レ息、其於レ光也不二亦難一矣、時雨降矣、而猶浸灌〈◯灌下恐有二脱字一〉不二亦勞一乎、所レ貴レ爲二人弟一者、奉レ兄謀レ逃二脱難一、照レ徳解レ紛、而無レ處也、即有レ處者、非二弟恭之義一、弘計〈◯顯宗〉不レ忍レ處也、兄友弟恭不易之典、聞二諸古老一、安自獨輕、〈◯中略〉　元年正月己巳朔、大臣大連等奏言、皇太子億計、聖徳明茂奉レ讓二天下一、陛下正統、當下奉二〈◯奉下恐脱二遵字一〉鴻緒一爲二郊廟主一、承二續祖無窮之烈一、上當二天心一、下厭中民望上、而不レ肯二踐祚一、遂令二金銀蕃國、群僚遠近一、莫レ不レ失レ望、天命有レ屬、皇太子推讓、聖徳彌盛、福祚孔章、在孺而勤、謙恭慈順、宜下奉二兄命一、承中統大業上、制曰、可、乃召二公卿百僚於近飛鳥八釣宮一、即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈二十五孝徳〉

p.0283 天豐財重日足姫天皇〈◯皇極〉四年六月庚戌、天豐財重日足姫天皇思三欲傳二位於中大兄一、〈◯天智〉而詔曰云々、中大兄退語二於中臣鎌子連一、中臣鎌子連議曰、古人大兄、殿下之兄也、輕皇子〈◯孝徳〉殿下之舅也、方今古人大兄在、而殿下陟二天皇位一、便違二人弟恭遜之心一、且立レ舅以答二民望一、不二亦可一乎、於レ是中大兄深嘉二其議一、密以奏聞、天豐財重日足姫天皇授二璽綬一禪レ位、策曰、咨爾輕皇子云云、輕皇子再三固辭、轉讓二古人大兄一〈更名古人大市皇子〉曰、大兄命是昔天皇所レ生、而又年長、以二斯二理一可レ居二天位一、於レ是古人大兄避レ座逡巡、拱レ手辭曰、奉二順天皇聖旨一、何勞推二讓於臣一、臣願出家入二于吉野一、勤二修佛道一、奉二祐天皇一、辭訖解二所レ佩刀一投二擲於地一、亦命二帳内一皆令レ解レ刀、即自詣二於法興寺佛殿與レ塔間一、剔二除髯髮一披二著袈裟一、由レ是輕皇子不レ得二固辭一、升レ壇即レ祚、

〔三代實録〕

〈四十五光孝〉

p.0283 元慶八年二月四日乙未、太上天皇〈◯陽成〉遷二御二條院一、遜二皇帝位一焉、于時天皇在二東二條宮一、親王公卿奉二天子璽綬神鏡寶劒等一、天皇再三辭讓、曾不二肯受一、二品行兵部卿本康親王起座跪奏曰、歴數攸レ在、謳歌是歸、昔者漢文、三讓、雖レ高猶當二大横之繇一遂應二代邸之迎一、伏願陛下在二此樂推一、幸聽二於群臣一矣、是夜親王公卿侍二宿於行在所一、　五日丙申、親王公卿引二文武百官一奉レ迎二天皇一、即日鸞輿入二御東宮一、親王公卿扈從、

〔扶桑略記〕

〈二十二光孝〉

p.0284 元慶八年二月四日、王卿群臣諸司百寮、捧二天子璽鏡劒等一、授二一品式部卿親王〈◯光孝〉東二條宮一、金吾亞相兵仗、諸衞圍レ宮警固、今宵宿侍、天皇再三固辭、讓二於兵部卿親王本康一、然大相國〈◯藤原基經〉等頻請不レ許、仍五日文武百官警蹕前驅、奉レ迎二新帝一、宣命使中納言在原朝臣行平、即御二鸞輿一入二移東宮一、遣二從五位上守左近衞少將藤原朝臣高藤等一運二内裏所レ留鈴印匙鑰等一、置二東宮南門内西掖一、

討亂而踐祚

〔古事記〕

〈中神武〉

p.0284 故天皇〈◯神武〉崩後、其庶兄〈◯綏靖庶兄〉當藝志美美命娶二其嫡后〈◯神武后〉伊須氣余理比賣一之時、將レ殺二其三弟一而謀之間、其御祖伊須氣余理比賣患苦、而以レ歌令レ知二其御子等一、歌曰、佐韋賀波用、久毛多知和多理、宇泥備夜麻、許能波佐夜藝奴、加是布加牟登須、又歌曰、宇泥備夜麻、比流波久毛登韋、由布佐禮婆、加是布加牟登曾、許能波佐夜牙流、於レ是其御子聞知而驚、乃爲三將殺二當藝志美美一之時、神沼河耳命〈◯綏靖〉曰二其兄神八井耳命一、那泥汝命、持レ兵入而殺二當藝志美美一、故持レ兵入以將レ殺之時、手足和那那岐氐不レ得レ殺、故爾其弟神沼河耳命、乞二取其兄所レ持之兵一、入殺二當藝志美美一、故亦稱二其御名一謂二建沼河耳命一、爾神八井耳命讓二弟建沼河耳命一曰、吾者不レ能レ殺レ仇、汝命既得レ殺レ仇、故吾雖レ兄不レ宜レ爲レ上、是以汝命爲レ上治二天下一、僕者扶二汝命一爲二忌人一而仕奉也、〈◯中略〉神沼河耳命者治二天下一也、

〔日本書紀〕

〈四綏靖〉

p.0284 至二四十八歳一、神日本磐余彦天皇〈◯神武〉崩、時神渟名川耳尊、〈◯綏靖〉孝性純深、悲慕無レ己、特留二心於哀葬之事一焉、其庶兄手研耳命行年己長、久歴二朝機一、故亦委レ事而親之、然其王立操厝懷、本乖二仁義一遂以二諒闇之際一、威福自由、苞二藏禍心一、圖レ害二二弟一于時也大歳己卯冬十一月、神渟名川耳尊與二兄神八井耳命一、陰知二其志一而善防之、至二於山陵事畢一、乃使下弓部稚彦造レ弓、倭鍜部天津眞浦造二眞麛鏃一、矢部作レ箭、及二弓矢既成一、神渟名川耳尊欲三以射二殺手研耳命一、會下有二手研耳命於片丘大窨中一、獨臥中于大牀上、時神渟名川耳尊謂二神八井耳命一曰、今適其時也、夫言貴レ密、事宜レ愼、故我之陰謀本無二預者一、今日之事、唯吾與レ爾自行レ之耳、吾當三先開二窨戸一、爾其射レ之、因相隨進入、神渟名川耳尊突二開其戸一、神八井耳命則手脚戰慄、不レ能レ放レ矢、時神渟名川耳尊掣二取其兄所レ持弓矢一、而射二手研耳命一、一發中レ胷、再撥中レ背、遂殺レ之、於レ是神八井耳

p.0285 命懣然自服、讓二於神渟名川耳尊一曰、吾是乃兄、而懦弱不レ能レ致レ果、今汝特挺神武、自誅二元惡一、宜哉乎、汝之光二臨天位一、以承二皇祖之業一、吾當下爲二汝輔一之奉中典神祇上者、是即多臣之始祖也、　元年正月己卯、神渟名川耳尊即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈十二履中〉

p.0285 八十七年〈◯仁徳〉正月、大鷦鷯天皇崩、皇太子〈◯履中〉自二諒闇一出之、未レ即二尊位一之間、以二羽田矢代宿禰之女黒媛一欲レ爲レ妃、納釆既訖、遣二住吉仲皇子一而告二吉日一、時仲皇子冐二太子名一以姧二黒媛一、〈◯中略〉爰仲皇子畏レ有レ事、將レ殺二太子一、密興レ兵圍二太子宮一、時平群木莬宿禰、物部大前宿禰、漢直祖阿知使主三人啓二太子一、太子不レ信、〈一云、太子酔以不レ起、〉故三人扶二太子一令レ乘レ馬而逃レ之、〈◯中略〉於レ是瑞齒別皇子〈◯反正〉知二太子不一レ在、尋之追詣、然太子疑二弟王之心一而不レ喚、〈◯中略〉瑞齒別皇子啓二太子一曰、大人何憂之甚也、今仲皇子無道、群臣及百姓共惡二怨之一、復其門下人皆叛爲レ賊、獨居之無二與レ誰議一、臣雖レ知二其逆一、未レ受二太子命一之故、獨慷二槪之一耳、今既被レ命豈難三於殺二仲皇子一乎、唯獨懼之、既殺二仲皇子一、猶且疑レ臣歟、冀見得二忠直者一欲レ明二臣之不一レ欺、太子則副二木莬宿禰一而遣焉、爰瑞齒別皇子歎之曰、今太子與二仲皇子一並兄也、誰從矣、誰乖矣、然亡二無道一就二有道一、其誰疑レ我、則詣二于難波一伺二仲皇子之消息一、仲皇子思二太子已逃亡一、而無レ備、時有二近習隼人一、曰二刺領巾一、瑞齒別皇子陰喚二刺領巾一、而誂之曰、爲レ我殺二皇子一、吾必敦報レ汝、乃脱二錦衣褌一與レ之、刺領巾恃二其誂言一、獨執レ矛以伺二仲皇子入一レ厠而刺殺、即二于瑞齒別皇子一、於レ是木莬宿禰啓二於瑞齒別皇子一曰、刺領巾爲レ人殺二己君一、其爲レ我雖レ有二大功一、於二己君一無レ慈之甚矣、豈得レ生乎、乃殺二刺領巾一、即日向レ倭也、夜半臻二於石上一而復命、於レ是喚二弟王一以敦寵、仍賜二村合屯倉一、是日捉二阿曇連濱子一、　元年二月壬午朔、皇太子即二位於磐余稚櫻宮一、　四月丁酉、召二阿曇連濱子一詔之曰、汝與二仲皇子一共謀レ逆將レ傾二國家一、罪當二于死一、然垂二大恩一而免レ死科レ墨、即日黥レ之、因レ此時人曰二阿曇目一、

〔日本書紀〕

〈十三安康〉

p.0285 四十二年〈◯允恭〉正月、天皇〈◯允恭〉崩、十月、禮畢之、是時太子〈◯木梨輕〉行二暴虐一淫二于婦女一、國人謗レ之、群臣不レ從、悉隷二穴穗皇子一、〈◯安康〉爰太子欲レ襲二穴穗皇子一、而密設レ兵、穴穗皇子復興レ兵將レ戰、〈◯中略〉時太

p.0286 子知二群臣不レ從百姓乖違一、乃出之匿二物部大前宿禰之家一、穴穗皇子聞則圍レ之、大前宿禰出レ門而迎レ之、〈◯中略〉乃啓二皇子一曰、願勿レ害二太子一臣將レ議、由レ是太子自二死于大前宿禰之家一、〈一云、流二伊豫國一、〉十二月壬午、穴穗皇子即二天皇位一、
◯按ズルニ、木梨輕太子ノ亂ハ、皇太子篇ノ太子暴逆自取敗亡ノ條ニアリ、參看スベシ

〔日本書紀〕

〈十四雄略〉

p.0286 三年〈◯安康〉八月、穴穗天皇、〈◯安康〉意レ將二沐浴一幸二干山宮一、遂登レ樓兮遊目、因命レ酒兮肆宴、爾乃情盤樂極、間以二言談一、顧謂二皇后一〈去來穗別天皇（履仲）女、曰二中蒂姫皇女一、更名長田大娘皇女也、大鷦鷯天皇（仁徳）子、大草香皇子、娶二長田皇女一、生二眉輪王一也、於後穴穗天皇（安康）用二恨臣讒一殺二大草香皇子一、而立二中蒂姫皇女一爲二皇后一、語在二穴穗天皇紀一、〉曰、吾妹汝雖二親昵一、朕畏二眉輪王一、眉輪王幼年遊二戯樓下一、悉聞レ所レ談、既而穴穗天皇、枕二皇后膝一晝酔眠臥、於レ是眉輪王伺二其熟睡一、而刺弑之、是日大舍人驟言二於天皇一曰、穴穗天皇爲二眉輪王一見レ弑、天皇大驚即猜二兄等一、被レ甲帶レ刀、率レ兵自將、逼二問八釣白彦皇子一、皇子見二其欲一レ害、嘿坐不レ語、天皇乃拔レ刀而斬、更逼二問坂合黒彦皇子一、皇子亦知レ將レ害、嘿坐不レ語、天皇忿怒彌盛、乃復并爲レ欲レ殺二眉輪王一案二劾所由一、眉輪王曰、臣元不レ求二天位一、唯報二父仇一而已、坂合黒彦皇子、深恐レ所レ疑、竊語二眉輪王一、遂共得レ間而出、逃二入圓大臣宅一、天皇使二使乞一レ之、大臣以レ使報曰、蓋聞人臣有レ事、逃入二王室一、未レ見三君王隱二匿臣舍一、方今坂合黒彦皇子、與二眉輪王一、深恃二臣心一、來二臣之舍一、誰忍送歟、由レ是天皇復益興レ兵圍二大臣宅一、大臣出二立於庭一索二脚帶一、時大臣妻持二來脚帶一、愴矣傷懷而歌曰、飫瀰能古簸、多倍能婆伽摩鳴、那那陛鳴絁、你播你陀陀始諦、阿遙比那陀須暮、大臣裝束已畢、進二軍門一跪拜曰、臣雖レ被レ戮莫二敢聽一レ命、古人有レ云、匹夫之志難レ可レ奪、方屬二乎臣一、伏願大王奉三獻臣女韓媛與二葛城宅七區一、請以贖レ罪、天皇不レ許、縱レ火燔レ宅、於レ是大臣與二黒彦皇子眉輪王一倶被二燔死一、時坂合部連贄宿禰、抱二皇子屍一而見二燔死一、其舍人等收二取所一レ燒、遂難レ擇レ骨、盛二之一棺一、合二葬新漢槻本南丘一、　十月癸未朔、天皇恨丁穴穗天皇曾欲丙以二市邊押磐皇子一、傳レ國而遙付乙屬後事甲、乃使二人於市邊押磐皇子一、陽期二狡獵一、勸レ遊二郊野一曰、近江狹狹城山君韓帒言、今於二近江來田綿蚊屋野一、猪鹿多有、其戴角類二枯樹末一、其聚脚如二弱木林一、呼吸氣息似二於朝霧一、願與二皇子一孟冬作陰之月、寒風肅殺之晨、將下

p.0287 逍二遙於郊野一、聊娯レ情以騁射上、市邊押磐皇子乃隨馳獵、於レ是大泊瀬天皇〈◯雄略〉彎レ弓驟レ馬、而陽呼曰二猪有一、即射二殺市邊押磐皇子一、皇子帳内佐伯部賣輪、抱レ屍駭惋不レ解二所由一、反側呼號往二還頭脚一、天皇尚誅レ之、十一月甲子、天皇命二有司一設二壇於泊瀬朝倉一、即二天皇位一、遂定レ居焉、

〔日本書紀〕

〈十四雄略〉

p.0287 二十三年七月辛丑朔、天皇寢疾不豫、詔賞罰支度事無二巨細一、並付二皇太子一、〈◯清寧〉　八月丙子、天皇疾彌甚、與二百寮一辭訣、握レ手歔欷、崩二于大殿一、遺三詔於大伴室屋大連、與二東漢掬直一曰、〈◯中略〉今星川王、心懷二悖惡一、行闕二友于一、古人有レ言、知レ臣莫レ若レ君、知レ子莫レ若レ父、縱使星川得レ志、共治二家國一、必當下戮辱遍二於臣連一、酷毒流中於民庶上、夫惡子孫、已爲二百姓一所レ憚、好子孫、足三堪負二荷大業一、此雖二朕家事一、理不二容隱一、大連等、民部廣大、充二盈於國一、皇太子、地居二上嗣一、仁孝著聞、以其行業堪レ成二朕志一、以レ此共治二天下一、朕瞑目何所二復恨一、〈一本云、星川王、腹惡心麤、天下著聞、不幸朕崩之後、當レ害二皇太子一、汝等民部甚多、努力相助、勿レ令二 慢一、〉

〔日本書紀〕

〈十五清寧〉

p.0287 二十三年〈◯雄略〉八月、大泊瀬天皇〈◯雄略〉崩、吉備稚媛、陰謂二幼子星川皇子一曰、欲レ登二天下之位一、先取二大藏之官一、長子磐城皇子、聞下母夫人教二其幼子一之語上曰、皇太子雖二是我弟一、安可レ欺乎、不レ可レ爲也、星川皇子不レ聽、輙隨二母夫人之意一、遂取二大藏官一、鏁二閉外門一、式備二乎難一、權勢自由、費由二官物一、於レ是大伴室屋大連言二於東漢掬直一曰、大泊瀬天皇之遺詔、今將レ至矣、宜下從二遺詔一奉中皇太子上、乃發二軍士一圍二繞大藏一、自レ外拒閉、縱レ火燔殺是時吉備稚媛、磐城皇子、異父兄、兄君、城丘前來目、〈闕名〉隨二星川皇子一而被二燔殺一焉、惟河内三野縣主小根、慄然振怖、避レ火逃出、抱二草香部吉士漢彦脚一、因使レ祈二生於大伴室屋大連一曰、奴縣主小根事二星川皇子一者信、而無レ有レ背二於皇太子一、乞降二洪恩一、救二賜他命一、漢彦乃具爲啓二於大伴大連一、不レ入二刑類一、小根仍使三漢彦啓二於大連一曰、大伴大連、我君降二大慈愍一、促短之命、既續延長、獲レ觀二日色一、輙以二難波來目邑大井戸田十町一、送二於大連一、又以二田地一、與二于漢彦一、以報二其恩一、是月吉備上道臣等聞二朝作亂、思レ救二其腹所レ生星川皇子一、率二船師四十艘一、來浮二於海一、既聞レ被二燔殺一、自レ海而歸、天皇即遣レ使、嘖二讓於上道臣等一、而奪二其所領山部一、　十月壬申、大伴室屋大連、率二臣連等一奉二璽於皇太子一、　元年正月壬子、命二有司一設二壇場於磐余甕栗一、陟二天皇

p.0288 位一遂定レ宮焉、

〔日本書紀〕

〈十六武烈〉

p.0288 十一年〈◯仁賢〉八月、億計天皇崩、〈◯仁賢〉大臣平群眞鳥臣專擅二國政一、欲レ王二日本一、陽爲二太子一〈◯武烈〉營レ宮了、即自居、觸レ事驕慢、都無二臣節一、於レ是太子思三欲聘二物部麁鹿火大連女影媛一、遣二媒人一向二影媛宅一期會、影媛曾姧二眞鳥大臣男鮪一、恐レ違二太子所期一、報曰、妾望奉レ待二海柘榴市巷一、由レ是太子欲レ往二期處一、遣二近侍舍人一、就二平群大臣宅一、奉二太子命一、求二索官馬一、大臣戯言陽進曰、官馬爲レ誰飼養、隨レ命而已、久之不レ進、太子懷レ恨、忍不レ發レ顏、果之レ所レ期、〈◯中略〉太子甫知三鮪曾得二影媛一、悉覺二父子無レ敬之状一、赫然大怒、此夜速向二大伴金村連宅一、會レ兵計策、大伴連將二數千兵一、儌二之於路一、戮二鮪臣於乃樂山一、　十一月戊子、大伴金村連謂二太子一曰、眞鳥賊可レ擊請討レ之、太子曰、天下將レ亂、非二希世之雄一不レ能レ濟也、能安レ之者其在レ連乎、即與定レ謀、於レ是大伴大連率レ兵自將、圍二大臣宅一縱レ火燔レ之、所レ撝雲靡、眞鳥大臣恨二事不一レ濟、知二身難一レ免、計窮望絶、廣指レ鹽詛遂被二殺戮一、　十二月、大伴金村連、平二定賊一訖、反二政太子一、請レ上二尊號一曰、今億計天皇〈◯仁賢〉子唯有二陛下一、億兆攸レ歸曾無二與二一、又頼二皇天翼戴一淨二除凶黨一、英略雄斷以盛二天威天祿一、日本必有レ主、主二日本一者、非二陛下一而誰、伏願陛下、仰答二靈祇一弘宣二景命一、光二宅日本一誕受二銀郷一、於是太子命二有司一、設二壇場於泊瀬列城一、陟二天皇位一、遂定レ都焉、

兩統更立

〔梅松論〕

〈上〉

p.0288 爰に後嵯峨院、寛元年中に崩御の刻、遺勅に宣く、一の御子後深草院御即位有べし、おりゐの後は、長講堂領百八十ケ所を御領として、御子孫永く在位の望をやめらるべし、次に二の御子龜山院御即位ありて、御治世は累代敢て斷絶あるべからず、子細有に依てなりと御遺命あり、依レ之後深草院御治世、寶治元年より正元元年に至までなり、次に龜山院の御子、後宇多院御在位、建治元年より弘安十年にいたる迄也、後嵯峨院崩御以後三代は、御讓に任せて御治世相違なき所に、後深草の院の御子、伏見の院は、一の御子の御子孫なるに御即位有て、正應元年より永仁六年に至る、次に伏見院の御子持明院、〈◯後伏見〉正安元年より同三年に至る、此二代は關東のはからひよこしまなる沙汰なり、然間二の御子龜山院の御子孫、御鬱憤有に依て、又其理に任せて後宇多

p.0289 院の御子、後二條院御在位あり、乾元元年より徳治二年に至る、又此君非義有に依て、立かへり後伏見院の御弟、萩原新院〈◯花園〉御在位あり、延慶元年より文保二年に至る、亦御理運に歸す、後宇多院の二の御子、後醍醐院御在位あり、元應元年より元弘元年に至る、如レ此後嵯峨院の御遺勅相違して、御即位轉變せし事、併關東の無道なる沙汰に及びしより、いかでか天命に背かざるべきと、遠慮ある人々の耳目を驚かさぬはなかりけり、抑一の御子〈◯後深草〉の御子、伏見院御在位の頃、關東へ潛に連々仰られていはく、龜山院の御子孫御在位連續あらば、御治世のいせいを以のゆゑに、諸國の武家君を擁護し奉らば、關東遂にあやうからむものなり、其故は承久に後鳥羽院、隱岐國へ移し奉りし事安からぬ叡慮なりしを、彼院〈◯龜山〉深思召れて、やヽもすれば天氣關東を討亡し、治平ならしめむ趣なれども、時節いまだ到來せざるに依て、今に到るまで安全ならず、一の御子後深草院の御子孫においては、天下のためにとて元より關東の安寧を思召候所なりと仰下されける程に、依レ之關東より君をうらみ奉る間、御在位の事においては、一の御子後深草院、二の御子龜山院の兩御子孫、十年を限に、打替〳〵御治世あるべきよしはからひ申間、後醍醐院の御時、當今の勅使には吉田大納言定房卿、持明院〈◯後伏見〉の御使には日野中納言の二男の卿、京都鎌倉の往復再三におよぶ、勅使と院の御使と兩人、關東において問答事多しといへども、定房卿申されけるは、既に後嵯峨院の御遺勅に任せて、一の御子後深草院の御子孫、長講堂領を以、今に御管領有うへは、二の御子龜山院の御子孫は、累代相違あるべからざる所に、關東の沙汰として、度々に及て轉變更に其期を得ず、當御子孫御在位の煩常篇に絶ず篇を盡し申さるヽといへども、以同篇たる上は是非にあたはざるよし再三仰下さるヽによつて、二の御子の御子孫、後醍醐院御禪を受給ひて、元應元年より元弘元年に到る、御在位の間今においては、後嵯峨院の御遺勅治定之處に、元徳二年に持明院の御子〈◯光嚴〉立坊の義なり、以の外の次第也、凡後醍醐院我神武の以往を

p.0290 聞に、凡下として天下の位を定奉る事をしらず、且は後嵯峨の院の明鏡なる遺勅をやぶり奉る事、天命いかむぞや、たやすく御在位十年を限に、打替〳〵あるべき規矩を定申さむや、しかれば持明院十年御在位の時は、御治世と云、長講堂領と云、御滿足有べし、當御子孫空位の時はいづれの所領をもて有べきや、所詮持明院の御子孫すでに立坊の上は、彼御在位十年の間は、長講堂領を以十年、龜山院の御子孫に可レ被レ進よし、數ケ度道理を立て問答に及ぶといへども、是非なく持明院の御子、光嚴院立坊の間、後醍醐院逆鱗にたへずして、元弘元年の秋八月廿四日、ひそかに禁裏を御出有て、山城國笠置山へ臨幸あり、

〔皇胤紹運録〕

p.0290 後嵯峨院　後深草院(第八十八)　伏見院(第九十一)　後伏見院(第九十二)　花園院(第九十四)　光嚴院(第九十六)　龜山院(第八十九)

p.0291 後宇多院(第九十)　後二條院(第九十三)　後醍醐院(第九十五)

〔神皇正統記〕

〈龜山〉

p.0291 此天皇を繼體とおぼしめしおきてけるにや、后腹に皇子うまれ給ひしを、後嵯峨とりやしなひまして、いつしか太子に立給ひぬ、後深草〈其時新院と申き〉の御子もさきだちて生れ給ひしかども、ひきこされましにき、〈太子は後宇多にまします、御年二つ、深草の御子に伏見、御とし四歳になり給ひけり、〉後嵯峨かくれさせ給ひてのち、兄弟〈◯後深草、龜山、〉の御あはひにあらそはせたまふ事ありければ、關東より母儀大宮院〈◯後嵯峨后、後深草龜山母后、藤原姞子、〉にたづね申けるに、先院〈◯後嵯峨〉の御素意は、當今〈◯龜山〉にましますよしを仰つかはされければ、事さだまりて禁中にて政務せさせ給ふ、
◯按ズルニ、五代帝王物語ニハ、去程に十七日〈◯文永九年二月〉卯の時に、法皇〈◯後嵯峨〉つひに御事きれさせ給ふ、〈◯中略〉抑御治世上中御處分いかヾ御計有らんと、上も下もおぼつかなく侍しに、御遺誡とて御忌中の程は披露なし、五旬のヽち女院の御方にて御附屬状をひらかれて、前左府筆を執て、御方々の御分かきわけて、奉行院司親朝朝臣を御使にて、内裏、新院へ參らせらる、されども御治世の事は關東計申べし、六勝寺鳥羽殿なども、御治世につくべきよし仰おかる、さて關東へは仁治に踐祚ありし事は、泰時計申たりしかば、其例違ふべからず、彼例に任て内裏〈◯龜山〉新院〈◯後深草〉いづれにても計ひ申べしと、宸筆の勅書にてつかはさる、是も五旬の後つかはされしかば御返事いかヾ申さむずらんと、兩御方の人々心を盡して思ひあはれたる有様、さこそ

p.0292 思食らめと、心ぐるしくおぼえ侍きトアリ、

〔増鏡〕

〈八飛鳥川〉

p.0292 十七日〈◯文永九年二月〉の朝より、御けしきかはるとて善知識めさる、つひに其日の酉の時に、御年五十三にてかくれさせ給ひぬ、後嵯峨院とぞ申める、ことしは文永九年なり、〈◯中略〉世中は新院〈◯後深草〉かくておはしませば、法皇〈◯後嵯峨〉の御かはりに引うつして、さぞあらんと世の人もおもひ聞えけるに、當代〈◯龜山〉の御ひとつすぢにてあるべきさまの御おきてなりけり、長講堂領又はりまの國をはりの熱田の社などをぞ御そぶんありける、〈◯中略〉いでや位におはしますにつきて、さしあたりの御まつりごとなどはことわり也、新院にも若宮おはしませば、行すゑの一ふしはなどかはなどいひしろふ、かヽればいつしか院方内方と、人の心々も引わかるヽやうにうちつけ事どもいできけり、人ひとりおはしまさぬ跡は、いみじき物にぞありける、

〔増鏡〕

〈九草枕〉

p.0292 本院〈◯後深草〉は、なほいとあやしかりける御身のすくせを、人の思ふらん事もすさまじうおぼしむすぼヽれて、世をそむかんのまうけにて、尊號をもかへしたてまつらせ給へば、兵仗をもとヾめんとて御隨身どもめして、祿かけいとまたまはする程いと心ぼそしと思ひあへり、〈◯中略〉いまの時宗朝臣もいとめでたきものにて、本院のかく世をおぼしすてんずる、いとかたじけなくあはれなる御事也、故院〈◯後嵯峨〉の御おきてはやうこそあらめなれど、そこらの御このかみにて、させる御あやまりもおはしまさヾらん、いかでかはたちまちに名殘なくはものし給ふべき、いとたい〴〵しきわざなりとて、新院〈◯龜山〉へも奏し、かなたこなたなごめ申て、東の御かたのわか宮〈◯伏見〉を坊に立たてまつりぬ、十月五日、節會おこなはれていとめでたし、かヽればすこし御心なぐさめて、此きははしひてそむかせたまふべき御道心にもあらねばおぼしとヾまりぬ、〈◯中略〉いにしへの天智天皇と天武天皇とは、おなじ御腹の御はらからなり、その御すゑしばしばうちかはり〳〵、世をしろしめしヽためしなどをも思ひやいでけん、御二ながれにて位にもおは

p.0293 しまさなんと思ひ申けり、

〔保暦間記〕

〈下〉

p.0293 弘安十年、當今〈◯後宇多〉御位ヲスベラセ給フ、今度ハ後深草院ノ御子、〈◯伏見〉同十月廿一日御位ニ付セ給ケリ、先帝ヲバ大覺寺殿ト申ス、御追號ヲバ後宇多院トゾ申ケル、是ヨリ後ハ兩院ノ御末、打替々々御位ニ付セ給ヒケリ、

〔神皇正統記〕

〈伏見〉

p.0293 後嵯峨の帝、繼體をば龜山とおぼしめしさだめければ、深草の御ながれいかヾとおぼえしを、龜山、弟順の儀をおぼしめしけるにや、此君〈◯伏見〉を御猶子にして東宮にすゑ給、そのヽち御心もゆかずあしざまなる事さへ出きて踐祚ありき、〈◯中略〉東宮にさへ此天皇の御子〈◯後伏見〉ゐたまひき、〈◯中略〉關東の輩も、龜山の正流をうけ給へる事はしり侍りしかど、近頃となりて世をうたがはしく思ひければにや、兩皇〈◯後深草、龜山、〉の御流れをかはる〴〵すゑ申さんと相はからひけりとなん、

〔増鏡〕

〈十一今日の日蔭〉

p.0293 正應も三年になりぬ、〈◯中略〉こぞの三月三日かとよ、つねうぢの宰相の女の御腹に、若宮いできさせ給へりしを、太子〈◯後伏見〉にたてまつらせたまふ、いとかしこき御すくせなり、〈◯中略〉おりゐの御門〈◯後宇多〉も御子あまたおはしませば、坊になどおぼしけるを、ひきよぎぬるいとほいなし、〈◯中略〉永仁も六年になりぬ、七月廿二日、春宮〈◯後伏見〉に位ゆづりておりたまひぬ、〈◯伏見、中略、〉堀河の具守のおとヾの女の御はらに、さきの新院〈◯後宇多〉のわかみや〈◯後二條〉むまれ給へりし、六月廿七日御元服して、八月十日春宮にたちたまひぬ、御諱邦治と聞ゆ、

〔皇年代略記〕

〈後二條〉

p.0293 永仁六年八月十日、立太子、後伏見院御幼年之上、皇統御兩流、依レ爲二關東之所存一立レ之歟、

〔増鏡〕

〈十一今日の日蔭〉

p.0293 正月〈◯正安三年〉廿一日、春宮〈◯後二條〉くらゐにつかせ給ひぬ、おりゐの御門〈◯後伏見〉十四にて太上天皇の尊號あり、〈◯中略〉持明院殿〈◯伏見〉には世中すさまじくおぼされて、伏見殿にこもりお

p.0294 はしますべくのたまへれど、二の御子〈◯花園〉坊にさだまり給へば、又めでたくてなだらかにておはしますべし、

〔増鏡〕

〈十二浦千鳥〉

p.0294 徳治二年にもなりぬ、〈◯中略〉春宮〈◯花園〉は正親町殿へ行啓なりて劒璽わたさる、八月廿六日踐祚なり、〈◯中略〉持明院殿〈◯伏見〉にはいつしかめでたき事どものみぞ聞ゆる、大覺寺殿〈◯後宇多〉には遊義門院の事にうちそへて御涙のひる世なくおぼさるべし、帥のみこ〈◯後醍醐〉の御事をあづまへのたまひ〈◯後宇多后姈子内親王〉つかはしたる、さうゐなしとて、九月十九日、立太子の節會ありて坊にゐ給ひぬ、いまほど世をとぢむる心ちしつる人々、すこしなぐさみぬべし、

〔増鏡〕

〈十四春の別〉

p.0294 かくさま〴〵におはしますを、〈◯後醍醐諸皇子〉此たびいかで坊にとおぼしつれど、かねてだにもよほしおほせられし事なれば、あづまより人まゐりて、本院〈◯後伏見〉の一の宮〈◯光嚴〉をさだめ申つ、いとけやけくきこしめせどいかヾはせんにて、七月廿四日に、皇太子の節會おこなはる、
◯按ズルニ、兩統更立ハ、其由テ來ルコト古クシテ、村上天皇ノ皇子、冷泉圓融ノ兩流迭立ニ始マレリ、左ニ系圖ヲ掲ゲテ其淵源ヲ明ニス、

〔神皇正統記〕

〈後一條〉

p.0294 冷泉圓融の兩流かはる〴〵しらせ給ひしに、三條院かくれ給ひて後、御子の敦明の御子太子にゐ給ひしが、心とのがれて院號かうぶりて小一條院と申き、これより冷泉の御ながれはたえにけり、

〔皇胤紹運録〕

p.0294 村上天皇　冷泉院(第六十三)　花山院(第六十五)

p.0295 三條院(第六十七)　小一條院〈諱敦明、長和五、正、廿九、立坊、寛仁元、八、九、辭レ之、即授二院號一、〉　圓融院(第六十四)　一條院(第六十六)　後一條院(第六十八)

幼帝踐祚

〔三代實録〕

〈一清和〉

p.0295 天安二年八月廿七日乙卯、文徳天皇崩二於冷然院親成殿一、〈◯中略〉大納言正三位兼行右近衞大將民部卿陸奧出羽按察使安倍朝臣安仁、率二從五位上守左近衞少將兼行備前權介坂上大宿禰當道〈◯中略〉已下一、奉二天子神璽寳劒節符鈴印等於皇太子〈◯清和〉直曹一、　廿九日丁巳、諸衞鎧甲嚴警、皇太子與二皇太夫人一同レ輿、遷二御東宮一儀同二行幸一、但不二警蹕一、　十一月七日甲子、天皇即二位於大極殿一、時年九歳、

〔帝王編年記〕

〈十四清和〉

p.0295 天安二年十一月七日、即二位于大極殿一、時御年九、此日以二大政大臣一〈◯藤原良房〉爲二攝政一、

〔神皇正統記〕

〈清和〉

p.0295 我朝は幼主位に居給ふことまれなりき、此天皇九歳にて即位、戊寅の年なり、己卯に改元、踐祚ありしかば、外祖良房の大臣はじめて攝政せらる、

〔三代實録〕

〈二十九清和〉

p.0295 貞觀十八年十一月廿七日庚子、車駕〈◯清和〉幸二染殿院一、　廿八日辛丑、天皇有レ意二讓位一故出居二外宮一、　廿九日壬寅、皇太子〈◯陽成〉自レ出二東宮一駕二牛車一詣二染殿院一、是日天皇讓二位皇太子一、勅二右大臣從二位兼行左近衞大將藤原朝臣基經一、保二輔幼主一、攝二行天子之政一、如二忠仁公故事一、〈◯中略、皇太子時年九歳、〉皇太子

p.0296 受二天子神璽寳劒一、御二鳳輦一歸二東宮一、文武百官扈從如二常儀一、

〔日本紀略〕

〈一醍醐〉

p.0296 寛平九年七月三日丙子、太上皇〈◯宇多〉讓二天祚于紫宸殿一、傳國詔命云、春宮大夫藤原朝臣、〈◯時平〉權大夫菅原朝臣、〈◯道眞〉少主〈◯醍醐〉未レ長之間、一日萬機之政可レ奉可レ請之事、可レ宣可レ行云云、

〔大鏡〕

〈一醍醐〉

p.0296 このみかど、仁和元年正月十八日に生れ給ふ、寛平五年四月二日に東宮にたヽせ給ふ、御とし九歳、同七年正月十九日、十一歳にて御元服、又同九年七月三日、位につかせ給ふ、御年十三、

〔神皇正統記〕

〈醍醐〉

p.0296 丁巳の年即位、戊午に改元、大納言左大將藤原時平、大納言右大將菅氏〈◯道眞〉兩人上皇の勅をうけて輔佐し申されき、〈◯中略〉御門御年十四〈◯十四恐十三誤〉にて位につきたまふ、をさなくまし〳〵しかど總明叡哲にきこえ給ひき、

〔日本紀略〕

〈一醍醐〉

p.0296 延長八年九月廿二日壬午、天皇逃レ位讓二於皇太子寛明親王一、〈◯朱雀〉詔曰、左大臣藤原朝臣〈◯忠平〉保二輔幼主一攝二行政事一、内侍執二劒璽一參二宣耀殿一、先帝〈◯醍醐〉御春秋四十六、今上〈◯朱雀〉八、

〔神皇正統記〕

〈朱雀〉

p.0296 庚寅の年即位、辛卯に改元、外舅左大臣忠平〈昭宣公の三男、後に貞信公と云、〉攝政せらる、寛平に昭宣公薨じてのちには、延喜御一代〈◯醍醐〉まで攝關なかりき、此君又幼主にて立給ふによりて、故事にまかせて、萬機を攝行せられけるにこそ、

〔日本紀略〕

〈九一條〉

p.0296 寛和二年六月廿三日庚申、花山天皇偸出二禁中一、奉二劒璽於新皇一、〈年七〇一條〉外祖右大臣〈◯藤原兼家〉參入、令下固二禁内一警備上、翌日行二先帝〈◯花山〉讓位之禮一、右大臣藤原朝臣攝二行萬機一、如二忠仁公〈◯藤原良房〉故事一、

〔神皇正統記〕

〈一條〉

p.0296 花山院の帝、神器をすてヽ宮を出給ひしかば、太子〈◯一條〉の外祖にて兼家の右大臣おはせしが、内にまゐり諸門をかためて、讓位の儀をおこなはれき、新主をさなくまし〳〵しかば、攝政の義ふるきがごとし、

〔日本紀略〕

〈十三後一條〉

p.0296 長和五年正月廿九日甲戌、三條院天皇逃レ位讓二皇太子一、〈◯後一條〉于時皇太子春秋九歳、

p.0297 于時御二坐上東門院一、令三新帝〈◯後一條〉外祖左大臣藤原道長朝臣攝二行政事一、如二忠仁公故事一、

〔榮花物語〕

〈十二玉の村菊〉

p.0297 長和五年正月廿九日、御讓位、〈◯三條〉東宮には式部卿の宮〈◯小一條院敦明〉ゐさせ給ひ、二月九日御即位なり、帝〈◯後一條〉は九にならせ給、東宮は廿三にぞおはしましける、

〔扶桑略記〕

〈三十堀河〉

p.0297 應徳三年十一月廿六日庚辰、亥時踐祚、〈八歳〉當日辰時、親王〈◯堀河〉從二車駕一、從二關白從一位藤原朝臣大炊第一御二堀川院一、即關白祗二候御車後一、大納言以下公卿皆悉前駈、但内大臣藤原朝臣師通騎馬、仕二於後陣一、左右大臣依二重服一不レ被二供奉一、亥時神璽寳劒受取、其儀式自二三條院西門一、至二堀川新内裏東門一、掃部司敷二筵道於大路一、先帝藏人頭左近中將源雅俊、右近權中將藤仲實二人、持二神璽寳劒一歩行、關白從一位藤原朝臣師實、内大臣藤原朝臣師通、并大納言以下公卿、近衞司等皆悉供奉、即夜有二太子〈◯堀河〉授位宣命一、關白改爲二萬機攝政詔一、十二月十九日辛卯、天皇年始八歳、即二位於大極殿一、儀式如レ常、

〔百練抄〕

〈五鳥羽〉

p.0297 嘉承二年七月十九日、踐祚、〈五〉以二關白右大臣忠實一爲二攝政一、十二月一日、即位、

〔保元物語〕

〈一〉

p.0297 後白河院御即位事
嘉承二年七月十九日、堀河院隱レサセ給ヒシカバ、太子〈◯鳥羽〉五歳ニテ踐祚アリ、

〔百練抄〕

〈六崇徳〉

p.0297 保安四年正月廿八日、受禪、〈五歳〉同日以二關白忠通一爲二攝政一、二月十九日、即二位于大極殿一、

〔百練抄〕

〈七近衞〉

p.0297 永治元年十二月七日、受禪、以二關白忠通一爲二攝政一、同廿七日、即位、〈三歳〉

〔保元物語〕

〈一〉

p.0297 後白河院御即位事
保延五年五月十八日、美福門院〈◯鳥羽后藤原得子〉ノ御腹ニ皇子〈◯近衞〉御誕生有シカバ、上皇〈◯鳥羽〉殊ニ悦ビ思召テ、何シカ春宮ニ立給、永治元年十二月七日、三歳ニテ御即位有、

〔百練抄〕

〈七六條〉

p.0297 永萬元年六月廿五日、受禪、以二關白基實一爲二攝政一、七月廿六日、即位、〈二歳〉

〔帝王編年記〕

〈二十一六條〉

p.0297 永萬元年六月廿五日、爲二親王一、同日立太子、即受禪、七月廿六日即二位於大極殿一、〈二歳〉

〔續世繼〕

〈三花園の匂ひ〉

p.0297 二條の御子ふたりおはしますなる御中に、第二のみこ〈◯六條〉におはしますな

p.0298 るべし、〈◯中略〉永萬元年六月廿五日、位につかせ給、御とし二、〈◯中略〉御とし二にて位につかせ給事、これやはじめにておはしますらん、近衞のみかどは三にてはじめてつかせ給ふと申しも、はじめたる事とこそうけ給はりしか、おほくはいつヽなどにてぞつかせ給ふ、からくにヽは、一なる例もおはしましけりとかきこえき、

〔百練抄〕

〈八高倉〉

p.0298 仁安三年二月十九日、受禪、〈八歳〉攝政基房如レ舊、同三月廿日、即位、

〔帝王編年記〕

〈二十二高倉〉

p.0298 仁安元年十月十日、立太子、〈年六〉同三年三月廿日、即二位于大極殿一、

〔百練抄〕

〈九安徳〉

p.0298 治承四年二月廿一日、受禪、〈三〉以二關白基通一爲二攝政一、同四月廿六日〈◯恐廿二日誤〉即二位紫宸殿一、〈三歳〉

〔玉海〕

p.0298 治承四年四月廿二日、此日天皇〈◯安徳〉即二位於紫宸殿一、〈春秋三歳〉

〔源平盛衰記〕

〈十二〉

p.0298 安徳天皇御位事
二月十九日、〈◯治承四年、十九日ハ廿二日ノ誤、〉春宮位ニ即セ給フ、安徳天皇ト申、僅ニ三歳ニゾ成セ給、イツシカナリ、先帝〈◯高倉〉モ異ナル御事モマシマサネ共、我御孫子ヲ即奉ンタメニオロシ奉ル、是モ太政入道〈◯平清盛〉ノ萬事思様ナル故ナリト人々私語傾申ケリ、平大納言時忠卿聞レ之被レ申ケルハ、ナジカハイツシカ也ト申ベキ、異國ニハ周ノ成王三歳、晋穆帝二歳、皆襁褓ノ中ニ裹レテ衣帶ヲ正クセザリシカ共、或ハ攝政負テ位ニツキ、或ハ母后懷キテ朝ニ望トイヘリ、後漢孝殤皇帝ハ、生レテ百餘日ニテ踐祚アリキ、我朝ニハ、近衞院三歳、六條院二歳、コレ皆天子ノ位ヲ踐給フ、非レ無二前蹤一、ナジカハ人ノ傾申ベキト瞋リ宣ケレバ、時ノ才人達、穴オソロシ〳〵物云ハジ、去バ其ハ吉例ニヤハ有トゾツブヤキケル、

〔百練抄〕

〈十後鳥羽〉

p.0298 壽永二年八月廿日、於二閑院一受禪、〈春秋四歳〉同日以二攝政基通一更爲二攝政一、

〔帝王編年記〕

〈二十三後鳥羽〉

p.0298 壽永二年八月廿日、皇子〈◯後鳥羽〉立太子并受禪、〈年四〉

〔續史愚抄〕

〈後宇多〉

p.0298 文永十一年正月廿六日甲辰、於二二條高倉里内一受禪、〈春秋八〉

〔續史愚抄〕

〈後小松〉

p.0299 永徳二年四月十一日庚寅、於二土御門里内一受禪、〈春秋六〉以二太政大臣一〈良基〉可レ爲二攝政一被レ載二讓位宣命一者、節會終自二舊主御所一〈中園殿〉攝政〈良〉已下參入、依レ爲二幼主一無二出御一、

〔續史愚抄〕

〈桃園〉

p.0299 延享四年五月二日辛卯、於二土御門里内一受禪、〈御年七〉自二櫻町殿一〈舊主御所〉被レ渡二劔璽一、〈御衣使藏人左少辨説道參内〉
◯按ズルニ、此他明正天皇モマタ幼帝ナレドモ、女帝踐祚ノ條ニ詳ナレバ此ニハ略ス、

女帝踐祚

〔日本書紀〕

〈二十二推古〉

p.0299 豐御食炊屋姫天皇、〈◯推古〉天國排開廣庭天皇〈◯欽明〉中女也、橘豐日天皇同母妹也、幼曰二額田部皇女一、姿色端麗、進止軌制、年十八歳、立爲二渟中倉太玉敷天皇〈◯敏達〉之皇后一、三十四歳、渟中倉太玉敷天皇崩、三十九歳、當二于泊瀬部天皇〈◯崇峻〉五年十一月一、天皇爲二大臣馬子宿禰一見レ殺、嗣位既空、群臣請二渟中倉太玉敷天皇之皇后額田部皇女一、以將レ令二踐祚一、皇后辭二讓之一、百寮上レ表、勸進至二于三一乃從レ之、因以奉二天皇璽印一、十二月己卯、皇后即二天皇位於豐浦宮一、

〔神皇正統記〕

〈推古〉

p.0299 崇峻かくれ給ひしかば、癸丑の年即位、大倭の小墾田の宮にまします、むかし神功皇后、六十餘年天下を治め給ひしかども、攝政と申て天皇とは號したてまつらざるにや、此、帝は正位に即給ひけるにこそ、即厩戸皇子を皇太子として、萬機の政をまかせ給ふ、攝政と申き、

〔日本書紀〕

〈二十四皇極〉

p.0299 天豐財重日〈重日、此云二伊柯之比一、〉足姫天皇〈◯皇極〉渟中倉太玉敷天皇〈◯敏達〉曾孫、押坂彦人大兄皇子孫、茅渟王女也、母曰二吉備姫王一、天皇順二考古道一而爲レ政也、息長足日廣額天皇〈◯舒明〉二年、立爲二皇后一、十三年十月、息長足日廣額天皇崩、　元年正月辛未、皇后即二天皇位一、以二蘇我臣蝦夷一爲二大臣一如レ故、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0299 高天原廣野姫天皇、〈◯持統〉少名鸕野讃良皇女、天命開別天皇〈◯天智〉第二女也、母曰二遠智娘一〈更名、美濃津子娘〉天皇深沈有二大度一、天豐財重日足姫天皇〈◯皇極〉三年適二天渟中原瀛眞人天皇一〈◯天武〉爲レ妃、雖二帝王女一、而好レ禮節儉、有二母儀徳一、天命開別天皇元年、生二草壁皇子尊於大津宮一、十年十月、從二沙門天渟中原瀛眞人天皇一入二於吉野一、避二朝猜忌一、〈◯中略〉天渟中原瀛眞人天皇元年六月、從二天渟中原瀛眞人天皇一避二

p.0300 難東國一、鞠レ旅會レ衆、遂與定レ謀、廼分二命敢死者數萬一、置二諸要害之地一、七月、美濃軍將等、與二大倭傑豪一共誅二大友皇子一、傳レ首詣二不破宮一、二年、立爲二皇后一、皇后從レ始迄レ今、佐二天皇一定二天下一、毎於二侍執之際一、輙言及二政事一多レ所二毘補一、　朱鳥元年九月丙午、天渟中原瀛眞人天皇崩、皇后臨レ朝稱レ制、

〔日本書紀〕

〈三十持統〉

p.0300 四年正月戊寅朔、皇后〈◯持統〉即二天皇位一、

〔續日本紀〕

〈四元明〉

p.0300 日本根子天津御代豐國成姫天皇〈◯元明〉小名阿閉皇女、天命開別天皇〈◯天智〉之第四皇女也、母曰二宗我嬪一、蘇我山田石川麻呂大臣之女也、適二日並知皇子尊一生二天之眞宗豐祖父天皇一、〈◯文武〉　慶雲三年十一月、豐祖父天皇不豫、始有二禪レ位之志一、天皇謙讓固辭不レ受、　四年六月〈◯十五日〉豐祖父天皇崩、　庚寅、天皇御二東樓一、詔召二八省卿及五衞督卒等一告下以依二遺詔一攝二萬機一之状上、　七月壬子、天皇即二位於大極殿一、詔曰、〈◯中略〉去年十一月〈爾〉威〈加母〉我王朕子天皇〈乃◯文武〉詔〈豆羅久、〉朕御身勞坐故、暇間得而御病欲レ治、此〈乃〉天〈豆〉日嗣之位者大命〈爾〉坐〈世〉大坐坐而治可レ賜〈止〉讓賜命〈乎〉受被レ賜坐而答曰〈豆羅久、〉朕者不レ堪〈止〉辭白而受不レ坐在間〈爾〉、遍多〈久〉日重而讓賜〈倍婆、〉勞〈美〉威〈美〉今年六月十五日〈爾〉詔命者受賜〈止〉白〈奈賀羅、〉此重位〈爾〉繼坐事〈乎奈母〉天地心〈乎〉勞〈美〉重〈美〉畏坐〈左久止〉詔命衆聞宣、故是以親王始而王臣百官人等〈乃〉淨明心以而彌務〈爾〉彌結〈爾〉阿奈奈比奉輔佐奉〈牟〉事〈爾〉依而〈志、〉此食國天下之政事者平長將レ在〈止奈母〉所念坐、又天地之共長遠不レ改常典〈止〉立賜〈覇留〉食國法〈母〉傾事無〈久〉動事無〈久〉渡將レ去〈止奈母〉所念行〈左久止〉詔命衆聞宣、〈◯下略〉

〔續日本紀〕

〈六元明〉

p.0300 靈龜元年九月庚辰、天皇禪二位干氷高内親王一、詔曰、〈◯中略〉今精華漸衰、耄期斯倦、深求二閑逸一、高踏二風雲一、釋レ累遺レ塵、將レ同二脱屣一、因以二此神器一、欲レ讓二皇太子一、〈◯聖武〉而年齒幼稚、未レ離二深宮一、庶務多端一日萬機、一品氷高内親王早叶二祥府一、夙彰二徳音一、天縱寛仁、沈靜婉、華夏載佇、謳訟知レ歸、今傳二皇帝位於内親王一、公卿百寮宜三悉祗奉以稱二朕意一焉、

〔續日本紀〕

〈十三聖武〉

p.0300 天平十年正月壬午、立二阿倍内親王一〈◯孝謙〉爲二皇太子一、大二赦天下一、

〔續日本紀〕

〈十七聖武〉

p.0301 天平二十一年七月甲午〈◯中略〉皇太子〈◯孝謙〉受レ禪即二位於大極殿一、

〔神皇正統記〕

〈孝謙〉

p.0301 孝謙天皇は、聖武の御子、御母は皇后光明子、淡海公不比等の大臣のむすめなり聖武の皇子安積親王、世をはやくして後男子ましまさず、依て此皇女立給ひき、己丑のとし、即位改元、平城宮にまします、
◯按ズルニ、聖武天皇ノ皇子ハ、史ニ其名ヲ逸ス、安積親王トスルハ誤ナリ、

〔續史愚抄〕

〈明正〉

p.0301 寛永六年十一月八日己丑、於二土御門里一〈◯里下恐脱二内字一〉受禪、〈御年七〉依レ爲二舊主〈◯後水尾〉御同座一、無二劒璽渡御一、〈◯中略〉以二左大臣一〈兼遐關白〉爲二攝政一、〈氏長者内覽等如レ元宣下云〉

〔玉露叢〕

〈八〉

p.0301 御即位記
寛永七年秋九月十二日、御即位之事アリ、〈◯明正〉是ハ去年ノ冬、俄ニ御位ヲ第一ノ皇女ニ讓リ玉フ事、昔奈良ノ京ニテハ數代オハセシカドモ、此平安城ニウツラセ玉ヒテ後ハ、八百年ニ餘リテタメシナキ御事也、此事江戸〈◯徳川氏、〉ニ聞召シ及バレ驚カセ玉ヒ、本朝ハ神國ニテ天照大神ノマサシク姫神ニテ天津日嗣ヲ萬世マデ傳ヘ玉フトハイヘドモ、久ク稀ナル御事ドモナレバ、若シ後ノ代ニ御外戚ノ御勢ニテ、カヽル事モ有ケルヤラントイハレサセ玉ハン名ノ、事々シカラン義ヲ慮ンハカラセオハシマス、イトメデタシ、然ハアレド御脱屣ノ叡慮カタクモノシ玉ヘバ、強ク諌メサセ玉フニ及バズ、兎モ角モ叡心ノマヽト思食ス事ニ成ヌ、
◯按ズルニ、明正天皇踐祚ノコトハ、讓位篇ノ讓位出於不平ノ條ニ詳ニセリ、就テ看ルベシ、

〔知音卿記〕

p.0301 寳暦十二年七月廿日辛巳、今日未過刻、自二兩傳奏一可レ參二御所一之由示來、仍參二非藏人口一之處、暫而傳奏〈月番〉姉小路前亞相被二出逢一、大外記出納等同參之列座、亞相之命云、子細注二切紙一被レ示レ之、記二于左一、
主上御不豫之處御大切ニ付、若被レ及二御異變一候ハヾ、直ニ親王御方〈◯後桃園〉踐祚之御沙汰可レ被レ爲レ在

p.0302 候得共、未御幼稚ニ候故、緋宮御方〈◯後櫻町〉踐祚、暫御在位被レ爲レ在候様ニ御治定被二仰出一事、
同廿一日壬午、
一自二頭辨資枝朝臣一御教書到來、記二于左一、
來廿七日、可レ有二踐祚一、任レ例可レ被二催沙汰一之状如レ件、
　　　　七月廿一日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　中辨判
　　　　　　四位史殿
　　上リ刻限、辰一點候也、

〔浚明院殿御實記〕

〈六〉

p.0302 寳暦十二年七月廿四日、この廿一日、主上〈◯桃園〉崩御の訃來、よりて音樂停廢五日、　八月三日、親王〈◯後桃園〉御幼稚にましませばしばしのほど、緋宮〈櫻町院第二皇女御諱智子◯後櫻町〉踐祚し給ふよし仰出さる、

〔野史〕

〈十八後櫻町〉

p.0302 寳暦十二年七月、桃園帝大漸、群臣議、以二英仁親王〈◯後桃園〉猶幼稚一、因二明正帝故事一決迎二天皇一、

〔日本書紀〕

〈十五顯宗〉

p.0302 五年正月、白髮天皇〈◯清寧〉崩、是月皇太子億計王〈◯仁賢〉與二天皇一讓レ位久而不レ決、由レ是天皇姉、飯豐青皇女、於二忍海角刺宮一臨レ朝秉レ政、自稱二忍海飯豐青尊一、

〔古事記〕

〈下清寧〉

p.0302 故天皇崩後、無下可レ治二天下一之王上也、於レ是問二日繼所レ知之王一也、市邊忍齒別王之妹忍海郞女、亦名飯豐王、坐二葛城忍海之高木角刺宮一也、

〔古事記傳〕

〈四十三〉

p.0302 此皇女の御事、書紀には顯宗卷に、天皇姉、飯豐青皇女とありて、其卷初分注にも押磐皇子の御子とせり、是は甚紛らはしきを、〈其故は此皇女は、既に履中卷に押羽皇子の御同母妹に青海皇女ありて、一曰二飯豐皇女一とあるを、顯宗卷に至て、忽かはりて其御女とすることあるべくもおぼえず、〉つら〳〵考るに、書紀は此記とは傳の異なるにて、書紀の傳は、飯豐皇女は、かの履中天皇の御子の、青海皇女とは別なるなり、〈然るをかの青海皇女の下に、一曰二飯豐皇女一とある分〉

p.0303 〈注は、青海皇女の亦名をかくも申すとにはあらず、是は一説を擧たるにて、かの押羽皇子の御子なる飯豐皇女を、履中天皇の御子にて、此青海皇女のことなりとする説もあるよしなり、其一説は即此記の傳と同じきなり、〉

〔扶桑略記〕

〈二飯豐〉

p.0303 飯豐天皇、市邊押磐皇子女、去來穗天皇〈◯履中〉孫、母荑姫也、甲子歳春二月生、年四十五即位、顯宗天皇、仁賢天皇、兄弟相讓不レ即二皇位一、仍以二其姉豐青姫一、令レ秉二天下之政一矣、〈◯中略〉此天皇不レ載二諸皇之系圖一、但和銅五年上奏日本紀載レ之、仍註二傳之一、諸本有无不レ同也、

〔水鏡〕

〈上飯豐〉

p.0303 つぎのみかど飯豐天皇と申き、これは女帝におはします、履中天皇のみこに、押羽皇子と申て、黒媛の御はらに王子おはしき、その御むすめなり、御母荑媛なり、甲子のとし二月に位につき給ふ、御とし四十五、このみかどの御をとヽふたり、かたみに位をゆづりてつき給はざりしほどに、御いもうとを位につけたてまつり給へりしなり、さて程なく其年のうち、十一月にうせ給ひしかば、此みかどをば系圖などにもいれたてまつらぬとかやぞうけたまはる、されども日本紀にはいれたてまつりて侍るなれば、次第を申侍るなり、

〔皇年代略記〕

〈清寧〉

p.0303 太子億計、〈兄〉皇子弘計、〈弟〉相讓共謙退、〈飯豐天皇即位事、見二日本紀一之由扶桑略記書二入之一、此條飯豐皇女於二忍海角刺宮一臨レ朝秉レ政、自稱二忍海飯豐青尊一云々、全以无二即位之所見一令二參差一也、此記者堅固沙門之抄物、有二參差事一不レ可二引用一之由、先賢示レ之者也、〉

〔神皇正統記〕

〈顯宗〉

p.0303 御兄仁賢まづ位につき給べかりしを、相共にゆづりましヽかば、同母の御姉飯豐尊、しばらく位に居給ひき、されどやがて顯宗さだまりまし〳〵しによりて、飯豐天皇をば、日嗣にはかぞへ奉らぬなり、

再祚

〔運歩色葉集〕

〈三佐〉

p.0303 再祚、〈天子再即位之事〉

〔下學集〕

〈下態藝〉

p.0303 重祚、再祚、〈共謂二天子之再即一レ位也〉

〔日本書紀〕

〈二十六齊明〉

p.0303 天豐財重日足姫天皇、〈◯皇極〉初適二於橘豐日天皇〈◯用明〉之孫、高向王一而生二漢皇子一、後適二於息長足日廣額天皇一、〈◯舒明〉而生二二男一女一、二年、立爲二皇后一、〈◯中略〉十三年十月、息長足日廣額天皇崩、明

p.0304 年正月、皇后〈◯齊明〉即二天皇位一、改レ元、四年六月、讓二位於天萬豐日天皇一、〈◯孝徳〉稱二天豐財重日足姫天皇一、曰二皇祖母尊一、天萬豐日天皇、後五年十月崩、　元年正月甲戌、皇祖母尊即二天皇位於飛鳥板蓋宮一、

〔神皇正統記〕

〈齊明〉

p.0304 齊明天皇は皇極の重祚なり、重祚と云事は、本朝には是にはじまれり、異朝には殷の大甲不明なりしかば、伊尹是を桐宮にしりぞけて、三年政をとれりき、されど帝位をすつるまではなきにや、大甲あやまちを悔て徳ををさめしかば、本のごとく天子とす、晋の世に桓玄と云し者、安帝の位をうばひて、八十日ありて義兵のためにころされしかば、安帝位にかへり給ふ、唐の世となりて、則天皇后世をみだられし時、我所生の子なりしかども、中宗をすてヽ盧陵王とす、おなじ御子豫王をたてられしも、又すてヽみづから位に即給ふ、後に中宗位にかへりて、唐の祚たえず、豫王も又重祚あり、これを睿宗と云、これぞまさしき重祚なれど二代にはたてず、中宗睿宗とぞつらねたる、我朝に皇極の重祚を齊明と號し、孝謙の重祚を稱徳と號す、異朝に替れり、是天日嗣を重くするゆゑ歟、先賢の義さだめてよしあるにや、

〔續日本紀〕

〈二十六稱徳〉

p.0304 天平神護元年十一月癸酉、先レ是廢帝〈◯淳仁〉既遷二淡路一、天皇重臨二萬機一、於レ是更行二大甞之事一、以二美濃國一爲二由機一、越前國爲二須伎一、

〔神皇正統記〕

〈稱徳〉

p.0304 稱徳天皇は孝謙の重祚也、庚戌の年正月一日、更に即位、同七日改元、太上天皇、〈◯稱徳〉ひそかに藤原の武智丸の大臣の第二の子、押勝を幸したまひき、太師〈其時太政大臣をあらためて、太師と云、〉正一位になる、〈◯中略〉天下の政しかしながら委任せられにけり、後に道鏡といふ法師〈弓削の氏の人也〉又寵幸ありしに、押勝いかりをなし、廢帝〈◯淳仁〉をすヽめ申して、上皇の宮をかたぶけんとせしに、事あらはれて誅にふしぬ、帝も淡路にうつされ給ふ、かくて上皇重祚あり、さきに出家せさせ給へりしかば、尼ながら位に居給ひけるにこそ、非常の極也けんかし、唐の則天皇后は、太宗の女御にて、才人といふ官に居給へりしかば、太宗かくれ給ひて、尼に成て感業寺といふ寺におはしけるを、高

p.0305 宗見たまひて、長髮せしめて皇后とす、いさめ申人おほかりしかど用られず、高宗崩じて中宗居たまひしをしりぞけ、睿宗を立られしをもまたしりぞけて、みづから帝位につき、國を大周とあらたむ、唐の名をうしなはんとおもひ給ひけるにや、中宗睿宗もわが生給ひしかども、捨て諸王とし、みづからのやから武氏のともがらをもちて、國をつたへしめんとさへしたまひき、其時にぞ法師も宦者もあまた寵せられて、世に謗らるヽためしおほくはんべりしか、この道鏡はじめは大臣に准じて〈日本准大臣のはじめにや〉大臣禪師といひしを太政大臣になし給ふ、それによりてつぎつぎ納言參議にも法師をまじへなされにき、道鏡世を心のまヽにしければ、あらそふ人のなかりしにや、大臣吉備の眞備の公、右中辨藤原の百川などありき、されども力およばざりけるにこそ、

雜載

〔日本書紀〕

〈八仲哀〉

p.0305 八年九月己卯、詔二群臣一以議レ討二熊襲一、時有レ神託二皇后一而誨曰、天皇何憂二熊襲之不一レ服、是膂之空國也、豈足二擧レ兵伐一乎、愈二兹國一而有二寳國一、譬如二美女之睩一、有二向津國一、眼炎之金銀彩色多在二其國一、是謂二栲衾新羅國一焉、若能祭レ吾者、則曾不レ血レ刄、其國必自服矣、復熊襲爲服、其祭レ之、以二天皇之御船、及穴門直踐立所レ獻之水田名大田是等物一爲レ幣也、天皇聞二神言一有二疑之情一、便登二高岳一遙望レ之、大海曠遠、而不レ見レ國、於レ是天皇對レ神曰、朕周望之、有レ海無レ國、豈於二大虚一有レ國乎、誰神徒誘レ朕、復我皇祖諸天皇等、盡祭二神祇一、豈有二遺神一耶、時神亦託二皇后一曰、如二天津水影一押伏、而我所レ見國、何謂レ無レ國、以誹二謗我言一、其汝王之如レ此言而遂不レ信者、汝不レ得二其國一、唯今皇后始之有レ胎、其子有レ獲焉、然天皇猶不レ信、以強擊二熊襲一、不レ得レ勝而還之、

〔日本書紀〕

〈十應神〉

p.0305 譽田天皇、〈◯應神〉足仲彦天皇、〈◯仲哀〉第四子也、母曰二氣長足姫尊一、〈◯神功〉天皇以下皇后討二新羅一之年、歳次庚辰冬十二月上生二於筑紫之蚊田一、幼而聰達、玄監深遠、動容進止、聖表有レ異焉、皇太后攝政之三年、立爲二皇太子一、初天皇在レ孕、而天神地祇授二三韓一、既産之、宍生二腕上一、其形如レ鞆、是肖下皇太后爲二雄裝一之負上レ鞆、故稱二其名一謂二譽田天皇一、攝政六十九年四月皇太后崩、　元年正月丁亥朔、皇太子〈◯應神〉即レ位、

〔日本書紀〕

〈十七繼體〉

p.0305 六年十二月、百濟遣レ使貢調、別表請二任那國上哆利、下哆利、娑陀、牟婁四縣一、〈◯中略〉物部大

p.0306 連方欲下發二向難波舘一宣中勅於百濟客上、其妻固要曰、夫住吉神、初以二海表金銀之國、高麗、百濟、新羅、任那等一、授二記胎中譽田天皇一、故太后氣長足姫尊〈◯神功〉與二大臣武内宿禰一毎レ國初置二官家一、爲二海表之蕃屏一、其來尚矣、抑有レ由焉、縱削賜レ他、違二本區域一、綿世之刺、詎離二於口一〈◯中略〉大兄皇子前有レ縁レ事、不レ聞レ賜レ國、晩知二宣勅一、驚悔欲レ改レ令曰、自二胎中之帝一置二官家一之國、輕隨二蕃乞一輙示賜乎、

〔日本書紀〕

〈十八宣化〉

p.0306 元年五月辛丑朔、詔曰、食者天下之本也、黄金萬貫、不レ可レ療レ飢、白玉千箱、何能救レ冷、夫筑紫國者、遐邇之所二朝屆一、去來之所二關門一、是以海表之國、候二海水一以來賓、望二天雲一而奉貢、自二胎中之帝一、洎二于朕身一、收二藏穀稼一、蓄二積儲糧一、遙設二凶年一、厚饗二良客一、安レ國之方、更無レ過レ此、

〔古事記〕

〈中仲哀〉

p.0306 是太后〈◯神功〉生御子、品夜和氣命、次大鞆和氣命、〈◯應神〉亦名品陀和氣命、〈二柱〉此太子之御名所三以負二大鞆和氣一者、初所生時、如レ鞆宍生二御腕一、故著二其御名一、是以知下坐二腹中一定上レ國也、

〔古事記傳〕

〈三十一〉

p.0306 凡て上代のさまは、天皇崩坐ぬれば、即其太子の御代にて、太子又即天皇に坐り、されば仲哀天皇既に崩坐ては、品陀別命御腹内より、おのづから天皇に坐々て、其御代にぞありける、〈胎中天皇と申す御稱のありしなども此故なり、〉然れども未生坐さず、御腹内に坐々しほどは、臣連八十伴緒こと〴〵に太后に仕奉り、生坐ても幼坐しヽほどはさらにも申さず、成長坐て後も太后の世に坐々ける限は、大御親に坐ませば、敬ひ仕奉り賜ひて、よろづ其御心に隨賜ひつべければ、御子はおのづからなほ太子の如くに坐々て、太后ぞおのづから天皇の如くには坐々ける、然れども又實には本より此御子ぞ天皇に坐々て、太后の御世と申すには非るが故に、此記には其御世〈◯神功〉をば立ざるなり、

〔日本書紀〕

〈二十三舒明〉

p.0306 豐御食炊屋姫天皇〈◯推古〉廿九年、皇太子豐聰耳尊薨、而未レ立二皇太子一、以二三十六年三月一天皇〈◯推古〉崩、九月葬禮畢之、嗣位未レ定、當二此時一蘇我蝦夷臣爲二大臣一、獨欲レ定二嗣位一、顧二畏群臣不一レ從、則與二阿倍麻呂臣一、議而聚二群臣一、饗二於大臣家一、食訖將レ散、大臣令三阿倍臣語二群臣一曰、今天皇既崩無レ嗣、若急不レ計、

p.0307 畏有レ亂乎、今以二詎王一爲レ嗣、天皇臥病之日、詔二田村皇子一曰、天下大任、本非二輙言一、爾田村皇子〈◯舒明〉愼以察レ之、不レ可レ緩、次詔二山背大兄王一曰、汝獨莫二諠譁一、必從二群言一、愼以勿レ違、則是天皇遺言焉、今誰爲二天皇一、時群臣嘿之無レ答、亦問レ之非レ答、強且問レ之、於レ是大伴鯨連進曰、既從二天皇遺命一耳、更不レ可レ待レ群言一、阿倍臣則問曰、何謂也、開二其意一、對曰、天皇曷思歟、詔二田村皇子一曰、天下大任也、不レ可レ緩、因レ此而言、皇位既定、誰人異言、時采女臣摩禮志、高向臣宇摩、中臣連彌氣、難波吉士身刺四臣曰、隨二大伴連言一更無レ異、許勢臣大麻呂、佐伯連東人、紀臣鹽手三人進曰、山背大兄王是宜レ爲二天皇一、唯蘇我倉麻呂臣獨曰、臣也當時不レ得二便言一、更思レ之後啓、爰大臣知二群臣不レ和、而不一レ能レ成レ事退之、先レ是大臣獨問二境部摩理勢臣一曰、今天皇崩無レ嗣、誰爲二天皇一、對曰、擧二山背大兄一爲二天皇一、是時山背大兄居二於斑鳩宮一、漏二聆是議一、即遣二三國王、櫻井臣和慈古二人一、密謂二大臣一曰、傳二聞之一、叔父以二田村皇子一欲レ爲二天皇一、我聞二此言一、立思矣居思矣、未レ得二其理一、願分明欲レ知二叔父之意一、於レ是大臣、得二山背大兄之告一、而不レ能二獨對一則喚二阿倍臣、中臣連、紀臣、河邊臣、高向臣、采女臣、大伴連、許勢臣等一、仍曲擧二山背大兄之語一、既而便且謂二大夫等一曰、汝大夫等、共詣二於斑鳩宮一、當下啓二山背大兄王一曰上、賤臣何之獨輙定二嗣位一、唯擧二天皇之遺詔一以告二于群臣一、群臣並言、如二遺言一、田村皇子、自當レ嗣レ位、更詎異言、是群卿言也、特非二臣心一、但雖レ有二臣私意一、而惶之、不レ得二傳啓一、乃面日親啓焉、爰群大夫等受二大臣之言一、共詣二于斑鳩宮一、使下三國王、櫻井臣、以二大臣之辭一啓中於山背大兄王上、時大兄王使レ傳二問群大夫等一曰、天皇遺詔奈之何、對曰、臣等不レ知二其深一、唯得二大臣語状一稱、天皇臥病之日、詔二田村皇子一曰、非三輕輙言二來國政一、是以爾田村皇子愼以言レ之不レ可レ緩、次詔二大兄王一曰、汝肝稚而勿二諠言一、必宜レ從二群言一、是乃近侍諸女王及釆女等悉知レ之、且大王所レ察、於レ是大兄王且令レ問レ之曰、是遺詔也、專誰人聆焉、答曰、臣等不レ知二其密一、既而更亦令レ告二群大夫等一曰、愛之叔父勞思、非二一介之使一、遣二重臣等一而教覺、是大恩也、然今群卿所レ道、天皇遺命者、小小違二我之所一レ聆、吾聞二天皇臥病一、而馳上之、侍二于門下一、時中臣連彌氣自二禁省一出之曰、天皇命以喚レ之、則參進向二于閤門一、亦栗隈釆女黒女迎二於庭中一、引二入大殿一、於レ是近習者栗下女王爲レ首、女孺鮪女等八人、并數十

p.0308 人侍二於天皇之側一、且田村皇子在焉、時天皇沈レ病、不レ能レ覩レ我、乃栗下女王奏曰、所レ喚山背大兄王參赴、即天皇起臨レ之、詔曰、朕以二寡薄一久勞二大業一、今暦運將レ終、以レ病不レ可レ諱、故汝本爲二朕之心腹一、愛寵之情不レ可レ爲レ比、其國家大基、是非二朕世一、自レ本務レ之、汝雖二肝稚一、愼以言、乃當時侍之近習者悉知焉、故我蒙二是大恩一、而一則以懼、一則以悲、踊躍歡喜、不レ知レ所レ如、仍以爲社稷宗廟重事也、我眇少以二不賢一、何敢當焉、當二是時一、思三欲語二叔父及群卿等一、然未レ有二可レ道之時一、於レ今非レ言耳、吾曾將レ訊二叔父之病一、向レ京而居二豐浦寺一、是日天皇遣二八口釆女鮪女一、詔之曰、汝叔父大臣、常爲レ汝愁言、百歳之後、嗣位非レ當レ汝乎、故愼以自愛矣既分明有二此事一、何疑也、然我豈餐二天下一、唯顯二聆事一耳、則天神地祇共證レ之、是以冀正欲レ知二天皇之遺勅一、亦大臣所レ遣群卿者從來如二嚴矛一、取二中事一、而奏請人等也、故能宜レ白二叔父一、既而泊瀬仲王、別喚二中臣連河邊臣一謂レ之曰、我等父子並自二蘇我一出之、天下所レ知、是以如二高山一恃レ之、願嗣位勿二輙言一、則令二三國王、櫻井臣一副二群臣一而遣レ之曰、欲レ聞二還言一、時大臣遣二紀臣大伴連一、謂二三國王、櫻井臣一曰、先日言訖更無レ異矣、然臣敢之輕二誰王一也、重二誰王一也、於レ是數日之後、山背大兄、亦遣二櫻井臣一告二大臣一曰、先日之事陳レ聞耳、寧違二叔父一哉、是日大臣病、動以不レ能レ面二言於櫻井臣一、明日大臣喚二櫻井臣一、即遣二阿倍臣、中臣連、河邊臣、小墾田臣、大伴連一、啓二山背大兄一言、自二磯城嶋宮御宇天皇〈◯欽明〉之世一、及二近世一者、群卿皆賢哲也、唯今臣不賢、而適當二乏レ人時一、誤居二群臣上一耳、是以不レ得レ定レ基、然是事重也、不レ能二傳道一、故老臣雖レ勞面啓レ之、其唯不レ誤二遺勅一者也、非二臣私意一、既而大臣傳二阿倍臣、中臣連一、更問二境部臣一曰、誰王爲二天皇一、對曰、先レ是大臣親問之日、僕啓既訖之、今何更亦傳以告耶、乃大忿而起行之、適二此時一、蘇我氏諸族等悉集、爲二嶋大臣一〈◯蘇我馬子〉造レ墓、而次二于墓所一、爰摩理勢臣壞二墓所之廬一、退二蘇我田家一、而不レ仕、時大臣慍レ之、遣二身狹君勝牛、錦織首赤猪一而誨曰、吾知二汝言之非一、以二干支之義一不レ得レ害、唯他非汝是、我必忤レ他從レ汝、若他是汝非、我當二乖レ汝從一レ他、是以汝遂有レ不レ從者我與レ汝有レ瑕、則國亦亂、然乃後生言レ之、吾二人破レ國也、是後葉之惡名焉、汝愼以勿レ起二逆心一、然猶不レ從、而遂赴二于斑鳩一、往二於泊瀬王宮一、於レ是大臣益怒、乃遣二群卿一請二于山背大兄一曰、頃者摩理勢違レ臣、匿二於泊瀬王宮一、願得二摩理勢一欲レ推二

p.0309 其所由一、爰大兄王答曰、摩理勢素聖皇所レ好、而暫來耳、豈違二叔父之情一耶、願勿レ瑕、則謂二摩理勢一曰、汝不レ忘二先王〈◯厩戸皇子〉之恩一而來、甚愛矣、然其因二汝一人一、而天下應レ亂、亦先王臨レ沒謂二諸子等一曰、諸惡莫レ作、諸善奉行、余承二斯言一、以爲二永戒一、是以雖レ有二私情一、忍以無レ怨、復我不レ能レ違二叔父一、願自レ今以後、勿レ憚レ改レ意、從レ群而无レ退、是時大夫等且誨二摩理勢臣一曰、不レ可レ違二大兄王之命一、於レ是摩理勢臣、進無レ所レ歸、乃泣哭更還之、居二於家一十餘日、泊瀬王忽發レ病薨、爰摩理勢臣曰、我生之誰恃矣、大臣將レ殺二境部臣一、而興レ兵遣レ之、境部臣聞二軍至一、率二仲子阿椰一出二于門一、坐二胡床一而待、時軍至、乃令二來目物部伊區比一以絞レ之、父子共死、　元年正月丙午、大臣及群卿、共以二天皇之璽印一、獻二於田村皇子一、則辭レ之曰、宗廟重事、寡人不賢、何敢當乎、群臣伏固請曰、大王先朝鍾愛、幽顯屬レ心、宜下纂二皇綜一光中臨億兆上、即日即二天皇位一、

〔日本書紀〕

〈二十八天武〉

p.0309 元年五月、是月朴井連雄君、奏二天皇一曰、臣以レ有二私事一、獨至二美濃一、時朝廷宣二美濃尾張兩國司一、爲レ造二山陵一豫差二定人夫一、則人別令レ執レ兵、臣以爲非レ爲二山陵一、必有レ事矣、若不二早避一有レ危歟、或有レ人奏曰、自二近江京一至二于倭京一、處處置レ候、亦命二菟道守橋者一遮下皇太弟宮〈◯天武〉舍人、運二私粮一事上、天皇惡レ之、因令二問察一以知二事已實一、於レ是詔曰、朕所二以讓レ位遁一レ世者、獨治レ病全レ身、永終二百年一、然今不レ獲レ已應レ承レ禍、何默亡レ身耶、　六月壬午、詔二村國連男依、和珥部臣君手、身毛津君廣一曰、今聞近江朝廷〈◯弘文〉之臣等、爲レ朕謀レ害、是以汝等三人急往二美濃國一、告二安八磨郡湯沐令多臣品治一、宣二示機要一、而先發二當郡兵一、仍經二國司等一差二發諸軍一、急塞二不破道一、朕今發路、　甲申、〈◯中略〉將レ及二横河一、有二黒雲一廣十餘丈經レ天、時天皇異レ之、則擧レ燭親秉レ式占曰、天下兩分之祥也、然朕遂得二天下一歟、　丙戌、〈◯中略〉當二此時一大伴連馬來田、弟吹負、並見二時否一以稱レ病、退二於倭家一、然知下其登二嗣位一者必所レ居二吉野一太皇弟上矣、　七月辛亥、男依等到二瀬田一時、大友皇子〈◯弘文〉及群臣等、共營二於橋西一、而大成レ陣、不レ見二其後一、旗旘蔽レ野、埃塵連レ天、鉦皷之聲聞二數十里一、列弩亂發、矢下如レ雨、其將智尊、率二精兵一以二先鋒一距レ之、仍切二斷橋中一須レ容二三丈一、置二一長板一、設有二蹋レ板度者一、乃引レ板將レ墮、是以不レ得二進襲一、於レ是有二勇敢士一、曰二大分君稚臣一、則棄二長矛一、以重二擐甲一、㧞レ刀急蹈レ板度レ之、便斷二著レ板綱一、以被レ矢入レ陣、衆悉亂而散

p.0310 走之不レ可レ禁、將軍智尊㧞レ刀斬二退者一、而不レ能レ止、因以斬二智尊於橋邊一、則大友皇子、左右大臣等、僅身免以逃之、　壬子、男依等斬二近江將犬養連五十君、及谷直鹽手於粟津市一、於レ是大友皇子走無レ所レ入、乃還隱二山前一以自縊焉、　乙卯、將軍等向二於不破宮一、因以捧二大友皇子頭一、而獻二于營前一、

〔日本書紀〕

〈二十九天武〉

p.0310 二年二月癸未、天皇命二有司一設二壇塲一、即二帝位於飛鳥淨御原宮一、

〔神皇正統記〕

〈天武〉

p.0310 天武天皇は、天智同母の弟なり、皇太子に立て大倭にまし〳〵き、天智は近江にまします、御病ありしに太子を呼申給ひけるを、近江の朝廷の臣のなかに告しらせ申人ありければ、御門の御意のおもむきにやありけん、太子の位をみづからしりぞきて、天智の御子太政大臣大友の皇子〈◯弘文〉にゆづりて、芳野の宮に入たまふ、天智かくれ給ひてのち、大友皇子猶あやぶまれけるにや、軍をめして芳野をおそはんとぞはかり給ひける、天皇ひそかに芳野を出、伊勢にこえ、飯高の郡に至りて大神宮を遙に拜して、美濃へかヽりて東國の軍をめす、皇子高市まゐり給ひしを大將軍として、美濃の不破の關をまほらしめ、天皇は尾張の國にぞこえ給ひける、國々みなしたがひ申しかば不破の關の軍にうちかち、すなはち勢多にのぞみて合戰あり、皇子の軍やぶれて、皇子ころされ給ひぬ、大臣以下或は誅にふし、或は遠流せらる、軍にしたがひ申輩しなじなによりて其賞をおこなはる、壬申の年即位、大和の飛鳥淨御原の宮にまします、

〔愚管抄〕

〈三〉

p.0310 天智の御弟腹もやがて齊明天皇にておはしましける、天武天皇を東宮として、御位をひきうつし給ふべかりけるを、天智の御子大友皇子とておはしましけるをば、太政大臣になしておはしましけるが、御心のうるはしからざりけるをや天武御らんじけん、位を辭し給ひて御出家ありて、吉野山に籠り居させ給ければ、天智大に歎きながら崩御終りて後、大友皇子いくさを起して、吉野山を攻奉らんとする時、大友皇子の妃にて、やがて天武天皇の御娘のおはしければ、御てヽのやがて殺され給ん事を悲しみや思召けん、かヽる事出來たる由を、忍やかに吉野山

p.0311 へ告參らせられたりけるとぞ申傳へたる、是を聞てこはいかに我はわれとよしなく思ひて、出家に及びて入籠りたるを、かく攻られんこそとて、吉野山を出て出家の形を直して、伊勢大神宮を拜み給て、美濃尾張の勢を催しおこして、近江國に大友皇子軍を設け給ひたりけるに寄せ戰ひて、天武天皇の御方勝にければ、大友皇子の首をとりて、其時の左右大臣、大友皇子の御方にてありけるをも同じく首をとり、或は流しなどして、頓て位につきて、世を治め給ひて十五年おはしましける、

〔三代實録〕

〈四十五光孝〉

p.0311 天皇少而聰明、好讀二經史一、容止閑雅、謙恭和潤、慈仁寛曠、親二愛九族一、性多二風流一、尤長二人事一、仁壽太皇太后甚親二重之一、毎レ有二遊覽讌會之事一、太后必請令レ爲二之主一矣、嘉祥二年、渤海國入覲、大使王文姫望下見天皇在二諸親王中一拜起之儀上、謂二所親一曰、此公子有二至貴之相一、其登二天位一必矣、後有二善相者藤原仲直一、其弟宗直侍二奉藩宮一、仲直戒レ之曰、君王骨法當レ爲二天子一、汝勉事二君王一焉、

〔古事談〕

〈一王道后宮〉

p.0311 陽成院御邪氣大事ニ御坐之時、依レ不レ御二坐儲君一、昭宣公〈◯藤原基經〉親王達ノモトヘ行廻ツヽ見二事體一給ニ、他之親王達ハサワギアヒテ、或裝束シ、或圓坐トリテ、奔走シアハレタリケルニ、小松帝〈◯光孝〉ノ御許ニマヰラセ給タリケレバ、ヤブレタル御簾ノ内ニ、縁破タル疊ニ御坐シテ、本鳥二俣ニ取テ無二傾動氣一御坐ケレバ、此親王コソ帝位ニハ即給ハメトテ御輿ヲ寄タリケレバ、鳳輦ニコソノラメトテ葱花ニハ不二乘給一ケリ、依二此事一陣定之時、融左大臣有二帝位之志一云、被レ尋二近キ皇胤一者、融等モ侍ルハト云云、昭宣公云雖レ爲二皇胤一給レ姓、只人ニテ被レ仕タル人、即位之例如何云云、融卷レ舌止ル、

〔大鏡〕

〈二太政大臣基經〉

p.0311 陽成院、おりさせ給ふべき定めにさぶらはせ給ふ、融のおとヾやんごとなくて位につかんといふ心深くて、近き王胤をたづねば、融等も侍るはといひいでたまへるを、この大臣〈◯藤原基經〉王胤なれど姓を給はりてたヾ人にてつかはれて、位につきたる事ありやと申出給

p.0312 へれば、さもあることなれば、この大臣のさだめによりて、小松の帝〈◯光孝〉は位につき給へるなり、

〔大鏡〕

〈一宇多〉

p.0312 この御門いまだ位につかせ給はざりけるとき、十一月廿よ日の程に、かものみやしろのへんに、たかつかひあそびありきけるに、かものみやうじんたくせんし給ひけるやう、此へんに侍るおきなどもなり、はるはまつり多侍り、ふゆのいみじくつれ〴〵なるに、まつり給はらんと申たまへば、そのときにかものみやうじんのおほせらるヽとおぼえさせ給ひて、おのれはちからおよび候はず、おほやけに申させ給ふべき事にこそさぶらふなれと申させ給へば、ちからおよばせ給ひぬべきなればこそ申せ、いたくきやう〳〵なるふるまひなせさせ給ふぞ、さ申やうありとて、ちかくなり侍るとて、かいけつやうにうせ給ひぬ、いかなる事にかと心えずおぼしめす程に、かく位につかせたまへりければ、りんじのまつりせさせたまへるぞかし、かもの明神のたくせんしてまつりせさせ給へと申させ給ふ日、とりの日にて侍りければ、やがて霜月のはてのとりの日、臨時の祭は侍るぞかし、

〔玉海〕

p.0312 壽永二年八月十四日丙午、入レ夜大藏卿泰經爲二御使一來、〈先レ是有レ召依レ病申二其由一、仍所レ來也、〉余隔レ簾謁レ之、泰經云、踐祚事、高倉院宮二人〈一人義範女腹五歳、一人信隆卿女腹四歳、〉之間思食煩之處、以外大事出來了、義仲今日申云、故三條宮御息宮在二北陸一、義兵之勳功在二彼宮御方一、仍於二立王事一者不レ可レ有二異議一之由所レ存也云々、仍重以二俊尭僧正一〈與二義仲一爲二親睦一之故〉被レ仰二子細一云、我朝之習、以二繼體守文一爲レ先、高倉院宮兩人御坐、乍レ置二其王胤一、強被レ求二孫王一之條、神慮難レ測、此條猶不レ可レ然云々、義仲重申云、於二如レ此之大事一者、源氏等雖レ不レ及二執申一、粗案二事之理一、法皇御隱居之刻、高倉院恐二權臣一如レ無二成敗一、三條宮依二至孝一亡二其身一、不レ思二食忘其孝一哉、猶此事雖レ散二其鬱一、但此上事者、有二勅定一云々者、此事如何可二計奏一者、申云、於二他朝議一者不レ顧二事之許否一、毎レ有二讃詢一述二愚欵一、至二王者之沙汰一者、非二人臣之最一、昔法皇〈◯後白河〉御宇之始、近衞上皇御事之後、以レ誰可レ爲レ主哉之由、鳥羽院被レ問二仰此法性寺入道相國一、即奏以二我君御事一、從二彼言一踐祚了、彼時猶依レ恐二冥鑒一兩三度不レ言二是非一、只請二勅斷一、

p.0313 叡問及二再三一之時、以二道理一奏達、朝之重臣、國之元老、猶恐二重事之不一レ輕、屢不レ能二自專一、况區々之末生、不肖之愚臣、得而不レ可二言上一、偏任二叡慮一、須レ被レ行二御占一之由雖レ可レ令二計奏一、其條猶有レ恐、只以二叡念之所一レ欲、可下存二天運之令レ然之由一御上歟者、泰經退出了、　十八日庚戌、靜賢法印以二人傳一云、立王事義仲猶欝申云々、此事先始以二高倉院兩宮一被レ卜之處、官寮共以二兄宮一爲レ吉之由占二申之一、其後女房丹波〈御愛物遊君、今號二六條殿一、〉夢想云、弟宮〈四宮、信隆御外孫也、〉有二行幸一、持二松枝一給之由見之奏二法皇一、仍乖二卜筮一、可レ奉レ立二四宮一之様思食云々、然間義仲推二擧北陸宮一、仍入道關白、攝政、左大臣、餘四人應レ召、三人參入、余依レ疾不參、彼三人各被レ申云、北陸宮一切不レ可レ然、但武士之所レ申不レ可レ不レ恐、仍被レ行二御卜一可レ被レ從二彼趣一殿ハ一向不レ及レ占、可レ被レ仰二子細於義仲一云々、余只在二勅定一之由申了、仍折中被レ行二御占一之處、今度第一四宮〈依二夢想事一也〉第二三宮、第三北陸宮、官寮共申二第一最吉之由一、第二半吉、第三始終不快、以二占形一遣二義仲一之處、申云、先以二北陸宮一可レ被レ立二第一一之處、被レ立二第三一無レ謂、凡今度大功彼北陸宮御力也、爭默止哉、猶申二合郞從等一、可レ申二左右一之由申云々、凡勿論事歟、不レ能二左右一、不レ能二左右一、凡初度卜筮、與二今度卜筮一、被レ立二替一二一之條甚有二私事一歟、卜筮者不二再三一、而此立王之沙汰之間、數度有二御卜一、神定無二靈告一歟、小人之政、萬事不二一決一、可レ悲之世也、　廿日壬子、此日有二立皇事一、〈高倉院第四宮（後鳥羽）御年四歳、母故正三位修理大夫信隆卿女、〉兼日頗有二其沙汰一、先以二高倉院兩宮一〈三四宮〉被二卜筮一〈以二三宮一立二第一一〉之處、官寮共申二一吉之由一、其後女房有二夢想事一、〈子細見二先日記一、四宮可二立給一之由也、〉又義仲引下汲坐二加賀國一之宮上、〈子細見レ上〉如レ此之間、更又有二御卜一、〈今度以二四宮一立レ一、加賀宮立二第三一云々、〉又卜申二一吉之由一、第二半吉、第三不快云々、以二卜形一遣二義仲一之處、大忿怨申云、先次第之立様甚以不當也、依二御歳次第一者、以二加賀宮一可レ立二第一一也、不レ然者又如レ初可レ被レ爲レ先二兄宮一、事體似二矯飾一、不レ思二食知故三條宮至孝一之條、太以遺恨云々、然而一昨日重遣二御使一、〈僧正俊尭、木曾之定使也、〉數遍往還、憗申下可レ在二御定一之由上、仍其後一決云々、

〔源平盛衰記〕

〈三十二〉

p.0313 四宮御位事
主上〈◯安徳〉ハ外家ノ惡徒ニ引レテ、花ノ都ヲ出テ、西海ノ波ノ上ニ漂ヒ御坐ラン事ヲ、法皇〈◯後白河〉御

p.0314 心苦ク思召テ、可レ奉二還上一由、平大納言時忠ノ許ヘ院宣ヲ雖レ被レ下、平家是ヲ奉レ惜、免進セザリケレバ、力及バセ給ハズシテ、サラバ新帝ヲ祝奉ルベシトテ、院ノ殿上ニテ公卿僉議アリ、高倉院御子、先帝ノ外三所御坐、二宮〈◯後高倉院守貞〉ヲバ儲君ニトテ、平家西國ヘ取下進ケリ、今ハ三四ノ間ヲ可レ奉レ立歟、又故以仁ノ宮ノ御子オハシマス、十七ニゾ成セ給ケル、是ハ還俗ノ人ニテ御坐セドモ、懸ル亂世ニハ成人ノ主旁可レ宜二還俗一ノ事、天武之例ノ外ニ求ムベカラズ、又昭宣公恒貞親王ヲ奉レ迎ラレキ、還俗ノ人憚アルベカラズトゾ沙汰有ケル、去共法皇ハ高倉院三四御子之間ニ思召定ケレバ、同八月五日、彼三四宮ヲ奉二迎取一、先三宮ノ五歳ニ成セ給フ是ヘト仰有ケレバ、大ニ面嫌マシ〳〵テムヅカラセ給ケレバ、疾々トテ速ニ返出シオハシマス、次ニ四宮ヲ是ヘト申サセ給ヘバ、左右ナク歩ミ寄ラセ給、御膝ノ上ニ渡ラセオハシマシ、御ナツカシゲニ龍顏ヲ守リ上進セ給ケリ、御年四歳ニゾナラセ給、法皇ハ御哀氣ニ思召、御髮掻撫サセ給、御涙グミテ、此宮ゾ誠ニ朕ガ御孫也ケル、スゾロナラン者ナラバ、ナドテカ懸ル老法師ヲバ懷ク思フベキ、故院〈◯高倉〉ノ少クオハセシ顏立ニ違ネバ、只今ノ様ニ思出ラルヽゾヤ、懸ル忘形見ヲ留置レタリケルヲ、今マデ不レ奉レ見ケル事ヨトテ、御涙ヲ流サセ給ケリ、淨土寺ノ二位殿、其時ハ丹後殿ノ局トゾ申ケル、御前ニ候シ給ケルガ、袖ヲ絞リテ被レ申ケルハ、兎角ノ御沙汰ニ及バズ、御位ハ此宮ニコソト聞エサセ給ケレバ、法皇子細ニヤト仰有テ、定マラセ給ニケリ、内々御占有ケルニモ、四宮ハ御子孫マデ日本國ノ御主タルベシトゾ、神祇官并陰陽寮ナド占申ケリ、御母ハ七條修理大夫信隆卿ノ御娘ニテオハシケルガ、建禮門院中宮ノ御時、忍ツヽ内ノ御方ヘ被レ參ケレバ、皇子サシツヾキ御坐シケルヲ、父修理大夫平家ノ鍾愛ヲ憚、又中宮ノ御氣色ヲモ深ク恐給ケレ共、八條二位殿御乳人ニ付ナドセラレケリ、此宮ヲバ法勝寺執行能圓法印ノ奉レ養ケルガ、平家ニ付テ西國ヘ落ケル時、餘ニ周章、北方ヲモ不レ被レ具、宮ヲモ京ニ奉レ忘タリケルヲ、法印人ヲ返シテ、急ギ宮具シ進セテ西國ヘ下給ヘト、北方

p.0315 ヘ宣ヒタリケレバ、既ニ下ラントテ、西八條ナル所マデ、忍具シ進セテ出給タリケルヲ、御乳人ノ妖ニ紀伊守範光ト云者アリ、心賢ク思ケルハ、主上ハ西海ヘ落下ラセ給ヌ、法皇都ニ留ラセ給タレバ、御位ヲバ定テ四宮ニゾ讓ラセ給ハンズラン、神祇官ノ御占モ、未憑モシキ事也トテ、二位殿ノ宿所ニ參テ尋申ケレバ、西國ヨリ御文有トテ、忍テ此御所ヲバ出サセ給ヌト答ケル間、コハ淺増キ事也ト思、nanキ所此コ彼コ捜尋進セテ、唯今君ノ御運ハ開ケサセ給ベシ、物ニ狂ハセ給テ、角ハ出立給カ、西國ヘ落下ラセ給タラバ、君モ御位ニ立セ給ヒ、御身モ世ニオハセンズルニヤトテ、大ニ瞋腹立テ、取留メ進セタリケルニ、翌日法皇ヨリ御尋アリテ、御車御迎ニ參テ角定ラセ給ケリ、ソモ帝運ノ可レ然事ト申ナガラ、範光ハユヽシキ奉公ノ者也トゾ人申ケル、

〔源平盛衰記〕

〈三十二〉

p.0315 還俗人即位例事
同〈◯壽永二年二月〉十八日、左大臣經宗、堀河大納言忠親、民部卿成範、皇后宮權大夫實守、前源中納言雅頼、梅小路中納言長方、源宰相中將通親、右大辧親宗被二參入一テ、即位并劔鏡璽宣命尊號事等議定アリ、頭辨兼光朝臣諸道ノ勘文ヲ下ス、左大臣ニ次第ニ被二傳下一ケリ、神鏡事、偏ニ存二如在一之儀還有二其恐一、暫定二其所一可レ被レ待二歸御一歟、劔璽事、於二本朝一更雖レ無レ例、漢家之跡非レ一、先有二踐祚一可レ被レ待二歸來一歟、御劔ハ可レ備二儀式一、尤可レ被レ用二他劔一者歟、即位事、八月受禪、九月即位、圓融院也、而天下不レ靜、事卒爾也、十月例、光仁寛和ナリ、可レ依二二代一者、十一二月ニ可レ被レ行、而今年即位以前朔旦、嘉承無二出御一、不吉事也、十月旁可レ宜歟、任二治暦之例一可レ被レ用二官廳紫宸殿一歟、舊主尊號事、任二外記勘状一可レ被レ用二嘉承例一之由、一同ニ被二定申一ケリ、〈◯中略〉同廿日、法住寺ノ新御所ニテ、高倉院第四王子有二踐祚一、〈◯後鳥羽〉春秋四歳、左大臣召二大内記光輔一、踐祚事、太上法皇〈◯後白河〉ノ詣旨ヲ可レ載也、先帝不慮ニ脱屣事、又攝政事、同可レ載ト仰ス、次第ノ事ハ不レ違二先例一ドモ、劔璽ナクシテ踐祚事、漢家ニハ雖レ有二光武跡一、本朝ニハ更無二先例一、此時ニゾ始ケル、内侍所ハ如在ノ禮ヲゾ被レ用ケル、舊主已被レ奉二尊號一、新帝踐祚アレ共、西國ニハ又被レ奉レ帶二三種神器一受二寳

p.0316 祚一給テ、于レ今在位、國似レ有二二主一歟、叙位除目已下事、法皇宣ニテ被レ行ノ上者、強ニ急ギ無二踐祚一トモ可レ有二何苦一、但帝位空例、本朝ニハ神武天皇七十六年丙子崩、綏靖天皇元年庚辰即位、一年空、懿徳天皇二十四年甲子崩、孝昭天皇元年丙寅即位、一年空、應神天皇二十一年庚午崩、仁徳天皇元年癸酉即位、二年空、繼體天皇廿五年辛亥崩、安閑天皇元年甲寅即位、二年空、而今度ノ詔ニ、皇位一日不レ可レ曠被レ載事、旁不レ得二其心一トゾ、有職ノ人々難ジ被レ申ケル、サレバ異國ハ不レ知、我朝ニハ、神武天皇ハ地神第五代ノ御讓ヲ稟御坐シヽヨリ以來、故高倉院ニ至ラセ給マデ八十代、其間ニ帝王オハシマサデ、或二年、或三年ナド有ケレ共、二人ノ帝ノ御坐事未レ聞、世ノ末ナレバヤ、京田舍二人ノ國王出來給ヘリ、不思議也トゾ申ケル、平家ハ四宮既ニ御踐祚ト聞テ、哀三四宮ヲモ皆取下奉ルベカリシ者ヲト被二申合一ケレバ、或人ノサラマシカバ、高倉宮ノ御子ヲ、木曾冠者〈◯義仲〉ガ北國ヨリ奉レ具上タルコソ、位ニハ即給ハンズレト云ケレバ、平大納言時忠、兵衞佐尹明ナドノ、如何出家還俗ノ人ハ、位ニ即給ベキト宣ケレバ、又或人申サレケルハ、異國ニハ、則天皇后ハ唐太宗ニ奉レ後、尼トナリ感業寺ニ籠給タリケルガ、再高宗ノ后ト成世ヲ治給シ程ニ、高宗崩御ノ後、位ヲ讓得給テ治二天下一給ケリ、中宗皇帝ハ入二佛家一、玄弉三藏ノ弟子ト成、佛光王ト申ケレ共、則天皇后ノ讓エテ、崩御ノ後、還俗シテ、即レ位給ヘリキ、我朝ニハ天武天皇、大友皇子ノ難ヲ恐テ、春宮ノ位ヲ退マシ〳〵テ、大佛殿ノ南面ニシテ御出家アリシカ共、終ニ大友皇子ヲ討テ位ニツキ給ヒキ、孝謙天皇ハ位ヲサリテ出家シ、御名ヲ法基ト申シカ共、大炊天皇〈◯淳仁〉ヲ奉レ流、又位ニツキ給ヘリ、今度ハ稱徳天皇トゾ申ケル、サレバ出家ノ人モ即レ位給事ナレバ、木曾ガ宮モ難カルベキニアラズト申テ、咲ナドシケルトカヤ、