https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1007 漬物ハ、ツケモノト云フ、ツケハヒタスト云フニ同ジク、ヒタシモノト云フガ如シ、漬物ヲ或ハ香物トモ云ヒ、香々トモ云フ、香々ハ香物ノ重言ナリ、蓋シ香物ノ名ハ、足利幕府以後起ル所ニシテ、味噌漬ニ限レリト云ヒ、或ハ鹽漬ニテモ味噌漬ニテモ、糟漬又ハ糠漬ニテモ、唯其芳香アルヲ以テ名ヅケタリト云ヒ、或ハ香ノ附星ニ傚ヒテ之ヲ製セシニヨリテ、名ヲ得タリトモ云フ、凡ソ漬物ニハ鹽漬、糠漬、醬漬、味噌漬、糟漬、麴漬等ノ數種アリ、味噌漬ハ、野菜ヲ始メ、其他種々ノ物ヲ味噌ニ漬ケタルヲ云ヒ、糟漬ハ洒糟ニ漬ケタルヲ云フ、之ヲ奈良漬ト稱スルハ、奈良ハ酒ノ産地ニシテ、糟ノ味甘美ナルヲ以テ、獨リ其名ヲ擅ニスルニ至レリ、其他或ハ酒ニ浸シ、或ハ醴ニ漬ケ、或ハ酒ト酢トヲ混合シテ漬ケタルモノアリ、其製法ト材料トニ由リテ、種種ノ名稱ヲ附ス、漬物、漬菜ノ名ハ、既ニ延喜式ニ見エ、葅、須々保利、糟漬、醬漬、味醬漬等ノ名モ見エタレバ、當時既ニ種々ノ製方アリシナルベシ、然レドモ其詳ナルコトハ知ルニ由ナシ、梅干ハ、成熟セル梅子ヲ採リテ鹽ニ漬ケ、後之ヲ日ニhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra0000067265.gif シテ乾燥セシムルニ因リテ此名アリ、

名稱

〔伊呂波字類抄〕

〈都飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1007 漬物〈ツケモノ(○○○○) 蘘荷漬物 菁根漬物〉

〔下學集〕

〈下飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 辣菜(ラツサイ)〈漬物也〉

〔增補下學集〕

〈下二飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 葅(ツケモノ)

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 葅(ツケモノ)〈今云香物、出加、〉漬物(ツケモノ)

〔段注説文解字〕

〈一下艸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins100801.gif 酢菜也、〈酢今之醋字、菹須醯成味、周禮七菹、韭菁茆葵芹https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins026245.gif 筍也、鄭曰、凡醯醬所和、細切爲韲、全物若https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins029680.gif菹、少儀麋鹿爲菹、則菹之稱菜肉通、玉裁謂、韲菹皆本菜稱、用爲肉稱也、〉从艸沮聲、〈側魚切五部〉 ○按ズルニ、葅ハ倭名類聚抄ニハ、ニラギト訓ジ、之ヲツケモノト訓ズルハ、後世ノコトナリ、葅ノ條ヲ參看スベシ、

〔倭訓栞〕

〈中編十五都〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 つけもの 漬物の義、葅をよめり、

〔易林本節用集〕

〈加食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 香物(カウノモノ)

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 香物(カウノモノ)〈葅也〉

〔大上﨟御名之事〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 女房ことば 一かうの物 かうのぶり(○○○○○)

〔伊勢守貞孝朝臣相傳條々〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 一かうの物とは、うりの事也、其外は何ニてもつけ物と云也、

〔倭訓栞〕

〈後編六加〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 かうのもの 唐山にいふ菜脯の類也、菜脯は專ら冬月の蘿蔔を用ふ、香物はもはら茶湯に用ふといへば、慈照院殿〈○足利義政〉のころより起るにやといへり、香のつけぼしにならひてしいでたるをもて名を得たりとも、みそを香ともいふ故に、もとみそに漬たる物より名を得たりともいふ、古にいふ、葅の遺製也ともいへり、されど今木曾路に香の物といふは、生大根にて、供御脇御齒固の蘿蔔蕪も生と見えたり、たくあんづけ(○○○○○○)といふは、澤菴和尚より始るとぞ、奈良漬豐田守口近江などは、所をもて稱し、又淺漬甘漬の法あり、

〔貞丈雜記〕

〈六飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1008 一香の物は、味噌づけを本とする也、味噌の事を古は香と云、味噌につけたる物故、 香の物と云、味噌はにをひ高き物ゆへ、異名を香ともいひしなり、上﨟名の記に、たれみその汁をかうの水の女の詞にいふよしみへたり、みその水と云事也、

〔於路加於比〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1009 香物 香物は室町殿の頃より、專湯漬の膳につくる事今の如し、祗園會御見物御成記〈大永三年、義晴將軍、〉の獻立に〈下略〉 御ゆづけ 、たこ、やき物、このわた、あへまぜ御ゆづけ、かうの物(○○○○)、かまぼこ、ふくめ鯛、三好筑前守義長朝臣亭〈江〉御成記〈永祿四年三月卅日、義輝將軍、〉に、〈上下略〉一總衆へ參獻立、小西仕分、御湯漬二百膳、しほ引、あわびしほ、やきもの、あへまぜ、めし、かうのもの(○○○○○)、〈○中略〉自餘朝倉亭御成記、〈永祿十一年五月〉文祿四年御成記〈秀吉公〉等の獻立皆同じ、猶古くは四條流庖丁書〈長享三年二月、多治見備後守貞賢記、〉云、メシノ大汁ニビブツ〈美物歟〉ヲスル事不難、當流ニハ有之、次ニサバザラ〈散飯皿也○中略〉ニ香物以下ノ物ドモヲ盛事ハ、廿餘年以來ノ事也、古ハ自然ヤキシホ山椒ナド少シ置タル歟、勿論ヤキシホナド不入トモ、只サバ皿ヲバ可置也ト云々、〈上下略〉などあり、故友深川元https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins001252.gif 云、香物は大根の味噌漬に限る事也と、按ふに瓦礫雜考にもいわれし如く、新猿樂記の香疾(かばやき)大根とあるが、香の物と女詞にいへるが原なるべく、香を賞したる名なめるを、同人又云、薩摩の女詞に、味噌汁をかうの水といひ、おこうをたてるなどいふを思へば、かうは羹の音にて、香は借字なるべしといへり、こは大上﨟御名之事と目を題たる室町殿時代の書に、〈女房言葉の條〉一しる、しるのしたりのみそをかうの水といふとあると同じく、玄羹(げんかう)の字音にやとも思わるれど、味醬を指てたゞにかうとは稱ふべからねば、かうは香々の音便として可也、〈○註略〉猶薩摩人は大根漬をのみかうの物と、今も稱(いふ)よし元https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins001252.gif いへりき、猶延喜式に、漬菜蕪根漬、未醬茄子、醬瓜、漬糟冬瓜、漬蒜、漬蜀椒の類、程々見ゆれども、だいこんの漬たるは、載られざれば、上代にはせざりし事にや、件の女房語に、一かうの物をかうのふりとある、ふりは瓜にや、又尾張國〈海東郡萱津村〉阿波手杜なる藪の香物は、今も毎年熱田神宮二月、〈巳午祈年祭〉十一月、〈寅卯新嘗祭〉十二月、〈正月〉 〈御供の料〉彼處より貢獻して、此香物といふは、瓜、茄子の鹽漬也、此事上代はしらず、後に引たる舊記どもを證とすれば、近昔の事にあらず、さればあながちに大根の味醬漬のみ香の物といふとは決がたくなん、

〔碩鼠漫筆〕

〈十一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 香物名義 古くは香物の名目、物に見えず、疑ふらくは室町の中頃よりの物か、〈○註略〉此香物は、味曾漬に限れる名にて、〈もし禪僧などの製しそめしにもあるべし〉もとは鹽漬のみなりしなるべし、其鹽漬のことに古きは、延喜中務省式に、女官漬菜料等鹽、各見本司式、また儀式卷二〈大嘗祭條〉に、其南縦七間、造筥形并漬菜屋一宇、〈東西戸、一東面有庇、〉と見えたり、又後ながら無住〈ノ〉雜談集卷二に、或上人鷄卵ヲ取テユデヽクヒケルガ、小法師ニカクシテ茄子漬ト名ヅケテ食シケル、〈○中略〉と有るも亦鹽漬の茄子なるべし、但し上﨟名事、〈女房ことば〉に、あさづけ、あさ〳〵とあるは、今も云ふ大根漬にて、やゝ後世の俗名なるべし、〈字鏡集水部に漬(シ)ツケモノと云ふ事も見ゆ、○中略〉此香物と云ふ名の味曾漬に限る由は、味醬の異名を室町頃より女房詞に香と云へば、香に漬たる物と云ふ義なり、〈○下略〉

〔本朝世事談綺〕

〈一飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 香物 相傳ふ、香物は漬干(つけぼし)より出たるもの也、薰物の中へ麁木をうすく片(へぎ)、三四分の大さにして漬浸し、その香氣をうつしてこれを燒、漬干といふ也、これにもとづき、瓜、茄子、大根等の野菜を糟粕に藏し、その好味をうつして茶菓子に用ひたる也、合せ香に漬たるより起るによつて香物といへり、專茶の湯に用ゆとあれば、慈照院殿〈○足利義政〉の時代より起る事か、今口取に用る菓子に比するものか、

〔四方の硯〕

〈雪〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1010 野菜を鹽に漬し日を經たるを香物といふ、數寄者香を數品きく時は、後鼻の品をわかつことあたはず、この時蘿蔔、茄子などの鹽にひたしたるをかぎて香をきけば、鼻あらたまり て、品をわかつこと始の如しと、故に香物の名ありといふ、

〔守貞漫稿〕

〈後集一食類〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 香物 カウノモノハ、味噌漬ヲ本トシ、古ハ味噌ヲ香ニ云ヨシ或書ニ云リ、今製ハ總テノ菜蔬ヲ、鹽或ハ味噌、或ハ酒粕等ニ漬タルヲ云也、酒ノ粕ニハ、白瓜、茄子、大根等ヲ專トス、何國ニ漬タルヲモ、粕漬トモ、奈良漬トモ云也、古ハ奈良ヲ製酒ノ第一トスル故也、

〔秋齋間語〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 香の物は、生大根に限る物なり、口中惡氣を去物なり、美食の上は別して可食也、

〔瓦礫雜考〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 香物 秋齋間語に、香物は生大根に限るもの也、〈○中略〉といへるは、妄なるひがことなり、生なる大根は香物といふべき、香はあらぬもの也、新猿樂記に、精進物者、腐水葱(クダシナギ)、香疾(カバヤ)大根といへるも、生の大根ならぬことは明かなり、〈○註略〉鹽、美曾、酒のかす、何にまれ、物に漬たる菜蔬のかぐはしきを香物(カウノモノ)といふこと論なし、

〔橘庵漫筆〕

〈二編二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 秋齋の筆記せしものに、香の物は、生大根に限る也、〈○中略〉と云り、〈○中略〉香の物は、とかく生大根といふ説を上げる證に、屠蘇獻酌の人に、生大根を被下ることなどをかき、或は東山殿物數寄にて、瓜茄子を漬初しよしを書けり、例の的(てき)が英雄人を欺く杜撰なるべし、

種類

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1011 漬年料雜菜 蕨二石、〈料鹽一斗〉薺蒿一石五斗、〈料鹽六升〉葪二石四斗、〈料鹽七升二合〉芹十石、〈料鹽八斗〉蕗二石五斗、〈料鹽一斗、米六升、〉蘇羅自六斗、〈料鹽二升四合〉虎杖三斗、〈料鹽一升二合〉多々良比賣花搗三斗、〈料鹽三升〉龍葵味葅六斗、〈料鹽四斗八合、楡三升、〉瓜味漬一石、〈料鹽三斗〉蒜房六斗、〈料鹽五升〉蒜英五斗、〈料鹽四升四合〉韮搗四斗、〈料鹽四升〉蔓菁黄菜五斗、〈料鹽三升、粟三升、〉 右漬春菜料 瓜八石、〈料鹽四斗八升〉糟漬瓜九斗、〈料鹽一斗九升八合、汁糟一斗九升八合、滓醬二斗七升、醬二斗七升、〉醬漬瓜九斗、〈料鹽醬滓醬各一斗九升八合〉糟漬冬瓜 一石、〈料鹽二斗二升、汁糟四斗六升、〉醬漬冬瓜四斗、〈料鹽八升八合、醬滓醬未醬各一斗六升八合、〉菘葅三石、〈料鹽二斗四升、楡一斗五升、〉蔓根須々保利六石、〈料鹽六升、大豆一斗五升、〉蔓菁葅十石、〈料鹽八升、楡五升、〉菁根搗五斗、〈料鹽三升〉菁根須々保利一石、〈料鹽六升、米五升、〉醬菁根三斗、〈料鹽五升四合、滓醬二斗五升、〉糟菁根五斗、〈料鹽九升、汁糟一斗五升、〉蔓菁切葅一石四斗、〈料鹽二升四合、楡二升、〉茄子五石、〈料鹽三斗〉醬茄子六斗、〈料鹽一斗二升、汁糟味醬滓醬各一斗八升、〉糟茄子六斗、〈料鹽一斗二升、汁糟一斗八升、〉龍葵葅六斗、〈料鹽六升、楡二升四合〉、龍葵子漬三斗、〈料鹽九升〉水https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067541.gif 十石、〈料鹽七升〉糟漬小水https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067541.gif 一石、〈料鹽一斗二升、汁糟五斗、〉蘭葅三斗、〈料鹽二升四合、楡一升二合、〉大豆六斗、〈料鹽六升、汁糟一斗八升、〉山蘭二斗、〈料鹽四升〉蓼葅四斗、〈料鹽四升、楡一升八合、〉芡一石五斗、〈料鹽一斗五升、米七升五合、〉蘘荷六斗、〈料鹽六升、汁糟二斗四升、〉稚薑三斗、〈料鹽六升、汁糟一斗五升、〉鬱萠草搗三斗、〈料鹽四升五合〉和太太備二斗、〈料鹽二升〉舌附一斗、〈料鹽二升二合〉桃子二石、〈料鹽一斗二升〉柿子五升、〈料鹽二升〉梨子六升、〈料鹽三升六合〉蜀椒子一石、〈料鹽二斗四升〉荏裹二石六斗、〈料瓜九斗、冬瓜七斗、茄子六斗、菁根四斗、鹽一斗二升、醬未醬滓醬各一石、〉 右漬秋菜

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1012 香物〈俗稱○中略〉 凡香物有數種、糟漬(○○)、甘醴漬(○○○)、未曾漬(○○○)、糠漬(○○)、鹽漬(○○)、乾瓜(○○)等也、

〔守貞漫稿〕

〈後集一食類〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1012 香物〈○中略〉 香ノ物、京坂ニテハ、其名ヲ詳ニ命ゼザルモノ多シ、鹽糠ニテ乾大根ヲ漬タルヲ、京坂ニテハ、專ラ香ノ物(○○○)或ハ香々(○○)トノミ云、江戸ニテハ澤庵漬(○○○)ト云也、澤庵禪師ニ始ル故也、又蕪菜、大根等ノ鹽漬ヲ總テ莖(○)ト云也、江戸ニテハ大根等ノ莖ノミヲ漬タルヲ莖ノ糠ミソ漬、或ハ鹽押(○○)等各々名アリ、京坂ニテハ鹽漬ノ總名ヲクキト云、本意ニ違ヘリトイヘドモ、年來ノ誤リ今更改ムベカラズ、江戸ニテハ蕪ノ鹽押、茄子ノ鹽押、大根ノ鹽押ト各名アリ、又鹽糠ニ生大根、生茄子、瓜ノ類ヲ漬ケタルヲ、京坂ニテ淺漬(○○)ト云、江戸ニテハ糠味噌漬(○○○○)ト云、其他糀漬(○○)、辛漬(○○)、味噌漬(○○○)、梅酢漬(○○○)等三都トモ同名也、

〔守貞漫稿〕

〈六生業〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1012 漬物賣 京坂ニテ莖屋クキヤト訓ズ、昔ハ大根等ノ莖漬ヲウリシ也、今世ハ莖ノミニ非ズ、蘿根、蕪菜等ノ鹽一種ヲ以テ漬タルヲクキ(○○)ト云、又大根ノ根葉トモニ細カニ刻ミテ鹽漬ヲ刻ミ莖ト云、蘿根全體ノマヽ漬タルヲ長漬(○○)ト云、瓜茄子等、鹽糠二種ヲ以テ不日ニ淺漬(○○)ト云、大根ノ葉ヲ去リ乾テ枯テ後ニ鹽糠ヲ以テ漬タルヲ香々(○○)ト云、香ノ物トモ云、原ハ漬物ハ香物ノ總名也、鹽漬、糠ヅケ、粕漬トモニ賣之、粕漬三都トモニ奈良漬(○○○)ト云、〈○中略〉漬物ノ總名ヲ香ノ物、又カウ〳〵トモ云、鹽漬ヲ鹽押(○○)ト云、瓜、茄子、大根菜等ヲ押ス、蓋全體大根ノ長漬不之、刻莖ヲ江戸ニテ大坂漬(○○○)ト云、原彼地ノ製ヲ傳ヘタル歟、蕪亦大ナル物ナシ、故ニ不之、近年冬大坂ヨリ天王寺蕪ヲ漬ケ、京都ヨリ水菜ヲ漬テ江戸ノ知音ニ贈ル者多シ、賈物ニハ稀ナリ、水菜或ハ壬生菜又ハ糸菜トモ云、江戸ニテ二品トモニ賞之、京坂ニテ云淺漬(○○)ハ江戸モ同名、又同製之、又三都トモニ鹽糠ヲ以テ長日漬タルヲ糠味噌ツケ(○○○○○)ト云、又全大根ノ葉ヲ去、枯テ鹽糠ヲ以テ漬タル上方ノカウ〳〵ト云同製ノ物ヲ、江戸ニテ澤庵漬(○○○)ト云、品川東海寺ノ澤庵禪師始テ製之、故ニ名トス、

鹽漬

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉鹽漬者淹之壓之、〈○中略〉若壓而水溢于蓋上、則宜去水、以水盡而止、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 漬年料雜菜 瓜(○)八石〈料鹽四斗八升〉 右漬秋菜

〔黑田故鄕物語〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1013 瓜ノ時分ハ家中町人共ヨリ大分指上候、伽坊主小性相詰候者、何モ呼出シ喰セ候テ、皮ヲ削者ニモ皮ヲアツクムケト申付候、伽坊圭申ケルハ、イトヾ小キ瓜ヲ厚クムキ候ハヾ、喰所少ク成可申ト申ケレバ、イヤ〳〵一ツニテタラズバイクツモ喰、其皮ヲ長持ノフタニ入ヨトテ、臺所賄人ヲ呼出シ、アレ成瓜ノ皮ヲ鹽漬ニシテ臺所ニテ食ヲ喰候サイノ無者多シ、是等ノサ イニサセヨ、總別茄子以下ノ皮其外野菜ノ切ハヅシ、魚ノ骨少モ不捨、夫々ニコシラヘ、サイノ無者ニ喰セヨト被申付候ニヨリ、不斷其仕合ナレバ、鹽汁計ノ者ドモ、菜モ有ケルト也、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 漬年料雜菜 茄子(○○)五石〈料鹽三斗〉 右漬秋菜

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 茄子鹽壓漬 茄子色よくつけんと思はゞ、鹽に川の砂をまぜて漬れば、艶よくつくものなり、又明礬をすこし入れてもよし、皆當座喰の料なり、久しくかこひ置には、鹽澤山入て壓を強くかくれば、永くもつ物なり、又澤庵漬の中へつけ込茄子は、一度鹽押してよく水をあげたる時、鹽水をこぼし捨て、一日ほして、ふたゝび鹽をして、壓を強くかけて、あげたる二度めの水をこぼさぬやうにしてたくわへ置時は、いつまでも持なり、此鹽押茄子を百一漬(○○○)につけるなり、

〔料理談合集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 なすび靑漬(○○○○○) 藍瓶のそこの砂に、しほをまぜてつければ、いろかはる事なし、又豆の葉をしぼり、その汁にかふぢとしほと加へつけるもよし、

菜漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1014 菜漬 つけ菜をよく洗ひ、かぶを切すて、庖丁目をいれて漬るなり、桶の大小、菜の多少によりて、鹽加減見計ふべし、菜は餘り壓がつよすぎれば、葉の色赤くなる物なり、 京糸菜漬(○○○○) 關東には少けれど、近來京の水菜の種を植て所々にあり、一株にて百莖餘りあり、かぶの根を切、庖丁目を多くいれて土を洗ひ、甘鹽にてつけるがよし、水あがりてもあくといふもの少もなし、 上品なる物なり、奈良漬、味噌漬の香の物に附合す、

〔延喜式〕

〈三十二大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 六月神今食、十二月准此、 小齋給食總二百六十二人、〈○註略〉五位已上一人、〈○中略〉漬菜(○○)二合、六位已下一人、〈○中略〉漬菜二合、 鎭魂〈○中略〉 雜給料 參議已上人別、〈○中略〉漬菜二合、漬蒜房蒜英韮搗各二合、 五位已上卅人、人別、〈○中略〉漬菜二合、漬蒜房蒜英韮搗各二合、 六位已下二百六十人、人別、〈○中略〉漬菜二合、

〔史館本東大寺正倉院文書〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 寫經食料雜物納帳 廿四日〈○天平寶字二年九月〉 下米一石〈○中略〉 葪漬(○○)五升 廿五日下米一石〈○中略〉 大豆漬五升 廿七日下米一石〈○中略〉 葪漬五升 卅日下米一石二斗〈○中略〉 大豆漬五升 十月三日下米一石二斗〈○中略〉 水https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067541.gif 漬(○○○)六升 五日下米一石二斗〈○中略〉 水https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067541.gif 漬八升 二年十月六日下雜物食料者 米一石三斗〈○中略〉 水慈漬八升 酢漬冬苽料

〔甲子夜話〕

〈十八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 予ガ家士山崎某ガ母、姙身ノ間ニ、菜漬ヲ食傷シ、苦惱甚シク、ヤウヤクニ治セリ、後出生セシ子ノ手指屈シテ開カズ、人怪ミテ手指ヲ開テ見レバ、掌中ニ菜漬アリシト、

淺漬

〔大上﨟御名之事〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1015 女房ことば 一あさづけ あさ〳〵(○○○○)

〔貞丈雜記〕

〈六飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 一あさづけの香の物も古よりあり、上﨟名の記にあさづけを女の詞には、あさあさといふ由みへたり、

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 香物〈俗稱〉 一種有淺漬(○○)者蘿蔔根也、有莖漬(○○)者、蕪菁莖也、其法九十月用好肥蘿蔔根最大者一百箇、去莖葉洗淨略乾、和白鹽一升三四合于桶、以爲一重蘿蔔、一重白鹽、蓋上載石而壓之、水溢于上則除去、至三十日許而熟、莖漬亦大略如前法、入麹二三升而佳、江州處々造者經年味佳而不敗、此稱近江漬(○○○)、京外賀茂里人亦造之、經年味生酸者稱酸莖(スヒクキ)、今家々亦效而造之、

〔本朝食鑑〕

〈三葷辛〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 大根〈訓如字〉 集解、此亦日用利益之菜、而民間常種之、四時倶用者也、〈○中略〉冬十月十一月掘根用、狀圓長肥白、或短圓豊肥、有細鬚、多醃藏號淺漬(アサツケ)、此本邦香物之品也、

〔料理山海鄕〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 大根淺漬 大こん葉を去、あらひ上ゲをすぐに漬る也、百本に鹽一升おもしつよく懸、二三日中に水上るやうにする也、四十日過てなるゝ、その後おもし懸るにおよばず、大こんずいぶん太く、すなきをぎんみし冬至前につけて正月につかふがよし、新わらを一へんづゝ敷がよし、色付てにほひふかし、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1016 大根あさづけの方 一大根〈但半分は葉を付ながら、半分は葉を切一兩日日に干、少しはのよる時よし〉一鹽〈壹斗〉一糀〈四升〉 右能まぜ合、桶の下に一へんふり、大根を置、霜の降たるほどに間へも上へも鹽かうじを置、何返もかさね、上なるほどつよくおしをかけ、後は少おしをゆるめ申候、鹽のかさは大根の數次第也、 同方 一大根、〈百本〉一小糠〈壹斗〉一鹽〈壹升〉一かうじ〈三升〉 右三返能々まぜ合、是もつけ樣右に同じ、此あさ漬は、能こたへ申候、大根かさ多は、ぬか、鹽、糀かげん見はからひに拵申候、 同水あさ漬(○○○○)の方 一鹽壹升に大根七拾本漬申候、おしをかけ、三日過おしを取、水をひた〳〵に入、又おしを能々かけ置、右のあさ漬五月六月迄置候ても風味能候、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 淺漬 ふとき大根をゑらみ、能洗ひて水氣をかわかし、酒樽のあきたてへ漬るをよしとす、大根五十本、花麴一枚、鹽一升、麹と鹽をよくもみ合せ、一段々々にふりて、其間毎ニ新藁を十五六本づゝ敷なり、上のかわに鹽計二摑ほどまき、押蓋をして強き壓にて漬るなり、水十分にあがりて、廿日計にて漬かげんなり、風味よき所十餘日の内なり、日を經れば、酸味の出る物なり、早く遣ひきるがよし、〈二丁町の茶屋にてつけるをことさら風味よしとす、一樽二樽をも、一日の内に得意方へ音物にするなり、久しくたくわへがたき品なればなり、新わらを挾みつけるは、色のよきためなり、〉

莖漬

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 莖漬(クキツケ)

〔本朝食鑑〕

〈三葷辛〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 蕪菁〈訓加布奈、或阿乎奈、〉 集解、蕪菁者、上下平素日用之菜、〈○中略〉采葉莖、以醃麴收藏、此號莖漬、經年亦佳、江州之造號近江漬(○○○)而爲珍、經年生酸味者尚佳、洛之賀茂里人所造呼號酸莖(スヒクキ/○○)、以賞美之

〔料理綱目調味抄〕

〈三雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1017 莖漬 京の口細大根、江州の柳大根、蕪は東近江長蕪、漬樣如常、麴を袋ニ入、桶一ツニ四五共に漬てよし、〈出してあらはす〉

刻漬 切漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 きざみ漬(○○○○) 澤庵大根の莖を干葉にして、多くたくわへおきて、總菜に遣ひ、汁の實にすべし、右の莖の中よりやはらかき若かぶをゑりおきてよく洗ひ、小一寸位に刻みて、大根を短冊にうちて、莖と等分にまぜて、醬油樽一杯ならば、鹽一升計り入て能もみ、手比なる押石をかけて漬るなり、十餘日過てざつと洗ひ、醬油をかけて、當座喰にすべし、なま漬は無用なり、すこしつきすぎたる方がよろし、 大坂切漬(○○○○)〈上方にては、くもじ(○○○)といふ、又くき(○○)ともいへり、〉 大根と蕪と等分に、葉莖ともにきざみ込て、醬油樽ならば、鹽五合を入て能くもみ合せ、強く押て漬るなり、十餘日を經て、ざつと洗ひ、かたくしぼりて、香の物鉢へ入置、菜箸にて自分の喰ほど手鹽皿へとりて、別にちいさき片口の器へ醬油を出し置、銘々にかけて喰なり、〈○中略〉上方にては專らすることなり、歯ぎれよく、いたつて淡薄なる風味なり、

〔諸國名産大根料理秘傳抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 大根早漬(○○)香物仕かた 一大こん長さ三四寸に切、竪に三ツ切にして桶に入、上より熱湯をかけ、あつき内に取出し、外の桶に入、鹽澤山にふり、酒を少し打、押石かるめにかけてをく也、半時ほどに上々の香物になる也、又糖豉へ入るもよし、葉付大こんを漬るには、葉を上へして湯のかゝらぬやうにする也、漬やう同じ事也、

印籠漬 達摩漬 雷干瓜

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1018 印籠漬 醬瓜(まるづけ)の跡先を切、中實をくりぬき、其中に穗蓼、紫蘇の葉、若生姜、靑蕃椒等をおしいれ、甘鹽加減にして壓強く漬るなり、六七日立ば喰比なり、瓜へとうがらしのからみ移りて至極よし、輪切にしたる所、印籠に似たるゆへ名づくるものか、又云胡瓜もかくの如くするもよし、齒切ありてまるづけ瓜におとらず、 逹摩漬 まるづけ瓜の季なりを二ツにわり、中實をとり、甘鹽にして押漬にする、瓜の形〈○圖略〉手遊びの逹摩に似たる故に呼ものか、皮こわくして中に禪味を甘んずるか、そもさん、 雷干瓜 まるづけ瓜の中實をぬき、永くむきて一夜鹽押して、翌日日にほすなり、其座にむきて鹽をふりて干事もあれど、それは當座喰の料なり、一夜おしてほせばちぎれもせず、永くつながりて瓜一〈ツ〉が一筋になりて、能干あげて一筋づゝ結びおくべし、久しく圍ひ置には、白瓜を上品とす、丸づけよりは皮もやわらかく、漬りやうもはやし、

糠漬

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉糠漬者、用近米細粉最好者、入煮豆粘汁白鹽鹽多佳、倶拌匀藏貯于桶、而漬蔬漬茄、有卒法久法、卒法者、用生紫茄蒂、洗淨二割、漬糠汁一晝夜、而取出用、其色紺碧、味亦最佳、浸酒食者尚佳、久法者、用生茄子連蒂不割、洗淨用鹽淹于桶、蓋上載石而壓之、一兩日取出、拭定漬于糠汁桶底、經年其色黄茶褐、其味鹹酸可愛、漬餘蔬者與糟味噌略同、漬蔬而糠汁不竭者、以其蔬之生汁相交也、據其糠汁不一レ乾、而經年不敗、故以舊爲勝、若糠盡水乾則加糠加鹽、加豆粘汁、互加令竭而可也、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1019 糠味噌漬(○○○○)〈又酴https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins057362.gif 漬(どぶ /○○○)ともいふ〉 萬家ぬかみそ漬のあらざる所もなけれど、世俗には取遣せぬ物のやうにいひならはせしかど、とるにも足ぬ事共なり、又新には急に出來がたき物のやうに思ふやからもあれば、心得の爲に爰にしるす、糠一斗、鹽五升、右糠の小米をよくふるひ取て、鹽五升に水五升を鍋にて煮かへし、〈寒の水なれば、ひとしほよし、〉一夜さまし置、糠にまぜて桶へつけるなり、〈せうゆ樽ならば、此分量にて、見はからひあるべし、〉あらたに拵たる當座には、毎日たび〳〵手を入れて掻廻すべし、故き澤庵大根を四五本、糠のまゝいれ、生大根 又莖でも、時の有合もの、茄子瓜のたぐひ何にかぎらず、漬るたびごとに、鹽すこしづゝ入てかきまわすこと肝要なり、かくして十餘日を經れば、糠よくなれて、故き糠味噌に異なることなし、又なれたる糠みそを少しにても種にいるれば、尤はやく新糠の匂ひうせるもの也、ことさら新しきうちは、かんざまししたみ、酒醬油のおりなどあらば、いれてかきまはすべし、味噌漬のみそ、又粕漬のかすなど、むざと捨ずして、万事心がけて捨らぬやうにぬかづけの中へいれべし、三十日ならずして、年久しくたしなみたるぬかみそにかわる事なし、時々の物をつけて、其あぢわひをこゝろむべし、

〔料理山海鄕〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 大根(○○)糠漬 大こん葉を去ほす、曲て尾かしら一所によるほどにほし、三合鹽こぬか多き程吉、漬てずいぶんふみつけ、おもしつよく、懸る、つかひはじめてより、おもしとりおくなり、冬至まへにつけるがよし、大こんあさづけのごとく、すのなきを能々ぎんみすべし、 右鹽加減、正月nanすへにつかへば二合半しほ、二月末より三月は三合、四月は四合と心得べし、

〔諸國名産大根料理秘傳抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1020 諸國名物之大ナル大根同大蕪(○○)香物漬方 一江州大蕪を洗ひ申さず、冬至ニ入て、よき日に干す也、しら干にして、手にて押みるに少しひしやげる位がよし、扨漬やうは、よき土を寒の水にてあらひ、雫をたらし、鹽を澤山に入、干たるを漬、おし石をつよくかけ申候也、是も冬の内に新糠を調へ、五合鹽にする也、但一斗ニ五升也、扨右かぶらを取出し、右の鹽汁にて能あらひ、外の桶に漬る也、かぶら見えぬほどにぬかを入、をし石をつよくしてをけば、翌年土用過て出す也、但し是よりは、かるき石を一ツかけをく也、播州あぼし蕪、これは近江蕪のごとく大也、伊豫の西條かぶら同事也、筑前の御笠より出る蕪は小なれ共名物也、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 茄子(○○)香物漬樣 一中茄子〈皮をうすくむき、先ぬかみそへ三日ほどつけ申候、〉 一右の糠みそ拵樣、小ぬか一斗に鹽三升入、水にてこね申候、常のぬかみそnan少和かにこね申候、扨ぬかを能はらいおとし、成ほど手ばやに粕へつけ申候、少ニ而も間候へば、あしく成申候、粕へ鹽は少も入申さず、茄子すれあはぬやうに仕候、

〔一話一言〕

〈十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 池田氏筆記 一主上御衣ヲ改メ玉ヒ、天ヲ拜シ玉ヒ御座之間ニ坐シ玉ヒ、日供ヲ奉ル、其品、 御飯〈○中略〉御香ノ物〈牛蒡(○○)、胡蘿菔(○○○)、細クキリテ、ヌカミソヅケナリ、〉 以上四品、土器ニモル、

〔後撰夷曲集〕

〈九雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 香物 大かうの物とはきけどぬかみそ(○○○○)に打つけられてしほ〳〵となる 澤庵和尚

澤庵漬

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 澤菴漬(タクアンヅケ)〈澤菴但馬人、名宗彭、又稱冥之、大德寺住職、東海寺開祖、正保二年九月寂、墓標一箇圓石而已、今按、此物其制似之、故名、〉

〔物類稱呼〕

〈四衣食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 菜菔漬 だいこんづけ(○○○○○○) 京にてからづけ(○○○○)といふ、九州にてひやくぽんづけ(○○○○○○○)と云、關東にてたくあんづけといふ、今按に武州品川東海寺開山澤庵禪師製し初給ふ、依て澤庵漬と稱すといひつたふ、貯漬(たくはへづけ)といふ説有、是をとらず、又彼寺にて澤庵漬と唱へず、百本漬と呼と也、

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1021 香物〈俗稱〉 有百本漬者、用蘿蔔根百箇、洗淨乾之數日、候水之乾、以委屈度、用粉糠一斗、麹四升、白鹽三升半、〈○中略〉一重重漬之、此亦三十日許而成、或稱澤庵漬、此大德禪寺初造之、而家々傳之、故名、以淺漬欲敗者取出、日https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra0000067265.gif 略乾、漬糟味噌百本、則味佳可之、

〔江戸砂子〕

〈五下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 澤菴漬 今江府にて漬る香物、此和尚の漬はじめられし也、

〔本朝世事談綺〕

〈一飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 澤菴漬 東海寺の開租、澤菴和尚の漬はじめられしと也、

〔橘庵漫筆〕

〈二編一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 澤菴漬と云は、大根にかぎれり、菊岡氏の世事談といえるものに、和尚の製し初られしといえど左に非ずとぞ、澤菴和尚は、但州は産にして、名を宗彭又は冥之と稱す、東海寺の開租也、正保貮年九月圓寂せらる、墓は一箇の圓石のみなり、其石異樣にして大根の香の物に似たり、故澤菴漬と香の物の渾名なり、和尚は只近世の人なり、香の物は古くあるべし、世事談の説のごときは、贔屓の引だをしと云べし、

〔料理綱目調味抄〕

〈三雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 澤庵漬 武州のねりま、尾州みやしげ大根、廿日計干て、ぬか一斗、鹽三升、麴三升ニ漬、押かくる、から漬也、水出ればとる、〈からづけ也〉

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1022 澤庵漬〈俗にいふ、澤庵和尚の漬始し物といひ、また禪師の墓石丸き石なれば、つけ物の押石のごとくなる故に、然名づけしともいふ、又一説には蓄(たくはへ)漬の轉ぜしともいふ、何はともあれ、人間日用の経濟の品にして、万戸一日も欠べからざる香の物の第一なり、〉 大根の性よきをゑらび、土を洗ひ、日あたり能處へ乾場をしつらひ、十四五日乃至廿日、編て日にかわかし夜分霜げぬやうに手當して干て、小皺の出來たるほどを見て漬るなり、桶は四斗樽の酒の明立は殊更よし、又古き四斗樽をつかはゞ、米などを入れて、底の間にはさまりゐるは甚あしゝ、米粒あれば、酸味を生ずる物なり、心付べき事なり、小糠もよくふるひ、小米のまじらぬやうにすべし、〈因にいふ、古き樽はしめしたりとも、鹽水はもるものなり、用心あるべし、〉 一樽の分量は、糠鹽合せて一斗、大根の大小によつて差別あり、凡大根五六十本、又は七八十本、或は百本、小糠七升、鹽三升、鹽糠共によくもみ合せ、桶の底の方へは大根のふときをまわし、一段一 段に糠をふりて漬るなり、隨分壓の強きをよしとす、水の一杯にあがるを度とするなり、夫より押石を少しゆるめ、鹽水のこぼれぬやうにしてたくわふ、〈是は冬より漬て、あくる春正月、口をあけるのなり、かくするは二三月頃までに、つかひきる仕法なり、又麴一枚を入るもあれど、それにもおよばぬことなり、○中略〉又四五月後、夏の土用越には、糠六升、鹽四升、五升、五升と等分にするもあり、糠を減じ鹽がちにすれば、いつまでも味のかはることなし、 同三年澤庵〈又五七年漬〉 年久しくたくわへ置には、糠は右の分量に准じて、三年ならば糠を減じて鹽の方二升餘も增し、五七年ならば四升計りも增なり、一ケ年にあてれば、鹽七八合ほど餘分にすべし、大根も並より五六日ばかり乾き過ぎたるやうにほして漬るなり、是とても水の十分にあがりたるとき、一端壓をゆるめて、大根に鹽水を吸して、又元のごとくに押をかけるなり、澤山に漬る時は、桶を三ツ位積重るもよし、 澤庵百一漬(○○○○○) 秋茄子を鹽壓にして畜置、春はやく口をあける澤庵漬の大根の間に、右の鹽押茄子を挾みつけるなり、〈○註略〉一桶に常より鹽五合も減じてよし、茄子の鹽出る故なり、大根の風味も至て加減よく、茄子にも大根の甘み移りて味ひよし、春の香の物になすびは、ことさら珍しく、客遣ひにも成べきなり、是を百一漬といふ、

〔守貞漫稿〕

〈後集一食類〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 江戸市民ハ、毎冬澤庵ヲ自家ニ漬ズ、年用ヲ計テ練馬村ノ農人ニ托之、毎冬價ヲ與フ、農人其用ヲ計テ漬蓄ヘタルヲ、馬ヲ以テ年中ニ出之也、是當所ハ火災繁ク、又地モ空地稀ナル故也、京坂ハ必ラズ市民自家ニ漬ケ蓄フ、

〔尾張名所圖會〕

〈前編五愛智郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1023 澤菴漬 御器所(ごきそ)村及び此邊の村々すべて是を製す、年中日ごとに擔夫買とりて府下に鬻げり、さて此大 根を東畠と稱して、宮重方領などの名産とは更に別種也、凡そ家々にて十月末より翌春の正月まで日々仕込の大造なる、圖〈○圖略〉を見て知るべし、

〔日本歳時記〕

〈六冬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 十月、此月の末、蘿蔔の中實したるを葅(つけもの)とすべし、十一月にいたれば、中虚してあしし、 蘿蔔醃の法 蘿蔔〈千本〉細粃(こぬか)〈一石〉麴〈三斗〉鹽〈二斗五升〉先大根を四五日日にほし、其後細粃と鹽麴を一ツに合せ、桶の底にしき、蘿蔔をならべ、其上に又粃鹽麴をふる、何べんにても如此すべし、此法久しく堪ふ、 又法 大なる蘿蔔千本に鹽三升入、おしをかけ置て、なれたる時用ゆ、是より鹽多ければあしし、又ぬか、かうじなども入べからず、 又法 蘿蔔をよく洗ひ、三日ほどほし、毎夜席をおゝひ、葉に少あかみ出て後、さつとあらひ、水氣なき時に鹽る、蘿蔔一へんならべ、麴を蘿蔔少みゆるほどにふり、其上に鹽をふる、如此段々に漬、おしをかけ置べし、又右のごとくつけて後に、酒の糟に米粃(こぬか)鹽をつきまぜ、右の大根を水にて洗ひ、乾たる時漬る尤よし、

渦卷漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 渦卷漬 胡瓜の季の比、とうがらしを澤山に入て、甘鹽に壓をかけて漬置、水十分にあがりたる時二〈ツ〉にはわらず、立に庖丁目を入れて、中實をすき取、一日天日にほして能さまし置、片はしよりしつかりと卷、竹の皮をさきて解けぬやうニまきしめ、糠五升に鹽一升を合せ、澤庵漬のごとくつけこみ、しつかりと押をかけて漬るなり、十五日ほどたてばよし、糠を洗ひ、結びめをときて、木口より切にhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins102401.gif の如し、味辛く甘くして齒ぎれよし、

常心漬

〔料理山海鄕〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1024 常心漬 大根よくあらひ、水氣なきほど能ほし、こぬかふるひて、一升に鹽二合、〈水氣はよろしからず〉漬やう、大こん餘りふときはよろしからず、大ていの大こんの少ほそきがよし、おもしは成ほど重きがよし、大根時分に漬て、二三月頃に遣(つかふ)、ひさしく置てつかふがよし、口を明るとき、上の汁をのけて香の物を取出し、元のごとくおもし置て、最前のしほ汁をまた入ておく、二三月頃より六月頃迄つかひ候てよろし、大根の外何を漬てもよし、

角山漬

〔料理山海鄕〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 角山漬 大こんあらひ、水氣をたらし、すぐに漬る、大こんを漬しほをふり、糠をふり、藁を一へんおき、其上へ又右のごとく段々つけて、おもしをかけるなり、

醬漬

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 仁王經齋會供養料 瓜(○)五顆〈醬漬糟漬好物羮生菜等料各一顆○中略〉 年料〈○中略〉 造年料醬料、酒米卅斛、申官請用、 苽四斛七斗六升、〈直〉鹽一石一斗四升二合四勺、滓醬(○○)三斛一斗四升一合六勺 右正月最勝王經齋會醬苽料 苽二石九斗一升五合、〈直〉鹽七斗二合三勺三撮、滓醬一斛九斗二合、 右從八月一日、迄來年七月卅日、供御醬瓜料、〈中官同之〉 瓜八斛五斗七升、〈直〉鹽二斛四升九合六勺、滓醬五斛六斗三升六合四勺、 右儲醬瓜

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1025 漬年料雜菜 醬漬瓜九斗、〈料鹽醬滓醬、各一斗九升八合、○中略〉 醬漬冬瓜(○○)四斗、〈料鹽八升八合、醬滓醬未醬各一斗六升八合、○中略〉 醬菁根(○○)三斗、〈料鹽五升四合、 滓醬二斗五升、○中略〉 醬茄子(○○)六斗〈料鹽一斗二升、汁糟味醬滓醬各一斗八升、○中略〉 右漬秋菜

〔史館本東大寺正倉院文書〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 寫經食料雜物納帳 廿八日下米一石〈○中略〉 鴨苽漬廿割 十月一日下米一石一斗〈○中略〉 醬漬鴨苽十八果 三日下米一石二斗〈○中略〉 鴨苽漬廿五割

味噌漬

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 正月三節 蘿蔔(○○)味醬漬〈○中略〉 右從元日于三日

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 大根味噌漬 甘鹽にして漬たる澤庵大根を能洗ひ、水氣を布巾にて拭ひとり、二時計り蔭干にして、たまりがちなる味噌につけるなり、一年立て又洗ひ、別のみそに漬おけば、何年立ても其味ひかわることなし、常々遣ふ小出しの味噌桶の底に入置もよし、

〔諸國名産大根料理秘傳抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 大根早豉(みそ)漬の仕方 一淺漬大こんを四つ割にして、長貮寸位に切、温酒に暫らく漬をき、冷たる時分に取出し、豉に漬申候、但し押石をかけ候へば、一時ほどに漬るなり、又一日一夜此通りに漬をけば、一だんの風味也、但し出して洗ふはあしく候、紙にて拭候て切がよし、

〔日本歳時記〕

〈七冬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1026 小寒大寒三十日の間、今世俗に寒の中と稱す、此間に食物、藥物等を製すれば、水の性よき故、久しくたくはへて損せず、此時製する物下に記す、〈○中略〉 胡蘿蔔(せりにんじん/O O O )のつけ物を製すべし、其法胡蘿蔔の大なるをゑらみ能洗、二三日日にほし、先ぬかみそに つけ置、能しみたる時、みそに改漬てよし、初よりみそにつくれば、味變じて酸し、久しくこたえず、牛蒡(○○)も又みそづけにしてよし、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 胡蘿(にんじん)蔔味噌漬 にんじんのあとさきを切、五六日風のすく所へ置、甘鹽にして漬るなり、三四十日たちて、一日日にほしてみそにつけ更るなり、又粕漬にするには、鹽をからめにして漬るなり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 牛蒡(○○)味噌漬 牛蒡の本末を去、中の所計り六七寸に切、是もざつと湯をくゞらせ、味噌に漬るなり、是は澤庵大根のみそづけと一所に、桶の下の方に漬おくべし、一年餘も經ざれば漬かぬるものなり、三年五年とふるくなる程殊更よし、

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 正月最勝王經齋會供養料 味醬漬、糟漬冬瓜(○○)〈各以一顆三口

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 冬瓜味噌漬 冬瓜を皮ともにたち、中實を深くすきとりて、一鹽してかるく押をかけて、一夜水をとり、布巾にて水氣を拭ひ、皮をむきて直に味噌に漬るなり、味噌に水溜りたらば、又みそをとりかへて、外のみそに漬る、かくすること二三度におよべば、水も出なくなるを度とするなり、さすればいつまでたくわへおくとも味かわる事なし、水の出る中ゆだんすべからず、又金冬瓜といふ一種もかくして漬おけども、度々手がけざれば、久しくは蓄がたし、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1027 生姜味噌漬 秋の季、實入よき生姜の葉を切、莖を少つけて置、土を洗ひ、生姜壹貫目に鹽五合計り、鹽押にして、水十分にあがりたる時、天氣よき日を待て、一日天日にほして、味噌に粕を一割まぜて、右の生姜 を漬るなり、百日にしてつくものなり、かるき押をおくべし、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 獨活(○○)味噌漬 山うどを二三日蔭干にして、ぐな〳〵するやうにして、三年味噌につける、百日ばかりにて風味よし、

道明寺香物

〔料理山海鄕〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 道明寺香物 布にて三寸計のはゞの袋を縫、道明寺を詰て、すこしみそやはらかに仕懸漬おき、六十日ほどしてよし、色付て見事なり、こぐち切にして用、わかき味噌はいろつくことうすし、

杣漬

〔橘庵漫筆〕

〈二編二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 〈予〉先年泉州の水間谷へ行し事有しに、爰に橘姓正統の人に、井出氏とて由緒ある人に逢り、何くれふるき物語を傳へられ、扨杣漬といえるものを出さる、普通のものならず、柚、瓜、茄子、大根、粟などの、味噌にて漬し物なり、名のおかしさに、よしをたづね侍れば、主のいえるは、大古は杣稼のもの、諸國へ、泉州紀州より出したり、いまに泉南の山谷より他に出るもの有り、むかしは、餉と此漬物とを、他日の食物に持出し也、〈○中略〉などゝ話申されぬ、その粟の香の物ぞ妙なるものなり、然ども年を經る用意するものゆへ鹹きに堪へず、其制を尋侍りしに、先味噌を搗て大體よくなれし頃、雷木(すりこぎ)にて突き、穴を明て其味噌の明し穴へ餅粟を精のまゝ詰置、三年ばかりして出せば、粟のねまりと味噌の液(しめり)と混じて、一塊の澤菴漬のごとき香の物となれりとぞ、これら實に古の制なるにや、

糟漬

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1028 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉糟漬者、家々競造之、惟以和之奈良漬、攝之豐田森口上、故他造者亦稱奈良漬(○○○)、其糟黄白倶和白鹽、少者易敗、鹽多者雖經年不一レ敗、而味不佳、其中有敗而佳、鹽少而好者、故此法有巧拙好惡、而漬瓜、茄、細蘿蔔、蕪根、牛房、大角豆、刀豆、竹筍、蓮藕、昆布、荒布、生姜、蘘荷子等類、瓜者、割好白瓜、去瓤如 舟、洗淨舟中、盛鹽水、日https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra0000067265.gif 三五日、待鹽水乾而漬糟、此法與白瓜條併考、茄者用新好紫茄、鹽淹于桶中、蓋上載石以壓之二三日、取出而漬之、牛房、角豆、刀豆竹笋、蓮根、薑蘘、如茄法

〔伊呂波字類抄〕

〈加飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 糟漬冬瓜(○○)〈カスヅケノカモウリ、見大膳式、〉

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 正月最勝王經齋會供養料、〈○中略〉醬瓜、糟漬瓜(○)、荏裹各一顆、味醬漬、糟漬冬瓜(○○)、〈各以一顆三口、〉味醬漬、糟漬、醬漬茄子(○○)、各三顆、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 漬年料雜菜 糟漬瓜(○)九斗、〈料鹽一斗九升八合、汁糟一斗九升八合、滓醬二斗七升、醬二斗七升、○中略〉糟漬冬瓜(○○)一石、〈料鹽二斗二升、汁糟四斗六升、○中略〉糟菁根(○○○)五斗、〈料鹽九升、汁糟一斗五升、○中略〉糟茄子(○○○)六斗、〈料鹽一斗二升、汁糟味醬滓醬、各一斗八升、○中略〉糟漬小水https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067541.gif (○○○)一石、〈料鹽一斗二升、汁糟五斗、○中略〉 右漬秋菜

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 正月三節 蘿蔔味醬漬、苽(○)糟漬、〈○中略〉 右從元日于三日

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 花丸瓜(○○○)糟漬 花まる瓜は生にて直に粕に漬るなり、すべて生のまゝ粕ニ漬る物には、二重底に桶を拵へ、下に糠をいれ、水をおとすやうにせぬときは、粕のかわるものなり、糸瓜なども右の通にして粕につけるなり、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1029 あさ瓜(○○○)漬の方 一あさ瓜、實を取、甘み無之樣に能洗、瓜百に鹽四五升程、瓜の内外にぬり、ひなたに干て、瓜nan水出候時、家の内へ取入、なるべく能さまし、能粕にくいしほ程に鹽をまぜ、瓜のすれあひ不申候樣ニ桶へ積、能ふたを仕、其上を土にてぬり、風ひき不申候樣に仕候、廿四五日めには味つき申候、 同丸瓜漬の方 一瓜丸ながら鹽をぬり、右の通につけ申候也、 同丸漬の方 一瓜〈百〉あさ瓜ニ而も、靑瓜(○○)ニ而も、一鹽六升五合、一水五升 右鹽水能もみ碎、一沫せんじ能さまし、瓜を先此鹽水に漬、瓜の跡先を少づゝ切候て、中へ穴をあけ申候、又兩の切口より中ごを取ても漬申候、又二ツわりにしても漬申候、百の瓜桶にならべかさね、右の水を入、おしを置、三日其儘置申候、二日めには、おしを少しぬるめ申候、四日めに押を取、漬汁にて能洗、三日天氣に干、其後又三日、日かげに置、あつけをよくさまし、粕につけ申候、粕かたくば酒を加へ、しるりといたし漬申候、瓜のすれあはぬ樣に、粕をたくさんに入申候、 一くづ草のわかき所を一夜白水につけ、毒をとり、右の瓜の間々に置申候、くづ草入候へば、齒切よくいたし候、不入候てもよし、右の鹽水にて赤土をかたくこね、なら漬の上ニ五六寸ふたの心にぬり申候、 同干瓜の方 一白瓜(○○)大小により六ツか八ツに割、中ごを取、桶へならべ、鹽をふり、何返も如此して、一夜おしをかけ置候へば、水出申候、翌日其鹽水にて能洗、上簀にならべ、能天氣に只一日干、内のかたnan古酒をさつと引候て、壺へ入置申候、來年六月迄色能持申候、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1030 西瓜(○○)粕漬 西瓜の花落、若きうちに取て、丸のまま粕につけるなり、是も花丸漬の仕法にしてつけるなり、紀州若山より出るを名物とす、

〔紀伊續風土記〕

〈物産十下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1030 奈良漬〈即糟漬なり〉 府下酒造家にて、種々の蓏菓の類を漬て、諸國へ出す中にて、西瓜の嫩になる者を漬て、小西瓜奈良漬といひて賞翫す、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 糸瓜(○○)糟漬 糸瓜の花落二寸位の所をとり、粕に食加減の鹽をまぜて漬るなり、尤押蓋しつかりとして、水あがりたらば、桶をかしげてこぼすべし、是へちまの鹽水なり、水氣なきやうにして蓄ふべし、又餘蒔胡瓜もかくの如くして漬置べし、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 茄子(○○)かすづけ 一壹斗入桶に茄子一はい、鹽一升五合、水三升入、二日程おもしをかけ、鹽しみてかす一重置、粕の見えぬほどに鹽ふり、其上に茄子をならべ、又鹽をふり、粕一重置、皆々つけ申候時、おしつけ、上に鹽五合ほどふり、風の入不申候やうに口を張置申候、

〔料理山海鄕〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 八幡莖 牛房(○○)の根葉を去、葉の軸のかはを取、粕へしほつよくして其儘つける、いだし候節かすをあらひ、押ひらめて、五分ばかりに切て用ゆるなり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 十六さゝげ(○○○○○)粕漬 さゝげの餘り實のいりすぎぬうちにとりて、生のまゝ粕に漬るなり、眉兒(ふじ)豆などは、殊更さやばかりの内に漬込なり、上に水出たらばしたみとるべし、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 刀豆(○○)粕漬 なたまめは、生にてしばらく湯に浸し置、鹽を少しばかりふりて、十日餘り押て、水にて洗ひ、半日ばかり干て粕に漬るなり、一年餘もたゝねばつきかぬる物なり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1031 山葵(○○)糟漬 わさびを短冊にうちて、鹽にて押、翌日水を切りて粕につけ、壺に詰て目ばりをしてたくわふ、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 土筆(○○)粕漬 つくしの穗ばかりをとり能洗ひ、水を切て直に粕につける、遣ふ時粕をあらひ、花がつほなどかけて猪口に遣ふ、風味至てよし、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 梨(○)糟漬 あはゆきの無疵なるをゑらび、梨と梨とあたり合ぬやうに、粕澤山にして漬るなり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 柿(○)粕漬 はちやといへる細長き柿の靑きうちにとりて、粕につけるなり、自然と澀ぬけて甘からず、甚よき風味なり、會席の香物に附合す、

奈良漬

〔醒睡笑〕

〈一謂被謂物之由來〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 瓜の糟づけを、奈良づけといふ事は、かすがのあればよいといふえんなり、

〔料理綱目調味抄〕

〈三雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 奈良漬 白瓜を吟味して如常割、中を隨分深くとり、瓜に鹽厚くして干事一時計、鹽水をとり、瓜を冷し、かすに食かげんの鹽を合、糟壹合に瓜二ツの積り、桶の底にぬかに鹽交ぜ、大分に敷は水氣ぬかにしたゞり、瓜いつ迄もかたし、桶に合せ中蓋を仕て、度々に押付置べし、其外漬樣品々有り、瓜、なすびなど漬交るは惡し、大根、茄子、蓮根、皆糟漬、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1032 奈良漬瓜 夏土用の中の極上物の白瓜を吟味して、二ツに割て中實を深くとり、瓜の肉にきずのつかぬやう取扱ひ、中へ鹽を詰て、天日にほすこと二時計り、鹽水をこぼし、とくとさまして上粕に喰加減の鹽をあはせ置、粕壹〆匁ニ大瓜二ツをあをのけにして、桶の底には糠に鹽少々まぜて、桶の大 小に從ひて、厚さ三寸位にしき、中底の板に穴をあけ、水氣の下へ落るやうにして、瓜をならべては粕をつめ、瓜とうりと當りあはぬやうになして、ほどよき壓をかくれば、中底の樣に水氣を吸とりて、瓜のつきやう大にはやし、又茄子は甘鹽に鹽押して、能壓のきゝたる時に、一日天日ニ干、さまして後、右の鹽かげんの粕に漬置、かろく押をかけて一年立て又粕をとりかへ、元の如くに漬直すこと、瓜茄子共に三年を經て程とす、

〔諸國名産大根料理秘傳抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 早奈良漬(○○○○)の仕方 一是も右〈○大根早豉漬〉に同じ、澤庵漬か、甘鹽の、香物がよろしく候、長き大こん半分ほどに切、竪に三ツ切にして、酒をあたゝめて、酒の粕に見合にして入、鹽少し入てとくと合せ、右の香物を漬申候、此中へ桑の葉をこま〴〵にして漬込也、桑のなき時節なら紫蘇、紫蘇なき時ならば、藥店にて、はつかをとゝのへ、酒にて洗らひ入る也、是は右酒の粕を引廻す爲也、凡一日一夜に漬る大秘方なり、

紀州漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 紀州漬 一大白瓜を貳ツ割、内をさらい、能あらい、水氣を去、瓜の中へ鹽一盃入、扨樽に粕を敷ならし瓜鹽ともにあをむけ、三ツ宛ならべ、其すき間になすを鹽なしにならべおき、其上に粕を敷ならし、又瓜茄子をならべ、かくのごとく上迄漬、樽の鏡を打、目張して、土用中より來春まで漬置、春にいたり口を切遣ふなり、

麴漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 麴漬 醴麴三枚に味淋酒一升をかけてねかし置、干瓜に鹽押茄子、干大根などを刻こみ、紫蘇の實、生姜、とうがらしをもすこしづゝくわへ、能つきたる時に賞翫すべし、これ漬物の醍醐味ともいふべし、

〔日本歳時記〕

〈六冬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1033 十一月、此月蘿蔔を多くたくはへて、冬春の用に備ふべし、〈○中略〉又菘(うきな)と蔓菁(かぶらな)を莖葉 共に能洗て、一兩日日にほし、麴に鹽をまじへて漬て葅とす、又未醬に漬るもよし、〈歳時記にも、仲冬之月、采https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins103401.gif 蕪菁葵等、乾之爲醎葅とあり、〉

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉甘漬(○○)者、此亦九十月用好肥蘿蔔根百箇、洗淨略乾、用舂粳飯八升、麴八升、白鹽一升六合拌匀、一重蘿蔔、一重飯麴鹽、漬塡于桶、壓蓋除水、過三十日餘而熟、但至春則敗而已、

酒漬 祇園漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 祇園漬 一白瓜を丸のまゝ六ツ程に小口より切、中をさらい、蛇の目のごとくして、一夜鹽おしにして、翌日繩に通し、一日日に干、翌日酒(○)にてあらい、壺に詰、上酒をひた〳〵に入、砂とふ見計入口張して置、六十日過てよし、但十日程過候て口を明酒減じ候はゞ酒をたし申べし、丸漬瓜、しやうが、みやうが、ちよろぎ抔も鹽だしにして漬込よし、

味淋漬 捨小舟

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 捨小舟 越瓜(しろうり)を二ツに割、中實を能く取て、鹽を盛て日にほしあげ、水をこぼさずしてほしつける、六七日もほしてからびたる時に、重ねて壺やうな器にたくわふべし、冬の中より春へかけて味淋(○○)に浸しおき、珍客にもてなすに妙なり、當座喰には一日干て程とす、誰やらが、 夕立や干瓜の身を捨小舟、といふ句によりて名づけしとぞ、

鼈甲漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 鼈甲鹽 糠味噌漬の故き茄子を、丸にて鹽出してよくしぼりて庖丁し、味淋酒(○○○)を澤山にかけて、浸しおくこと三十日ばかり、茄子すきとをるほどひやけて、奈良漬の茄子にまさることとをし、

醴漬

〔本朝食鑑〕

〈二榖〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1034 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉醴漬者、用新好茄子連帶不大不小者百箇、別用不舂米五升水一宿、至旦蒸甑、好麴五升、 白鹽二升半、而拌匀充桶、漬百茄子者如鮓、一重三物、一重茄子、要茄子不相捎、蓋桶口緊封、蓋上載石而壓、外以澀紙固封而避風、經百餘日取出爲香物、或越年至春取出、浸水去鹽氣、洗淨細剉入汁、作和物以擬生茄、則色靑而佳、其味不佳、惟誇新奇爾、此甘漬(○○)者、以茄子宜、餘蔬不宜、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 茄子あまづけ(○○○○) 一中の茄子〈百ニ〉 一黑米六升 一かうじ六升 右の米、つねの醴のごとくめしにして糀と合、桶におしつけ、一夜置申候、水は少も入不申、明〈ル〉晝時分に鹽六升入、あかゞねのせんくづ〈五匁ほど〉入、しほとまぜ合、茄子のすれ不申候樣に漬置申候、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 茄子甘酒漬(○○○) 一黑米〈壹斗、但新米、〉 一糀〈八升〉 右桶に成共つぼへ成共、水少も不入、甘酒に作こめ、能なれ申候時分、鹽四升入、茄子百漬申候、茄子は八月末、ちいさきを取、其まゝ漬、ふたを能いたし、風の引不申候やうに仕置候、遣申時は、前日入申候程取出し、銅鍋にて鹽をざつと煮出し、扨水につけ遣候へば、色靑ク候、

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins057362.gif

〔料理綱目調味抄〕

〈三雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins057362.gif (どぶ)漬 どふろくに糂汰(じんた)を交漬るもよし、かすに白豉合ても、瓜、なすび、大こん、はじかみ、何れも水けを去て漬る、

酢漬

〔易林本節用集〕

〈寸食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 酢(ス)〈ヅケ〉

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 酢漬(スヅケ)

〔庭訓往來〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 菜者、〈○中略〉酢漬茗荷、〈○中略〉茹物、茄子酢菜、胡瓜甘漬、

〔料理物語〕

〈さかな〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1035 酢漬には めうが、生姜、梅、山もゝ、竹の子、ばうふう、うど、はす、人じん、ほたで、山枡、しそ、またゝび、 此外色々、但酢一升ニ鹽三合いれよし、

〔料理綱目調味抄〕

〈三雜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 酢漬 梅酢もよし、米酢、器物の下へ粒がらしを入漬ればかびず、はじかみ、めうが、なすび、しそ、乾して漬る、

三杯漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 葉附小大根三抔漬 小だいこん、尤ちいさきを拵へ、莖一寸ばかり殘しおき、葉先をきり、一時ほど日にあてゝ、直に三杯醋に漬るなり、是を吉原の放言には、洗ひ髪といふ、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 薤三杯漬 らつきやう一斗、鹽二升、生姜の葉大分入れて、鹽おしにして壓をかけて、水十分にあがり、三十日ほど立て其水をこぼし、しばらく水をかわかして、砂糖蜜に漬る、是も三十日すぐればよし、右の酸味は持まへの酸味なれど、若酸味薄き時は、酸少々入るもよし、

〔料理山海鄕〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 三品漬 酢酒等分煮てさます、川鱒、大こん、防風、唐がらし等、漬おきて用ゆ、

卷漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 卷漬 ふとき大根、木口より薄くはやし、よく干てたくわへ置、鹽蓼生姜をほそ引きり〳〵とまき、輪とうがらしを帶にして三杯酸に漬おく、

阿茶羅漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 阿茶羅漬 一酢壹升、鹽三合煮返し、熱きうちに漬る也、小茄子、生が、めうがのこ、蓮根抔、また魚をも漬るなり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1036 阿茶蘭漬 ほし大根を一寸計りに切、立に四ツ割にきざみ、みづから昆布、生姜、茗荷の子、鹽押茄子、つと麩、小 梅干等を加へて、酒醬油にて、酸は梅の酸を用ひて、當座漬につける、尤きくらげ、とうがらしを入べし、又蓮根、獨活、新牛蒡、時々の品を加へるも可なり、

金平漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 金ひら漬なす 一酢に鹽かげんして煮返し能冷し、唐がらしを五分切にして見計入、小なすへたを取、壺に漬込、口張して置也、五六日經てよし、

南蠻漬

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 南蠻漬の方 一酢〈三盃〉 一古酒〈二盃〉 一鹽〈壹盃〉 右三返合、炭の火にて二沫ほどせんじ、能さまし、鮎、其外川魚、小鰯、ほゝづき、せうが、くらげ、其外いろいろつけ申候、

辛子漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 辛子漬 一粉がらしを煉りかため、熱湯にてあくを去、摺醬油古酒少し加へ、のぺ越して、小なす抔一鹽押たるを漬べし、好ニnan酢をも加へべし、

初夢漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 初夢漬 花落茄子の蒂(へた)を切まわして、甘く鹽押にして、芥子をかき、醬油にてゆるめ、少し白砂糖を入て、鹽梅して茄子を漬るなり、日數多くは持がたき品なり、

〔江戸町中喰物重法記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 〈朝國〉初夢漬 〈麻布出店、糀町二丁目、〉靑柳堂

梅干

〔伊呂波字類抄〕

〈无飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 烏梅〈ムメボシ〉 梅干

〔運歩色葉集〕

〈無〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 梅干(ボシ)

〔易林本節用集〕

〈牟食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 梅干(ボシ)

〔倭爾雅〕

〈六果蓏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1037 白梅(ムメボシ)

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 霜梅(ムメボシ)〈又云白梅、本草取靑梅鹽汁之、日晒夜漬十日成矣、久乃上梅、〉 梅干(同)〈俗字〉

〔倭訓栞〕

〈前編四宇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 うめ うめぼしは梅干の義、白梅といふ、今は白梅の名、花をもていへり、

〔嬉遊笑覽〕

〈十上飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 梅びしほ、汝南圃史に、杵白梅和以紫蘇梅醬、古人用以調羹、疑即此也、こゝにてさらさと云なり、白梅とはしほづけ梅なり、

〔本朝食鑑〕

〈四果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 梅干〈干乾也〉 集解、梅干法、采收于半生半熟者、倶洗淨用白鹽數升、而糝漬之二三日、待鹽水之生https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra0000067265.gif 日、至暮漬入前汁之中、翌旦采出復曝日、若許數次、經日梅乾汁盡皮皺、紅潤而後收藏於磁壺中、以其大圓紅潤者上品、以其小團黄枯者下品、後豐前肥之製最佳、其餘次之、或用生紫蘇葉而裹之者、紅活光潤亦以爲珍也、今家々至黄梅時節而造之、或採豐肥插接之大梅以造之、雖本州之製、亦不下品、又用小梅而造之亦佳矣、

〔和漢三才圖會〕

〈百五造釀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 梅酢 即梅汁也、六月製梅干時取之、用生梅黄熟者一斗水一日、苦汁出時取出、以鹽三升梅、安壓石一晝夜、梅汁出、取梅日晒、又漬件梅汁日乾再三、則梅干成矣、〈○下略〉

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 梅干の方 一梅の少色付たる壹斗に鹽三升まぜ、桶へ入、水をひた〳〵に入一夜置、晝は日に干、夜は右の鹽水の中へ入置、いくかも梅の和かにしわのより候ほど干申候、扨能々干あがりたるを竹の皮に包置候、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1038 梅干漬 梅の實の能いりたるを、一時計り水に浸して洗ひ、梅一斗ニ鹽三升、紫蘇の葉多少見計ひにて漬るなり、はじめは押をかるくして、梅に鹽のしみたるに從ひ、段々押をつよくかけるなり、十四五日、又は廿日を經て、日和よき日を見定め、簀へあげて日に干なり、當座喰には一日か二日ほして 器にたくわふ、年久しくかこひおくには、一日ほしては夜は梅酸に漬置、又翌日ほすなり、かくすること三日にして、夫より四五日ほしあげて、からびるほどになりて壺に入べし、たとへ十年廿年に及ぶとも、味かわることなし、梅干の艶もよく、風味格別なり、 右の梅酸に大根を花に切、又は薄くきざみて、生姜など一所に漬るは、よく人のすることなり、上方にては蓮根と生姜を多くつけて、座禪豆のかやくにも赤い蓮根を用ひ、鮓を漬にはぜひ紅生姜を遣ふこと常の事なり、此梅酸にしそのしぼり汁を入て、德利にたくわふべし、料理にはをり〳〵入用の物なり、

〔毛吹草〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 山城 宮司(ミヤシ)梅干

〔今川大雙紙〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 食物之式法の事 一しきの御肴にはじかみ梅干(○○)鹽などをすへ、きに入てまいらする事は、自然物をきこしめす時、むせ給ふ事有、酒にも飯にもむするは大事也、梅干をみれば、口の内につの出來て物にむせぬ也、

〔大館常興日記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 天文十一年閏三月廿九日、梅ぼし一つゝみ〈五〉佐女中より給候、相尋候についてあり合候まゝ給之云々、 卯月六日、梅ぼし一つゝみうまおち獻之、

〔江戸砂子〕

〈五下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 ある人、むめぼしをおくりけるに、 澤庵和尚 むかし見し花のすがたはちりうせてしはうちよれる梅ぼうしかな

〔牛馬問〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 和のホウノキといふて、秤の覆ひ、刀の鞘に用ゆる木は、漢土に於て見證なし、此木と梅干とは大毒なり、此木の上に置たる梅干を食ふべからず、必ず死すといふ、

靑梅漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1039 靑梅漬 靑梅の若きうちにとりて、一夜水に浸し置、〈是は苦みをとるためなり〉翌日水をきりて、靑梅一斗に鹽二升を いれて、かろく押て漬るなり、水あがりたらば、其水をこぼしすて、ざつと洗ひて水氣をかわかし、又すこしふり鹽をして漬るなり、先の水にてはにがみあり、其苦味をさりてたくわふべし、

糟梅

〔本朝食鑑〕

〈四果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 糟梅〈造法、靑梅未熟者、先將稻草灰汁一升、白鹽五合拌匀、方用梅子灰鹽汁一晝夜、翌日取出、以紙拭淨、入新好糟中、而後充收于磁壺、或木筩而密封、經一百日而熟、大小倶同法、此亦以後豐州之造上品、〉

トネリ漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 とねり漬 一靑小梅四五日鹽に漬置、扨貳ツに割かけ、内の仁を去、粒ごせう一ツ宛入、三日程鹽おしニ漬たるしその葉に包壺に詰、上に燒酎をひた〳〵に入、砂糖見計入、口張して置也、又燒酎不入、さとふ計にても漬候なり、

丸山漬

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 丸山漬 一梅三升蒸て肉を取、越して鹽を合せ、疵のなきよき梅壹升を漬、風の通さぬようにすべし、

煮梅

〔料理無言抄〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 煮梅(○○)〈亦〉靈仙梅(○○○)トモ云 靑味有之梅貳升撰テ、煮エ湯ヲ鍋ノ内ニテタヾラシ、偖同黄ニ熟シタル梅三升ヲ摺テ、鹽三升ニ合セ、是ニ右之靑梅ヲ漬、昆布ヲ蓋トナシテ、又紙ヲ以封置、色靑ク和ニシテ珍物ナリ、其用ニ隨ヒ可用、

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 煮梅方 一梅きづなきを〈壹斗〉 一鹽〈三升〉 外に能色づきたる梅貳升能湯煮をし、湯を捨、梅の煮たるを能すりて、右の壹斗の梅にかきまぜ置申候、扨昆布をならべふたにし、其上に又紙のふたをして、風をひかぬやうにする也、

梅干沙糖漬

〔合類日用料理抄〕

〈三漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1040 梅干さたう漬方 一古酒かんなべへ入、すみ火にてわかし、にえ立不申候内にさたうを入、なめて見候て、殊外甘ほどに仕候、酒ねばり候はゞ、酒を加へ、ねばり不申樣に仕候、 一梅干水にて洗、一時程も水につけ、鹽けすけを少出し、つぼに入、右のさたう酒あつき内にかけ、梅干のかくるゝ程のかげんに酒おほく入、ふたをして一夜置、翌日能候、十日ほど置候へば、すき味出候てあしく候、少づゝ切々仕候てよし、

〔料理山海鄕〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 砂糖梅 豐後梅百を鹽押、灰一つかみいれ、一夜置、洗ひすて、水氣をとりかはかして、上々の酒ひた〳〵に入、砂糖一斤入、生梅三十入、これは匂ひを出す爲也、つぼに入、口をよくふさぎ、三十日過て風味つくなり、

〔料理山海鄕〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 難波津(○○○) 梅干肉ばかりに砂糖を入、こして紫蘇の葉へ塗りて、麻の實一粒、梅杏少シヅヽいれてまき、五六分計に切て漬、さとうふり置、肉さとうゆきわたりて後つかふ也、

〔料理山海鄕〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 紫蘇氣點(○○○○) 信濃むめぼし種を去、肉の内へ粒胡椒一りう入、その上を紫蘇の葉にてつゝみ、白ざとうに漬おくなり、

甘露梅

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 甘露梅を製するには、右の靑梅の苦水を去て、砂糖蜜に漬置、紫蘇の葉ニ包みて白砂糖をふりて、輕く押をかけるなり、

梅花漬

〔料理無言抄〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 一梅花ヲ貯ニ、開キ或ハ未開花二三輪、偖梅干ヲ水氣不入樣ニシテ摺、核ハ去リ、此梅ノ肉ヲ重箱ノ内ニナラシ、是ニ梅花ノ枝ヂクヲサシ、蓋ノ合メヲ紙ヲ以張置、秋迄モ花不損ズ、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1041 梅花漬 梅干の實をさり、肉ばかりすきとりて、摺鉢にてとくと摺て、平たき器にのべ、梅花の臺をみじかく切て、梅肉に指ならべ、蓋をして目張してたくわふべし、いつまでも薰うせる事なし、

菊漬

〔料理山家集〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 菊漬 大きなる新梅ぼしよく洗ひ、菊の花と一ツつぼに入、よき酒をひた〳〵に入、白ざとう絹帒に包、其中へ入て漬、めばりして置なり、 但し右きくづけは、梅と酒とさとう等の、ぶんりやう口傳なり、〈○下略〉

〔料理調法集〕

〈漬物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 菊味漬 一苦みなき黄菊を、水をかけよく淸め、花びらをむしりて、扨酒壹升に大梅二拾程入、壺に漬込、口張をして置べし、但糀を帒に入、間々に敷漬候得ば一段よろし、

〔料理山海鄕〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 菊閉 きくの花黄白赤紫とも、ほそき桶に、ずいぶん澤山に花むしりいれ、花のかさ壹尺程にては三四分におしつかる也、右三四分におしつかりたるをよきほどにきりて、一切宛上々美濃紙に包み、又上下より赤みそにて漬おき、おもしかろくおきて、入用次第一包づゝ出し用、但し花むしり、ふり鹽にて、ずいぶんおもしつよく押也、しほ水出るを幾たびも水はすてるなり、

梅漬

〔運歩色葉集〕

〈無〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 梅漬(ムメツケ)

〔易林本節用集〕

〈半食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 梅漬(ムメツケ)

〔倭爾雅〕

〈六果蓏〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 梅醬(ムメツケ) 梅諸(ムメツケ)〈見于内則

〔雍州府志〕

〈六土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 梅諸(ツケ) 五月梅子黄熟後鹽藏之、其内梅子少許碎之混其内、經日後所碎之梅子糜爛、而與全形之梅子滾合、兩種共其味甘而帶微酸、圓山安養寺、靈山正法寺之製造特爲美、醬亦斯寺之珍味也、

〔料理無言抄〕

〈七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1042 梅漬〈本名〉梅醬〈亦〉梅諸〈トモ云〉紫蘇、大根、薑、麩、茗荷、其好ニ隨ヒ製スベシ、竹ノ子、マタタビノミ、氷コンニヤク、靑山升、

〔料理山海鄕〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 梅漬 梅一升にしほ五合入、おし掛、度々上下へふりかへしおき、梅酢上まであがるとき、梅を陰ぼしに一日半干てつぼに入、上に鹽ふり置、右の梅酢を用ひ、梅の皮を去入申候、しほ二合餘ふり、其上へしそを多く洗ひ、水氣なき迄陰干にして、右の梅の上へふたにおき、其上へ鹽二合ふりて、はしにてそろ〳〵とおし付おく、手を入ることあしゝ、箸も水氣なき樣に、何にても水氣を取、紫蘇の中へつける、漬るときしほ少しヅゝ入る、麩はその儘つけて押をかけ、水氣を去、瓜、生姜、名荷、笋、蓮根、此類は湯煮して水氣を取入、ほうづきは上のかわとり鹽入漬る、何によらず、よく〳〵水氣を去べし、

〔殿中申次記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043永正十三丙子、至同十七庚辰歳記録事、 六月二日 一梅漬 二桶〈例年進上之〉 久我殿

〔後奈良院宸記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 天文四年四月十三日癸卯、大慈院梅ツケ給、

〔毛吹草〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 山城 丸山醬梅漬

紫蘇漬

〔本朝食鑑〕

〈三柔滑〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 紫蘇〈如字〉 集解、處々多有、或人家田圃栽之、〈○中略〉或醃藏、味噌漬倶佳、與梅子同淹藏、則其汁香紅、同漬者悉香紅可愛、最經年亦好、〈○下略〉

〔料理山海鄕〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 千枚漬 しその葉何まいも多くかさね、しほ漬にする、押おもくかけて、厚さ二分ばかりになるほどして、四方を去、肴又香の物に用、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1043 千枚漬 紫蘇の葉を一枚づゝ能洗ひ、百枚二百枚段々と重ねて、麻糸にてとぢ、ざつと湯をくゞらせて板にはさみて、水氣をとくとしぼり、味噌桶の底に並べて、竹をわりて動かぬ樣におさへおくなり、みその溜自然としみわたりて、日ならずしてつくなり、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 紫蘇漬 しその實、餘り實がいりすぎれば、取あつかふうちに、實がこぼれて、臺ばかりになる物なれば、すこし前がたに取べし、扨しその穗をはさみて後、鹽水を拵へとくと洗ふべし、ちいさき實の中に、至てこまかき虫ありて心わるき物なり、鹽水にて洗へば、彼虫去て淸し、其上にてたゞの水ニて洗ひ、よく水をきりてより漬込べし、〈ちりめんじそは、匂ひよけれ共、實べた〳〵と心たちよろしからず、靑じその實は、そのまゝなれども匂ひなし、〉

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 種抜蕃椒日光漬 赤とうがらしと、縮緬紫蘇の葉、共に鹽押にして、一日ほして、蕃椒を立にわり、種をぬき細く切て、紫蘇の葉をのばして卷、少ばかり鹽をふりて押をかけ、廿日ばかり漬て後、水をしぼり、天日にかわかして壺に蓄ふ、

荏裹

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 正月最勝王經齋會供養料、〈○中略〉醬瓜糟漬瓜荏裹(○○)各一顆、〈○中略〉 正月修眞言法料、鹽七斗二升八合、醬四斗一升七合〈並未醬漬及荏裹(○○)料○中略〉 仁王經齋會供養料 僧一口別菓菜料、〈○中略〉茄子六顆半、〈醬漬料二顆、糟漬料二顆、熬菁料一顆、荏裹(○○)料一顆、中子料半顆、〉

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 漬年料雜菜 荏裹二石六斗〈料瓜九斗、冬瓜七斗、茄子六斗、菁根四斗、鹽一斗二升、醬未醬滓醬各一石、〉 右漬秋菜

〔松屋筆記〕

〈三十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1044 紫蘇卷并荏裹 今の世、しそまきの唐がらし、しそまきのめうが、しそまきのうど、しそまきの蓮根などいふものいとおほかり、延喜大膳式下に、醬瓜、糟漬瓜、荏裹、各一顆、また鹽七斗二升八合、醬四斗一升七合、並味醬漬及荏裹料などあり、この荏裹は、荏の葉に裹みたるにて、今の紫蘇裹の類也、今も紫蘇のみにも限らず、荏の葉をも用る也、同式に茄子荏裹料一顆、中子料半顆云々、また荏裹四百七十六顆、呉桃子二斗、生薑六升、山蘭龍葵子各一斗、舌就一斗云々、〈舌就、一本仙沼子に作、〉また荏裹六斗料瓜九斗、冬瓜七斗、茄子六斗、菁根四斗、鹽一斗二升、醬、未醬、滓醬、各一石云々、

〔江家次第〕

〈十一十二月〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 荷前事 主殿居火櫃、造酒居甘糟(アマカス)、荏裹(エツヽミ)、柑子、橘等

〔新撰字鏡〕

〈連火〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 韲〈子奚反、醬屬也、阿戸毛乃、〉

〔倭名類聚抄〕

〈十六薑蒜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 韲 四聲字苑云、韲〈即嵆反、訓安不、一云、阿倍毛乃、〉擣薑蒜醋和之、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四鹽梅〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 玉篇、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins043255.gif 薑蒜爲之、齏同上、其義與四聲字苑同、説文、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins043255.gif https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins068680.gif 也、又載齏云、或从https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins068680.gif 齏也、互訓、釋名、齏濟也、與諸味相濟成也、周禮、醢人五齊、注、齊當齏、凡醢醬所和、細切爲齏、全物若https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins029680.gif菹、王念孫曰、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins104501.gif 者細切之名、莊子https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins104501.gif 粉是也、段玉裁曰、菹酢菜也、酢菜之細切者爲https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins104501.gif 、通俗文云、淹韭曰https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins043255.gif 、淹薤曰https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins068680.gif 、蓋其名起於淹韭淹䪥、故从韭、

〔伊呂波字類抄〕

〈安飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 齏〈アヘモノ〉 酤〈七命云、酤以春梅、〉 韲〈醬屬也〉 和 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins043255.gif 〈已上同〉

〔運歩色葉集〕

〈阿〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 韲(アエ)物

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 韲(カラミ)〈韻會、擣物爲之、〉 辛味(同)

〔東雅〕

〈十二飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1045 韲アヘモノ 倭名鈔に、四聲字苑を引て、韲はアフといふ、一つにアヘモノといふ、擣薑蒜酢和之と注せり、アフと云ひアヘといふは、舊説に和の字讀てアユといふと見えし即是也辛辣之菜を搗たるにて、酒酢に和したるをいふ、〈薑蒜を搗て醋に和して喰ふは、辛辣の味に取る也、蒜ばかり搗きしをばヒルツキといふ也、萬葉 の歌に、醬醋に蒜搗雜て鯛ねがふなどよみしを見れば、韲は魚味をたすくべき料と見えたり、即今サシミなどいふ生魚の肉を聶て切れるに、薑芥等を酢に和したるをもて食ふ事の如く、今俗にアヘモノといふ物に同じからず、〉

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 供奉雜菜 日別一斗、韲料三升、〈○中略〉中宮准此、其東宮雜菜五升、韲料二升、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 年料 酢醬瓶卅口、鉢八口、負瓶四口、大瓶八口、小瓶八口、筥瓶八口、陶臼四口、〈已上八種納韲物料〉

搗蒜

〔倭名類聚抄〕

〈十六薑蒜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 搗蒜(○○) 食療經云、搗蒜韲、〈比流豆木、蒜具見下葷菜類、〉

〔延喜式〕

〈三十二大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 鎭魂 雜給料 参議已上 人別〈○中略〉 漬菜二合、漬蒜房(○○○)、蒜英(○○)、韮搗(○○)各二合、 五位已上卅人 人別、〈○中略〉漬菜二合、漬蒜房、蒜英、韮搗各二合、

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046雜物法 右神事料、造法見内膳式

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 漬年料雜菜 韮搗四斗〈料鹽四升○中略〉 右漬春菜

菁根搗

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 漬年料雜菜 菁根搗五斗〈料鹽三升○中略〉 右漬秋菜

多々良比賣花搗

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1046 漬年料雜菜 多々良比賣花搗三斗〈料鹽三升○中略〉 右漬春菜

〔新撰字鏡〕

〈草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1047 莘〈所巾反、長也、衆也、甡也、兟也、聚也、太々良女、〉

〔傍廂〕

〈後篇〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1047 たゞらめ 源氏末摘花卷に、たゞらめの花のごとかいねりこのむ云々、此たゞらめは、かいねりとひとしく赤き故に、姫君の鼻の赤きにたとへたるよしは聞えながら、いかなる花とも思ひ得ず、古人の注釋もなし、新撰字鏡に、莘〈タヽラメ〉とあるのみにて、何の花といふ事しれがたし、もしは辛荑ならんか、格物論に、辛荑一名候桃とあり、時珍云、紫苞紅焔作蓮及蘭花香、和漢三才圖會に、曰弊辛夷とあり、新撰字鏡には、字書に目なれぬめづらしき字あり、

〔比古婆衣〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1047 たゝらめの花 多々良女いかなるものなるにかと、こゝろにかゝりつるに、此比源順朝臣歌集の古本の寫をみるに、〈此は富士谷成章が、歌仙歌集の校本の中に見えたり、〉田の條里の形に、歌四十五首を廻らしよむべく、書とゝのへられつる中の歌に、をり〳〵ににほふたたべのうめなればをしめどかひな花のにほひや、とみえたり、〈但し單行の此集の一本には、いはゆる四十五首をなべての歌と一列に書り、其は群書類從に收めたるに、たゝべをたしへと書るは、疊字をわろく書たるか、又は彫工の失にてもあるべし、さる誤このほかにも多く見えたり、又三句うめなれや、〉今考ふるに、このたゝべは、たゝらめの急りたるにて、紅梅のことなるべし、〈○註略〉そは内膳式にみえたる多々良比賣も同物にて、漬年料雜菜の條、漬春菜料の中に、多々良比賣花搗三斗〈料鹽三斗〉と載られたるこれなるべし、さてその多々良比賣花とあるは、紅梅の花にて、搗とはそを搗とりて、鹽漬にして奉る料なるべし、〈○註略〉今の俗に梅花の莟を鹽漬にして、食の酊、酒の肴などにすることあり、馥氣ありてめでたきものなり、しかるに其を漬て後、尋常の花の白きはやゝ黄ばみゆくを、紅梅はほころばむとせる莟のほどは、殊に 紅きものなるが、さながら色あせずして、いと美麗きものなるをおもふに、〈岐蘇の驛路の民家にて、此ものをうるはしく調して賣るも、むかしの製の遣れるにやあらむ、〉そのかみあるが中に、わきて紅梅をものして奉る例なりしなるべく、また此梅むかしより字音に紅梅と呼てもてはやし來るを、〈歌にさへこをばいとよみきたれり〉御饌に奉るにも、なを然申さむは、さすがにつきなければ、さらになまめかしく、多々良比責と申して奉りきたれるを、やがて式にも其名もて載られたりしものなるべし、

鬱萠草搗

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 漬年料雜菜 鬱萠草(クヽヒ)搗三斗〈料鹽四升五合〉 右漬秋菜

〔倭名類聚抄〕

〈十七野菜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067623.gif 莢 楊氏漢語捗云、鬼https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins067623.gif 莢、〈久々散、造協二音、〉一云鬱茂草、〈辨色立成云、鬱萠草、今案本文不詳、〉

〔箋注倭名類聚抄〕

〈九菜蔬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 按本草和名、本草外藥引新撰食經、載鬼皂莢云、、如皂莢、高一二尺、證類本草皂莢條、引陳藏器云、鬼皂莢生江南澤畔、如皂莢、高一二尺、則知食經本于本草拾遺也、源君引漢語抄之非是、鬱萠草又見内膳式、按鬼皂莢鬱茂草不詳、依皂莢之名高一二尺、疑是今俗呼草合歡者是也、

蒜漬

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 漬年料雜菜 蒜房六斗、〈料鹽五升〉蒜英五斗、〈料鹽四升五合○中略〉 右漬春菜料、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 年料 太宰府〈(中略)蒜房漬一石五斗七升、六缶、以上厨作、〉

〔儀式〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1048 踐祚大嘗祭儀上 阿波國麁布一端、〈○中略〉蒜英根合漬十五缶、

〔延喜式〕

〈七踐祚大嘗祭〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 阿波國所獻、〈○中略〉蒜英根合漬十五缶、

薑漬

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 正月最勝王經齋會供養料 漬薑七勺

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 漬年料雜菜 稚薑三斗〈料鹽六升、汁糟一斗五升、○中略〉 右漬秋菜

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 漬年料雜菜 生薑四石五斗、〈料鹽一石四斗二升、汁糟四石二斗、〉柏卅五把、〈https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins008808.gif 瓼口料、〉匏二柄、〈汲汁料〉擇薑女孺五十人、女丁十二人半給間食、〈人別日八合〉 右年料請内侍司漬造

〔史館本東大寺正倉院文書〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 寫經食料雜物納帳 廿五日下米一石〈○中略〉 薑漬卅秫 十月一日下米一石一斗〈○中略〉 薑漬卅秫

蘘荷漬

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 正月最勝王經齋會供養料 蘘荷漬菁根漬各二合

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 漬年料雜菜 蘘荷六斗〈料鹽六升、汁糟二斗四升、〉 右漬秋菜

木芽漬

〔運歩色葉集〕

〈幾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 木芽漬〈鞍馬〉

〔易林本節用集〕

〈幾食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1049 木目漬(キノメヅケ)

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 木芽漬(キノメヅケ)〈洛北鞍馬土人、所製出者、〉

〔庭訓往來〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 鞍馬木芽漬、醍醐烏頭布(ウドメ)、東山蕪、

〔倭訓栞〕

〈中編五幾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 きのめづけ 顯注密勘に、木芽漬はあけびのわか葉也、鞍馬にありといへり、續詞花集に歌有、

〔嬉遊笑覧〕

〈十上飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 庭訓往來に、醍醐獨活牙といへるは、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins105001.gif 木の春の芽出し欵冬花に似たるを、たらぼうといふ、味土當(ウド)歸に似たる是なり、又鞍馬木芽漬は、通艸(アケビ)忍冬木天蓼(マタヽビ)等の、春末夏初の新葉なり、安齋云、出羽國人の談に、其土俗毎年四月老若男女山野に出て、木芽を採て煮て食し、或は鹽に漬て蓄ふ、其木芽といふは、あけびの芽なり、あけびは木通なり、鞍馬の木芽漬も是なりといふ、今も曲物に入れて送る、細かにきざみて鹽氣ありと云、

〔雍州府志〕

〈六土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 木目漬(キノメツケ) 洛北鞍馬土人、春末夏初採通草(アケビ)葉、與忍冬葉木天蓼(マタヽビ)葉合、細剉之以鹽水之、然後陰乾用之、倭俗草木萌芽謂目、

〔京羽二重大全〕

〈二洛外名物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 木芽漬〈くらま村nan出之、〉 木芽漬の和歌は、良玉集ニ見えたり、櫻の實を鹽に漬たるをいふとあり、又あけびの葉を鹽漬ニしたると云説有、未詳、

烏頭布漬

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 烏頭布漬(ウドメツケ)〈城州醍醐土俗、以諸木之萌芽鹽藏者、〉

〔雍州府志〕

〈六土産〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 烏頭布(ウトメ)漬 醍醐土人製之、多似木目漬、以諸木之萌糵鹽藏者也、

山椒漬

〔本朝食鑑〕

〈四果〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1050 山椒 集解、〈○中略〉四五月采靑實亦能添味、或采收靑實、用酒鹽漬浸而藏之、則超年不敗、又用米泔汁、待冷合白鹽以漬山椒、藏貯于磁器中、則超年色尚靑、味亦不衰、倶犯人手則敗、本朝式大膳部有漬椒子、此類乎、

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 鹽山椒 山椒の實ばかり取て、少しばかり鹽をふりて鹽をかけ、鹽水あがりたらば、四五日たちて、其水をしぼり捨て、ほしてたくわふべし、 辛皮 山椒の木の若き枝を切、水にしばらく浸し置て、木と皮の放る比、きざみて鹽水に漬てかこひ、遣ふ時に鹽出して庖丁す、

漬蜀椒子

〔延喜式〕

〈三十二大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 平野夏祭雜給料 漬蜀椒子一斗〈冬同〉

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 仁王經齋會供養料 蜀椒子六勺一撮〈漬菜料六勺、好物料一撮、〉

〔延喜式〕

〈三十二大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 松尾神祭雜給料 漬蜀椒子五升〈韲料〉

昆布漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 漬昆布 松前昆布を撰び、一夜水にひたし置、よく砂を洗ひ、日に乾して溜がちなる味噌に漬るなり、又粕につけるも同じ事なり、昆布の兩方のふちをたち切、正味の所ばかり手比に庖丁して、重ねて漬るなり、

雜漬物 須々保利漬

〔新撰字鏡〕

〈草〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 菹葅〈同側魚反、須保利、〉

〔同〕

〈酉〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins065795.gif 〈須々保利〉

〔伊呂波字類抄〕

〈須飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 漬菜〈スゝホリ〉酢菹 須々保利〈已上同、出本朝式、或云、菁根須々保利、〉

〔易林本節用集〕

〈寸食服〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 酢菜(スサイ) 菹菜(スヽボリ) 菹(同)〈酢菜也〉

〔書言字考節用集〕

〈六服食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1051 酢菜(スサイ)

〔倭訓栞〕

〈前編十二須〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 すゝほり 延喜式漬春菜料に蔓根須々保利六石、菁根須々保利一石と見えたり、新撰字鏡に菹字をすほり、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins065795.gif 字をすゝほりとよめれば、古へ漬物の名成べし、https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins065795.gif は字書に考得ず、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 漬年料雜菜 蔓根須々保利六石、〈料鹽六升、大豆一斗五升、○中略〉菁根須々保利一石、〈料鹽六升、米五升、○中略〉 右漬秋菜

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 正月最勝王經齋會供養料、〈○中略〉僧別菁須々保利漬一合、

〔倭名類聚抄〕

〈十六菜羮〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 葅 説文云、葅〈側魚反、和名邇良木(○○○)、楊氏漢語抄云、楡末菜也、〉菜鮓也、

〔箋注倭名類聚抄〕

〈四菓菜〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 原書艸部、葅作菹、玉篇菹葅上同、原書菜鮓作酢菜、廣韻引同、職員令義解亦云、醋菜曰葅、太平御覧引作菜酢、此作菜鮓並誤、按周禮醢人有七菹、注七菹、、韮菁茆葵芹https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins031209.gif 筍菹、凡醯醬所和、細切爲韲、全物若https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins029680.gif菹、少儀、麋鹿爲菹、野豕爲軒云々、由此言之、則韲菹之稱菜肉通、釋名、菹阻也、生釀之、遂使於寒温之間、不爛也、王念孫曰、菹之言租也、豳風鴟鴞、予所蓄租、韓詩租積也、白貝菹見賦役令

〔類聚名義抄〕

〈八艸〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 菹〈音徂、ニラキ、又仄魚反、〉 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins105201.gif 〈通菹字音同、ツケクサヒヲ、又音同、ニラキ、スヽヲリ、〉

〔伊呂波字類抄〕

〈仁飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins105202.gif 〈ニラキ、酢菜也、〉

〔東雅〕

〈十二飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1052 葅ニラギ 倭名鈔に説文を引て、葅はニラキ、酢菜也、漢語抄に、楡末菜をいふと注したり、ニラギとはニレキの轉語也、ニレキとは則楡樹也、古の時には、楡樹の皮を搗て粉となして、菜にも羹にも、和して食ふ、式に年中雜御菜并に羹等料、楡粉の事見え、倭名鈔にも、末楡莢醬なども見えし是也、葅とは鹽と楡粉とを和して漬しぬる菜蔬なり、されば名づけてニラキとは云ひし也、即今の俗に香物といふは、古に葅と云ひ、後に辣菜と云ひし即是也、〈式に葅を造る法見えたり、即印本には楡の字訛寫し て捻となせしあり、辣菜の名は、下學集等にも見えたり、葅を後に辣菜と呼びしは、僧家にてニラと云ひ、キといふ名の五辛菜に同じきを忌とて、かく云ひしなり、それを俗に香物と呼びしは五辛菜をクサモノなどいふに依りて、其稱を美にして、香物とは呼びしと見ゆ、〉

〔倭訓栞〕

〈前編二十爾〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 にらぎ 和名抄に葅をよめり、楡樹の義なるべし、葅を造る法は、式に見えたり、後に辣菜と稱するも是也、下學集にみゆといへり、新撰字鏡にhttps://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins201986.gif をよめり、字考得ず、 ○按ズルニ、倭名類聚抄ニハ葅ヲニラキト訓ジ、新撰字鏡ニスホリト訓ズルニ據レバ、ニラキ即チスヽホリニシテ、同物ナルガ如シ、然レドモ延喜内膳式ニハ、葅ト須々保利トヲ列擧シ、葅ハ鹽ト楡粉トヲ和シテ漬ケ、須々保利ハ鹽ト大豆トヲ和シテ漬クル由見エタレバ、蓋シ同物ニ非ザルベシ、

〔延喜式〕

〈三十二大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 釋奠祭料 榛人、菱人、芡人、韮葅、蔓菁葅、芹葅、笋、俎各二升、葵葅九升、

〔延喜式〕

〈三十三大膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 正月最勝王經會供養料、〈○中略〉菁葅二合、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 漬年料雜菜〈○中略〉 龍葵味葅六斗〈料鹽四斗八合、楡三升、〉 右漬春菜料〈○中略〉菘葅三石、〈料鹽二斗四升、楡一斗五升、○中略〉蔓菁葅十石、〈料鹽八升、楡五升、○中略〉蔓菁切葅一石四斗、〈料鹽二升四合、楡二升、〉龍葵葅六斗〈料鹽六升、楡二升四合○中略〉蘭葅三斗、〈料鹽二升四合、楡一升二合、○中略〉蓼葅四斗、〈料鹽四升、楡一升六合、○中略〉 右漬秋菜料〈○中略〉 楡皮一千枚、〈別長一尺五寸、廣四寸、〉搗得粉二石、〈枚別二合〉 右楡皮、年中雜御菜并羹等料、

〔史館本東大寺正倉院文書〕

〈六〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1053 雜物收納帳〈造寺料請者〉 天平寳字五六年 十二月廿八日收納錢參拾貫〈○中略〉 葅玖https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins013507.gif 〈○中略〉 六年正月廿六日收納未醬參https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/ra_ins013507.gif 、〈○中略〉 葅壹斛〈納瓼一口

無盡漬

〔料理物語〕

〈さかな〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 無盡漬 から皮、木くらげ、梅干、竹の子、同あさかは、さがらめ、昆布、ほんだはら、銀杏、とさか、生姜、めうが、午房、山もゝ、小梅、あんにん、たうにん、ところ〈ゆでて〉はす、人じん、ちんひ、おご、靑苔、〈むすびて〉右之内當座有あひ候を入てよし、此外も作次第ニ可入也、

百味加藥漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 百味加藥漬 生姜、茗荷、茸蓼、紫蘇、靑柚、山椒、大小の蕃椒、右の類何品にかぎらす、鹽押にしてたくわふべし、生の品ありあわぬ時、ちよつと鹽出して間にあはせる事まゝ多し、〈○中略〉俗にゑの實とうがらしといふ、まるきをも積込べし、

ヤタラ漬

〔四季漬物鹽嘉言〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 家多良漬 ひしほの鹽をからめにつくりおき、瓜、茄子、とうがらしなどを刻み込漬るなり、澤庵大根の味少しかわりたるにても苦しからず、段々切てつけ込也、紫蘇の實、生姜もよし、瓜、茄子、甘鹽に押て水をきりて漬るはことさらよし、

ヨゴレ漬

〔料理山海鄕〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 よごれ漬 大根を糠味噌に二三日漬、取出し、ひしほ、甘酒のかす、すこし入て能すり合漬おき、二三日して用ゆべし、

カクヤノ香物

〔柳亭記〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1054 かくやの香の物 或老人の話に、高野山に隔夜(カクヤ)堂といふあり、二人の僧、一夜おきに守るが故の名なり、此所を守るは老僧の役にて、多くは齒のウスきが故、隔夜料とて香の物を坊よりきざみておくる、きざみたる香の物をかくやといふは、こゝにおこれりと、按に、和州長谷寺に隔谷堂あり、大和名所圖會に 見ゆ、彼老人の高野といひしは、おぼえたがひか、又高野にもあるか知らず、

〔松屋筆記〕

〈八十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 かくやの香物 香物にさま〴〵の漬物をあつめて細かにきざみ、酒醬油を加減してかけたるを、世にカクヤといへり、こは神祖〈○德川家康〉の御時、岩下覺彌といへる料理人が調じて奉れるを御感ありて、やがてその名を覺彌(カクヤ)といふべきよし、のたうひしにおこれりとなん、そは岩下氏の家傳説のよし、屋代弘賢ものがたれりき、

豆腐香物

〔料理山海鄕〕

〈一〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 豆腐香の物 とうふざつとゆでしぼり、鹽と葛を合せて奈良漬の糟へ四角成ものにても、丸き物にてもつき込み穴を明、右の穴へつき、込たるものに、布切を卷て又つき込み、布切を穴へ殘して、右のとうふをつきこみ、口をねぢて粕をおゝひおき出し候節、布切ともに出し、きりてもちゆるなり、

柿香物

〔料理山海鄕〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 柿香物 柿をそのまゝぬかに付置、しぶかきよし、

産地

〔毛吹草〕

〈四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 大和(○○) イロリ漬香物 河内(○○) 毛利口(○○○)漬香物〈天滿宮ノ前ノ大根ヲ以漬之〉 攝津(○○) 富田(○○)漬物

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 香物〈俗稱〉 集解、〈○中略〉糟漬者、〈○中略〉惟以和之奈良漬(○○○○○)、攝之豊田森口(○○○○○○)爲上、故他造者亦稱奈良漬

〔一話一言〕

〈十二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 池田氏筆記 一攝州富田(○○○○)ノ住淸水何某ト云者、例年公義ヘ御香ノ物ヲ獻上ス、此モノ京都町御奉行ヘ持參、夫ヨリ所司代ヘ同心差添來ル、是ハ東照宮ヨリノコトナリトゾ、

〔諸國名産大根料理秘傳抄〕

〈下〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1055 河内盛口(○○○○)細大根豉漬(みそづけ)糟漬(かすづけ)の仕方 一此大根生(なま)にて出る節、二日ほど、よき日にほして、鹽を見合にふり、くきの通りに漬る也、但をし 石は輕きがよし、へしやげ候へばあしく候、また新ぬかみそへ漬るも一段よろしく候、扨一ケ月ほどして取出し水にて洗ひ、雫をたらし、暫く風にふかせ、扨酒の粕壹升に鹽三合ほど入、よくねり合せ漬申候、但ふり鹽少しする也、一重々々に粕をしき、大こんをとくとをしつけ、ふたをとくとする也、又みそ漬は、内仕込の豉にふり鹽也、右盛口細大根計なり、右ふたの口を紙にてよく包み申候也、但し外の大こん、かぶらを漬るも右の通也、鹽は見合に入る、

効用

〔本朝食鑑〕

〈二穀〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 香物(○○)〈俗稱〉 集解、此未何時、而今旦夕不無者也、大抵食後飮湯時、必用者有三宜、一曰、飯湯太熱、以水醒之則無味、以香物攪醒、則味美適口爲宜、二曰、飯後湯必香而無味者、入香物鹹味、則湯生餘味宜、三曰、水惡有臭濁、則以香物而除臭鮮毒、調和湯臭味亦稍好爲宜、加旃、膳有一飯一汁、而無魚菜之肴、則以香物食之佐、或喫餅、粥、強飯、奈良茶等之類、亦以香物佐、飮煎茶時、亦以香物茶之佐、若斯之類不勝計也、

漬物商

〔三都雀〕

〈上〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 京諸商人所付〈いろはわけ〉 か かうの物や(○○○○○) 新町下立うり下ル町 かうの物や たかくら三條下ル町

〔嘉永五子新版日本二千年袖鑑拾遺〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 天保元 天王寺蕪漬物〈一家別風味最上〉 廿三年 村山氏 出所當天王寺村、先祖元祿元、百六十五年、

〔守貞漫稿〕

〈六生業〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1056 漬物賣 京坂ニテ莖屋(○○)クキヤト訓ス、昔ハ大根等ノ莖漬ヲウリシ也、〈○中略〉江戸ニテハ漬物屋(○○○)ト云、〈○中略〉江戸ハ諸香物及ビ煮豆、嘗物味噌ノ類ヲモ兼賣ル、〈○中略〉 因曰、江戸京橋北ニ川村與兵衞ト云香物店アリ、近年諸漬物ヲ薄クキリ、數品ヲ交ヘ、折ニ納メ賣 之、音物方物等ニ用フ所也、甚美ニシテ蒸菓子折ニ似タリ、小折百四十八文バカリ、中折、大折准之、此他三都トモ此製ヲ見ズ、 菜ノ鹽押シ、澤庵漬、茄子鹽押、同酒粕漬、同大根、又ハ大根薑ノ梅酢漬、茄子辛子漬、梅干漬、同紫蘇葉、ラツキヤウ漬等ノ外ニ、嘗味噌及ビ煮豆ヲウル、

〔江戸町中喰物重法記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 〈御膳〉甘露漬生姜、砂糖漬の梅、〈○中略〉甘露漬ふきのとふ、〈○中略〉かんろ梅、〈○中略〉梅びしほ、 〈瀬戸物町南側〉 富士田屋佐七 〈御膳〉奈良漬 〈麴町六丁目〉 紀伊國屋長兵衞 つけ物品々 〈さめがはし千日谷〉 日のや久兵衞 漬物品々 〈かうじ町四丁目〉 小田原屋吉兵衞 同 〈糀町五丁目〉 伊勢屋治右衞門 〈朝國〉初夢漬 〈麻布出店糀町二丁目〉 靑柳堂 〈根本南京〉さらさ梅所漬物類品々 〈本店麻布雜式町出店新橋南鍋町〉 三河屋正種製

漬物市

〔守貞漫稿〕

〈二十七夏冬〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 十月十九日夜江戸大傳馬町腐市 大傳馬町一丁目ニテ市アリ、明日蛭子命ヲ祭ル用ノ小宮、及神棚、切組三方、或ハ小桶、俎板ノ類、又蛭子神ニ備フ小掛鯛等、南北店前ニ筵ヲ敷賣之、又新漬大根をうる、所謂淺漬ニテ干大根ヲ鹽糠ヲ以テ漬タル、蓋麴ヲ加ヘタルヲ良トス、夜市等ニ賣之コト、唯今一夜ニ限レリ、

雜載

〔儀式〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 踐祚大嘗祭儀上 始構造齋場雜屋、〈○中略〉其南縱七間造筥形、并漬菜屋(○○○)一宇、

〔延喜式〕

〈三十九内膳〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1057 年料 絹小篩九十五口、〈煮雜羹所十三口、漬菜(○○)所十四口、○中略〉韓櫃五合、〈四合納醬酢未醬并漬物(○○)料、一合納御米料、○中略〉大槽八隻、〈四隻洗雜漬菜料○中略〉圓糟十三隻、〈二隻洗雜生菜料、五隻洗漬薑料、○中略〉木臼四口、〈二口春鹽并楡等料、二口春粉料、〉杵八枝、〈春雜物料〉箕五枚、〈二枚簸擇鹽并楡等料○中略〉洗盤十二口、〈四口磨御飯料、八口洗作雜滓漬物料、〉麻笥盤十二口、〈四口漬御菜料、八口納滓醬未醬料、〉缶廿口、〈十口納醬并雜醬漬物料、十口納雜滓漬物料、〉壼八口、〈納醬漬并滓漬物料○中略〉 右起十一月供用、明年十月請替、

〔料理獻立早仕組〕

〈香物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1058 春香物 澤庵大こん 同 〈粕づけ〉なた豆 同 〈うど〉みそづけ 同 〈ぬかづけ〉はだな 同 〈せり〉一夜みそ漬 同 〈三月大こん〉ぬかづけ 同 〈はだな〉當座粕漬 同 〈みそ漬〉大こん 同 〈小松川菜〉一夜みそ漬 同 〈味噌漬〉なたまめ 同 〈奈良漬〉冬瓜 同 〈新大こん〉葉付鹽押 夏香物 鹽押瓜 同 〈もり口〉大こん 同 當座干瓜 同 ならづけ瓜 同 鹽押丸漬瓜 同 鹽押胡瓜 同 鹽押茄子 同 ぬか漬さゝげ 同 ぬか漬なす 同 〈ぬかづけ〉靑瓜 同 〈しそ漬〉大こん 同 〈同〉刀豆 秋香物 〈れんこん〉かすづけ 同 粕づけうど 同 〈もみ大こん〉鹽押 同 〈みそ漬〉茄子 同 〈夕がほ〉鹽をし 同 〈みそづけ〉かぼちや 同 〈かす漬〉靑ふり 同 〈ぬかづけ〉糸瓜 同 〈ならづけ〉花丸瓜 同 〈同〉白ふり 同 〈かす漬〉牛房 同 〈みそづけ〉れんこん 冬香物 淺漬大こん 同 〈粕づけ〉大こん 同 漬菜 同 〈同〉夕がほ 同 〈芹〉鹽押 同 〈同〉くわし瓜 同 〈冬菜〉一夜鹽おし 同 〈みそ漬〉靑ふり 同 〈こうじ漬〉茄子 同 〈同〉白ふり 同 〈ならづけ〉茄子 同 かくやづけ

〔四條流庖丁書〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1058 一飯ノ獻立ノ事、〈○中略〉次ニサバサラニ香物(○○)以下ノ物ドモヲ盛事ハ、廿餘年此方ノ事也、古ハ自然ヤキシホ、山椒ナド少置タル歟、〈○下略〉

〔祇園會御見物御成記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1059 大永二年祗園會爲御見物御成之時、從上平御一獻ニ付而次第、〈○中略〉 獻立〈○中略〉 御ゆづけ たこ やき物 〈おけ金だい繪ありこのわた〉 あへまぜ 御ゆづけ かうの物(○○○○) かまぼこ ふくめ鯛

〔三好筑前守義長朝臣亭〈江〉御成之記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1059 永祿四年三月卅日未刻御成〈○中略〉 一公方樣御前、并御相伴衆、御供衆、走衆、雜掌方之事、進士美作守被申談、八十貫文にて十七獻之分調進云々、進士美作守、請取調進獻立次第、〈○中略〉 しほ引 やき物 さけ 御ゆづけ あへまぜ くこ かうの物(○○○○) かまぼこ ふくめ

〔行幸御獻立記〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1059 行幸之引付、天正十六年卯月十四日、於聚樂城太閣樣御申、〈○中略〉 初日十四日御膳御湯漬、民部卿法印御賄、 鹽引 ふくめ 炙物〈ます〉 〈敷氏の金〉あへまぜ 御飯 箸臺 〈敷紙金〉香の物(○○○) すし 桶〈かうのまめえ有〉 二日目御膳 山口玄蕃頭御賄 〈かはらけ何も金〉鹽引 すし 炙物〈かく〉 鱠鮒 御飯 箸臺 かうの物(○○○○) いもこみ 桶〈金かく〉

〔配酌之法用〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 食物作法 香物食樣の事 常の食の時は不食、是は湯菜なり、湯漬とはかくべつ成べし、〈O 中略〉 湯呑樣の事 常の食の時は、湯の中へ箸を入べし、湯漬の時は、箸入事ニ不及、湯一口呑て香物を食、度々に香物を食候事不宜、

〔醒睡笑〕

〈六兒の噂〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 一兒の膳にかうのもの(○○○○○)のあるを、脇に居たる僧とりて食ふ、兒我が秘藏に思うて置いたるをと云はるゝ時、彼坊主一つは御膳に候と存ずれば、何とやなつかしさに、又はつねのよりもよくなるが、面白きにと申したり、兒腹を立て、なるが面白くば鐵炮をくはれよと、

〔貞丈雜記〕

〈六進物〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 進物はすべて詞のとなへ惡しき事を遠慮すべし、進物ならずとも、常にも此心得有べし、〈○中略〉香の物三切をいむ事も、功の者身切れと云ふに似たり、

〔翁草〕

〈八〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1060 河村瑞軒成立之事 十右衞門〈○瑞軒〉事、かゝる卑賤の業〈○車力〉に暮すと雖も、生得其心廣く、才智抜群の者成しが、或時不圖思ひ付キ、上方に行て身の安否を究んと、僅の諸道具を賣て、金貳三歩肌に著け、小田原迄來て一宿せしに、相宿に老翁有り、〈○中略〉翁笑ふて、今繁昌の江戸を捨テ上方ヘ行、何の立身か有ん、倩御邊の人相を見るに、大キに家を起すべき相あり、不如江戸にて勵まれんにはと云、十右衞門つくづく此の翁を見るに、唯者ならぬ氣性顯れければ、忽ち得心して、實にも翁の異見尤也、然らば江戸にて一ト勵致して見ンと、翁に別れて、江府ヘ引返シ、品川を通けるに、折節七月盆過ギにて、瓜、茄子、夥敷磯端に流れ寄しを、不圖心付て其邊の乞食共に錢を取らせて取上ゲさせ、所縁の所に て古桶を借り、右の瓜茄子を鹽漬にして引かつぎ、毎日普請小屋へ行キ是を賣る、大勢の日傭ども、晝食の菜に我も〳〵と競調ルニ仍テ、夫nan段々瓜茄子の漬物を、鹽梅よく仕込みて賣けるに、〈○下略〉

〔甲子夜話〕

〈十七〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 上杉家年始祝膳ニ、大根漬ヲ大ク一切ニシテ設クルヲ重キ祝トスルコトノ由、コレ音通ニテ人切ノ香物ト云トゾ、一年庖丁ノ小吏誤リテ取落シテ膳ヲ進メシカバ、速ニ有司ソノ罪ヲ論ゼリ、時ハ鷹山〈○上杉治憲〉ノ代中ナリシガ、其事ヨシトモ、アシヽトモ挨拶ナク、傍ノ硯引寄テ、 治れる御代のためしにかうの物ひときれさへもわすられにけり、ト書テ有司ニ授ラレ、目出タシ目出タシト云ナガラ、奥ニ入ラレシトゾ、

〔甲子夜話〕

〈二十四〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 高崎侯ノ臣市川一學、〈儒臣ナリ、又軍學ヲ能ス、〉或時軍講ノ次デ、某幼少ノ時、ユエアリテ薩摩ニ居テ、十一歳ニシテ此地ニ還レリト言ニ就キ、彼國ノ事カレ是ト問ケルニ、〈○中略〉カノ俗、客來ルトキハ、士庶トモニ、先ヅ鹽氣孟ト云フモノヲ出ス、其體ハ蓋物〈器ノ名〉ニ香ノ物(○○○)梅干ナドヲ入レ、貴人ハ氷沙糖ナド入レ、人來レバ、コレヲ直ニ出ス、〈○中略〉サテ客茶ヲ飮トキニ主人鹽氣孟ノ物ヲ取テ客ニ與フトナリ、

〔嬉遊笑覧〕

〈十上飮食〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1061 江戸芝の金地院にて、毎歳正月元日より三日までの膳部は、香物生大根の輪切二を用ひしとぞ、〈今はあさ漬大根をかへ用ふとなり〉これはそのかみ軍中の學びにて、平生の事にはあらず、又日光山の強飯に出すは、生大根四五寸ばかりはすに切たるなり、是は種々の辛味を集めたる内なれば、香物にはあるべからず、後撰夷曲集澤庵和尚の歌とて、大かうのものとはきけどぬかみそに打つけられてしほ〳〵となる、續の原にいざ哀なき町中の鹿、〈峽水〉紫の糟漬軒の月すごき、〈寒風〉これは奈良づけなり、今、澤庵漬といふ香物は、その和尚の製法なりとそ、そのかみ此法を關西の國に ては知らざりしと見えて、貝原が日本歳時記に、香物の製しやう多く載たれども、みな今の法にあらず、十月條に、蘿蔔〈千本〉細粃〈一石〉麴〈三斗〉鹽〈二斗五升〉とあり、これにては大根百本、粃一斗、麴三升、鹽二升五合なり、かくては久しく貯へがたし、其うえ重しをおく事もいはず、又法大なる蘿蔔〈千本〉鹽〈三升〉入おしをかけ置て、なれたる時用、是より鹽多ければあしゝ、粃麴なども入べからず、是又今の淺づけとも異なり、又法、蘿蔔をよく洗ひ三日ほどほし、毎夜席をおほひ、葉に少し赤み出て後さつと洗ひ、水氣なき時に漬る、大根一遍ならべ、鹽を大根の少し見ゆる程にふり、其上に麴をふり、段々につけおしをかけ置べし、又右の如くつけて後、酒粕、米粃、鹽をつき雜、右の大根を水にて洗ひ乾たる時つける、尤よしといへり、其頃大かたこれらの法を用ひしなるべし、

〔續近世畸人傳〕

〈五〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 大橋東堤 永田觀鵞〈○中略〉 觀鵞永田氏、名忠原、字俊平、一號東皐、又黎祁道人といふは、豆腐を嗜むこと甚しければ也、〈黎祁は豆腐の異稱なり〉又一奇僻は、糠漬の菜〈俗に香物といふ〉を惡むこと蠱毒のごとし、吾儕席を同じうする時も、これを喰ふことを憚る、甚香を忌が故なり、或尊貴へ參りし時、御戲に試んとおぼして、此物を幾重もつつみて、御手づから下し賜せしを、とりもあへず、顔眞靑になり、物おぼえずなげすてゝ走れり、其公もあまりにて、よしなきことせしと悔させ給ひしと也、

〔南嶺子〕

〈二〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 籔に香物といふ事は、〈○中略〉予〈○多田義俊〉尾張に在し時、名古屋より津島へ往とて、海東郡を通りしに、阿波手森といふ處に、藪の中に壺をふせて、往來の瓜茄鹽(くはかゑん)の賈人、そのわが賣ル物を納置、香物自然と熟て、瓜茄子に蓼穗を少〈シ〉加へて、毎年極月廿五日、熱田社の煤拂と、二月初午の日の神供に獻ず、兩所より獻じて其數も委く記置たれ共、無用の事なれば略しぬ、

〔矢立墨〕

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1062 粟(あはで)殿の森の香の物,熱田へ獻ずる道すがらのさまを一見し度思ひしに、是は夜深く出たち、未明に熱田へ到著し、社家へ渡す由を聞及びしが、文化十四年丑二月四日、いかなるゆへ有て 歟、巳の刻過頃本町通りにて行逢て見侍り、珍らしければ爰に寫せり、〈○圖略〉是を持行に、夜更て通行する事は、道にて不淨の者に不逢樣のためなりとぞ、圖のごとく六ツ目籠を組て、上のかたに榊をたて、跡の方に柳にて、長き細き棒の樣なるもの附たり、是柳の箸なりとぞ、

〔尾張名所圖會〕

〈七海東郡〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1063 藪香物〈同村(上萱津村)正法寺にて製す〉 むかし萱津の里に市ありし時、近里の農夫、瓜、茄子、蘿蔔の類の初なりを、熱田宮へ奉らんとせしかども、道遠ければ、阿波手の森の竹林の中に甕を置き、〈今も猶其舊姿を存せり〉あらゆる菜疏を諸人投入れ、鹽をも思ひ〳〵に撮み入れなどせしが、自ラ混和して程よき鹽漬となりしを、二月、十一月、十二月、彼社へ奉獻せし也、是を藪の香の物(○○○○○)と名づけ名産とす、後世路傍の行人など、神供の物をも憚らずとり喰ひ、或は穢物をもほどこしければ、終に正法寺の境内にうつして、今に至る迄、熱田宮へ奉納するを例事とす、藪に香の物とはふるき言葉にて、十訓抄、〈○中略〉源平盛衰記にも、やぶにかうのものといふ事見えたり、〈尾陽雜記に云、むかしは、正法寺大地にして、住持は東巌禪師といへり、其此、瓜、茄子、大根、小角豆、蓼やうのもの商へる人、此森の前を通りけるが、必一ツ二ツ此神にさゝげて通りけるを、禪師只捨置べきにあらずとて、甕に入れ、鹽を交てつけ置しより初るとかや、大方日本香の物のはじめ成べしといへり、扨吉例として此所の香のものを、二月初午の日に熱田の其品三十二をさゝげて神供とし、又十二月廿四日にも是を供ふと也、近き頃迄は、阿波手の杜の藪の中に有りけるが、あふれものゝ來りてとりくらひ、果には穢らはしきものなど取込などしける故、制しかねて、今は寺内に來り、藪の中に漬置なり云々、〉

〔十訓抄〕

〈三〉

https://ys.nichibun.ac.jp/kojiruien/image/gaiji/SearchPage.png p.1063 二條殿より南京極よりは東は、菅三位〈○文時〉の亭也、三位うせて後年比へて、月のあかき夜さるべき人々、古き跡をしのびて、かしこにあつまりて、月をもてあそぶ事有けり、をはり方に或人、月はのぼる百尺樓と誦しける、人々聲を加へてたび〳〵に成に、あばれたる中門のかくれなる蓬の中に、老たる尼のよにあやしげなるが、露にそぼちつゝ終夜聞をりけるが、今夜の御遊いと〳〵めでたくて、涙もとまり侍らぬに、此詩こそ及ばぬ耳にも僻事を詠じおはしますかなときゝ侍れといふ、人々咲ひて、興ある尼かな、いづくのわろきかといへば、さうな りさぞおぼすらん、されど思給ふは、月はなじかは樓にはのぼるべき、月にはのぼるとぞ、故三位殿は詠じ給ひし、をのれは御物はりにて、をのづから承し也といひければ、耻て皆立にけり、是はすゝみて人をあなづるにはあらねども、思はぬ外の事なり、此等までに心すべきにや、藪にはかうの物(○○○○○○○)といへる兒女士がたとへ、むねをたがへざりけり、


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Last-modified: 2022-06-29 (水) 20:06:26