p.0160 霞ハ、カスミト云フ、水氣ニシテ秋季ニモアレド、古來專ラ春季ニノミ云ヘリ、ヤケハ、アケノ轉語ニシテ、日出前、若シクハ日沒後、空ノ日ニ映ジテ、紅色ヲ呈スルヲ云フ、
p.0160 霞 唐韻云、霞赤氣雲也、胡加反、〈和名加須美〉
p.0160 按、加須美、與下訓レ幽爲二加須加一、訓レ掠爲中加須牟上、同語、謂レ不二明了一也、今俗謂二作レ字墨汁枯渇一爲二加須留一、亦同、〈◯中略〉廣韻赤氣下有二騰爲二字一、太平御覽引二釋名一云、霞、白雲映二日光一而成二赤色一、假二日之赤光一而成也、故字从レ叚遐聲、按、説文無二霞字一、古謂二之瑕一、瑕、玉小赤也、上林賦、赤瑕駁犖、甘泉賦、吸二清雲之流瑕一兮、李善曰、霞與レ瑕古字通、顏師古曰、瑕謂二日旁赤氣一也、又按、霞日旁彤雲、所レ謂朝霞暮霞、今俗呼二阿佐也計、由不也計一者是也、又加須美、謂二春日靄氣一、非二赤氣雲一、皇國古書、皆以レ霞爲二加須美一、其實非也、明皇十七事云、玄宗入二斜谷一也、早、烟霞甚晦、所レ謂烟霞、正斥二加須美一也、
p.0160 霞〈音遐赮或 カスミ〉 霞〈俗〉
p.0160 烟(カスミ) 春かすみたてば、野も山もあらはに見えず、かすかに見ゆる也、
p.0160 霞カスミ 義未レ詳、倭名鈔には唐韻を引て、日邊赤雲也と註しぬ、説文に、雲日氣相薄とも見えて、則晨霞暮霞など云ひしものにて、此にしても朝かすみ夕かすみなどもいひ、又茜さす
p.0161 日とも、豐旗雲に入日刺なども云ひしもの是也、今俗にアサヤケ、ユフヤケなどもいふなり、カスミといひしは赤彩(カシミ)なり、萬葉集抄にカといひしは、赤き義なりといひ、〈赤色をアカといふ、アは發語の詞なり、カはヤクといふが如し、其色の火の燒るが如くなるなり、ヤクといひ、ヤケといふ語を合て呼ぶときは、カといふ言葉になるなり、俗に霞をヤケといふも、また此義なり、〉日本紀には、彩、讀てシミといふは、即染(シミ)也、シミといひ、スミといひ、ソミといふ、皆轉語なり、〈萬葉集の歌に、染、讀てシミといひけり、〉
p.0161 かすみ 霞をよめり、赤染(アカソミ)の義也、唐韻に日邊赤雲也と見えたり、あかねさす日といへるも此義也といへり、烟も同じ、うすかすみを薄烟といふ、全淅兵制に、霞をやけと譯せしも亦此義也、俗に朝やけ夕やけなどいへり、秋に霞を詠ずる事萬葉集に見え、文選の詩に輕霞冠秋日とも見えたり、歌に多く春霞などいへるは霞にあらず、靄( ノ)字を用べしといへり、霞しくといふ辭は、喜撰式に春をいふと見えぬれど、萬葉集にも見えず、中比より人の好みよむ言葉となれりとぞ、歌に霞の衣、霞の袖、霞の窓、霞の籬、霞の沖、霞の網、霞の波、霞の水尾などよめるは、皆見たてたる詞也、曹文姫が詩に、霞衣曾惹二御爐香一とも見えたり、
p.0161 霞 あさ ゆふ うす 春 八へ〈八重霞は只深也、必非二八重一、一切物重多限を號二八重一、霜八たびも物限也、算術にも以二九々八十一一爲二員限一云云、◯中略〉 霞のころもは本文也 詩にもあり 又万に 霞ゐる 霞ながるヽ ながるヽかすみといへり しまひね〈霞也〉 万にこのはしのぎて霞たなびく 霞かヽるといふ事 高陽院歌合に、顯綱歌を經信不審する也、もずのくさぐきは霞なりと、俊頼いへり、 それも一定け色なし、げにもそら事とおぼえたり、
p.0161 於レ是有二二神一、兄號二秋山之下氷壯夫一、弟名二春山之霞壯夫一、
p.0161 日はうらヽかなれど、そらはあさみどりにかすみわたるに、女房のさうぞくの匂ひあひて、いみじきおり物の色々のから衣などよりも、なまめかしうをかしき事かぎりなし、
p.0161 うしろの山にたち出て、京のかたをみ給ふ、はるかにかすみわたりて、四方の梢そ
p.0162 こはかとなう、けふりわたれるほど、ゑにいとよくもにたるかな、かヽる所にすむ人、心に思ひのこすことはあらじかとのたまへば、〈◯下略〉
p.0162 大神大夫任二長門守一時、集二三輪河邊一宴歌二首、〈◯中略〉
於久禮居而(オクレヰテ)、吾波也將戀(ワレハヤコヒム)、春霞(ハルガスミ)、多奈妣久山乎(タナビクヤマヲ)、君之越去者(キミガコエイナバ)、
p.0162 久方之(ヒサカタノ)、天芳山(アマノカグヤマ)、此夕(コノユフベ)、霞霏霺(カスミタナビク)、春立下(ハルタツラシモ)、
右柿本朝臣人麿歌集出
p.0162 題しらず 在原行平朝臣
春のきる霞の衣ぬきをうすみ山風にこそみだるべらなれ
p.0162 暮春歌とて 式子内親王
くれてゆく春の殘りをながむれば霞のそこに有明の月
p.0162 弘徽殿女御の歌合に 相摸
春のこし朝の原の八重霞日をかさねてぞ立まさりける
p.0162 霞〈◯中略〉 秋もよめり 万に、ほのうゑきりあひといへり、 夏もいつも風しづかなる朝によむべしと、俊成いへり、 七夕にも、霞たつとよめり、
p.0162 磐姫皇后思二天皇一御作歌四首〈◯中略〉秋之田(アキノタノ)、穗上爾霧相(ホノヘニキラフ)、朝霞(アサカスミ)、何時邊乃方二(イツベノカタニ)、我戀將息(ワガコヒヤマム)、
p.0162 賀周里〈在二郡西北一〉昔者此里有二土蜘蛛一、名曰二海松橿媛一、纒向日代宮御宇天皇、〈◯景行〉巡レ國之時、遣二陪從大屋田子一、〈日下部君等祖也〉誅滅時、霞四含不レ見二物色一、因曰二霞里一、今謂二賀周里一訛之也、
p.0162 郡南二十里香澄里、古傳曰、大足日子天皇〈◯景行〉登二坐下總國印波鳥見丘一、留連
p.0163 遥望、顧レ東而勅二侍臣一曰、海即青波浩行、陸是丹霞空朦、國在二其中一、朕目所レ見者、時人由レ是謂二之霞郷一、
◯
p.0163 やけ 全淅兵制に霞を譯せり、今も日やけなどいへり、
p.0163 霞〈下吉〉 やけ
p.0163 霞(あかね)〈是は詩につくるかすみなり、本朝俗にいふ朝やけ、夕やけの事也、日のてるとき、東の方赤くしてきへざるは旱也、早くきゆるは雨ふる也、そら一面にあかきは、二三日の内に雨ふるなり、日の入りて、西赤く南へまはるは晴なり、〉
p.0163 秋霞(あきのかすみ)〈朝毎に東のかた灼々とすこしくやければ、陽氣のさかんなるなり、つづいて日和よし、朝天雲のやけるを朝やけといふ、二三日のうちに雨になる、夕やけ、西あかくて北へまはれば、つヾきて日和よし、霞の事、春の十六丁めに委し、〉
p.0163 朝あけ 七玉集に、家良、山のはもかすむと見ゆる朝あけ(○○○)にやがてふりぬる春雨の空、按ずるに、朝あけのあけはあかきをいふ、今いふ朝やけなり、あの聲のやのごとく聞ゆるは、歌合、根合などのたぐひ也、又新撰六帖に、衣笠内大臣、山のはにほてりせる夜はむろの浦にあすは日よりと出る船人、とよみ給へるは、夕あけ(○○○)にや、されば朝あけは雨、夕あけは日よりと、ふるくよりいへる諺なるべし、唐國にても、范成大石湖居士詩集の題に、曉發二飛鳥一、晨霞滿レ天、少頃大雨、呉諺云、朝霞不レ出レ門、暮霞行二千里一、騐レ之信然、 升菴集に、素問云、〈按、素問六、元正紀大論、倒二此二句一、〉霞擁二朝陽一、雲奔二雨府一、楚辭云、紅蜺紛二其朝霞一、夕淫淫而淋雨、唐詩云、朝霞晴作レ雨、俗諺云、朝霞不レ出レ市、 升菴外集に、儲光羲詩、落日燒レ霧明、農夫知二雨止一、耿緯詩、向レ月微月在、報レ雨早霞生、〈◯中略〉また朝やけ夕やけともいふべくや、〈◯中略〉上に引る衣笠大臣の御歌、山のはにほてりせる夜、とよませ給ひしは、夕あけにはあらぬにや、さらば田家五行に、日沒返照主レ晴、俗名二日返塢一と、是なるべし、