p.0164 霧ハ、キリト云フ、人目ヲ遮ギル所ノ水氣ニシテ、霞ニ比スレバ較( 〻)濃厚ナルモノナリ、モヤハ、霧ノ類ナリ、
p.0164 霧 爾雅云、地氣上レ天曰レ霧、亡遇反、與レ務同、〈和名岐利〉今按、水氣也、老子經云、在レ天爲二霧露一、在レ地爲二泉源一是也、兼名苑云、一名雺、音蒙、一名雰、音分、水氣著二樹木一爲レ雰也、
p.0164 説文、霚地氣發天不レ應、釋名、霧冐也、氣蒙亂覆二冐物一也、按、與レ務同、謂下其音與二務字一同上、非レ曰二霧務同字一也、下皆效レ此、曲直瀬本亡遇反、與レ務同、作二音務二字一、按、岐利、遮隔之義、其原與レ切同語、爾雅又云、天氣下地不レ應曰レ霿、霿、今本誤レ雺、今從二説文一正、〉霿、釋名作レ蒙、云日光不レ明、蒙々然也、霿、今俗呼二毛也一、按、歧利曰レ發、訓二多都一、毛也曰レ下、俗訓二於利留一、是可三以證二毛也之爲一レ霿也、古併云二歧利一、無レ有二分別一、〈廣本無二又字一〉曲直瀬本老子經作二老子注一、按、老子注二卷、舊題二漢河上公撰一、此所レ引易性章注文、則作レ注爲レ是、然車具輻條引二河上公注一、亦不レ云レ注、又本書引二用他書注一、多二不レ云レ注者一、此作レ注、恐係二後人改竄一、今不二徑改一、〈〇中略〉按、説文、雺籀文霚省、五經文字、霚雺霧、上説文、中籀文、下經典相承隷變、則雺霧同字、兼名苑以レ雺爲二霧一名一者誤、又按、玉篇、雰霧氣也、釋名、氛粉也、潤氣著二草木一、因レ寒凍凝、色白若二粉之形一也、雰氛同字、見二説文一、依二釋名所一レ説、雰是霧凇、春秋成公十六年正月雨木氷之類、與レ霧不二全同一、故玉篇云、霧氣也、不二直云一レ霧也、以レ雰爲二霧一名一、亦非レ是、水氣以下八字、蓋兼名苑注文、其説本二釋名一也、
p.0164 霧地气發天不レ應曰レ霚、〈曰霚二字今補、霚今之霧字、釋天曰、地氣發天不レ應曰レ霧、霧者俗字、霧一本作レ霿非也、釋名曰、霧冒也、氣蒙レ冒覆レ地之物也、開元占經引二元命一、包二陰陽一亂爲レ霧、〉从レ雨〈亦雨之類也、故从レ雨、地气發而天應レ之則雨矣、〉敄聲、〈亡遇切、古音在二三部一、敄从二矛聲一、故霚讀如レ矛、〉
p.0164 霚〈音蒙キリ〉 霧〈音務キリ〉 霿〈正〉
p.0164 雺(キリ) 霧 雰〈三字義同〉
p.0164 霧 きはけ也、きとけと通ず、氣降也、ふを略す、
p.0165 霧キリ キリといふも亦暗の義なり、舊説にキリとは、クロの轉語也と云へり、〈キはクと同韻にして、リはラロ等の同韻なるをいふなり、〉 日向國風土記に、昔天孫の尊、此國高千穗二上之峯に天降給ひし時に、天暗冥にして晝夜を別たず、その土蜘蛛二人が教のまヽに、稻千穗をぬきて、籾となして投散し給ひしかば、天開晴を得たり、これに因りて高千穗二上の峯といふよしをしるせり、其峯は即今霧島が嶽といふものにて、延喜式に見えし霧島神社、猶今も其峯の西にあるなり、さらば舊説の如き其義相合へりと見えたり、〈霞讀てマギルといふも、またこれ目昏(マギル)の義なり、〉
p.0165 きり 霧はいきるの義也、欝蒸の氣(イキ)をいふ、万葉集に白氣もよみ、春日の霧流と見えたり、朝ぎり、夕ぎり、八重ぎり、天津きり、夏ぎり、夜ぎり、天のさぎり、山ぎり、うき霧、はつぎり、薄ぎり、川ぎりなどよめり、秋をもとヽして四時にわたりて歌にもあり、霧の浮浪、霧の海、霧の籬などは、皆見たてたる詞也、七夕に霧の戸ばりとよめるも同じ、詩にも霧幕など作れり、
p.0165 霧 あさ 夕 うす 秋 あま 川 山 あまつ 万に夜霧とよめり ほのゆける〈霞の名也◯一本不レ記二細註一〉 万にゆふべにたちて、あしたにうすと讀り、 後撰に秋ぎりのあたると云 あまのさぎり〈天きり日本紀〉 万にはる山の霧にまどへるうぐひすと云、詩にも作也、万あしのはにゆふぎりたちて、 万にたなびくとよめり、霧は病名也、仍得レ心詠べし、 又なげきの霧ともいへり いさらなみ〈是は霧名也〉 夏霧〈在二万葉一〉 秋ぎりにぬるとは、秋ぎりにぬれし衣をほさずしてと、古歌にあり、
p.0165 一蒙霧ト云フハ、キリヲカウブルクラキキリ歟、打任テハ、クラキ心、蒙昧ナド云フ同ジテイノ事歟、但シ甘泉賦ニ霧( ノ如ニ)集テ而蒙( ノ如ニ)合ト云ヘリ、注ニ霧ヲバ地氣ト釋シ、蒙ヲバ天氣ト云ヘリ、サレバ蒙ハ天ヨリフルキリ、霧は地ヨリタツキリナルベシ、是ハツ子ノ心ニハタガヒタルニヤ、
p.0166 雺〈音蒙〉 霚〈音務〉俗作レ霧 〈雺和名歧利、霚俗云二毛也一、〉 陰陽亂爲二霚氣一、蒙冐覆レ地之物也、爾雅云、地氣發天不レ應曰レ霚、天氣下地不レ應曰レ雺、凡重霚三日内必大雨、其雨未レ降則霚不レ可二冐行一也、〈◯中略〉 按、雺霚二種皆露之變者、秋月盛而其降也有二朝與一レ夕、甚多則菜蔬草木凋枯、烈二於霜雪一也、雺凋二落枝葉一、霚凋二枯根莖一、故農人最畏レ霚、 雺自レ天降下、略似レ雲、凡雺如レ登レ山則晴、如レ下レ里則雨、霚自レ地升、略似レ煙、近二山麓一處霚多也、凡秋冬不レ晴不レ陰、朦朦而稍温則爲二雺霚兆一、
p.0166 天照大神、乃索二取素戔嗚尊十握劒一、打折爲二三段一、濯二於天眞名井一䶜然咀嚼、〈䶜然咀嚼、此云二佐我彌爾加武一〉而吹棄氣噴之狹霧(○○)〈吹棄氣噴之狹霧、此云二浮枳于都屢伊浮岐能佐擬理一、〉所レ生神、號曰二田心姫一、次湍津姫、次市杵島姫、凡三女矣、
p.0166 故其日子遲神和備氐、〈三字以レ音〉自二出雲一將レ上二坐倭國一而束裝立時、片御手者、繫二御馬之鞍一、片御足踏二入其御鐙一、而歌曰、〈◯中略〉那賀那加佐麻久(ナガナカサマク)、阿佐阿米能(アサアメノ)、佐疑理邇多多牟敍(サギリニタゝムゾ)、和加久佐能(ワカクサノ)、都麻能美許登(ツマノミコト)、許登能(コトノ)、加多理碁登母(カタリゴトモ)、許遠婆(コヲバ)、
p.0166 詠レ月
眞十鏡(マソカヾミ)、可照月乎(テルベキツキヲ)、白妙乃(シロタヘノ)、雲香隱流(クモカカクセル)、天津霧(アマツキリ/○○○)鴨(カモ)、
p.0166 題しらず 藤原伊家
秋山のふもとをこむるうす霧(○○○)はすそ野の萩の籬なりけり
p.0166 寄レ物陳レ思
思出(オモヒイヅル)、時者爲便無(トキハスベナミ)、佐保山爾(サホヤマニ)、立雨霧乃(タツアマギリノ)、應消所念(ケヌベクオモホユ)、
p.0166 霧の深きは、小雨の如くなるものなれば、雨霧ともいふべし、さて忽に晴るヽものなるを以て、消といはん料におけり、
p.0166 五十首歌たてまつりし時 寂蓮法師
p.0167 むら雨の露もまだひぬ槙の葉に霧立のぼる秋の夕ぐれ
p.0167 一書曰、伊弉諾尊、與二伊弉冉尊一、共生二大八洲國一、然後伊弉諾尊曰、我所レ生之國、唯有二朝霧(○○)一、而熏滿之哉、乃吹撥之氣、化二爲神一、號曰二級長戸邊命一、
p.0167 きりのたヾ此軒のもとまでたちわたれば、まかでんかたもみえずなりゆくは、いかヾすべきとて、山里の哀をそふる夕ぎり(○○○)にたちいでん空もなきこヽちしてときこえ給へば、山がつのまがきをこめてたつ霧も心空なる人はとヾめず、ほのかにきこゆる御けはひになぐさめつヽ、まことにかへるさわすれはてぬ、
p.0167 舍人皇子御歌一首
黒玉(ヌバタマノ)、夜霧(ヨキリゾ/○○)立(タテル)、衣手(コロモデノ)、高屋於(タカヤノウヘニ)、霏霺麻天爾(タナビクマデニ)、
p.0167 きり みつね〈◯原闕二作者一、今依二一本一補、〉
しぐれにも雨にもあらぬ初霧(○○)のたつにも空はかきくもりけり
p.0167 程へて有ける人によみける 謙徳公
心みに我戀めやはをともせでふる秋ぎり(○○○)にぬるヽ袖かな
p.0167 題しらず よみ人しらず
春霞かすみていにしかりがねは今ぞ鳴なる秋霧の上に
p.0167 さても八月〈◯延元四年〉の十日あまり六日にや、秋霧におかされさせたまひて、かくれまし〳〵ぬとぞきこえし、
p.0167 冬霧(ふゆのきり)〈秋の霧ほどにふかくはあらねど、冬のきりは、とかく水ぎはに立也、〉
p.0168 寄レ雨
九月(ナガツキノ)、四具禮乃雨之(シグレノアメノ)、山霧(ヤマギリノ/○○)、煙寸吾告胸(イブセキワガムネ)、誰乎見者將息(タレヲミバヤマム)、
p.0168 宇治にまかりて侍ける時讀る 中納言定頼
朝ぼらけ宇治の川霧(○○)たえ〴〵に顯れ渡るせヾのあじろ木
p.0168 二年正月壬子朔、一色青霧(○○)周二起於地一、
p.0168 昌泰二年七月一日壬辰、巳刻黄霧(○○)四塞、赤日無レ光、〈◯赤日當レ作二日赤一〉
p.0168 霧〈(中略)きりの笆(まがき)は、物をへだてたるをいふ、霧の海、渺々たる海のごとくなるを云、きりの香は霧に香あり、きり立は、へだてたる人をいふ、霧の雫は、きりの立たる跡に、物のぬるヽ事をいふ、霧の下道は、きりの立たる下の道を行る也、川ぎりは川に立たる霧なり、きり雨は、小雨のごとくふる霧をいふなり、〉
p.0168 昔者纏向日代宮御宇天皇、〈◯景行〉巡狩之時、御二筑紫國御井郡高羅之行宮一、遊二覽國内一、霧覆二基肄之山一、天皇勅曰、彼國可レ謂二霧之國一、後人改號二基肄國一、今以爲二郡名一、
p.0168 小目野、右號二小目野一者、品太天皇〈◯應神〉巡行之時、宿二於此野一、仍望二覽四方一、勅云、彼觀者海哉河哉、從臣對曰、此霧也、爾時宣云、大體雖レ見無二小目一哉、故號曰二小目野一、
p.0168 貞觀十八年正月三日辛巳、日色變レ赤、西京三條降霧陰蒙、往還之人、不レ辨二其形一、須臾開霽、日色復レ常、
p.0168 霧に酔るを治方〈◯中略〉 丹波わたりにては、霧にあたりて死すものおほし、それには藥燕脂(クスリベニ)とて、ベニの下品なるを多くのめば解すといへり、平常のベニにてもおなじ事也、
p.0168 霧はれがたきは雨となる きりの内は風なし、きりのはるヽ時かぜふく、
p.0168 六月晦大祓〈十二月准レ之〉國津神〈波〉、高山之末、短山之末〈爾〉上坐〈氐〉、高山之伊穗理(○○○)、短山之伊穗理〈乎〉、撥別〈氐〉所聞食〈武〉、
p.0168 伊穗理は、その山の氣騰(イキノボリ)と云言を略たるにて、即雲霧の事也、常に烟にいぶりといひ、
p.0169 物のいきぼりあがるといふも、皆氣のおこり立事にて同じ古言也、さてこのほは、もと濁音なるを、後世は乎利(ヲリ)の如く唱ふるは音便也、ほの濁りを乎(ヲ)といふ類有ことぞ、また五百霧(イホキリ)を略きて、伊穗理(イホリ)といふにも有べく、何れにも理り聞ゆ、
◯
p.0169 もや 俗に霧をいへり、蝦夷の俗も亦同じといへり、又もよひ(○○○)ともいへり、
p.0169 霧(きり)〈(中略)立は霧(きり)也、降は雺(もや)也、天氣下り地應ぜざるを雺と云、發して應ぜざるを霧といふ、皆露の變ずるものなり、〉
p.0169 雺(きり)〈音蒙〉 霚〈音務〉俗作レ霧、雺、和名岐利、霚俗云、毛也(○○)、〈◯中略〉 按、雺霚二種皆露之變者、秋月盛、而其降也、有二朝與一レ夕、〈◯中略〉雺凋二落枝葉一、霚凋二枯根莖一、故農人最畏レ霚、〈◯中略〉 霚自レ地升、略似レ煙、近二山麓一處霚多也、凡秋冬不レ晴不レ陰、曚朦而稍温則爲二雺霚兆一、