p.0169 露ハ、ツユト云フ、夏秋ノ夜間、水氣ノ凝リテ小團ト爲リタル者ナリ、甘露ハ、アマキツユト訓ズ、降レバ以テ祥瑞トセリ、
p.0169 露 三禮義宗云、白露八月節、寒露九月節、音路、〈(中略)和名豆由〉
p.0169 三禮義宗三十卷、梁崔靈恩撰、見二隋書唐書一、今無二傳本一、太平御覽引云、九月寒露爲レ節、不レ及二白露一按、玉燭寶典引二蔡邕月令章句一云、今歴中秋白露節、即此事、説文、露潤澤也、釋名、露慮也、覆二慮物一也、詩蕭蓼箋、露者天所三以潤二萬物一、
p.0169 露潤澤也、〈澤與レ露疊韵、五經通義曰、和氣津凝爲レ露、蔡邕月令曰、露者陰之液也、按、露之言臚也、故凡陳列表見二於外一曰レ露、亦叚路爲レ之、如二孟子神農章羸露字作一レ路是也、〉从レ雨路聲、〈洛故切、五部、〉
p.0170 露〈音路 ツユ〉
p.0170 露ツユ 義不レ詳、萬葉集抄には、ツといふは水なり、水の白きをツユといふと見えたり、〈(中略)ツユとは、そのツブ〳〵として、白をいひしも知るべからず、粒をツブといふも、ツといひしには、圓(ツブラ)なる義ありしに似てけり、古訓に圓、讀てツブラといふなり、〉
p.0170 つゆ 露をいふ、つは粒也、ゆは齋也、粒々潔白なるをいへり、玉篇に、天之津液下潤二萬物一者也、露は置といひて降とはいはず、
p.0170 露 朝 ゆふ しら うは した はのぼる〈地よりあがるなり〉 万には、ゆふべにをきて、つとめてきゆとよめり、後撰に、野べの秋はぎみがく月夜とよめるは露の心なり、 つゆのかごとは、かこつといふこヽろ也、 つゆけきはしげきなり しげきたまともいふ 後撰に、をきつめはと云り、 露霜ふりなづむといへり、万歌也、 涙によするなり 春もよめど、夏秋の物なり、
p.0170 千五百番歌合 家長朝臣
みせはやなあかつき露(○○○○○)のをき別篠分るあさの袖のけしきを〈◯中略〉
秋御歌中 花山院御製
萩の花さきみだれたる玉ぼこの朝の露(○○○)は色ことにみゆ
p.0170 文治二年百首 定家卿
ふぢばかまあらぬ草葉もかほるまで夕露(○○)しめる野べの秋風
p.0170 かほは猶かくし給へれど、女のいとつらしと思ふべければ、げにかばかりにてへだてあらんも、ことのさまたがひたりとおぼして、 ゆふ露(○○○)にひもとく花は玉ぼこのたよりにみえしえにこそありけれ、露のひかりやいかにとの給へば、しりめにみをこせて、
p.0171 ひかりありとみし夕がほのうは露(○○○)はたそかれ時のそらめ成けり、とほのかにいふ、
p.0171 正治二年百首 正三位季經卿
みやぎ野の小萩を分て行水や木の下露(○○)のながれなるらん
p.0171 笠女郞贈二大伴宿禰家持一歌廿四首〈◯中略〉
吾屋戸之(ワガヤドノ)、暮陰草乃(ユフカゲグサノ)、白露(シラツユ/○○)之(ノ)、消蟹本名(ケヌガニモトナ)、所念鴨(オモホユルカモ)、
p.0171 老若五十首歌合 前大納言忠良卿
うらがるヽ野べの草ばの霜とけてあさ日にかへる秋の白露
p.0171 令製五首 九月九日、侍二讌神泉苑一、各賦二一物一、得二秋露(○○)一、應レ製、蓐收警節秋云老、百卉初腓露已凄、池際凝荷殘葉折、岸頭洗菊早花低、未央闕側承二雙掌一、長信宮中起二隻啼一、謬忝二恩筵一何所レ賦、晞陽湛々被二群黎一、
p.0171 三原王歌一首
秋露者(アキノツユハ)、移(ウツ)爾有(シナリ)家里(ケリ)、水鳥乃(ミヅトリノ)、青羽乃山能(アヲバノヤマノ)、色付(イロヅク)見者(ミレバ)、
p.0171 秋露水(○○○) 甘平無レ毒、在二百草頭一者、愈二百疾一止二消渇一、栢葉上露明レ目、
p.0171 露霜と云事、先達の料簡まち〳〵也、或は露をつゆしもと云、霜は露のなる物なれば、露をつゆしもといふといへり、これは因中説果の義にあたれり、或は霜をつゆしもと云、露凝成レ霜故也、これは從本立名の心也、或は九月ばかりの寒露をいふ、露の霜に成ほどなれば、露霜と云、霜にもなりはてず、なを露にて、又露にもあらぬほど也、是は中間の位にあたれり、三の義の中には、此義甚深也、又今の歌のごとくならば、只露と霜とにかなへりといへる義也、
p.0171 露霜(○○)といふにふたつあり、ひとつには露と霜となり、常のごとし、ふたつには萬葉第七、同第十に詠露といふ題に、露霜とよみ、その外露霜さむみなどあまたよめるは、秋の末に至り
p.0172 て、露のこりて霜となるほどの名なり、これをば霜をにごりていふべし、
p.0172 つゆじもの 〈おきてしくれば〉 万葉卷二に、〈人麻呂の妻に別て石見より上る時〉露霜乃(ツユジモノ)、置而之來者(オキテシクレバ)云々、こは常あるつヾけ也、さて露じものしを濁るべし、此反歌にもみぢばの散のまがひにとよみたれば、秋ふけてなかば霜を兼たる露をいふべき也、さらずば白露の、おく霜のなどもいひて、わづらはしく露霜と重ねじかし、古今集に萩が花散らんをのヽつゆじもにとよめるもしか也、
p.0172 萬葉集の露霜 萬葉集の歌に、露霜とよめる、卷々に多し、こは後の歌には、露と霜とのことによめども、萬葉なるは、みなたヾ露のこと也、されば七の卷、十の卷などには、詠レ露といへる歌によめり、多かる中には、露と霜と二つと見ても、聞ゆるやうなるもあれど、それもみな然にはあらず、たヾ露也、これにさま〴〵説あれども、皆あたらず、そも〳〵たヾ露を、露霜といはむことは、いかにぞや聞ゆめれども、此名によりて思ふに、志毛(シモ)といふは、もとは露をもかねたる總名にて、其中に氷らであるを、都由志毛(ツユシモ)といひ、省きて都由(ツユ)とのみもいへる也、そは都由は粒忌(ツブユ)のよしにて、忌(ユ)とは清潔(キヨラ)なるを云、雪の由(ユ)も同じ、さればつゆしもとは、粒だちて清らなる志毛といふことにぞ有ける、
p.0172 霜しも 關西にて露霜〈いまだ霜の形をなさヾるをいふ〉といふを、關東にて水霜(○○)といふ、なを説有略す、
p.0172 詠レ露
烏玉之(ヌバタマノ)、吾黒髮爾(ワガクロカミニ)、落名積(フリナヅム)、天之露霜(アメノツユジモ)、取者消乍(トレハキエツヽ)、
p.0172 内舍人石川朝臣廣成歌二首
妻戀爾(ツマゴヒニ)、鹿鳴山邊之(シカナクヤマベノ)、秋芽子者(アキハギハ)、露霜寒(ツユジモサムミ)、盛須疑由君(サカリスギユク)、
p.0172 寄レ露
p.0173 色付相(イロツカフ)、秋之露霜(アキノツユジモ)、莫零(ナフリソ子)、妹之手本乎(イモガタモトヲ)、不纏(マカヌ)今夜者(コヨヒハ)、
p.0173 題しらず 讀人しらず
萩が花ちるらん小野の露霜にぬれてを行かむさ夜はふくとも
p.0173 露時雨〈露がおきまさりて、裳すそも袖も濡れば、つゆも時雨のやうに思はるヽゆへ、露時雨といふ、和歌にはつゆとしぐれわかつこヽろもよみたり、(中略)俳、薄墨のやつれや松の露時雨、 蓮二、ぬれまさる森の小宮や露しぐれ、 北枝、〉
p.0173 中務にかヽせられける御草子のおくに、玉ざヽのはわけにやどる露ばかりとかきて侍ければ、 天暦贈太皇太后宮
みれどなを野べにかれせぬ玉ざヽの葉分の露はいつもきえせじ
p.0173 むかし男有けり、女のえうまじかりけるを、年をへてよばひわたりけるを、からうじてぬすみ出て、いとくらきにきけり、〈◯中略〉やう〳〵夜も明ゆくにみれば、ゐてこし女もなし、あしずりをしてなけどもかひなし、 しら玉かなにぞと人のとひしとき露とこたへて消なまし物を
p.0173 あはれなる物 秋ふかき庭のあさぢに、露のいろ〳〵玉のやうにてひかりたる、
◯
p.0173 露〈◯中略〉 白虎通云、甘露美露也、降則物無レ不二美盛一矣、
p.0173 甘露〈アマキツユ〉
p.0173 祥瑞 甘露〈美露也、神靈之精也、凝如レ脂、其甘如レ飴、一名膏露、◯中略〉 右上瑞
p.0173 甘露ト云フハ何ナル物ゾ、草ニヲク露ニシテアマキカ、初學記ニ甘露ハ仁澤也、其凝コト如レ脂、其美コト如レ飴、一名ハ天酒ト云ヘリ、東方朔ガ神異經ニ、西北ノ海外ニ有レ人、長ケ二千里、兩脚中間相去千里、腰圍六百里、但日飮二天酒五斗一ト云ヘリ、又王膏(カウ)ト
p.0174 云ヘル東海ノ贏洲ノ上ニ、有二神足玉石一、味如レ酒、一名ハ玉髓亦酒、兼名苑ニ見タリ、仙藥ナリト云ヘドモ、甘露ニハコトナラザル歟、漢武帝ノ時、東方朔ガ玄黄青ノ露ヲ、瑠璃ノ盤ニイレテタテマツル、コレヲナムルモノ、ミナワカクシテ、病イユト云フ事アリ、又武帝承露盤ヲツクツテ、仙人掌ニ玉坏ヲサヽゲテ、雲表ノ露ヲウクト云ヘリ、此露モ甘露ノタグヒ歟、漢孝宣帝元康二年ニ、甘露クダルト云ヘリ、明帝ノ永平十七年ニモ、頻リニ甘露ヲクダセリ、日本ニハ天武天皇七年十月ニ、綿ノ如キモノ難波ニフレリ、長サ五六尺、廣サ七寸、風ニ隨テ松林及ビ葦原ニ飄ル、時ノ人甘露ト曰ト云ヘリ、日本紀ニ見エタリ、コヽロエヌ物ノスガタニヤ、慈覺大師如法經書キ始給シニモ、喜見城ノ天甘露ヲ、夢ノ中ニナメテ、身モツヨク病イエ給ケルトカヤ、其甘露ノスガタハ瓜ニゾ似タリケル、
p.0174 七年十月甲申朔、有レ物如レ綿、零二於難波一、長五六尺、廣七八寸、則隨レ風以飄二于松林及葦原一、時人曰、甘露也、
p.0174 和銅元年五月庚申、長門國言、甘露降、
p.0174 靈龜元年五月壬辰、伯耆國言、甘露降、
p.0174 嘉祥三年五月戊戌、石見國言、甘露降、
p.0174 嘉祥三年七月乙酉、石見國獻二甘露一、味如二飴餹一、
p.0174 仁壽二年四月癸巳、大和國言、紫雲見、是月甘露降二於京師樹上一、及大和、越前、加賀、但馬、因幡、伯耆、隱岐、播磨、長門等九國並言、甘露降、
p.0174 齊衡二年七月丁未朔、紀伊守從五位下紀朝臣眞高獻二甘露一、
p.0174 齊衡三年四月庚辰、駿河國言、甘露降、