p.0976 蒲鉾ハ、魚肉ヲ細切シ、石臼ニテ磨シ、小竹幹ヲ心トシテ製シタルモノナリ、其形状ノ蘆花即チ蒲鉾ニ似タルヲ以テ名トセリ、後ニハ板面ニ貼シタルヲ蒲鉾ト稱シ、竹幹ニ貫キタルヲ 竹輪(チクワ)ト稱セリ、
p.0977 蒲穗子(カマホコ)
p.0977 蒲鉾(カマボコ)
p.0977 蒲鉾(カマボコ)〈魚肉炙物〉
p.0977 女房ことば 一かまぼこ おいた(○○○)
p.0977 かまぼこ 蒲の花をいふは、蒲鉾の義也、本草にも花抱二梗端一、如二武士捧一レ杵、故俚俗謂二之蒲槌一と見へたり、魚糕をいふは、形色の蒲鉾に似たる也、近世の製にして、西土の書にも見へず、大雙紙になまず本なりといへり、今多くはもを用う、本式は魚肉を鎗とし、竹串に貫き炙る物也といへり、
p.0977 團子〈○中略〉淸水坂茶店所レ賣、是謂二淸水團子一、又賣二蒲鉾一、是蘆蒲莖所レ生者也、〈○中略〉倭俗以レ刀取二鱧魚肉一、細敲石臼磨レ之加レ鹽、而尺許圓竹莖爲レ心、外面圓長塗レ之燒而食レ之、是謂二蒲鉾一、元依レ似二此穗一而稱レ之、今誤貼二板面一曰二蒲鉾一、又以レ竹貫レ之曰二竹輪(○○)一、其名雖二相當一、實蒲鉾是也、然則竹輪古式而、所レ貼二杉板一者、近世之製也、凡蒲鉾之製、中華人稱二肉餠一、
p.0977 料理の事 一かまぼこはなまづ本也、蒲のほをにせたる物なり、
p.0977 一釜鋒の加減は、鯛は水出しを入て能摺也、又鱓は水出しと酒出しと入て能摺也、料理釜鋒とは、葛の粉を串柿に入て、又少し山椒の粉を入て能摺合て吉也、
p.0977 一かまぼこのしべ、長さ五寸、さきの廣さ二寸、本の廣さ一寸六分ばかり、一かまぼこは、五ッ又三ッももり候、うをを能すりて、すりたる時いり鹽に水を少しくはへ、一ッ にすり合、板に付る也、付やうは、かさをたかく本うらおなじ樣に付べし、又五ツの時はかさをひきく付てよく候、あぶりやうは板の方よりすこしあぶり、能酒に鰹をけづり煮びたし候て、魚の上になんべんも付あぶるなり、總じて針をさす事わろし、 一かまぼこのしべは、りうこきといふなり、
p.0978 蒲鉾〈訓二加末保古一〉 釋名〈蒲、香蒲也、蘇頌曰、花抱二梗端一如二武士捧杵一、故俚俗謂二之蒲槌一、按摺二爛魚肉一以爲レ泥、粘二于小板子一作二蒲槌之形一、又象二鉾状一、故號二蒲鉾一、或細摺作レ泥、摘入二于熱湯中一、則凝結作レ餠、此謂二久津志一、或曰、京師内膳官屬老庖人語レ予曰、摺二爛生肉一粘二著于竹枝端一、以模二蒲槌一如二鉾形一、故號二蒲鉾一、今粘二片板一者、茶會家所レ造乎、此説眞好、〉 集解、凡造二蒲鉾一法、刮二取于生魚肉極鮮脆者一、去二皮骨膜一細切、入二擂盆中一、摺レ之數百回、和二鹽酒少許一、若不レ粘者、和二雞子白烏賊肉及米煮汁等類一亦好、各研爛作レ泥、再放二于魚板上一、苦取二去于細刺微筋一、或以二馬尾篩及麁布一而濾去亦可也、采二其極泥一而粘二于小板子一、作二蒲槌小鉾之形一、而炙二于炭緩火一、又粘二大板一號二大蒲鉾一也、此法但據三魚之極鮮與二擂摺之用レ力倶精選一、則不レ用二鷄鰂一而佳、其所レ用之魚者、以二鯛甘鯛鱧一爲レ上、比目旗代藻魚赤魚幾須破絮烏賊鯔鮭海鰕次レ之、阿羅鯰鱶爲二下品一、箇中用二比目一有レ法、取二其最鮮肉一而細切、採二白鹽一聚二一處一作レ塊、待二一二刻漏之過一而盛二篩底一、頻灑二冷水一者數次、候二餘露之滴盡一入二擂盆中一、用レ力急研、不レ停レ手作レ泥、又去二骨筋一如二前法一、粘レ板炙レ之、味次二于鯛鱧一也、古未レ聞レ有二蒲鉾之名一、傳聞近世江州庖人鹿間某者初造レ之、今諸家庖人競レ美、或曰、韓客謂二之魚餠一、此亦佳名乎、
p.0978 阿羅魚 以二其鮮者一作二魚餠一、則有二微味一、最爲レ有二治レ血之功一也、兩越賀能等州多采レ之、就レ中越後漁市作二此魚餠一而鬻レ之、傳至二信州甲州之山郭一、農樵以賞二美之一、信甲者嶮岨之地、而江海隔絶、且無二魚鹽之利一故若レ斯乎、
p.0978 蒲鉾(かまほこ) 〈魚餠〉 造法刮二取海鰻肉一擣千杵、和二鹽酒各少許一再擣令レ如レ餠、粘二著竹枝一炙レ之、如二蒲草穗一、及似レ鉾、故名、或有下粘二杉 板一者上、用二方頭魚(クスナ)、鯡魚(アコ)、藻魚鮸(クチ)等無毒魚一作二蒲鉾一、其肉稍脆、故加二雞卵汁一令レ粘レ之、病人食レ之無レ損、又有二以レ鱣者一、此魚家僞二于海鰻肉一者味不レ佳、
p.0979 調味抄に、かまぼこ、竹に卷形を名とせり、近代杉板よし〈是こと雍州府志にも云り〉と云る是なり、竹輪かまぼこ(○○○○○○)の名は、櫻陰比事にみゆ、むかしのかまぼこは、煠(ユデ)熟ることなく燒たるものなり、石屋の宗山が明暦の火災に逢たる記録に、正月十八日本郷お弓町料理する人ありて、それをくひに行たるに、火事起りて庭に火のこ落る、勝手に行て見候へば、膳立出來、汁などもりかけ是あり、庭に長火鉢を置、杉大板のかまぼこ燒ちらし有レ之候を、客三人にてこれを懷に入、膳棚に菓子盆に見事なる枝柿蜜柑鉢につみおけり、是をも懷中して、はや此家に火かゝり申故、亭主に暇乞申さず云々あり、娘容儀は享保二年の草子なるに、やきたてのかまぼこに、生醬油つけて板ぐちかぶり云々いへり、是にても知べし、
p.0979 香物 かまぼこ 蒲燒 此説〈○雍州府志〉のごとく竹につけて、蒲の穗の形に作り、燒て食ひたるもの也、故に今も蒲鉾にうすく燒目つくるは、古製ののこりたるなるべし、
料理通大全
p.0979 硯蓋蒲鉾の部 鯛かまぼこ 鰹味噌かまぼこ あま鯛かまぼこ きすかまぼこ 鮭かまぼこ 鰆かまぼこ鱈かまぼこ ひらめかまぼこ 生貝わたかまぼこ 雲丹かまぼこ たまごきみかまぼこいかかまぼこ 濃茶かまぼこ あさひかまぼこ 靑山かまぼこ しんぢよの傳 一鴨鯛きすあまだいひらめの類、魚の上身かき、鯛のごとく庖丁にて取、摺鉢にて能々すり、薯蕷鷄卵の白みを入、水に鰹節をかきて入、能浸し置、其水だしにて身をのばし、甘みはみりん酒を煮 かへしてさまし、鹽にてあんばい致し、茶碗の蓋にて形取こしらへ、大鍋へ湯を澤山に入て仕上る也、 一鴨は身を能々いたにてたゝき、仕樣右同斷、 蒲ぼこの傳 一鯛片身におろし、上身をかきて取、すり鉢にて能々すり、玉子の白み少しに味淋酒煮かへしさまし入、鹽にてあんばいする也、何れの魚にても仕樣同斷、尤鯛は小鯛よろし、
p.0980 蒲鉾〈○中略〉 今製ハ圖ノ如ク〈○三圖略〉三都トモニ杉板面ニ魚肉ヲ堆シ蒸ス、蓋京坂ニハ蒸タルマヽヲシライタト云、板ノ焦ザル故也、多クハ蒸テ後燒テ賣ル、江戸ニテハ燒テ賣ルコト無レ之、皆蒸タルノミヲ賣ル、 上圖ハ三都トモニ普通トスルノ形也、京坂一枚四十八文、六十四文、百文也、江戸ハ百文、百四十八文、二百文、二百四十八文ヲ常トス、蓋二百文以上多クハ櫛形ノ未レ燒物也、 又下圖ノ如キハ、大坂、及ビ攝ノ尼ケ崎、兵庫、泉ノ堺等ニテ製レ之、京都ニ漕シ賣ル者櫛形ニ似テ短ク、粗製鹽ヲ多クシ、必ラズ燒タリ、是遠境ヨリ遣レ之モノ故ニ、燒ザレバ腐レ易キ故也、 又三都トモ別ニ其工ニ命ジテ精製スル者アリ、或ハ庖丁ヲ雇テ製レ之等ハ必ラズ精製也、江戸精製ノモノハ櫛形を專トスル也、近年コレヲ蒸ズシテ燒ヲ良トスル也、然ドモ必ラズトセズ、三都トモ精製ハ鯛ヒラメ等ヲ專トス、又京坂ハ鱧製ヲ良トス、江戸ハ虎ギスヲ良トス、凡製ノモノハ三都トモ鮫の類ヲ專トス、鮫ノ類數種アリ、名ヲ略ス、又京坂凡製ノモノハ豆腐ノ水ヲ去リ、加レ之又浮粉ト號シ、小麥葛ヲ加フ、江戸ニテハ米ノ粉ヲ加フ、又文政比以前ハ、烏賊ヲ用ユルコトヲ知ラザリシニ、其以來ハ槌ニテ叩キ、後磨肉トナシ用レ之、
p.0981 肥前國天草にて製する魚餻の形、長さ五寸餘、徑七八分許、細篠竹につけて、所レ謂蒲の穗の鉾のごとし、是こそ其始蒲の鉾に似たるよりして、蒲鉾と號し、古風なるべし、圖の如し、〈○圖略〉畿内にては其名のみにて、形を異にす、就中竹輪(○○)といへるもの、其形長大なりといへども、大同小異にして、大蒲鉾とも言べきものなり、是は切たる處、竹の輪切に似たるを以て、竹輪とはいふなるべし、さるを又此太き竹のごときを、二に割て半分を板につけたるを半片(はんへん&○○)といひしなり、然を後に尚蒲鉾と言ならはせしが、京師にては其名のこりて半平(はんへい)といふものあり、〈涙花にて、摺身といふもの也、〉されども眞の半片は蒲鉾と言ならひて、其切たる形をも表して、蒲鉾行燈、蒲鉾窻などいふこととはなれり、其上京師にて半片と號くるものに、浪花にて葛餡をかけて販ぐに、安平(あんへい&○○)と號せり、是半片に餡をかくるよりしての名なるべし、然れども是を商者も、求めて食するものも知で過行ものならし、
p.0981 魚類は江戸よりも澤山なり、〈○中略〉土地の人ははもを殊更に珍重し、骨切とて細かに庖丁目を入て照り燒にしたる抔専ら賞玩す、〈○中略〉骨切よりも却て肉羹とせしもの美なり、夫も蒲鋒に作りしものは美なれども、こはくして老人の齒には合難し、はんぺんまた土地にてあんへん(○○○○)と唱ふるものに製せしは、大によろし、あんへんと唱ふるものは、半片の又一段柔らかなる製にて、葛かけ抔には極よろし、至て和らか故、豆腐の如く水に入て取扱ふなり、
p.0981 上方にて買(かう)て來るを、江戸にては買(かつ)て來る、〈○中略〉摺身をはんぺん、
p.0981 蒲鉾 蒲鉾ノ古制ハ、左圖ノ如キコト必セリ、 圖ノ如ク魚肉ヲ竹串ニツケタル也、今世蒲鉾店ニテ賣レルチクワ(○○○)ト云モノ、上圖ノ如ク竹ニ魚肉ヲツケ蒸テ後、竹ヲ拔サル也、小口ヨリ截レ之バ、竹輪ノ形ナル故ニ名トス、是古ノ蒲鉾ニ近シ、今製ノ竹輪、右ノ圖ノ如クス、蓋シ外ヲ竹簀ヲ以テ卷包ミ蒸ス、〈○中略〉 半平(○○)ハンベイハ蒲鉾ト同ク磨肉也、椀ノ蓋等ヲ以テ製レ之、蓋半分ニ肉ヲ量ル、故ニ半圓形ヲ以テ名トス、 京坂ニテハ半平ヲ胡麻油揚ゲトナシ、號ケテテンブラト云、油ヲ用ヒザルヲ半平ト云也、江戸ニハ此天麩羅ナシ、他ノ魚肉海老等ニ小麥粉ヲネリコロモトシ、油揚ゲニシタルヲ天ブラト云、此天麩羅京坂ニナシ、有レ之ハツケアゲト云、 江戸ノ半平ハ半圓ト方形ト二種アリ、半圓ヲ半月ト云、昔ハ半ゲツヲ專トシ、近年ハ角形ヲ專トス、蒲鉾ヨリハ米粉等多ク加ヘテ粗製多シ、 摘入(○○)ツミイレ京坂ニ無レ之、或人云、昔ハウケイレト云、鯛肉ヲスリテ小梅實ノ形ニ製ス、冬ハ味噌汁ニ入レ之テ、ミゾレノ吸物ト云ト也、 今制江戸ニテハ半平ト同品ノ魚肉也、四季トモニ味噌汁等ニ用レ之、粗製ノ膳ニ用フル也、 大坂ニテハ鱧肉ヲスリテ製レ之コトアリ、常ニハ賣ラズ、需ニ應テ別ニ製レ之、多クハ自製也、號ケテハモノスリミト云味噌汁及ビ小芋ト醬油煮ニスルコトアリ、
p.0982 蒲鉾類引下直段取調書上 日本橋最寄蒲鉾屋之分 〈上〉一櫛型蒲鉾〈長五寸八分巾二寸七分〉 〈是迄賣直段貮百文引下ゲ賣直段百八拾四文〉 〈同〉一角板蒲鉾〈長六寸二分巾壹寸七分〉 〈是迄賣直段百文引下ゲ賣直段九拾文〉 〈同〉一小板蒲鉾〈長九寸巾九分〉 〈同賣直段拾四文引下ゲ賣直段拾三文〉 〈同〉一竹輪蒲鉾〈長サ六寸五分小口壹寸〉 〈同賣直段百文引下ゲ直段九拾文〉 〈同〉一角半へん壹ツニ付 〈同賣直段拾四文引下ゲ直段拾三文〉 〈同〉一丸半へん壹ツニ付 〈同賣直段拾四文引下ゲ直段拾三文〉 〈同〉一摘入壹合ニ付 〈同賣直段拾四文引下ゲ直段三拾八文〉 〈中〉一櫛形蒲鉾〈長五寸八分巾二寸七分〉 〈同賣直段百六拾四文引下ゲ直段百五拾五文○中略〉 〈下〉一櫛形蒲鉾 〈同賣直段百三拾貳文引下ゲ直段百貳拾六文○中略〉 右は錢相場御定被二仰渡一候ニ付、引下方之儀、書面之通申付候間、此段奉二申上一候、以上、 十一番組諸色掛り 〈寅〉八月 〈雉子町〉名主 市左衞門
p.0983 一かまぼこ刀め付たるははしにてくふべし、其まゝにて候はゞ、取あげてくふべき也、中よりかふるべし、
p.0983 一蒲鉾ノ事、刀メヲ付テ參スルコトハ、悉ニハ不レ可レ有レ之、貴人御前一兩人計カト見エタリ、當世眞ヲ依レ不レ知、推量テ萬仕間、刀メヲ悉付テ出也、然間是ヲ喰人過ヲ仕出事アリ、古ヨリ刀メヲ不レ付ハ、人ニアヤマリヲ蒙セジガ爲也、貴人又ハ女房兒喝食ナド計ニハ刀メ有ベシ、刀メ付ルコト口傳、人ニ見セザル樣ニ可レ仕、當流ノ秘事也、
p.0983 一かまぼこをくふ時は、先湯漬をくい、はしを取なをし、右の手にてかまぼこのしべのなきかたを取、左の手に取直し、手の上にをき、右の手にて集養有たきほどくふ也、又とりてくふ共同前なり、さて本膳のまへのかたには何となくをく也、 一かまぼこをたべたる時は、四ツめの汁にうつる、
p.0983 惡事見へすく揃へ帷子 食物の御吟味ありしに、不斷の湯取めし、汁は鱸の白煮、鱠にきすご、燒物に一夜鹽の鯛、ねりみそに竹輪の蒲鉾五香木のしたし物、